魔法使いの異世界譚   作:御手洗ウォシュレット

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Entrance examination Vol.3

 俺があの日・・・、この世界にきた日から四ヶ月と二週間が経った。

 変わったことがあるとすれば、少し背が伸びたことと、あとは髪の色が変わったことだろうか。

 生まれつき前髪の一部が白・・・と言うよりは銀に近い色をしていたのだが、いまではそれが右側頭部にまで広がっている。

 契約するとよくあることらしい。

 だが、それはあくまで髪の色が茶から金に変わったりする程度で、この色になることはとても珍しいそうだ。

 髪の色が変わったところで特に生活に支障は来さないのだが、やはり落ち着かない。

 それはおいておくとして、もうすぐ皇国立オリュンポス魔法学院の入学試験が行われる。

 二日後だ。

 それまで、今までの復習をしている。

 

 

・ 筆記による学力調査

・ 面接による人格調査

・ 模擬戦による体力検査

 

 以上の三つの審査で行われる。

 一つ目と二つ目は問題ない。あちらの世界では中学三年、俺の通っていた学校は私立の進学校という中学にしては珍しい制度をとっていた。

 そのため、一年のうちから面接試験の練習は何度もさせられたし、毎回の試験は地元にある国立大学のセンター入試レベルまでならある程度は習っていた。

 兎に角、他校からの認識はハチャメチャなガリ勉校といったとこだったはずだ。

 俺自身、付いていくので精一杯だったが、こちらの世界での勉強はかなり楽な物だった。

 何せ、筆記試験と言ってもW大一般入試レベルのものだからだ。

 それを当然のように解いていく俺に、驚愕の眼差しをエルザ、ミーシャ、チルダは向けていたわけだが、何故だろうか・・・・・・。

 それもおいておくとしてだ。

 問題は模擬戦だ。

 エルザは多少の経験はあるそうだが、俺に至ってはそんな経験微塵もない。

 通っていた学校が学校だから、殴り合いの喧嘩なんてなかったし、俺の住んでいた地域は隣近所が全員家族同然であったため、治安もとても良かった。

 日常生活で喧嘩なんてなかったし、ドラマなんかの中だけの物だとすら思っているのだ。

 それに、模擬戦には武器が必要だそうで、そんなこと言われても俺は武器なんて持っていない。

 そんなことで頭を抱えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえる。

 

「コーキ?入るわよ」

 

 そう言って入ってきたのはエルザだった。

 先ほどまでチルダと模擬戦の練習をしていたのか、その腰に一条(いちじょう)の鞭を携えている。

 

「どうしたんだ?」

 

 特に呼んでいたわけでも、用があるわけでもない。

 それなのに俺の部屋に来ると言うことは、エルザが俺に用があるのだろう。

 

「コーキにも武器が必要でしょう?選びに行くわよ!」

 

 そう言いだしたがはやいか、腕を掴まれ部屋から引っ張り出された。

 

「あっ、おい!引っ張らなくてもあるけるから!」

 

 と言ってみたものの、耳に入っていないのか、そのまま館の外まで引っ張っていかれる。

 

「どこに行くんだ?」

 

 諦めた俺はエルザに問う。

 

「どこって、マクシミリオン家御用達の武器屋よ」

 

 武器屋に御用達とはどういう意味だろう。果てしなく物騒なのは間違いない。

 こうして、エルザのなすがままに連れられて付いた場所は、古めかしい鍛冶屋だった。

 

「ここは?」

 

「鍛冶屋よ、見てわかるでしょ?」

 

 そう言われても、鍛冶屋の名前とかはないのだろうか。

 それはいいとして、鍛冶屋ということは、俺の武器は刀か剣ということか。

 

「いらっしゃい、エルザ嬢ちゃん。隣の男は例の?」

 

「ええ、そうよ。頼めるかしら?」

 

「頼むって、俺も何かするのか?」

 

 聞いてない。そもそも、突然連れ出されたのだから、知っているわけがないのだが。

 

「坊主、こっちにこい」

 

 見るからに親方といった風の、右目に傷跡まである男性の近くに行くと、いきなり目の前で魔法の詠唱を始めた。

 

「オリュンポス十二神の一柱、ヘーパイストスよ。火と鍛冶を司りし神よ。彼の者に汝が創りし武具を与えたまえ!」

 

 目の前に熱を感じ、それが炎だと気付く頃にはそれは消えていて、そこに一振の長刀があった。

 その刀身は180cm程で、とてつもなく長かった。

 俺の身長は183cmだから、これを持つとするとかなり面倒くさいことになる。

 

「ほら、坊主の武器だ。名前は手前(てめぇ)で決めてやれ」

 

 刀を投げながらそう言う男性。

 

「名前・・・・・・」

 

 突然そんなことを言われても困るのだが。

 

「私のこの鞭は、恍惚の鞭(エクスタシー・ウィップ)と名前なの。確かに、一生その武器と付き合うのだから変な名前はあれだけど、簡単に決めていいのよ?」

 

 そう言われてもだな・・・・・・。

 じっくり小一時間ほど悩み続けて、漸く名前を決めた。

 

「よし。今日からお前の銘は、絶対的な裁き(ジャッジ・アブソリュート)だ!」

 

 我ながらかなりイタイ名前だが、そこは気にしない方向で。

 などと頭の中で言い訳をしていると、急に刀が光り出す。

 

「ほう・・・、刀が喜んでやがる。中々やるようだな。坊主!名前は?」

 

「昂希、華宮昂希です。」

 

「コーキ、か。いい名前だな!っと、すっかり忘れてたが、俺の名前はクローザー・トリニードだ。よろしくな」

 

「こちらこそ、クローザーさん。よろしくお願いします!」

 

 こうして俺は、俺専用の武器とクローザーという新たな人物を得た。

 

 

      ◇  ◆  ◇

 

 

 武器を手に入れてから二日、つまり試験当日だ。

 俺とエルザはすでに会場に着いているのだが、マクシミリオン家というのはかなり有名らしく、エルザの周りには人集りができている。

 そして、エルザの隣に座っている俺に向かって男性諸君から恨みがましい視線が飛んできているのだが、どうしたらいいのだろうか。

 取り敢えず、落ち着かないため、エルザに人集りに収拾をつかせてもらう。

 試験開始前に一言、

 

「エルザって、有名なんだな」

 

 と言うと、

 

「そうよ!驚いた?」

 

 とドヤ顔で言ってきたため、鼻で笑ってやった。

 ほどなくして試験が始まる。

 筆記はそつなくこなし、面接でも良い印象を持たれるようにした。

 そして、残る問題は模擬戦だ。

 武器を貰ってからすこし刀を振ってはみたが、やはり真剣を手にしていると思うと体が震えた。

 体育の授業で剣道は習っていたため、ある程度の型はわかっていたが、竹刀と真剣とでは重さがかなり違うので、扱い辛かった。

 と、型のイメージトレーニングをしていると、模擬戦の自分の番がきたようだ。

 

「「よろしくお願いします」」

 

 そう挨拶して、相手の顔をみると俺を睨んでいた。

 何故か、理由なんて一つしかない。

 筆記試験と面接は午前のうちに済ませて、昼食をとってから休憩を挟み、模擬戦という順番だったのだが、昼食も休憩も、俺はずっとエルザと一緒にいた。

 有名で、美人な女子と一緒にいる見知らぬ男。

 そんな奴は大抵の人間によく思われないだろう。

 現に、始めの合図がかかってからも目の前の彼は、

 

「何でお前みたいな誰かもわからない奴がエルザ様と一緒にいるんだ?」

 

 と呟いている。

 何となく気が引けるが、勝たなければ入学は難しくなるだろう。

 手加減なしの全力で挑むことにする。

 彼が持っている得物は騎士剣(ブロードソード)だ。

 長さのリーチではこちらが圧倒的に有利だ。

 だが、相手の契約している神、又は精霊によって状況は変わる。

 先ずは相手を見極めようとしていると、彼は詠唱を開始する。

 

「北東の風の神、カイキオスよ。邪悪の名を関する神よ。我が身体に邪悪を宿したまえ!」

 

 彼が契約していたのは風の神たち、通称アネモイの中でも下位の存在であるアネモイだ。

 とは言っても神であるため、油断はできない。

 

「すぐに終わらせてやる!お前はエルザ様に相応しくない!」

 

 彼は手にもつ騎士剣(ブロードソード)を振り回している。

 出鱈目な太刀筋に呆れてしまう。

 ただ、その剣から飛んでくる斬撃を除けばだが。

 何とか避けてはいるものの、いつまで避け続けられるかはわからない。

 それに、このままでは逃げているように見えて格好がつかないし、エルザの顔に泥を塗ってしまうような気がするため、俺も詠唱を開始する。

 

「全知全能の神ゼウスの娘、〖輝き〗の象徴である女神、アグライアよ。その〖輝き〗を持って、総てを魅了する女神よ。我が魂と共に、闇を浄化する力を解放せよ!」

 

 俺の身体を眩い光が包み込む。そして、その光がやむと俺の身体は黄金の鎧に包まれていた。

 その背には絶対的な裁き(ジャッジ・アブソリュート)を背負っている。

 

「な、なんだその格好!」

 

「【Cardia=Aglaia(女神の御心)】、そしてこの刀の銘は、 絶対的な裁き(ジャッジ・アブソリュート) 。悪いが、全力で行かせてもらう!」

 

 そう言って俺は飛び出す。まずは袈裟斬り、しかしそれは相手の騎士剣(ブロードソード)に阻まれる。

 だが、その衝撃で相手は騎士剣(ブロードソード)を落としてしまう。

 その隙を見逃さず、俺は相手の首に刃を突き付ける。

 

「終わりだ。俺の勝ちだな」

 

 彼は恐怖と敗北の悔しさからか、その場に座り込んでしまった。

 試験管の人が彼を抱えて退出するまで俺は見届けると、控え室へと戻る。

 

「どうだった?」

 

 話しかけてきたのは勿論エルザだった。

 

「やっぱり、ミーシャさんとチルダさんが強すぎる。正直言って、あいつはチルダさんの鎌、【魂刈り(ソウル・ハーヴェスト)】を見ただけで気絶すると思う」

 

「あー、それは弱すぎるわね・・・・・・」

 

 この二日間、ミーシャとチルダに特訓してもらったのだが、二人が異常なほど強いのと、チルダの武器の能力である魂を吸い出す力に苦労した。

 それと比べたら彼なんて足下どころか、マントルにすら到達できないだろう。

 

「次の方は・・・、エルザ・マクシミリオンさん!」

 

「呼ばれたみたいね、行ってくるわ」

 

「ああ、行ってこい」

 

 そう言って送り出してやる。

 結果なんて目に見えてるからな。そう思うと、相手の女子が可哀想だ。

 あ、滅茶苦茶泣いてる。

 取り敢えず、これで試験は終了かな。

 そんな感じで試験を終えて、後日の合格発表を待つだけだ。

 合格してますように。


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