魔法使いの異世界譚   作:御手洗ウォシュレット

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少し投稿が遅れてしまいました。

受験生なので勉強をしていたらこうなってしまいました。


Entrance examination Vol.4

 結論から言うと、二人とも合格だった。

 ただ、俺はどこかからの入試ではなく個人での入試だったため、合格発表後に保護者であるミーシャ・マクシミリオンとオリュンポス魔法学院へと足を運んでいた。

 

「懐かしいわねぇ」

 

 そう呟いたのはミーシャだ。

 懐かしい。

 それはつまり、かつてミーシャはここに通っていたといことだろう。

 確かに、あの強さならそれぐらい当たり前で、きっと学年最強とかだったのだろう。

 

「あ、あのっ!」

 

 二人で学院長室へと向かう途中、この学院の制服を着た女生徒がミーシャに話しかけていた。

 

「あら、何かようかしら?」

 

「えっと、ミーシャ・マクシミリオン様で間違いありませんよね・・・・・・?」

 

 その女生徒は恐る恐るといった感じで、ミーシャへ確認をとった。

 

「えぇ、そうよ」

 

 その問いにミーシャが応えた瞬間、どこかに隠れていたのか、一気に二、三十人ほどの学院生がミーシャの周りを囲んだ。

 そのどれもが女子で、黄色い歓声と共に様々な質問が飛び交っていた。

 

「どうしてこちらに?」

「後ろの男性はどなたですか?」

「結婚してください!!」

「お姉さまとは仲良くさせていただいてます!」

「エルザ様もこちらに入学するんですよね!」

「私を抱いてェッ!」

 

 二人ほどおかしい人がいるが、そこは気にしないでおこう。

 それよりも「お姉さま」と誰かが言ったのだが、それは誰なのだろうか。

 そんな疑問も持ったが、この集団にミーシャはおろおろとして困惑している様子なので、取り敢えずこの場を収めようとする。

 

「あの、ミーシャさんも困ってますし・・・・・・」

 

 だが、これが間違いだったことに気付く。

 これほど慕っている女性に、しかも結婚していて子供もいる女性と一緒にいる見知らぬ男。

 最近、同じようなことを考えたことがあると思った瞬間、手遅れなことにも気付いた。

 

「あなたはなんなの!?」

「どうしてミーシャ様と一緒にいるのよ!!」

「この糞豚め!!私のミーシャ様だぞ!!」

「お姉さまのお母様と一緒にいるなんて・・・・・・!」

「この男、試験日にエルザ様とも一緒に・・・・・・!」

「ミーシャ様!私を・・・・・・!」

 

 相変わらず二人ほどおかしい人がいるが、そこは気にしないでおこう。

 この場を収めようとしたら、俺に矛先が向いた。

 それよりも、また「お姉さま」と言った人がいる。しかも、ミーシャのことを「お姉さまのお母様」と言った。

 それではまるで、エルザに姉がいるようではないか。

 

 

「妙に騒がしいと思ったら、お母様だったのか。ところでその男は誰ですか?」

 

 

 瞬間、あれほど騒いでいた女生徒たちは全員黙り込んでしまった。

 凛々しい声が閑散としてしまった校庭に木霊する。

 

「見たとことのない顔ですが・・・・・・。ハッ、まさかストーカーなる者か!?この不埒者め、この私、フェリエ・マクシミリオンが成敗してくれる!!」

 

 何か勘違いされているが、気になることを言った。

 フェリエ・マクシミリオン・・・・・・。

 マクシミリオンということは・・・・・・。

 

「あんたは、エルザの姉か?」

 

 そう言うと、フェリエはさらに激高した。

 

「お母様のみならず、妹にまで手を出したのか!くっ、容赦はしないぞ!!」

 

 フェリエはそう言うと、何故か校舎の中に入っていった。

 そこで気付いたのだが、周りには生徒や教師が集まっていた。

 ざっと、四百人といったところだろうか。

 こんな大勢からの注目を浴びていると、何故だか恥ずかしくなってくる。

 少しして、手に何かを持ったフェリエが戻ってきた。

 その手に持っていたのは一振の大剣だった。

 

「私は、皇国立オリュンポス魔法学院、二年A組、フェリエ・マクシミリオン。全知全能の神ゼウスの名の下に、貴様に決闘を申し込む!」

 

 周りがざわめき出す。

『決闘』

 それが意味することは、何かをかけた争い。

 時には富を。時には地位を。

 何かを全知全能の神であるゼウスにかけて行われるのだ。

 多少のことはエルザとチルダに教わっていたが、まさか自分が挑まれるとは微塵も思っていなかった。

 と、先ほどまで蚊帳の外だったミーシャが俺に向かってこう言った。

 

「あら、面白そうねぇ。コーキさん、頑張ってくださいね」

 

「いや、そもそも武器持ってきてないですって・・・・・・」

 

 そもそも武器を持っていないため、俺は決闘を行うことができない。

 もし行った場合、相手が問答無用で投獄される。

 ミーシャの娘で、エルザの姉でもあるらしいフェリエが投獄されるなんてことがあったら、それこそマクシミリオン家の名が汚れてしまうだろう。

 それに、素人に毛が生えた程度の俺と、お姉さまと慕われるほどの人が闘っても結果は目に見えている。

 だから、武器を持ってきてないことに安堵して、そのことを話そうとした。

 が、それはある人物によって邪魔されてしまった。

 

「ただいまもって参りました。必要になるのではと思っていましたものですから」

 

 そういえば、ここまでチルダも一緒に来ていたのにいないと思ったらそういうことだったのか。

 その手には一振の長刀、絶対的な裁き(ジャッジ・アブソリュート)を携えている。

 これで完璧に退路は断たれてしまった。

 

「私はいつでも準備はできているぞ」

 

 闘うしかない、か。

 俺は 絶対的な裁き(ジャッジ・アブソリュート)を構える。

 そして、フェリエもその武器を構えた。

 それを合図に双方が詠唱を開始する。

 

「全知全能の神ゼウスの娘、〖輝き〗の象徴である女神、アグライアよ。その〖輝き〗を持って、総てを魅了する女神よ。我が魂と共に、闇を浄化する力を解放せよ!」

 

「偉大なる火の精、プロメテウスよ。天上に灯されし命の火を人に与えし者よ。我の血を糧に、汝の導きを授けたまえ!」

 

 本当にフェリエはマクシミリオン家らしい。

 契約しているのがプロメテウスだからだ。

 フェリエは具現化させた炎を剣に纏わせている。

 そういう使い方も出来るのか。

 一方の俺は光の鎧。まあ、光といっても黄金色なのだが。

 俺が初めて魔法を使ったときのミーシャ同様、生徒、教師問わず目を丸くしている。

 

「あの鎧、エルザ様と一緒にいたっていう・・・・・・!」

「あの噂って本当だったんだ・・・・・・!」

「女神・・・、そんなバカな・・・・・・!」

「あのイルミニータ家の御曹司を一撃で倒したっていう・・・・・・?」

 

 何かが異質なのだろうか。

 だが、俺はこの世界についてそこまで詳しくは教わっていない。

 今は決闘に集中しようとフェリエを見る。

 

「ふっ、相手に不足はないといったところか・・・・・・。手加減はせんぞ!!」

 

 言い放った次の瞬間には目の前にフェリエがいた。

 俺は咄嗟にフェリエの大剣の軌道に合わせて刀を添える。

 そして、そのまま力を流して衝撃を打ち消す。

 

「ほう・・・。我が剣、ダーエンスフィアの剣戟をいなすとは・・・・・・面白い!!」

 

 さらにその大剣、ダーエンスフィアで連撃してくる。

 その太刀筋は到底大剣の繰り出すことができるものとは思えない。

 俺はただ、その攻撃を流すことしかできない。

 

「どうした、守ってばかりでは勝てんぞ?」

 

 フェリエは挑発してくるが、今攻撃をしたら100%カウンターをきめられる。

 どうすれば、どうすれば勝てる?

 気持ちだけが焦り、手に汗が滲む。

 

「ふん、相手に不足はないと言ったが、あれは間違いだったようだ。次で終わりにしよう」

 

 そう言って踏み込み、爆発的な勢いでこちらに向かってくる。

 このままでは負ける。

 このまま負けたら、一生の恥だ。

 せめて、せめて一撃だけでも当てる。

 瞬間、世界が真っ白になる。

 これは、初めて魔法を使ったときと同じ感覚。新しい力が、生まれる感覚。

 

 

《力が、欲しいのですか・・・・・・?》

 

 ああ、欲しい。この女に、一撃を与えられる力が。

 

《ならば、想像するのです・・・・・・》

 

 想像・・・・・・?

 

《あなたが欲しい力を、想像して、創造するのです・・・・・・》

 

 想像して、創造。

 

 

 少しして、光が弾けて消える。

 

「咄嗟に目眩ましか・・・・・・」

 

 いや、違う。これはそんなちっぽけな力じゃない。

 俺は想像する。

 フェリエに与える力を。

 俺は想像する。

 光の流れを。

 俺は想像する。

 迸る閃光を。

 そして、俺は創造する。

 

「Οργή του Θεού πετάξει」

 

 自分の口から、聞いたことのない、話したことのない言語で言葉を発している。

 しかし、その意味はしっかりと理解している。

 

「なに!?それは・・・・・・!!」

 

「これで決める!貫け、ケラウノス!!」

 

 光の、正しくは雷の槍がフェリエへ向けて飛んでいく。

 しかし、フェリエはそれを避けようとも、ましてや受け流そうともしていない。

 まさか。瞬間的に脳裏に過ぎったのは、この一撃を受けてフェリエが絶命してしまうという、嫌なものだった。

 周りの人間も声を発することが出来ずにいる。

 このままじゃ・・・・・・!

 そう思うが早いか、俺は地を踏み込み、全身の筋肉をバネにしてフェリエのもとへ跳躍する。

 (すんで)の事で槍に間に合った。

 そして、槍を両手で受ける。

 俺の身体に、電流が走る。全身が焼け焦げていく感覚を覚える。

 内側から剥がされていくような、そんな感じもする。

 それが数秒続き、雷霆が弾けて止んだ。

 

「何故、何故助けた・・・・・・?」

 

 俺が地面に倒れ込み、何とか意識を保とうとしていると、フェリエが問うてきた。

 その問いにどう応えようか逡巡の後に、俺は言葉を紡ぐ。

 

「ヤバいと思ったが救出欲が抑えられなかった。反省はしていないが、後悔はしてる」

 

 すると、フェリエは涙を流し始めた。

 

「私は決闘を申し込んだのだぞ?そんな私を、救いたくなったというのか?」

 

「まあ、そうだな・・・。俺が救いたいと思ったから救ったまでだ。気にすんな」

 

 意識が朦朧とするなか、笑顔でそう言ってやった。

 

「そんなことされたら、いやでも・・・・・・になってしまうではないか・・・・・・」

 

 何か小声で言ったような気がするが、意識を保つことで精一杯なため、気にしていられない。

 チルダとミーシャが駆け寄ってきて、簡易的な治癒の魔術を使っている。

 魔術については学院でならうこと、と言われたので詳しくは知らないが、そのなかでも治癒はかなり難しい部類に入るらしい。

 だが、効果は高く、痺れや焼けるような痛みはなくなった。

 それでも意識は朦朧としている。

 

「すみません。少しだけ、眠りますね・・・・・・」

 

 そう言って、俺は意識を手放した。


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