ドラゴンクエストⅡ.ⅴ~勇気の足跡~《完結》   作:暇犬

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放浪篇 03

 

 

 それから数日後、《ムーンペタ》の街へと戻ったボクは、ルイーダの酒場を尋ねていた。

 

 あの日、絶体絶命のボクを助けてくれたのは一組の男女だった。彼らはムーンブルクに向かっていたキャラバンの護衛であり、ルイーダさんがボクに紹介するつもりの人達だった。

 ムーンブルク城近くで偶然キャンプを張っていた彼らは、無人のはずの城内に幾度も生じた魔法の気配を不審に思い、かけつけたという。フォックスとラヴィと名乗った彼らは、アルマさんの埋葬にも手を貸してくれ、ボクはそのままキャラバンに同行して、この街に戻ってきた。

 

「そうかい。ずいぶんと大変な思いをしたんだねえ……」

 

 ローレシア王宮への報告をまとめる為にボクの話を聞いていたルイーダさんが、しみじみと頷く。

《ムーンペタ》周辺ではここ暫く、奇妙な失踪事件が相次いでいたらしく、ボクは偶然、その事件を解決したのだった。

 

 ハーゴンなる名を名乗る者の存在。そして邪教徒らしき者達の徘徊。

 

 真実のパズルを解き明かすには断片的すぎる情報を王宮へと送り、勇者としてのボクの役割は、とりあえず一息ついたのだった。

 闇の力を吐きだしきった《パープルオーブ》を、僅か数日共に過ごしただけのアルマさんの思い出とともに《道具袋》にしまい、ボクは次なる旅へと赴く事にした。

 前に向かって進み続ける事――それが勇者としてのボクの義務に思えた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

《ムーンペタ》の街から再び出発するキャラバンに同行する事になったボクは、フォックスさんとラヴィさんを始めとした護衛の人達と共に、砂漠のオアシスに向かって旅を始めた。護衛の人達だけでなくキャラバンに所属する全ての人達がとても気さくで、孤独な旅路でいつも緊張しっぱなしだったボクに、いつしか心の余裕を取り戻させていた。

 

『良い旅は良い仲間と共に……』

 

 キャラバンの頭目の言葉は心に強く焼きついた。

 幼馴染であり、恋人同士でもあるフォックスさんとラヴィさんとつるみながら、ボクは初めてのことだらけの広い世界に魅了されていった。

 

 寒暖の差の激しい砂漠を横断し、時折現れる魔物達を追い散らして、オアシスへと辿りついたボクを待っていたのは、《砂漠のバザー》だった。

 

「どうしてこんな不便なところで、バザーなんか開くのさ?」

「そりゃ、いろいろとヤバいものがあるからに、決まってるだろ!」

 

 初めての厳しい環境にうんざり気味だったボクに、フォックスさんが笑いながら答える。辺鄙な場所にも拘わらず大陸のあちらこちらの街や村から集まってきた色々な人達で、バザーは賑わっていた。北にある竜の角の向こうの《ルプガナ》に暮らす富豪たちの使いで、やってきている人達も多いという。

 ローレシア王家のお目こぼしの範囲で開かれたこの催しは、さしずめ闇市場というところだろう。

 キャラバンからの護衛料を手にしたボクは、久しぶりの御馳走にありつくために、フォックスさんとラヴィさんと共に大きなテントの中に入っていった。

 

 淡い匂いの香がたき込められたその場所で、ボク達はたっぷりと香辛料を効かせた塩気の強い食事に舌包みをうちながら、ベリーダンスなる過激な踊りを見物していた。

 激しく腰を揺らすそのダンスに歓声を上げる男性客達と共に、ボクとフォックスさんも見入っていた。その傍らにはふくれっ面のラヴィさんの姿がある。

 

「やーね、男ってすぐに鼻の下をのばすんだから、いやらしい……」

 

 フォックスさん『命』のラヴィさんには、フォックスさんがよその女の色香に夢中になっているのが気に入らないらしい。

 

「まあ、そう言うなよ、お前じゃ、ああはできないだろ?」

「バカにしないで、私だって、あのくらい……」

 

 何故か踊り子のお姉さん達に張り合おうとするラヴィさん。だがフォックスさんは冷静だった。

 

「いや、その前に、お前……、あの衣装はさすがに着られないだろう?」

 

 フォックスさんの言わんとする事に気づき、ボクは激しく咳こんだ。

 フォックスさんの幼馴染で恋人でもあるラヴィさんはとても整った顔立ちではあるものの、その体形は、残念……、否、平坦……、否、凹凸に乏しい……ものであり、あの過激な衣装を着て激しく動けば、ストンと……。いや、このあたりにしておこう。

 じわりと涙を浮かべてフォックスさんを睨みつけるラヴィさんの傍らで、フォックスさんは涼しげな顔をしている。二人は子供の頃からいじめっ子といじめられっ子の関係らしく、ラヴィさんをからかって楽しむフォックスさんの趣味の悪さにボクも最近、ようやく慣れてきたところだった。

 少しばかり気まずい空気の流れ始めたボク達の席に、踊り終わったお姉さん達が回ってくる。

 

「あら、坊や、かわいい顔ね。お姉さんたちとパフパフしない?」

 

 やってきた一人のお姉さんが、ボクに声をかけた。すぐ目の前でたゆんたゆんとゆれる豊かな谷間を露わにしたその姿に、十五歳のボクは……、お、大きくうろたえる。

 

「パ、パフパフ……ですか?」

 

 なんのことだか分からずに首をかしげるボクに、フォックスさんがにやりと笑った。

 

「いいぞ、やれやれ! これも勉強だ!」

 

 隣でラヴィさんが呆れたような顔をしているのが気になったものの、これも旅の習いである。

 

「ええと、じゃあ、お願いします」

 

 ボクの一言で周囲にどっと歓声が湧き、口笛が鳴り響く。

 

「はーい、それじゃあ、パフパフ、行きまーす!」

 

 一人のお姉さんに手を取られてその場に立たされたボクの周りに、過激な衣装のお姉さん達が集まってくる。周囲に充満するお姉さん達の甘い香りと過激な衣装の魅力に、ボクの意識がだんだんぼんやりとする。訳の分からぬま、目を閉じさせられたボクの顔を、柔らかな感触が包み込むように触れた。

 

 パフパフパフ……。ウプウプウプ……。パフパフパフ……。

 

「どう、坊や? 気持ちいいかしら?」

「はあ……」

 

 目を閉じて初めての感触に何とも言えぬ気分になりながら、ボクはお姉さん達の成すがままになる。

 

 パフパフパフ……。ウプウプウプ……。パフパフパフ……。

 

 白い煙がもうもうと辺りに立ちこめ、ようやく晴れて行くと、周囲のお姉さん達がニコニコ笑っていた。

 

「はい、どうぞ。可愛くできました!」

 

 訳が分からずに首をかしげるボクに手鏡が渡される。何気なく覗いたそこに映っていたのは、見知らぬ『男の娘』だった……。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「うう、もう、おムコにいけないよ……」

 

 水辺で顔を洗いながら半泣きで訴えるボクの傍らで、フォックスさんは豪快に笑い、ラヴィさんは同情の色を浮かべている。綺麗なお姉さん達にパフパフと化粧を施され、『男の娘』にされかけたボクだったが、絡みつくような危ない複数の視線に身の危険を感じ、慌てて、テントを後にした。

 

 些細なトラブルこそあったものの、久しぶりにおいしいものを満喫したボク達は、それからあちらこちらの店を覗いていた。武器や防具に装飾品、さらには特産品と様々な品が目白押しの店が並ぶその裏側に、値札のない怪しげな店が並んでいる。中には商品名すら分からぬものもあり、一体どうやって売買が成立するのだろうと首をかしげる。

 

「一見さん? お断りね……」と追い払われることもあれば、強引に引き込まれることもあるその市は、実に賑やかだった。

 さほど、必要な物が無かったボクは、手持ちの薬草を補充したその店で、福引券なるものを手に入れた。買い物をしていたフォックスさん達にも数枚の福引券を譲ってもらい、ボクは福引に挑んだ。

 外れと残念賞の薬草が続く中、最後の勝負に挑んだボクの頭上で、ファンファーレが高らかになる。

 

『おめでとうございまーす! 二等賞が当たりました!』

 

 おお、と周囲の人々がどよめく中、景品係の女性が景品を手にして、にこやかにほほ笑んだ。

 

「こちら二等賞の景品、《エッチな下着》でーす」

 

 ――ずっこける。

 

 そんな使い道のないものをなんだって……、などと落胆するボクの周囲で、「おお、あれこそは、まさに《夜の三種の神器》の一つ……」「ちっ、なんてうらやましいガキだ……」などという声が上がっている。手渡されたそのブツを手にして、ふと思いついたボクは、フォックスさんに提案する。

 

「これ、ボクには使い道がないんで、よかったら……」

 

 今のところ使うあてのないボクよりも、ラヴィさんとの仲直りのアイテムにする方が効果的だろう。だが、ボクの提案に、フォックスさんは僅かに顔をしかめた。

 

「いや、それはいい。しまっとけ……」

 

 悪ふざけの大好きなフォックスさんにしては、珍しく真面目な顔だった。

 しばし、マジマジとその顔を見つめ、ボクははたと気づいた。

 そう、これを身につけるであろうラヴィさんの体型は……、残念……、否、平坦……、否、凹凸に乏しい……ものであり、ストンと……。

 気まずい空気が流れ、フォックスさんの傍らで不思議そうな顔をしていたラヴィさんが、ようやくそれに気づいた。その整った顔が赤くなり、やがて青くなる。

 

「うう、フォックスのバカー。アンタなんて……、もう大っ嫌いよ!」

 

 ラヴィさんは《メタルスライム》も真っ青の逃げ脚で涙ながらに、その場から去っていった。しまった、と青ざめるボクの傍らで、フォックスさんがニヤリと笑う。

 

「ユーノ、よくやった!」

 

 親指を立てて彼は片目を閉じた。訳が分からずにボクは当惑する。

 

「なーに、泣いてるアイツを宥めて、もっと泣かすのがたまんないのさ」

 

 手の中の小さな包みを弄びながら、ボクには良く分からない言葉を残して、フォックスさんは笑った。その包みがラヴィさんに内緒で買った彼女への装飾品である事に気づき、ボクはこの混乱極まる事態の収拾を彼の裁量に任せる事にする。

 

「じゃあな、ユーノ。悪いがここからは大人の時間だ。あまり変な店に入るんじゃないぞ」

 

 そう言い残してラヴィさんの後を追い、フォックスさんは人ごみの中に消えていく。

 結局、使い道の全くない困った景品を、ボクは《道具袋》の中の荷袋の中に丁寧にしまい込み、再び一人でバザーを楽しむ事にした。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 あちらこちらの店を覗いているうちに、すっかり夜も更け、そろそろ人通りもまばらになっていた。冷やかしに飽きたボクが宿に帰ろうと思い始めた頃、寂れたテントの一つから罵声が聞こえた。

 

「ふざけんな! ババア、いい加減なこと言いやがって!」

 

 入口にかかった布を乱暴にはねのけ、一人の商人風の男が足早に出てきた。

 

「水と動物には、気をつけるんじゃぞい!」

 

 テントの中からしわがれた声が聞こえる。うるせえ、と大声をあげて男は肩をいからせながら通りの反対側へと歩いて行く。首をかしげ、テントの中を覗こうとしたボクだったが、背後で激しい物音が聞こえた。振り返ると、ラクダ用の飲み水の桶に顔を突っ込み、驚いたラクダに蹴飛ばされる先程の男の姿があった。

 

「ほう、なんとも不思議な気配がするのう。遠慮せずに入ってくるがよい……」

 

 再び聞こえたしわがれ声に引き寄せられるように、ボクはテントの中へと入って行った。

 不思議な臭いの香のたかれた薄暗いテントの中には、敷物の上に座るお婆さんが一人。その目の前には美しい輝きを放つ水晶玉がある。

 

「ほう、お主か。これはまた、奇妙な相の持ち主じゃのう」

 

 おいでおいでと手招きするお婆さんに誘われ、ボクは水晶玉の反対側に座った。

 あの、と尋ねようとするボクの言葉を封じ、お婆さんはボクの顔と水晶玉をしばし見比べる。暫し、真剣な表情を浮かべた後でお婆さんは尋ねた。

 

「お前さん、一体、何者じゃ?」

 

 その問いに対し、少し考えた後で、おそらく最も的確であろう答えをボクは口にする。

 

「その、勇者です……。一応……。」

 

 ボクの答えに、お婆さんはそうか、と頷いた。

 

「そうかい、そういう事なら合点がいく。お主、あまりにも凡人とはかけ離れた運命を生きておるのう」

「一体、どういう事ですか?」

「お主、普通の人間の人生では、ありえぬほどの数の出会いと別れの相が現れておる。そしてそのどれもが複雑に絡み合い、お主の運命を揺さぶり、やがては……」

 

 そこまで言って黙りこむ。暫しの沈黙の後で、ボクは彼女に尋ねた。

 

「あの、占いができるんでしたら、教えていただけませんか。ボクの探し物は、一体どこにあるか……」

 

 しばし、まじまじとボクの顔を見ていたお婆さんだったが、やがて首を横に振る。

 

「その必要はあるまいて。いずれ必要な物は主の前に勝手に現れるだろうよ。主はただ真っ直ぐに前だけを見て歩くがよい。幸運も災いも嫌でも寄ってくるはずじゃ」

 

 お婆さんは物騒な事をさらりという。彼女の言葉が真実ならば、ボクの周囲にいる人は嫌でも巻き込まれる事になるに違いない。

 

「そうですか……」

 

 これ以上、尋ねる事はないだろう。そう思ったボクはお礼を置いて立ち上がろうとする。

 

「待つがよい」

 

 お婆さんがボクを引きとめる。

 何やら水晶玉を熱心に覗き込んでいたお婆さんが顔を上げる。どこか焦点の合わぬ目をしたままぽつりと言った。

 

「当代の勇者よ。そなた、その奇抜な運命の果てに、いつか破綻を迎える事となるであろう。そのようなそなたに、古の呪文を授けよう。心して聞け」

 

 何となくお婆さんが身にまとう空気が変わったように思えた。どこかで感じたような懐かしさを覚えながら、お婆さんの言葉を記憶する。

 

 ぺけね ぽこは ぶりとわ

 やぶに ぼぬま るさきよ

 そこぴ つきな まかびの

 ごりえ とばわ みむてそ

 ざぬい むはぶ きごぐざ わま

 

 聞いたことのない、意味もよく分からぬ言葉を呟くと、お婆さんは目を伏せる。しばし呆けていたようだったが、ようやく目の焦点が合い、彼女は首をかしげた。

 

「はて、ワシ、今、何か……、言ったかの?」

 

 ――ずっこけた。

 

 なにやら思わせぶりにいろいろと物騒な忠告をした癖に、すっかり忘れているらしい。困ったお婆さんである。

 

「いえ、何も……、それでは失礼します」

 

 丁寧に礼を述べて、立ち上がったボクはお婆さんに背を向け、テントを後にしようとした。

 

「勇者よ。決してあきらめるでないぞ。いつか再び出会うその時まで、暫しの別れじゃ……」

 

 背後で僅かな風が吹き、驚き振り返ったその場所にお婆さんの姿はなかった。それどころかテントも消えている。ぽっかりと広がる空き地を前にして、ボクは呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 およそ一週間程度開かれた砂漠のバザーが終わると、キャラバンの一行は北上し、竜の角と呼ばれる海峡へと向かった。

 遥か古の時代には、海峡の向こうへと渡る為に塔の最上階から飛び降りたなどというとんでもない逸話の残るその場所には、多くの交易者や旅人達が行き交う巨大な橋が作られ、南北を結んでいる。この橋を渡れば、港町《ルプガナ》はもうすぐそこだった。ローレシア国内を一回りすることになるボクは、この先どうしようかな、などと考えながら荷馬車に揺られていた。

 

 突然、橋の上で荷馬車の列が立ち止まり、キャラバンの先頭で何やら言い争う声が聞こえる。

 慌てて、荷馬車を飛び出したボクが目にしたのは、橋の真ん中に立ちはだかり、通せんぼをしているならず者達の姿だった。橋に陣取った彼らのせいで、他の旅人たちも立ち往生している。

 

「おっと、待ちな、お前ら、ここから先に行きたければ、通行料を払っていくんだな!」

「バカなことをいうな。ここはローレシア王の治められる地であり、我々は陛下よりお許しを頂いた商人である。貴様ら夜盗風情が我らの邪魔をするなど言語道断! 道を開けろ!」

 

 キャラバンの頭目の言葉を男達は鼻で笑った。

 

「ふん、名ばかりの国王がなんだって? 俺たちゃ、あのカンダタ一家だ! 俺達を敵にまわしたらどういう事になるか、分かってるんだろうな!」

「カンダタ一家だと? 義賊を気取ったやつらが、一体、何だってこんな所で横暴を働いている?」

「持ってる奴らから奪い、持たざる者へ! それが俺達さ!」

 

 一人のならず者が頭目に斬りかかる。間一髪で飛び込んだボクは盾で防御し、ならず者の股間を蹴りあげた。股間を抑えて悶絶するその姿に、周囲が爆笑する。

 

「このガキ! 何しやがる!」

 

 さらに襲いかかる二人の攻撃から身をかわし、振り向きざまに《刃のブーメラン》を投げ付ける。ブンと鋭い音を立てて放たれたブーメランは二人のならず者の髪と腰巻を刈り取って、戻ってくる。恥をかかされ激怒したならず者が、巨大な戦斧を振り回す。ひらりとそれを飛び越え、ボクは橋の欄干の上にすっくと立つ。すらりと引き抜いた《鋼鉄の剣》の刃が、陽光にきらめいた。

 

「その辺にしとくんだな。それ以上やると、お前達の命は保証できねえぞ!」

 

 睨み合うボク達の背後から声がかけられる。現れたのはキャラバンの護衛を引きつれたフォックスさん達だった。

 

「ア、アンタ……!」

 

 腕の立つフォックスさんは、ならず者達にも顔を知られているのだろう。思わぬ救援に動揺するならず者達。フォックスさんはいつもの調子でニヤリと笑った。

 

「このあたりでも噂くらい聞いてるだろう。今、お前達が相手にしてるのが、当代の勇者様だ。伝説の勇者に勝てると、本気で思ってるのか?」

「な、なんだと? このガキが……!」

 

 フォックスさんの言葉に、ならず者達がさらに動揺する。互いに顔を見合わせ、舌打ちをする。

 

「チクショー、覚えてろ! この借りは必ず返させてもらうからな!」

 

 一目散に逃げ出す彼らに旅人達の罵声が浴びせられる。手にした剣を鞘に納め、欄干から飛び降りたボクはほっと一息つく。どうにか上手く事を収められたのは、フォックスさんのお陰である。

 

「上手くやってくれたな、ユーノ。アイツらここらじゃ、ちょっとばかり厄介なやつらでな。血を流すと後々、ややこしくなるところだった」

「たしか、カンダタ一家とか。義賊がどうこうって言ってたよね……」

「《ルプガナ》の金持ちばかりを狙うのがアイツらの流儀のはずなんだが……、こんなところで一体、何してんだろうな?」

 

 フォックスさんが首をかしげる。そんなボク達の傍らを、立ち往生していた旅人達が礼を言いながら通り過ぎていった。

 

「助かったよ、ユーノ君。フォックス。さあ、我々も《ルプガナ》を目指そう!」

 

 頭目の号令でキャラバンの列が再び動き出す。

 それからの道中、ボク達キャラバンの護衛がならず者達の報復を警戒するものの、大きな異変が生じる事はなかった。そしてボク達は無事に、港町《ルプガナ》に辿りついたのだった。

 

 

 

2014/03/16 初稿

 

 

 


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