.
私の名前は狼摩白夜。
といってもこれは前世の名前であり、今生では別の名前な訳だけど……
そう、前世や今生という言葉から判るかもしれないけれど私は所謂、転生者……という存在だ。
一度は現世で死んだ私だったけど、腰まである長い銀髪にアホ毛が伸びた少女──神と名乗ったが邪神の類い──によりこの世界へ転生をした。
狼摩家というのは戦国の世から続く士族の一族で、宗家である緒方家の分家筋に当たる一家。
当然ながら私も家に伝わる【緒方逸真流】を習い、そこそこの腕前である。
とはいえ、バカ兄にも敵わない程度ではあるが……
況んや、バカ兄に勝てる宗家の優斗様や稀代の天才少女の白亜様には到底及ばなかった。
因みに、緒方の家系では基本的に長男に優、長女に白の文字を付ける。
双子だった場合はどちらにも付けるのが慣習。
これは初代様夫妻の名前がそうだったかららしく、何と無く? 現代まで分家でも続いていた。
私の死因は老衰でも病死でもなく自殺によるもの、それもバカ兄の道連れ的な無理心中というやつだ。
バカ兄は私を無理矢理に連れ出し、崖から海に飛び込んで……溺死した。
普段から最低最悪な人間だとは思っていたけれど、妹を道連れに無理矢理とかするなんて、とことんまで見下げ果てた兄だよ!
分家で最強と自惚れて、自分こそ白亜様の夫に相応しいと増長していた。
まあ、私は……というか私達はバカ兄が選ばれるとは思わなかったけどね。
だって私達、分家筋の同世代の女の子は皆が知っていたから、白亜様が道ならぬ恋に胸を焦がし、苦しんでいたという事を……
実の兄である優斗様へと恋い焦がれていた事実を。
だから白亜様は常から言っていた。
『私は結婚なんてしない。子供も作らない。兄さんが結婚……して、出来た子供が私の次に家を継げば良いのだから』
それは優斗様と結ばれない運命なら、一生涯誰とも添い遂げずにいる決意の表れだろう。
だけど状況が一変した。
優斗様が亡くなられてしまったのだ。
白亜様や蓉子様の悲しみ様は、見ていて辛いものがあった……だというのに、バカ兄は笑っていた。
これでチャンスが巡ってきたのだと、御通夜の時にニヤついていたのである。
当然ながら周囲もそういう形で動く。
人格的には破綻者でも、あのバカ兄が──狼摩優世がこれで緒方家の男の中で最強となったのだから。
白亜様には及ばずとも、優斗様が男の中で最強だったからこそ、白亜様の考えが認められていた。
でも、その優斗様が亡くなってはどうにもならず、意気揚々とバカ兄が白亜様の恋人となる。
尤も、性交は疎かキス処か手すら繋いで貰えない、憐れな道化だったけど。
優介様からきちんと説得をして、受け容れられない限りは暫定的な措置だと言われていたし、無理矢理に迫ればその時点で終わりだとされてもいた。
だから素気無い白亜様にやきもきしていたバカ兄、良い気味だと思う。
そして優斗様が亡くなられて数年、又も事態が一変する事件が起きた。
白亜様が行方不明となってしまわれたのだ。
警察は勿論、一族が総出で捜したけど全く見付からないし、手掛かりの一つすら落ちてはいない。
そもそも、白亜様が居なくなったのは夜中から未明だと判っているが、其処から全く足取りが掴めなかったのだ。
荷物……お金や通帳などの貴重品すら無くなってはおらず、靴すら玄関に置きっ放しになっていたとか。
誘拐……
或いは優斗様が亡くなら
れて世を儚んだ自殺。
色々と考えられるのだが問題は其処ではなく、蓉子様の精神状態だろう。
唯でさえ双子の兄に当たる優雅様を誕生前に亡くされて、今度は弟の優斗様を事故で亡くされたのだ。
お墓の前で取り乱す姿を見たのも一度や二度ではなかったし、優斗様の遺体へと縋り付いて号泣していたのも知っている。
それを見ながら笑っていたバカ兄は、やっぱり最低最悪な人間だろう。
そしてトドメとばかりに白亜様が行方知れず。
蓉子様は見ていられないくらい憔悴していた。
処がその一年後、突如として白亜様が帰ってくる。
皆が喜んだが、白亜様を見て皆が驚愕をしたのだ。
大きなお腹……肥っていた訳ではなくて、白亜様は懐妊されていた。
しかも嬉しそうに。
その姿を見た分家の同世代の女の子達は、薄ら寒さを感じてしまった。
当然だろう、優斗様を道ならぬ恋で愛しておられた白亜様が、優斗様以外の男と子を成して笑顔なのだ。
誰の子なのか!?
誰もが詰め寄ってたが、白亜様は信じられない事を平然と言う。
『兄さんの子供よ♪』
背筋に氷水でも入れられたかの如くゾクッとした。
白亜様はきっと壊れてしまっている。
やはり何者かに連れ去られていて、徹底的に嬲りものにされ続け、そして妊娠してしまったのだ。
帰って来たのも壊れて、妊娠したから棄てられたのだと考えれば、胸糞悪くなるけど辻褄も合う。
白亜様は優斗様に抱かれて子を成した……そう思い込む事で心を保っているのかも知れない。
愛おしそうにお腹を擦る姿は、保っているというよりも壊れ切っているとしか思えなかったけど……
そう考えてしまうとドス黒い憎悪で一杯になる。
子供に罪は無いし、白亜様の血を継ぐのだろうが、半分は強姦魔──既に決め付けている──の血が流れているのだ。
『兄さんったら毎晩毎晩、凄く激しいのよ。一晩中だもんね』
毎晩とか一晩中だとか、一人の男がヤれるとも思えないから、数人〜十数人に代わる代わる
うっとりとした白亜様と私達の温度差は激しい。
『今はちょっと用事で遅れてるけど、すぐに兄さんも帰って来るから』
『は?』
どうやら強姦魔が此処に来るらしいが、良い度胸をしていると思う。
緒方家に喧嘩を売って、生きて戻れると思ったら大間違いだよ!
息巻く私達。
数時間……白亜様は妊娠をしているし、子供は兎も角としても母体に悪影響を及ぼすのは拙いだろうと、蓉子様が色々と世話を焼いている中、フーデットマントを被っている誰かが歩いてきた。
頭に血が上る。
アイツが、あいつが、彼奴が白亜様を汚した男!
そう思うと矢も盾も堪らず佩刀を抜き放とうと動く前に、バカ兄や分家の男共が動いて刀を揮った。
バカ兄からすれば自分のモノを、横から掻っ浚った奴に報復の心算だろう。
流石に終わったなと動きを止める私達だったけど、次の瞬間には驚愕すると共に目を見開いた。
相手が刀を一振りしただけで、バカ兄達を往なしてしまったのである。
バカ兄達はバカではあっても実力だけは確か。
宗家には全く及ばないにしても、そこら辺の剣士に敗ける程に弱くはない。
しかも、相手が使ったのは間違いなく緒方逸真流抜刀術──【切月渦】だ。
切り裂く刃は月の如く、その動きは渦を巻くかの様な抜刀術。
多対一で最も高い効果を持つ技である。
脚の運びや腕の振り一つ取っても完璧で、その威力は数人の真剣持ちを峰打ちで弾き飛ばした事から推して知るべしだろう。
余りに見事な技、私達はその動きに見惚れていた。
結論だけ言うと彼は間違いなく本物の優斗様。
よもや、死して後に転生をしていたとは……
肉体的には兎も角、魂や精神的に優斗様本人だと、証明された。
白亜様のお腹中の子も、転生をした優斗様との間に出来たらしい。
精神的に兎も角として、肉体的には赤の他人であるが故に、御二人は……
白亜様が羨ましい。
私は……否、私達というべきだろうが……緒方家の分家筋で同世代の女の子は優斗様が好きだ。
度合いは違うだろうが、若しも赦されるなら結ばれたいと思うくらいに。
宗家だからだとかそんな理由じゃない。
他の娘は知らないけど、少なくとも私の想いは白亜様に勝るとも劣らないと、自信を持って言える。
昔、ちょっとあってから想いを寄せる様になったんだけど、それが少しずつ大きく強くなっていった。
戦国の世や江戸時代程に身分が厳格ではない現代、その気になれば分家の長女でしかない私にも、宗家の長男たる優斗様に嫁ぐチャンスも狙える筈。
しかも、宗家は白亜様が継ぐ事になっているから、余計にチャンスは増えた。
だけどその白亜様こそが最大の壁で、常々仰有られていた──『兄さんと一緒になりたいなら、兄さんの気を惹きなさい。だけど、告白する事は赦さない』──なんて。
想いは伝えずに気を惹けという、それは優斗様に気に入られて自らが欲しいと思わせ、優斗様自身が告白する様にしろと云う事。
私達が告白をする事で、なあなあで頷いて付き合い始めたり、或いはそれに縛
られて好きだと思う様になったりするのでは駄目と、白亜様が曰くつまりはそういう事らしい。
江戸時代とかなら所謂、
重婚は犯罪だし、愛人を持つのも一苦労となる。
故に選ばれるのは一人、私達は全員が優斗様と白亜様の通う学校に行き、出来る限り近くに居る様にしたものだった。
それは兎も角……
話に聞く限り、優斗様が転生をした先はライトノベル【ゼロの使い魔】の世界観だと云う。
私達は、白亜様も含めてこの手のサブカルチャーにはそこそこ詳しい。
優斗様がサブカルチャーを好きだからだ。
やはり基本は話を合わせる事だろうし、優斗様の好きなアニメやライトノベルをチェックして、視聴する事で話を合わせた。
仮面ライダーも観たし、私は割とハマったものだ。
結局、宗家は白亜様が産んだ優斗様との子、白奈様が継ぐ事になった。
バカ兄、ザマァ。
……なんて思ったのが、そもそものフラグか……
あのバカ兄は私に夜這いを仕掛けて来た。
勿論、必死に抵抗をして──ナニを──二度と使えない様に叩き潰してやった訳だが、それが発覚をして勘当されたバカ兄は、私を誘拐して無理心中を図る。
死んだ私とバカ兄の前に某・ライトノベルの邪神星人が現れ、優斗様みたいに違う世界へ転生をさせると言ってきた。
転生特典をコスト式に、好きなモノを選ばせてくれると言うから、再びバカ兄と兄妹として転生させられるのはバカ兄の転生特典から確定したし、バカ兄に犯されない様にコスト四を使い【乙女の拒絶】を得る。
私自身が心底、受け容れた異性以外が触れようとしたら、凄まじい痛みと共に性欲が萎えるというものであるらしい。
もう一つは、コスト六の仮面ライダーマリカに変身が可能な【ゲネシスドライバー】と【ピーチエナジーロックシード】だ。
これは仮面ライダー鎧武に登場する【戦極ドライバー】の次世代機で、出力も通常の戦極ドライバーよりは大きいし、何より女性用の仮面ライダー。
転生から十数年が経過、私とバカ兄は闘神都市へと来ていた。
バカ兄はラグナード迷宮で何かを企んでいるみたいだが、私も手伝わされているのに何をしたいのか全く教えようとはしない。
そして今日、あのバカ兄は天使喰いEXとかの特典を使って、捕まえた天使の女の子を性的に喰っているから時間が空いた。
因みに、救出は不可能。
バカ兄の転生特典は厄介な事極まりないから。
あのバカ兄の性交なんて見たくも聞きたくも無く、暇潰しに闘神大会でも観てみようと、久方振りに地上へと出てみた。
どうやら二回戦らしく、勇者と評判の少年が今回は戦うみたいだ。
対するのはバイザーを着けた多分、男性。
客席に来た時には既に、戦いは始まる直前だったけど間に合った。
始まる試合。
バイザーを着けた方は、仮面ライダーブレイドの使うラウズアブソーバみたいな機械を使い、姿を大幅に変えて戦闘を再開する。
紫の鎧は、スカート姿ではないけどまるで某・精霊みたいな姿だ。
その後、信じられない事をバイザーの男は行った。
私は思わず立ち上がる。
「嘘! あれは緒方逸真流の【木霊落とし】!?」
相手の武器を下段から上へと弾き、大きな隙を作らせてから上段から袈裟懸けに斬るカウンター技。
試合はバイザーの男──司会者曰く、ユート! という名前らしいが、勝利を修めた。彼が本物か否かを確かめるべく翌朝になって出てくるのを待つ。
今夜はミリオ君のパートナーの娘と【御楽しみ】だろうし、そうなれば一晩は出てこないだろうから。
.