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”フェンリル・ミゼーア”コクピット
「命中……っと」
モニターの中に映る、黒煙を上げながら高度を落としていく白亜の巨艦”アークエンジェル”を見ながらスミレは窮屈そうに体を伸ばし、凝りをほぐす。
なにせ、この待ち伏せを成功させるために4時間も狭い車内に縮こまっていたのだ。体のあちこちから小気味のいい音が響く。
「『ミラージュコロイド・ステルス』、意外と使えるものね。動いたらバレる光学迷彩なんて、さして意味もないと思ってたけど」
スミレの専用機”フェンリル・ミゼーア”は、”プロトタイプ・フェンリル”にPS装甲や『ミラージュコロイド・ステルスシステム』等の特殊機構を搭載した機体である。
無論、連合軍の”ブリッツ”でも成し遂げられていないようにPS装甲と『ミラージュコロイド・ステルス』は同時に展開することは出来ない。それどころかZAFTの『ミラージュコロイド・ステルス』は技術が十分に発展しておらず、少しでも動けば可視光線や電磁波を偏向する
だが、この”フェンリル”のように重戦車へ分類出来る存在にとってはそこまで致命的というものではなかった。
というのも、”フェンリル”の主砲の口径は400mm。実弾ではあるが戦艦の主砲級の威力を誇り、その一撃は戦局を変化させるに足る。”プロトタイプ・フェンリル”を開発し、”ミゼーア”への改修を行なったバーダー技術局はそこに目を付けた。
『ワンアクションで透明化が解除されるなら、
敵が透明な状態で待ち伏せし、無警戒な状況の自分達に戦艦の主砲級の一撃を叩き込んでくる。敵に回す側からすればたまったものではない。
加えて、もう1つ敵にとって絶望的な事実が付け足される。
「
スミレ・ヒラサカと”フェンリル・ミゼーア”の組み合わせは、透明化などなくても十二分に脅威ということだ。
彼女はアクセルペダルを踏み込み、”ミゼーア”を前進させる。
この戦いに決着をつけるために。
”アークエンジェル”艦橋
「総員、衝撃に備えよ!」
マリューの指示がされた直後、その場にいた全員を多大な衝撃が襲った。
全長350mを超える飛翔体が墜落した余波は凄まじく、乗組員の半数超は備えていてもその場に留まりきることが出来ず、床に放り出されたり随所に体を打ち付けるなどの無様を晒しているが、そのようなことを気にする人間は誰一人としていなかった。
当然だ。この戦いの根本である「逃げる」が破綻したのだから。
「くっ……被害状況知らせ!」
「右舷エンジン付近に着弾した模様……しばらく浮上は不可能です」
「整備班を向かわせて!なんとしても、修理を」
そうは言うが、言った本人であるマリューにもそれが難しいということは分かっていた。
修理に掛かる時間はどれほどか。程度にもよるが、1時間を切るということだけはあるまい。
そして、その1時間があれば
「に、しても……あいててて」
「大丈夫かね、アミカ少尉」
「だーいじょうぶです。それより、なんで
「たしかに……先の一撃、私達は全くの無警戒だった。やろうと思えばこの艦橋を吹き飛ばすことだって出来た筈なのに、何故?」
後方の”フェンリル”2両と戦闘していたモーリッツの報告を信用するなら、後ろの2両は囮で、先の一撃を放ったのが『深緑の巨狼』で間違い無い。
そして彼女の腕ならば一撃で”アークエンジェル”を撃沈出来た。にも関わらず、実際には一時的に浮上不可能なレベルに追い込む程度。
「……どうやら、私達は戦争の行く末を左右しかねない存在になってしまったらしい」
ミヤムラがポツリとこぼした言葉にその場の全員が耳を傾ける。
思い立ったら要領を得ない言葉を漏らしてしまう口癖は結局この歳まで治らなかったな。そう思いながらミヤムラは説明し始めた。
「おそらく、彼らは“アークエンジェル”を鹵獲するつもりだ」
「鹵獲!?」
「道理で攻撃の被害が半端なワケだ、後々から自分達で直して使うつもりなんだから」
「その通りだトルーマン軍曹。しかし、それだけでは70点といったところかな」
ミヤムラは言った。彼らの真の目的は”アークエンジェル”を鹵獲し、
”アークエンジェル”級はこの時点では唯一大気圏内飛行能力と戦艦並の火力を兼ね備えた艦艇だ。2個小隊程度のMSに加え戦闘機を運用することも出来るし、なんなら単独での大気圏突入能力までも備えている。
もしも、そんな”アークエンジェル”級を彼らが手に入れた場合、どんなことが起こりうるか。
「───敵陣の中枢に、直接乗り込むことが出来る。カオシュンやパナマといったマスドライバー基地、そして地球連合軍本部JOSH-Aにも。彼らお得意の電撃戦がますます捗るというわけだ」
これまでもZAFTは降下ポッドを用いてMS隊を宇宙から地上に送り込むことがあったが、それは降下部隊が確実に地上部隊に回収してもらえる保証があってのものだった。
”アークエンジェル”級なら降下して作戦を終えた後は自分で基地に撤退することも出来るし、その通信機能を活かして臨時の拠点として用いることも出来る。
最悪の場合は特攻覚悟で敵陣に突っ込み、陽電子砲を乱射するだけでも敵部隊には多大な被害が生まれる。
攻撃という点では万能と評することが出来る”アークエンジェル”は、ZAFTには喉から手が出るほど欲しい代物の筈だ。
「最悪の場合、あたし達が戦犯になる可能性もあるってことですか!?」
「このまま彼らの目論見通りにいけばな。だが、そうはさせんさ。信号弾を打ち上げてくれ、内容は『我、救援求ム』だ。もしかすれば、遠方からこちらを観測している部隊が気付いてくれるかもしれん」
「……気付いてくれるでしょうか」
「……さあ、祈るしかないな」
苦しそうな顔をしながらミヤムラは答えた。
彼は諦めるつもりなど無いが、それでも現状がどれだけ絶望的かということは分かっていた。
敵部隊の数は自分達の倍以上。透明化に加え、以前の戦闘でPS装甲も持っていることが判明した『深緑の巨狼』。そして、アンドリュー・バルトフェルド。
これらの障害を乗り越えて自分達が生還するビジョンが浮かばなかった。
(この歳になってこれほどの戦場に巡り会うとは……分からんものだ)
「おらおらおらぁぁぁぁぁぁ!どうしたZAFT共、掛かってきやがれ!」
雄叫びを挙げながらマイケルは愛機が両手に持ったアサルトライフルを乱射、敵MS隊の接近を防ごうとする。
マイケルが地上を高速機動可能な”パワード・ダガー”に乗っていることもあり、歴戦の”バルトフェルド隊”であっても中々に近づけないようだった。
しかし、それもライフルの残弾が尽きるまでの話。
現在発射されているアサルトライフルには通常の弾倉よりも多くの弾丸を装填できるドラムマガジンが取り付けられているが、それでも、動けない”アークエンジェル”に押し寄せてくるMSを全て撃破するにはまるで足りなかった。
<無駄弾を使うなマイケル!今は誰もフォローになんか入ってやれないぞ!>
「分かってますよ!でもこいつら、わらわらと……!」
ムウからの警告が飛ぶが、それはマイケルも承知の上だった。
しかし、こうでもしなければマイケルの腕では敵MS隊を抑えておくことは難しいのだった。
「ちくしょう、どっからこんなに」
先ほどまでは影も形も見えなかった”ジン・オーカー”に攻撃を加えながら、マイケルはポツリとこぼす。
彼達は”アークエンジェル”が不時着するまで一度も人型MSと遭遇していない。”アークエンジェル”が正面突破を選ぶと予測したバルトフェルドが待ち伏せのために配置していたからだ。
それはつまり、『この場所に”アークエンジェル”が墜落すること』もバルトフェルドの計画の範疇ということになる。
「やられるか、こんなところでよぉ!」
奮闘を続けるマイケルの前に、また1機”ジン・オーカー”が現れる。
その機体はマイケルの”ダガー”と同様、両手にマシンガンを装備していた。
「なんだパクリかこの野郎!”ジン”程度がそんな猿真似をしようが───」
次の瞬間、マイケルは
最初から見えていた両手の2丁と、”ジン・オーカー”のバックパックから伸びた2つの副腕の構える2丁のマシンガンが同時にマイケルをターゲットしたからである。
この機体は旧式化の進んだ”ジン”シリーズの改修案の1つ、特に火力面の補強を狙ったサブアーム増設プランに基づいて改造された1機なのだが、そのようなことはマイケルには関係なかった。
「オーマイゴ───」
次の瞬間、4つの銃口から放たれた弾丸の嵐がマイケルを襲った。
「ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!?」
「ぐあっ、かぁ!?」
視界が揺れる中、スノウは悲鳴を挙げた。今の悲鳴は、敵の尾部から伸びたワイヤーブレードに絡め取られ、そのままの勢いで投げられた衝撃によるものである。
スノウの前に突如現れた“ラゴゥ”のカスタム機、”ラゴゥ・デザートカスタム”はスノウがこれまで遭遇したことの無い性能を持って彼女に襲いかかっていた。
背中に背負ったビームキャノンは従来機のものより連射速度を強化したものであり、その上に重なるように8連装のマイクロミサイルポッドが装備されている。
頭部に備わったビームサーベルは勿論、この機体は前脚部にもビームサーベルを搭載しており、より広い範囲をサーベルで攻撃することが可能となっている。
機動性の強化といった強化も施されているが、もっとも特筆すべきは、尾部に取り付けられたテールブレードの存在だろう。
この装備は、プラント本国で開発された『新型量子通信システム』を組み込んだことで、まるでそれ単体で生物のように自在に動かすことが出来る試作装備だ。
今は超硬質ワイヤーを介して操作しているが、システムが完成した暁にはNジャマーの影響で封じられていた無線誘導兵器の限定的復活も可能とされている。
無論、ある程度は技術的問題も抱えている。
それは、ワイヤーブレード操作の難易度の高さ。生物のように自在に操ることが出来るといっても、それを実際に扱える人物はパイロットの平均能力の高いZAFTでも限られる。
だからこそ、この装備は彼───アンドリュー・バルトフェルドの専用機に搭載されたのだ。
現在のZAFTにおいて、考え得る限りでは3本の指に入るだろう腕前を持つ男は、難なくこの装備を操っていた。
「くそっ、なんなんだこいつは!?」
放り投げられてすぐに体勢を立て直し、ビームダガーを構える”デュエルダガー・カスタム”。
しかし、現在の状況は圧倒的にスノウの不利だった。
射撃武器のほとんどを喪失している上に”デュエルダガー・カスタム”自体も長期戦は不得手な機体。加えて、パイロットであるスノウの問題もあった。
スノウは徐々に自らの反応速度が低下している事実を認めていた。
疲労によるものではない、自身の身体能力を高める薬物の効果が切れ始めていたのである。
(どうする……)
ここでスノウが取れる手段は2つ。
1つは、後退して薬物の補給も兼ねて”アークエンジェル”の防衛に就くこと。
そしてもう1つは、命を捨てる覚悟で目の前の機体を撃破すること。
そうでなくとも、この敵ほどの戦闘力を持つ兵士はそうそういない。道連れにしてでも落としにいく価値はあるとスノウは考える。
普通に考えれば、撤退するのが筋だろう。一度帰投して万全の状態で”アークエンジェル”や他のMS隊と共闘するのが最適解だ。
だが、もしもこの敵が
そして、”アークエンジェル”とMS隊のところまで到達してしまったら?
自分はともかく、キラ以外のMS隊は易々と撃破されてしまうだろう。如何に激戦をくぐり抜けてきたといっても、この”ラゴゥ”はレベルが違う。
だが、このままここで戦えば自分の命はない。
「……ふん、釣りが出るくらいだ」
そしてスノウは、
自分の命と引き換えにするだけでアンドリュー・バルトフェルドを討ち取れるとすれば大戦果だ。そう考え、攻撃を避けながら機を窺うスノウ。
そして、その時は来た。
真正面に”ラゴゥ・デザートカスタム”を捉えたスノウはペダルを踏み込み、”デュエルダガー・カスタム”の最大速度で迫る。
敵も同じように”デュエルダガー・カスタム”を正面に捉えているが、スノウには勝算があった。
「真正面には、尻尾は振れまい!」
射出角度の問題か、”ラゴゥ・デザートカスタム”が真正面を向いている時には厄介なテイルブレードは飛んでこない。
そのことを察し、スノウは全速力で”ラゴゥ・デザートカスタム”に迫る。
敵から放たれたビームが掠りながらも、スノウは突進を止めない。
遂に敵との距離が200mmを切る。そこまで来れば、既にスノウの距離だ。
「お前は、ここで───!」
───その筈だった。スノウの思考が一瞬止まる。
(何故、
真正面にはテイルブレードは飛ばせない筈では無いのか。混乱した思考だったが、スノウは理解した。理解
何ということはない、最初から真正面に飛ばすことは出来たのだ。ただ、使わなかっただけ。
それをスノウは弱点と勘違いしてしまった。あるいは、勘違いするように誘導されただけかもしれないが。
それを回避する術は、もはやスノウには残されていない。
(死───)
<ソード2っ!>
気にくわない男の声が、聞こえた。
命中する直前にその刃は軌道を変え、”ラゴゥ・デザートカスタム”本体に迫る飛翔体を弾き飛ばす。ソードストライカーの装備であるビームブーメラン『マイダスメッサー』だ。
スノウはハッと我に返り、その場を飛び退く。
<ごめん、遅れた!>
「……はんっ」
安心感と同時に、スノウは呆れを込めて鼻を鳴らした。
この男は何故、ここぞという場面でばかり駆けつけるのだろうか。これでは何時になっても素直に礼を言うことなど出来そうにない。
「何処で油を売ってたんだ、ソード1?」
<ごめん、背中の荷物が重くってさ!>
障害をはねのけ、遂に”ストライク”が”ラゴゥ・デザートカスタム”と相対する。
”デュエルダガー・カスタム”を庇うように前に出る”ストライク”。5基あったストライカーの追加バッテリーパックは既に2つとなっているが、それでもスノウには、”ストライク”が千の兵よりも頼りになるように見えた。
<ソード2は一度補給へ。……あの機体は僕が抑える>
「……了解した」
キラの言うことを素直に受け止めるスノウ。
本当は彼女もその場で戦いたかったが、”デュエルダガー・カスタム”はそもそも短期決戦向けの性能をしている。エネルギー残量も既に半分を切っている以上、補給に戻るのは必要なことだった。
それは、パイロットであるスノウにとっても同じ事。肝心なところで薬の効力が切れてしまえば足手まといになる。
「見ていたかもしれんが、奴の尻尾……意外と小回りが効く」
<うん、気を付ける>
機体を後方の”アークエンジェル”に向けるスノウ。
最後にぽつりと、彼女は言葉を投げかけた。
「……死ぬなよ」
<勿論>
”デュエルダガー・カスタム”が飛び去る間際のその一言は、スノウにはどうしようもないほどに悔しく思えた。
自分ではどうしようも無かった先ほどまでの絶望感を、吹き飛ばしてしまったのだから。
「うわったぁ!?」
そのころ、マイケルは情けない悲鳴を挙げながらマシンガンの掃射から逃げ回っていた。
無理も無い。2本のサブアームを増設した”ジン”の改良機、”ジン・クアットロ”の登場によってマイケルを襲う銃火の数は単純にMS4機分も増えてしまったのだから。
マシンガン以外の武装を排除した漢気溢れるこの機体だが、パイロットも大分この機体に習熟しているようで、マイケルは”パワード・ダガー”の機動性を以てしてもその攻撃範囲から逃げられずにいた。
それに加えて、他のMSの相手もしなければならないのだ。とっくに平均的な一パイロットの負担できる領分は通りすぎってしまっている。
とうとう、敵MSから放たれた弾丸が”パワード・ダガー”の脚部に取り付けられたホバー推進用のユニットに命中、機体はつんのめって転倒してしまう。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」
格好の獲物目がけて、”ジン・クアットロ”は自慢の弾幕を浴びせた。
PS装甲ではないとはいえ高級量産機である”ダガー”の装甲は固く、各所に弾痕が刻まれるだけに留まったが、このまま何もせずにいればマイケルは確実に命を落とすだろう。
「やられるかよ、こんな、こんなところで!」
負けじと撃ち返すマイケル。奮闘する彼だったが、機動力を失ったことで既に敵部隊によって包囲されつつあった。
もはやここまでか。操縦桿を握るマイケルの手に力が入った瞬間である。
ビームサーベルを展開してマイケルに近づいてきていた”バクゥ”が、突如として前半身と後半身に分かたれた。
何処からか飛来した砲弾が、”バクゥ”の胴体に徹甲弾を直撃させたのである。
”アークエンジェル”側でそれが出来る存在はただ一つ。
<無事かルーキー!?>
そう、モーリッツの指揮する”ノイエ・ラーテ”である。
彼らは後方から”アークエンジェル”に迫っていた2両の”フェンリル”を行動不能状態に追い込み、マイケル達の元に駆けつけたのだ。
今頃は走行ユニットが破損した車両からパイロットは逃げ出しているだろうが、”ノイエ・ラーテ”の試験搭乗員を務めたモーリッツ達を相手にそれで済ませているところは、流石“バルトフェルド隊”といったところだろう。
続けて、別の”バクゥ”にも一本のビームダガーが突き刺さる。
<すまない、今戻った!>
たった今、スノウが”アークエンジェル”の元に帰還したのだ。
使い物にならなくなった走行ユニットをパージしつつ、マイケルは自機を立ち直らせる。
「ソード2は!?」
<前方で敵エースと交戦中だ>
いつもながら、キラにばかり面倒事が向かっているような気がする。
自分よりも年下のキラに負担を背負わせていることをマイケルは歯がゆく思ったが、自分はキラとは違うし、今のキラに出来ないことをするだけだと思い直した。
「だったら、あいつがちゃんと帰ってこれるようにしないとな!」
<ついでに、もう一踏ん張り頼む。……一度補給する>
「おう、任された!」
スノウが
キラが戦っている。スノウも絶対に戻ってくる。
ならば、持ちこたえてみせよう。凡人である
「悪いが、時間を稼がせてもらうぜZAFT共!」
マイケルが奮起している一方で、別の場所では因縁の対決が行なわれようとしていた。
<レーダーに接近する反応……これは”フェンリル”か!ならばっ>
<活きの良い奴がいる……あの
<リベンジマッチだ、スミレぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!>
<また、あんた達かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!>
”フェンリル”と”ノイエ・ラーテ”。
同じ時代、巨大な人型が跋扈する戦場においてなお輝いてみせた2つの戦闘車両。
その2両に初めて乗り込み、戦った者達。
両者の奇妙な因縁は、やはり奇妙な形で再戦を果たそうとしていた。
「バアル、あの体たらくはなん───」
「寄越せ!」
コクピットから出てすぐに、スノウは待機していた研究員の一人の手から何らかの薬液───その詳細をスノウは知らないし興味も無い───が詰まった
男達が何かを言おうとしていたが、今のスノウにはそんなことを考慮してやる必要性を感じられなかった。
「貴様、その態度はなんだ!誰のおかげで戦えると───」
「お前ら
この状況下でよくプライドにまみれた物言いが出来るものだ、とスノウは薬の影響で再び研ぎ澄まされ始めた頭で考える。
先の山間部における”バルトフェルド隊”の奇襲においても、彼らは戦闘後にスノウへ不満を漏らしていた。戦闘後で極めて昂ぶっている強化人間に対してそのようなことをするなど、どんな拍子に八つ裂きにされてもおかしくはない。
彼らには致命的に、危機感という物が足りていなかった。あるいは、足りていないような凡百の人材だからこそ”アークエンジェル”に乗せられて激戦に巻き込まれているのかもしれない。
「言いたいことがあるなら戦闘後に聞く!もっとも、戦闘後に私達が生きているかは知らんがな!」
「なっ……」
呆気に取られる男達の姿が閉じていくコクピットハッチで遮られ、スノウは溜息を吐く。
何故補給のために戻った場所でこのような思いをしなければならないのか。薬の副作用によるものとは別の頭痛が彼女を襲うが、時間もそうあるわけではない。
「再出撃、よろしいか!?」
<簡易チェックなら……でも推進材の充填は完了してません>
「十分だ!」
”デュエルダガー・カスタム”にも”ストライク”と同じ超伝導電磁推進式のスラスターが装備されており、空気を吸排出することで推進することが出来る。
しかし、瞬間的な加速を求めた結果”デュエルダガー・カスタム”には推進材を用いるスラスターも搭載されているのだ。それが完全な状態ではないということをアリアは告げるが、スノウはそれでも構わないと返答する。
充填が終わるまでの時間で味方がやられては意味が無い。
発進位置まで移動するまでの間、スノウは艦橋から送られてきた現在の戦況を確認する。
(”レセップス”は未だ健在、敵MS多数、2方向から”ピートリー”級も接近……絶望的だな。空はあのイーサンという男が抑えているのか?そして”フェンリル”……これは”ノイエ・ラーテ”が対処している)
この混迷とした戦場で、自分がするべきことは何か?
限られた活動時間で、自分は何をするのがもっとも効果的だろうか?
僅かに考えた後、スノウは艦橋に通信回線を開いた。
「ブリッジ、ソードストライカー……いや、対艦刀を出してくれ」
<対艦刀?>
通信に応答したサイに、スノウは不適に笑った。
「ああ。”レセップス”を仕留め損なったからな……挽回してくる」
<足つきからMSが出た、さっきのだ!>
<おいおいおい、ありゃあ……!>
対艦刀を装備して再出撃した”デュエルダガー・カスタム”は、まっすぐに
「母艦は落とす、そうすれば貴様らも戦ってはいられまい!」
スノウの狙い、それは”アークエンジェル”に接近している敵陸上駆逐艦を撃破することだった。
動けない”アークエンジェル”にとって艦砲射撃は非常に脅威となる。それを止めるのに、高機動の”デュエルダガー・カスタム”は適任だった。
加えて、敵母艦を狙うことによって敵MS隊の目から”アークエンジェル”やムウ達を逸らすことも狙いにある。
前方から迫り来る敵MS隊と、その奥に控える駆逐艦。たとえスノウがどれだけスペシャルな存在だったとしても、命を落とす確率の方が高いだろう。
だが、彼女は獰猛に笑いながら立ち向かう。何が彼女を駆り立てたのか。
ZAFTを抹殺する為か?それは勿論。
仲間を守る為?スノウ本人は否定するかもしれないが、彼女はたしかに仲間への情を持ち始めていた。それもあるだろう。
だが、何よりも彼女が受け入れがたいことがあるから、彼女は突き進む。
あの、どうしようもなく純朴なくせに、戦いたくない筈なのに戦場に立つ
あふれ出る闘志と共に、彼女は吠えた。
「たたっ切る!全員だ、1人の例外もない!」
俺は……なぜあんな無駄な時間を……。(三井並感)
はい、更新です。
これほんとにあと1話でバルトフェルド戦終わるかなぁ……。
忘れた頃にやってくる、「オリジナル兵器・キャラクター募集」より採用したアイデアの紹介です!
「kiakia」様より、『MS用の補助腕』を採用させていただきました!
それと実際に補助腕を取り付けたオリジナルMSとして「ジン・クアットロ」を登場させました。以下は紹介みたいなものです。
○ジン・クアットロ
旧式化が進んだジンの改修プランの内の1つ。
単純に補助腕を積んだバックパックに換装しただけではあるが、本編で見せたように1機で4丁もの武装を扱うことが出来るなど、火力面での増強が図られた。
しかし戦局に大きな影響を与えることが出来るほどのものではなく、少数が生産されただけに留まる。
バルトフェルド隊に配備された機体は主に敵部隊の攪乱に投入された。
夜間や霧が出ている等、視界不良な戦場において小隊規模の火力投射を行うことで、敵部隊に「あの場所には敵部隊が潜んでいる」と誤認させ、敵の目から本隊の存在を隠し通すなど、一定以上の戦果を挙げたようだ。
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。