灰色の世界に囚われた少女   作:ひばりの

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本日二回目の更新です。


第14話

 チンと、ベルみたいな音がする。空間に響き渡る複数の声がして、身体が竦む。誰だろう。誰かがここにやって来たみたいだけれど、みんな知らない女性の声……。

 

「あっ、クロームちゃん!」

 

 こんなところを見られてショックなのに、誰かの明るくて活気な声が駆け寄ってくる。嫌だ、来ないでよ……。

 

 顔を見られないように、妖精さんの影に隠れて様子を窺っていると、近づいてきた人と何やら話している。私の分からない言語――恐らくはニホンゴ……。

 

「ハルちゃん……」

「お久しぶりですー! 奇遇ですね! お仕事から帰ってきたんですか?」

「うん…… ボスから伝達があって、さっきイタリアから」

「そうなんですか~。ハルたちはショッピング中に偶然ビアンキさんと出会って、久しぶりに女子会を開こうとお誘いされたんです。よかったらクロームちゃんもどうですか?」

「うん、考えておく……」

 

 妖精さんの声に対して、相手の女性の声はすごくハキハキとしてて、少し騒音なくらい。この声の人は一体どんな人なんだろうと、少し気になった。うるさい意味の方で。

 

 顔も知れない女性の人が、一方的に騒いでいる。そこに今度は別の女性の声が聞こえてくる。落ち着いていてとても澄んだ声だ。

 

「ハルちゃん! クロームちゃん!」

「あっ、京子ちゃん!」

 

 なんか連続でちゃんちゃんと言っている彼女たちは、こんなところで女子トークか、すごく盛り上がっている様子。ああ、うるさいっ……。

 

「クロームちゃん、どうしてそんなところに座っているの?」

「えっと……」

「はひ? そこにいるのは誰ですか?」

 

 ……ついに見つかってしまった。空気には成り損ねたみたい。結構自信あったのにな。

 

 存在に気づかれた私は、逡巡した後、視線に耐え切れずおずおずと顔を上げた。途端に好奇の目を捉えてしまった。知らない女の人たちがじっとこちらを覗き込んでいた。思いの外至近距離に吃驚して肩が跳ねる。

 

 と、私と目が合った彼女たちは、途端に柔らかな微笑みを湛えて、嬉々とした声を上げる。

 

「わぁ、可愛い女の子! 外国の子かな? でもすごく着物が似合ってるっ!」

「プリティーガールですぅー! ハル、思わずハグしたくなっちゃいます~!」

「……?」

 

 彼女たちが何かを言っても、私には何を言ってるのか分からない。意味が分からないので、反応もしようがない。だからじっとその顔を見つめていると、しばらく沈黙が続く。

 

「……日本語、分からないのかな?」

「そういえば、この子はクロームちゃんの連子さんですか?」

「ううん、たぶん…… 迷子の子」

 

 妖精さんが何かを言って、女性の二人の反応がなんか変。いきなり驚いた顔をしている。

 

「はひっ!? 迷子ですか!? こんな地下にですか!?」

 

 肩までのショートカットの黒髪ジャポネーゼがわたわたとしだして、隣にいる清楚な雰囲気のジャポネーゼにまあまあと落ち着かされている。コントしているのだろうか、彼女たちは。

 

「迷子なら、きっとここにいる人の誰かの子供だよね」

「うん」

「一体誰ですか!? こんな美人なお子さんを持つ人は……!? 獄寺さん!? 山本さん!? ま、ままままさかハルが知らない間にツナさんが他の女の方と……!?」

「は、ハルちゃん、落ち着いてっ」

 

 目をぐるぐる回している女の人、なんか怖いんだけど……。ジャポネーゼって、本当にワケ分かんないよ……。

 

「落ち着きなさい。ハル、そんなに大声をあげないの。相手が怯えるわ」

「はひっ、すみませんっ。ビアンキさん」

 

 彼女につられて私の頭までも混乱しているところに、大人っぽい女性の声。もうどんだけ多彩なの。と、その声の持ち主が二人の女性の間を通って姿を現した。女性の大人ボイスに見合った、とても綺麗な人だ。ジャポネーゼではなさそう。

 

 大きな袋を持っているその女性は、私を見てにこやかに、大人の余裕の微笑みを向けた。

 

「ごめんなさい。この子たちが騒いじゃって。私はビアンキ。あなたは?」

 

 イタリア語で話しかけられた。やっぱり、彼女はイタリアーナ……。

 

 名前を訊かれた。どうしよう……。

 

 私はまた、愚かなことをして、惨めな思いはしたくない。

 

 ふと、妖精さんと目が合う。私が無意識に、彼女に何かを求めてしまっていたのかもしれない。

 

 最初目が合った時は困ったようにしていた彼女も、すぐに私を真っ直ぐな目で見つめ返してくれた。

 

 ――大丈夫。

 

 頷いて、そんなことを言ってくれたのかもしれない。

 

 妖精さん――ありがとう……。

 

「…………私は、アカネ」

 

 再びその名前を口にすると、自然と口元が緩んだ。

 

 この名前は、やっぱり私の中では大切な…… ディーノがくれた命みたいなものだから。捨てることはできない。空っぽの私に、彼が授けてくれたものだから。

 

 妖精さんが隣で微笑んでいるようだった。

 

「アカネ、ね。素敵な名だわ」

「ハル今の聞き取れましたよ! この子はアカネちゃんですね! 名前もベリーキュートですっ!」

 

 名前を褒められて、自然と笑みが零れてしまう。

 

 そう…… 私にとっては唯一の宝物。

 

「ありがとう」

 

 ビアンキさんと妖精さんには伝わるように、お礼を口にした。私なりの誠意を込めてみた。

 

 通訳によって他の二人にも私の気持ちは伝わり、なんだかんだで女同士打ち解け合えるものがあった。

 

 ――と、そこに彼の声がする。

 

「―――クフフ、ここにいたのですか」

 

 一瞬心臓が止まりそうなくらい、ドキンとした。

 

「――! 骸様……」

 

 儚い彼女の声が、霧と共に現れた彼のことをそう呼んだ。

 

 妖艶な笑みを湛える口元からは、あの不思議で面白い含み笑いが零れている。

 

「お楽しみのところ失礼しますよ」

「あっ、確かパイナップルの人です!」

「……何か、三浦ハル」

 

 キッと睨まれて、ショートの彼女は何やら咄嗟に口を噤んでいる。

 

「何か用なの、六道骸」

 

 今度はビアンキさんが彼に何か話しかけている。どうしてバチバチと睨み合っているんだろう。因縁関係なのだろうか。

 

「毒サソリ…… 生憎貴女のお相手をする時間はありません。僕はちょっと、そこの少女に用があるのです」

 

 そう儚げに告げた彼と、不意に目が合う。

 

 目が合うと彼は、緩ませた唇からあの言葉を紡ぐ。

 

「彼女は、過日世界中を轟かせたかのイタリア怪奇事件――チェレーネの怪奇の重要参考人なのです」

 

 イタリア――…… チェレーネ――……。

 

 その単語で、大体の察しはついた。

 

 そして私は、得体のしれない悪寒に背筋が震えた。

 

 案の定、二人からは分かりやすい反応がある。ビアンキさんと、確かクロームさんという妖精さんだ。表情が見る間に険しくなっていく。なんだか、悪いことをしているみたいで居た堪れない。

 

「チェレーネ……? 何ですか、それ?」

「灰…… って意味」

「それってたぶん国際ニュースで見たことあるよ」

 

 よく分かっていない二人の方は、ニホンゴで質問しているみたい。

 

 恐らくあの妖精さんは、私を引き取りに来たんだろう。ツナの命令かな。

 

「――て、えぇ!? みんな地下駐車場(こんなところ)に何集まってんの!?」

「あっ、ツッ君!」

「ツナさぁんっ!」

 

 ――と思ってたら、そのご本人が登場。何やらモテモテである。

 

 どうやってこの場所にいると突き止めたんだろう。そんな疑問を持ちながら、みんなから話を聞き回っているツナの姿を見て、覚悟を拳に固めた。

 

「――ツナ」

 

 全員の話を聞いて何やら疲れきっている彼に強い眼差しを向ける。不思議そうにこちらを見据える栗色(ブラウン)の優しい瞳に、私は私の意思を伝える。

 

「これから、よろしくお願いします」

「アカネちゃん……」

「ねぇ、ツナ。私にできることなら、頑張るよ。これは、いろんなことへの償いだと思う。ディーノには、本当にたくさんの勇気をもらった。もう、目は逸らさないから」

 

 もう逃げないから、ちゃんと過去の自分にも向き合っていくから――

 

 またいつか、私に太陽の笑顔を頂戴。ディーノ。

 

 




もとは前回と一気に書こうと思ってたのですが、見切りいいかなと分割投稿しました。
前回書き忘れたことでもダラダラ書いてきます。←

アカネはクロームと所々似通っているところがあると思って書いてます。
口調も控えめで、「……」が多いキャラクターで、孤独感がある。
境遇が少し似ているから、絶対この二人仲良くさせたい!と躍起になりました。
クロームは書いてて本当に可愛いキャラだなぁと思いました。麦チョコw

アカネももっとキャラを出していきたいです。
なんか趣味がズレてるところとか。
それにしても、骸が予定外に活躍している気がする。
この際骸ルートを少し考えてみようかな。
……ギャグになるかも知れないw

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