”バルトフェルド隊”戦、ついに開幕です。
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”アークエンジェル” 女性用トイレ
洗面台で手を洗いながら、由良香雅里───否、カガリ・ユラ・アスハは虚ろな視線を鏡の中の自分に向ける。
鏡の中の自分からは生気というものが失われており、夜に出会えば大抵の人間は少なからず怯えるだろう。
しかし、そんな見るも無惨な自身の有様を見ても、カガリは力無く笑うことしか出来なかった。
「ははは……情けないなぁ……」
もしも自分がもう1人いれば、全力でそいつと殴り合っただろうし、殴られることを許容しただろう。それほどまでに、カガリは自己嫌悪していた。
冷静になってみれば、たしかに『明けの砂漠』にいた頃の自分は冷静さを失っていた。
僅かばかり支援した程度で自分を持ち上げてくれる彼らの中で、歪んだ自尊心を育てていた。怪しい男の口車に乗ってでも手に入れたMSを、一時の感情で台無しにした。
『全部、
オーブからこのアフリカまで迎えに来てくれた彼の言葉に耳を貸さず、自分の立場を深く考えもしなかった。ヘクが助けてくれなければ、自分は今頃あの世に旅立っていただろう。
誰かの助けが無ければ生きていけない小娘が、何を為すと言うのか。
挙げ句の果てに、東アジア共和国民のフリをして連合軍艦に乗り込む始末。今もトイレの外には、監視役の女性軍人が控えている。
「惨めだ……」
うなだれるカガリ。
そんな彼女の耳に、甲高い音が鳴り響く。
カガリはあずかり知らぬことだったが、これは”アークエンジェル”において敵襲を表すものだった。
「申し訳ありません、ただちに部屋にお戻りいただけますか」
「あ、ああ……」
女性軍人に連れられて、用意された部屋まで戻ろうとするカガリ。
その道中、彼女は慌ただしく艦内を駆ける兵士達の声を聞いた。
「おい、マジかよ!?」
「こんなことふざけて言えるか!」
「ちくしょう、なんつータイミングで仕掛けてきやがる『砂漠の虎』め……!」
ドキリ、とカガリの心臓が跳ね上がる。
彼はたしかに『砂漠の虎』と言った。そしてこの警報と艦内の雰囲気とくれば、考えられるのは1つだけ。
(あいつらが、攻撃してきている───!?)
かつて『明けの砂漠』が戦い───実際には、道ばたの石ころ程度にしか考えていなかった、憎き『砂漠の虎』が、今この艦に襲いかかろうとしているのだ。
復讐の炎が彼女の精神に灯ろうとしていた。
この艦は連合軍の、おそらく新型艦だ。ならば武器は豊富にあるだろう。
せめて一太刀でも、そう考えるカガリ。
『───また、全てを台無しにするのか?』
燃え上がる憎悪の炎に、冷水が掛けられた。
今、自分は何を考えていた?カガリの動悸が激しくなっていく。
『今度は誰を犠牲にして、自分のツケを支払うつもりなんだよ、え?なあ、お姫様』
この場にいない筈のヘクが、たしかに
上手く呼吸が出来ない。足がふらつく。前を歩いていた女性兵士がカガリの異常に気がつくが、カガリの耳に心配の声は届かない。
見下ろしたその手に、血が滴っている。拭っても拭っても、何処からか溢れてくる。
『なぁ、カガリ……』
いつの間にか、ヘクの声はまったく別の誰かに変わっていた。
その声を聞き違える筈がない。なぜなら、その声の主を死地に誘ったのは、紛う事なくカガリなのだから。
母親思いの青年、アフメドを、殺したのは───。
『次は、何人の
「───うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!?」
その後、カガリは過呼吸を引き起こし、女性兵士に担がれる形で船医室に連れられていった。
フローレンスは極度の
”アークエンジェル”格納庫
「おい、どうなってんだ!?」
「何がだ!?」
MS隊の発進準備が進む中、ある男が近くを歩いていたマードックを呼び止める。
男は先ほどチセケディ刑務所から解放された連合軍兵士だったが、怒り半分、疑念半分といった剣幕で
「”スカイグラスパー”だよ!なんで片方だけしか発進準備を進めない!?」
「ありゃ予備機だ!パイロットがいねぇんだよ!」
マードックの言うとおり、”アークエンジェル”には2機の”スカイグラスパー”が配備されているものの、片方にはパイロットがいなかった。
『
地上に降りてしばらくはMS隊の支援だけでも十分に役割を果たせていたのだが、先の山間における”バルトフェルド隊”の襲撃によって、”アークエンジェル”の航空戦力の手薄さは表面化してしまっている。
弱点と分かっている物をつつかない程、甘い相手ではない。
「なんだ、そんなことか。ブリッジに通信するにはどうしたらいい?」
「はぁ?」
「パイロットがいないのが問題なんだろ?だったら問題ない。───ここにいるからな」
そう言って男は、自らを指差した。
「”第3航空試験隊”、通称『グラスパーズ』のイーサン・ブレイク中尉だ。ヘマやって一度落ちちまったが、この艦の中じゃ一番マシだと思うぜ?」
<───と、いうわけでブレイク中尉には緊急措置として”スカイグラスパー”の2号機に乗ってもらうことにした>
<よろしく頼むぜ!>
<そりゃ有り難いですけど……>
ミヤムラから伝えられる言葉に、愛機のコクピットでムウ達は頼もしさと同時に一抹の不安を覚えていた。
たしかに万全の準備で挑んで来ているであろう”バルトフェルド隊”相手に、手薄な航空戦力を補ってくれるイーサンの参戦は心強い。
だが、一度撃墜された人間という情報がどうにも引っかかるのだ。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
<心配は無用さ、隊長さん。落ちたっつっても、ありゃ事故みたいなもんだ>
「いや、俺が聞いたのはブランクの話なんだが」
聞いたところによると、彼はかつて『第2次ビクトリア攻防戦』の最中に新兵の騎乗した”スピアヘッド”と翼が接触し、墜落した乗機から緊急脱出したところを捕虜にされてしまったのだという。
<それと、ブランクだったか?───なおさら心配無用だ、俺は”スカイグラスパー”が
自信満々に言うイーサン。
ムウは結局、彼の言うことを信用することにした。というより、信用せざるを得なかった。
たとえイーサンが新兵だとしても、これから相手にする敵の前では貴重な戦力に違いないのだから。
<それと、彼らにも手伝って貰う>
<こちら、ユーラシア連邦”第14機甲小隊”に所属していました、モーリッツ・ヴィンダルアルム中尉です。恥ずかしながら先ほどまで捕虜の身となっていましたが、“ノイエ・ラーテ”で皆さんの一助となりたいと思います>
貴重な戦力といえば、彼らの駆る”ノイエ・ラーテ”もそうだ。
”アークエンジェル”の後方から猛追し、今も砲撃を仕掛けてきている”フェンリル”と正面から打ち合えてかつ、”アークエンジェル”に置いていかれないだけの機動力を備える”ノイエ・ラーテ”の参戦は喜ばしい。
<それでは、作戦を説明する。MS隊、”スカイグラスパー”、”ノイエ・ラーテ”、”アークエンジェル”。そのどれが欠けても我々の勝利はない。そのことを、肝に銘じて欲しい>
<”ストライク”、発進準備!装備はマルチプルアサルトストライカーで!>
ミヤムラから作戦を聞き終えたキラはその内容を頭の中で反復しながら、溜息を吐いていた。
この戦闘における自分の役割を考えれば、この装備はたしかに、今ある装備の中では最適と言えるかもしれない。
しかし、それでも、彼はこの装備で出撃することに躊躇いを感じてしまっていた。
「せめて”コマンドー・ガンダム”で出られればなぁ……」
<仕方ありませんよ、あれは補給のついでに下ろしちゃったんですから>
アリアの言うとおり、高速機動を行いながら圧倒的弾幕を形成出来る重装パワードストライカーは既に”アークエンジェル”には無い。
その他の試験装備を積み込む際に、入れ替わりで下ろしてしまったからだ。
「それでもさぁ……」
<グチグチ言うなんて、男らしくありませんよー。それに、どうせ使いこなすでしょう?>
「君は僕を便利な武装試験マシーンか何かと思ってるのかい?」
信頼されているのは嬉しいが、自分にだって限界はある。キラは抗議の視線をモニターに映るアリアに向けた。
しかし彼女の表情は、その言い草に反して真剣だった。
彼女はこれまで何度も激戦を経験してきたが、それは自分の力でとは言えない。
彼女に出来ることはMSの整備と武装開発。一度戦闘になってしまえば、自分達の整備した機体とそのパイロットを信じて送り出すしかないのだ。
モニターに映る自分とそう歳の変わらない少女の命を、キラは背負っているのだ。いや、アリアだけではない。
この艦に乗る全ての船員が、自分達の肩に掛かっている。
<緊張してるみたいですね、ヤマト少尉。……実際に戦場に出るわけではない私には、その気持ちが分かるとは言えません>
それでも、と少女は続けた。
<それでも、忘れないでください。貴方はけして1人で戦っていません。”マウス隊”の皆さんでさえ、そうだったのですから>
「トラスト少尉……」
<……それじゃ、良質なデータを持って帰ってきてくれることを期待してます!いってらっしゃい!>
最後の最後で雰囲気を壊す台詞を吐いたアリア。
キラにはそれが、キラを緊張させないように彼女が努力した結果なのだということが分かった。
アフリカにおける日々は、アリア・トラストが少し変わったところがあるだけで、誰かを
そうしている間に、ついに”ストライク”の武装が完了した。
『完璧』なる姿を手に入れた”ストライク”がツインアイを瞬かせる。
「……ソード1、”パーフェクトストライクガンダム”!───行ってきます!」
<後部ハッチ開放!”ノイエ・ラーテ”、降下準備!>
時を同じくして、格納庫の後部では”ノイエ・ラーテ”の発進準備が進められていた。
発進準備というが、今も後方から”フェンリル”に追われている”アークエンジェル”には地上に降ろしてから発進させるような暇はない。
では、どうするのか?───
落とすと言ってもそのまま自由落下させるのではない。
降下用バルーンを備えた台座の上に”ノイエ・ラーテ”を置き、台座ごと射出。落下の勢いをバルーンで軽減させることで降下させるのだ。
「また戦場で”ノイエ・ラーテ”に乗れるなんて夢のようだが、復帰戦でまさかバルーン降下するとは予想出来なかったな」
「いいじゃないですか、戦場にはイレギュラーは付きものですよ」
「なんなら、生きて帰ったら空飛ぶ戦車でも作ってみます?『通常兵器地位向上委員会』に持っていけば、意外と通るかもしれませんよ?」
「それは果たして戦車と呼べるのだろうか……」
”ノイエ・ラーテ”の車内には車長のモーリッツだけでなく、モーリッツと同じくビクトリア基地からの撤退戦で捕虜となった操縦手と砲手もいた。
久しぶりの実戦、しかし彼らの中に緊張は見られない。
それもその筈だ。捕虜とされた時点で諦めかけていた実戦への復帰が叶っただけでなく、雪辱を晴らす機会にも恵まれたのだから。
敵は『砂漠の虎』。であれば、
「さっさと出てきた方がいいぞスミレ……でなければ、俺達が食い荒らしてしまうからな。”ノイエ・ラーテ”、発進!」
「はっはー!ようやくの出番だぜ!」
荒れた地面を何機もの”バクゥ”が疾走する。
彼らこそは”バルトフェルド隊”の誇る”バクゥ”戦隊。これまで数々の戦線で地球連合軍を苦しめてきた精鋭集団である。
個々の能力、連携精度、実戦経験。どれを取っても一流の彼らだが、この数日はフラストレーションをためていた。
その原因は、バルトフェルドが中々自分達を引っ張り出さなかったことにある。
最初は”バクゥ”の機動に不適な山間部での戦闘だったからまだ分かる。
だがその次の大規模輸送部隊の護衛戦では、戦いやすい平野部であったにも関わらずエース達を差し向けるだけで終わってしまったのだ。
これには彼らのプライドも傷つけられ、直訴を考えさえした。しかし、隊長の言った一言が彼らを押しとどめた。
『次で決める』
山間部で敵戦力を測り、平野部で敵エースの実力を見定めた。
何のことはない、彼はいつも通り、確実に事を運ぶために自分達を動かさないでいただけだった。
「期待には応えてやらねぇとな!」
<どうせあのカフェイン中毒、特に期待とかしてねぇからやめとけって!>
<そうそう!『勝つと分かっているのに期待なんかしないよ』とか言うぜ!>
各々、自らを奮い立たせていく兵士達。そんな彼らをある衝撃が襲う。
”アークエンジェル”からまず発進したのは、連合軍の誇る制式量産型戦闘機”スカイグラスパー”。
情報では1機しか確認されていなかった筈だが、2機目も飛び立っているところを見るに、どこかしらで機体やパイロットを補充したのだろう。オマケに片方はエースパイロットの証と言ってもいい”アームドグラスパー”仕様だ。相手をする空戦隊にとって厄介極まりないだろう。
しかし、その次に登場したMS、”ストライク”の姿が問題だった。
あの翼は間違い無くエールストライカー、高機動戦用の装備だ。
しかしあの背負っている大剣と大砲は、ソードストライカーの対艦刀とランチャーストライカーのビーム砲に違いない。
なるほど、高機動性と火力の両立を図るに当たってとりあえず基本的なストライカーを全部合体させたのか。
それを見たZAFT兵は得心し、声を合わせて叫んだ。
「「「バカかあいつら!?」」」
それぞれの装備はそれぞれで使い分けて強いのであって、それら全てを同時に使って強いわけではない。
出来ることが増えたと言えば聞こえはいいが、実際にでは増えた選択肢の内半分も使いこなせず、中途半端に終わるのが関の山だ。
自分達よりも戦争経験値が貯まっている筈の連合軍があのような愚策を用いるとは。呆れるやら、侮っているのかと怒るやら、反応を見せる兵士達。
しかし、彼らは一つだけ考慮から外していることがあった。
それは、「どれも中途半端に終わるのはあくまで一般論である」ということ。
増えた選択肢の中から最適解を選び続け、崩れた機体バランスをものともしない操縦技術を持つ者がパイロットであれば弱点は消え失せ、無双の存在が生まれるということである。
要するに、彼らは
「ターゲットロック、発射!」
カタパルトで打ち出された直後にキラが行なったのは、”アークエンジェル”に向かって疾走する”バクゥ”の群れに対して320mm超高インパルス砲『アグニ』を発射することだった。
砲口から解放されたプラズマエネルギーが“バクゥ”目がけて発射され、外れたエネルギーが地表を焼いていく。
『アグニ』はその高威力を発揮するために多大なエネルギーを消費するが、現在”ストライク”が装備するマルチプルアサルトストライカーには合計5機のバッテリーパックが装備されており、ある程度の連射が可能となっている。
キラは次々と『アグニ』を発射するが、これはやみくもに放っているわけではない。
<───うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!>
<そこかっ!>
一見するとただ乱射しているようにも見えるが、キラは後続のMSが発進を終えるまで敵を攪乱するために発射していたのだ。
実際、”ストライク”に続いて射出された”デュエルダガー・カスタム”と、ヒルデガルダの乗る”ダガー”2号機は無事に着地、戦闘を開始している。
スノウの駆る”デュエルダガー・カスタム”は通常の2丁マシンピストルの他にも、後ろ腰に”デュエル”用ビームライフルをマウントすることで継戦能力を強化している。
対するヒルデガルダの駆る”ダガー”はいつも通りソードストライカーを装備している他にも、”ダガー”用のビームライフルを装備して射撃能力を強化するなど、それぞれにこの戦闘に合わせて細部を変えていた。
<おらおらおらぁ!そこをどけやぁ!>
<お前ら、”アークエンジェル”から離れすぎるなよ!お互いにカバー出来る時はカバーし合うんだ!>
彼女達に続いて射出されたムウとマイケルの駆る”ダガー”2機は、地上を高速ホバー走行可能なパワードストライカーを装備している。
しかし武装の方は統一されておらず、ムウ機はストライクバズーカとシールドを装備し、マイケル機は両手に2丁のアサルトライフルを構えていた。
このアサルトライフルは連合軍のMS開発黎明期から”テスター”で運用されてきた傑作機であり、今も改良が進められているために威力・装弾数共に申し分ない。
<電源供給ケーブル接続!ワンド4、配置に付きました!>
最後に発進したランチャーストライカー装備のベント機は、地上に降りず”アークエンジェル”の甲板に昇り、普段は格納されている電源供給ケーブルを腰の電源供給コネクタに接続して『アグニ』を構えた。
彼の役割は”アークエンジェル”から供給されるエネルギーを活かした砲撃支援である。あらゆる方向に気を配る必要があるため、重要な役割だ。
もっとも、この作戦においては誰もが重要な役割を担っているのだが。
後部から発進した”ノイエ・ラーテ”が地上に無事に降下したのを確認し、ムウは声を上げる。
<よし、”アークエンジェル”の進路は確保した!ライン上げていくぞ!>
全方向から包囲を仕掛けてくる”バルトフェルド”隊に対し、”アークエンジェル”隊の取った戦法は正面突破。
包囲が完成する前に敵旗艦であるレセップスを撃破し、そのまま敵の追撃を振り切るのが彼らの目論見だった。
”アークエンジェル”の状態が本来のものであれば高度を上げて地上戦力を無視するということも出来るのだが、残念ながら”アークエンジェル”のエンジンは連戦で不調を訴えており、高度が上がらない=地上戦力を無視出来ない。
更に敵部隊と比較して少数戦力である”アークエンジェル”には全ての敵と真正面から戦闘することは不可能に近い。
正面突破こそが、もっとも勝率の高い戦法なのだ。
だがそれは敵も想定している筈の戦法であり、かつ
敵部隊の長にして切れ者。そして世界全体で見ても10指に入り得るMS操縦能力の持ち主。
アンドリュー・バルトフェルドその人が、文字通り彼らの前で待ち構えている。
”レセップス”艦橋
「んー……」
「正面突破ですか。向こうの指揮官も中々やり手ですね」
自身の顎に手を当てて何かを考え込む素振りを見せるバルトフェルド。
彼の副官を務めるダコスタが冷静に分析を行なう中、何かが引っかかるような表情を浮かべるバルトフェルド。
そんな彼をダコスタが怪訝そうに見つめるのも、”バルトフェルド隊”ではいつものことである。
「どうしたんですか?またコーヒー関連の悩みとかだったらぶっ飛ばしますよ」
「流石に今はそうじゃないよ。豆は持ってきてるけど……ああ、そういうことか」
悩ましげな表情から一転、ポンっ、と右拳を左掌に当てた何かを閃いたバルトフェルド。
彼は艦橋の出入り口に向かいながら、ダコスタに告げる。
「いやさ、やっぱり向こうの指揮官って攻めてくるタイプの人間だなぁって。ライム・ライク達に出番だぞって言っといてくれ」
「もう彼女達を出すんですか?」
ライム・ライク率いる3機の”ラゴゥ”チームは、3機揃えばあの化け物染みた”ストライク”とさえ渡り合うエース。
ZAFTトップエースである”バルトフェルド隊”で
「そうしないと”ストライク”を先頭にして包囲網を食い破られる。何より、相手の作戦は早々に潰すに超したことはない。それと、僕も出るから“レセップス”は任せたよダコスタ君」
「隊長自ら……分かりました、ご武運を」
バルトフェルドは戦場に自ら愛機で出ることもあれば、”レセップス”でどっしりと指揮を取り続けることもある。
彼の行動に一貫性はない。あるとすれば、「彼にとって常に最善だと思える行動を取っている」というくらいだ。
そのことを知っているダコスタはバルトフェルドを見送ると、正面モニターに向き直った。
(本当、心底同情するよ”アークエンジェル”)
彼が、アンドリュー・バルトフェルドが自ら出撃して戦闘に参加する。
それがどれだけ敵にとって脅威となるか。もっとも理解しているのは、常にバルトフェルドの隣で彼の補佐を行ない、戦いを見てきたダコスタ本人だった。
”レセップス”格納庫にて、「砂漠の虎『
というわけで、前編でした。
中編は1週間後の2月11日に投稿しようと思います。
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。