闘神都市RPG【魔を滅する転生闘】   作:月乃杜

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第8話:勇敢なる者達の闘い

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「大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変っっ!」

 

 勢いよく宿屋に飛び込んできたのは、怪しいフードにマント姿の何者か。

 

 声からして女であろうというのは判るが、怪しさは大爆発であった。

 

 まあ、声で誰なのかはすぐに判明しているが……

 

「どうした、はっちゃん」

 

 ハチ女のはっちゃん。

 

 女の子モンスターというカテゴリーで、クライアの友達を自他共に認める。

 

「クライアが、クライアが浚われちゃったよ!」

 

 それは約束された未来、それは当然の帰結、起こり得る必然の運命(さだめ)。

 

 はっちゃんの言葉は衝撃を以て響き渡った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「どうやら、僕らの出入りを見ていた盗賊が居たらしいな……そしてやっぱり、猛大人は再び事を起こしたって訳か」

 

 ユートの瞳は、声は冷え冷えとして見る者と聞く者に恐怖を与える。

 

 やはり逃がしたのは失敗だった、それだけがユートの心を充たしていた。

 

「猛大人、貴様は僕を怒らせたんだ……金色の御許へ還(ほろぼ)してやるぞ!」

 

「兄貴、ボクも行くよ」

 

「きゃるん、私も一緒に行きます!」

 

 ユーキとスワティが険しい表情で立つ。

 

「そうだな、人手は在った方が良さそうだ」

 

 単純な殲滅戦であれば、ユート一人でも事足りるのだろうが、今回はクライア救出戦だからどうしても手は欲しい。

 

 のんびりと襲い来る盗賊を相手にしては、クライアが猛大人の毒牙に掛かってしまうかも知れなかった。

 

 ならば二人には露払いを頼むのも良い。

 

「ユート、私もクライアを助けに行くよ!」

 

「……大丈夫なのか?」

 

「うん!」

 

「了解だ。これを渡しておこう。約束の力だよ」

 

 ユートは金色の機械的なブレスレットを渡す。

 

「これは?」

 

 ユーキは基本的に全ての物のガワを既に造っていたから、後はユートの持つ力を使えば良い。

 

 駆け出したユート達。

 

 ラグナード迷宮へと向かう四人、それを見ていたのはミリオだった。

 

「ユートさん、血相を変えてどうしたんですか?」

 

「君には関係無いよ」

 

「然し! その様子は唯事ではありません!」

 

 ミリオに構っている暇は無く、着いてくるミリオを放って走る。

 

 ラグナード迷宮に入って三人は……否、四人は各々がデバイスを使う。

 

 ユートはブレイバックルに【チェンジスワティ】を装填、ユーキはカリスラウザーを腰に据え、スワティもレンゲルバックルに【チェンジスパイダー】を装填して腰に、シャッフルラップが伸びて装着した。

 

「「「変身っ!」」」

 

 ターンアップハンドルを引くユート。

 

《TURN UP!》

 

 ユーキは、【チェンジマンティス】をリーダーに読み込ませる。

 

《CHANGE!》

 

 そしてスワティもミスリルゲートを開いた。

 

《OPEN UP!》

 

 電子音声が鳴り響くと共にユートは顕現したオリハルコンエレメントを潜り、ユーキはカリスに変わり、スワティもスピリチアエレメントを潜る。

 

 ミリオはユートの事は知っていたが、他の二人は知らなかったからか驚く。

 

 しかも、ユートの変身したとは違って明らかな異形の姿とあれば尚更だろう。

 

 フーデットマントを脱ぎ捨てるはっちゃん。

 

 よもやモンスターだとは思わず、ミリオは更に驚愕をするがいちいち構ってはいられなかった。

 

「来て!」

 

 はっちゃんが右腕を掲げると……

 

「ザビーゼクター!」

 

 何処からともなく顕れ、金色の蜂が飛んで来てその手に収まる。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 【ザビーゼクター】……仮面ライダーカブト系列の仮面ライダーザビーに変身する為のツール、集団行動を旨とする蜂をモチーフとしてるだけあり、完全調和(パーフェクトハーモニー)の精神の持ち主が適格者として選ばれ易い。

 

 勿論、このザビーゼクターはユートが【至高と究極の聖魔獣(アナイアレイション・メーカー・ハイエンドシフト)】で創り上げた聖魔獣であり、それを出力するのはユーキの造り出したザビーブレスである為、そんな意味不明な縛りなど有りはしないのだが……

 

 敢えて云うと、ユートが与えた者こそが適格者だ。

 

 ハチ女なはっちゃんだからこそ、ユートはザビーゼクターを与えた。

 

 第二層・英雄の時代と云われる層の奥、盗賊の砦に再びやって来たユートは、カリス、レンゲル、ザビーに露払いをして貰いつつ、勝手に着いて来たミリオと共に猛大人が居るであろう部屋を目指す。

 

 敵を薙ぎ払いながら先へと進んでいく。

 

 その道中、来てしまったものは仕方ないとクライアが猛大人に浚われた事を話しており、ミリオは悔しそうにしていた。

 

 クライアが被害に遭ったのは、自分が猛大人に情けを掛けたのが原因だと。

 

 ユートの言う通り始末していれば、今回みたいな事にはならなかった。

 

 勇者として情けは有っても情けない限りだと沈む。

 

 最奥にまで進むと……

 

「ギャァァァアアッ!」

 

 猛大人の部下らしき者の絶叫が響く。

 

 急いで現場に突入をして見た存在は、ワインレッドのスーツに銀色のアーマーを持つ緑のオーガンスコープの異形が、派手で大きな銃を手にしていた。

 

「ギャレン……」

 

 ユートの呟きが、やけに大きく反響したと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 猛大人は部下を使って、クライアを浚う。

 

 ユートから【御守り】を託されていたが、クライアは結局は使わなかった。

 

 ちゃんと説得をすれば、きっと解ってくれるのだと信じたいが故に。

 

 だが結局は、そんな儚い希望はものの見事に打ち砕かれてしまった。

 

 皮肉な事に、ユートと解り合えたという事実が彼女の目を曇らせたのだ。

 

 後ろ手にロープで縛られたクライアは、不安そうな表情で気味の悪い巨漢の前に立たされている。

 

「ほほう? 額の宝石が赤いと云う事は、ま〜だ処女アルな? 高く売れるのは男を知り尽くした青い宝石アルヨ。ぐふふ、これは楽しませて貰えるネ」

 

 猛大人の顔に浮かんでいる表情は、クライアに対する欲情を含む笑み。

 

 クライアにはもう説得の言葉が見付からない。

 

 バリィッ!

 

「キャァァァッ!?」

 

 行き成り服の襟を掴まれると引き裂かれ、形の良い胸を露わにしてしまって、しかも縛られている所為で隠す事も出来ずに、勢いで尻餅を付いてしまう。

 

 ミニとはいえ、一応穿いていたスカートも一緒に破られており、パンティまで丸見えな状態だ。

 

 猛大人は鼻息も荒くなっていて、自らの股間を隠していたモノを脱ぎ去ると、醜く腫れ上がっている分身が外気に晒された。

 

「い、いやぁぁっ!」

 

 汚らわしいモノを見せられたクライアは、顔を背けながら絶叫をする。

 

 そんなクライアに近付いた猛大人は、腕力に任せてにパンティを剥ぎ取ると、脚を開かせようとするのだが当然、嫌がるクライアは開くまいと力を込めた。

 

 屈した後の未来を想像すらしたくない。

 

「誰か……助けてっ!」

 

「ホッホッホッ、だーれも助けてくれやしないアル。お前もいい加減に観念するヨロシ!」

 

 周囲の猛大人の部下も、ニヤニヤしながらクライアを観ている。

 

 だが、意外な所から救助が現れた。

 

《EMERGENCY MODE》

 

「!? 何アルか?」

 

《TURN UP!》

 

 クライアの持っていた物の一つが勝手に動き始め、腰に装着されると鍬形虫の紋様が描かれている半透明の膜が顕れ……

 

「ギャピーッ! アル!」

 

 猛大人を吹き飛ばす。

 

 それはオリハルコンエレメント、仮面ライダーへと変じる為のシステム。

 

 この中に聖魔獣が粒子状に収まっており、このオリハルコンエレメントを潜り抜ければ変身が可能。

 

 果たして、クライアへとオリハルコンエレメントが迫り来て、図らずも潜った事によって仮面ライダーの姿となっていた。

 

 然し自らの意志で動く事は叶わず、仮面ライダーギャレンは勝手に動くと腰のホルスターから醒銃ギャレンラウザーを抜き、構えて猛大人の部下Aにサイティングをして、無慈悲に無感動にトリガーを引いた。

 

 BANG!

 

「ウギャァァァッ!」

 

 額を射ち抜かれた部下Aは絶叫と共に、頭を破裂させて吹き飛ぶと壁へとぶつかって、グチャリッ! という決して人間が出してはならない音を室内に響かせると、それっきり二度とは動かなくなる。

 

 元々が本物と同程度にはスペックを維持しており、そして仮面ライダーというのは基本的に人間でなく、遥かに高い能力を持つ怪人を相手に戦うのだ。

 

 その一撃を受けたなら、人間では軽い一発でも石榴になりかねない。

 

 何しろ、基本的なパンチが〝トン〟という単位。

 

 最も近接戦闘に向かないギャレンでさえ、その最大威力はAP二六〇であり、二.六トンなのだから。

 

 勿論、クライアが射った訳ではない。

 

 これを行ったのは聖魔獣ギャレンで、エマージェン

シーモードで装着者を護るべく、自らの意志を以て戦っているのだ。

 

 其処へ突入してきたのは……

 

「ギャレン……」

 

 仮面ライダーブレイブ──ユートと、勇者ミリオの二人であった。

 

「エマージェンシーモードが発動しているみたいだ。つまり、クライアが何かしらの害を受けそうになったという事か」

 

 要するに、エマージェンシーモードとは某・喋る口の悪い剣が、緊急避難的に持ち主を動かす様なもの。

 

「ミリオ、今回の主導は僕だから……君は周りの雑魚を潰せ。僕はあの筋肉達磨を殺す!」

 

「……判りました」

 

 事、此処に至ってしまってはミリオも否やは無い。

 

「ギャレン! クライアをその侭、ユーキ……カリス達の許まで連れていけ!」

 

 ギャレンは頷くと走って部屋から待避する。

 

「うぬぬ、ワタシの宝石! 許さないアル!」

 

「黙れ!」

 

「っ!?」

 

「許さない? 許さないというのは此方の科白だ……貴様は最早、決して生きて此処から逃がしはしない。金色の御許へ還るが良い」

 

 ユートは試作品として渡された黒い機器、ラウズアブゾーバーを左腕に装着。

 

 【ハーミット】のカードをインサートリーダーへと装填する。

 

《ABSORB!》

 

 現在はスートが無い為、音声はこれだけだ。

 

《FUSION!》

 

 そして次に【プリンセス】のカードをリード。

 

 ユートのジャックフォームとも云うべき姿、それは紫を基調とした鎧を纏い、巨大な剣を手にしたもの。

 

 神威霊装・十番(アドナイ・メレク)鏖殺公(サンダルフォン)

 

 霊装は勿論、スカートではないし胸部も男用に調整をしてある。

 

 そして、本来はキングフォームで使う予定だったからか、鏖殺公は重醒剣キングラウザーと同じ仕様。

 

「征くぞ!」

 

 ユートは重醒剣鏖殺公(サンダルフォン)を構えて駆け出した。

 

 ミリオが猛大人の部下を相手にしている間、ユートが猛大人本人を叩くという作戦を決行。

 

 鏖殺公を揮うユートは、猛大人へと斬り付けた。

 

 ガキィッ!

 

「な、にぃ!?」

 

 仮面ライダーブレイブ・弁天モードとしての力で、鏖殺公を揮い手加減無しで斬った筈なのに斬れない。

 

 明らかに素っ裸な猛大人は無防備に切っ先を受け、傷一つ付いていなかった。

 

「(チィッ! 鏖殺公が汚れるが、一番柔らかそうなあの反り返ったブツを斬り落としてやるか?)」

 

 クライアを犯そうとして反り返った猛大人のモノ、未だにそれは萎える気配もなく見苦しいまでに晒された続けている。

 

 正直、見たくない。

 

 とはいえ、男としてアレを斬り落とす算段をするのは如何なものか?

 

 ユートは従来のスペードスートのラウズカードを出すと、鏖殺公に後付けにて装着されたカードリーダーに読み込ませる。

 

《SPADE 10》

 

《SPADE J》

 

《SPADE Q》

 

《SPADE K》

 

《SPADE A》

 

 ギルドラウズカードではなく、通常の物であるが故に威力は低いのだが……

 

《LOYAL STRAIGHT FLASH!》

 

 それでも本来の八〇%の破壊力を持つ。

 

 各々のカードを模した膜が顕れ、それを通過する事によってパワーをチャージしていく。

 

「ウェェェェェイ!」

 

 猛大人を一刀両断にする為に、上段の構えから唐竹割りに振り降ろした。

 

 バキッ!

 

 だが、それすら猛大人には通用していない。

 

「ば、莫迦な!?」

 

 ダメージは通った様で、出血を強いる事は出来たのだが、致命傷には程遠い。

 

 威力が落ちているとはいっても、八〇%もあったら普通は人間など真っ二つを通り越して消滅する。

 

 それが、全くとは言わないまでも碌に効かない。

 

「ホッホ! 貴様の実力はこの程度アルか?」

 

 ブン! 猛大人が拳を握り締めて力の有らん限りで振り抜くと、ユートの腹部へと叩き込んできた。

 

 俗に云う腹パンである。

 

「ぐふっ!」

 

 アドナイ・メレクの上からでもそれなりに効いて、ユートは肺の中の空気を吐き出す勢いで吹き飛ぶ。

 

 壁にぶつかって破壊し、床に倒れ伏す。

 

 いつもみたく小宇宙を使えればどうと云う事もない敵なのに、現状でユートは小宇宙をこの場で使う訳にはいかなかった。

 

「(こうなると……斬撃か物理そのものか、いずれかの無効化乃至は耐性を持っている可能性が高いか……というか、この世界って確かRPGじゃなかったか? こんな序盤から斬撃やら物理を無効化とか、どんなクソゲーだよ!?)」

 

 敵が無敵過ぎる。

 

 況してや、まともに受ければカテゴリーKや14でさえも斃せる『ロイヤル・ストレートフラッシュ』を受け、ダメージが入らないというのは有り得ない。

 

 何しろ『ロイヤル・ストレートフラッシュ』のAPは一一二〇〇であり、これを威力換算で一一二トン。

 

 ギルドラウズカードではい為に、実際にでた威力は八〇%だから約九〇トン、細かく云うと八九.六トンになる。

 

 まあ、ブレイドの場合はだが……

 

 そも、人間なら一トン=千キログラムでも押し潰されるレベルだ。

 

 その実に百倍以上と考えれば、それがどんな威力なのか類推は出来よう。

 

 十分の一の百キログラムでさえ、持ち上げるのにはヒーヒー言うのだから。

 

 ユートは鏖殺公を揮い、猛大人は拳を揮い、どちらも攻め切れない。

 

 流石にカードを使う暇も中々与えてくれないのだ。

 

 戦っている内、パンチやキックも混ぜて攻撃をしているのだが、どれも効いている様には見えなかった。

 

 既にラウズカードは全てを十三枚ずつ、ブレイド系仮面ライダーで分けてしまっており、他のカードで試す事も叶わないが……

 

「(さて、どうするか? 氷結傀儡(ザドキエル)を使うには此処は狭すぎるし……)」

 

 あれは使い難い。

 

「(となると、物理以外ならアレか……な?)」

 

「考え事とは余裕アルね! 死ぬヨロシ!」

 

 何やら必殺技でも使う気なのか力を溜め始めた。

 

「今だ!」

 

 ユートはカードを出し、それをラウズアブゾーバのリーダーへ読み込む。

 

《FUSION》

 

 それは本来、フュージョンのカードとして使う予定だったモノ。

 

 但し、元々があの世界で使っていた【プリンセス】の神威霊装と違い、全くの未調整での運用となる。

 

 ボッ! ユートの全身を煌々とした紅蓮の炎が包み込み、その姿をアドナイ・メレクから変えていく。

 

 神威霊装・五番……

 

「エロヒム・ギボール!」

 

 それは肩や二の腕の半分が丸見えで、胸元も大きく開いた白い着物っぽくて、太股から着物の裾が左右に開き、此方も丸見えだ。

 

 ハッキリと言ってしまうと激しく似合わない処か、犯罪的なまでに変態チックな女装姿である。

 

 アドナイ・メレクは調整を施してあり、男が纏っても違和感など無かったが、エロヒム・ギボールは調整をしておらず、イフリートが使っていたその侭だ。

 

 ミリオは戦闘中だというのに、ユートの霊装姿を見て呆然となっている。

 

 それは猛大人の部下達も同様だったが……

 

 ユートも正直に言うと、滅茶苦茶恥ずかしい。

 

「焦がせ、灼爛殲鬼(カマエル)!」

 

 羞恥に耐えながら叫ぶと両刃の斧が顕現する。

 

(メギド)!」

 

 変形して腕と一体化した灼爛殲鬼(カマエル)を構えると、猛大人へと向ける。

 

「させないアル!」

 

 流石に焦る猛大人、技を放とうとするなもう遅い。

 

最終砲火(ファイナル・ファイヤ)!」

 

 某・ゴッドで雷神な王の如く叫び、最小限に威力を抑えて撃ち放つ。

 

「ビギャァァァァァァァァァァァァァアアッ!」

 

 火線は猛大人を呑み込んで焼滅させた上で、盗賊砦の壁を崩壊させると後ろの迷宮の部分まで焼き尽くしてしまった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 【コロシアム】で今日、第二回戦が始まる。

 

 

〔龍のコーナー、ユート・オガタァァァアッ!〕

 

 司会兼審判が、盛り上げながらこの戦いに赴く戦士の名を呼ぶ。

 

〔虎のコーナー、ミリオ・パタネッタ!〕

 

 ユートとは逆方向から、赤毛の少年が現れた。

 

 猛大人を焼滅させた後、ラグナード迷宮から出てからミリオと別れたユート。

 

 互いに二回戦で正々堂々と戦う約束をして……

 

 クライアとはっちゃんの二人は、宿屋の方に来て貰う事にした。

 

 猛大人は殺したのだが、残党が再び盗賊団を結成でもしたら危険だし、あわや犯されていたかも知れないクライアを落ち着かせたい処でもあったからだ。

 

 尚、後日に酒場のさやかから聞いた話であったが、ラグナード迷宮から巨大な火柱が上がったらしい。

 

 火柱というのは間違いなくユートが放った一撃で、どうやら迷宮の壁や天井を完全にぶち抜いてしまったみたいだ。

 

 現在、クライア達は聖具のフェイスチェンジを使って一部を変化、クライアは額の宝石を隠して耳を丸く見せ、はっちゃんも人間に近い姿となっている。

 

 向かい合う二人の闘士、それは闘士の中の闘士たる闘神を目指し、闘神大会を闘う謂わば敵にして同士。

 

〔始めぇぇっ!〕

 

「変身!」

 

 その掛け声と共にユートがターンアップハンドルを引くと……

 

《TURN UP!》

 

 電子音声と共にオリハルコンエレメントが顕現し、それを迷う事も無く潜り抜けて、スワティが着る儀礼的な装束に近い戦装束を纏ってバイザーを着けた姿──弁天モードに変身した。

 

 ラウザーホルスターからブレイラウザーを抜いて、甲高い金属同士がぶつかる音を響かせて、ミリオの持つ大剣と刃を合わせる。

 

 猛大人の非常識な頑強さを目の当たりにしたユートはすぐ、レベル神アガサ・カグヤを喚び出して確認をとってみると、この世界の人間は確かにそんな不可思議スキルを持つ者も多い、だけど猛大人のそれは常軌を逸していると云う。

 

 猛大人には対物理防御が高いというスキルが在ったには在ったが、幾ら何でも強化された仮面ライダーの斬撃をあそこまで防げる程ではなく、何かしらの強化が施されていた様だ。

 

 飽く迄も、元から持っていたスキルの強化であったが故に、その事に気が付くのが遅れたのだとか。

 

 つまり、創造神か或いは這い寄る混沌辺りが強化をしていた可能性が高い。

 

 とはいえ、創造神が能動的に動いたというのも考え難いし、意を受けた這い寄る混沌の仕業……と思った方が良かろう。

 

 ガキィッ!

 

 鈍い音を鳴らせながら、二人はバックステップにて下がった。

 

「流石にやりますね!」

 

「ミリオもな!」

 

 幼く見えても〝勇者〟というカテゴリーであるが故にか、並の人間では百人が一斉に掛かっても相手にならない強さだ。

 

 というか、これでも単純なパンチ力ならトンの威力を持ち、そんな腕力で剣を振り回しているユートに、生身で対抗しているミリオは確かに勇者と呼ぶに相応しい能力を有していた。

 

 ユートは手にした【ハーミット】のカードを……

 

《ABSORB!》

 

 先日、試合前という事で正式に装備したラウズアブソーバにインサート。

 

 更には【プリンセス】のカードをスラッシュする。

 

《FUSION!》

 

 ユートは紫を基調とした鎧に、フワフワした物質とは思えないインナーを纏った姿となった。

 

神威霊装・五番(アドナイ・メレク)!」

 

 そして手には巨大な剣。

 

鏖殺公(サンダルフォン)!」

 

 鞘にして玉座と一緒に出すのではなく、剣のみ召喚をして闘う。

 

 再び互いに駆け出して、剣檄を合わせた。

 

「くっ、パワーが上がっているのか!?」

 

 驚愕しながらも退く様子のないミリオ。

 

 鍔迫り合いで動きが止まったのを切っ掛けにして、ユートは本来のラウズカードを取り出して、鏖殺公に付けたオートスキャナーに読み込ませる。

 

《SPADE 10》

 

《SPADE J》

 

《SPADE Q》

 

《SPADE K》

 

《SPADE A》

 

 読み込ませたカードを模した幕が顕れ……

 

「うわっ!?」

 

 ミリオを吹き飛ばす。

 

《ROYAL STRAIGHT FLASH!》

 

「ウェェェェェェイッ!」

 

 斬っっ!

 

「がはっ!」

 

 【ロイヤル・ストレートフラッシュ】がミリオへと完全に極った。

 

 壁にまで吹き飛ばされ、倒れるミリオ。

 

 フラフラと立ち上がって来るが、どう見ても死に体なのは誰の目にも明らか。

 

 だが然し、ミリオが表情を顰めた瞬間に光を放ち、傷が一瞬で癒えていく。

 

「これは! あれが【聖なる奥歯】とやらか」

 

 どんなダメージも一瞬で治す、何処の【フェニックスの涙】や【エクスポーション】と謂わんばかりだ。

 

「うおぉぉぉぉっ!」

 

 再び襲撃してくるミリオに対し、ユートも鏖殺公で迎撃を行う。

 

「これは、首を一撃で叩き落とさないと駄目か?」

 

「随分と凶悪な事を言ってくれますね!」

 

「事実だろうが!」

 

 言いながらミリオの振り下ろしてきた剣を、回転しながら併せて弾き上げる。

 

「っな!?」

 

 反動で自分も上段に構える形になるが、それをすぐに振り下ろす。

 

 斬!

 

「ぐわっ!」

 

 鎧の上からだが衝撃は受けたのか、ミリオが踏鞴を踏んで一歩二歩と下がる。

 

「緒方逸真流……【木霊落とし】っっ!」

 

 驚く程の技ではない。

 

 基本的なカウンター技に過ぎないのだから。

 

 だが、それを見て思わず立ち上がった人間が、客席に居た事をユートはまだ知らない。

 

 

.


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