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三回戦が終了した翌朝、ユートが羽純・フラメルを連れて、宿屋の部屋へと戻って来た。
「何で羽純が居るのさ? ってか、カムイ・ゴウに犯されて壊れてたんじゃなかったの?」
印象としては、カムイ・ゴウに何度も何度も犯され続け、『やがて羽純は考えるのを止めた』的な状態になっていたと思われるが、今の羽純にそんな翳りは見当たらない。
「ユーキの考えに間違いは無いよ。確かに羽純は壊れていたからね」
そう言って、羽純の方を見遣るユートに気が付き、顔を真っ赤にしながら俯いてしまう。
「んゆ? 何? その初々しい反応は……幾ら兄貴でも羽純を堕とせるとは思えないんだけどさ?」
羽純は唯でさえナクト・ラグナードに想いを寄せていたし、何よりもカムイ・ゴウにより精神が参っていたのだから、ユートに反応をしたとも思えないとは、考え過ぎではない筈だ。
ユートはその手練で女の子達を快楽堕ちさせるのが得意──本人は否定したがっているが──としている訳で、特別な相手というか夫や恋人が居る女性までは堕ちないだろうと、ユーキも考えていたのだ。
否──不可能ではないのだろうが、時間が一晩という括りでは流石に無理だと思っていた。
「ひょっとしたら兄貴……〝アレ〟を使った?」
プイッと目を逸らす。
「……兄貴の腐れ外道」
「うぐっ!」
ジト目でポツリと罵倒をするユーキに、ユートも決まりが悪いのか呻きながら左胸を押さえる。
見えないナニかが胸へと突き刺さったらしい。
「仕方ないだろ? 反応されないとつまらなかった……もとい、あの侭でほかっていたらそれこそパートナーのペナルティで働く場所なんて、性処理くらいしか無かったんだから」
並べられたならご飯は食べるし、トイレに行って、睡眠も取る羽純だったが、それ以外には自分で動こうとしない。
それでやれる仕事は何かと問われれば、男の闘神が性処理をする穴奴隷くらいしか無かったのだ。
そうなれば最早、壊れるとかどうとかの問題ですら有り得まい。
ユートは未だに知らない事だが、実は本当に闘神の館には心が壊れて性処理用の人形と化した少女が居たりするから、この懸念は当たっていたりする。
しかも羽純より状態が悪いくらいだ。
「僕も〝アレ〟は……ね、あの権能は好きになれないんだよ。だけど必要とあらば使う事に躊躇いを持つ気は更々無いけどね」
「ま、兄貴らしいっちゃ、兄貴らしいのかねぇ?」
外道の極みの様な権能、ユートはアレをどうしても好めない。何故ならアレはある意味であの地雷スキル並に酷い権能だからだ。
アレを殺してこんな権能になったのは、きっとアレのイメージからだろう。
因みに、パンドラ義母には呆れられたといおうか、『アンタって子は〜っ!』とアッパーを喰らった。
「お陰で羽純を正気に返す事は出来たし、便利と云えば便利な権能なんだよな」
「確かに……ね」
使い方次第ではこの上無いくらい便利で強力。
「にしても、権能を使っても大丈夫だったの?」
「いけんのー」
「……兄貴?」
「ちょっとしたジョークだろうに」
何も無理にオヤジギャグを入れんでも……
ユーキは嘆息する。
「アガサ・カグヤに確認を取ったら、戦闘系の権能でなければ妄りに使わない事を条件に許可されたよ」
「へぇ、だけどアレはこの先でも少しは使うよね?」
「……そうなるな」
使うとなれば躊躇わないとはいえ、やはり気分自体は良くなかった。
「羽純は何処か、力を活かせそうな場所で働けば良いのかな?」
「私の……力……」
無制限の
羽純はこの能力を使ってナクト・ラグナードの剣を強化し、闘神大会(Ⅲ)での勝利を支えてきた。
付与師であり、命ある限りは無制限にエンチャントが可能な【拡張付与能力】を持ち、悩みながらナクトに尽くしてきたのである。
「一年後、羽純はどうするのさ? もう還れない訳なんだけど……」
「はい、ナクトに会えなくなるのは寂しく思うけど、〝仕方ない〟ですから……出来たらユートさんの許に居たいです。こんな汚れた私でも良ければですけど」
「そ、そう。なら兄貴次第って事かな?」
表情を引き攣らせながら流し目を送るユーキ、解ってはいたが正しく『効果は抜群だ』というやつだ。
あの権能は何も無理矢理に洗脳するものではなく、それ故にユート的な観点からグレーゾーンすれすれ。
これが単なる洗脳能力であれば、問答無用で封印を施したであろうが、生憎とそうではなかった。
まあ、幾ら言葉を飾った処で洗脳と変わらないのは理解しているが……
「ユーキ、僕は羽純が働ける場所を捜してくるけど、ゲネシスドライバーとエナジーロックシードは任せて大丈夫か?」
誤魔化す様に訊ねると、ユーキは頷く。
「少なくともゲネシスドライバーは僕の領分だから。エナジーロックシードに関しては、やっぱり兄貴の方の領分だね。後、戦極ドライバーも記憶通りに造れると思うよ」
「そうか、なら任せた」
「オッケー」
白夜から既に記憶を見せて貰っているし、それらを元に取り敢えず原典に登場するツールなどを造ろうという話になった。
「ああ、そういえばさ……白夜さんにオルタリングを交換に渡したんだよね?」
「まあね」
「あれって、あの世界での悪魔には光の権化みたいな聖魔獣だから効果的な筈だけど、良かったの?」
「必要ならまた創れば良いだろ?」
「それもそっか」
まだ実験していないが、光に弱い闇の女神には通じたし、ハイスクールD×D世界の悪魔や吸血鬼に対しても効果は期待出来る。
とはいえ、流石は女神だけあってシャイニングフォームになってやっと……といった処だ。
「それじゃ、行こうか? 羽純」
「はい、ユートさん」
部屋を出る二人。
羽純がまるで忠犬の如く着いていく様は、何とも言えない光景だったと云う。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
羽純の仕事先を見付けて戻って来た二人は、折角だから彼女の世界での闘神大会の話を聞く。
仕事は明日からな訳で、今日は特にやる事も無かったから、良い暇潰しだ。
ユートも先日が試合だった事もあり、今日は迷宮の探索を休みにする。
「力に気付いた切っ掛け、それは私がお父さんに貰った桜貝を使って、ゴッコ遊びの心算で付与をした事」
遊び、父親の見様見真似での付与だったが、羽純はそれを見事に成功させる処か付与スロットを増やしてしまっていた。
あの世界──或いはこの世界でも、武器には【付与スロット】と呼ばれるモノが在り、スロットに付与師が素材を使って付与をする事によって、武器の強化を行う事が可能となる。
羽純の父親は羽純の付与を知り、それは二度と使ってはならないと諭した。
拡張付与──それはあの世界に於いて、本来は在ってはならない能力であり、世界のバグだとも云われていて神の怒りに触れる行為なのだと。
それでも子供の羽純には理解が及ばず、どうして使っては駄目なのかと思いながらも、父親の言葉に一応は従っていた。
けれど一度だけ、ナクトの短剣の付与スロットを増やして上げようと、羽純は拡張付与をコッソリ行う。
それをフーデッドマントを羽織り、顔は判らなかったが女性らしき人に見咎められた。
父親と同じく『もう使ってはならない』、『誰にも教えてはいけない』などの注意をして、拡張付与が施された短剣を『預かる』と言って持って行ってしまったのである。
その後、拡張付与に関しては秘密にしていた羽純だったが、鉱山の落盤により多くの人間が怪我をした。
神の怒りに触れるバグ、そんな拡張付与を持つ自分が居たから、こんな事故が起きたのだと震える羽純。
そして、ナクト・ラグナードが数年前に闘神となったら帰ると行って、居なくなってしまったナクトの父親であるレグルス・ラグナードを捜すべく、闘神都市へと向かったのを追い掛けた羽純は、パートナーを見付けられないナクトの為、規約も読まずにパートナー契約をしてしまう。
一回戦、二回戦と順調? に勝ち進むナクト。
勿論、対戦相手のパートナーと致している。
そんな中でも一番の不安があった。
幼き日から憧憬の対象であるレメディア・カラー、カラーという種族の剣士。
彼女は強いが、万が一にもナクトが勝ったら自らをパートナー代わりにしているレメディアを抱く筈。
ずっと目標であり憧れたレメディアとそんな事になったなら、ナクトは本気でレメディアを好きになるかも知れない。
そうなったら自分は……
尤も、そんな心配ら要らなかった。決勝戦に於いてナクトとレメディアの戦い──それを制して闘神の座に就いたのはレメディアであったから。
ナクトはパートナーが負うべき責務を、お金を払う事で解放しようとしたが、何故か石にすり替えられており、しかも何者かに襲撃を受けて羽純は連れ去られてしまう。
その後のナクトは知らないが、一年後にムシ使いのアザミ・クリケットをパートナーとして闘神大会へと出場をした。
その後もなんやかんやとあったが、全てが解決を見た後で漸く二人は互いの想いを認め合い、そして結ばれようとしたその時……
「えっ?」
トロトロに蕩けた股を開いて、ナクトのモノを期待と不安が綯い交ぜになりながらも待っていたら、何の兆候も無く行き成り全く別の場所へと転移した。
其処に居たのは不気味な笑みを浮かべた男、カムイ・ゴウと銀髪碧眼アホ毛な少女の二人。
カムイ・ゴウはズボンとパンツを脱ぎ、羽純に伸し掛かり自らのモノをナクトの為に準備万端だったソコへと情け容赦も無く、嫌がる羽純の思いなど完全無視して突き入れた。
後はユート達も知っての通り、考える事すら止めてしまった羽純はまるで西洋人形の如くで、食べるのとトイレと寝る事、生理現象を満たす事のみを自発的に行う生きたダッチワイフ。
昨夜までは……
「ユートさん、宜しければユートさんの武器に拡張付与を施しますが?」
「う〜ん、要らない」
「──え? でも、便利ですよ? あの、桜貝なら少しは持っていますし……」
「いや、そうじゃなくて、必要が無いんだよな。僕の剣技は元より武器に頼り切ったものじゃあないしね、今はブレイブを使って闘ってるから」
「けど、その……だったら私はどうすれば? これじゃ私、役に立てない……」
オロオロと視線を右往左往させ、胸元で手を組んで落ち込んでしまう羽純。
「別段、役に立たなきゃいけない訳じゃないだろ?」
「だって、私、私……」
落ち込む処か鳴き始めてしまう。
〔ちょっと、兄貴!〕
〔何だ?〕
〔どうなってるのさ!? これってあからさまに兄貴に捨てられるのが怖くて、何とか自分の有用性をアピールしてる図だよ?〕
〔みたいだな……〕
〔本当にあの権能、洗脳をしてるんじゃないよね?〕
〔してない……筈〕
念話を用いた会話故に、ユートとユーキ以外に聞こえてないやり取り。
羽純の余りにも余りな、『捨てないで』アピールにユーキは疑問を持つ。
〔実際に、〝あの二人〟はああだったじゃないか?〕
〔まあねぇ……〕
ユートの言い訳に対し、ユーキも思い当たる節があり取り敢えずは納得した。
ユーキはゲームのお陰で彼女を知っている。
羽純・フラメルはとある世界に於いて、バグとも云われる力を持つ。
拡張付与──在ってはならない無限に付与スロットを増やせる、拡張をする事が可能な特殊で特別で……そして忌むべきチカラ。
彼女の父親はこれを二度としてはならないと言い、更には別の者も人前で決してやってはいけないと忠告をする程であり、チカラを使えば神様が怒り災いが起きると言われていた。
そんなチカラをナクト・ラグナードという幼馴染みの為に、羽純は闘神大会で使う事を決意する。
ずっと傍に在った幼馴染みだから……だけでなく、きっと幼い頃より想い続けてきた彼の為に。
だからだろう、闘神大会でナクトが勝ち上がるのは嬉しいし、ナクトが勝たなければ自分がどうなるのか想像に難くない。
だが、それはつまり──ナクトが勝利をしたなら、敗者のパートナーと同じ事をしていると云う事。
闘神大会への出場には、必ず見目麗しい女性をパートナーとして伴わねばならないルールで、大会出場者が女性なら自身をパートナーの代わりに出来る。
そして出場者が敗けてしまった場合、敗者のパートナーを一日だけ殺害以外なら好きにする権利を与えられるのだ。
大会出場者の多くは男、ならば綺麗だったり可愛かったりする女性を好きにする事が出来るなら、大抵の勝者が行うのは決まっているであろう。
余程の真摯か男色家か、女性出場者でもなければ。
或いはEDか?
だから、ナクトが勝利をしてくれるのは嬉しいが、その反面で淋しさもある。
この寂寥感はナクトが勝って、一人で宿に帰る最中に胸中へと飛来した。
勝ったナクトは自身が打ち負かした相手のパートナーの控え室へ、自分が孤独に宿の部屋へと戻っている時にも、会話をしていたり肌に触れたり……抱き締めているのだろう。
特に最初の相手、ドギ・マギのパートナーであったマニは、元々が商家の娘で深窓の令嬢といった雰囲気であり、ドギ・マギにより浚われて無理矢理に連れ回されていた。
マニ・フォルテ──
橙色の長い髪、青い瞳、白いドレスに包まれた白い肌に、目を惹くきょぬー、そして育ちの良さが窺える清楚な佇まい。
そんな彼女が一日だけとはいえ好きに出来るなら、ナクトならずともヤる事は一つしかない。
EDだったり、男色家だったり、女性だったりしない限りは。
皮肉なものだ。
自分は自身を守る為に、ナクトに勝利をして貰わねばならないし、元の動機はナクトの父親が闘神レグルスであり、会うには闘神になるしかないからとパートナーに立候補をした。
結果、ナクトがマニを抱く手伝いをしたのだから。
しかも当時、羽純は自分の気持ちを見定めてはいなかったし、ナクトもお馴染み以上に感じてはいない。
マニを抱くのも闘神大会のルール上、認められている行為に過ぎなかった。
だからこそ羽純はマニを抱いて帰ってきたナクトに笑みを浮かべ、ただ一言の迎えの言葉を口にする。
『お帰り、ナクト』
胸の痛みを感じながら。
その後も順調? に勝ち進んでいったナクト。
十六夜幻一郎を倒して、十六夜桃花と致した。
ナミール・ハムサンドを倒して、本人と共に双子の姉妹を抱いた。
ムシ使いのマダガラ・クリケットを倒し、アザミ・クリケットを抱いた。
決勝戦、相手は知り合いのレメディア・カラー。
カラー種族の女剣士。
レメディア・カラーとはナクトにとっては謂わば、憧れのお姉さん的な立ち位置に居り、そのレメディアに勝って抱いたら?
羽純はズキズキと痛む胸押さえつつ、控え室にて戦いの行方を気にしていた。
結果はナクトの惨敗で、レメディアは同性だったから特にナニをされる訳でもあるまい。
後は免除金をナクトが支払えば終わる。
だけど何故か免除金は無くなっており、羽純は浚われてしまった。
これがユーキの知っている闘神都市Ⅲの羽純。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
此方側に来た羽純は何の因果か、心をズタズタにされながらも再び闘神大会のパートナーとなり、そして自分を弄んだ男は敗北。
どうでも良かった。
男に犯されるのも勝者に犯されるのも変わらない。
自分の前に立つ勝者は、何事かを呟きながらキスをしてきた。
好きにすれば良いのだ、自分は唯黙してされるが侭になるだけなのだから。
そんな風に思っていた筈なのに、急に頭がクリアになったかと思うと、ナクトへの執着が無くなる。
別に忘れた訳ではなかったし、大切な幼馴染みなのも変わらない。
でも色恋沙汰で考える事は無くなっていた。
色を取り戻した瞳が映したのは一人の青年であり、闘神大会で自分を犯していた男を倒した勝者。
この世界に〝再誕〟して初めて視た人間──それは一種の刷り込み現象。
ユート自身が把握をしていない、この権能の効力みたいな……否、副産物と云うか副作用といった感じであろうか?
権能を使うと執着が消えてしまう分、ポッカリと穴が空いた様な感覚に陥るのだが、その穴を埋めるべく最初に視た〝異性〟を執着の代わりとしてしまう。
つまりは、権能を使った施術者を最初に視てしまう必然から、ユートを執着の代替にするのだ。
羽純のユートへの依存はそれが理由だった。
まあ、個人差が出るのは御約束というやつで、羽純の場合は全てを喪った状態な上に、カムイ・ゴウから何度も……孕まなかったのが奇跡なくらい何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、犯され続けていた負い目もあって、あんな感じになったという訳である。
取り敢えず、ユートからの説得もあってか? 羽純は普通にこの宿屋に世話になりつつ、一年間の奉仕活動に臨む事とあいなった。
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