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ユーキと合流をしたら、何だか呆れられた。
「ちょっと離れている間に女の子をナンパとか、流石は兄貴だねぇ」
「人聞きの悪い事を言うなよな……」
頭を抱えるユート。
「ジョークだよ。えっと、スワティだっけ?」
「は、はい!」
「君の仕事って、良縁を繋ぐ事でオッケー?」
「そうです。私は弁財天のサラスワティで、七福神の一柱になります。耕平さんの最後の縁を繋ごうとしたら行き成り此処に……」
「耕平……? ああ、要するに主人公かな?」
ユーキも流石に知らないらしく、少しばかり首を傾げてしまうが、スワティがヒロインなら恐らく耕平というのは主人公なのだろうと当たりを付ける。
スワティが曰く、北極紫微大帝──北極星を神格化した存在──の七つの星を勝手に使って河村耕平の縁を繋いだらそれを叱責されてしまい、期間内に星を返せなかった場合はスワティが北極紫微大帝の花嫁となる命令を受けた。
然し、七人の女性との縁を成就した筈が還った星は六つだけ。つまり、七人の内の一人は星と無関係に縁が繋がった女性である事が判明してしまう。
結局、最後の星は見付けられなかった為、スワティは北極紫微大帝の花嫁となるべく天界に帰る事に……
最後に耕平と縁を成就した女性から一人だけ、真の意味で縁を繋ぐ事となる。
そして耕平が相手を決めて口にしようとした瞬間、あの名も知らない転生者の前に顕れ、そして興奮したソイツは行き成り襲い掛かってきた。
だから逃げ出したのだ。
「きゃる〜ん、耕平さんはどうなったんだろ?」
肩を落としている辺り、神であるにも拘わらず耕平とやらに好意を示していたらしい。
「ところで、その星と云うのは縁が繋がった女性に入り込むんだよな?」
「うん、そうですよ」
「……くっく」
「?」
突然、笑い出すユートを見て小首を傾げるスワティだったが……
「アハハハハハ!」
何故か大爆笑された。
「な、な、何なんですか? 私、何かおかしな事でも言いましたか? きゃるーん! 笑われる理由くらい言って欲しいです!」
「いや、だって……その星の一つは君の中に在るってのに、それに全く気付いてないんだからさ!」
「きゃる!? 私の中に? へ? どうしてぇ!?」
「さてね。だけど考えてみればおかしくは無いだろ? スワティは言っていた筈じゃないか。河村耕平とは三度に亘って縁があった……とね。それだけ強い縁があったなら星を宿していても何ら不思議は無い」
「……あ!」
神とはいえ、それだけの関わりがあればそれは立派な縁であろう。
それが良縁や順縁であれば尚佳し。仮令、逆縁であっても縁は縁だが……
「だけどその縁を強引に引き裂いて、スワティをこの世界に喚んだ訳だな」
「そ、そんなぁ……縁結びの女神である私の力を強引に引き裂くなんて!?」
「這い寄る混沌は高位神。普段は雑魚っぽく振る舞うから解り難いが、そもそも金色の女王と同位の神から直接的に産まれた、ヨグ=ソトホートの兄弟神だし。本来のサラスヴァティなら兎も角、七福神に習合されて限定的な存在となっているスワティじゃ、対抗なんて出来ないだろうね」
「どういう事さ?」
「ユーキ、七福神の弁財天は水と芸術の女神。だけど本来はインド神話体系に於いて、創造神ブラフマーの妻という立ち位置なんだ。創造神ブラフマー、調和神ヴィシュヌ、破壊神シヴァで
サラスヴァティは弁財天、ラクシュミーは吉祥天」
インド神話体系で最高神の妻だが、仏教に習合された時点でどう考えても神格が落とされている。
何しろ、破壊神シヴァと妻のパールヴァティなど、降三世明王に踏み付けられているくらいだ。
とはいっても、実は起源を辿るとゾロアスター教の女神アナーヒターと同じだとされる。
スワティがその最源流の旧き女神だったのならば、這い寄る混沌にも対抗が出来ただろうが、今の彼女は七福神の一柱でしかない。
謂わば、起源から薄まった分け御霊の一つだ。
ユートはこれでもカンピオーネ、ある程度は神話を諳じる事も出来る。
何しろ、敵は【まつろわぬ神】──それくらい出来ないと、とてもではないが相手をする事など出来はしないのだから。
説明を受けたユーキも、それに納得をする。
「それで、情報ってそれだけなの?」
「いや、この世界がナンバリング的に闘神都市Ⅱだって事が判った」
「ああ、それでか……」
「それで?」
「うん、実は羽純・フラメルを見付けたんだよ」
「ハァ? だって、羽純・フラメルってナンバリングは闘神都市Ⅲだろう?」
「うん、一緒に居た相手が踏み台だったんだよ」
「……踏み台」
その形容が全てを物語るというもの。
「イケメンで銀髪なオッドッアイか」
此処がプライオリティの高い世界なら、地雷な容姿でしかないだろうに。
「今時、そんな容姿を選ぶ莫迦が居たんだな」
ユートは呆然と呟いた。
何せイケメン銀髪オッドッアイなど、地雷も地雷な踏み台様御用達の
そういうのは
オッドッアイではなかったが、あの白龍皇ヴァーリみたいなタイプならハマり役かも知れないが……
「まぁ、実際に胡散臭い事この上なかったね。選んだんじゃなく、ランダムだったか或いは……這い寄る混沌がわざとやったか」
苦笑いを浮かべるユーキを見る辺り、その転生者はよっぽどだったのだろう。
「ナクト・ラグナードじゃなく、明らかに踏み台的な転生者顔の男と一緒だし、瞳にも生気はなかったしで【闘神都市Ⅲ】だとしたら変だとは思ったけど」
「恐らく、スワティと同じでパートナーとして選んだんだろうな。しかもスワティの状況を鑑みるに重要な場面で拉致られたと考えるのが妥当……かな?」
「重要な場面。例えば?」
「スワティは星を宿していたのに気づかなかった……若しかしたら河村耕平とやらはスワティを選んだかも知れないという場面だな。勿論、そうならなかったって可能性も有るんだけど。それで、ユーキ」
「何さ?」
「羽純・フラメルにとって重要なシーンってのは覚えているか?」
「さあ? けどスワティはちょっと特殊例だとして、大抵の女の子にとって重要な時、しかも取り上げられて絶望すら懐かせるシーンがあるとしたら、愛する人との初体験か結婚式とかじゃない?」
ユーキは右手人差し指を下唇に添え、ちょっとばかり考えながら思い付いた事を口にする。
「わ、私の時より状況悪いじゃないですか!」
「そうだね。若し、初体験でドキドキしながら肢体を開いて待っている処を召喚されたなら、スワティでさえ押し倒されたんだから、襲わない理由も無いな」
そんな状況なら逃げる事も侭ならず襲われ、泣きながら主人公──ナクト・ラグナードの名前を叫んで、敢えなく散らされたろう。
「ぶっちゃけ、本来の原作ニャル子ならやらないとは思うけど、完全に這い寄る混沌の
言外にそれくらい平然とやるだろうと、ユーキは頷きながら語った。
迂遠なれど、干渉をして自らが破滅へと向かう様に誘導するのが彼の邪神。
何を考えて、何を狙っているのかは相変わらず解らないが、少なくとも『世界に平和を』とかでは無い。
「私、これからどうしたらいいんでしょう……」
無理にこんな異世界に連れてこられ、未来への展望など微塵にも見えない為、スワティは不安そうな表情となる。
「う〜ん……同じ地球だとしても、どの平行世界なのかが判らないし、スワティを還すのは無理だよね?」
「……そうだな」
「う、そう……ですか……きゃる〜ん……」
目に見えて落ち込む。
平行世界は鏡合わせみたいに無限に列なる訳でもなかったが、それでもその数は一つの原典世界に対して無限マイナス一だという、窮めて無限に近い。
此処に居るスワティが居た世界が何処なのか、それを特定するなど不可能にも等しかった。
「あ! 星は惹き合うからそれを使えば?」
「それには星を取り出さなきゃダメだよ。ぶっちゃけると、君と強く縁が繋がった男と結ばれなきゃ取れないんでしょ?」
「はうっ! そうでした……きゃる〜ん」
ユーキの指摘を受けて、テンションが駄々下がりになった。どうやら、彼女の口癖はテンションに関わって出るらしい。
「まあ、彼処で兄貴にぶつかった事で繋がった縁……それをスワティが紡いでいったなら、いずれ兄貴に取り出して貰えるかもね?」
「──へ?」
星は縁を取り持つ切っ掛けで、その後に繋いだ縁を育んで絆へと変えたなら、最終的に結ばれて星は取り出される事となる。
所詮は星が在っての縁、故に星が喪われたらそれで切れてしまうが、スワティが河村耕平の縁を本物へと変える予定だった。
それは兎も角、ユートがスワティの星を取り出すと云うのは即ち、スワティがユートと結ばれるという事を意味している。
「きゃる〜ん!? わ、私とユートさんがですか?」
瞬間湯沸し器も斯くやで真っ赤になるスワティは、あたふたと慌てふためく。
「だ、だ、ダメですよ! 私には……あ……」
どの道、星が繋ぐ縁を辿れなければ還れないなら、星を身体の内より出さなければならず、その為にヤるべき事をヤるというのは、結局は耕平との縁を切ってしまうのと同義。
それに、還った処で……
「河村耕平はとっくに誰かと結ばれてるよね」
「……はい。約束はミーナかサワディが果たしたかも知れませんし」
ユーキの指摘に項垂れながら言うスワティ。
「ミーナとサワディ?」
「ミーナは私の後継ぎ……次代の弁財天です。サワディは妹なんですよ」
「ミーナ……インド神話でミーナというなら本名は、ミーナクシーか」
「あ、はい」
どうやら
嘗て、【ハイスクールD×D】主体世界でアザゼルが言っていた通りに……
「取り敢えず、スワティはウチで養うしかないか? ステータス・ウィンドウで最低限の機能を付けよう」
「確かにそれしかないね。それに、恩を売っとけば……何て、言わぬが華か」
「ちょっ!?」
何をやらされるやら怖くなるが、少し気になったのはステータス・ウィンドウという単語。
「むう、ステータス・ウィンドウって何ですか?」
だから剥れながらも訊ねるスワティ。
「魔法の一種。兄貴とボクとで開発したんだ」
何処か誇らしそうに言うユーキは、無い胸を張っているのが少し痛々しい。
「魔法……ですか?」
「そう莫迦にしたもんでもない。空間倉庫、亜空間ポケット──呼び名は何でも良いけど、そんな感じの物を仕舞う空間は在るか?」
「一応は」
何処からともなく物を取り出せる者は、そういった技能を持っている。
スワティも御多分に洩れなかったらしい。
「じゃあ、その中の物を直に着替えたりサイズを変えたりする事は?」
「は? 仕舞う為の空間でそんな真似は……まさか、可能だとでも?」
ユートは鷹揚に頷く。
切っ掛けはVRMMOの話だったが、自分達が持つ亜空間ポケットを便利に出来ないか? それを発展させた考えがステータス・ウィンドウという魔法の構築に到らせた。
要は現実でVRMMOの様なシステムメニューを出せないかと、そういう考えを持ったのである。
様々な実験を行っては、術式の構築をやり直していった末に完成を見た。
実装には多大なる魔力を必要とするが、ステータス・ウィンドウ一度でも実装してしまえば、僅かなエネルギーで幾らでも開く事が可能となっている。
必要な最低限の機能からフルスペックに至るまで、バージョンアップも可能なそれは、アイテムの管理、能力の閲覧、技能の修得、武器防具の装備などを簡単にしてくれた。
更に、武具の装備に関してはサイズを調整すらしてくれる為、これを応用して小さくなった服や下着なども問題無く着れるのだ。
ユートとユーキも当然ながら実装しており、しかも完全なフルスペックだから全ての機能を使える。
「必要最低限となるとだ、名前とレベルと職業の閲覧と武具の装備に、後はアイテムストレージだけど……八種類を九つずつ仕舞える程度だね。あ、お金の管理も出来るから」
フルスペックなら無制限に仕舞えるのだが……
敵を斃せばリザルト画面に経験値(笑)やドロップ品の項目などが表示されて、アイテムはソートする事すら出来てしまい、そうなるともう
ゲームのスキルを現実に持ってきて使うなんて事も出来るし、それこそ仮想の世界のデータを持ち出し、現実に再現も可能。
ステータス・ウィンドウはその【
「さて、これで良し」
ユートが術式を使って、スワティにステータス・ウィンドウを実装する。
これでスワティもサイズを気にせず、服や下着などを変える事が出来る筈。
「そろそろ本題だけど……資格迷宮に行こうと思う」
「まあ、予選通過の条件が資格迷宮内の証を手に入れてくる事。しかも本戦出場枠は六四人までで、先着順になっているからさ」
「まだ本戦枠は埋まり切ってないらしいが、それでも既に五〇人余を越えていると聞いたからな。早い内に僕も予選通過しておかないといけないだろう」
余裕かまして本戦出場が出来ないなど、無様を晒す訳にはいかない。
「という訳で早速行くよ」
「行ってらっしゃい兄貴」
「ああ、行ってくるよ」
ユーキに見送られて出ようとすると……
「きゃるん、あの……行ってらっしゃい」
心なしか頬を染めて瞳を潤ませたスワティが、見送りをしてくれた。
恐らくは先程の話に中られたのだろう、羞恥などが心に渦巻いている様だ。
それに普通に宙へ浮いてたから気付かなかったが、スワティはどうやら受肉をしており、人間に近い肉体を有しているらしい。
ステータス・ウィンドウを構築、譲渡した際に手を握ったのだが、人との触れ合いを通じて温もりを感じたのは初めて──神同士なら兎も角──だったから、照れも入っている。
ユートはこの世界に併せた姿──ファンタジー的な騎士っぽい出で立ちで資格迷宮へと出掛けた。
資格迷宮は小規模ながらモンスター蔓延るダンジョンの体を成し、闘神大会への出場資格がある実力者かを問う場所。
大して強いモンスターが出る訳でもないが、大会の出場者を振り分けるのには充分に機能している。
此処で脱落をする程度でしかないなら、そもそもが闘神大会に出場をするべきではないという事だ。
漆黒の軽鎧を身に着け、久方振りに妙法村正を腰へと佩くと……
「ちゃっちゃとクリアしてしまおうか」
ユートは資格迷宮の中に入って行った。
資格迷宮の中に突入をしたユート。
「
ユートの前に全身が緑色で手? と思しき部位にはトライデント? を持つ、目と口の辺りが空洞になったコミカルな物体が……
所謂、埴輪と呼ばれている縄文土器っぽいナニか。
襲ってくるのだから敵──モンスターの類いに間違いはないのだろう。
「やれやれ」
ユートは溜息を吐くと、抜き放った妙法村正で横薙ぎ一閃、斬り付けた。
『ハニーッ!』
緑の埴輪は悲鳴を上げながら真っ二つとなる。
「雑魚いな」
某・
ユートのステータス・ウィンドウのリザルト画面に緑色の埴輪から獲た物──僅かばかりの経験値とお金が表示されている。
「緑色の埴輪だから名前はグリーンハニー?」
どうやらハニワではなく【ハニー】らしい。
ステータス・ウィンドウの凄い処──フルスペック・バージョン──は、とある世界の記録にアクセス、斃したモンスターの名前が表示される事だ。
その後も何体か違う種類のモンスターが現れる。
橙色の丸っこい
人魂に手をくっ付けて、イカれた表情をしたモンスターで、経験値もゴールドも可成り低いし、ハニワよりずっと弱かった事を鑑みると、RPGで云うならば『スライム相当だけどな』って処だろうか?
ヤンキーと云う名前で、ガチムチな袖無しの白シャツを着て、バットくらいの長さの根を右手に、左手には煙草を吸って紫煙を吐きながら現れたモンスターは何と云うか『……あっ!』的な意味で後ろを守りたくなってしまう為、疾く消えて貰うべく妙法村正で真っ二つにしてやった。
カード屋から聞いてて、人型モンスターというのが存在する事を理解はしていたユート、だが次の瞬間に我が目を疑ってしまう。
緑色のショートヘアに、ウサ耳、どう見ても八〇に届かない胸を隠すブラに、パンツ姿のある意味で扇情的な姿の少女が現れた。
カード屋が曰く【女の子モンスター】と云うらしいのだが、ユートはもう少しモンスターモンスターとした姿を想像していたのに、殆んど人間と変わらない。
まあ、襲ってくるのなら敵として情け容赦無く斬り捨てるまでだが、何故だか『遊んで♪』と纏わり付いてくるだけで、攻撃をしてくる様子は全く無い。
後でカード屋に聞いた話だが、普通は【女の子モンスター】でもモンスター、普通に襲ってくるものらしいのに……と。
取り敢えず、このモンスターは相当な構ってちゃんらしいので、要望の通りに
元より、人種差別や種族差別を嫌うユートなだけに人型ならば忌避感も無い。
流石に人型でない存在とヤるのは勘弁、せめてヒトの姿を保っていて欲しい、ユートも獣姦の趣味は無いのだから。
それは兎も角……
相手は人間の倫理観など関係の無いモンスターで、ユートも遠慮など一切せず呵責も感じず、【きゃんきゃん】という種族の彼女を『戴きます』したのだ。
ヤってる最中、同じ種族の【きゃんきゃん】が何体か現れたので、ちょっとした御乱交となった。
その中の一体と使い魔的な契約を結び、白紙カードへと封印をする。
他にも【ラルカット】という種族で、青いストレートロングヘアに蝙蝠の羽根を頭から生やす、モリガンっぽいお姉さん型モンスターが現れた。
モリガンとは某・メーカーの格闘ゲームに出てくる操作キャラクターだ。
この【ラルカット】は、ツンデレっぽい口調ではあるのだが、何処かで【きゃ
んきゃん】との情交を観ていたのか? 情欲に満ちた表情で瞳を潤ませている。
内股で擦り合わせると、水音が迷宮内に響いた。
『ア、アンタがしたいなら構わないんだから! けど勘違いしないでよ、別に私はどうだって良いんだからね!?』
そっぽを向き、頬を朱に染めながら言う【ラルカット】に対し、ユートは嗜虐的な笑みを浮かべて……
「素直なきゃんきゃんと致したばかりだし、今は別に良いかな?」
などと言いつつその場を離れようと踵を返す。
すると袖口を引っ掴んでくるので、ふと振り返ってみると【ラルカット】は泣きそう──寧ろ啼きそうな表情でイヤイヤと頭を振っていた。
どうも【きゃんきゃん】との情交を観ていて、相当に性欲を刺激されたらしい【ラルカット】は、見た目がモリガンっぽいだけではなく、何処ぞの夜の一族も斯くやで発情した様だ。
その後、言葉責めで虐めながら焦らしつつ、程好く熟した処で戴いた。
勿論、カード化する。
因みに、ユートにはどうでも良い話ではあったが、その後にこの資格迷宮へと入った者の内、半分くらいがげっそりとした表情で、覚束無い足取りになりながら出て来たと云う。
残り半分の内、帰って来なかった者が更に三分の一ばかり居り、二度と出てくる事は無かったとか。
三分の二は何とも無く、無事に出て来たらしい。
どうしてそんな事になったのか、資格迷宮に入るまでは謎扱いとして誰しもが首を傾げていた。
そう、ユートにとってはどうでも良い話だ。
女の子モンスターと宜しくヤった後、ユートは再び奥を目指すべく進んだ。
普通の──ぬぽぽやヤンキーやグリーンハニーなど──モンスターは兎も角、きゃんきゃんなどの女の子モンスターは襲って来なくなったから、少し楽になったとも云える。
手に入れるべき【迷宮攻略の証】が有る場所まで、もうそれ程には離れてはいないとみた。この資格迷宮の規模から鑑みると、そろそろ最奥の筈だからだ。
「ねえねえ君、ちょーっと良いかな?」
行き成り話し掛けられ、ユートが声の方へと顔を向け妙法村正を構えると……
「ちょっ、おっかねーな。モンスターじゃねーんだ、剣を仕舞ってくれよ」
軽鉄鎧を纏うチリチリな金髪癖毛でタレ目な男が、所謂ホールドアップしながら出てきた。
「何だ、アンタは?」
「いやいや、それは良いじゃない。それよりも俺さ、ちょーっと困っちゃってるんだよねぇ。この先にえらく強いモンスターが居て、行く手を阻む様に居座っちゃってんのよ」
「ふーん。強い……モンスターね」
「そう、一人じゃどうにも勝てそうもなくて、どうしようかって思っていた処、君が来てくれたんだ」
「一緒に斃してくれと?」
「まあね。と、言いたいんだけどさ……実はさっき逃げる時に足を挫いちゃってねぇ。援護くらいは出来るからさ、君に先行して欲しいんだよ」
「別に構わない」
「そっかそっか、引き受けてくれるか! 流石だね、俺の見立てに間違いはなかったよ。この投げナイフで援護はするから頼んだよ」
奇妙な同行者が後ろに付いて、ユートは再びその先を目指して進んだ。
手には黄色い薔薇を持っており、それの茎を指先でくるくると弄りながら。
「お兄さん、それは?」
「ああ、綺麗なものだろ? 僕が栽培してる黄薔薇」
「はは、情緒溢れているものだねぇ」
モンスターが蔓延る迷宮を歩いているとは思えない空気で、ユートと奇妙な男は【迷宮攻略の証】が有るであろう奥へと歩いた。
だが、歩けど歩けどそれらしきモンスターなどは全く出てこない。
「それで、件のモンスターは何処に居るんだ?」
「ああ、居るよ……お前の真後ろになっっ!」
ニヤつく不気味な顔で、男がナイフを構えてユートに振り翳す。
ビキッ!
「はれ?」
だけどまるで硬直したかの如く……否、本当に硬直したらしく止まり……
「な、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁああっ!? がふっ!」
脚が縺れて無様な格好を曝しながら転んだ。
「う、ごけ……ねえ……」
呂律も回らなくなってきたのか、口調も怪しくなってくる男は何とか顔を上げてみると、其処には冷たい笑みを浮かべるユートが、見下ろしている。
「どうだ? その香気を吸えば身体が麻痺する黄薔薇──パラライズローズの香りは?」
「んなっ!?」
麻痺するとか言いつつ、ユートはその黄薔薇の香りを嗅いでいた。
「よく効くだろ?」
「て、めぇ、な、なんで……こんら……」
「人を後ろから刺そうとした人間に訊かれるとはね、気付かれてないと本気で思っていたのか? それに、まさか卑怯とは言わないだろうな?」
そう言いながらナイフを取り上げると……
ザクッ!
「ぎあっ!」
男の腕を刺す。
「あ、ぎ、ぎぎ……っ!」
余程痛かったのだろう、涙を流していた。
「この黄薔薇な、僕次第で神経を鈍化させたり鋭敏化させたり出来るんだけど、今は痛覚を数倍にまで引き上げているんだ。だから……クスクス、とっても痛いだろう?」
「あ、あ、あ……う……」
朗らかな笑顔のユートを見て漸く男は悟った。
決して敵に回してはいけない相手だ……と。
今更、それに気が付いてももう遅いのだが……
「血の臭いに惹かれてそろそろモンスターが集まる」
「ヒッ!」
男は息を呑む。
確かに剣呑な気配が集まり出していた。
「僕はお前の末路を近くでじっくりと観察しよう」
そう言うと姿が透明になったかの如く消える。
実際には認識が出来ないくらい、気配を周囲へ同化をしてしまっただけだ。
野生のモンスターでさえ気付けないレベルで。
「ま、まっれ! おいれからいれくれぇぇぇっ!」
ダクダクと血を流して、それに惹かれるモンスターの気配に恐怖し、涙と鼻水に塗れた汚い顔を晒しつつ呂律の回らぬ口調で叫ぶ。
ぬぽぽ……橙色で人魂っぽい姿のモンスター。
ヤンキー……工事現場のオッサン風なモンスター。
他にも牙をギラつかせているモンスターが多数。
「あひっ!」
ガリッ!
「アギャァァァァァァァァァァァァァァアアッ!」
脹ら脛を齧られた男は、鋭敏化した痛覚の所為もあってか、得も知れぬ痛みで盛大に絶叫を上げた。
それを皮切りとして次々と男へ群がり、集っていくモンスター達は少しずつ、決してすぐには死なない様に皮を裂き、肉を喰い千切って咀嚼していく。
ベリッ! グチャッ! クッチャクッチャ……
その音がいっそうの恐怖と痛みを助長した。
「死にたくねぇ、死にたくねぇよー! 助けて、助けてくれぇぇぇぇっ!」
ガリッ!
「ぎえっ!?」
グッチャ、グッチャ……
「犠ぃぃ嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」
ユートにとっては、名すら知らぬ男の絶望混じりな絶叫が、資格迷宮の内部にて生命が尽きるその時まで
.
みんな大好き、ザビエルさんはMMO−RPG風に云うとMPKされて、人生をログアウトしました。