ヴィヴィッドMemories   作:てんぞー

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~Winter 78~
ウィンター・オープニング


 ―――ベルカの自治区はミッドチルダの北部に存在する。

 

 その為ベルカにとっての冬は早くやって来る。雪もミッドチルダ全体を見ると秋の終わりごろには見れ、雪景色が広がる様になる。これが真冬になると吹雪いたりして交通状況などに深刻な影響が及ぼされる。勿論、魔法でそれをどうこうするのは簡単な話だ―――ただ、そうやって文明に埋もれたり、便利にしてしまうのは間違いである、という考えがベルカにはある。そもそも質量兵器というものは”合理”を追求した結果辿り着いてしまった兵器だ。故に、便利な方向へ、合理的に突き詰めるだけでは過ちへと至るかもしれない。故に不便であっても、昔のままを継承すべきだ、という部分がある。

 

 その為、冬季休校に入るのは割と早い。雪がひどくなったりする前に家の方に帰しておくという方針だ。そして実際、真冬は酷いのでそれは間違いではない。本当に酷い年では騎士団まで雪を解かすために出動するときまでもあった。そう言う事もあって、冬の間、ベルカはいつも以上に騒がしくなっている。仕事が少なくなり、子供も家へと帰り、冬を越すための準備や休みへと全体が入っている。だから天気の良い日は学校も宿題もない子供の姿が外で見られる。

 

 冬のベルカは、騒がしい。

 

 

                           ◆

 

 

「はーっはっはっはっはっはァ!! 見ろよ! こっちの雪玉は十メートル級だよ十メートル級! そっちのクソちっけぇやつとは超ちがうんですぅー!」

 

「あぁ!? 一個作ったぐらいで何チョーシのってんの? マジ笑いものなんですけどぉー! こっちはそっちがちびちび無駄にデカイの作っている間に五十個も作ったのよ五十個! 戦争は数よ数!」

 

 真っ白に染まった公園のど真ん中で十メートル級の雪玉を片手で持ち上げる師父と、そして魔法を使って五十個の雪玉を持ち上げているなのはの姿があった。すぐ近くで雪合戦をしている子供たちがいたが、マジ顔で雪玉を作っている姿を見て現実に戻されたのか、子供たちは今公園のベンチで座って醜い大人の争いを眺めている。その光景を眺めていると、雪玉ガトリングと超巨大雪玉が正面から衝突し、大爆発を起こしながら二人を雪の山に埋める。その光景を呆然と眺めていると、魄翼を大きな腕へと変形させて巨大雪だるまを作っていたユーリが振り返り、腕を動かして雪の山へと突っ込み、師父となのはをサルベージする。

 

「ママいつも通り楽しそうにしてるなぁ……」

 

「子供よりも良い空気吸ってる大人ってなんでしょうかね」

 

 UFOキャッチャーみたい、なんて感想を抱いているとサルベージされた二人が雪原の上へと落とされ、大の字に倒れる。どうやら先程の醜い争いはダブルKOで決定されたらしい。

 

 バサラ家とミッドチルダの高町家は仲が良い。自分とヴィヴィオが仲が良いのも理由が一つだが―――それ以上に師父となのはの仲が良いのが理由にある。そこまで詳しい話を知っている訳ではないが、師父となのはの付き合いは長く、そしてかなり濃密らしい。かなり前からこういう馬鹿な付き合いをしているらしく、友情オンリーの恋愛感情なしの関係がずっと続いているらしい。これだけ仲が良くて、俄かに信じがたい。が、現実として今の家庭を見ると納得せざるを得ない。ともあれ、バサラ家と高町家の付き合いは長いらしい。そしてそういう付き合いから、休みの間は一緒に遊ぶことが多い。特に今、ヴィヴィオと同じ学校に通っている自分の都合で休みの時間が大人はともかく、かぶっている。だからヴィヴィオとはいつも以上に顔を合わせることになる。

 

「ぼっちハルトさん一瞬こっち見て舌打ちしたでしょ」

 

「え? あ、すいません、ヴィヴィオさんいたんでしたっけ。設定が立派なくせに虹色に輝いていないんでいないかと思いました」

 

 即座に離れてお互いに雪玉を作りあい、それを投げあう。それが互いの顔面にヒットした所で雪の中に倒れ込む。この光景を数秒前に見たばかりの様な気がする。子は親の背中を見て育つ、という事なのだろうか。雪から身を引きはがしながら起き上がり、視線を師父の方へと向ける。今の自分の人生の中心となる人物。

 

 ―――本来であれば年末まで帰ってこれるかどうか怪しいという話ではあったが、冬の始まりと共に師父は眼帯を付けて戻ってきた。嬉しそうな表情を浮かべて仕事が終わった、と。そのおかげで今、師父はこうやって遊んでいることが出来る。師父は定期的にどこかへと仕事でいなくなるが、その時に限ってお金をいっぱい持って帰って来る。

 

 やっぱり、まだ危ない事をやっているのだろうか。

 

「アレ、どうしたんですかぼっちハルトさん。なんかマジ顔ですけど」

 

「ヴィヴィオさんは真面目な話一回泣かしてみたいんですよね……ではなくて、ちょっと真面目な話ですけど、良く考えたら周りの人の事を良く知らないなぁ、と思いまして。バサラ家に御厄介になっている身分ですが、良く考えるとどういう仕事しているのかとか、どういう事してきたのかとか、あんまり知らないなぁ、と。いや、勿論JS事件関連の話は知っていますけど」

 

「それ以前の事は結構知らない、か。そう言えば私も割とそんな感じですねー。ユーノパパは無限書庫でデスマーチしてて、なのはママは前線はなれて完全に後進の育成に集中している感じですけど……そー言えば私も六課の前のママの事、良く考えたらあんまり知らないんですよね」

 

「―――なんだお前ら、過去に興味が出てきたのか」

 

 背後へと視線を向けるとふよふよとアギトが浮かび、やって来る。そっちへと視線を向けているとアギトはそのまま真っ直ぐ間にまでやって来て、そこで浮遊する様に停止する。そこには少し、満足げな表情が浮かんでいた。

 

「理由はなんであれ、自分の事ばかりじゃなくて他人の事を考え始めるのは良い事さ。子供の内はどう足掻いても自分の事ばかりしか考えないもんだからね。他人の事を思って、考えられるようになって漸く大人の階段を昇るってもんさ」

 

「そういうのどうでもいいんで情報ください」

 

 ヴィヴィオの容赦のない言葉にアギトが墜落しかけるが、何とか態勢を整える。立ったまま喋るのも面倒なので、ベンチへと移動を始めるとヴィヴィオとアギトがそれについてくる。今度は師父となのはがチームを組んでユーリ相手に雪合戦を始めているが、完全に駆逐されかかっている大人の姿を見つつも、アギトの方へと耳を傾ける。

 

「でもよく考えたらアギトが合流したのって割と最近の方じゃなかったっけ」

 

「アタシはユニゾンデバイスだぜ? そりゃあこんな風に人間の様な姿をしているけど、中身はれっきとしたデバイスになってんだ。魔導ネットワークに接続して閲覧することが出来れば、ネットダイブだって出来る。それに共通記憶ネットワークにアクセスすりゃあ他のデバイスの経験を自分で経験することが出来る」

 

「……あ」

 

 自分の漏らした声にアギトが頷く。

 

「そう、つまりアタシはレイジングハートやナルが許可する範囲で記憶や記録にアクセスできるって訳さ。そしてまあ、気になった頃もあって、色々と閲覧経験もあるんだよっと」

 

 そう言うとアギトが目の前にホロウィンドウを出現させる。そこに映し出されているのは今よりも遥かに若い師父、そしてなのはの姿だ。なのはに限っては今とは全く別人言って良いほどの幼さを感じる。サングラス姿の師父に、それに怒鳴りながら追いかける小さななのはの姿がホロウィンドウに映し出されている。

 

「このころは犯罪者を放火しちゃいけないってなのは言ってたんだぜ……」

 

「う……そ……」

 

「このやりとりだけで割と身内周りの異常性というかヒャッハー性というか、凄まじさが色々と伝わってきますよね」

 

 アギトが昔のデータをそうやって表示していると、師父が此方のやっていることに気づき、小走りで回り込みながらホロウィンドウを確かめて来る。別段恥ずかしい事でもないので隠さないが、面白そうな物を見る様な表情を浮かべた師父が直ぐになのはとユーリを呼ぶ。

 

「おいこれ見ろよ、超懐かしくないか? ホラ、空隊の頃の俺らだよ」

 

「うわ、ほんと懐かしい。見て見て、私超若い! ―――今でも若いけどね。あー……私こんなバリアジャケット着てたなぁ、そう言えば。本当に懐かしいなあ。この頃はまだ空隊の芸風に慣れてないというか、染まってなかったからすごい苦労したんだよねぇ。犯罪者を車で体当たりしたり、入り口埋めて放火とかやるたびに怒ってたんだよねえ―――今では当たり前の手段なんだけど」

 

 横のヴィヴィオへと視線を向けると、静かにヴィヴィオが震えていた。ヴィヴィオ程の娘でも耐えられない真実はどうやらあったらしい。しかしそうやって震えているヴィヴィオには一言もの申したい。母の強烈な行動に震える前に、目玉の味は美味しかったとか自慢するのやめろ。

 

「あー……この頃は私達がまだ匿われていた時代のですねー。微妙に追手の姿が見えたり見えなかったりでイライラしつつもイストに全部任せてた時ですね。今思うと男を立てる為に何もしなかった、ってんはほんと馬鹿な事をしたと思っています。普段から私がついて回れば色々とフラグ潰せたんですけどねー……」

 

「お前が働くとフラグが消えるのと一緒にミッドが消えるからな?」

 

「褒めないで下さいよ」

 

 破壊力は大人女子の中でステータスと化しているらしい。そんな大人にはなりたくはない気がする。ともあれ、師父となのはがやってきたことで、話題は完全に二人の過去周りになっている。アギトが過去の映像へとアクセスできることを良い事に、二人であれこれと注文し、二人にとって色々と懐かしい映像を表示させている。なのはのレイジングハートもその作業に加担し、記録領域の中からなのはの要望を叶える映像を放出している。

 

「これ見ろよこれ。ほら、覚えてるか?」

 

「うわ、懐かしっ。これってミッドに兄さん達が遊びに来た時に映像だよね? うわぁ、残ってたんだこれ……お父さんと兄さんがあのころは煩かったんだよね、”なのはがグレた”って言ってて。私はグレたんじゃなくて世界の真理を見つけ出しただけなのに。いやぁ……あの時は笑えたなぁ、全部元先輩のせいにして押し付けたからね」

 

「おかげで俺はなのはの凶暴性について遺伝だという事を再認識したよ。アレだけ怖いのが上にいるんだからそりゃあそうなるわ。寧ろなんで空隊来るまでお前あんないい子ちゃんだったんだ? ……あ、家族が過保護だったのか」

 

「それもあるんだけどねー。これを機に実家に戻ってたまーに実家の流派を学んでみたりしたんだよねー……。いやぁ、まさか身近に魔法なしの勝負ならヴォルケン並の達人がいるとは全く思いもしなかったわ。あ、こっちの写真は忘年会の時の」

 

「うわぁ……俺はこれ覚えてるぞ。お前が一番グレてた頃のやつだし。一発芸します! とか言いながらレイジングハートをケイリの頭へと向けて発射したんだよな。そして燃え落ちるかつらと残った最後の髪の毛。いやぁ、アレは何時思い出しても笑える話だなぁ……」

 

「ママ達の話を聞いてヴィヴィオはまだ序の口だって理解した」

 

 ぽろぽろなのはや師父、ユーリの口から出てくるかこの話はヴィヴィオの所業を超えるどころか、あの問題児としか認識されていないルーテシアやキャロを超える始末だった。ぶっちゃけた話、ここまでやるのか、という若干引いてる部分が自分にも、そしてヴィヴィオにもあった。だけどそれを語っているのは今、キャロやルーテシアよりもマシな部類の人物たちだ。

 

「あの……師父達昔はそんなに暴れまわってたんですか……?」

 

 その言葉に師父が笑いながらおう、と答えて頷く。

 

「まあ、若いころの特権だよ。あのころは俺もまだ二十超えてなかったしな。まあ、今思うと割とストレスが溜まり気味の時期だったしなぁ、なのはがいた頃は。家には守らなきゃいけない子供が四人いて、親友と呼べる相棒は死んで、んで代わりにやってきたのは天才と呼ばれるような子供だったからなぁ……狙われているのは解ってたし、やらなきゃいけない事や義務や義理、そういうのでいっぱいいっぱいだったからなぁ。表面上は平気でもどっかでガス抜きを盛大にやってなきゃ耐えられないし」

 

「空隊はそこらへん良く解ってるよね。あそこって凶悪犯とかと正面から割とやりあってストレス溜まりやすいから、”素の自分”を表現しやすい環境に職場を作っているんだよね。芸風、っては言うけど結局はありのままの自分を楽しく表現しているだけだからねー。まあ、かなり勉強になったよ……うん。何時はしゃぐか、どれぐらいはしゃげばいいのかー、とか。何時我がままを言うべきとか」

 

 そこまで言ってなのはは苦笑する。

 

「そして大人になると自分が責任を取る側になるから今度は何時暴れたりはしゃいだりしていいのか、それを子供たちに教える側になるんだよね」

 

「俺もお前も実はまだまだ全然若い部類に入るんだけどな」

 

「だけどママ達が落ち着いたって感じ欠片もしないんですが……」

 

「全盛期に比べればベッドで寝てるぐらいに大人しいぞ。あのころは凄かったぞ。犯罪者の事を木偶やら実験台って呼んで探し回ってたおかげで犯罪が起きなかった時期があったからな」

 

「もはやこっちの方が犯罪者って感じのノリだったよねー。あ、でも元先輩は元犯罪者じゃん」

 

 なのはがレイジングハートを変形させ構え、そして師父が何時の間にかアギトを握ってポーズを決めていた。その動作がほぼ同じタイミングである事を見るとこの二人、本当に通じ合っているコンビだなぁ、と思っているとユーリが一瞬で二人を雪の中へと魄翼を使って埋める。ともあれ、とユーリが言葉を終わらす。

 

「今年の冬は知り合いやみんなと一緒に旅行して冬を過ごす予定ですけど、この感じだと今年も愉快になりそうですねー」

 

 愉快どころか不安しか残らないが―――まあ、師父と一緒ならもそれでいいんじゃないかなぁ、とは思う。

 

 そんな冬の始まりだった。




 このカオス身内と知り合いで旅行とかどう足掻いても死亡フラグ。

 でもなのセントで見たスキーコスイベ……寧ろ山の心配すべきか。

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