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翌朝、眠る葉月を取り敢えずベッドに置いた侭で、ユートは服を着替えて扉を開くと外へ出る。
其処にはニコニコ笑顔なユーキと、渋い表情となったビルナスが立っていた。
「どうした?」
「葉月お嬢様は?」
「寝ているけど」
「……そうか」
ビルナスの質問は真っ当といえば真っ当。
大事な瑞原道場の息女、瑞原葉月はビルナスが護るべき対象なのだから。
「シードはどうした?」
「暴れまくったからねぇ、闘神都市を追い出された」
クスクスと笑いながら、ユーキは答える。
余りにも余りな暴れっぷりに、持て余したスタッフがどうも闘神都市から追放したらしい。
「で? 葉月の味はどうだったのさ?」
「行き成りナニを訊いてくるかな、ユーキは」
「だって、気になるし」
「ま、剣士らしい肉付きだったからね。足腰も鍛えていたんだろう、膣内の締まり具合は良かったよ。初めてなのも相俟って可成りの良さだったからさ」
「ほうほう?」
咥え込んで放さないといった感じで、ユートの敏感な部位を擦ってくれた。
そんな猥談を聞いていたビルナスの表情は固い。
本来ならそんな事にならない様に警護をしていたというのに、闘神大会に於けるルールだったとはいえ、〝葉月お嬢様〟の純潔の花をむざむざと散らされてしまったのだから。
そう考えると殺意冴えも沸いてくる。
「あれ、ビルナス?」
ピンクのバスローブに身を包んだ葉月が顔を出し、ビルナスの姿を見付けた。
「葉月お嬢様! 大丈夫なのですか?」
「ん、何が? お股がまだジクジクと痛むけど、ボク自身は特に何とも無いよ」
顔を赤らめているのは、処女喪失という事実による羞恥心だ。
昨夜の行為で自身の初めてを捧げた、それを思い出して身を捩っている。
ビルナスはそんな葉月から違和感を感じていた。
あの態度、まるでシード──愛する男に抱かれたかの如くではなかろうか?
「そういえばシードは?」
「シードは……彼が控え室に入ってからずっと暴れていた為、闘神都市を追放されてしまいました」
「そっか。ちゃんとお別れを言えなかったのは残念」
「いえ、強制労働免除金は用意しております。帰ればシードにも会えましょう」
「うん? ボクは残るよ。免除金はセレーナさんに使って上げて」
「──は?」
信じられない事を聞かされて、ビルナスは間抜けた声で面喰らう。
「シードに伝えて。ボクの事はもう忘れて、違う幸せを見付けてね? って」
「お、お嬢様!?」
「あ、ボクの事は大丈夫。ユートが面倒を見てくれるんだもん……ね?」
「まあね」
葉月からの確認に肯定の意を返すユート。
何が何やら解らないが、少なくとも葉月の心の中にシードは居ない事だけは、朴念人なビルナスにも辛うじて理解が及ぶ。
「大切な幼馴染みだもん、ちゃんとシードが幸せを掴めると良いな」
今も大事に想っているのは確かな様だが、明らかにベクトルが異なっていた。
とはいえ……
「お嬢様の言葉、シードへ確かに伝えましょう」
葉月についてはユートに任せる他ない、それならばセレーナを解放して葉月の言葉をシードに伝える為、闘神都市を出るしかないと考えるビルナスだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ビルナスと別れたユート一行は、宿泊している宿屋に一旦戻って来ている。
闘神大会にて優勝をした闘神ユートは、闘神都市の市長であるアプロスに呼ばれていた為、葉月を宿屋に置いて来ねばならない。
「増えたねぇ」
宿屋の一室に居るのは、瑞原葉月とサラスワティ、クライア・カラー、羽純・フラメル、小早川 雫だ。
クライアとスワティ以外の三人は、ユートが大会で勝った後に身請けした娘であるが故に、身請け金を払わねば解放はされない。
尤も、三人はユートから権能を受けているからか、もう離れる気は無い筈。
「それじゃあ、闘神の僕とパートナーのユーキは市長に呼ばれてるから行くよ。君らは暫く宿屋で待っていて欲しい」
「「「「「はい」」」」」
五人が素直に頷いたのを見て、ユートは満足そうに微笑むとユーキを連れて、アプロス市長の居るであろう闘神の館へと向かう。
その間、ユーキと今後についての話をしていた。
「つまりはだ、市長であるアプロスが敵なのか?」
「多分ね。もう余り憶えてないんだけど、羽純が居た世界──闘神都市Ⅲ世界でも確か闘神大会の開催者がそうだったし、彼の擁する闘神が軒並み敵対してきた……と思う。ナクト・ラグナードの大切な女性であるレメディア・カラーも操られて、父親のレグルス・ラグナードも同じくだよ」
「若し前作を踏襲してるとしたら、前作に当たるだろうこの世界も同じ可能性があるって訳か」
「そういう事だねぇ」
元よりエロゲ自体を殆んどしてなかったユートは、闘神都市シリーズも全く以て識らない。
故にこそ、こうして情報を集めている訳だ。
「まあ、敵なら敵でやり様なんか幾らでもあるかな」
臨機応変にやっていく、それがユートの答え。
その後、闘神の館に着いた二人は黒髪眼鏡なメイドであるのぞみに連れられ、アプロスの居る間へと……
「よくぞ居らして下さいました、新たなる闘神であるユート様」
其処でアプロスから熱烈な歓迎を受ける。
「さあさ、此方へ。御粗末ながら食事も御用意させて頂きました。賞金など受け渡しもありますが、まずはユート様が優勝した宴にて語り合いましょう。勿論、パートナーのユーキさんも御一緒に」
御機嫌な様子でユートとユーキを宴に招くアプロスだが、ユーキの推測が正しいのならこの辺りで某かを仕掛けてくる筈と、ユートはそう考えて口角を吊り上げると……
「では市長、僕の為に催してくれた宴を楽しませて頂きましょう」
罠へと飛び込んだ。
成程、一応は罠に掛ける心算でも心から祝福をしているのは間違いはなくて、食事は元貴族で美味い食事に慣れたユートにとっても舌鼓を打てる。
そう……この食事会そのものがトラップであると、ユートは一口目からそれを理解していた。
「(安易だな、睡眠薬か)」
眠らせた上で何かをしてくる気だろう。
ならば話は簡単だ。
暫くは……睡眠薬が遅効性だった為、効き始めるであろう時間までは歓談しながら食事を摂る。
そろそろだと時間を見てユーキに軽い目配せをし、ワインを口にした処で倒れて見せた。
ヒュプノスの権能で狸寝入りと知られない程度に、軽めの暗示を掛けておく。
これで肉体的には寝ていても、現実で何が起きているかを視る事が可能だ。
薄ら笑いをするアプロスは席を立つと、おもむろにショーツを脱いでのぞみにユートの準備をさせる。
自分でやらない辺りが、また悪意を感じさせた。
のぞみは顔を赤らめ恥じらいながら目を逸らして、ユートのズボンをソッと脱がすと、未だに通常態である分身を外へと晒す。
「あら? 勃ってもないのに中々じゃない」
アプロスは口元に手を添えてニヤニヤしている。
「ユート様……拙いですが失礼を致します」
のぞみは床に這いつく張り俯せとなって寝転ぶと、目の前のユートのモノへと手を伸ばして掴み、柔らかく温かい分身の先を中心に上下に擦り始めた。
出来るだけ丁寧に毀れ物を扱うかの如く、それでもアプロスの手前だからか、少しずつ速く扱いていく。
そして潤んだ瞳で分身を見つめると、下を出して先の方へと這わせた。
ヒクヒクと軽い痙攣と共に屹立した分身、その大きさに目を見張りながら下を這わせていく。
完全に勃ったのを確認したのぞみは口を最大限にまで開いて……
「あむ」
咥え込んだ。
暫しの淫靡な時間だが、アプロスが動く。
「さあ、御退きなさいな。
命じられたのぞみは立ち上がり、唾液と先走りにて糸を引くそれをハンカチで拭って後ろに控えた。
「フフ、この世の天国を教えて上げるわ闘神様」
屹立した分身の真上に立ったアプロスは、ニヤリと笑うと腰を降ろした。
瑞々しい音と共にユートの分身が、アプロスの蜜壺へと沈み込む。
アプロス自信から流れる液体、未だに残ったのぞみの唾液とユートの先走りが渾然一体となり、あっさりと沈んだ分身を刺激する為に腰を上下に振り始めた。
「何を……している?」
「あら、目が覚めたのね。だけど丁度良いわ、だってそろそろだもの」
ユートの分身が刺激に耐えられなくなり、ピクピクとアプロスの蜜壺の内にて奮えているのが、本人にも理解出来ているのだろう。
「さあ、私の中でイってしまいなさい!」
ドクン!
一際に激しく脈動して、ユートの分身から欲望の塊がアプロスの胎内に吐き出されていく。
それと同時にユートの中へと逆流をするかの如く、アプロスからナニかが流れ込んできた。
そう、このプロセスを以てしてアプロスは何かを確かに企んでいたのだ。
これがシード辺りなら、呆気なく軍門に下っていた処だろうが、生憎とユートはそんな可愛らしい反応はしてくれない。
「これで貴方は天使喰いとなった。私にはもう逆らえなくてよ!?」
「残念でした」
「え?」
「それと、アンタは好みじゃないけど一応は言っておこうか? 御馳走様」
スパン!
「は、え……?」
ユートが右腕を揮うと、アプロスは何故か転がるみたいな感覚を覚え、頭を持たない自分の身体から赤い液体が噴き出すのを見た。
「キャァァァァァァァァァァァァァァアアッ!?」
恐れ慄くのぞみが甲高い悲鳴を上げ、腰を抜かしながら女性としてやってはいけない失禁をしている。
「あ、れ? どうして?」
転がるアプロスの首に、悲鳴を上げるのぞみ。
「何故、何故、何故なの? 天使喰いは私に手出しは出来ない筈!」
「ふん、傷口が鋭利過ぎて脳が未だに死を認識してはいないのか。冥土の土産に教えてやる。僕は天使喰いとやらには成っていない。僕に入り込んだ術は破壊したのでね」
「なっ!?」
神殺しの魔王、羅刹の君などと呼ばれるカンピオーネなユートは、外部で呪術を喰らっても効かないが、内部になら効果がある。
実際、何処ぞの七番目はまつろわぬアテナを相手にした時、口移しで死の呪いを吹き込まれて死んだ。
ウルスラグナ十の化身、雄羊の権能が無ければ完全に終わっていた。
ユートは内部に入り込んだ術など、精緻と破壊が出来る様に術を待機させている為、余程の事がなければこの手の方法は効かない。
先の食事への睡眠薬混入などはもっと簡単な話で、そもそもユートは毒素に対して自浄能力を持つ。
水の精霊王との契約で、如何なる毒素も内なる水が浄化してくれるからだ。
ユートはアプロスの髪の毛を掴み、顔を自分の前まで持ってきて不敵に笑う。
「アンタの目的、その脳に聞かせて貰おうか?」
「ヒッ!?」
幻朧魔皇拳……
瞬間、アプロスの頭脳に過去の想い出が甦る。
デラス・ゲータとの出逢いと愛、アプロスを捕らえに来た天使達との戦いと、天使喰いとなったデラスの〝食事〟風景、更に地獄の鬼までが現れた。
それでも一歩も退かないデラスとアプロスの二人、鬼王とデラスによる激闘と封印について。
アプロスは封印を破る為にも闘神大会の優勝者を、デラスと同じ天使喰いへと変え、地獄を探索させていたらしい。
未だに地獄の探索は終わらず、デラス・ゲータ封印の地は判らなかった。
飴と鞭。
天使喰いとなった闘神達には人質やら何やらによって脅すが、成果を上げれば褒美を与えていた。
力を増す為に捕らえていた天使を与えたり、財宝を与えたりとそれは様々に。
「目的は恋人のデラス・ゲータを封印から解き放つ。成程ね、闘神大会は強者を捜すにはもってこいか」
アプロスにデラスは約束をした、ずっと傍に居る……永遠に……永劫に。
「ならば、デラスと一緒にしてやるよ。永遠に永劫に……お前の魂を燃やし尽くして奴を滅ぼす事で……」
「そ、そんな!?」
「だから暫し眠れ、滅びの前の静寂の中で……な」
「イヤ、イヤァァァァァァァァァァァァァッ!」
封 印 完 了!
三昧真火を周囲に張り巡らしたから、もうユートでなければ取り出せない。
「クスクス……これで後は色々とお仕事だねぇ♪」
笑いながら起き上がったユーキに、ユートが口角を吊り上げながら頷く。
「ああ、闘神の館は僕らが乗っ取らせて貰うさ」
「それは良いけど兄貴?」
「うん?」
「早く〝ソレ〟を仕舞ったらどうかな? それとも、其処のメイドさんで続きを楽しみたいの?」
「………………」
ユーキが指差す先には、文字通り臍まで反り返ったユートの分身が、凄まじく自己主張をしていた。
「それも良いかな?」
「アハハ、言うと思った。確かのぞみさんだっけ? 兄貴のソレをおっきくした責任を取ってね?」
笑顔を向けて宣言され、のぞみは放心するしかなかったと云う。
それから半日、ユートはのぞみをアプロスの玉座の前で抱き続けていた。
それを観ていて欲情したユーキも交えてヤったが、休憩を挟んでいたにも拘わらず遂に意識を失ってしまうのぞみ。
「やれやれ、気絶したか」
「保った方じゃないかな、きっとメイドさんだったから体力もあったし、処女じゃなかったって事は慣れてるんだろうからさ」
まあ、確かに舌遣いなど異様に巧かった訳だから、処女だとは初めっから思ってはいなかったし、実際に挿入(い)れたらすんなりとユートの分身を受け容れた事もそれを証明している。
「ま、随分とヤり易かったから良いけどね」
「さばさばしてるねぇ」
ユーキは苦笑いをうかべて肩を竦める。
朗らかな雰囲気ではあったが、二人の足下には気絶して色々な液体に塗れて、股から白いモノを床に垂れ流すのぞみの姿が……
数時間後、アプロスが使っていた私室のバスルームで身体を清め、新しい服に着替えたユートとユーキ。
のぞみも同じく身体を洗い清めると、新しいメイド服に着替えていた。
まだ足腰がフラついているのは御愛敬か。
「さて、のぞみ」
「は、はい……」
トロンとした瞳で頬を朱に染めながらユートの言葉に応え、然しながらメイドとしての矜持か? 確りと頭を下げている。
「この館は広いから案内を頼めるか? それとメイドの仲間にも引き会わせて貰いたい。主が変わった事を喧伝しておかないとね? 序でに、天使喰いの連中は何処に居るか知らないか? いずれにせよ会わない訳にもいかないだろう」
「了解致しました。案内の道すがら、仲間にも引き会わせます。それと天使喰い……闘神の皆様はアプロス様からの指令で地獄の探索を行っております」
「そう、判った」
話も終わって、ユートとユーキはのぞみに先導されながら館を歩き回る。
途中で闘神の部屋なども見てみたが、やはり今は誰も居ないらしい。
とはいっても、天使喰いは既に数を可成り減らし、現在は二人だけだとか。
比較的まともな天使喰いのカーツウェル、力を求めて積極的に天使を喰っている幻杜坊。
一応、闘神クランクも居るらしいのだが天使喰いでは無いみたいで、館の片隅での冷飯食らいな存在。
外では闘神の権限で威張り散らすが、闘神の館では基本的に天使喰いやアプロスに媚び諂う様だ。
メイドの住む部屋では、アンナというメイドを始めとして、何人か住み込んでいる娘達を紹介される。
更に他の部屋……
「彼女は?」
「フランチェスカ様です。カーツウェル様の奥様なのですが、人質にされてしまった上に今は亡き闘神様達や御客様方に弄ばれ続け、今や心砕けています」
「……そう」
ユートが踵を返そうとすると、物音に気が付いたのかフランチェスカがハイライトの輝かない瞳で見つめてくると……
「ああ、カーツウェル……カーツ! お帰りなさい。今、晩御飯の準備をしているのよ! でもダメよね、いつまで経っても要領が悪くって。けど、今に立派な主婦になってみせるわ! その為に……その為に……私、わたし……たくさんのおとこたちにだかれて……だかれて……いや……いやいやいやぁぁぁぁぁっ! カーツ、助けてカーツ! わたし、わたしは!」
フランチェスカは一気に捲し立てるかの如く語り、恐らくは犯された記憶でもフラッシュバックしたのであろう、恐怖に満ちた表情でイヤイヤと頭を抱えながら俯いて首を振り、大声で助けを求めて絶叫をしながらユートの胸に飛び込み、押し倒すとキスをしてきて裸エプロン故に脱ぐ必要も
無く、自らの御陰にユートの分身を宛がうと……
「嗚呼、カーツ!」
腰を落として胎内へと沈め込んだ。
暫くの間は『カーツ! カーツ!』と叫びながら、ひたすらに腰を上下に振って淫靡な声を上げていた。
涙を流して涎を垂れ流しながら所謂、アへ顔となって貪る様に腰を振りつつ、キスを求めている。
愛する男に抱かれる様を幻視し、名前すら知らない男に身体を許すフランチェスカは、遂に絶頂を迎えて声の在らん限りで叫んだ。
ユートも同時に果てて、フランチェスカの子宮へと白い欲望の塊を吐き出す。
熱い白濁とした液塊を奥に叩き付けられて、何度も絶頂を感じたフランチェスカは海老反りになりつつ、身体を伸ばして意識を手放してしまった。
のぞみは『あちゃ〜』といった感じに頭を抱えて、フランチェスカについての説明を補足する。
何でも、男を見付けるとカーツウェルと思い込み、こうして勝手に身体を開いてしまうらしい。
恐らくはか細い残された心を守る為に。
寝床にフランチェスカを寝かせ、扉をゆっくりと閉めると再び案内を再開。
闘神の館の最奥に着く。
「此処は?」
「……地下牢です。天使喰いの皆様に与えられる褒美──天使が何人も捕らえられている牢獄」
降りてみれば成程、幾つもの牢獄に閉じ込められた白い翼に金色のハイロゥを持つ美しい少女や女性達、確かに天使であった。
「ふーん、中々に可愛かったり美しかったりするな。まあ、天使の一部はカラーが転生した者だし、クライアの美麗さを思えばおかしくもないか」
カラーという種族は死に際して、若しくはある一定以上を生きた場合に天使か悪魔へと転生するとか。
ユートの知らない原典、その世界のクライア・カラーは死後に天使へと転生、シードの前に現れた。
実際、牢屋の中で此方をチラチラ視ていたり睨んだり怯えたりしている天使の中には、額に赤や青の宝石を付けたカラー出時の天使もそれなりに居る。
青い髪の毛に長い耳は、クライアを思わせた。
「イヤ、食べないで!」
「くっ、私を見るな!」
随分な言われ様だけと、それだけの事をアプロスや天使喰いがやってきたという事だし、ユートをそいつらの仲間だと考えているのなら、怯えたり罵倒したりは寧ろ普通だろう。
「ま、今は天使を相手にする時間は無いな。天使喰いが居ない間に館を掌握しておきたいし!」
「だねだね。だけど数人は夜のお供にしたら?」
「ユーキ、お前ねぇ……」
ユーキの冗句──半ば以上は本気──にビクリと肩を震わせる天使達。
天使喰いが天使を食らう方法は性交、『夜のお供』になんて聞いたら恐怖して当然だった。
「やれやれ……まあ、そうだな。ユーキが言う様に、夜のお供をしてくれるなら優先的に出しても良いな」
チラリと見ながら言ってみたが、やはり肯定的にはなれないらしい。
当然な訳だが……
「ま、良いけどね」
踵を返しながら言う。
別に期待はしていなかったし、ダメ元で言ってみたに過ぎないのだから。
仮に牢から出たい余りに名乗り出れば、ユートとしてもで出来る限りの配慮くらいは約束したが、どうもユートが天使喰いであると勘違いをしているらしく、誰も名乗りでなかった。
他にも理由があるのかも知れないが、それはユートに窺い知れないものだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
闘神大会が終了してから一週間が過ぎ、クライアと羽純と雫姫と葉月とスワティ全員を闘神の館に呼び、悠々自適に暮らしている。
また、占い師のアーシーも『戴きます』をしたし、一緒に連れて来た。
館は広いから多少の人数くらい平気だから。
尚、闘神クランクに関しては彼女らに手出ししようとしたので、物理的に排除をしてやった。
今頃、海の底で魚の餌にでもなっているだろう。
また、アプロス市長の死と共に闘神ユートが後継となった旨を発表する。
元より、闘神都市に於いては闘神が絶対視されているからか、余り混乱が起きる事も無かった。
まあ、民は上の首がすげ替わったとしても、暮らしが変わらねばどうでも良いのかも知れない。
実際、闘神都市の運営を変える気は無いと通達もしているし、来年の闘神大会も開催されるとしている。
問題も無いだろう。
更に一週間くらいが経った頃……
「ユート様……天使喰いの御二方が戻られました」
朝の朝っぱらからのぞみが呼びに来た。
ベッドの中には何人もの裸の女の子と、やはり裸のユートが折り重なるかの如く寝ている。
どれだけの御乱交だったのかが判る様子に、のぞみは頬を朱に染めてゴクリと固唾を呑んだ。
この二週間ですっかりと調教されたらしく、ユートの姿に欲情をしていた。
「ん、身嗜みを整えてから行くんでね、二十分くらいしたらアプロスの間に連れて来てくれないか?」
「りょ、了解致しました」
「心配しなくても、今夜はたっぷりと可愛がってあげるからね?」
耳元で息を吹き掛けながら囁くと、のぞみは真っ赤になりながら頷く。
それから約二十分後に、のぞみは二人の天使喰い──カーツウェルと幻杜坊を【アプロスの間】と皮肉付きで名付けられた広間に、揺ったりと案内した。
「君は誰だ? アプロス様はどうしたのだね?」
「僕の名前はユート。今年の闘神……謂わばあんたらの後輩って奴だ。アプロスならもう居ない。死んでこそいないけど、首を叩き落として封印してやった」
「「なっ!?」」
これにはカーツウェルも幻杜坊も吃驚したらしく、目を見開いて大きく口を開いている。
「市長も既に正式な書類上で僕に変更がされている。さて、僕があんたらに求めるのは服従な訳だけど……少なくとも幻杜坊は従わないんだろ?」
「当然じゃ! アプロスが居らぬならワシがこの館の主となり、天使共を喰いまくってやるわい!」
「そういや、アプロスの奴は天使を褒賞に与えていたらしいな。従わないなら、消えて貰うだけだ」
「ふん、若造が! 高々、闘神になったくらいで自惚れよって。ワシが直々に殺してやろうぞ!」
錫杖を揮いながら幻杜坊が襲い掛かる。
「まて、幻杜坊! 迂闊に戦いを挑むな!」
カーツウェルからの忠告など聞きもしない。
「かぁぁっつ!」
一気に飛び掛かってくると錫杖を振り下ろす。
「思う壺ってな!」
左手に魔力、右手に氣。
陰陽合一法……又の名を咸卦法と云う。
小宇宙に比べると一段は落ちるものの、魔力のみや氣のみの一元のエネルギーより強力だ。
「
「ゲハッ!?」
高々、闘神になったくらいでと言っていたくらいだから理解をしてはいたが、油断をしまくった幻杜坊は仮令、天使喰いとなっていて地獄の鬼や高位の天使と戦えようが、存外と脆い。
四肢を聖剣抜刀で斬り落としてやった。
最早、幻杜坊は達磨でしかないのである。
「愚かな、天使喰いじゃないからと云って天使喰いより弱いと思ったか?」
「うぐぐ……」
「しかも油断をして御覧の有り様だ。笑い話にしかならないよな?」
「お、おのれ!」
「さあ、年寄りの冷や水も終わりだ。トドメをくれてやる……っよ!」
「う、ま……ま……」
ゾブリ!
手刀──聖剣抜刀で素っ首を叩き落とすと、喧しかった幻杜坊は静かに。
小宇宙を使うより威力も速度も無いが、やはり普通に氣や魔力を使うより遥かに強力な一撃だ。
「カーツウェルだったか、アンタはどうするんだ?」
「その前に確認させて欲しい事がある」
「……奥さんの件?」
「何故、それを!」
「闘神の館は掌握済みだ。当然ながらアンタの奥さんのフランチェスカも発見をしている。のぞみから説明もされているからね」
「か、彼女に……フランに会わせてくれ!」
「会わない方が良いと思うんだけど……ね」
「会わない方が? それはどういう意味なんだ!」
「夫なら知る権利はある。案内をしよう」
ユートはカーツウェルを伴い、アプロスの間を出ようとしたが……
「のぞみ、人を使ってそのゴミを片付けといて。部屋も掃除をお願い」
一度部屋に戻ってのぞみに命じた。
「畏まりました」
のぞみものぞみで一礼をして承知する。
ただ、一言だけ。
「そういえばセサミの鍵の事はどうしよう……」
どっちにしろ鍵の在処など教えてはくれなかっただろうが、セサミの鍵という幻杜坊に付けられた拘束具を外す鍵をどうしたものかと頭を抱えてしまう。
それは兎も角、ユートが
案内をした部屋にはミントグリーンのロングヘアーな女性──フランチェスカが相変わらず裸エプロンにて料理をしていた。
「フ、フラン?」
「ああ、カーツウェル……カーツ! お帰りなさい。今、晩御飯の準備をしているのよ! でもダメよね、いつまで経っても要領が悪くって……」
やはりハイライトの無い瞳で、カーツウェルを見ると前にユートへと言っていた言葉を繰り返すだけ。
そんな痛ましい妻の姿に絶句するしかない。
カーツウェルは正直な話で困惑をしていた。
裸にエプロンなどというはしたない姿は未だしも、行き成りユート達が居ると云うのに自分を押し倒し、ズボンのチャックを下ろして自分の秘裂へと宛がい、腰を降ろしたかと思ったらまるで狂った様に振り始めた妻の様子に。
そもそもにして、妻であるフランチェスカは人前で裸エプロンなんて姿を晒すタイプではないし、何よりもこんな情事を他人の目も気にせずヤれる露出狂ではないのだ。
それが、カーツウェルのモノを咥え込み笑顔で涙を流しながら、口元からは涎を垂れて『アンアン』と啼いているのだから、とても信じられなかった。
「くっ、フラン……いったい君はどうしてしまったと云うんだ!?」
然し悲しいかな、カーツウェルも肉体的には人間と大きく変わらない。
即ち、人間の持っている生理現象を止める事などは叶わないのである。
フランチェスカの膣内の襞に敏感な部位を攻められ続け、カーツウェルの下半身が絶頂へと至るまでには最早限界が近かった。
「ぐっ、うっ!」
何年か振りの愛する妻の胎内に、普段はストイックなカーツウェルも欲望の塊を吐き出してしまう。
「嗚呼、カーツ! どう? 私、上手くなったよね? だから、だから私を嫌わないで……だって、私は……わたしは! 嗚呼、あああああああああああっ!」
両腕一杯に縋り付いて、頬擦りをしながら言ってくるフランチェスカだけど、やはら途中からはおかしなフラッシュバックに悩まされたか、叫び始めて遂には糸が切れたマリオネットの如くグッタリとなり、意識を手放してしまった。
「これは……いったい?」
「それがアンタの奥さんの現状なんだ。アンタが天使喰いとなって引き離された後の事らしいが、アプロスはフランチェスカをアンタ以外の存命だった頃の天使喰いや、館を訪れた客人の相手をさせていたらしい」
「な、何だと!? 莫迦な……闘神のパートナーまでがこんな扱いを受けているなど、私は知らなかった! これでは何の為に!」
そもそも、天使喰いとは天使を性的に喰って力へと変換して取り込む存在で、これは当然ながら此方側の世界では大罪とされる。
カーツウェルが禁忌的な天使喰いとしてアプロスに従っていたのは、明く迄も妻のフランチェスカが人質となっていたから。
自分が言いなりになっていれば、フランチェスカが無事だと信じていた──というか、信じるしかなかったからこそに他ならない。
「さてと、旦那が現れたから話を進められる」
「話を?」
「そう、彼女の心はズタズタになっている。元からが好きな男以外に触れられたいとも思わない貞淑な女性らしいから、何人か何十人か何百人か知らないけど、代わる代わる犯された訳だからね。だから完全な精神崩壊をする前に男をみんなアンタだと思い込む事で、今の状態になり最後の一線を越えなかった。この状態を戻す方法は在るけどね、下手にやるとヤられ続けた記憶が残って、自害するか今度こそ精神崩壊するか、記憶を消すのも可能だったけど、せめて旦那さんくらいの許可は必要だろう?」
「話を進めとはつまり記憶を消すと?」
「そう、アンタと引き離された後から今までの記憶、そいつを消す。多少の齟齬は出るだろうけど、其処はアンタ次第だろうね」
「む、う……」
ユートからの説明を受けたカーツウェルだったが、難しい表情をしている。
「どうした? 他の男に犯されたら愛など吹っ飛んでしまったか? それなら、僕が貰うまでだけどな」
「そんな事は言ってない! 然し可能なのか?」
「勿論、可能だよ」
「そうか……」
それきり黙り込んでしまったカーツウェル、そんな彼にユートは気を遣ったのだろう、踵を返して言う。
「暫く時間が欲しいなら、其処で寝泊まりすると良いから。肚が決まったのならのぞみに言ったら対応をしてくれるよ」
「済まない」
「別に良いさ」
手をぷらぷら振って部屋を出て扉を閉める。
カーツウェルは誰も居なくなったのを確認すると、未だに意識を失ってしまっているフランチェスカを、強く強く抱き締めて慟哭を上げるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「良かったの?」
「カーツウェルか? 構わないだろ、彼は幻杜坊とは違って被害者みたいなものだしね」
「ま、そだねぇ」
テーブルを囲んで朝食を摂りながら話すユート達、当然だが其処には他の者──スワティやクライア──達も一緒に居る。
「取り敢えず、地獄に往くのに一度だけ協力をして貰うだけだし、フランチェスカの事は別物だしな」
「兄貴がそれで良いってんなら、ボクも構いはしないんだけどさ……」
ユーキにとってユートの他は二の次、ユートが決めたならそれで良かった。
のぞみがワインのお代わりを注ぎ、ユートはそれを一気に飲み干す。
「兎に角、優世は既に地獄に降りている訳だからね、此方も早い処行動をしないと間に合わない」
「ま〜ねぇ。どっちにしろ間に合いそうにもないんだけどさぁ?」
「言うな、理解はしてる」
狼摩優世を止めるのには間に合わないであろうし、足止めを白夜に任せる心算も更々無い。
「デラスだけ、優世だけならどうとでもなるけどね、はてさて?」
「二人が合力はしないだろうけど、どう出るかな?」
いずれにせよ、既に地獄に行った優世は先にデラスの許へと辿り着く。
とはいえ、カーツウェルがユートを見ても何も言わなかった辺り、優世が彼と面識を持たないのは確定。
ならば、カーツウェル達とは恐らく別ルートで地獄を進んでいるのだろう。
白夜が曰く、バカ兄──狼摩優世はとんでもないお馬鹿な方法で、ラグナード迷宮の更に奥へと進んだ。
即ち、地獄へ……だ。
その方法とは、天使喰い一行がワープする為の泉を起動した瞬間、横入りするというアホなもの。
一瞬だったからだろう、唖然となったカーツウェルと幻杜坊は、後ろ姿の優世と白夜を見送る事しか出来なかったのだ。
後ろ姿であるから顔など判らず、その後も会う事が無かったという事か。
「兄貴、兄貴がカーツウェルを残した理由は?」
「……あの爺ぃ、幻杜坊が素直に協力するなんつ思っているのか?」
「全然」
即答だった。
ユートもユーキものぞみから聞いた二人──カーツウェルと幻杜坊の人となりから、幻杜坊との話し合いなど考えも付かなかった。
まあ、天使を喰わせると約束をすれば従いそうではあったが、それだと天使が死んでしまう。
あれだけの綺麗所だし、せれは勿体無かった。
「それに、僕自身の仕出かしたことじゃなかったとはいえ、フランチェスカを抱いてしまったのも事実だ」
「ああ、確かにヤっちゃったねぇ……兄貴のでっかいブツを、彼女の胎内に突き刺したんだっけ? 気持ち良かったよねぇ? 白濁とした液体をたっぷりと
「実は意外とムカついていたのか!?」
ユーキの口調が何故だかいつになく刺々しい。
「べっつにぃ? 行き成り目の前で押し倒されてからエッチなんて、バッカじゃないの? とか思っていなかったもん!」
思い出したのか唇を尖らせてブスッとしている。
普段はハーレムだとか、よく言っているのに意外と突発的な事には弱いのか、あの時は内心穏やかではなかったらしい。
「ま、良いけどさ……」
話も終わり、食事を摂るのに集中をし始める。
それから三日後、ユートの前に現れたカーツウェルがフランチェスカの記憶の消去、それに伴う対価として地獄への水先案内人を買って出るのであった。
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