機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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第98話「砂漠の虎達」中編

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”アークエンジェル”艦橋

 

「『ウォンバット』、撃てー!」

 

「左舷より”ディン”接近、数は3!」

 

「『イーゲルシュテルン』の自動追尾を切れ!アルゴリズムを解析されてるせいで効果が薄い、ランダム射撃!」

 

「ワンド2、ヒルダさん!”アークエンジェル”から離れすぎないように!」

 

”アークエンジェル”の艦橋内は、怒号が絶えず飛び交っていた。

それもその筈、”アークエンジェル”は今、ZAFT地上軍最強と名高い”バルトフェルド隊”から攻撃を受けているのだ。ブリッジクルー達に休息を挟む暇など存在しない。

特に、艦長のマリュー。彼女は各所から上げられる報告を1つ1つ捌き、対処するための指示を出さなければならない。

戦闘に直接繋がる問題に関しては副長であるナタルがCICを仕切ることで負担が軽減されているが、それでも今の彼女には他のことを考える余裕は無いだろう。

 

(彼女が優秀なおかげで、私は考えることに集中出来る。有り難いことだ)

 

ミヤムラはそんな彼女の様子を横目で確認しながら、戦局を分析する。

まずは航空戦。先ほどから”ディン”の編隊による攻撃が行なわれているが、これはトールとイーサンが駆る”スカイグラスパー”、そして甲板上から『アグニ』による砲撃を行なっているベントの連携で被害は抑えられている。

特にイーサンの働きは目覚ましく、6機ほどの”ディン”の内3機を押さえ込んでいる。元”グラスパーズ”の自負は伊達ではないということか。

次に、”アークエンジェル”の直援に付いているムウとマイケルの2人。こちらも、前進を続ける”アークエンジェル”に並走しながら、”バクゥ”隊の接近を防いでいる。

急遽出撃が決まり、バルーンで降下させるという無茶な提案を呑んでくれた”ノイエ・ラーテ”も、後方から”アークエンジェル”を猛追する2両の”フェンリル”への牽制を行なっている。

最後に、”アークエンジェル”の進行方向を切り開く役割を担ったキラ達。

マルチプルアサルトストライカーを装備した”ストライク”とキラは正に縦横無尽の働きを見せており、前進しながら何機もの”バクゥ”を屠っている。

キラに付いていきながら、切り開かれた進行ラインを維持するスノウとヒルデガルダも、奮戦している。

スノウは持ち前の機動性を活かして”バクゥ”を攪乱・撃破している。比してヒルデガルダはというと、撃破には持っていけていないが踏み込み過ぎず、甚大なダメージを負うことを避けている。

激戦ではあるが、今のところは何もかもが作戦通り順調に進行していた。

 

(……()調()()()()

 

”アークエンジェル”隊にたしかな実力があるのは間違い無い。だが、ミヤムラは違和感を拭えないでいた。

 

(”インフェストゥスⅡ”が出てこないのは、彼らが本来陸戦隊であって航空戦は専門外だからという可能性がある。しかし、人型MSが少ない……否、いない。機動戦で置いていかれるのを避けた?いや、それでも進行方向に配置して壁にするだけでも効果はある筈だ。ならば考えられるのは奇襲……どこで仕掛けてくる?)

 

考えれば考えるほど、どんな可能性もありうるような錯覚をする。

”バルトフェルド隊”という存在に過度に脅威を感じているというのではない。この錯覚を誘発させるだけの積み重ねさえも、彼らの手札の1つなのだ。

ミヤムラは『戦闘とはカードゲームに似ている』という持論を持っている。それもトランプではなく、TCG(トレーディングカードゲーム)のように、お互いに全く異なるデッキで遊ぶタイプのものに。

始まった時点では相手の手札はまったく予想が付かないが、それは自分達も同じ。

今の状態をTCGで例えるなら、『盤面は良いが手札が尽きた』状態といったところだろう。

対して相手は、『程々の盤面だが手札が豊富』。これがどれだけ恐ろしいか、ミヤムラは現役時代の海賊掃討戦や他国との小競り合いで理解している。

 

(さて、どう出てくるか……)

 

今のミヤムラには、即興で組んだ作戦が成功することを祈るしかないのだった。

 

 

 

 

 

「うわっ、うわわ、わわわーーーーーーっ!?」

 

一方その頃、トールは2機の”ディン”を相手に必死に奮闘していた。もっとも、トール側から攻撃出来るような隙はほとんど無いために逃げ回っているのが実情だが。

それもその筈、トールにとってまともな航空戦はこれが初めての機会なのだ。むしろ、初陣でベテランの”ディン”2機相手に逃げ回ることが出来るだけでも上々といったところだろう。

 

(ちくしょう……こいつら、シミュレーションが話にならないくらい強いじゃんか!)

 

本来はトールの駆る”スカイグラスパー”と”ディン”では前者が有利とみなされるが、敵はこれまで、何度も”スカイグラスパー”と戦闘し、生き延びてきたベテラン。新兵の”スカイグラスパー”など易々とあしらえる。

これが”バルトフェルド隊”。ZAFT地上軍最強の部隊。

しかし、トールに泣き言は許されない。

今”アークエンジェル”に攻撃を仕掛けてきている“ディン”は6機。その内3機を飛び入り参戦のイーサンが駆る”アームドグラスパー”が抑えている。

もしも自分かイーサンが落ちれば、その分の”ディン”が一気に”アークエンジェル”に殺到するのだ。

甲板上で砲撃支援を行なっているベントの“ダガー”も時折援護砲撃を行なってくれているが、彼もフリーな状態にある“ディン”から攻撃を受けていた。

助けを求めても、どこも自分のことだけで手一杯なのである。

 

「くそっ、こんなところで死ねるもんかよ!」

 

自分(トール)がここにいるのは、ZAFTから地球を、仲間達を守る力を手に入れるためだ。

”アークエンジェル”隊の仲間。オーブ本国で無事の帰還を願ってくれているだろう家族。そして、ミリアリア。

入隊を決めた時は必死の形相で止められたが、それでも彼女は自分の選択を応援してくれた。

いつも弱気だったカズイも、何かをしようとモルゲンレーテ(国営企業)で働いているという。彼らのためにも、負けるわけにはいかない。

しかし、彼はけして特別な存在ではない。

”ディン”からの攻撃を大ぶりに回避した”スカイグラスパー”、しかしその前に別の”ディン”が現れ、銃を向ける。

トールは2機の”ディン”に追い込まれたのだ。ハッと息を飲むトール。

今にも引き金が引かれそうになったその時、銃を構えた”ディン”にミサイルが命中した。

被弾した”ディン”は、翼を失って浮力を失いながらも体勢を維持しつつ地上に墜落していく。

 

<無事か、ルーキー!?>

 

ミサイルを放ったのはイーサンの”アームドグラスパー”。

彼は3機もの”ディン”と渡り合いながらも、トールのサポートをしたのだ。

 

「ブレイク中尉、ありがとうございます!」

 

<良いって事よ!こっちはさっき1機落とした、これで2機だ!>

 

どうやら、渡り合うどころか1機返り討ちにしていたらしい。逃げ回るのが精一杯だった自分と比較し、少しだけ気落ちするトール。

だが、朗報に違いない。

 

<生き残り続けろケーニヒ2等兵!その内俺が全部落としてやる!>

 

「りょっ、了解!」

 

何度も戦ってきた正真正銘のエースであるイーサンと自分で比較してもしょうがない。それよりも今は、この戦場を生き残ることを考えなければ。

トールは頭を振り、残った”ディン”との戦闘に戻るのだった。

 

 

 

 

 

「2つ!……ちっ」

 

”ストライク”が右手に握ったビームライフルで”バクゥ”を撃ち抜きながら、キラは舌打ちをした。

彼の役割”アークエンジェル”の進路を切り開く、つまり最前線で襲い来る敵を捌きながら前進を続けることなのだが、想像以上に戦果を挙げることが出来ないでいた。

マルチプルアサルトストライカーを装備して重量が増加したことに起因する機動力の低下もあるが、襲い来る”バクゥ”のどれもが高い練度を備えており、ここに至るまでで2機の”バクゥ”しか撃墜できていないのだ。

キラが撃ち漏らした分だけ、後方の味方の負担が増えていく。

勿論、味方の実力を低く見ているというわけではない。これまでの戦いをくぐり抜けてきたことで、キラだけでなく彼らの実力も大きく伸びていた。

しかし、それを鑑みても敵の戦力が高すぎるのだ。量は勿論のこと、質も平均よりずっと高い。

 

(まだか……まだなのか?)

 

キラの焦りを助長しているのは、それだけではなかった。

ミヤムラが立てた作戦を実行に移す上で、どうしても相手に依存せざるを得ない条件が1つあった。

あの3機の”ラゴゥ”。チームを組んでいるであろう彼らに、出てきて貰わなければならないのだ。

緻密な連携でキラの”ストライク”を窮地に追い込んだこともある彼らの居場所がハッキリしなければ、この作戦は実行に移せない。

 

<───来た!来たぞキラ、お前の前方から3機分の反応!”バクゥ”よりも早い、”ラゴゥ”だ!>

 

焦りが増していたキラに、サイが吉報を告げる。

 

「了解!───ソード2!」

 

<既に控えている!>

 

この作戦において、ともすればキラ以上に重要な立場にあるといっても過言ではないスノウ。

彼女は”ストライク”から僅かに後方に位置し、今は後ろからサーベルを展開して迫ってきた”バクゥ”をジャンプで回避しつつマシンピストルで蜂の巣にしている。

そして、遂に3機の“ラゴゥ”がキラ達の前に姿を現した。

 

<前回はよくもやってくれた……今回こそジワジワとなぶり殺しにしてやる!>

 

<怖っ……ま、やることはその通りなんだけどさ>

 

<ヘマすんなよピザデブ>

 

やる気満々といった様子でキラを包囲しようとする3機の”ラゴゥ”。

そんな彼らと相対してキラが取った行動は、ビームライフルを投げ捨て、後腰部に懸架していた信号拳銃を取り出すことだった。

わざわざライフルを捨てて何をするのかと訝かしむ”ラゴゥ”達。彼らが何かをしようとする前に、キラはその信号拳銃を()()()発射した。

 

<これは───!?>

 

次の瞬間、周囲は煙で包まれた。”ストライク”が発射したのは、煙幕弾だったのだ。

煙に紛れて自分達を撃破するつもりか。そう勘ぐった”ラゴゥ”チームのリーダーであるライム・ライク。

早急に煙を脱しなければ、そう考えて彼女は“ストライク”のいる方向とは逆の方向に機体を向かわせ、煙から脱出する。

 

<ちっ、どうするライム!?>

 

<落ち着け、煙は直に晴れる!>

 

動揺しながらも僚機が生存していることを確認しつつ、ライムは今も煙の中にいるであろう”ストライク”に対する警戒を厳とする。

右か、左か、正面か、それとも上か。

どの方向から仕掛けてきても、”ストライク”に対応し改めて包囲するつもりでいたライム。しかし、彼女は1つ見落としていることがあった。

煙の中にいたのは、”ストライク”と彼女達3機()()()()()()

煙がまき散らされた瞬間に、突入した存在がいたことを。

煙の中から飛び出した存在と、その方角を確認してライムは目を見開いた。

 

<”ストライク”じゃないっ!?>

 

煙の中から飛び出したのは、スノウの駆る”デュエルダガー・カスタム”。

煙を脱したその機体はライム達のいずれでもなく、彼女達がやってきた方角、つまり”レセップス”の方向へ向かった。

 

<まさか……>

 

それを見たライムは、自分達が嵌められたことを理解した。

ミヤムラの立てた作戦は至ってシンプルだった。

彼は派手な装備とそれに相応しい戦闘力を持つ”ストライク”を囮として、”デュエルダガー・カスタム”による司令塔(レセップス)への奇襲を行なわせたのだ。

”デュエルダガー・カスタム”の機動力、特に瞬間速度はエールストライカーを装備した”ストライク”を超える。

加えて、今の”デュエルダガー・カスタム”は後腰部に”デュエル”のものと同一のビームライフルを装備している。

ビームライフルの下部に取り付けられたグレネードランチャーで”レセップス”を行動不能にし、司令塔を失って”バルトフェルド隊”が動揺している隙にMS隊を回収して安全圏まで離脱。それが彼の立てた作戦だ。

進行方向上には、救出した連合兵を回収するための輸送機とその護衛部隊が控えている。彼らの助力もあれば、ジャンプすることの出来ない”ノイエ・ラーテ”を回収する時間も稼げるだろう。

敵を引き連れていくかもしれない彼らには災難だが、ミヤムラは使えるものは使う算段でいた。

もっとも、そこまでのことはライム達には預かり知らぬこと。

慌てて”デュエルダガー・カスタム”を追おうとした彼女達の前に、高出力のプラズマエネルギーが撃ち込まれる。

”ストライク”が『アグニ』を発射して、彼女達の追撃を阻止したのだ。

 

<こいつ……!>

 

「ここから先には、行かせない!」

 

信号拳銃を後腰部に再び懸架した後に、”ストライク”は対艦刀を引き抜いてライム達の前に立ち塞がった。

 

(頼んだよ、バアル少尉……!)

 

 

 

 

 

「邪魔だ、退け!」

 

弾丸をばらまきながら、スノウの駆る”デュエルダガー・カスタム”は”レセップス”に向かって突き進む。

道中には護衛の”バクゥ”や”ジン・オーカー”、加えて”レセップス”からの砲撃も飛来するが、”デュエルダガー・カスタム”の機動力と強化人間(ブーステッドマン)であるスノウの反応速度を捉えることは出来ない。

数々の妨害を乗り越え、遂にスノウは、”レセップス”を射程範囲に収めた。

 

「終わり、だ!」

 

弾が切れたマシンピストルを捨て、”デュエルダガー・カスタム”は後腰部からビームライフルを手に取り、”レセップス”の艦橋目がけてジャンプする。

あとはライフルの銃身下部に取り付けられたグレネードランチャーを撃ち込むだけで、この戦闘の大勢は決する。スノウはそう思っていた。

それはけして間違いではなかった。

 

<ま、そうはならないんだがね>

 

ゾワリ、と。

悪寒を感じたスノウは咄嗟に後方に姿勢をずらす。

直後、目の前を通り過ぎた刃が”デュエルダガー・カスタム”のビームライフルを破壊していった。

 

「なんだ、と……!?」

 

地面に着地した”デュエルダガー・カスタム”。そのモニターには、先ほどの攻撃を行なってきた敵の姿がハッキリと映し出されていた。

ユラユラとまるで生き物のように揺れる実体剣。それはワイヤーを通じて敵の尾部に繋がっていた。

背中には2門のビームキャノンとミサイルポッドを背負い、その前両脚にはビームサーベルの発振機らしきものが取り付けられている。

そして何よりも特徴的なのは、その機体色。

”ラゴゥ”がベースと思われるその機体は、たしかに”ラゴゥ”同様にオレンジ色だった。しかし、通常の”ラゴゥ”よりも、ずっと深く、暗い、まるで血のような色をしていた。

 

<さてと……試運転くらいしかしてないけど、この機体の力を確かめさせてもらおうかな!>

 

その機体のコクピットでパイロット───アンドリュー・バルトフェルドは、普段の飄々とした有様からは想像出来ない、獰猛な肉食獣の如き笑みを浮かべる。

”ラゴゥ・デザートカスタム”。砂漠(デザート)戦仕様という意味ではない、『砂漠の虎』が乗るために作られた専用機。

その牙が、”デュエルダガー・カスタム”に対して剥かれた。

 

 

 

 

 

<───うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!?>

 

「っ、ソード2!?」

 

通信回線越しに聞こえたスノウの悲鳴に、キラは作戦の失敗を悟った。

助けに行かなければ。そう思うキラだったが、それを阻むようにキラに3方向からビームが射かけられる。

現在キラは3機の”ラゴゥ”に包囲、波状攻撃を受けており、とてもではないが助けにいける状態ではない。だがここでスノウを失うということは、心情は勿論として戦力的にも大ダメージとなる。

 

「やるしか、ないか……!」

 

 

 

 

 

キラは先日のアリアとの会話を思い返す。

以前にこの3機の”ラゴゥ”と戦闘した後に、キラはアリアと共に彼らへの分析を行なっていた。

 

『まさかここまで、ヤマト少尉の”ストライク”がボロボロにされるとは思いませんでしたよ。厄介な敵ですねぇ』

 

『次に遭遇した時までに、対策をしておきたいんだ。何かアイデアはないかい?』

 

『あるにはありますけど……その前に、彼らが敵部隊の中でどのような役割を担っているのかをまとめていきましょうか。私も研究者の端くれ、説明したがりですので』

 

アリアは格納庫の何処からかホワイトボードを持ってくると、そこに2色のマグネットを取り付け始めた。

マグネットを相対する2軍のように配置すると、アリアは口を開いた。

 

『この三色(トリコロール)のマグネットが”ストライク”、青が他のMS隊の皆さん、赤が敵部隊と考えてください』

 

自軍側の陣形を、”ストライク”を先頭として他の味方がそれに続くようにアリアはマグネットを動かした。

 

『これが、”アークエンジェル”隊の基本戦術です。もっとも総合戦闘力の高い”ストライク”を先頭にして他は”ストライク”をサポートといった形になります。ですが……』

 

アリアは3個の赤いマグネットを移動し、三色マグネットを包囲するように配置した。

三色マグネットが身動きが出来ない状態になったところでアリアは新たに赤いマグネットを貼り付け、自軍よりも数を多くしてしまう。

先の戦闘で”アークエンジェル”隊が陥りかけた状況だ。幸いにも死者は出なかったが、もう少し時間が経っていればこのホワイトボードのマグネットのように敵の増援が到着し、隊に犠牲が出ただろう。

 

『エースである”ストライク”が押さえ込まれて、他の皆さんは大ピンチ。スノウさんも実力的にはキラさんに並ぶエースではありますが、彼女はムラがありますからね。ぶっちゃけ粘られればどうとでも対処されます』

 

スノウ本人が聞けば、事実ではあるから否定はしないだろうが間違い無く不機嫌になることをスパスパと言っていくアリア。

キラも苦笑いするが、むしろこのように遠慮無く物を言う方が話合いがスムーズにいく場合もあるので、そのまま続きを促す。

 

『話は変わりますが、部隊の指揮官、それも作戦を立案するような人間にとって嫌な敵ってどんな存在だと思います?』

 

『……自分達より数倍の物量の敵、とか?』

 

『それは誰でも嫌ですが、そうなったらむしろさっさと逃げ出すという選択肢も採れますし、逃げられないなら逃げられないで作戦を固めることが出来ます。正解はですね、()()()()ですよ』

 

動かし方次第では数値以上の働きを見せるエースの存在は、敵に回した場合厄介極まりない。

自分達の作戦にとってイレギュラーになり得る、そんな存在を指揮官はもっとも嫌うのだとアリアは言う。

 

『ウチの隊長……あ、ムラマツ中佐の方ですね。彼はそこら辺の見極めが()()()()()上手かったので、敵エースの存在には早急に対処出来ましたが、他の人間にはそうはいきません』

 

実際はユージは見極めが上手かったというより、自身の『ステータス表示能力』という不正(ずる)を用いて敵エースの存在をいち早く感知、部下であるアイザック達に対処させていただけなのだが、そのことをアリア達が知る由も無い。

 

『で、もしも……もしもそんな敵エースが現れた際に、ほぼほぼ封じ込めるような存在が自軍にいたら、どうなると思います?』

 

『どうって……』

 

それは、その指揮官にとっては極めて戦いやすくなるのではないだろうか。

なにせ自分の戦術や戦略を崩す可能性の高いイレギュラーを封じ込めることが出来るのだから。そこまで考えたところで、キラはアリアが何を言いたいかに気付いた。

 

『もしかして、あの3機は……』

 

『そうです。高度な連携と戦略、そして物量を併せ持つ”バルトフェルド隊”。彼らほどの力があれば、どんな戦場でも計画通りに戦えれば勝てるでしょう。計画を乱す敵エースを封じ込めるのが彼ら……()()()()()()なんです』

 

3機の”ラゴゥ”達の役割は、敵エースの撃破ないし封じ込め。

撃破出来るなら撃破するし、そうでなくとも彼らがエースを封じ込めている間に他の味方が敵の主戦力を殲滅し、エースがいてもどうにも出来ない状況に持っていくことも出来る。

1%の逆転の可能性すらも残さない、それが彼らなのだ。

 

『”マウス隊”の頃にも何度か、似たようなことがありましてね。まあ、そう言う時の対処方は概ね2つです。1つは地道に連携を崩して1機ずつ対処。そしてもう1つは───』

 

 

 

 

 

「『アグニ』へのエネルギー充填完了、発射角調整……」

 

キラは敵の攻撃をかいくぐりながら、アリアの提案した『策』実行のための準備を整える。

この『策』の実行は速やかかつスムーズに行なわなければならない。そうでなければ効果は失われ、キラはジリジリと追い詰められることになる。

 

<こいつ、やっぱり私達の動きを……!ラング、ベイル!トライアングルアタック改だ!>

 

<仕掛けるのか!?>

 

<やらなきゃ殺られる!>

 

自分達の動きを分析、対策されていることに焦りを感じたライム達は三位一体の必殺攻撃であるトライアングルアタック、それも前回キラに対して仕掛けたものを改良したものを実行に移す。

流れるように連続攻撃を仕掛ける以前のものと違い、今回はほぼ同時に別方向から仕掛ける連携攻撃に仕上がっており、ライム達は必殺の自信を持っていた。

しかし、トライアングルアタックを仕掛けるに当たってほんの僅かにズレた連携の隙を見抜き、キラは砲身にエネルギーを貯めた『アグニ』を構える。

次の瞬間、ライム達は目を剥いた。

『アグニ』の砲身の前半分が変形、パラポラアンテナのように変形したのである。

 

「『アグニ』拡散照射モード、発射!」

 

キラがトリガーを引いた瞬間、本来収束して放たれる筈だった臨界プラズマエネルギーが、広範囲に渡る破壊の嵐をまき散らす。

コロニーの外壁さえ貫く威力は拡散されても多大な効果を発揮し、ラングの”ラゴゥ”の翼を撃ち抜いた。

”ラゴゥ”の翼には加速のためのブースターが取り付けられているため、ラング機はバランスを崩して転倒する。

 

<ラング!?>

 

<何しやがったぁ!>

 

連携の出鼻を崩された怒りに震えながらも、残りの2機は”ストライク”に立ち向かう。動けないラングから注意を逸らす為だ。

次いで”ストライク”は右肩のコンボウェポンポッドより2発のミサイルを発射した。ここで、ライム達は更に驚愕に包まれることになる。

ミサイルが彼らの目前に着弾したと思った瞬間、視界が爆炎に覆われたからだ。

”ストライク”が発射したのは、高温を発するスーパーナパーム弾だったのである。

反応が遅れたライム機は炎に包まれ、転倒してしまった。

 

<なんなんだ、何を持ってきてんだお前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!>

 

<待てベイル、1機では───>

 

残ったベイル機は果敢に”ストライク”に立ち向かうが、それこそが”ストライク”───キラの狙い。

3機で襲われれば確かに恐ろしい。だが、1機ずつであればキラの実力で十分に対処出来る。

それでも念を押すことにしたキラは、右手の対艦刀を手放し、代わりにビームサーベルを抜き放つ。

対艦刀は動きが大振りになる。それを厭うて小回りの効くビームサーベルで迎撃するつもりか、とベイルは踏んだが、それは間違いであった。

ここに至るまで2つも予想外のアクションをしてきた”ストライク”が、順当な戦い方をするわけも無かったのだ。

”ストライク”の握るビームサーベルの柄が伸び、その先端に、刃が生えたビームの球体が形成される。

それは(サーベル)とはとても言えず、むしろ。

 

(ジャベリン)───>

 

衝撃と共に、ベイルの体は消滅した。

飛びかかった”ラゴゥ”がその頭部から発振したビームサーベルで”ストライク”を切り裂く前に、”ストライク”の繰り出した突きのカウンターが”ラゴゥ”のコクピットを直撃したからである。

突き入れが深く抜けないと判断したキラは柄を手放し、距離を取る。次の瞬間、槍が刺さったままの“ラゴゥ”は爆発した。

 

<ベイルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?>

 

<こん、ちくしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!>

 

『アグニ』のダメージから復帰したラング機が仇討ちに燃えて”ストライク”に向かうが、”ストライク”は()()()()()にアーマーシュナイダーを抜き放ちつつ、飛びかかってきた”ラゴゥ”を正面から蹴り飛ばした。

ひっくり返った”ラゴゥ”のコクピットに、投擲されたアーマーシュナイダーが容赦なく突き刺さる。

 

<ベイルの、仇、さえ……>

 

上半身と下半身を分かたれながらも、ラングは血涙を流しながらコクピットに貼っているチームで撮影した写真に手を伸ばした。

常日頃から喧嘩し、協調性が無い彼らだが、仲間意識はたしかに存在していたのだ。

伸ばされた手は写真に触れることなく、力無く落ちる。

 

「……残り、1機」

 

ゆらりと金色の視線をライムに向ける”ストライク”。

ライムの目には、今の”ストライク”が悪魔にしか見えなかった。

 

<は、ははは……もう笑うしか出来ないな>

 

諦め混じりの弱音を吐くライム。

それでも、彼女は機体を立ち上がらせた。

逃げるためではなく、目の前の悪魔に立ち向かうために。

 

<1人になろうが、あたし達は役割を遂行する。……隊長の元にはたどり着かせない!>

 

実力があっても協調性の無い彼女達は、どんな部隊でも鼻つまみもの扱いだった。

それでも彼は、アンドリュー・バルトフェルドは取り立て、大役を任せてくれた。その恩に、誇りに報いるため、引くわけにはいかない。

彼女の覚悟を感じ取り、キラは”ストライク”に対艦刀を拾い上げさせ、受けて立つ構えを見せる。

 

<……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!>

 

背中のビームキャノンで”ストライク”の動きを制限しながら、”ラゴゥ”は突き進む。

そして、”ストライク”が目前に迫った”ラゴゥ”はそのコクピットを両断するために飛びかかり───。

 

<楽しかったよ、隊長───>

 

あっさりと、対艦刀で両断された。一瞬の後、”ラゴゥ”は爆散する。

爆炎に包まれながら、”ストライク”はその姿を現す。

無傷。ライム達にとっては悲惨なほどの現実が、そこにはあった。

 

「くそっ……使わされすぎたな」

 

だが、キラにとってはそうではない。むしろ、彼らの働きはここから先の戦いに暗い影を落としていた。

 

『初見殺しを()()()叩きつければいいんですよ』

 

アリアの提示した策は、正にこの一言に尽きた。

どんなに強い敵であっても、初見の武器に対する対応力は無い。それを連続で撃ち込み続ければ、必ず限界が訪れる。

その点、今回の”パーフェクトストライク”は()()()()()の存在だった。

なにせ、今”ストライク”が装備しているマルチプルアサルトストライカーは、変形した『アグニ』から分かるように()()()()()()()

この装備を見た瞬間に「おもしれー装備(やつ)」と判断した”マウス隊”技術者面子が、「どうせマトモに量産なんか出来ないだろうからアレンジしようぜ」と悪乗りを重ねた結果生まれた、マ改造*1品なのである。

拡散照射可能な『アグニ』に始まり、ガンランチャーには超高温を発するスーパーナパーム弾を装填。極めつけにはビームサーベルにジャベリンへの変形機能を取り付けた本ストライカーは、『初見殺しを連続で叩きつける』に合致していたのだった。

しかしキラは、ライム達との戦闘でこのほとんどを消費してしまった。

『アグニ』は本来組み込まれていない拡散照射機能を無理に使ったことで砲身を強制冷却中、一定時間は発射不可能となったし、ビームサーベルは一本喪失。ガンランチャーは撃ちきり式なので帰還しなければ補充出来ない。

この状態で、バルトフェルドと戦わなければならない。

 

「ソード2……無事でいてくれよ」

 

それでも、キラは前を向く。

どれだけ不利な状況でも、仲間の命を見捨てる理由にはなり得ない。キラは”ストライク”を”レセップス”に向けて前進させた。

陣営も強弱も関係無く、この戦場では誰もが、仲間のために戦っていた。

 

 

 

 

 

「おかしい……」

 

”アークエンジェル”より僅か後方にて、追撃を掛ける2両”フェンリル”と砲撃戦を行なっていた”ノイエ・ラーテ”車長のモーリッツは、違和感を覚えていた。

彼は”フェンリル”の内、どちらからも(プレッシャー)を感じることが出来ないでいた。つまり、彼の直感は今ここで戦っている相手のどちらも、『深緑の巨狼(スミレ・ヒラサカ)』ではないと訴えていたのだ。

流石に”バルトフェルド隊”だけあって強敵ではあるのだが、どうしてもスミレと比較すると弱く感じられてしまう。

ならば、スミレは何処にいる?

自分がスミレを動かせる立場にいるとすれば、彼女を何処に配置する───?

 

「……まさか!?」

 

 

 

 

 

”アークエンジェル”艦橋

 

それは、突如として起こった。

艦が突如として揺れたかと思うと、高度を落とし始めたのだ。

 

「何が起こった!?」

 

「メインエンジンに被弾、高度が維持出来ません!」

 

「何処からだ!?」

 

「南東からです!」

 

南東方向には、敵艦や”フェンリル”の存在は確認出来なかった。にも関わらず、攻撃が行なわれたのはそちらからだとオペレーター席のエリクは告げる。

どうやって、”バルトフェルド隊”は”アークエンジェル”にとって脅威となる存在を秘匿していたのか?

その答えは、早々に明かされた。

 

「待ってください、敵機の反応をキャッチ!これは、この出現パターンは……『ミラージュコロイド・ステルス』!?」

 

「なんだと!?」

 

連合軍で開発された”ブリッツ”レベルのものでなければ実戦投入は出来ない筈。それとも、ZAFTはZAFTで『ミラージュコロイド・ステルス』を研究し、完成度を高めていたのか?

その疑問を解決するために頭を働かせる余地は、彼らには無かった。

 

「くそっ……総員、対ショック体勢!これより本艦は、不時着する!」

*1
マウス隊が改造したという意味




やめろ、そんな目で私を見るな諸君……。
投稿予告を破った責任は感じているつもりだ、だからそんな冷たい目で私を見ないでくれ……。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

P.S 後日、新規ユニットのステータスを加筆したいと思います。

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