闘神都市RPG【魔を滅する転生闘】   作:月乃杜

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第10話:私達の逢瀬を始めましょう!

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 ミリオとの闘いに勝利をして、ユートはクレリアの居る控え室へと向かう。

 

 それ程には親交もなかった彼女だったが、クレリアはクレリアなりにミリオの力になりたいと考えている程度には理解していた。

 

 本来、闘神大会出場者のパートナーは見目麗しく、年齢も一五歳以上でなければならないが、クレリアは明らかにそれより下。

 

 ミリオと同い年なのだろうから当然か。

 

 そんな彼女がパートナーとして受理された理由は、魔法によって見た目を大人に変化させていたから。

 

 ユートは敢えてその魔法を解除すると、本来の姿のクレリアを抱いた。

 

 年齢に厳しい制限を法律で定めた地球なら兎も角、ハルケギニアやこの世界はそれが存在しない。

 

 地球で──草薙静花や、万里谷ひかりにそれをしなかったのは、何をしても許されるカンピオーネであるとはいえ、そこが地球であったからだ。

 

 それに年齢はまだしも、クレリアくらいの体格をした娘を抱くのは、別に初めてという訳でもない。

 

 ユートの知ってる魔導書の精霊は基本的に小さく、人間でもユーキやタバサみたいに発育不良(ミニマム)な娘を抱く事だってある。

 

 クレリアに悲壮感が無かったのも拍車を掛けた。

 

 余程、性に対して大らかでないと好きでもない男と性交などしたいとは思わないだろう。

 

 況してや、想い人が居るのなら余計にだ。

 

 クレリアの場合はそれに関して余り深く考えていないらしく、割とアッサリめにユートに抱かれた。

 

『これで私も大人の仲間入りだよ♪』

 

 ピロートークで言い放ったクレリア、明日から一年間をこの都市で奉仕活動に殉じなければならない。

 

 既にくじらがアイテム屋で働いているのは確認しているし、さやかも去年での出場敗者のパートナーとして働いている。

 

 それを回避する為には、百万GOLDを支払う必要があるが、ミリオに払える額ではないだろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌朝、ユートはクレリアと別れると宿屋に向かって歩いていた。

 

 だけどすぐに方向転換をして、人気が無くてそれなりに広い場所に足を運び、とある位置を見遣る。

 

「出てきたらどうだ?」

 

 ユートの声が響く。

 

「出てこないなら、攻撃を打ち込むぞ?」

 

 そう言うとユートは魔力を掌に集中させた。

 

 流石に攻撃をされるのは勘弁なのか、すぐにユートの前へと現れたのはフーデッドマントを纏う何者か。

 

「誰だ? 次の対戦相手の関係者……か? それともミリオかクレリアのファンか何かかな?」

 

 目の前の存在を襲撃者と認識をして、ユートが皮肉もたっぷりに訊ねると……

 

「……どちらも違うけど、貴方の力を、貴方の真実を見せて貰います!」

 

 そう言うと、赤い機器を取り出して腰に宛がう。

 

 声は女性っぽい。

 

「それはっ!?」

 

 銀色のベルトが伸びて、フードの女性? の腰へと装着された。

 

 そして手には青い錠前みたいな何か、前面が桃の様な形をしていて、ELS−003と刻印されている。

 

「変身っ!」

 

《PEACH ENERGY!》

 

 アンロックリリーサーを押すと錠前が開かれ、棘々しい女性の声色で電子音声が鳴り響く。

 

 ゲネシス・コアへと錠前を嵌め込んで閉じる。

 

《LOCK ON!》

 

 アラビア風の音楽と共に電子音声が鳴り響いた。

 

 ベルトの右側のシボール・コンプレッサーを押し込むと……

 

《SODA!》

 

 キャストパッドが二つに等分割され、シードインジケーターが露わとなって、下からエネルギーが充填されていく。

 

 すると上空にチャック──リファインシャックルが開いて、桃っぽい何かが頭を覆い本人はゲネティック・ライドウェアと呼ばれるド派手なピンクのスーツに身を包む。

 

《PEACH ENERGY ARMS》

 

 桃っぽい何かが展開し、それは鎧となって肩や胸部を覆って、右手には赤い色の弓の様な武器──ソニックアローが顕れた。

 

「仮面ライダーマリカ!」

 

 女性? はポーズを執りながら名前を名乗る。

 

「マリカ……日本語名……な訳無いか。アラビア語で確か女王だったか?」

 

 ユートは呟きながらも、ブレイバックルにラウズカード、カテゴリーAであるビートルアンデッドを封じたベスタを装填し、腰へと宛がった。

 

 シャッフルラップが伸びて装着されると、ターンアップハンドルを引く。

 

「変身!」

 

《TURN UP!》

 

 オリハルコン・エレメントが展開されて、ユートがそれを潜るとブレイドにも似たシルエットながらも、明らかに色や模様が別物な姿へと変わった。

 

 頭部は、シルエットだけならブレイドのキングフォームに近い。

 

「仮面ライダーブレイブ」

 

 これが、ブレイブ本来の仮面ライダーモードだ。

 

「然し、そんな仮面ライダーは見た事が無いな……」

 

「行き成り情報収集とは、慎重ですね。流石は座右の銘が『情報は力』『未知こそ敵』なだけあります」

 

「な、に……?」

 

 確かにそうだが、目の前の女性──なのだろう──はどうして知っている?

 

 答えは簡単、ユートの知り合いだからだろう。

 

 ユートはラウザーホルスターから、ブレイラウザーを抜いて構えた。

 

 仮面ライダーマリカも、右手のソニックアローを構えている。

 

「さあ、話は後。今は私達の剣舞(ソードダンス)を踊りましょう」

 

 目的は不明であったが、どうやら闘いになる事だけは確定の様だ。

 

「(転生者の一人……か)」

 

 二人はお互いに先手を取るべく、牽制の意味も込めて同時に前へ駆け出した。

 

「ソニックアロー!」

 

 ゲネシスドライバー同様に赤を基調としている弓型ツールウェポン、ソニックアローの弦に当たる部位を引いて、マリカが右手を放すと鏃の形をした部位からエネルギー弾が放たれる。

 

 幾度もそれを繰り返し、何発も放ったエネルギー弾だが、ユートは右手に持つブレイラウザーでそれらを逐次に弾き、地面に叩き付けたり空中に跳ね上げた。

 

 その隙を逃すマリカではなく、ユートの懐まで最接近するとソニックアローを剣の如く揮う。

 

「チッ!」

 

 舌打ちをしながらブレイラウザーで打ち合った。

 

 鍔迫り合いの音が眩しい人生を過ごしてきたユート故にか、マリカの猛烈苛烈な剣戟にも戸惑いは無い。

 

 水色のアークリムという刃により、まるで剣の如く使える弓はカリスアローと同じ、近・中・遠距離での闘いを可能としていた。

 

 まあ、有効射程距離的に中・近距離の方が闘えるのかも知れないが……

 

 ブレイラウザーとソニックアローが激しく、甲高い金属音を打ち鳴らし合いながらぶつかる。

 

「この剣技……」

 

 有り得ないくらいに似ている、自らの使う流派──緒方逸真流の剣技に。

 

 それにマリカは言った。

 

『私達の剣舞(ソードダンス)を踊りましょう』

 

 正確には刀舞(ソードダンス)だが、この言い回しは明らかに緒方家のもの。

 

 これは初代の──『我が刀舞を披露してしんぜよう』からきている。

 

 だけど違和感も有った。

 

 何と無くであるのだが、マリカは本来の闘い方をしていない気がする。

 

 緒方逸真流の動きとこの違和感、果たして……

 

「お前は何者だ?」

 

 剣戟の最中に訊ねる。

 

「さあ? 何者でしょう。御自身で考えられたら如何でしょうか」

 

 話す心算は無いらしい。

 

「力試しが目的なら此方に何らメリットも無いから、とっとと止めたいんだよ。この侭、消えても別に構わないんだが?」

 

「……メリットがあれば戦ってくれますか?」

 

 打ち合いを止めてマリカがユートに訊ねた。

 

「メリット?」

 

「声や仕草で解るとは思いますが、私はこれでも性別は女です。容姿も……それなりにモテましたし、悪くはないと思っています」

 

「だから?」

 

「この舞闘(たたか)いで、貴方が勝てば闘神大会敗者のパートナーと同じ扱いをして下さって構いません」

 

「ハァー?」

 

 何を言っているのか理解しているのだろうか?

 

 闘神大会敗者のパートナーと同じ扱い──ユートは昨夜から今朝に掛けて同じベッドに寝ていたクレリアを思い出し、思い切り間抜けた声で絶叫をする。

 

 尚、大人の姿になる魔法も本人の意識が無いから、解けてしまっていた。

 

 現代日本人の倫理観から云うと、クレリアの状態は如何にもヤバい。

 

 ○学生が股と股の間から白い欲望の塊を垂れ流し、あどけない表情で眠っている──の図だったから。

 

 まあ、そもそもユーキや那古人が相手だと似た状態になる訳だが……

 

 再び戦闘を開始する。

 

「くっ、スペックが高い。どうなっている?」

 

 ブレイブの出力はブレイドより実は高く、パンチ力も五トンに達していた。

 

 ジャックフォームになれば約八トン、キングフォームなら十トンとなる。

 

 ブレイドではなくブレイブなのは何もユーキからの意向ではなく、イメージ的にブレイドだとスペックを越えられなかったのだ。

 

「マリカのパンチ力は一二トン以上です。そこら辺の仮面ライダーより遥かに上ですよ!」

 

「っ!」

 

 強化形態でもないのに、ブレイドのキングフォームを倍以上も上回る出力。

 

 ブレイブの〝キングフォーム〟でもまだ足りない。

 

 とはいえ、スペックだけが全てを決するという訳でもないのだ。

 

 事実、スペック上でならマリカの半分以下でしかないブレイブで、ユートは確かに抗し得ている。

 

 ユートはラウズアブソーバーを開き、中からカードを取り出した。

 

「させません!」

 

 扇を出してマリカが投げ付けてくる。

 

「くっ!」

 

 それはユートの手に当たって、思わずカードを取り落としてしまった。

 

「これで強化変身は出来ませんね!」

 

 ソニックアローを片手に向かって来ながら言うが、次の瞬間……

 

《ABSORB QUEEN!》

 

 仮面で判らないが、目を見開いて驚愕してしまう。

 

「ど、どうして!?」

 

 足下にはユートが落とした筈のカードが確かに存在をしており、アブゾーブのカードをインサート出来る訳がなかった。

 

「これは囮で、弁天モードで使うカードだったんだ。此方が本物だよ!」

 

 言いながらラウズカードをスラッシュする。

 

《EVOLUTION KING!》

 

 使ったのは【エボリューション・コーカサス】で、劇中ではキングと名乗っていた少年、コーカサスアンデッドを封印していた。

 

 オリハルコンエレメントが顕れ、ブレイブがそれを通過すると金色をふんだんに使った色彩で、ジャックフォームより豪華絢爛な姿として変化する。

 

「仮面ライダーブレイブ・キングフォーム」

 

「え? それがキングフォームって……?」

 

 見た目がブレイドなのにブレイドのキングフォームと異なり、戸惑うマリカ。

 

「何を驚く? 元々キングフォームはカテゴリーKと融合したフォームだろ?」

 

「そ、それは……確かに。でも!?」

 

「そしてこれが」

 

 更なるカードのスラッシュを行う。そのカードには白地に禍々しいまでに赤い紋様が描かれていた。

 

《JOKER!》

 

「アルビノジョーカー?」

 

 緑の紋様でない処から、通常のジョーカーではなく劇場版に出た、志村純一に変じる白と赤を基調としたもう一人のジョーカー。

 

《OVER EVOLUTION KINGDOM》

 

 金色のカードを模しているナニかがブレイブの周りを回りながら、その姿を大きく変えていく。

 

 そう、丁度キングフォームになるブレイドの如く。

 

「これが……仮面ライダーブレイブ・キングダムフォームだ!」

 

 仮面ライダーブレイブ・キングダムフォーム。

 

 要は、仮面ライダーブレイド・キングフォームの事であり、ユートは本来想定されていた方をキングフォームと呼び、剣崎のブレイド・キングフォームの方はキングダムフォームと呼んでいるのだ。

 

 スートを束ねる王国──キングダムと。

 

 また、このブレイブ・キングダムフォームは原典のブレイド・キングフォームより遥かにスペックが上。

 

 仮面ライダーマリカとてスペックは高いが、流石にユートのキングダムフォームに比べると劣る。

 

 ガキィッ!

 

「そ、そんな……っ!?」

 

 マリカは技術力で負けており、遂には仮面ライダーのスペックでも負けた。

 

 これでマリカがユートに──仮面ライダーブレイブに勝てる要素は、限り無くゼロに等しくなってしまったといえる。

 

「はぁぁぁっ!」

 

「くはっ!」

 

 重醒剣キングラウザーの重々しい一撃は、マリカも受け止め切れずに呻く。

 

 仮面ライダーモードでは基本、弁天モードとは別個に武装を使える。

 

 共通するのはブレイラウザーだけだ。

 

 従ってキングラウザーと鏖殺公も、当然ながら別個に存在していた。

 

 正確にはキングラウザー(ブレイド)

 

 キングラウザー(ギャレン)や、キングラウザー(レンゲル)という、別のキングラウザーと区別をするべく名を付けている。

 

 そしてユートは今一つ、違和感についても考えた。

 

「(さっきの扇……何処かで見たな……)」

 

 何処だったのかまでは思い出せないが、ずっと昔に見た覚えが確かにある。

 

 あの扇こそが、違和感の正体であるのだと思った。

 

「(扇……か。確か緒方逸真流には扇術が在ったけど……あれはカウンターが主だったよね?)」

 

 元より技によって使える使えないは有れど、基本的には武器を選ばない流派。

 

 刀術、弓術、拳術、扇術など専用の技法も在る。

 

 時代が新しくなってから銃術なんてのも出来たし、錬術をユートが作ったから今尚も進化をしていた。

 

 錬術は体内エネルギーを操る技法である。

 

 扇術は鉄扇を使って攻撃やら防御を行うものだが、中には普通の扇を用いての体術混じりな技を好む者も居た。ある時には牽制として投げ、またある時は武器を受け流すカウンター型の戦い方をする場合も。

 

「やはり、知っている……気がするんだがな」

 

 ユートがキングラウザーを地面に刺し、肩や腕や脚などに散見するアンデッドクレストが妖しく光ると、更に胸部のハイグレード・シンボルも光る。

 

「っ! あれは……」

 

 マリカはゲネシスドライバーから、ピーチエナジーロックシードを解錠するとバックルから取り外す。

 

《LOCK OFF》

 

 更には、ソニックアローの窪み──エナジードライブベイに嵌め込んで施錠。

 

《LOCK ON!》

 

 弦を引く。

 

 ユートもギルドラウズカードを喚び出し、その黄金のカードをキングラウザーへとインサートする。

 

《SPADE TEN JACK QUEEN KING ACE……》

 

 スペードスートの五枚の紋様が顕れた。

 

《LOYAL STRAIGHT FLASH!》

 

「ウエェェェイッ!」

 

《PEACH ENERGY!》

 

 マリカが弦から指を放すと桃の形状のエネルギーが顕れ、極大化された光矢が放たれる。

 

 ぶつかり合う必殺技と必殺技……

 

 ドガンッ!

 

「ぐあっ!」

 

「キャァァァァッ!」

 

 互いに弾かれてしまい、反対方向へと吹き飛ばされてしまう。

 

 ピーチエナジーロックシードが外れ、マリカの変身が解除されて倒れ伏せた。

 

 ユートはすぐにも立ち上がると、ターンアップハンドルを引いて変身解除。

 

 カテゴリーAのカードをブレイバックルから引き抜いて、強制的に変身が解除されたマリカ──だった娘へと近付く。

 

「くっ、強い……ですね。私の方は耐え切れずこの様でしたのに。貴方の勝ちですよ──優斗様」

 

 パサリ……

 

 フーデッドマントのフードが落ち、露わとなるのは艶やかで美しいまでの漆黒の長髪。

 

「君は!」

 

 白粉をぬりたくっている訳でも、だが病的で不健康な訳でもない透き通るかの様な白い肌。

 

 これは緒方に列なる血筋の女に共通する特徴だ。

 

 この日本人離れをしている肌故に、白──と初代の奥方は名付けられた。

 

 そしてユートと同じで、黒曜石も斯くやの黒瞳に、日本人形みたいな美しく整った顔立ち。

 

 妹の白亜とよく似た容貌だが、明らかに白亜本人とは別人だと判る。

 

 何より、白亜がこの場に単独で居る筈も無い。

 

 白亜は活発な洋服が似合ったが、この娘なら純和服姿がよく似合いそうだ。

 

 そして、ユートにはこの娘に確かな見覚えがある。

 

「白夜……狼摩白夜!」

 

 ユートが独り立ちして、アパート暮らしを始めた頃から、白亜や分家の娘達が入り浸るという程でもなかったものの、よく訪ねて来てはご飯を作ってくれて、一緒に食べては泊まり掛けで遊んだものだった。

 

 狼摩白夜(びゃくや)や、坂城白姫(しろひめ)などの見た目には美しい少女達。

 

 当時は彼女らに変な噂が立ったら良くないと考えたものではあるが、今にして思えば何かしらの目的が有ったのでは? とも。

 

 家からの仕送りで大学に通うお気楽学生だったし、当時から有名だったMMO−RPGを皆でプレイしたりもしていた。

 

 優斗はユート、白亜だとハクア、白夜はヨル、白姫はヒメなどなど。

 

 惜しむらくは、次回作の発売前だったが故に初めてのVRMMOを遊べなかったという事か……

 

 それは兎も角、ユートはのそりと起き上がる白夜を見つめていたが、すぐに手を貸して起こしてやる。

 

「ありがとうございます、優斗様……相変わらずそつのない優しさですね」

 

 白い頬を仄かに桃色に染めて言う白夜。

 

「さて、早速ですが行きましょうか?」

 

「行く? 何処へ?」

 

「あら、先程言いました。私が敗けたら闘神大会敗者のパートナーと同じ扱いをして下さって構わないと。昨夜はあんな小さな子とも『御楽しみ』でしたのに、知らないとは言いませんですよね?」

 

「うっ!」

 

 本当の事だけに思わず呻くユートであった。

 

「さあ早速、宿屋にいきましょう」

 

「待てい!」

 

 ストップを掛けるユートに対し、プクッと頬を膨らませる白夜。

 

「何ですか、もう! 私じゃ魅力は有りませんか?」

 

「いや、充分に魅力的なんだけどな……」

 

 ユートはチラリと、フーデッドマントの上からでも判る脹らみに目を向けて、サッと明後日の方向へと目を逸らし、呟いた。

 

 白夜がフーデッドマントを脱ぐと、着物で窮屈そうに押さえ込まれた双丘から白い谷間が見える。

 

 妹の白亜は活発な娘で、夏場など家の中では白い袖無しシャツにホットパンツという、スポーツ少女ですと言わんばかりのラフな姿を晒していたが、その反対に白夜は楚々とした着物姿で日々を過ごしていた。

 

 この世界でもJAPANでは普通に着物が流通をしており、手に入れるのは決して難しくはない。

 

「魅力的ではあるんだが、さっき白夜が言った通りでクレリアを抱いたばかり。流石にその直後に別の娘を抱くのはちょっと……ね」

 

「むぅ、それは確かに……デリカシーに欠けますね」

 

 どうやら納得をしてくれたらしい。

 

 勿論、これは詭弁だ。

 

 実際、ユーキを抱いた後にラグナード迷宮で女の子モンスターとヤった事だってあり、其処まで忌避感を持ってはいない。

 

 元々が血縁関係だとか、それも関係無かった。

 

 何しろ、元とはいえ実妹だった白亜を孕ませて還したユートである。白夜とは四親等以上離れているし、其処は問題にしてない。

 

 本当に行き摺りならば、さっさとヤっただろう。

 

 既に手を出した相手なら今更だったろう。

 

 だが、白夜はそのどちらでもなかった。

 

 ユートにとって、ユーキや白亜やシエスタやアーシアなど、大切にしたいのだと思える娘達と同じに見れるだけの相手。

 

 その場限りの関係で終わらせたくない……

 

 そう思えるだけの相手、それが狼摩白夜だった。

 

 そういう相手とはきちんと仲をそれなりに深めて、順序良くゆっくりと抱きたいと考えている。

 

 白夜にとって朗報なのかも知れないが、前々世に於いて実は一番ユートが意識を向けた女の子は誰かと訊かれれば、『狼摩白夜』だと答えただろう。

 

 理由が理由なだけに喜べるかどうかは微妙だが……

 

 ユートは何処ぞの乳龍帝みたく、胸に対して大きな拘りこそ無かったものの、それでも男の子であるが故に胸に目が行く事はある。

 

 今生の白夜は前世の姿と変わらない為、当然ながら自己主張の激しい胸も同じだけ出ていた。

 

 何処ぞの雷光の巫女や、紅髪の殲滅姫程ではないにしろ、高校生の頃の白夜のバストサイズは実に九〇。

 

 日本人という枠組みから鑑みて、可成り大きい方だったのだから。

 

「それに、これっきり会えない訳でも無いだろう?」

 

「それは、会って下さるのなら……はい」

 

「それならもう少しゆっくりと関係を進めたいな」

 

「……そうですね。勝者は優斗様ですから、その御考えに従います」

 

 白夜は納得したらしく、素直に頷いた。

 

 とはいえ、良い雰囲気にでもなれば或いはすぐにも手を出したろうけど。

 

 それに御触りくらいなら普通にする。

 

「まあ、そうだね。折角だからデートでもしようか」

 

「デート……はい!」

 

 白夜は一瞬呆けた後で、満面の笑みを浮かべて頷いたものだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さあ、私達の逢瀬(デート)を始めましょう!」

 

「ブフッ!」

 

「? 行き成り噴き出してどうかしましたか?」

 

「いや、何でもない……」

 

 こないだの【エロヒム・ギボール】の精神ダメージが抜けやらぬというのに、白夜が口に出した科白は正にその原典──デート・ア・ライブに於ける五河琴里がよく言うもの。

 

 それは『さあ、私達の戦争(デート)を始めましょう』的な……

 

 それは兎も角、ユートは腕に組み付く白夜を伴い、闘神都市を歩いていた。

 

 着物だから判り難いが、ユートの腕が埋没してしまいそうな柔らかい双丘に、やはり目が行ってしまう。

 

「ふふ♪」

 

「どうした?」

 

「嬉しいんですよ」

 

「嬉しい……ねぇ?」

 

「はい、こうしてまた優斗様と歩けるのが」

 

「そっか……」

 

「はい!」

 

 どうやら喜んでいるみたいだし、ユートは訊きたかった事をグッと抑える。

 

 不粋に過ぎるからだ。

 

 死んだ理由や転生について訊ねるなど。

 

 緒方家は宗家と分家で、長男長女は基本的な顔の作りが似通う傾向にある。

 

 双子じゃああるまいし、見分けがつかない程ではないだろうが、ある程度には似たり寄ったりな容姿だ。

 

 男は割と凡庸な顔立ち、女は黄色人種とは思えないくらい肌が雪の如く白く、艶やかな黒髪にオニキス──黒曜石の様な瞳を持ち、確りと整った顔立ち。

 

 日本人形の様な整い方をしながら、決して人形では得られない生きた熱も同時に持つが故に、緒方家の女は基本的にモテた。

 

 それこそ、著名の士が挙って欲しがる程に。

 

 白夜とてそれは理解している事だ。

 

「優斗様、優斗様は私達の中で誰が一番御気に入りでしたか?」

 

「私達の中でっていうのは……分家でよくウチに遊びに来ていた中で?」

 

「はい」

 

「ヨル、ユキ、シロ、オト……結構数が居るな」

 

 白夜に白雪に白百に白音の事である。

 

 他にも何人か居るし……

 

「まあ、敢えて一人を選べば白夜だよ」

 

「……え?」

 

 ドクン! 白夜の巨乳な胸が期待感に高まる。

 

「ほら、胸が一番大きかったからね」

 

 ずっこけそうになる白夜だが、ユートに身体を預けているから動けない。

 

 そういえば、ユートからの視線をチラチラと感じていたが、やっぱり胸を視ていたという感覚は間違いではなかったと嘆息した。

 

「優斗様も男の子ですね」

 

「そりゃ……ね?」

 

 普通ならば嫌がりそうなものだが、好きな相手から視られていたのは嬉しいという事か、白夜はギュッと緒方優斗が視ていたおっぱいを更に強く押し付ける。

 

 一頻りデートを楽しんだ二人は、酒場で食事をしながら話をしていた。

 

 それは当然、デート中には訊けなかった事を白夜に訊く為と、今後についての話し合いをする為である。

 

「それじゃあ、御話ししますね? どうして私がこの世界に居るのか」

 

 ユートが頷いたのを見た白夜は暫し瞑目をすると、淡々と前世での出来事を詳しく話し始めた。

 

 

 

.




緒方宗家と分家の娘達。

緒方白亜──緒方家長女。優斗が二十歳時、一五歳。ハクア。

狼摩白夜──狼摩家長女。優斗が二十歳時、一九歳。享年二七歳。ヨル。

風麻白雪──風麻家長女。優斗が二十歳時、一九歳。ユキ。

鴻上白百──鴻上家長女。優斗が二十歳時、一八歳。シロ。

坂城白姫──坂城家長女。優斗が二十歳時、一七歳。ヒメ。

秋雨白音──秋雨家長女。優斗が二十歳時、一八歳。オト。

 片仮名はMMO−RPGでのプレイヤーネーム。




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