闘神都市RPG【魔を滅する転生闘】   作:月乃杜

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第6話:転身! 白龍皇ユート

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「兄貴、たっだいま〜!」

 

 元気一杯、御機嫌満開の表情で宿屋の部屋に入って来たユーキが見たモノは、ユートとベッドインをするスワティの姿であった。

 

「……何をしてんのさ? 寧ろナニをしてたのかな? それとももう事後?」

 

 ジト目になってスワティに詰問をすると……

 

「きゃるん! ち、違うんですよ、ユーキさ〜ん! あのですね、ちょっと寝顔を見てみようかなって思って近付いたら、行き成り」

 

「引き込まれたんだろ?」

 

「って、判ってるんじゃないですか〜!」

 

「そりゃね。ボクはこれでも何年も兄貴に付き合ってるんだからさ。趣味も性癖も癖も全部知ってるよ」

 

「きゃる〜ん……」

 

 ユーキは相対的に百年を越える付き合い、それ故に全てを理解出来ていた。

 

 例えば……

 

「兄貴ってさ、寝ている時に女の子が近付くと寝床に抱き込んじゃうんだ」

 

「女の子限定でって、いったいどんな癖ですか!?」

 

 男に抱き付く趣味は無いからか、男が近付いても特に抱き込みはしない様だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 目を覚ましたユートは、ユーキとスワティを連れて酒場へと向かう。

 

「いらっしゃいませ」

 

 ウエイトレスのさやかに迎えられ、席に着いた三人は思い思いに注文をした。

 

 ユートは序でにワインを頼んだ。

 

 別にビールでも何でも良かったのだが、ハルケギニア時代から飲み慣れているのがワインだっただけ。

 

 どの道、アルコールなど身体の内側で勝手に浄化されてしまうし、アルコール度数より味で決めた。

 

 食事を終えた三人は話を始める。

 

「転生者を斃した?」

 

「うん。これ、兄貴にお土産ね」

 

 白い光の玉……ユートはそれを視て何なのかすぐに気が付いた。

 

「それ、【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】……か?」

 

「正〜解〜、流石は兄貴。【叡智の瞳(ウイズダム・アイ)】は健在だね」

 

 ユートの目は転生特典(ギフト)によって、魔力の流れなどを視たり赤外線視や暗視、動体視力の向上といった機能を持っていた訳だが、探知(ディテクト・マジック)を常に目に集中をしていた事で、魔眼と呼べるレベルに進化をする。

 

 故に、ユートは見た目に単なる光の玉でしかなかった神器(セイクリッド・ギア)を、簡単に判別してしまったのだ。

 

「どうしたんだそれ?」

 

「斃した転生者の転生特典(ギフト)だってさ。コスト八だとか言ってたよ」

 

「コスト八ね。アガサ・カグヤが言うには、転生者の転生特典(ギフト)はコスト制だって話だったな」

 

「うん。コストは全部で十有って、そのコスト内でなら好きに選べるからねぇ。アリスソフトからパートナーを選べば一、それ以外なら全て使う……」

 

「んで? パートナーは居なかったのか? 【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】のコスト八だってんなら、まだ二も残っている筈だろう?」

 

 それを聞いたユーキは、呆れた表情となった。

 

「ニコポに使ったらしい」

 

「ハァ? あの地雷スキルのニコポをか?」

 

「うん、ニコポが丁度二だったんだって」

 

「成程、パートナーは選ばずに能力だけを獲た訳か。アホだろ、そいつ。選りに選ってそれを選ぶか」

 

 折角のコストを使えないスキルに変えたのだから。

 

「然し、ニコポって名前で入っていたのか。あれって二次のスラングだろうに」

 

「だよねぇ」

 

 苦笑いのユーキ。

 

 誰が始めたのかは知らないし、所謂処の御都合的な笑顔でポッやら撫でてポッとなっているのをそんな風に呼ぶ様になっただけで、スキルなどではなかったのではないか?

 

 始まりを知らないユートはそう考えている。

 

 何故か完全にスキルとして扱われている辺り、これらを用意したのが這い寄る混沌だと解った。

 

「まあ、ニコポは封印しておいたし、【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】はこの通りだ。無害だから放逐したけど、良かったよね?」

 

「別に構わない。対処に関しては一任されているし、文句は言われまい」

 

 ユートなら有無を言わさずに殺すだろうが、ユーキは流石に問答無用とする程に情け容赦無くはない。

 

 だからといって、ユーキのした事をどうこう言う程にユートも血に餓えている訳ではなく、平然と笑っていた。

 

「それで? 創造神の戯れの所為で小宇宙(コスモ)の禁止令が出てる訳だが、どうやって曲がりなりにも白龍皇を斃したんだ?」

 

「勿論、これさ」

 

 ユーキが亜空間ポケットから取り出したのモノは、カリスラウザーとハートスートのカテゴリーA。

 

 【チェンジマンティス】のプライムベスタ。

 

「そうか、早速使ったって訳か。どうだった?」

 

「中々に良かったよ」

 

 ユーキの身体能力は小宇宙を使わなければ大した事はなく、精々が【ハイスクールD×D】的に云うなら中級悪魔にも及ばない。

 

 小宇宙を使えば身体能力だけで、最上級悪魔とさえも張り合えるが……

 

 そんな訳で仮面ライダーのシステムは割と理想的であり、使ってみて楽しかったのも確かだ。

 

 昔は割かし憧れたものだったし、本当に『変身』が可能となったのは嬉しい。

 

「あ、あの!」

 

「どうした? スワティ」

 

「私もやってみたいです」

 

「「は?」」

 

 スワティのとんでも発言に二人はハモり、目を点にしたものだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「これが仮面ライダーレンゲルに変身する為のツール……レンゲルバックルだ」

 

「きゃるん! どうやって使うんですか?」

 

 まるで新しい玩具を与えられた子供の如く燥ぐ。

 

「この【チェンジスパイダー】をラウズトレイに装填する。そしてポーズを執って──ポーズ自体は不要──変身! と叫ぶ」

 

「ポーズを執って叫ぶ?」

 

 無論必要は無いのだが、要は様式美である。

 

 ラウズトレイにカテゴリーAを装填、腰へ据えるとバックルからシャッフルラップが伸びて装着された。

 

 スワティは教えられた通りにポーズを執る。

 

 原作で上城睦月がやっていた、左手を顔の前に持っていって掌は内側へ、右手で左肘を持つポーズを。

 

「きゃるん、変身!」

 

 叫びつつ右手でバックルのミスリルゲートを開く。

 

《OPEN UP!》

 

 電子音声が響き渡ると、スピリチアエレメントが顕れて、それがスワティの方へ徐々に近付いてくる。

 

 それをスワティが潜るとボトルグリーンを基調に、紫色のジェネラルスコープを持つ蜘蛛をモチーフにしたレンゲルクロスを纏った姿──仮面ライダーレンゲルとなっていた。

 

 とはいえ、これは謂わば仮面ライダーレンゲルの姿をした聖魔獣なのだが……

 

 原作では最強だと吹き、スペックは確かに強力だった仮面ライダーレンゲル。

 

 四人の中でも唯一、強化フォームが出なかった。

 

 だが、当然ながらユートとユーキはレンゲルに強化フォームを設定している。

 

 とはいえ、ラウズアブゾーバは未だに未完成な為、まだジャックフォームにもキングフォームにも成る事は出来ない。

 

 レンゲルへと変身をしたスワティは、醒杖レンゲルラウザーをブンブンと振り回している。

 

「処で、何でまた仮面ライダーに成りたいなんて?」

 

「きゃるん! 何だか二人が愉しそうだったから」

 

 ユーキの質問にスワティが答える。それは真っ当というべきか、ちょっとズレているというべきか。

 

「ま、まぁ……ボクも兄貴も好きだからねぇ。本当に仮面ライダーに成れるなら『変身』とか愉しいよ」

 

「好きこそモノの上手なれってね。やりたい事とやるべき事が一致する時、世界の声が聞こえるってな?」

 

 今までは仮面ライダーをどうこうする機会に恵まれなかったが、今回の事件は良い機会だった訳だ。

 

「これで兄貴のブレイブのスペード、ボクのハート、スワティのクローバーという三つのスートの仮面ライダーが揃ったね」

 

 ブレイブはブレイド枠、仮面ライダーモードの姿はシルエット的にブレイドに近いものがある。

 

「えっと、トランプには確かダイヤもありますね」

 

「そうだよ。ダイヤスートはダディな訳だけど……」

 

 ユーキは首を捻って目を閉じると腕を組む。

 

「この場には三人だから、どうしたってダディの仮面ライダーギャレンに成れる人が居ない」

 

「にしても、本来の原作はギャレンがライダーシステム第一号だった筈なのに、最後まで残ったな」

 

「だねぇ。まあ本当の意味ではライダーシステム自体がジョーカーの模倣だし、第〇号ともいえるのがこのカリスラウザーだけどね」

 

 ベルトの状態ではない、ラウザーユニットを手にしながら言うユーキ。

 

「あ、そうだ。ねえ兄貴、キングフォームに修正を入れたいんだけど」

 

「修正?」

 

「うん、キングフォームは【プリンセス】を使う予定だったろ? プリンセスはジャックフォームにして、キングフォームは【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】の力を引き出す形にしたいんだよ。という訳で、兄貴は神器を宿してからカードを創ってくれる?」

 

「キングフォームって……カテゴリーKとの融合って意味でか?」

 

「そうだよ。兄貴が言っていた通り、原作ブレイドのキングフォームはスートを一つの王国へと見立てて、それらを支配する存在という意味で、キングダムフォームって呼称するから」

 

 仮面ライダーブレイドのキングフォームは、烏丸 啓所長が当初に想定をしていたモノとは違う。

 

 本来はカテゴリーKとだけ融合する筈だったのが、剣崎一真は余りの適合係数の高さで、全てのスペードスートのアンデットと融合を果たしていた。

 

 仮面ライダーカリスのワイルドフォームと同様に。

 

 それ故、厳密な意味ではブレイドのアレはキングフォームではない。

 

 ユートはそれを王を頂点とした王国──キングダムフォームと呼んだ。

 

「ジャックフォームに使う筈だった【イフリート】はこの際、放っておこうか。んで、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)をキングダムフォームにしよう!」

 

 【プリンセス】【イフリート】【ハーミット】【ナイトメア】など、ちょっと特殊なカードは在ったが、ユーキとしては折角手に入れた力だったからこれを使いたいと考えたのだ。

 

「待て、こいつは覇龍って使えるのか?」

 

「どういう意味さ?」

 

「覇龍は元々、怨念が呪詛となって発動していた小型の二天龍に変じる術だろ。これにはそれが感じられないんだが?」

 

「ハァー? 怨念が感じられないってどういう……」

 

「ひょっとしたらだけど、この【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】は神器に封じられたばかりの頃、誰にも宿っていない時の物じゃないか?」

 

「ああ、成程……ねぇ」

 

 神器(セイクリッド・ギア)として封じられたのは三大勢力の大戦中、喧嘩をしながら乱入した事によって手を組んだ三大勢力が、寄って集ってボコった挙げ句に聖書の神が二天龍を引き裂いて魂を神器にしたという訳だが、怨念というのは歴代の白龍皇の持ち主の残留思念だ。

 

 まだ誰にも宿っていないというなら、怨念など存在しよう筈もなかった。

 

 また、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)も怨念によって引き出された力だと云うし、怨念が無いのなら果たして? という事なのであろう。

 

「怨念が引き出していたのは事実だけどさ、何らかの刺激を与えれば可能じゃないかな? 怨念が刺激になっていたから呪われた覇龍なんて云われただけだよ。漏れ無く暴走するしねぇ」

 

「そんなもんか。それなら何とかなるかもな」

 

 話に付いていけなかったスワティを置いてきぼりにして、ユートとユーキは話を進めていく。

 

「そういえば、一誠も変な加護でおかしなジャガーノートになったな」

 

「ふん、あんな変態帝なんてどうでも良いよ」

 

 たった一度だけ、ピンチになった一誠が異世界の神とやらの加護で、おかしな呪文を唱えておかしな覇龍と化していた。

 

 まあ、名前は覇龍と少し──平仮名的に一文字だけ──違っていたが……

 

 修学旅行の最中であったが故に、ユーキが見る機会はなかったのだが、聞いた処によると余りにも余りな能力だったと云う。

 

 その後、ユートによって調整をされて普通の能力に均された。

 

 何しろ、龍の帝王が精神崩壊寸前にまで追い込まれてしまったのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 何も無い空間。

 

 風の流れも水のせせらぎも土の薫りも火の温もりも無い、そんな上下左右の別すら付かない真っ白な空間だったが、ユートは此処と似た場所を知っている。

 

 まだユートが一番最初の緒方優斗だった頃、謂わばテンプレ的に──というのもアレだが、シーナを救うべく動いてトラックに諸共に轢かれて死んだ。

 

 その際、【純白の天魔王】に引き込まれた空間……それがこの場所と似た空間だったと思う。

 

 だが然し、此処と彼処はまた異なる場所だ。

 

 今、ユートが居る空間はユートが自らの意志で入った場所であり、そして……

 

『貴様は何者だ?』

 

 この場に居るのはユートだけではなかった。

 

 真っ白な巨大生命体が、ドン! と鎮座している。

 

「やあ、初めましてだね。白き龍の皇アルビオン」

 

『私を知っているのか?』

 

「ああ、知っている。君は自分の状態、状況を理解はしているのかな?」

 

『ふん、忌々しき聖書の神や魔王共に斃され、彼奴との決着を着ける事も叶わずにバラバラに引き裂かれ、神器(セイクリッド・ギア)というモノに封じられた。理解(わか)っているさ』

 

 本当に忌々しそうな声色で言うアルビオン。

 

「理解してるなら重畳だ。僕は今回、君を封じた神器──【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】の所持者(ユーザー)となった緒方優斗だ」

 

『ほう? 私の力を得て運が良いのか、それとも私と赤いの……ドライグとの戦いに巻き込まれて運が悪いのか、どちらにせよ平穏にはいかぬぞ?』

 

「心配は要らない。どの道平穏なんて僕には無いさ。それに僕は所有者って訳じゃなく、本来の持ち主から引き抜いて自ら宿したんだからね」

 

『それは物好きな事だ』

 

 神器所有者は死ねば変わるのだから、アルビオンにとって目覚める前の所有者に思い入れもなかったし、ユートが後天的な所持者であろうと気にしない。

 

『それで? 貴様は此処まで来て何をしたい?』

 

「何を……っていうかね、アルビオンに残念な御知らせがあります」

 

『残念? 何がだ?』

 

「君は赤白の決着を着ける事は出来ませ〜ん!」

 

『な、んだと?』

 

衝撃を受けるアルビオンを他所に、ユートは受け容れ難いであろう現実を話す為に口を開く。

 

「先ず、この世界はそもそも君が居た世界──地球でも冥界でも、況してや天界でもない全くの異世界だ」

 

『全くの異世界……』

 

「つまり、赤き龍の帝王たるドライグが居ない世界。勿論、君を知る僕は地球の出身という訳だし、地球に帰る事も可能なんだけど、その地球だって平行異世界というものでね、聖書の神が実在──するかも知れないが──しない世界だし、神器システムも存在していない。ドライグも居ない」

 

『む、うう……ならば私やドライグを知るのは何故なんだ? 全くの異世界だというなら私達を知っている筈があるまい?』

 

「僕は異界門(ゲート)を通じて、平行異世界間移動が可能なんだ。其処で赤龍帝のドライグを宿す人間にも会っているんだよ」

 

『それならば!』

 

 身を乗り出すアルビオンに更なる現実を……

 

「白龍皇を宿す人間と悪魔のハーフにも……ね」

 

『はい?』

 

 突き付けたのである。

 

『ど、ど、どういう意味なのだ!?』

 

「白龍皇ヴァーリ・ルシファー。赤龍帝の兵藤一誠。この二人は確かに赤と白のライバルだな。尤も、最初は笑ってしまうくらい弱かった赤龍帝だが……」

 

『ルシファーだと?』

 

「君達を斃した四大魔王の一角、ルシファーの曾孫。母親が人間だったから君を──同位体のアルビオンを宿して生まれた、あの世界で歴代最強の白龍皇だよ」

 

『私を宿した……同位体……? それはいったい?』

 

 アルビオン茫然自失となりながら呟き、一通りの事をユートは教えておく。

 

 アルビオンはドライグに比べて脳筋ではなく──それでも力と力をぶつけていたから脳筋な部分も在り──それが故に理解をした。

 

『は、はは……私の知ってるドライグじゃないな……乳龍帝だと? おっぱいドラゴン? しかも、しかも私が、この白龍皇と呼ばれた私が……尻龍皇だとは……な。あはは、あはははははははははははは!』

 

 お陰で若干壊れる。

 

 二十分くらいが経ったであろうか、漸く還ってきたアルビオン。

 

『それで、赤いのとの決着も着けられぬ私はどうすれば良い? 此処に来たのは用が有ったのだろう?』

 

「なに……折角、君の所有者となったんだ。挨拶をしておきたかったのもある。それと力の使い方に関して話し合いたいんだ」

 

『力の使い方?』

 

「普通の使い方もするだろうけど、基本的にちょっと変わった使い方になるね」

 

 ユートは説明をした。

 

 カードを使って姿を変えた後、必要に応じて強化形態となる事を。

 

 その強化形態こそ【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】の禁手(バランス・ブレイカー)となる【白龍皇の鎧(ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル)】だ。

 

 但し、シルエット的には多少の変化はあるかも知れないのだが……

 

『まあ、今の私は神器(セイクリッド・ギア)に過ぎない身だからな。龍の力を篤と使うが良いさ』

 

「ああ、宜しくな。白龍皇アルビオン」

 

『宜しく頼むぞ、真の意味で我が最初の担い手よ』

 

 これが白龍皇アルビオンとのファーストコンタクトとなり、キングフォームの形が決まった瞬間だった。

 

 

.『処で、緒方優斗よ』

 

「ユートで構わないけど? 何かな、アルビオン」

 

『ふむ、ではユートよ……一つ訊きたい事がある』

 

「それは?」

 

 アルビオンは一拍を置いて口を開いた。

 

『うむ……何と言うかな、嫌な気配が漂うのは何故なんだろうな?』

 

 本当に嫌なのだろうか、人間ならば汗をびっしょりと掻いている処だ。

 

「嫌な……気配? 例えばどんな?」

 

『ああ、龍殺し(ドラゴンスレイヤー)でも突き付けられたみたいな……」

 

「ドラゴンスレイヤー? ああ! そりゃそうだよ」

 

『やはり心当たりでもあるのか?』

 

「僕の中には、神やそれに近しい存在達から簒奪した権能が在るんだ」

 

『神やそれに近しい存在というと、天使や悪魔みたいな存在か?』

 

「そう。その中にアルビオンの同位体が存在する世界で手にした権能も在って、聖書の神から呪われた者──【神の毒】を喰らったら手に入った権能だろう」

 

『なっ!? 【神の毒】とはまさか……っ!』

 

 アルビオンも一応は噂くらい知っていた。

 

 アダムとイヴに干渉し、知恵の実を食わせた罪業により【神の悪意】を一心に集めた堕天使で、時としてルシファーと同一視される事もあるが、あの世界でのルシファーは四大魔王の一角であるが故に、サマエル自身が【赤き蛇】として、聖書の神より呪われる。

 

 本来、潔癖で悪意を持たない筈の【神の悪意】は、相当の毒となってサマエルを蝕んだ。

 

 それ故、サマエルは存在そのものが龍殺しとなり、【禍の団(カオス・ブリゲード)】から【龍喰者(ドラゴン・イーター)】というコードネームを与えられ、利用された訳だが……

 

『全ての食材(・・)に感謝を込めて、戴きます!』

 

 ユートにとって、龍や蛇という属性は単なる食事でしかなかったと云う。

 

 何しろ、地母神の本性に立ち返ったアーシェラを、ユートは食欲的な意味合いで喰らったくらいだ。

 

『とんでもない事をするものだ。だがどうした事か、嫌な気配だけではなく安らぐ雰囲気もあり、居心地は好いのだ』

 

「そりゃ、喰らっているのは龍喰者(ドラゴン・イーター)サマエルだけじゃあないからね。他にも別世界でリヴァイアサンと化したアーシェラという神祖とか喰ったし……」

 

『……なあ、実は私も喰われてないよな?』

 

「肉体が有れば少しくらい……タンニーンやティアマットみたいに尻尾くらいは食べてみたいかも」

 

 アルビオンはダラダラと冷や汗を流す。

 

魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)タンニーンと天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)ティアマットをか?』

 

「悪魔が混じっていたからなのか、タンニーンはちょっと不味かった。ティアマットは中々に美味」

 

『実はお前が龍喰者(ドラゴン・イーター)か!?』

 

 真なる意味で龍や蛇を喰らう者であるが故に。

 

 アルビオンは盛大にツッコんだものだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 現実空間に戻ってきてからユートは早速、【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】を試す。

 

「取り敢えず、神器(セイクリッド・ギア)としての発動だ。【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】!」

 

 気合いを込めて名を叫ぶと背中に顕現する蒼い光の翼は、確かにヴァーリが使っていた【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】と同じモノ。

 

「ユーキ……ちょい〜っとゴメンな?」

 

「ちょっ?」

 

 ユートがユーキの肩に触れると……

 

《Divid!》

 

 神器を発動させた。

 

「くっ、力が抜けて……」

 

 神器の能力によって力を半減させられたのだ。

 

「兄貴〜、何するのさ?」

 

「いや、だってな。この場で半減が効くのはユーキだけだろう? 神氣を持ったスワティには効き難いだろうからね」

 

「むう……」

 

 膨れっ面なユーキ。

 

「それじゃ、次に往こう。禁手化(バランス・ブレイク)ッッ!」

 

 カッ! と輝きが部屋を覆い尽くす。

 

 龍のオーラが真白の鎧に変換され、ユートの肉体を鎧っていった。

 

禁手((バランス・ブレイカー)……【|白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》】」

 

「あっという間に至るとか……変態帝は涙目だねぇ」

 

 世界の流れを変える程の劇的な心情の変化、それが禁手(バランス・ブレイカー)へと至るコツ。

 

 コツさえ掴んでいれば、力の流動というのを知っているユートが禁手(バランス・ブレイカー)に至るのは如何にも容易い。

 

「うん、僕的には【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】より好みだな」

 

 後にはISに偽装をして使う事になるこの鎧だが、取り敢えずは仮面ライダーの強化フォームとして使う事となる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 昨夜、色々と試して充実した時間を過ごしたユートだったが、スワティとしては少しホッとしたような、残念なような複雑な気分であったろう。

 

 ベッドは二つ、スワティが一人で使っているから、必然的にユートとユーキが共に寝ている。

 

 そして出逢ってから数日でしかないが、毎夜毎夜の情事に思う処があった。

 

 ベッドの軋みやシーツや布団の衣擦れ、更にはナニかを打ち付ける音に水音、そして声を抑えている心算だろうが、間違いなく聞こえてくるユーキの嬌声。

 

 事後に漂う男と女の匂いもあり、眠れない夜を過ごして昼間に寝ていた。

 

 そんな中で初めて情事が無い夜だ。

 

 安堵した反面、物足りなさを感じたのだと云う。

 

 

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