機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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第92話「迫撃!トリプル・ラゴゥ」

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西アフリカ 峡谷地帯

 

「……来ませんでしたね」

 

「来なかったねぇ」

 

「……仕掛けたトラップ、無駄になっちゃいましたね」

 

「それならそれでいいだろう、使わずに済むということは、我々が安全に目標地点にまで到着出来る確率が上がるってことなんだから」

 

「『奴らは”バクゥ”や”ラゴゥ”を警戒して峡谷地帯の方に向かってくるだろう』って、誰が言い出したんでしたっけ」

 

「そりゃ君、今回の物資移動作戦の責任者に決まってるじゃないか。極めて順当な予想だったと思うよ? 外れてるけど」

 

「貴方も賛同してたじゃないですか……」

 

「僕は『その可能性は大いにあるだろう』って言っただけで、『絶対来る』とは言ってないよ。ま、今回は敵の()()()()()が勝ったってだけさ」

 

「どうするんですか。ルート上にトラップ仕掛けまくった()()()と違って、()()()はほとんど無防備ですよ」

 

「困ったねぇ。あちらの資源がやられてしまったらナイロビどころかビクトリアの防衛も危うくなってくるよ」

 

「ですよね」

 

「だから、まあ。()()をあっちに向かわせておいた。最低限の保険としては十分だと思うけどね」

 

「……同情しますよ、”アークエンジェル”側に。あいつら、相当意地汚いですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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西アフリカ コンゴ

 

3頭の猟犬(ラゴゥ)の動きは、正に迅速果断と称するべきものだった。

 

<えっ、なに……きゃあっ!?>

 

先頭の機体から放たれたビームが、散漫としていたヒルデガルダの”ダガー”を直撃する。

幸い、”ダガー”の胴体部には耐ビーム性能の高いラミネート装甲が用いられているため、目に見える損傷は皆無だった。

しかしビームといえども質量が全く存在しないわけではないため、衝撃を受けた機体はそのまま倒れ込む。

 

<ヒルダっ! この野郎ぉ!>

 

ヒルデガルダをダウンさせた”ラゴゥ”隊の次なるターゲットは、ヒルデガルダの援護のため彼女に近づいていたマイケルだった。

怒りに駆られたマイケルは装備していたアサルトライフルを”ラゴゥ”部隊に向けて発射するが、“ラゴゥ”部隊は素早く散開し、マイケルの”ダガー”を取り囲む。

マイケルが何かを考える暇を与えること無く、3方向から同時にビームサーベルを起動して獲物に飛びかかる”ラゴゥ”達。

 

(嘘、これ、死───)

 

迫り来る光刃を前にして、マイケルは死を意識する。「あっさり過ぎる」とか「つまんない人生だったな」とか、そういう事を考える余裕は無かった。

それだけ、”ラゴゥ”達の手並みは鮮やかに過ぎた。

 

「マイケルさんっ!」

 

そんな彼を救ったのは、キラによる意図的な誤射。

キラは瞬時にどの”ラゴゥ”を撃ち抜いてもマイケルの死が避けられないことを悟り、あえてマイケル機の脚部を射撃し、態勢を崩したのだ。

膝裏を撃ち抜かれたマイケル機はバランスを崩して後ろに倒れ込み、結果として”ラゴゥ”のビームサーベルが切り裂いたのは、転ばないよう踏ん張り切れず、咄嗟に上に向かって伸ばされた左腕のみだった。

 

<へえ、故意の誤射で助けるなんて味な真似をするのね>

 

<あれが噂の『ガンダム』? やべー奴じゃん>

 

<おめーにだけは言われたくねーだろうよ。ま、お手並み拝見といこうや>

 

自分達の攻撃の失敗を悟った”ラゴゥ”達は、倒れ伏したヒルデガルダ機やマイケル機には目もくれずに”ストライク”の方向へと向かう。

 

「なんだ、こいつら───!?」

 

キラは突如として現れた強敵を前に、戦慄の声を漏らした。

 

 

 

 

 

「俺達は眼中に無いってわけか……!」

 

ムウは苛立たしげに操縦桿を握る手に力を込める。

現れた3機の”ラゴゥ”は倒れ込んだヒルデガルダとマイケル、そして未だ五体満足のムウ達を無視して”ストライク”に向かっていく。

キラと”ストライク”が自分達の中では抜きん出た実力と安定感を持っているということはムウも認識していたが、相手にもそう認識され、()められるというのは不愉快な事実に変わりない。

眼中に無いというなら、盛大に横やりをいれてやろうではないか。ムウはそう考えてバズーカを愛機に構えさせるが、突如として彼の脳裏を冷たい感覚が貫く。

 

「っ───!」

 

咄嗟に機体を後退させた直後、眼前を艦砲クラスの砲弾が飛んでいった。

あと少しでも機体を動かすのが遅れれば、今頃あの砲弾は”ダガー”の上半身を消し飛ばしていたに違いない。

襲撃者の正体はサイが告げる。

 

<続けて接近する機影あり! 99.87%の確率で”フェンリル”と断定!>

 

「なるほど、な……!」

 

連中も、自分達を無視して”ストライク”と戦えるとは思っていなかったらしい。車体にしっかりと()のエンブレムが描かれた”フェンリル”を見て、ムウは唾を飲み込んだ。

確認出来た限り、向こう側の援軍は”ラゴゥ”3機と『深緑の巨狼』のみ。他に何かしらのトラップを仕掛けている可能性も無いではなかったが、その可能性は低いとムウには思えた。

きっと、どんなトラップを仕掛けるよりも、やってきた彼らが全力を発揮出来る環境にしておく方がずっと強い。

下手な策略を巡らせるようではかえって彼らの足を引っ張るだけだろう。

 

<隊長、私はソード1の援護に向かう。いいな?>

 

「頼む」

 

スノウからの上申を、ムウは即座に了承した。

スノウの機体は機動力では”アークエンジェル”のMS隊中トップだが、それに比例して武装はマシンピストルにビームダガーと貧弱。重装甲かつ高速で疾走する”フェンリル”の相手は分が悪い。

許可を得たスノウは機体を翻してキラの援護に向かおうとするが、その眼前で突如として炎が燃え上がる。

スノウの行く手を遮るために、”フェンリル”が彼女の前方に焼夷弾を撃ち込んだのだ。

 

<こいつ……!>

 

「簡単には通しませんって?……上等だ!」

 

 

 

 

 

「こいつら、強い……!」

 

一方、3機の“ラゴゥ”に囲まれたキラは苦戦を強いられていた。

1機1機は”ラゴゥ”との初遭遇ということを考慮しても問題無く対処出来るレベルなのだが、互いに死角や隙をフォローし合い、連携して”ストライク”に襲い来るのだ。

複数の敵に襲いかかられること自体は、かつてキラが兵士になる前、『ヘリオポリス』から脱出して間もない頃にアスランの駆る”イージス”を含む敵部隊との戦闘で経験している。

しかしこの敵達は、あの時戦った敵部隊よりずっと質が良い連携を行なっていた。

加えて、今の”ストライク”の装備がエールストライカーというのもキラにとって向かい風となっていた。

エールストライカーは極めて癖や弱点が少ない装備なのだが、その分他の装備と比べて爆発力は無い。

これがもしも”コマンドー・ガンダム”形態であれば、その豊富な火力を以て現状の打破を図るという選択が出来たかもしれない。

なんにせよ、無い物ねだりをする意味は無い。

 

(ムウさん達は……ダメだ、無理っぽい!)

 

一瞬の間隙を縫って目線をやると、ムウ達は”フェンリル”らしき戦車に足止めされているようで、援護は望めそうになかった。現状、打つ手無しだ。

しかし、キラにはこの苦境を切り抜ける算段があった。

 

「残り、182秒……!」

 

キラが待ち望む瞬間、それこそが”アークエンジェル”の到着する時間である。

今頃”アークエンジェル”は全速でこの場所に向かってきているだろう。ブリッジクルーがMS隊の苦戦を視認してさえくれれば、こちらを支援してくれる筈だ。

それまでの時間を生き延びさえすれば、後はジャンプして”アークエンジェル”のハッチまでたどり着くだけでいい。

それだけで、自分達はこの戦闘に勝利出来る。

 

「そう簡単には、いかなさそうだけど……!」

 

キラは左腕の、何度もビームを受け止めて摩耗したシールドを投げ捨て、空いた左手にビームサーベルを握らせる。

キラ・ヤマトのこれまでの人生において、もっとも苦しい3分間の始まりだった。

 

 

 

 

 

<くっ、捉えきれない……!>

 

「これはもう操縦テクニックとかだけじゃねえな……!?」

 

一方、”フェンリル”と戦闘していたムウ達も苦戦を強いられていた。

左腕部を切り落とされたマイケルは戦闘の邪魔にならないように一線引いた場所に離脱し、ヒルデガルダは未だに復帰せず。

従って”フェンリル”とはムウ、スノウ、ベントの3人で相対していた。しかし───。

 

<当たれっ!>

 

ベントが駆る”ダガー”の『アグニ』が火を噴くが、”フェンリル”はドリフトでの急カーブを行ない、逆に反撃を行なった。

高速戦闘中故か、流石に命中精度は低下してベント機に命中することはなかったものの、現状まともな有効打が『アグニ』しか無い以上、なんとかして命中させなければ事態は動かない。

しかし相手は『深緑の巨狼』スミレ・ヒラサカが操る”フェンリル”。何かしらのカスタマイズが施されているのか、記録されているものよりも大きな速度を出している。

何かしらの()()をムウが求めた、その時である。

 

<───うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァ!!!>

 

突如として女の叫び声が響く。

何かしらのトラブルが発生したまま転倒し、そのまま存在を忘れ去られていたヒルデガルダ機が、近くを通った”フェンリル”に飛びかかったのだ。

 

「ヒルダっ!?」

 

ムウと同じく存在を忘れていたのか、あるいは障害にならないと判断していたのか、”フェンリル”もヒルデガルダの動きに対応出来ず、取り付かれてしまう。

だが、高速で疾走する”フェンリル”に掴まり続けるのは余りにも困難だ。左右に車体を揺らした”フェンリル”から手が離れてしまい、ヒルデガルダの乗る”ダガー”は地面に叩きつけられてしまった。

しかし、このヒルデガルダの奇襲と呼ぶべき行為によって、”フェンリル”の動きにたしかに隙が生まれたのを、ムウは見逃さなかった。

 

「チャンスか!」

 

”フェンリル”の移動先を予測してムウが放った弾丸は、乱れが収まっていない”フェンリル”に命中。爆炎が”フェンリル”を包み込む。

如何に強靱な“フェンリル”といえども、対艦攻撃にも用いることの出来るバズーカ弾の直撃を受けてはタダでは済まない。

あの『深緑の巨狼』を、自分(ムウ)が仕留めた。いまいち実感は湧かないが、それでも戦闘はまだ終わっていないと、ムウは部下達に指示を出すために口を開こうとし。

 

「───っ」

 

ゾワリ、と。ムウの神経を悪寒が奔った。

フラガ家の人間が先天的に所有するという奇妙なシックスセンスが、全力で警告を挙げている。

ムウはバズーカを愛機に構えさせ、未だ立ち上る爆炎に向き直る。

 

<や、やりましたね、隊長!>

 

「……構えろ、ベント」

 

<え?>

 

「来るぞっ!」

 

直後、爆炎を貫いて砲弾が放たれた。

前もって構えていたムウはかろうじて回避することに成功するが、そのことへの安堵よりも、爆炎を裂いて現れた()()の”フェンリル”を見たことによるショックが上回る。

何故? 確実に”フェンリル”ならば撃破ないし、中破程度には持っていける火力があった筈だ。

ムウは考えを巡らせ、そして()()()()()()に気付く。

 

「まさか……P()S()()()か!?」

 

通常の”フェンリル”を遙かに上回る防御力を有し、更にZAFTが所有していると確認出来ている技術。そうなるともはやPS装甲以外に考えられるものは無い。

そして、その予想は的中していた。

これは、()()()()()()()()()()()()()()

今や疑う者のいないエースとしての名声を手に入れたスミレのために、ZAFTが彼女の愛機へと強化改造を施した、彼女だけが乗ることを許された機体。

それがこの機体───”フェンリル・ミゼーア”なのである。

 

 

 

 

 

「痛っ……」

 

ヒルデガルダは先ほど打ち付けた頭を振り、痛みを追い出そうとする。

しかし痛みは簡単に消えない。心の中の苛立ちも同様に、むしろ増してさえいるような錯覚すら起こす。

先ほどの”フェンリル・ミゼーア”への奇襲は、冷静に考えて行なわれたものではなかった。

累積した戦果への渇望、目の前で見せられた敵兵自殺に対するショックなどのストレスを処理仕切れなくなったヒルデガルダの脳が、他者への攻撃衝動という形で放出しようとした結果が無謀な奇襲なのである。

半ば無意識の内に行なわれたこれ(奇襲)は失敗するものの、振り落とされた時の衝撃を受けたことで若干の冷静さを取り戻すことに成功したヒルデガルダ。

 

「まだ、まだやれる……!」

 

<───あら、女?>

 

聞き慣れない女の声が響く。

通信機能を操作すると、『味方』カテゴリーに登録している機体からのものではない。それでありながら通信が繋がるとすれば、先ほど取り付いた時に接触通信装置が誤作動したとしか思えない。

つまり、この通信の先にいるのは。

 

「……『深緑の巨狼』!?」

 

<ま、そう呼ばれてるみたいっ、ね!?>

 

ヒルデガルダの通信に応えながらも、”フェンリル・ミゼーア”の機動に乱れは生まれない。

 

<で、あんたは敵と呑気におしゃべりする余裕があるワケ?>

 

「何を!」

 

<でなきゃ、あんな投げやりな奇襲が出来るわけもないし>

 

「敵のあんたに、何が!」

 

挑発とも取れる言葉にヒルデガルダは言い返そうとするが、直後にヒルデガルダの方を向いた”フェンリル・ミゼーア”から放たれた砲弾が真横を掠めて飛んでいく。

ひゅっ、と息を詰まらせるヒルデガルダ。それを知ってか知らずか、『深緑の巨狼』は言いつのる。

 

<───自棄(ヤケ)になってる奴なんかに、負けるようなワケが無いのよっ! すっこんでなさいお嬢さん(フロイライン)

 

「───っ!」

 

お嬢さん。それは、今ヒルデガルダがもっとも言われたくない言葉だった。

頭に血が昇り、再び”フェンリル・ミゼーア”に向かっていこうとするヒルデガルダだったが、それを制する者がいる。

左腕を切り落とされ、戦線から一歩引いたマイケルだ。

 

<ヒルダ、落ち着け! そろそろ()()んだぞ!?>

 

「来る?」

 

<忘れたのか!?───()()()()()()()だ! もう少しで”アークエンジェル”が来るんだ、タイミングミスったら置いてかれるぞ!>

 

もしそうなれば、奇襲によって半壊したとはいえそれなりの規模を保っている輸送部隊によって包囲される最悪の事態に陥ってしまう。

ヒルデガルダには、”フェンリル・ミゼーア”を相手にしながらタイミングを合わせて”アークエンジェル”に飛び移ることが出来る自信は無かった。

いつの間にか”フェンリル・ミゼーア”との回線も切れてしまっている。

 

「違う……あたしは、お嬢さんなんかじゃ……!」

 

俯くヒルデガルダの言葉を聞く者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

「残り、71秒……!」

 

キラはモニターの端に映るタイマーを見やった。

盾を捨てて手数を増やしたは良いが、身を守る手段を捨てた代償は大きかった。

”ストライク”の各所の装甲は既にいくつかビームが掠めたことによる焦げ跡が出来ており、フェイズシフトダウンを起こしている箇所もある。エールストライカーの右翼はとっくに折れていた。

この3機の”ラゴゥ”の戦い方は、小型肉食獣の狩りのそれだ。集団で襲いかかり、じわりじわりと獲物を追い詰め、やがて致命的な一撃で仕留める。

そしてキラは、その時が近づいていることも感じ取っていた。

 

(そろそろ集中力が切れてくる……そうなった時が、勝負かな)

 

ここまでの戦闘で、キラは敵の()()()()に気付いていた。

攻撃に2機、支援に1機。敵はその基本態勢を変えていないのだ。

2機が攻撃に全力を費やし、1機がそれをフォローする。

基本に則った戦い方ではあるのだが、彼らはその役割を瞬時に入れ替えることが出来るのだ。

例えばAとBが攻撃に全力を注ぎ、Cが支援している場合。獲物が状況の打開を図ってCを狙えば、即座にAかBがCと役割を入れ替えて、Cへの攻撃を妨害する。

その時々によって役割を交換出来る技量を持つ彼らは、常にベストポジションから攻撃し続けられる。獲物が力尽きるその時まで。

三心同体と呼べるほどに練り上げられた連携力を持つ彼らを打倒するのは容易なことではなかった。

おそらく、”アークエンジェル”が到着するまでのこの1分ちょっとの時間で彼らは仕掛けてくる。

それをどう切り抜けるか。考えるキラの視界に、()()()が映り込む。

 

「あれは……あれなら!」

 

 

 

 

 

<おいピザデブ、分かってんだろうな?>

 

「うるせーよ陽キャ失敗末路男。そっちこそしくじるなよ」

 

ピザデブと呼ばれた男、ラングは()()()()()チームを組まされた男、ベイルに言い返す。

”ラゴゥ”に乗り換えてから日は浅いが、それでも”バクゥ”よりも更に強力なこの機体に乗った自分達3人を相手にして未だに生き残っている”ストライク”を相手に気を抜くなどということは出来ない。

 

<おしゃべりだったら、この戦いの後で2人仲良くあの世に送ってやるからその時やりなさい。優先順位を間違えるんじゃないわよ>

 

誰が聞いても鋭さを感じることの出来る女性の声が、今にも始まろうとしていた口論を中断させる。

ラングとベイルの2人は優秀なMSパイロットだが、協調性というものが他のZAFT所属パイロットと比較しても無い方だった。彼らが曲がりなりにもチームとしてまとまっているのは、リーダー役を務めるライム・ライクの存在あってこそである。

内心では「スミレにコンプレックス感じてる年増女」と悪態を吐くラングだが、戦場においてライムに逆らっても何も得はしないことは理解している。

 

「へーい、分かってますよっと……?」

 

口喧嘩をしながらも攻撃を継続していたラングだったが、不意に獲物───”ストライク”が動きを見せる。

横っ飛びにベイルが放った攻撃を躱すと、そこに墜ちていた物体、先ほど切り落とされた”ダガー”の左腕を手に取り、そこからシールドを剥がして自分の左腕部に取り付けたのだ。

同じ連合軍MSなのだから、そういうことも可能だろう。

 

「そういうのに頼るってことはよぉ!」

 

しかし今のラングには、それが追い詰められた獲物の悪あがきにしか見えなかった。

たしかあのタイプのシールドは先端を射出してアンカーとして用いることが出来たと記憶しているが、それがどうしたというのだ。

今更になって手数が1つ増えたところで、逆転など許すわけもない。

 

<いくわよ、トライアングルアタック!>

 

『おうっ!』

 

トライアングルアタック……それは、これまでは攻撃役と支援役に別れていた彼ら全員が攻撃役に回り、一気に獲物を仕留める必殺ムーヴ。

敵を3機で取り囲み、限りなく同時に近いタイミングで3方向から繰り出すこの連携攻撃で、彼らは確実な戦果を挙げてきた。

油断なくシールドを構える”ストライク”。しかし、精神的疲れによるものと思われる一瞬の隙を彼らは見逃さなかった。

 

<───今っ!>

 

ライムのかけ声に合わせて、”ストライク”に襲いかかる3機の”ラゴゥ”。

しかし、そこでラングは信じられない物を見た。

まるで、一瞬で疲れが取れたかのように機敏に反応した”ストライク”は一瞬で背中のストライカーを排除。

それを、真後ろから接近していたベイルの”ラゴゥ”に向かって()()()()()()()()()()

 

<んなぁっ!?>

 

当然、予期せぬ飛来物に激突してしまうベイル機。肝心の”ストライク”はストライカーを蹴った反動による勢いも合わせて包囲網を脱出し、今度は獲物を見失ったラングの”ラゴゥ”に向かってシールド『パンツァーアイゼン』のアンカーを射出、その機体を捕縛する。

まだ終わらない。なんと”ストライク”は勢いを弱めずに機体全体を駒のように回し、アンカーの先の”ラゴゥ”を振り回す。

 

「おぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」

 

突如として過剰なGに晒されたラングを待っていたのは、更なる衝撃。回転の勢いをそのままに、ライムの”ラゴゥ”に機体をぶつけられたのだ。

”ラゴゥ”の重量は約70トン。勢いのまま何かにぶつかるだけで十分に質量弾となり得る。

まさかこのような方法でトライアングルアタックを切り抜けられるとは。

3機の”ラゴゥ”のパイロット達は”ストライク”とそのパイロットの実力を見誤っていたことを認めると同時に、激昂する。

潰す。今ここで、自分達を虚仮にしてくれた目障りなMSを、完膚なきまでに───!

 

 

 

 

 

「僕達の、勝ちだ!」

 

何かが自分の中で弾けたような感覚に任せて行なった賭けに成功したキラは、高らかに宣言する。

なんとかトドメの一撃を回避したが、もうあのような阿漕(あこぎ)な真似はさせてくれないだろう。

しかしキラは、自分達の勝利を確信していた。───タイムリミットが訪れたのである。

キラの言葉の直後、戦場にミサイルが飛来し白煙がその一帯を包み込む。遂に到着した”アークエンジェル”が援護のために放った煙幕弾だ。

 

<こちらカップ! MS隊各機は直ちに帰投してください!>

 

リサの声に合わせ、キラは仲間達と共に上に飛び上がる。

ほとんど速度を落とさない”アークエンジェル”に飛び移るこの作業は、シミュレーションで一番練習していた箇所でもある。失敗は許されない。

 

「ソード1、着艦しました!」

 

危なげなく”アークエンジェル”の右舷ハッチに飛び込む”ストライク”。

仲間達の安否を知るため、キラは通信に耳を傾ける。

 

<ワンド1、着艦だ!>

 

<……ワンド2もです!>

 

<ワンド4、着艦です!>

 

<あっぶね! ワンド3、飛び込みセーフ!>

 

<ソード2、着艦した>

 

仲間達も皆、無事に戻ってきたようだ。

ホッと息を吐いたとところで、揺れが”アークエンジェル”を襲う。

 

<第13ブロックに被弾! ”フェンリル”からの追撃です!>

 

<うろたえるな! 面舵一杯、”アークエンジェル”は急速離脱する!>

 

少しの動揺も見せないミヤムラの命令に従い、”アークエンジェル”は飛び去る。後に残されたのは、多くの物資を破壊され、統率力も喪失しかけた輸送部隊と、獲物に逃げられた狩人達の怨嗟の声だけだった。

斯くして、この戦闘の幕は下りた。

ZAFT輸送部隊はこの強襲で輸送していた物資の5割強を喪失、そのことは後のナイロビ防衛戦に大きく影響することとなる。

また、この戦闘の結果を受けてZAFT軍は”アークエンジェル”に対する脅威度を更に更新するのだが、当の本人達はそのようなことは知らず、それぞれに異なる思いを抱いていた。

作戦が成功したことを喜ぶ者、生きて帰れたことに安堵する者、戦闘中の自分を振り替える者。

そして。

 

「あたしは、あたしは……」

 

───無力感に泣く者。




遅ればせながら更新しました……。

やり過ぎたかとも思いますが、スミレのフェンリルがアップグレードです。
下に通常版とのステータス比較を置きますね。

フェンリル
移動:7
索敵:B
限界:160%
耐久:200
運動:10
変形可能

武装
主砲:180 命中 50 (射程4)
マイクロミサイル:40 命中 55



フェンリル・ミゼーア
移動:7
索敵:B
限界:130%(スミレ搭乗時180%)
耐久:400
運動性:12
変形可能
PS装甲
????

武装
主砲:220 命中 65 (射程4)
マイクロミサイル:40 命中率 60

果たして、キラ達はどのようにこの難敵に立ち向かうのか。
気長に次回以降をお待ちいただけると幸いです。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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