ヴィヴィッドMemories   作:てんぞー

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レイルウェイ・バック

 学園のすぐ傍には街やミッドチルダへと繋がるモノレールが存在する。St.ヒルデが僻地に存在する事は学園側も理解しているのか、それとも十分元手は取れているのか、学園から各駅へと向かって運航しているモノレールは基本的に学生であれば無料で利用できるようになっている。定期替わりとなる学生証をスカートのポケットから取り出し、それを改札機に軽くタッチする事で閉じていた改札機が開き、通れるようになる。改札機を抜けた所で学生証をポケットの中に戻すと、横の改札機を抜けてヴィヴィオが横に並んでくる。

 

 二人で一緒に、横並びにモノレールが止まるプラットホームまでの階段を上がり始める。

 

 プラットホームまでの距離は低学年の生徒の事を意識してか、そう遠くはない。いや、そもそもエスカレーターにエレベーターまで設置してあるのだ。そう問題でもない。そこであえて階段を選ぶのは―――師父に言わせてみれば”若さ”というものらしい。当人たちからすればなんとなく、という理由で階段を選んでいるだけの話なのだが。ともあれ、そうやってヴィヴィオと一緒に帰るこの通学路はもう既に慣れた道だ。ヴィヴィオがSt.ヒルデに入学してからは縁もあってヴィヴィオの面倒を見ていたりもするので、もう数年一緒にこの道を通っている。

 

 本来ならここに共通の友人が二人付くのだが、彼女達二人は今はいない。今、というよりは本日という言葉が正しい。ヴィヴィオのクラスメイトである彼女達は委員活動がある。遊ぶ時間が減るので辞めたいとは言っているが……まあ、人が良いので無理だろうとは思う。どう足掻いてもあの二人が放課後、自由に遊べるようになるのは来年からだと思う。そうなったらそうなったで帰り道が騒がしくなりそうだと、楽しみになる。

 

「そういえばヴィヴィオさん、昨日は会場にいたんですよね?」

 

「うん、フェイトママと一緒に淫ピの試合応援に行ったの」

 

「友人を淫乱ピンク呼ばわりはやめましょうよ」

 

 えー、と嫌そうな顔をヴィヴィオが浮かべるが、そこらへんは本気じゃなくて遊んでいるだけだと理解している―――つもりだ。これがもしもガチだったりしたとしたら、なんというか……もうヴィヴィオらしい、という事で片付けて良いような気もする。まあ、ヴィヴィオがどういう人間かは誰よりも、自分が―――両親であるなのは達よりも把握している。おそらく一番正確に。この女の中身を把握している。

 

 だからと言ってそれをとやかく言う程子供であるつもりもない。

 

「まぁ、マジレスしますと結構楽しかったですよ。おじさんやなのはママと比べるとやっぱり見劣りはしますけど、それでも十代であれだけの領域に立てるのか、っていう驚きはありましたね。流石世界代表レベル、ってやつですか。試合が基本的に30秒も続かない大味な試合なのはそうしなければ”終わらない”というのは当たり前なので基本的に勝者であるミカヤ・シェベルやドラゴン系ピンク娘ばかりフォーカスされてたもんですけど」

 

 そこで階段を上がりきり、プラットホームに到着する。既にそこにモノレールは到着していた。ヴィヴィオもそこで一旦言葉を区切り、一緒に一気にモノレールに乗り込む。モノレールに乗った直後りりり、と音を立てながらモノレールの扉が閉まり始める。軽く息を吐き出しながら呼吸を整えた所でヴィヴィオが話を続ける。

 

「やっぱり全体的にレベル高かったですよ? それなりに参考になりますねー、ってフェイトママと話してた感じで。まあ、やっぱり日頃からレベルの高すぎる人たちが周りにいるせいでどうしても見劣りするんですけどね。まあ、贅沢って言っちゃえば贅沢な話ですけど」

 

 ニコリ、とヴィヴィオは笑みを浮かべる。

 

「あの程度だったら私やぼっちハルトさんで十分無双できそうな感じですよ」

 

 ふざけた事を言っているが、ヴィヴィオのこの言葉は大まじめだ。そしてヴィヴィオも、そして自分も自分の実力がどれぐらいなのか、それは優秀な師が存在している為に正確に測れている。それから判断したところ、という事だろう。

 

「ヴィヴィオさんって基本的に常時喧嘩を売り続けないと満足できないタイプですよね。というか周りに誰もいない事を確認してから言っている辺り確信犯というか何というか。師父に言いつけますよヴィヴィオさん」

 

「ヴィヴィオ、アインハルトさんが何を言っているのかちょっと良く解らない……かな? ヴィヴィオは学園でも上位に入る成績優秀者だし、人当たりも良くて、それでいて先生にも気に入られている超良い子ですよ? うーん、アインハルトさんは不思議な事を言いますねー……」

 

「一番不思議なのはヴィヴィオさんの脳内なんですけどそれは追及するとたぶん終わりがないでしょうからこの際折れてスルーしておきますね」

 

 隠す気もなく、露骨にヴィヴィオの存在に対して溜息を吐く。それにもちろんヴィヴィオはケラケラと挑発的な笑いを隠す事をしない。この女、実にいい性格をしている物だと思う。オリヴィエを”聖人”の様な人物だと評価すれば、ヴィヴィオはその対極―――とはいかないが、その”反動”を受けて非常に俗っぽい性格になっているような気もする。……これで頭の良い優しい子、と大人から評価は受けているのでヴィヴィオの猫の被り方の凄まじさが解る。なんだったか……そう、アギトがヴィヴィオの惨状を見て言った言葉を思い出す。

 

 ―――ラスボス化治ってないぞこの幼女。

 

 ……アレですかね。

 

 ラスボス化、と言ってアギトが何を差しているのかは理解している。それは三年も前の事件だが、アレの発生前と後ではヴィヴィオのキャラが全く違う事も把握している。ただそれでも、彼女とは事件の前から友人として接していた。これの程度で今更付き合い方を変える自分でもない。それでも時々こいつどうにかならないのか、と思う事はあるが。

 

「ま、座ろうか」

 

「そうですね」

 

 モノレールを利用しているのは九割方学生だ。必然的にモノレール内の空間は学生しかおらず、多くの席が空いている。故に適当な席に何時だって座る事が出来る。遠慮なくモノレール内の一角をヴィヴィオと共に占領すると、カバンを膝の上に乗せる。話の中心はやはり―――DSAAとなる。というよりも今のこうやってDSAAが終わったばかりの時期に、他の話題を持ち込んでくるということ自体が無理なのだ。上位陣はわりかしガチで戦ってはいるが、そうでない人間からすればDSAAの戦闘も”スポーツ”という扱いになるのだ。そうなると一気に敷居が下がり、参加しやすくなるし、調べやすくも、話しやすくもなる。それこそ野蛮だという人間は多いが、それは本当に稀な人種だ。

 

 モノレールが静かに走り始める。

 

「世界代表が終わったので次は次元世界最強決定戦ですけど……アレ、どうなると思います?」

 

「うーん、割とミッドチルダのレベルの高さは侮れないんですよね。やっぱ例年通り、ミッドチルダの世界代表がほぼ次元世界代表で確定だと思いますよ。そりゃあ他の世界にも強い人はいるんですけど、ミッドチルダが”第一”の世界でもある事を含めて一番人口や人種が多かったり、レアスキル持ちの人が回されてきたりで一種の魔窟なんですよね」

 

「では今年はミカヤさんで決定ですかね」

 

「たぶんそうですね。二年前にティアナさんが、去年はエレミアが、そして今年はミカヤさん―――何というかミッドチルダは一体どこまで魔窟なんだってラインナップですね。そこらへん、別世界のテレビ放送見てると対策とか注意点とか、今年こそ打倒ミッド代表! とか結構やってるらしいですよ? まぁ、そんなので勝てる様なら人生超チョロイんですけどね。対策した程度で勝てるなら勝てない相手なんていないんですよーだ」

 

「世の中どうにもならないものは存在しますからね」

 

 たとえば十代の範疇から超えた本当の実力上位人―――おもになのはと師父の存在の事を示しているのだが。三年前のJS事件を解決した際に二人とも身体的に大きなハンデを負い、以前と同じ様に戦うことはできない筈なのに、そんな常識を無視して以前と遜色ない動きを此方に見せつけるその光景にはもはや畏怖の念しか浮かばなかった。常識外れとはあのような存在の事を示すに違いないと思う。

 

 まあ、今ではただのサボリ魔な二人なんですけど……。

 

 社会的には色々と尊敬され、憧れる様な立場にある。なのにあの二人はJS事件が終わって落ち着いてからかなり仕事をサボる様になってきている。その事に不安を感じなくはないが、子供である自分が何かを言うのもおかしいので、黙って楽しんでいる事にしている。

 

 が、さて、

 

「DSAAですか……」

 

「もしかしてアインハルトさんも出場してみたいの?」

 

「……本音を言うと結構興味がありますね」

 

 右手を持ち上げて、握り拳を作る。覇王流、それが最強の武術である事を師父は最高の状態の聖王を撃破する事で証明して見せた。多分にアレンジが入っていたが、それでもイングヴァルトの悲願を見事に果たす事が成功した―――ならば自分はどうだろう。師父は自分は強いと言ってくる。知り合いも自分の事は強いと言ってくる。だが実際はどうなのだろうか。狭い範囲でしか実力を計った事はないが。かなり頻繁に師父と組み手をするが、それでも勝てた事はたったの一度もない。教会は教会で覇王流が外部へと漏れる事を危惧して適当な大会に参加する事に許可を出してくれない。

 

 故に、解らない。自分はこの世界に対して、どれだけ通用するのだろうか。一度でいいから自分と同年代と思いっきり戦ってみたい。

 

「ヴィヴィオさん」

 

「なんですか?」

 

 そう考えると本当に、自分は、

 

 私は、

 

「―――本気になった事がたぶん、ないです」

 

 意外にもその考えはスラリと出てきた。考えてみればこの人生において、心の底から本気を出した事がない気がする。何時だって、何だってできて当たり前だ。勝てる相手には勝てる。勝てない相手には勝てない。勉強はできて当然、目立たない為にも手を抜かなきゃいけない。遊んで、勉強して、鍛えて、戦って―――でもその中で一度として、心の底から全力の本気になったためしがない。そう思うとDSAAに参加できる子達がとたんに羨ましく思える。

 

 葛藤があるのだろう、願いがあるのだろう、夢があるのだろう、そしてそこには本気になれる場があるのだろう。それは実に羨ましい事だが―――同時に斬り捨てる。出来ないのであれば夢を見ても無駄だと。本気になれなくても自分の人生は今、非常に満ち足りている。孤独だった子供の頃よりも遥かに豊かになっている。だとすればこれ以上求めるのは完全な罰当たりではなかろうか。幸せになれたのに、これ以上貪欲に求めるのは傲慢ではないのだろうか。

 

「ま、所詮戯言ですよヴィヴィオさん」

 

「ふーん……」

 

 モノレールが目的の駅へと到着する。さほど興味なさそうにヴィヴィオが答えるのは実際、興味がないからかもしれない。席から立ち上がり、モノレールからヴィヴィオと並んで降りる。暖房のついていたモノレール内とは違い、モノレールから一歩外に出ると一気に秋の涼しい空気が襲い掛かってくる。その冷たさに小さく体を震わせ、制服の上に来ている学園指定のコートを少しだけ身に寄せる。だからと言ってどうにかなる訳ではないが。とりあえずは気分の問題だ。

 

「ま、DSAAの事を言っても後は消化試合ですからねー。私的には決勝戦までキャロさんが残った時のエリオさんの絶望の表情と、その後キャロさんが敗北して自分が助かったと理解した時のエリオさんの表情が何とも面白くて楽しかったので、来年もこれぐらいの面白度をDSAAには求めたい所ですね」

 

「完全に玩具ですよね、エリオさん」

 

 アレは不幸の星の下に生まれた男だと周り全てから認識されている。もはやどうにもならないというのが共通の見解なので救いの手なんて存在しない。あとは個人の努力に任せるとして、

 

 プラットホームの階段を下りて行く。ベルカ自治区内に存在するモノレールの駅はそれなりに帰宅する学生の姿で賑わっている。やはり聖王教会系列の学園だからか、ベルカ自治区から通っている子は多い。そんな自分もベルカ自治区にある師父の家から通っている。ヴィヴィオはベルカ自治区ではなくミッド中央区に住んでいるのだが―――自分もヴィヴィオも、改札機を抜けて向かう先は住宅街ではない。

 

 何時も通り駅を抜け、そしてバス停へと向かう。

 

 そして何時も通り、変わらない時間、変わらないルートで、変わらず……聖王教会へと向かう。




 ハルにゃんギガ天使。あとタグはめんどくさいから前作のをコピペしただけ。

 ともあれ、vivid時代は原作を使ったオリジナル、という認識でいい感じで。あと大人アインハルト絵増えろ。

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