ヴィヴィッドMemories   作:てんぞー

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コタツ・マジック

 今日もやっぱり楽しい一日だった。

 

「ただいまー!」

 

 そう言いながら家の扉を開ける。もちろん家の合鍵は持っている、そこらへんは完全に母親に信頼されている。だから遅くならない限りは割と自由を許されている。それを一部の人間は放任ととるかもしれないが、そうではなく本当に信頼されているという事実がある事を自分は知っている。だからこそ逆らうことはできないし、する事もない。高町なのはという母親を持って良かったと心底思っている。立場や経歴を全く気にすることなく、そしてそれをネタにすらしてしまう精神の持ち主は希少だからだ。まあ、それを抜きにしてなのはの事は好きだ。あの破天荒さとか。

 

 ともあれ、今日もいっぱい遊んだ。リオとコロナも付き合いがいいだけではなく、同じ年齢としてはどちらかと言うと大人びている方だ。同じ年齢の女子は男子がウザイとか、突っかかって来るとか、結構子供っぽい所ばかりで困るから、付き合いやすい。まあ、自分の年齢とクラスを考えればどうしようもない話だ。そういう部分では自分よりも年上のアインハルトが圧倒的に羨ましい。アインハルトぐらいの年齢になると好きな子に対する意地悪とかが無くなってくる代わりに積極的に関わろうとする男子が出て来るものだ。

 

「まあ、ぼっちハルトさんの超ぼっちオーラが全て無意味にしているんですけどねー」

 

 あのぼっち系覇王はアレで身内さえいれば満足ってタイプの人種なのでぶっちゃけた話アレ以上誰かと交流を持とうとは思わない癖に追いつかれる事を望んでいるというか、何というか複雑な精神構造をしているので厄介だ。軽く付き合う分には全く持って問題ない。どちらかと言えば自分も身内カウントされているし。ただ踏み込み過ぎると苛々してくることは否定できない。アインハルトと自分、根底にある部分では相容れない所が存在するのだ。それはオリヴィエとクラウスとは全く関係のない部分で。

 

「あぁ、止めましょう。折角いい気分だったのに」

 

 何であの女の事でダウナー入らなきゃいけないんだ、と呟きながら玄関で靴を脱ぐ。家の中には気配を一つだけ感じる。なのはだろうか、等と思いつつ玄関から真直ぐにリビングへと向かい、そこへ通じる扉を開けながら声を放つ。

 

「ただいまー!」

 

「お帰りなさいヴィヴィオ」

 

 そう言ってリビングで新聞を広げながら自分を迎え入れたのは高町なのは―――ではなく、細身の男の姿、ユーノ・スクライアだった。地球から態々購入してきたコタツの中に入り、そこで新聞を広げ、前に湯呑を置いている。これ以上なくくつろいでいる光景だが、

 

「あれ、ユーノパパ家に来ても大丈夫なの?」

 

 そこでうーん、とユーノが首を捻りながら答えてくる。

 

「少しぐらいならいいんじゃないかな? まあ、無限書庫も昔ほど混沌の極みにある訳じゃないからね、僕一人が抜けたところでそこまで酷くなるわけじゃないと思うよ。あー。まあ、うん。ただ一週間ぐらい休んだらそこそこ阿鼻叫喚になるんじゃないかな。結局の所”無限”という名にふさわしいぐらい奥が見えないしあそこ。先日未開領域を発掘してたら発禁モノを見つけちゃって別の意味で阿鼻叫喚したばかりだしねー。まあ、最近は人手が増えているし、数日ぐらいは問題じゃないよ」

 

 無限書庫は何年たっても混沌としているのは相変わらずの事だなぁ、と思いつつカバンを部屋の中へと投げ込むためにもまずはリビングを横切って、そのまま自分の部屋へと行く。青い壁紙の自分の部屋にカバンを投げ込んでから靴下を脱ぎすて、そしてリビングへと戻ってくる。コタツの上にはやはり地球産みかんが置いてある……ほんと、地球の品が好きだなぁ、と思いつつ自分もコタツへと飛び込み、そしてみかんを手に取る。このみかんの皮をむくとき、一回も途切れさせずに剥くのがひそかなマイブームになっていたりする。几帳面なコロナはともかく、リオはここら辺納得してくれない。アインハルトはアレ、そのまま食ったらあかんの、等と言いそうなので考えたくもない。

 

「ヴィヴィオ、苦そうな顔をしているけどみかん苦かった?」

 

「あ、違うよ。ちょっと嫌な事を思い出しただけだよ」

 

「ははは、あんまり友達の事を嫌っちゃ駄目だよ? 今はめんどくさくても後々それがとても大切になって来るから」

 

 そう言うユーノは何だかんだで此方の事を見透かしているような気がする。だからこそ―――ユーノ・スクライアという男に対してはある種の苦手意識が存在する。ユーノはなのはやイストとはまた別の突き抜けた部分がある。そしてそれはついぞ、オリヴィエが突き抜けられない部分と言うか、苦手なジャンルだ。故に引きずられるように苦手意識がユーノに対しては存在する。だからどう、というわけでもない。少なくともそれを欠片も表面に見せない事ぐらいはできる。

 

「ぶー、別に嫌がってませんよ」

 

「うん、そうだね」

 

 そうやって笑顔を向けて来るので苦手だ。なのはが惚れる理由はなんとなく察しがつくが、自分としては苦手な人種だ。それにやはり男という生き物はイケメンだとか、美男子だとか、美少年とか、そういうのは違うと思う。価値観がどちらかと言うと古いので、やはり男のタイプはたくましい方がいいと思う。ともあれ、

 

「パパは今日休暇かぁ」

 

「そうだね。なのはは今日は真面目に仕事をしているからいないけどね。割と珍しい、のかなぁ……」

 

「パパってママに容赦のない所があるよね」

 

「もう十年以上の付き合いになるからね、実際僕達の仲に遠慮という言葉は欠片も存在しないと思うよ。だからと言って突然職場にやってきて拉致するのは少しやり過ぎなんじゃないかなぁ、と思うんだけど。まあ……割と疲れた頃に狙ってやってくる辺り解ってると思うから否定も拒絶も出来ないんだよね。なのは、割とそこらへん抜け目ないというか」

 

 女なんて生物どいつもこいつも抜け目ないに決まっている。誰だってチャンスを、隙を狙って待機しているのだ。それが良く見えるのがバサラ家とキチガイ召喚士達だ。前者はまだいいが、後者に関しては完全な戦場だ。エリオもエリオで逃げる為だけにレヴィに弟子入りして意識の死角を潜り抜け続ける技法を全力で学んでいた。あの頃のエリオは一時的にベルカ教会で寝泊まりしていたので割と印象に残っている。結局その選択肢が正しい事は今の状況が教えてくれている。人生煽る事が多すぎて楽しすぎる。

 

「で、今日の学校はどうだったんだい?」

 

「今日も楽しかった! ただコロナのお母さんが弁当作り忘れて昼食頃、それに気づいたコロナが弁当箱の中を見て死にかけてたよ」

 

「あぁ、ティミルさんだっけ……授業参観日の時に会ったあの人かぁ。うん、なんかぽわーっとしている感じの人だったね。天然系というか―――うん、天然って言葉しか見つからないね。ああいう人って割と塩と砂糖を間違えたりするイメージあるんだけどどうなんだろ」

 

「それ、割と日常的にやってるって」

 

「あちゃー……」

 

 その為、コロナの家では割と母親を台所に立たせるのは致命的らしい。それでも弁当やらを作らせているのは母親が小動物属性らしく、それにベタ惚れの父親が家長権限で無理やり母親を台所に立たせているし、母親も全力で料理をしたがっているからだ。故にそのしわ寄せは逃げたがっているコロナに全力でヒットし、コロナは死ぬ。

 

 コロナは死ぬ。というか死んでいる。割と現在進行形で。何時か恵まれるといいなぁ、思っている。割と真剣に。

 

 ともあれ、

 

「アインハルトさんが自宅謹慎食らったりで色々とイベントもあって、今日もやっぱり楽しかったですよ」

 

「ん、アインハルトちゃん自宅謹慎だって?」

 

 どうやらユーノは本日の事に関してまだ知らない様子だった。これ、喋ってもいいのか一瞬迷うが、どうせ明日にはユーノも知っている話だろうし、否定する要素はない。故にどうせ知られるならこの場で話してしまっても問題ないとし、そのまま口にしてしまう。

 

「実は今日アインハルトさんがちょっと体育の授業の組手で―――」

 

「あぁ、うん。なんとなくオチは見えたかな」

 

 危惧されている通りだったなぁ、とユーノが呟く辺り、どうやら大人連中はこういう事が遅かれ早かれ起きる事は理解していたようだ。まあ、まだ子供である自分からしてもアインハルトの抱える歪みの様な部分は見えているのだ。だとしたら大人達がそれを既に把握していてもおかしくはない。―――ただ気になるのは何故予めアインハルトに気づかせるように動いたり、対処しようとはしなかったかだ。理由は思いつくが、それが自分の思考と結びつくかとはまた別の話だ。オリヴィエなら理解できても、ヴィヴィオにはできない。

 

「若干不服そうな表情だね?」

 

「それは……」

 

 一応。ぼっちで、ダメダメで、そしてライバルであってたぶん何時か絶対に大ゲンカする事になる犬猿の仲っぽいそんな感じの友情だが、それでもアインハルトは友達だ。友人なのだ。その友人がどうにかなるという姿を黙ってみている、というのは正直な話あまりいいものではない。まあ、少しだけ。少しだけの話だ。

 

「ふふ、ヴィヴィオは隠し事が下手だね―――まあ、確かにアインハルトちゃんの件に関しては何時か浮き彫りになってくるものだったんだけどね、彼女に関しては極力関わらずに自分でどうにかするべきだ、って主張するやつがいてね。だからそれを信じて今まで手を出す事もなく見守って来たんだよね」

 

 そんな言い方からして、ユーノが一体誰の事を語っているのかは問う必要もなく理解できる。となると卑怯な事にも、自分が言える事は何もなくなってしまう。彼女のそういう所の成長や矯正は全てその人の担当になっているのだから。ただ、一つ言う事があるとして、少しタイミングが悪かったのかもしれない。

 

「おじさん……」

 

「今雪山だねー。無限書庫にやってきたと思ったら”人生初の登山”とか”これで大丈夫! 遭難対処法!”とか、色々不安になるシリーズばかりもちだしていったから個人的にはこれ、今回アウトじゃないかなぁ、って思ってるんだよね。死んだらご祝儀どれぐらい出せばいいのかな?」

 

「ごめんパパ、それ色々とツッコミきれない」

 

 昔はもっと大人しい不幸系だったらしいが、現状の、自分が知っているユーノは結構イケイケな感じだなぁ、と思う。何事もにぎやかであるほうが世界は盛り上がっている自分としては此方の方がどちらかというと好きだ。まあ、とユーノは呟く。

 

「アインハルトちゃんの問題はアインハルトちゃんの問題だよ。ヴィヴィオが心配したところでどうにかする事は出来ないから、それよりもしっかり勉強して、遊んで、そして青春を過ごせばいいんだよ。僕なんかヴィヴィオの年頃は青春って概念を投げ捨てて発掘調査で忙しかったなぁ……」

 

 段々とユーノの姿が前へと向かって倒れ始める。

 

「……あぁ、うん。そう言えば僕の人生って常に仕事だらけだよね。スクライアで活動してた頃は発掘と調査が日常だったし。マスコット化してからはジュエルシードを集める日々で、それが終わったら暗黒触手系巨大モンスターとの決戦があったし。それからしばらくは無限書庫でほとんど監禁される様な日常が続いて―――」

 

「パパ、パパ? パパ!」

 

 軽くバッドトリップに入りかけていたユーノを言葉で引き上げると、ユーノは弱い笑みをサムズアップと共に向けて来る。

 

「あぁ、う、うん。大丈夫大丈夫。―――パパの青春は頭の中だけにあるから」

 

 軽く泣きたくなる言葉だった。しかし良く考えたら割と今も仕事漬けなのでユーノの環境はそこまでよくなって―――いや、これは考えるべきではないのだろう。主にユーノの為に。

 

「お」

 

 みかんが綺麗に剥けた。それをちょびちょび口へと運びながら、コタツに深く潜りこんでだらける。まだ冬ではない。冬ではないが、それでも秋ともなってくるとやはりコタツの魔力にはなかなか勝てない。重力魔法よりも恐ろしい重力がこの中で発生しているに違いないと確信できる程度には出たくなくなる。

 

「みかんうまうま」

 

 やっぱり果物は甘いものに限る。そんな事を思いつつ口の中にみかんを放り込めば、

 

「あ、そうだヴィヴィオ」

 

「ふぁい?」

 

 ユーノが新聞から顔をのぞかせながら笑顔で言い放って来た。

 

「来年のDSAA、出場してみないかい?」

 

 そんな言葉をユーノは真直ぐ、視線を逸らすことなく此方へと言い放ってきた。そこには欠片も偽りを感じる事が出来ず、ユーノが本気であるという事しか感じられなかった。




 コタツには逆らえないよぉ……(経験談

 ユーノも割といい空気吸っているという事で一つ。無限書庫もちゃんと働いているんだったら永遠にデスマーチなわけではなく、休日ぐらいはあるんじゃないかな。たぶん。

 休日はリリカルお父さん勢で飲み屋に言ってるんじゃないかな。そして家の中での地位の低さを愚痴りあってから家族自慢までが1周って感じで。

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