闘神都市RPG【魔を滅する転生闘】   作:月乃杜

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第7話:カラーという種族

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《Divid!》

 

 白い肩羽から蒼い光の翼を纏うブレイブ。

 

 カテゴリーKに相当するアルビオンのラウズカード──【エボリューション・アルビオン】とはまた別に【ディバイド・アルビオン】のカードが在る。

 

 カードに封印をしている訳ではなく、ユートの内のアルビオンの能力を引き出すカードな為、エボリューション一枚ではないのだ。

 

 直接、禁手化(バランス・ブレイク)するのならばまだ兎も角としても、仮面ライダーとして闘う以上は不粋と考えていた。

 

 というか、仮面ライダーの力と装備型神器を同時に使うというのは難しい。

 

 だが、ブレイド型の仮面ライダーならカードにより力を引き出せば可能。

 

 飽く迄も、ユートの内の力だから他のブレイド型──カリスやレンゲルやギャレン──では使えないが、それでもユートが使えるなら特に問題は無かった。

 

 そして、ユートはカードを使って【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】をブレイブに顕現させ、モンスターを相手に半減の力を使ったのだ。

 

 モンスターは力を半分も喪失し、ユート──ブレイブはその分の力を自らの力と換えている。

 

 まあ、英雄の時代の層のモンスターは所詮が雑魚、ユートは問題無く半減で獲た全ての力を吸収した。

 

 吸収した力は暫くの間を持続させる事も、一気に使って発散させる事も可能。

 

「ウェイッ!」

 

 斬っっ!

 

 ユートにとって雀の涙の力だからか、一気に使って次のモンスターを斬る。

 

「ふぃーっ!」

 

 どうやら、モンスターの気配は消えてしまったらしくて、ユートは大きく溜息を吐いて弁当を開いた。

 

「はぐっ」

 

 仮面ライダーモードではないから、変身解除をしなくても弁当を口にする事が出来る。

 

 弁当は簡単にサンドイッチだった。

 

「アルビオン、起きているのか?」

 

《ああ、中々の使い手だと思うぞ。私の力を如何無く発揮している。どうやら、同位体の私とやらを見ていて戦い方は学んだ様だな。後天的な所持者(ユーザー)だと自嘲をしていたがな、お前が最初の所持者で私は誇らしい》

 

「そうか……エロに関しては僕も一家言あるからな。それでも変な名前で呼ばれない様に気を付けよう」

 

《そうしてくれ。流石に私も尻龍皇は辛いのでな》

 

 互いに笑い合って休憩を終え、再びラグナード迷宮の探索に向かう。

 

 緑色の巨大な芋虫が目の前に現れた。

 

《Divid!》

 

 【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】は一度でも顕現させたならば、その効果はユートが仕舞わない限り続く。

 

 故にいつまでも出して、効力を発揮していた。

 

「イモムシDXね」

 

 斃したモンスターの名前はリザルトメニューで確認をして、手に入れた経験値とGOLDの管理をする。

 

 青い円らな瞳に橙色の丸い物体、【ぷりょ】が現れたら一気に斬り捨てた。

 

 次には金髪碧眼、白い肌がキラキラした少女が粉を撒き散らしながら現れた。

 

「クスクス、実験台を見〜付けた♪」

 

 赤いリボンで結わい付けたツインテール、赤い肩紐と腰紐に白いワンピース、何故か裸足で歩いている。

 

 顔立ちは可愛らしいが、一人笑顔で動いている辺り明らかにモンスターだ。

 

「女の子モンスターか」

 

《やはり……無理矢理にヤるのか?》

 

「無理矢理はしないぞ? 斃して自分から欲しいと思わせるだけだから」

 

《それは、快楽に抗えぬ様に襲っているだけだろう》

 

「襲ってくるのは向こう。勝者の権利を僕は行使するだけだね」

 

《ハァー、モノは言い様とはよく言ったもんだな》

 

 アルビオンは呆れながら溜息を吐いた。

 

「さあ、君には実験台になって欲しいから、大人しくなって貰うよ?」

 

「粉……毒か?」

 

「うふふ♪」

 

 バッ! 左腕に引っ掻けた手籠からユートに白い粉を投げ付けた。

 

「眠っちゃえ!」

 

 だが……

 

「平気へっちゃらだね」

 

 全く揺らがない。

 

「あ、あれぇ? だったらこれ! 麻痺しちゃえ!」

 

 再び白い粉を投げたが、やはり……

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁっ!」

 

「な、何で? だったら、この猛毒性の粉で!」

 

 バッ! バッ!

 

 焦った表情で投げ付ける女の子モンスター。

 

「残念無念、また来週!」

 

 やはり全く効かない。

 

 女の子モンスターは恐慌を来してしまう。

 

「え? え? な、何で? 何で? 何でぇぇ?」

 

 ユートは黄色い薔薇を取り出すと、香りを嗅ぎながら瞑目をしつつ口を開く。

 

「知っているか? 毒蛇は自らの毒にやられたりしない様に抗体を持つ」

 

「……え?」

 

 言いながら黄色い薔薇を投げ付ける。

 

 クラリ……一瞬の目眩をを感じた女の子モンスターは膝を付いた。

 

「あ……れ……?」

 

「どんな気分だ? 自分が同じ目に遭うというのは」

 

 絶句する女の子モンスターに対し、ユートは口角を吊り上げながら近付く。

 

 女の子モンスターに浮かぶ表情──それは恐怖。

 

「あ、あ……い、や……」

 

「どうした? 君もこうして人間や他のモンスターを実験台にしてきたんだろうに? 今度は自分の番になっただけだ」

 

 紫と紅い薔薇を出す。

 

「さっきの粉は確か眠りと猛毒だったな? 紫の睡眠薔薇(スリーピングローズ)と猛毒の王魔薔薇(ロイヤルデモンローズ)だ。君は僕みたいにこれらの耐性はあるのかな? それじゃ、実験を開始しよう」

 

「や、やら……イヤ、イヤイヤ……嫌ぁぁぁぁっ!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 【粉あらい】の女の子モンスターカードを、ブレイラウザーのオープントレイへと仕舞ったユート。

 

 嗜虐趣味は無かったが、偶にははっちゃけてみるのも愉しい。

 

 黄色い麻痺薔薇(パラライズローズ)というのは、相手の肉体を麻痺させてしまう反面、ユートの小宇宙乃至は魔力や霊力などを使って意志次第で神経を過敏にし、痛覚などを増大させてしまう効果があった。

 

 勿論、快感もだ。

 

 故にこそ粉あらいも最後には、ユートから与えられる快楽を享受した。

 

「さて、さっきから気になっていたけど、この二体の石像は何なんだろうか?」

 

 女性の石像、似た容姿をしているのに向かって左側と違い、右側の石像は翼を持っている。

 

 そして共通項としては、額に楕円形のナニか。

 

「何かの仕掛け……か?」

 

 ユートが視た限りでは、単に石像が置いてあるという感じではなく、何らかの仕掛けを動かす為のキー。

 

 例えば邸内の特定の家具を特定の法則で動かすと、隠し扉が現れたり開いたりするみたいな。

 

「ふむ、試してみるか?」

 

 先ず調べてみて、どんな風に動かすのかを考えた。

 

 何度か動かされているのだろうから、その流れを視ればだいたい理解出来る。

 

「こんな感じか?」

 

 特定の法則に則って回していく、まるで金庫のキーを開けるみたいな感覚で。

 

 ゴゴゴ……

 

 石の扉が重々しく開き、岩屋っぽい穴がポッカリと口を開いた。

 

「な、何事ですか? 何で扉が開いたの!?」

 

 慌てて出て来たのは大きなショルダー──何処ぞのハイエルフっぽい──を着けた青いストレートヘアに長い耳にターコイズブルーの瞳、極め付けに額に赤い楕円形の宝石を付けている巨乳な少女だ。

 

 少女はユートを見ると、怯えた瞳で息を呑む。

 

「ヒッ! に、人間!?」

 

 すぐに少女を庇う様に現れたのは、ピンクブロンドをショートに刈った蜂っぽさを持つ少女。

 

 女の子モンスターだ。

 

「クライア、下がって! お前、カラー狩りか!?」

 

「クライア……カラー?」

 

 ユートが少女の名前らしきものを呟き、続いて種族らしき名称を呟くと……

 

「はい?」

 

 どうやらそれが本名だったのか、クライア・カラーは小首を傾げて返事した。

 

「ああ、君は人間って訳じゃなさそうだね。隣の子も女の子モンスターかな?」

 

 ユートの質問に又も怯えた表情、瞳になっていっそ憐れな程に肩を震わせる。

 

「貴方、クライアを狙っている人間? だったら絶対に許さない!」

 

 クライアという耳長な娘の前に立ち、蜂の針っぽい槍を両手に持ってユートを睨んできた。

 

「狙う? よく判らないんだけど、クライアだっけ? 君は狙われてるのか?」

 

「そ、それは……」

 

 困った表情になって俯くクライアを見て、ユートは溜息を吐きながら言う。

 

「ハァー、少なくとも僕はこの子を狙う某かじゃないから、此処が秘密の場所なら入口を開きっ放しなのは如何にも拙いだろ。中で話を訊かせてくれないか?」

 

 そう提案すると蜂娘(仮)が心配そうにクライアへと顔を向けて、何処か怯えた感じの彼女に訊ねる。

 

「どうしたの、クライア? 何だか浮かない表情で」

 

「こ、この人……心の色が見えないから」

 

「えっ!? 本当?」

 

「う、うん」

 

 ユートにとって意味不明な会話だが、理解が及ばないという程でもない。

 

「リーディングか」

 

 某・愛と勇気の御伽噺な物語に登場する、銀兎みたいな能力を持つのだろう、ユートはそう判断した。

 

「無理だな。僕には単一の呪力は通じない。殆んど全てを弾いてしまうからね」

 

 二人に詳しく言っても解らないだろうが、ユートは【カンピオーネ】と呼ばれる存在で、強大な呪力を持ち合わせている為にまるで湖へ水鉄砲を使って塩水を撃ち込むが如く、何か影響を与える事すら叶わない。

 

 それはリーディングでも同じ事だった。

 

「それとよく考えてみろ。僕にそのクライアって娘を害する気があるってなら、隠れ家に上げようが門前払いをしようが、どっちにしてもこの場所を見付かった時点で詰み、チェックメイトだろうに」

 

「そ、それは……くっ!」

 

 容赦なく正しい正論に、蜂娘(仮)は呻く。

 

「他に見付かりたくないのなら……ほら、僕をさっさと隠れ家に上げる!」

 

「わ、判りました」

 

「クライア!?」

 

「大丈夫、確かにこの人からは色が見えないけれど、言ってる事は正しいから」

 

 蜂娘(仮)が悲鳴を上げるが如く絶叫するが、当事者のクライアは軽く微笑みを浮かべて言った。

 

 隠れ家の内部は外部からの見た目と異なり、十字架の無い教会といった感じの内装で、ボロボロではあっても何処か荘厳な雰囲気を醸し出している。

 

「処で、カラーというのは何なんだ? まあ、種族としての名前なのは理解出来るんだけど……」

 

「貴方はカラーを知らないのですか?」

 

「ユート」

 

「はい?」

 

 質問には答えず、自分の名前を名乗るユートにポカンとなるクライア。

 

「僕の名前だ。緒方優斗という」

 

「ああ! 成程、ユートさんですね」

 

 合点がいったのかポンと両掌を合わせて叩き、コクンと頷いた。

 

「そう、名前で呼んでくれると嬉しいね。それから、質問の答えだけど、カラーというのを僕は知らない。まあ、クライアを見る限りでは身体的特徴に、耳が長いというのと額の宝石か」

 

 額の宝石……そう口に出したら少し怯えたのを見逃しはしない。

 

「宝石に何かあるのか? 言いたくないなら別に言わなくても良いけど」

 

「……私達カラーの額に有る宝石は、魔力の結晶体。カラーはこれを使って魔法を使うんです。人間はこれを狙って懸賞金を掛けて、私を追っています」

 

「へぇ? カーバンクルみたいなもんかな?」

 

「カーバンクル?」

 

「額に赤い宝石を持つ幻獣だよ。カーバンクルも額の

宝石を狙われるし」

 

「そうなのですか? 確かに同じですね。それで私はこのラグナード迷宮に隠れ住んでいるんです」

 

 古来より人間の欲望とは果ても限りも無いらしい、そして途轍もなく醜いものであるようだ。

 

 ユートは眉根を寄せつつ顔を顰めた。

 

「クライア、若しも何者かが君を襲って来たら、これを使うと良い」

 

 ユートはステータス・ウインドウを開き、アイテムストレージの欄をタップ、アイテムを実体化させるとクライアへと手渡す。

 

 それは白いボックス状の機器で、更には鍬形虫の絵が描かれたカードが一枚。

 

「で、でも……」

 

 どんな物か解らないが、斃すという行為には抵抗を覚えるのか、少し困った顔になるクライアにの手を握ると、真っ直ぐにその宝石の様な瞳を見つめてユートは口を開く。

 

「クライア、その優しさはきっと君の美徳だろうが、敵には通じない。殺せとは言わないが、自らを護るのは必要だよ」

 

「は、はい……」

 

「僕は腐れた人間よりも、君が生命を繋ぐ方がよっぽど良いよ」

 

 ユートはある意味では、ハーデスやポセイドンの言い分を認めている。

 

 人間(ヒト)の心の醜さと美しさを見てきたユートにとっては、護る事も殺す事も常に同義だった。

 

 そしてユートは種族差別や人種差別を良しとせず、故にこそカラーを狙う人間とクライア、どちらの味方をするかと訊かれたなら、間違いなくクライアの方に味方をするだろう。

 

「その機器にカードを装填して、このハンドルを引けば君に力を与えてくれる。だから使う使わないは別にしても、御守り代わりに盛っていると良い」

 

「は、はぁ……」

 

 よく解らないクライアだったが機器を受け取る。

 

 とはいえ、きっと彼女は余程の事でもないと使わないだろうと、ユートは確信をしているのだが……

 

 話している内にクライアと蜂娘(仮)の警戒心も徐々に薄くなったのか、最終的には軽く談笑が出来る程度には打ち解けていた。

 

 お茶まで出して貰って、ユートも御茶請けにお菓子を振る舞い、中々に愉しい時間を過ごせたと思う。

 

 元々、ユートがラグナード迷宮に入っていた理由は修業なんかではないから、多少の時間をこうして過ごしても何ら問題は無い。

 

 帰る段になってクライアが来る前に、蜂娘(仮)が話し掛けてきた。

 

「ねぇ、ユート」

 

「どうした?」

 

「何でクライアに御守りだって、あれを渡したの?」

 

「勿論、クライアを護る為だけど?」

 

「それで同族を傷付けられても良いの?」

 

「クライアを襲った連中がどうなろうと、僕の知った事じゃないさ。自業自得というやつだからね。尤も、クライアは使わないかも知れないけど……な」

 

「そうだね。クライアって優しいから」

 

 蜂娘(仮)もそこら辺の事は懸念していたらしい。

 

「今度、来たら君にも何かクライアを護れるアイテムを上げるよ。生憎と今は持ってないけどね」

 

「はっちゃんだよ」

 

「ん?」

 

「あたしの名前。ハチ女だからはっちゃん。クライアが付けてくれたんだ」

 

「そっか、はっちゃんね」

 

 漸く蜂娘(仮)の名前を知ったユート。

 

 蜂娘(仮)改め、ハチ女のはっちゃんはユートを信じてみる事にしたらしい。

 

 其処へクライアが走ってやって来る。

 

「あの、遅くなっちゃってごめんなさい」

 

「いや、別に構わないよ」

 

「また、来てくれますか? ユートさん」

 

「ああ、暇を見付けてまた此処に来るよ」

 

「その時はお菓子を作っておきますね」

 

「わぁ! クライアのお茶とお菓子は美味しいんだ」

 

 はっちゃんが嬉しそうに言うと……

 

「ちょっ、はっちゃん! ハードルを上げないで! あの、そんな大層なものじゃないですから!」

 

「いや、楽しみにしてる。明日か、明後日の夕方頃には来るよ」

 

「はい♪」

 

 ユートは外に出ると石像を元の位置に戻し、扉前の偽装を再び施して帰った。

 

 ラグナード迷宮の入口に戻ると、中学生になるかならないかくらいの金髪少女に出逢う。身に纏うのは、如何にもな白いローブ。

 

「君は……確か、次の対戦相手と一緒に居た?」

 

「! お兄さん、ミリオと戦う人?」

 

「ああ、そうだが。こんな所で何をしてるんだ?」

 

「ミリオを待ってるの」

 

「成程、ミリオはラグナード迷宮内って訳か」

 

 まだ暗くなるには早い、ミリオは修業でもしているのか、出てきてない様だ。

 

「僕は帰るけど、君は……えっと、名前は何だっけ」

 

「クレリアだよ」

 

「そっか、クレリアはどうするんだ? 戻るんなら、街まで送るけど……」

 

「クレリアはミリオを待つから良いよ」

 

「そうか、判った」

 

 ユートはその侭、クレリアと別れてラグナード迷宮から離れると街に戻った。

 

 宿の部屋に帰ってから、すぐユーキに話をしカラーについて訊いてみる。

 

 どうやら、カラーという種族は闘神都市Ⅲにも登場をしていたらしく、ユーキもその名前を知っていた。

 

 概ねはクライアから聞いた話と同じだが、一つだけ彼女から聞いていなかった事柄がある。

 

 それはカラーの額の宝石の色について。

 

 カラーの額の宝石は赤いと処女、男性経験を持ったカラーの場合は青く輝くのだと云う。しかもその青は性交の回数などでより深く美しく輝きを増し、高値で売れるのだとか。

 

 それ故に、カラーが捕まった場合は宝石の価値を上げる為、必ず犯される。

 

 カラーには女性しか居ないし、人間と比べても比類無き美貌を持つのも原因の一つらしいが……

 

 ユーキもよくは知らないらしいが、何らかの条件を満たすと宝石の色が処女と非処女に関係無く色が一定に保たれるらしい。

 

 クライアが曰く、カラーという種族は次の生で天使か悪魔に成るとか。

 

 出来たら天使に成りたいというのが、クライアの望みだと聞いている。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌日、ラグナード迷宮に入ると赤毛で白銀の鎧を身に纏い、大きな盾と剣を持つ少年と、栗毛の軽装鎧の青年が二人で迷宮に居た。

 

「君らは確か、ミリオと……姦(かしま)しい?」

 

「はい、そうです」

 

「姦しいじゃない! 俺はカシマ・シードだよ!」

 

 頷く赤毛の少年ミリオ、そして憮然とするシード。

 

「一文字足りなかったか」

 

 そういう問題ではない。

 

「で、二人して修業か?」

 

「いえ、実は第二層に盗賊の砦が有ると判明しましたので、彼を囮役にして砦を落とそうかと」

 

 ミリオが答えると、憮然としたシードが言う。

 

「ちょ、何で彼には普通に教えるんだよ? 俺の時はクレリアが口を滑らさなけりゃ、教えてくれなかったってのに!」

 

「いえ、何と無く只者ではないオーラを感じまして、お教えしても問題は無いかと思いましたので……」

 

 つまり、シードは只者なオーラが漂っているという事なのだろう。

 

「お、俺って……」

 

 それを覚ってガックリと項垂れてしまった。

 

「盗賊……ね。僕も一緒に着いて行こう」

 

「構いませんよ。貴方なら主力になれそうだ」

 

 軽くシードがディスられてるがユートは勿論の事、ミリオも一切気にしない。

 

「んじゃ、準備するか」

 

 ブレイバックルに、カテゴリーA代わりのカードを装填すると、シャッフルラップが展開されて腰に装着されていく。

 

 待機音が鳴り響く中……

 

「変身!」

 

 掛け声を上げて、ターンアップハンドルを引く。

 

《TURN UP!》

 

 電子音声が響くと共に、スワティを象る紋様が描かれたオリハルコンエレメントが前面に顕れ、ユートがそれを走り抜けた。

 

 スワティが平素から纏う神様モードな衣装に近い、それでいて普通の金属鎧より遥かに優れた防具を装備して、ブレイラウザーを腰に佩いた姿へと変わる。

 

 仮面ライダーモードではブレイドに近い姿の聖魔獣を纏うが、此方では単純にオリハルコン・スレッドの衣装となっていた。

 

 某・黒の王子様っぽく、バイザーを顔に着けているからか、少し怖い。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「そうですね」

 

 

「ああ!」

 

 『変身』を呆然と見ていた二人だったが、ユートに出発を促されて我に返り、三人は盗賊の砦へと向けて駆け出した。

 

「此処の盗賊達は闘神都市の官憲が、ラグナード迷宮内に手を出さない事を知っているのです」

 

「成程ね、だからいい気になって暴れてる訳か」

 

「はい」

 

 暫く駆け往くと砦らしき建物が見えてくる。

 

「あれか!?」

 

「間違いありませんね」

 

 ユートの質問にミリオが答えると……

 

「さあ、撒き餌のシードさんは派手に暴れて下さい」

 

 撒き餌(シード)へと指示を出した。

 

「どうせ俺は撒き餌だよ、コンチクショー!」

 

 シードの絶叫を他所に、堂々と橋を渡って砦へと突っ込む三人。

 

「侵入者だぁぁああっ!」

 

 当然ながらあっという間に見付かって戦闘になり、ユートは腰に佩くブレイラウザーを抜剣し、ミリオとシードも各々が剣を抜いて敵に斬り付けた。

 

 砦の奥からワラワラと、まるでGの如く涌く。

 

《SWALLOW TURN!》

 

 ラルカットのカードを、ブレイラウザーのスラッシュリーダーに通すと、電子音声が鳴り響いて刃に青い光が灯る。

 

「ウェェイッ!」

 

 瞬間的に二発の剣戟を放って盗賊を斬った。

 

「最速で最短で真っ直ぐに一直線に! 盗賊(クズ)の親玉を叩き潰す!」

 

「親玉……猛大人ですね」

 

 ユートが情け容赦無く、盗賊共を斬り殺しながら叫ぶと、ミリオが盗賊の頭目をしている者の名前を教えてくれる。

 

 更に奥に進むと、十数人もの盗賊が一気に身体的にまだ幼いミリオへ、畳み込む様に襲い掛かって来た。

 

「死ねっ!」

 

「チッ!」

 

 傷付くミリオは舌打ちをしつつ、襲い来る盗賊共を斬り伏せていく。

 

「ミリオ!」

 

《SIXTY FOUR KICK!》

 

 【やもりん】の女の子モンスターカードをスラッシュリーダーに読み込むと、伝説の足技とも謳われていた六十四文キックを放つ。

 

「ギャァァァッ!」

 

「グワァァァアアッ!?」

 

 文字通り蹴散らされていく盗賊を尻目に、ミリオの許へと向かうユート。

 

 膝を付いたミリオであったが、難しい表情をしたかと思えば瞬時にダメージが光と共に癒えた。

 

「な、にぃ!?」

 

 間こそ空いたが、まるで悪魔であるフェニックス家の者の如く回復力。

 

「おや、どうしました?」

 

「その回復力は……」

 

「これこそが勇者の力というものですよ」

 

 勇者の力で済ます辺り、どうやらこの瞬間回復こそ勇者の証の様だ。

 

「問題が無いなら良いよ」

 

「はい、問題ありません。シードさんは撒き餌の役目を充分に果たしてくれていますし、僕達は一気に猛大人の所へいきましょう!」

 

「了解だ!」

 

 言葉の通り、盗賊を薙ぎ斃しながらも奥へと進んだミリオは……

 

「猛大人! 居るのは判っている! 出てこい!」

 

 更に奥の方へ叫ぶ。

 

「まったく、さっきから煩いアルね〜」

 

 ミリオの呼び掛けに応えるかの如く、スキンヘッドな強面で醜いまでに筋肉が盛り上がった男が、似非中国人っぽい口調で文句を言いてつ、気だるそうな雰囲気で出てきた。

 

 そんな猛大人を見て顔を顰めるユート。

 

 別に猛大人の醜さに対してではなく、のっしのっしと歩いている猛大人の腰の辺りに嫌悪感を催したからに他ならない。

 

 何も身に着けてない裸の少女……と呼べる年齢の娘が股間から汚い液体を垂れ流し、何処を視ているのか解らない虚ろなハイライトの消えた瞳で、口から涎を垂らしながら猛大人に向き合った状態でくっ付いていたからだ。

 

 今はもう見る影も無いのだが、顔の作りから可成りの美少女だった。

 

 少し幼めな顔立ちだが、長い黒髪と揉み上げに黒い瞳は日本人っぽい。恐らくJAPANの人間だろう。

 

 髪の毛は乱れていて判り難いが、癖の付き方からして普段はツインテールに結わい付けているのだろうと判断が出来た。

 

 最早、会話も叶わないだろうこの少女──戦国ランスという作品に登場している織田家の香姫。

 

 つまり、本来なら此処に居る筈が無い少女である。

 

「ふん、また餓鬼アルか。一ヶ月前にもこの娘と一緒に餓鬼が来たアルが、カラーに手を出す奴は許さんとか何とか言っていたアル。弱すぎて話にもならなかったけどネ」

 

「(転生者……か)」

 

 だとしたら、少女は転生特典(ギフト)として転生者に与えられた存在。

 

 そして、狙いはクライアだったのだろうが、二人で砦へと突入をして猛大人に殺されたのだろう、その後に少女は捕まって猛大人の慰みものに……

 

「うん? もう死んだアルか? つまらんアルね」

 

 猛大人は、自らのモノに貫かれていた少女を引き抜くと、まるでゴミでも捨てるかの如く投げた。

 

 本当に少女は死んでいるのだろう、呻き声の一つも洩らさず壁に叩き付けられてピクリとも動かない。

 

 少女が居なくなった事により、猛大人の醜い分身が露わとなる。

 

「ふむ、私の可愛い部下達を無惨な姿にしてくれたのはお前達アルか!?」

 

「それがどうした?」

 

「許さんアルよ! まあ、お前達みたいな餓鬼に殺される様な弱者は、私の部下じゃないアル。我が祖先が四千年の時を掛けて成熟させた究極の拳法、見るアルヨ! 覚悟するヨロシ!」

 

 構える猛大人。

 

「ユートさんは周りの連中を片付け下さい。猛大人は僕が斃します!」

 

「……判った」

 

 ミリオと猛大人の戦闘が開始される。

 

 とはいえ、ユートが部下らしき盗賊を片付けている間に猛大人は悲鳴を上げ、ミリオは膝を付く猛大人を見下ろしていた。

 

「ふん、お前はこの程度か猛大人!」

 

「も、もう悪い事はしないアル! 此処から出ていくから許して欲しいアル!」

 

「心を入れ替えて、もうわるさはしないと誓うか?」

 

「し、しないアル! 誓うアル!」

 

「ならば、其処のお前に殺された少女に詫びろ!」

 

 ミリオは無惨な姿を晒す少女の遺体を指差し、謝罪を要求する。

 

「ご、ごめんなさいアル。私が悪かったヨ!」

 

 ペコペコと少女の遺体へ土下座までする猛大人。

 

「もしまた、何処かで悪さをしているという話を聞いたらすぐに飛んでいくからな! それともう一つ……お前が盗み出した【勇者の証】を渡して貰おう」

 

「こ、これアルね! どうぞ御持ち下さい勇者様」

 

 【勇者の証】とやらを受け取ったミリオは、それの真贋を確認する。

 

「確かに本物だな。よし、もう行け!」

 

「ひぃぃぃっ!?」

 

 部下を引き連れて脱兎の如く逃げ出す猛大人だが、ユートはミリオの判断に対して目を見開く。

 

「おい、ミリオ! 何を逃がしてるんだ!?」

 

「無益な殺生は控えるべきでしょう」

 

「あの子を見て、そんな事を言えるのか!」

 

「彼女は可哀想ですけど、だからと言って私達までが猛大人みたいに殺しをする必要はありません」

 

「あの手の奴はまた繰り返すぞ!」

 

「その時は、また叩き潰すまでですよ」

 

「その時にはまた、余計な犠牲者が出ているって事を理解してるのか!?」

 

「……」

 

 また猛大人が悪さをするという事は、即ちその悪さの犠牲者が出ると云う事。

 

「ミリオ、それは優しさでも甘さでもないよ。単なる弱さだ……」

 

 ユートみたいに殺せば良いという訳でもなかろう、だけど少女に対する猛大人を見る限り、腐り切っているのは間違いない。

 

 見逃せば必ず再び悪徳を行うだろう。

 

 それに、盗賊を率いている頭目にしてはアッサリと終わり過ぎていた。

 

 とはいえど、この討伐を主導したのはミリオだ。

 

 そのミリオが見逃したのであれば、よもやユートが勝手に殺しに行く訳にもいかなかった。

 

 下手をすればミリオとの対立は避けられない。

 

 だからこそ、ユートは言いたい事を言い少女の遺体に近付くと、抱えて砦の外へと出るのであった。

 

 少女を弔う為にも。

 

 

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