ヴィヴィッドMemories   作:てんぞー

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ガーリッシュ

 カタカタと授業中に音が響く。その音の主は自分の前に座っている、金髪の少女のものだ。見ればホロウィンドウへと向かってホロボードで素早く文字を叩き込んでいる。真面目な表情を浮かべ、そして素早く文字を叩き込む姿は授業の内容をしっかりと聞き、そして真剣に授業を受けているように見える……見た目だけは。そう、もう数年の付き合いとなる自分だからこそそれが真実ではないと知っている。理解しているのだ。そしてそれはおそらく、横の席に座っている黒髪にリボンをカチューシャの様につけている少女―――リオも同じ事だと思う。そしてそのリオが頭を抱えそうな表情をしているので、

 

 あ、ヴィヴィオちゃん何時も通りなんだ……。

 

 というもはや呆れを通り越した納得が発生してしまう。実際の所ヴィヴィオが何かをした所で、もはや”ヴィヴィオだから”という言い訳で通用するレベルにはなっている。まあ、それも身内に限っての事だ。身内じゃない人間からすればヴィヴィオが真面目な生徒である風にしか映らないだろう。事実、自分もリオもヴィヴィオと親しくなる前はそんな風にヴィヴィオの事を持っていた。だがこの数年間でそれに関する認識は変わっている。さて、

 

 恐ろしいけど……。

 

 それでもヴィヴィオが一体何をやっているのかは気になる。リオのリアクションからやっぱりお察し状態だが、それでも気にならないと言ってしまえば完全に嘘だ。ヴィヴィオは何気ない日常の行動で腹筋を殺しに来るから意地が悪い。というかあの芸人気質はやはり両親から教わったのだろうか。ともあれ、少しだけ視線をずらして、ヴィヴィオが熱心に打ち込んでいるホロウィンドウを覗き見る。ちょうどいい事に教師は今、此方に背中を向けている。

 

 そして、見る。

 

『―――ヘイ淫乱ピンクと狂乱パープル元気? 超元気? エリオ君食えた? 食えたわけないよね(笑)、もうちょっとガッツだせよ肉食獣達よ!! あ、肉欲獣の方が正しいかなあ? まあいいや。それよりもぼっちハルトにゃんついに謹慎食らってやんのざまぁwwwwww』

 

 物凄い勢いでアインハルトの失敗を煽りまくる文章をなるべく関わりたくない生物AとBへと向かって送っていた。もうそれ以上文章を見る事はしない。これ以上見続けていたら今でもおかしいラインの正気がこれ以上削れそうな気がするから。だから視線をヴィヴィオの方から外し、授業の内容をメモっているホロウィンドウからも外し、そして窓の外へと視線を向けて空を見る。

 

「……ふぅ」

 

 今日も空は青かった。

 

 

                           ◆

 

「アインハルトざまぁ」

 

「また言ってる」

 

「ヴィヴィオって何時も楽しそうだよね」

 

 授業が終わり、昼となったらまずクラスメイトであり、そして友人であるリオとコロナ二人と合流する。自分で言うのはかなりアレかもしれないが、自分を含めてこの三人は美少女と断言していいジャンルに入っている。三人それぞれジャンルが違うが、いや、その為か割と視線を引きつける。ここら辺はアインハルトも同じところだろうが、こっちはあちらと違って”いい子ちゃん”で通っている為、少しだけ面倒だ。通り過ぎる人は積極的に手を振ったり、頭を下げてくる。中には時たま陛下、何て呼び方をしてくる者もいるが―――その時はリオが何だかんだで電磁アタックしてくれるので大ごとになる前に助かる。リオもコロナも此方が聖王のクローンだと理解しつつ普通に接してくれる得難い友人なので大事にしている。

 

 ……ただしアインハルトさんは別ですけどね!

 

 もはや遺伝子とか過去とかそういうレベルじゃないアインハルトに関しては完全な別腹―――まあ、世の中どこまで仲良くしても”気に入らない”というやつは出てくる。いや、止めておく。アインハルトに関しては半日では止まらなくなる。そんなしょうもない事に思考を割くよりはもっと建設的な事があるはずだ。そう、たとえば昼ごはんの事とか。

 

 早く視線から逃れるためにも足早にリオとコロナと進むと、階段を上がってSt.ヒルデの校舎の屋上へと出る。秋であるせいか、屋上には誰もいない。涼しい風が吹いていて確かにさむいが、同時にここには他には誰も来ない事が約束されている為、静かに昼食を取るのにはうってつけの場所だ。アインハルトの様に私に近づくなオーラを発していればまた別の話だが、ぼっちは嫌なのでこっちがいい。

 

 屋上に到着するといつも使っている屋上のベンチに三人で並んで腰を下ろす。並び順としてはリオ、自分、コロナと自分がはさまれる形になる。それぞれ家から持って来た弁当箱を膝の上に乗せると、それを開ける。弁当箱の文化は前々からミッドにもベルカにも存在するものだが、その中身に関しては次元世界の文化が混ざった事でかなりエキセントリックな所もあるらしい―――幸い、それを経験したのは自分ではなくオリヴィエの方だが。

 

「ふっふーん、今日はママと一緒に弁当を作りました」

 

 自分の弁当箱を開ける。ピンク色の容器は半分がご飯で占められているが、もう半分がそれに似合うような食べ物で詰まっている。何気に肉、そして野菜のバランスが取れている辺り、そこは教官であるなのはらしい組み合わせなのだろう。ともあれ、こっちでよく見る様なミッドやベルカ風ではなく、地球の日本風の弁当は流石に此方だと珍しい。横からリオとコロナも興味深げに見ている。

 

「んじゃ私のは―――」

 

 そう言ってリオが弁当箱を開ける。彼女の弁当箱も割とスタンダードなベルカスタイルであった。肉がメインで、そして少しだけ濃い味付けがメインとなっている。自分と同じくご飯が入っているのは肉の味が濃い事を考慮してだろう。リオの所の弁当も何時も通りクオリティが高くて見ていると食べたくなってくる。何時もおかずの交換などやっている。なので今からリオの弁当の中にある焼肉を自分の弁当のオカズのどれと交換するか考える。

 

「じゃ、最後に私だね」

 

 そう言ってコロナが笑顔で弁当を開けて―――凍る。

 

「……う、うん?」

 

 コロナの弁当を見る。それを見てコロナの動きが凍る。自分の動きも凍る。

 

「え、どうしたんだよ」

 

 そう言ってコロナの弁当を覗き込んでみたリオの動きも凍る。数秒間、たっぷりと沈黙しつつ、コロナはゆっくりと指を弁当箱の中へと伸ばし―――そしてその中に置いてある物を手に取る。

 

 それは包み紙だった。

 

 コロナがゆっくりとそれを開けると、その中には飴が一個だけはいってた。一個だけ。それを持ち上げ、指に挟んだまま、首だけを此方側へとギギギ、と音を立てながら向けて来る。

 

「な、なにこれ」

 

 コロナの声が思いっきり震えていた。たぶん自分の事だったら自分でも声は震えているだろうからそのリアクションには納得する。だが確定した事がある―――コロナの昼飯、本日は飴一個。

 

「い、いや、待て、待とう。その包み紙、内側に何か書いてある!」

 

「あ、ホントだ」

 

「無駄に芸が細かいよぉ……」

 

 そう言いつつコロナが飴が包まれていた包み紙を手に取り、内側を広げる。そこにはたしかに今朝書かれたばかりだと思われる文字がミッド語で書かれていた。それを広げるコロナの横から確認する。

 

『寝坊して作り忘れました。やったぜ』

 

「何で誇らしげなんだよって、こ、コロナァ―――!!」

 

 コロナがベンチから落ちる様に横へ滑り落ちた。我が友人ながら中々素晴らしいリアクションをするものだと思う。思わず拍手したくなるがここは友人としてどちらのリアクションが正しいのだろうか。拍手か、もしくはコロナを心配するか。それを一瞬だけ悩むが―――そうだ、悩む必要なんてない。何て言ったって自分は友人なのだから。

 

「ブラボー!」

 

「外道! 外道! ここに超ド外道がいるよ!!」

 

「今更じゃないかなぁ」

 

 納得されたのでこれが正しい判断に違いない。とりあえずドヤ顔を決めながらコロナの弁当を回収し、リオとの間に置く。とりあえず本日は卵焼きが自分の自信作なのでそれと、リオの弁当は何処からどう見ても肉ばかりなのでサラダを分けて入れる。リオも此方のやっている事に気づいてそそくさと肉とご飯を弁当に詰める。それを、復帰したコロナが目撃する。

 

「うぅー、ごめんねー……。家に帰ったら母さんに超説教するから。そして今度絶対にこの分の借りは返すから」

 

「体で?」

 

「やめい」

 

 リオが拳を作ってそれでこめかみのあたりをグリグリやってくる。それを止めさせようと腕を抑えるが脳へと来る刺激に負けてリオを振り払う事が出来ない。うあぁ、と声を零しながら揺れていると、コロナがクスリと笑い、

 

「ん、ありがとうね。一応こんな時を想定してお金持ってきているんだけどね」

 

「こんな状況を想定しなきゃいけない時点でちょっとアウトだよね」

 

「ちょっとじゃないと思うの」

 

 まあ、皆どんな形にしろどこかユニークという所だろう。―――そもそも自分と仲良くしていられる時点でユニークとかエキセントリックじゃないというのはありえないわけで。常人が自分の前に立てるわけがない。まあ、その中でも比較的良識派のリオとコロナはやっぱりそこらへん、リアクションが一般臭くて実に面白い。

 

「あ、ヴィヴィオちゃんゲスい顔してる」

 

「前々から思ってたけどヴィヴィオって割と顔芸担当だよね」

 

「失礼な! こんなヒロイン要素で溢れている慈愛の天使ラブリーヴィヴィオたんのどこが顔芸担当って言うんですかね。ホラ、言ってみてくださいよ。その全てに反論してヴィヴィオちゃんが超愛天使である事を証明して見せますから」

 

「母親がラスボス」

 

「すいません、それ抜きで」

 

「何で全く関係なさそうなのにこうも説得力が出てくるんだろう、ホントなのはさんって飛び道具として優秀だよね」

 

 飛び道具扱いされる母親もこの世では中々珍しいものだと思う。ただ、まあ、それも仕方がないと思う。母、高町なのはのエキセントリックさというか外道さは歳を取る度に加速しているように思える。間違いなくJS事件あたりでリミッター完全に外れたんだろうなぁ、と思う。何せ偶にレイジングハートをミニなのは人形の中につめ、そしてそれを自分の代わりに職場へと投げつけるからだ。しかもなのはが訓練する時よりも無茶無謀を要求しないので、偶になのはではなくレイジングハートを寄越せと要求してくる。

 

 まあ、ママだし。なのはママってズレているという次元を超越したなのは時空とかいう不思議空間に突入している感じがあるしなんか納得しちゃう不思議があるよねー。

 

 だから母親がネタで飛び道具扱いされていても別に驚きはない。”あぁ、うん”、それだけで終ってしまう。改めて考えると扱いが酷いのかもしれないが、偶に無限書庫に襲撃かけてユーノを拉致して無限書庫を阿鼻叫喚に突き落とす事も含めてもうアレを止められるのはいないんじゃないかと思う。止められそうな人は現在出張中だし。

 

「あ、そうだ。私またしばらく午後暇になったから、学校の後で遊べるよ。そこにもしかしてアインハルトさんも混じるかも」

 

「あ、そうなんだ。もしかしてイストさんまた出張?」

 

「うん。アギトさんによると今回は魔力喪失地帯の雪山へと行くらしいよ。あそこってわりかし猛獣とかいた様な気がするんだけどそれでもおじさんの死ぬ気配を感じられない辺りやっぱ人間のハイエンドスペックというか、鍛え終わった人類って凄いよねって思っちゃいますねー。あ、でもおじさん、ナルさんと確か命共有してるけど、ナルさん魔力喪失地帯に入ったらどうなるんだろ。機能停止するのかな」

 

「それ二人とも死んでないかなぁ……」

 

 コロナのその言葉に三人で顔を見合わせて、そして首を捻る。数秒間話し合い、そして結論が出る。

 

 まあ、死ぬ姿が想像できない上に一度即死状態から蘇生しているのでいけるんじゃ? という答えが出た。死ぬ死ぬ詐欺はヒーローの特権だと言っていたが今回もその一環だろうか、どうだろうか。まあ、確実に無事に帰ってくるだろうからそれは良いとして、

 

「そろそろ弁当食べ始めちゃいますか。あ、卵焼きが私の作なんで感想を適当に貰えると嬉しいです」

 

「うん、ちゃんと味わって食べるね」

 

 そう言ってコロナが弁当箱に入れた卵焼きにフォークを突き刺す光景を眺めていると、横からリオが小さい声でぼそっと呟く事を耳が拾い上げる。

 

「……ヴィヴィオって外道だけど身内には甘々だよね」

 

「……ふふっ」

 

 その言葉はとりあえず聞き流す事として、とりあえず後でルーテシアとキャロに送ったメールの返信をチェックし、そしてじっくり考えよう。

 

 週末、どうやってアインハルトを煽るか。そう、週末だ。週末まで溜めておくのだ。そして安心した所で一気に煽る。

 

「イッツ・パーフェクト……!」

 

「あ、何か邪悪な事を考えてる」

 

「偶に本当に聖王と同一人物か怪しくなってくるよね。聖王じゃなくて実は邪王とか魔王とかそっち方面じゃないの」

 

 そんな言葉を聞き流しつつ、楽しい昼を過ごす。

 

 ―――近いうちに面白い事がありそうだと確信しながら。




 ヴィヴィオ被害者の会トップ2。強くならなきゃネタに食われる。そして肉欲系元幼女は元気であった。

 あ、あと更新は不定期四日から週一確定で日曜日更新とします。大学忙しくなってきたので。

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