闘神都市RPG【魔を滅する転生闘】   作:月乃杜

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第14話:四回戦 小早川 雫の純情

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 ユートがダンジョンから戻って来た際、少しばかり微妙な表情をしていたのに気が付き、ユーキは小首を傾げてしまう。

 

「兄貴、どうしたのさ?」

 

「いや、何か変なくノ一が出てきてね」

 

「くノ一? それってⅢの十六夜桃花や十六夜燐花みたいな感じかな?」

 

「いや、その二人自体知らないが……何つーか、ドジなアホの子っぽかったな」

 

「んで、戦った訳?」

 

「んにゃ、協力を申し出て来たな」

 

「は?」

 

 ラグナード迷宮の新しい層──白銀の時代に降りたユートは、次の相手である臥路対策などは特にしてはいないが、やる事も無いから攻略をしているだけで、くノ一が言う臥路と闘う為の協力は不要だった。

 

「成程、つまり自分達では捕まえられない、だけれど傷付ける程度なら出来るから協力して斃したいと? んで、パートナーの雫姫を連れ戻す?」

 

「いや、犯せとさ」

 

「……何か恨みでもあるのかな?」

 

「どうやら臥路を愛していたけど、雫姫と駆け落ちしたらしくてね。逆恨みってやつかな?」

 

「やれやれだね。ああ! そういえば、シードって奴が臥路と雫にまたお節介を焼いていたよ」

 

「お節介? ケイジンとかプルマとか、そんで今度は臥路と雫? アイツは何処ぞのブラウニーかよ」

 

 溜息しか出ない。

 

「何だか天叢雲を捜してるんだってさ」

 

「ふーん。御苦労様だな」

 

 ユートにとってみれば次の対戦相手だし、そもそも敗けてやる心算など微塵も無いのだから、臥路の捜し物が見付かる見付からないに関わらず、帰還は叶わないのではなかろうか?

 

 敗けた出場者のパートナーは一年間の奉仕活動従事というペナルティが有り、雫姫を放ってJAPAN国に帰りはしない筈だ。

 

「そんなどうでも良い話は扨置いて、少し問題が発生したかも」

 

 ユーキはユートに直接的な関わりが無いのならば、大抵はどうでも良いと考えている。飽く迄も考え方はユート本位。

 

「問題? 何の?」

 

「羽純の世界が拙いかも」

 

「? どうして?」

 

「羽純の世界で何かしらの危機があった場合、当然ながら対処をするのはナクト・ラグナードなんだけど、何しろ羽純が此方に浚われてる訳だから、ラスボスを斃せないかも……」

 

「ああ、成程……ね」

 

 ユーキが覚えている限りでは、羽純とナクトが結ばれたのは最終決戦の前で、ならば最終決戦に際しての武器強化をする前の筈。

 

〔ゲームじゃ割とごり押しで勝てたけど、現実はもっとシビアだろうからねぇ〕

 

 この部分のみ念話で伝えてきた。

 

「とはいっても、そんなの僕にもどうしようも無い。羽純を還してやれるなら、スワティだって還せるよ。無限マイナス1の膨大な数の平行世界から、スワティや羽純が属する世界を捜すなんて、それこそ砂漠の中から一粒の黄金を捜し当てるに等しい作業だからね」

 

 羽純の顔色が良くない、ナクトへの執着は確かに無くなったが、それは恋心という意味合いでしかなく、ナクトが大切な幼馴染みだという事実が喪われる訳ではないから当然だろう。

 

 ユートのあの権能は幼馴染みの危機に心が動かなくなる様な、そんな薄情になるモノではないからだ。

 

「せめて後一人……後一人でも羽純の属した世界の者が居れば話は別だけど」

 

「どういう意味さ?」

 

「時空量子振動波形というのがあってね、各々が属する世界の量子振動波形というのは全く違う。指紋みたいに同じ波形は存在していない。唯一、同じ波形が在るとしたらそれは同じ世界に属していた場合のみだ。っていうかさ、ユーキには釈迦に説法だろう?」

 

「まあ、確かに」

 

 この辺は科学担当なだけに理解が出来たユーキ。

 

「二人が揃えば僕の方で以て【共振】を引き起こし、謂わば砂漠の中の黄金を輝かせる事が可能となる」

 

「成程ね、だけどそれでも可成り難しいよ?」

 

「勿論、其処は理解もしている。だから【(アイオン)の眼】を使うんだ」

 

「ハァ? んなもん持ってたったけ?」

 

「持ってないな。だけど忘れたのか? 僕の閃姫──使徒の中には【劫の眼】の原典を識る雪子、菊理に、リゼット(リーゼロッテ)、美鈴、栞が居るんだぞ? つまり、記憶の中から【劫の眼】の情報を拾い出す事も出来る」

 

 元が元なだけにユートはその原典を殆んど識らないのだが、それでも彼女らから情報を得る程度の事なら出来たし、何よりリゼットはその【劫の眼】に最も関わりが深かった。

 

「11eyes……」

 

 あれこそ、平行世界の在り方や扱いの難しさを見せた作品の一つ。

 

 何しろ同じ世界の人間だと思ったら、主人公の皐月 駆とヒロイン水奈瀬ゆか以外はその全員が平行世界の人間であり、故に世界の認識に差異が有った。

 

 例えて云うと、橘 菊理は平行世界の皐月菊理で、駆から見れば死んだ姉とは瓜二つというやつであり、他にもランドタワーの有無などが挙げられる。

 

 平行世界とはいっても、姉弟ならヤっちゃうと近親相姦では? とも思えるかも知れないが、時空量子振動数の差異は遺伝子の方にも作用し、遺伝的に二人が姉弟だと認められる事実は存在していない。

 

 Show you guts cool say what 最高だぜっ! 的な容姿でランドセルを背負っていても、『作中のキャラクターは全員が一八歳以上です』なのと同レベルな気もするが……

 

 それは兎も角、ユートは【叡智の瞳】にちょっとした強化措置を施し、一時的に【劫の眼】に変化せしめる事も可能だと考える。

 

「話に聞く限り、皐月 駆はリーゼロッテを斃す為、現在を基点にリーゼロッテを斃し得る未来の可能性を見通し、それで刃を突き付けたって事だ。僕のやろうとする事の違いは、世界の内側から縦線で分岐点を見通しのに対し、外壁からの観測になるって点かな?」

 

「……それってさ、危険は無いの?」

 

 指摘をされてプイッと目を逸らす。

 

「有るんだね?」

 

「片目が失明……とまではいかないだろうけど、暫くは視力を失うだろうな」

 

「駄目! ずぅぇーったいにダメだかんね!?」

 

 ユートの言葉に青褪め、ユーキはソッコーで禁止する旨を伝えてきた。

 

「一時的だし、だいたいが二人目が見付からなければやり様が無いんだ。心配をしなくてもね」

 

 ユーキの頭をポンポンと軽く叩き、撫でながら言うユートではあるが、これがフラグになりそうだとも考えていたりする。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 何度かの迷宮探索にて、女の子モンスターカードを何枚か増やしている。

 

 色んなタイプを抱けるのは愉しいし、現状でユートにとって迷宮は危険域だとは全く云えない。

 

 余裕でモンスターを屠っていきながら、偶に見掛ける女の子モンスター達へのナンパ? をしていた。

 

「今回はこいつだ!」

 

 チリーン!

 

 小型の音叉をぶつけると軽快な音が鳴り響く。

 

 それを額に近付けると、紫色の焔が全身を包み込んで姿を紫を基調とした筋肉質な角を持った存在へ変えてしまった。

 

 それは鬼。

 

 鍛え抜いた肉体に変身をする道具を用い、その姿を変える音撃の戦士。

 

「仮面ライダー響鬼、ちゃんと鍛えてますから!」

 

 シュッと敬礼の変化した形を取りながら言う。

 

 変身ツールにベルトが使われない珍しいライダー、ユートは音撃棒を腰から引き抜くと、先端部へと焔を灯して襲い来るモンスターへと駆け出した。

 

 そしてくの一とは再び出逢う事なく、その日の探索を終えて宿屋に戻る。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あ、今日は逢わなかったんだね? くの一と」

 

「向こうは向こうで臥路の妨害とかしてんだろうな。逢ったらどうするか?」

 

「兄貴の好きにしたら? カンピオーネの直感に頼ってみるとかさ」

 

 戦闘関連なら未だしも、そこまで都合良く直感とか働かない気もするが……

 

「協力は面倒臭いんだが、雫姫は好きでもない僕に抱かれたら死にかねないし、臥路の事も何とかしないといけないか……」

 

 一度はくの一の協力要請を断ったが、対戦相手やらパートナーやらの事を鑑みれば少しは動く必要はありそうだと、ユートは難しい表情となって思案する。

 

 雫姫との接触など殆んど無いユートをして、彼女が極度なロマンチシズムなのは見て取れた。

 

 好きな男──臥路以外に抱かれるのは疎か、肌を晒す事すら厭のだろう。

 

 それは誰でも同じだが、それで自決まで逝けるのが雫姫である。

 

 御淑やかな大和撫子だと見えるし、ルールの通りにユートに貫かれたならば、翌朝には短刀で喉でも突いて冷たくなっていそうで、少しばかりホラーだ。

 

 ルール通りにしたとはいえ死なれるのはアレだし、ユートが自発的に動くには充分な理由だった。

 

「その為にもあのアホの子は利用価値があるな」

 

 邪悪な笑みを浮かべているユートに、ユート本位なユーキの場合は慣れているから未だしも、スワティは若干引いている。

 

 そんなの関係無いとばかりに何やら思い出したか、ユーキはピン! と人差し指を立てると……

 

「あ、そうだ兄貴! 戦極ドライバーは完成したよ」

 

 そう言って、アイテムストレージから黒いベルトバックル──戦極ドライバーを取り出して見せた。

 

「へぇ」

 

 狼摩白夜からの情報と、ピーチエナジーロックシードとゲネシスドライバーを元にユートはロックシードを造り上げて、それを使うデバイスとしてはユーキが戦極ドライバーを造る。

 

 ちょっと時間を掛けたのだが、それでもダイオラマ魔法球込みで二日間はよくやった方だろうか?

 

 あちらの工房でユーキは頑張ったのである。

 

 本物ではないにしても、可成り近い物にはなった。

 

 ロックシードは入れ換えが利くから、素体となるであろう聖魔獣を戦極ドライバーに封じ、ロックシード側にはプロテクターが封印をされている。

 

 よって、ユート達の識らない原作──仮面ライダー鎧武で鎧武とバロンがやったロックシードの交換も、普通に再現が可能だ。

 

 そう造られている。

 

 ユートが白夜から獲得した知識を、セッ○スによるトランスでユーキに渡した情報を元にし、ギミックも完全再現してある。

 

 戦極ドライバーをユーキから手渡され、それを腰に据えるとフォールディングバインドにより装着され、自身の持つアイテムストレージからはロックシードを取り出し、早速それを起動させた。

 

 因みに、フォールディングバインドとはベルト部分の事であり、平成ライダーシリーズの大半で採用されている自動装着システムと思えば正解。

 

 バックルの左部から伸びたフォールディングバインドが、右部に差し込まれる形で装着されるのだ。

 

 

 ロックシードは見た目にはオレンジで、LS−07と番号が振ってある。

 

 実際のオレンジロックシードより少し豪奢な作り、錠前の金具に当たる部位を解錠……

 

《FLESH! ORANG……》

 

 電子音声が鳴り響く。

 

 次は中央のドライブベイに嵌め込み施錠すると……

 

《LOCK ON》

 

「変身!」

 

 施錠を表す電子音声が響いた後、カッティングブレードを倒す。

 

《FLESH! ORANG ARMS HANAMICHI ON STAGE》

 

 変身の為の電子音声が鳴り響き、上空というか天井にチャックが出現すると、オレンジの形をしたアーマーの塊が降りてきた。

 

 ユートもユーキもスワティも羽純も名前は知らず、取り敢えず成功だけはしたみたいだと安堵する。

 

 素体を装着したユート、オレンジ型のプロテクターが頭に被さり、それが展開されて文字通り鎧へと変化をした。

 

 仮面ライダー真戦鎧武。

 

 白夜の記憶にも無かったが故に、適当な当て字による名付けだったが……

 

「成功……だね?」

 

「ああ、流石はユーキだ」

 

「兄貴こそ、短時間でよく試作型のロックシードを作れたよね。聖魔獣に関しては未だしも……さ」

 

「慣れたからかな。各種の仮面ライダー達は元より、デュークモンやオメガモンみたいなデジモンも聖魔獣として創造した。それに、白夜から齎らされたエナジーロックシードやゲネシスドライバーも参考になったのが大きい」

 

「それはボクもだよ」

 

 篠ノ之 束や超 鈴音達をユートは既知外と呼ぶが、その本人も充分に既知外の範囲である。

 

 ユーキは、先の二人や他に何人かと混ぜると危険な訳だが……

 

「兄貴も充分にその範囲だよね?」

 

 ユーキにハッキリと言い放たれて、ユートは思わず床に四つん這いとなって沈み込んだと云う。

 

「あの、理解出来ます?」

 

「きゃる〜ん、さっぱり」

 

 一応、機械関係が在ったとはいっても基本的に羽純の世界はファンタジー傾倒世界だし、現代的な世界に暮らしていたと云っても、神様なスワティに理解など出来よう筈もない。

 

「ま、当面は必要性の無い物ではあるんだよな」

 

「だねぇ……剣系ライダーで攻めてるもんね」

 

 偶には違う仮面ライダーも使ったがユートは現在、仮面ライダー剣系と称される仮面ライダーブレイブを使っていたし、ユーキにもスワティにもクライアにさえカリス、レンゲル、ギャレンを渡してある。

 

 試作こそしたが、鎧武系ライダーは不要だった。

 

「そういえば臥路って侍だったか、なら次の試合にでも使ってみるかな?」

 

 戦国武将っぽい真戦鎧武だし、折角造ったのだから試してみたい欲求も無くはないユートだけに、臥路戦で試行はアリだと考えた。

 

 仮面ライダー鎧武の強化形態──陣羽や極には成れないが、初期形態でも充分な戦果を出せる。

 

「さて、ならあのくの一は精々利用させて貰うか」

 

 ユートは本来の主人公たるシードとは違い、ルール的に問題が無いのならば、普通に小早川 雫とヤるであろうが、その後にとある〝処置〟も必要になるだろうから臥路の問題も片付けたいと思う。

 

 緒方優斗は決して優しさで出来ていないのだから。

 

 仕込みは重々、後は臥路義笠との決戦である。

 

 基本的に闘神大会というのはルール無用のデスマッチと変わらず、多少なりの重武装は許されていた。

 

 実際、鎧兜に身を包んだ戦士も珍しくはない。

 

 よってユートも遠慮無く重武装で挑める。

 

 ユートのパートナーであるユーキはユート控え室、臥路義笠のパートナーたる小早川 雫は臥路の控え室で自らの相棒の勝利を待っていた。

 

 いつものアナウンスによって、ユートと臥路の二人がコロシアムに現れると、それを見に来た観客による割れんばかりの歓声。

 

 臥路義笠は陣羽織を着ており、その腰には佩刀を差しての登場だ。

 

 先達て、シードが臥路の捜すJAPAN国の宝である叢雲を手に入れようと、頑張っていたのだと聞いていたユートは、あろう事かシードが見付ける前に叢雲を密かに発見、秘匿してしまっていた。

 

 今はユートのアイテムストレージの肥やしである。

 

 そんな悪行に身を委ねたのには勿論理由があったのだが、そこら辺は取り敢えず関係がない。

 

 刀を構える臥路に対し、ユートは戦極ドライバーを腰に据える。

 

 フォールディングバインドか伸び、ユートの腰には戦極ドライバーが確り装着されて、右手に持っているのは【フレッシュ・オレンジロックシード】だ。

 

 臥路もユートの重武装化は知っている為か、特に驚いた様子もなかった。

 

 カシャッ!

 

《FLESH! ORANG……》

 

 解錠すると電子音声が鳴り響いた。

 

「変身っ!」

 

 高々とロックシードを掲げると、叫びながらドライブベイへと嵌め込み……

 

《LOCK ON》

 

 ベルトへと固定するべく施錠すると再び電子音声が鳴り響く。

 

 カッティングブレードを倒し、ロックシードの前面をカットしてやった。

 

《SOIYA! FLESH ORANG ARMS HANAMICHI ON STAGE》

 

 上空からチャックが出現すると、オレンジの形をしたアーマーの塊が聖魔獣の素体を纏ったユートの頭上に降りてきて、顔を覆ったかと思えば展開していく。

 

「試合、開始い!」

 

 その掛け声と同時に臥路が前方、仮面ライダー真戦鎧武となったユートに向かって駆け出す。

 

 重武装であるが故にこそ持つジレンマ的な弱点を、スピードの低下を考えての速攻といった処だろう。

 

 橙々丸を構えたユートは普通に唐竹の一刀を防ぎ、その侭の体勢から軽く引いて臥路の攻撃を逸らすと、地面へと誘導をする。

 

「くっ!」

 

 ユートは本物の仮面ライダーよりは力任せでなく、それなりに柔軟な戦い方が可能なだけに、緒方逸真流の剣術を使って臥路の攻撃を受けたという訳だ。

 

 即刻、返す刀で臥路へと斬り付けるものの……

 

「うぬ!?」

 

 自らの危機を察知したのかバックステップで躱す。

 

「(流石は剣豪か)」

 

 実力が低ければ終わっていたであろうが、臥路なら予感だけで避ける訳だ。

 

 少しは楽しめそうだ……先の試練迷宮で始末をした男とか、雑魚そのものであったから面白味など無く、精々が見苦しく絶望を叫ぶのを観るだけだった。

 

 ガキィッ! シャキン!

 

 其処からは何合、何十合と剣を打ち合う二人。

 

 久方振りに緒方逸真流を駆使するのは本当に愉しいと感じるが、余り長引かせても冗長が過ぎよう。

 

 鈴夜との約束もある。

 

 ガギィィイッ!

 

 一際に強く打ち合った後に互いが後ろに引く。

 

「中々の実力。JAPAN国に居ればそれなりの地位を得られそうだけど?」

 

「拙者が仕えるは雫姫のみなれば、雫姫が望まれるならばその様に動くまで」

 

 彼を知らない訳でなく、ある程度は話した事もあるから事情は知っていた。

 

 鈴夜からの情報もあり、JAPAN国の小早川 雫とのある意味で駆け落ち、その事を言っている。

 

「敗けたら雫姫にとっては地獄しかないぞ? あんたが敗ければ勝者が雫姫みたいな容姿端麗な娘を放ってはおかないだろう。そうなれば彼女は生きていられるのか?」

 

 ユートが見た限りでは、雫姫は正にお姫様然とした少女であり、愛した男以外に犯されて平然と生きていられる程に強いとは思えないと考えている。

 

 単なるお姫様にそんな強さは無いだろうから。

 

「拙者が勝てば良い!」

 

「僕に勝てるとでも?」

 

「勝つまで!」

 

 刀を上段に揮う臥路。

 

 ユートはそれを受け止めると、弾く様に上へ大橙丸を斬り上げる。

 

 更に小さく円弧を描くかの如く袈裟懸けに大橙丸を振り下ろすも、だがユートの攻撃を臥路は刀で防いで横へとズレた。

 

 その所為で【継ぎの舞い】に移れなかったユート、然し更なる追撃を行う。

 

「くっ!」

 

 第六感だろう、その場に残れば斬られると感じたのだろうが、まさか別に追撃をしてくるとは読めなかったらしい。

 

 追撃の突きも何とか身を捩って躱すものの、僅かに臥路の胸と腹の間を掠めてしまい血を流した。

 

 成程、臥路は正しく剣豪であろう。

 

 刹那の刻を以て躱したのは神業にも等しい。

 

 とはいえ、ユートの剣技は更なる攻撃も可能だったのは予想外だ。

 

 それでも臥路は伸び切ったユートの腕を伝い、刀を突き出していた。

 

 左手には既に抜いていた大橙丸とはまた別の刃で、無双セイバーと云う。

 

 ガキィッ!

 

 無双セイバーの腹部にて防ぐと、ユートはバックステップで下がった。

 

 ドライブベイからロックシードを解除。

 

《LOCK OF》

 

 今度は無双セイバーへと嵌め込んだ。

 

《LOCK ON》

 

「む?」

 

《ICHI JYU HYAKU FLESH ORANG CHARGE》

 

「せやっ!」

 

 裂帛の気合いと共に振り下ろされる無双セイバー、そこからチャージされたであろうエネルギー刃が撃ち放たれ、臥路を襲う。

 

「ガハッ!」

 

 流石の臥路も同じ様に腕が伸び切り、更には行動後硬直をしていては躱す事も侭ならず、まともに喰らって壁に叩き付けられた。

 

 斬れない様に加工していなければ死んでいたであろう攻撃は、臥路がぶつかった壁に罅を入れている。

 

 そんな衝撃を諸に受けてしまっては、細身の臥路ではダメージを吸収しきれなかったか……

 

「ぐはっ!」

 

 喀血をして地面へと倒れ伏してしまう。

 

 審判が臥路の様子を見遣った後、ユートの腕を天に掲げて叫んだ。

 

「勝者、ユート!」

 

『『『『『『わあああああああああっ!』』』』』』

 

 観客からの大きな歓声。

 

 ユートは臥路に近付いて何事かを話し、満足そうに頷いて一振りの剣を渡すと踵を返して立ち去った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 臥路の控え室の扉が開き入って来たのはユート。

 

 悲し気な瞳でユートを見た雫姫は、一度顔を伏せて再び上げたと同時に立つ。

 

「臥路は…………敗けたのですね?」

 

「ああ、そうだな。僕としても敗ける訳にはいかなかったからさ」

 

「判っています」

 

 ザッ! と僅かにユートの足が動くと、ビクッ! 雫姫の肩が震えて恐怖に染まった表情となる。

 

 それでも諦めてしまったのか表情を戻した。

 

「理解してます。あの、扉を閉めて頂けますか?」

 

 ガチャン!

 

 言われた通りに扉を閉めたユートは、更に鍵までも閉めてしまう。

 

 雫姫は着ていた着物に手を掛けると、衣擦れの音を静かな室内に響かせながら帯を外し、スルリと袖部を落として肩口を覗かせた。

 

 完全に落とせば白襦袢だけになったろうが……

 

「嫌……やっぱり嫌です! お願い、私は臥路を愛しているのですっ! あの人以外と肌を合わせるなんて出来ない!」

 

 これが本来の相手なら、選択肢次第だった。

 

「君は大会に出場する際、ルールを確認したろう? シュリからも何度も確認をされた筈だ」

 

「そ、それは……」

 

「つまり、君に拒否権は……無い」

 

 絶望に顔を青褪めさせる雫姫、ユートはそんな彼女を追い詰めるが如く一歩、また一歩と歩み寄る。

 

 完全に壁にまで追いやられた雫、ユートは手で雫をベッドに押し倒した。

 

「キャッ!?」

 

 コロンとベッドの上へと転び、服装を乱れさせながら仰向けとなり、ユートは雫姫の頬へと触れながら、動けない様に覆い被さる。

 

「あ、嫌……赦して、堪忍して下さい……いや、イヤ……イヤァァァァァァァァァァァァァアアアッ!」

 

 そして一晩が経ち……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 雫姫──小早川 雫が眠っている。

 

 ユートの腕を枕代わり、胸板に頬を押し当てながら安らかな寝息を立て、然しながらその目元には一筋の涙が零れ落ちていた。

 

 それは眠るが故の無意識からくる罪悪感なのか? 雫姫の股間からは、決して彼女の身体からは出ない筈の成分で作られた液体が流れ落ち、ベッドの一部には黒ずみ掛けている赤い染みがこびり付いている。

 

 小柄な方でユートの身体にすっぽり収まっていて、白い肌は発熱からうっすらとピンクに染まっていた。

 

 情事の後だと誰が見ても明らかであり、しかも雫姫は間違いなく初めて。

 

 それはベッドのシーツを汚す赤黒い染み、股間から流れる白から透明に変わりつつある液体に混じる桃色が証明している。

 

 情事を終えてから未だに一時間と経ってはおらず、雫姫は初めて味わったその激しい感覚と疲労感故か、眠るというより気絶したに等しい感じで意識を失っていたが、ユートは物足りなかったのか目を開けて雫姫の可愛らしい寝顔を観て、先程のえっちぃ行為を思い出しながら、雫姫の太股に分身の敏感な先端部を擦り付けていた。

 

 早い話が雫姫のすべすべとした肌を用い、自慰に耽っているという訳だ。

 

 流石に眠る──気絶する──雫姫へ無理矢理に挿入して

 通常時はそんな事も無い──否、だからこそ情事を交わす時には解放全開逝っちゃえ心の全部でと謂わんばかりに、持ち得る性欲の全てをぶつけてしまう。

 

 何人も同時に相手取り、一人に対して二十回以上も濃厚に抱くユート。

 

 そう、薄い情交などではない濃厚なモノだ。

 

 回数を増やしてもそれで内容が薄くなっては意味が無いとユートは考えたし、何よりもユートは全身全霊で愛さないと気が済まないタチだった。

 

 雫姫は今夜が初めてだったからか大分、手加減をされて負担も軽減している。

 

 子宮に三回と菊門に一回と口に二回、それとサイズ的にギリギリだがお胸でも一回の合計六回。

 

 普通の行為に比べて確かに少ない回数だ。

 

 朝になってユートが雫姫の頭を撫でると……

 

「う、ん……? 朝」

 

 擽ったそうに呻きつつ、フッと目を開けた。

 

「おはよう、雫」

 

「あ、おはようございます──ユート様」

 

 雫姫は頬を朱に染めて、はにかみながらユートへと挨拶を返す。

 

 昨日の──『嫌……やっぱり嫌です! お願い、私は臥路を愛しているのですっ! あの人以外と肌を合わせるなんて出来ない!』──という科白は何処へやらと謂わんばかり。

 

 或いはユートの性技によって酔い、メロメロにでもなったのだろうか?

 

 答えは否である。

 

 本来なら好きでもなかった筈のユート、そんな相手に処女を捧げさせられて、何度も胎内に射精を受けていた雫姫が、まるで愛しい彼氏を見る様な瞳と表情で朝の挨拶を交わす。

 

 ユートには女性限定であるなら、【まつろわぬ神】でさえも上手くやったならば想いを寄せさせる権能を持っており、優しさよりもヤラシさを持ったユートにヤらないという選択肢を端から捨てていたから、雫姫の性格から抱けば自害しかねないと考えて権能を行使していた。

 

 臥路義笠戦の前に準備だけは済ませてあったが故、雫姫はあっさりと権能によって堕ちる。

 

 それが今現在の雫姫。

 

「起きたなら臥路の所へと行こうか?」

 

「は、はい。すぐに着替えますので……」

 

 立ち上がったらポタポタと股間から、未だに残っていた異物とも云える液体が零れ落ちている。

 

 恥ずかしそうに股を閉じると、着崩れた赤い和服──PC版──で何とか隠しつつバスルームに向かう。

 

 暫しの間に聞こえてくる水の音、それに紛れて雫姫の鼻歌が響いてきた。

 

 これから何処へ行って、何をするのかは知らせてあった筈だが、まるでそれが楽しみだと謂わんばかり。

 

 ややあって……

 

「お待たせしました」

 

 ほんのり微熱で上気した肢体に未だ燻る湯気が立ち上ぼり、雫姫から微かにだが良い香りが流れてユートの鼻腔を擽ってきた。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「はい」

 

 外へと出て歩く。

 

 雫姫はユートの後ろを、三歩離れて歩いていた。

 

 約十数分を進むと陣羽織を羽織る侍──臥路義笠と忍装束の女性たる鈴夜が、二人並んで立っているのが見えてくる。

 

「遅くなったな」

 

「いや、此方も先程着いた処だから気にするな」

 

「そうか」

 

 挨拶が済むと雫姫が前へと出て臥路を見遣った。

 

「姫……」

 

「臥路、今まで本当にありがとうございました」

 

 深々と頭を下げる。

 

「私はずっと臥路を我侭で振り回しました。それを思うと御詫びのしようもありません」

 

「何と言われるのか、我が忠義は姫にあります故に、お気になされぬよう」

 

「ありがとう、そしてごめんなさい。私はこの方と共に往きます。臥路は国に帰って下さいませ」

 

「それが姫の御意志なら」

 

「とはいえ、雫姫を拐かしたとされるアンタだしな。手ぶらで帰れば間違いなく処断されるな。だから」

 

 ユートはアイテムストレージから、一振りの刀を出して臥路の前に出す」

 

「餞別と雫の手切れ金代わりにやるよ」

 

「ま、まさかそれは!」

 

「当たり、叢雲だ」

 

 結局、シードも見付けられなかった叢雲だったが、ユートは先んじて手に入れていたのだ。

 

「雫より大切らしいな? こいつを持って凱旋したら赦されるだろうさ」

 

「か、忝ない」

 

 

「言ったろ? 手切れ金代わりだって……な」

 

 後は鈴夜が万事を上手く運ぶ手筈。

 

 雫姫は死んだ事にして、全く無関係な女の死体から失敬した首を使い、国中を騙す事となる。

 

 その後は神器奪還の手柄を以て再び国許に仕える身となり、鈴夜を妻に迎える事によって余計な干渉などをブロックするのだ。

 

 まあ、後は野となれ海となれ……ユートには無関係な物語を紡ぐであろう。

 

 臥路と鈴夜が闘神都市を離れていくのを見守っていた雫姫は、再び深々と頭を下げると……

 

「ごめんなさい、臥路……さようなら」

 

 一滴の涙が頬を伝う中、最後の……そして永遠たる別離の言葉を口にした。

 

 

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