※後半にインモラルな描写がございます、ご注意ください。
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『セフィロト』 “第08機械化試験部隊”オフィス
「どうも下郎の皆さん、ヴェイクです。ふは、ふははははははっ!」
オフィスに入室して早々に高笑いを挙げるパチモンに、しかし他の職員達は「またか……」という視線を向けるばかりで大して気に留めていないというのはおかしいと、ユージは切実に思った。
そして後ろに控える変態共を見て、悟った。第1艦隊司令の出迎えというイベントを終えてしばらくは小休止か、といったタイミングで4人が集まっている。───絶対に何かよからぬことを企んでいる。
「で、今度はいったい何を持ってきたって?」
「ふふふふ、そのようにこちらに視線をくれずに塩対応をされると……何がなんでもこっちを向かせてやろうという気になってしまうじゃないか、ん?」
「落ち着いて安心しろ欲しい、消して奇妙なおかしい物を持ってきたわけじゃない、無いとが保証sる」
「そうか。ところでブロントさん、こないだ持ってきてた『馬型に変形するMS』の開発企画書だがボツにしといたぞ」
「絶対に許されない!
「ええい、話を脱線させるでないわブロントさん! 天翔十字鳳するぞ!」
「で、何を持ってきたって?」
自分から話を脱線させておきながら平然と話を戻そうとするユージ。
変態達に一方的に話させると会話の主導権を奪取されるため、このように変態同士で争わせておき、その隙に主導権を握る。”マウス隊”の隊長を務めているウチに身につけたスキルの1つである。
「とりあえずヴェイクはブロントさんを抑えておいてください。持ってきたのはこれ、”バスター”の仕様変更案ですよ」
「”バスター”の?」
「ええい、貴様! この聖帝に指図をするな、というか手を貸してほしいっていう!?」
ユージの疑問の声に対して
性能自体は悪く無かったものの、パイロットであるカシンの適正に合わないということや、”バスター”にやらせるような役割ではないという意見がまとめられており、結果的に正式採用はボツになったはずだったのだが……。
「これがどうかしたか?」
「隊長、先の模擬戦で問題になったのは『”バスター”にやらせるようなことではない』という問題でしたね?」
「ああ」
「ヴァーディクト・デイをやんややんやとエンジョイしていた私達は、そこであることを思いついたんですよ。”バスター”の適正に合わせつつ、仕様を大きく変更することの出来る改装計画をね」
ゲームやってる最中に思いついたとか絶対に禄でもない、とユージはこめかみに手を当てて頭痛を堪えるような姿勢を見せる。
しかし、なんだかんだで変態四天王達+αがまったく使えない物を出してきたことは……結構あるが、話を聞こうと続きを促す。
「現状の”バスター”は強力な実弾砲とビーム兵器を兼ね備えた、砲撃支援機としては十二分に優秀なMSです。本来なら改善するような要素はぱっと見ありません。強いて言うなら近接戦用装備が無いというくらいですか」
「しかし、そこで俺達は逆転の発想を得たんだ! 『今の時点である程度完成しているなら、あえてバランスを崩してみるのも有りではないか』と!」
バンッ、とユージの机を叩くアキラ。
ここでようやくブロームが落ち着いたようで、ブロームとヴェイクがホワイトボードを持ってきてそこに何かしらを書いたり貼り付けたりを始める。その様子を見て、他の技術者達も集まってくる。
ちなみに、パイロット勢はこの時MSシミュレーターで訓練を行なっており、この場にはいなかった。
「機動性を捨てて、完全に砲撃戦仕様、それもただの砲撃戦仕様ではなく対艦攻撃特化型に改造するプラン!」
「その名も”バスターガンダム・オーバードスタイル”。そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?」
「オーメル仲介人かお前は。……一応聞くが、VDのどこから着想を得た?」
元ネタに寄せて絶妙に人の神経を逆なでするような話し方をするウィルソンに若干イラッとしながら、疑問をぶつける。
ガチタン仕様の機体縛りでもしたのだろうか?そこまで考えて、ユージはあることを思い出す。
あるじゃないか。それ以外の全てを投げ捨てたかのような、一撃に全てを捧げたかのような代物が。
「”アークエンジェル”とかですね、ほら、ミサイルとかレールガンとかバンバン使うじゃないですか」
「……はい」
「船が、すごいふっといの」
「ああ、うん、ふっといミサイルね」
『あれ、MSにも積んでみたくないっすか?』
「っていう? ふはっ、ふははははははっ、えふっ、ゴホっ、ちょむせた!」
「マヤ、いますぐあの白衣連中を呼んでくれないか? 活きの良いモルモットがいるってな」
「隊長、彼らは”アークエンジェル”にバアル少尉が移籍した際に全員『セフィロト』から退去しています」
「畜生、お前ら全員バカだバカ! バーカ!」
「はーい、精神安定剤の出番ですねー」
4/9
『セフィロト』周辺宙域
「えー……それでは、これよりGAT-X103”バスター”の『超長距離対艦・対拠点攻撃用装備』の運用試験を開始します」
<りょ、了解です>
後ろで顔に手を当てながら天井を仰ぐユージをチラチラと気にしながら、管制官の声が部屋の中に響く。
モニターの中に映る”バスター”は、普段の”バスター”を知っている者も、そうでない者も頭の上にクエスチョンマークを浮かべるだろう様相を呈していた。
といっても、機体本体に大きな変化が起きているというわけではない。大きく変化したのは、その背中だ。
右後方側には折りたたまれた巨大なレールのような装置が取り付けられており、時折プシュプシュと煙を吐き出している。
左後方側に取り付けられているのはそれとは対照的に見た目は特に違和感の無い筒状のコンテナだが、そこに何が積まれているのかを知っている者からすれば、まるでエアガンのガワを被せた
「なんであいつらはあれを3日で用意出来るんだ……」
「趣味と仕事が両立している類いの中でも、とりわけ優秀な能力の持ち主ばかりですからね。2・3日の徹夜くらいは屁でも無いんでしょう」
「君もなんだかんだノリノリだった気がするなぁ」
「決まったからには私もやりますよ」
実際、隣で腕を組んでいるマヤを含め技術スタッフ達は実に頼りになる。性格・経歴無視のエキスパート達を選りすぐったという言に嘘は無いと断言出来るだろう。
ユージはふと、この部隊が結成されてまだ1年も経っていないということを思い出した。たしか、結成したのは去年の7月だったか。ハルバートンの元にMS早期研究の有効性を直訴しにいった時は、このような部隊の隊長になっているとは予想出来なかった。
もしもあの時、直訴しに行っていなければどうなっていただろうか?
こうして愛すべき馬鹿共と共に仕事をすることもなく、”テスター”が生まれることもなく、キラ達の物語が変わることもなく。
そして、隣に佇む女性と
ユージは横目にマヤを見つめていたが、それに気付いたマヤはジト目でユージを見つめ返す。
「どうしました、隊長?」
「いや、君のような女性と出会えて私は幸せ者だなと」
「貴方にしては珍しい率直な口説き文句ですね。2週間ほど前にワーワーと私に縋って泣いていた時とは大違いです」
「それを持ち出すのは反則だろう……」
ユージは思わず、両手で顔を覆ってしゃがみこんでしまう。
あの時はもっとも信頼する副官であるジョンが戦死したり、自分の行動のせいで戦争が更に拗れたのではないかととことん悲観的になっていた。死んでしまいたいほどの胸の痛み、それを和らげてくれたのが
『原作』でキラがフレイ・アルスターに縋りついたのも頷ける話である。あの『温かみ』は、
「あの~……準備、出来てますけど」
オリヴィアから遠慮がちに放たれた声を聞き、我を取り戻す。
オリヴィア含め、先日転属してきた何人かはまだ”マウス隊”の空気に慣れていない。そんな中で隊長であるユージもこの有様では彼らも困惑してしまうだろう。
立ち上がって咳払いをし、なんとか空気の正常化を図る。
「あー、うん、済まなかった。気を取り直して、試験を始めようじゃないか」
「やれやれ、ウド印のブラックコーヒーのお代わりを頼む直前だったぞ隊長。ではカシン、システムを起動してくれ」
<分かりました、アキラさん>
カシンが”バスター”の背部装備を機動するスイッチを押し込むと、たちまち変化が起きた。
折りたたまれたレールが展開して真上に伸び、コンテナから押し出された物体───艦対艦ミサイル『スレッジハマー』がレールにセットされる。ちなみにこのミサイル、本来”アークエンジェル”級で運用される物よりも爆発力の強く、火器の知識に長けた隊員によるお手製の改造品だったりする。
「隊長が休戦期間中に導入してくれた各種成形機のおかげで、既存の生産ラインに依存せずに独自性の高い弾頭を作成出来るようになりましたからねぇ。“マウス隊”
「おかげ様のおかげで『クトゥグア』と『イタクァ』の開発に成功し、ナイトも喜びが鬼なった」
「……俺は墓穴を掘ったか?」
何を今更、という顔をマヤに向けられては、ユージにはもうお手上げだった。
もしかしたら自分はワーカーホリックなのかもしれないとユージは思った。口では変態達に振り回されるのを厭うような言葉を吐いておきながら、こうやって新しい
一度精神科に罹ってみよう、と決意をしたところで、カシンから武装の展開と照準が完了したとの報告が入る。
「大丈夫かカシン? 『不明なユニットが接続されました』とか表示されていないか?」
<えっ、あぁ、はい。特に問題は無いかと思われます>
「やだな~、隊長。こういうところでふざけたら次回以降通してもらえないじゃないですか~」
「俺達だって学習するんですよ!」
「ふははははははっ! 直前まで”バスター”のバイザーをはじけ飛ばすギミックを積もうかどうか悩んでいたとか、そんなことはないっ!」
調子に乗りだす変態達を聞き流しながらも、ユージは実験の最終フェーズに到達したことを確認した。
あとは、ユージが実際に発射許可を出すだけだ。
「”バスター”に不備は無いか?」
「そこは心配しないでくれ。俺達が入念に整備したからな」
「よし……カシン、お前のタイミングに任せる」
<分かりました。……MS用試作型対艦ミサイル『インドラ』、発射!>
カシンがトリガーを引くと同時に、”バスター”の背中に組み上がった発射台からミサイルが垂直に発射され、標的として用意された”ナスカ”級の残骸に向かっていく。
発射されたミサイルはしばらく上昇し、定められたプログラムに従って方向を転換。内蔵したカメラが捉えた標的にそのまま向かっていき───。
「おおっ……」
次の瞬間、宇宙に火の玉が生まれた。
ベースとして用いられたミサイルは『スレッジハマー』だった筈だが、ユージにはそれが同じ物であると信じられなかった。
それほどの威力だった。核とは流石に比ぶべくもないが、それでも1機のMSに装備させるには、文字通り
「素晴らしい、想像以上の成果だ!」
「残骸とはいえ”ナスカ”級を1撃で……相当なものですね」
「ああ……威力はな」
ユージは内心で、この装備の不採用と研究継続のための算段を立て始めた。
強力な装備なのはたしかだが、装備が展開して発射段階になるまでに時間が掛かりすぎる。使うとすればデブリ帯など視認が困難な場所での不意打ちだろうが、それにしたってわざわざこの装備を持ち出すよりもランチャーストライカーなどの砲撃装備で連続しての攻撃を行なった方が良いだろう。宇宙空間ではビームの減衰が起こらないのだから尚更だ。
しかし、ビームと違ってミサイルであればその中身によって色々な運用が可能という利点もある。
”オーバードスタイル”の実験で得られたデータがあれば、より効率的にMSの手で大型ミサイルを運用するための装備を作れるという将来性も見越しての『研究継続』の判断だった。
(ん? ……まさかな)
大型ミサイルの発射用装備といえば、とユージはあることを思い出す。
『原作』のdestiny時代に連合軍で運用されたMS用装備の中にマルチストライカーというものがある。劇中ではもっぱらmk5核ミサイルを発射するために用いられていたストライカーだが、”オーバードスタイル”のデータを使えば、作り出せてしまうのではないか?
『原作』通りに進むとは限らないが、もしも連合がNジャマーキャンセラーを手に入れて核の力を取り戻した場合、マルチストライカーwith核ミサイルを装備した”ダガー”が量産され……。
(やっぱり止めようかな、研究継続……)
ノーベルやアインシュタインの二の舞にはなりたくない。
しかし、ユージの考えを置き去りに変態技術者達は大喜びでデータの収集や次回作の構想を練り始めていた。
「ヒュージミサイルはあれでいいとして、次はどうします? マルチプルパルス?」
「いや、あれは全方位に発射するからダメだ。それより
「グラインドブレードはどうだ? 刀身にPS装甲材を使えば強度は確保出来る」
ウキウキと話し合う変態技術者達だったが、ユージとしてはそれを見逃すわけにはいかない。
予算交渉をするのが誰だと思ってるんだバカ共、「”マウス隊”だから」ってことで融通効かせてるところもあるんだぞ。これ以上仕事を増やさないためにも、ここで歯止めを掛けなければ。
「おいお前ら、いい加減に……」
「まずはマスブレードを作るべきよ。ローコストだし、最終的にはエド中尉のところに送りつければ成果出してくるから」
『それだっ!』
「何でお前まで混ざって変態やってるんだよマヤぁ……」
4/11
『セフィロト』 オフィス
今でこそMS運用・研究のエキスパートとして名を馳せる”マウス隊”こと”第08機械化試験部隊”だが、結成される前は当然MSの知識に長けた人物はほとんどいなかった。『ほとんど』と形容したのは、隊が結成される前からハルバートンの指示で極秘裏に進められてきた『G』計画から転属してきた人間もいるためである。
加えて彼らは、MSの早期実戦投入のために各所から集められた。であれば当然、入隊前のそれぞれの得意分野も異なる。
休戦期間中に”マウス隊”の元に舞い込んだ1つの計画、それは「Nジャマー環境下でも運用可能な偵察機の開発プランの提示」であった。
といっても、ユージはこの計画に隊を参加させるつもりは最初は無かった。パイロットも技術者もMS運用に集中させたいという思惑や、部隊内に新しく負担を抱える必要も無いだろうと判断したためである。幸いにも計画参加への打診がされたというだけで、断りやすい状況だったというのもあった。
しかしそこに「待った」を掛けたのが、かつて”メビウス”シリーズの開発・研究に参加した経験のある技術者Aと、航空機への造詣が深いB、そして”テスター”に搭載されるセンサー類の開発を主導したCだった。
彼らはどこからか聞きつけたこの計画の概要を聞き、ユージに対して参加を直談判したのである。
「こんな面白……有意義な計画に参加しないなんてもったいない!」
「水くさいじゃないですか~こんなすんばらしい計画を蹴るなんて~」
「……やろう」
前世が押しに弱いと言われる日本人であり、その気質が抜けきらなかったユージは、この談判に対し「普段の業務に差し障りの無い程度に止めること」「構想が出来上がった場合、真っ先にユージにそれを見せること」等を条件に計画への参加を決めた。……決めてしまった。
「MSに飽き足らず、今度は偵察機かよ……」という視線を投げかけたホフマンの姿が印象的であったとユージは後に語った。
そして今日、その構想案が提出されたのだが……。
「なるほど、却下」
『
「俺がお前達になんと言ったか、覚えてるか?」
ユージが自分の机の上で手を組みながら問うと、計画担当者の3人は首をひねる。完全に忘れているらしき様子を見たユージは溜息を吐きつつ、説明する。
「俺は『全部品を完全新規で設計するのは負担が掛かるから、既存品との兼ね合いにも十分に注意を払うように』と言った筈だ」
「え~? それだったら十分に配慮してるじゃんか~」
「ああ。きちんと”グラスパー”タイプの部品を使っているぞ」
「……使った」
なるほど、話の食い違いポイントはそこか。
ユージはまたしても、部下と自分の
「───機首とコクピット内装ぐらいしか流用部分が無いだろうが! こんなもんほっとんど完全新規みたいなもんだ!」
「ええ……コクピットも結構お金かかる部分なのに」
「そういう! 問題じゃ! 無いっ!!!」
ユージが机を叩く音も、四天王が毎度のごとくやらかす度に響くために皆慣れてしまい、なんら効果を為さない。
「まあ、落ち着けよ隊長。ゆっくり深呼吸だ、なっ?」
再度溜息を吐くユージ。Aがまるで幼子を諭すかのように語りかけてくるのはそれはそれで腹が立つものの、一度落ち着くべきだというのはたしかに正論だった。
マヤが持ってきたアイスコーヒーを飲み干したところで、Bが説明を始めた。
「そもそも~、考えてみてくれよ隊長~。地上では既に”デッシュ”が配備されてるし、第一線から退いた”メビウス”の一部を偵察仕様の“EWACメビウス”に改修する計画が立ち上がってるだろ~?」
「それがどうした?」
「だったらさ~、って考えたわけ~。……わざわざここから更に偵察機を開発する意義って、な~に?」
言われて見ればたしかに、とユージは顎に手を当てて考え込む。
既に宇宙でも地上でも偵察機が用意されている。にも関わらず、計画への参加を打診されたのはBが例に挙げたような偵察機が出揃ってからだ。
新たにここから開発する意義とはなにか?
「そこで~我々なりの考察なんですけど~。たぶん上層部は~新時代のスタンダードを求めてたんじゃないかと思うんですよ~」
「……思う」
B達の言い分を要約すると、この開発計画は連合軍上層部が戦後を見据えた取り組み、その一環ではないかとのことだった。
”デッシュ”も”EWACメビウス”も、元になったのはどちらもCE60年代の機体で、構造は古い。特に偵察用に改造しているとはいえ、本来は戦闘用に開発された”メビウス”の場合は、あくまで延命処置のようなもの。
『
とはいえ、『三月禍戦』のような掟破りの襲撃が起こると予想することは、出来たかもしれないが難しかった。仕方のないことといえばその通りだ。
「つまり、このZAFTとの戦争にかこつけてそれら試作機のデータを取り、次の戦争に備えようとしたのではないか、ということだ」
「……ことだ」
「うーん、意外と当たってそうな……」
「ならば、ということで我々は流用する部品を多くするよりも、多少コスト増しになったとしても高性能かつ発展性のある機体を設計するべきという結論に落ち着いたというわけだ」
彼らの説明を聞き、ユージも段々と文句を付けようという気は無くなり、上に提出してみようかと思い始めていた。
通らないならばそれはそれで良し、通ったならば戦場に高性能偵察機が登場することになる。戦場で偵察機、引いてはその活躍で得られる情報がどれだけ重要なのかは、言わずもがなである。
なんだかんだで部下に甘いユージなのであった。
「そういうことなら、まあ、いいか」
「おおっ、分かってくれたか!」
「夜も寝ないで昼寝して~で設計した甲斐がありましたよ~」
「……グッド」
そういえば、とユージはあることを思い出した。
機体の詳細を確かめることを先にしてしまったために、肝心の開発コードを尋ねていなかったのである。
「どれど……。……ん?」
「どうした?」
「……この機体の名は、その……」
「ああ、”スノーウィンド”と名付けたんだ。イカすだろ?」
「……戦闘妖精?」
『That's right!』
「そっかぁ……」
「良かったですね、まだマシな方じゃないですか」
マヤの慰めは、全く慰めになっていなかった。
4/12
『セフィロト』 上級士官用個室
宇宙空間では昼や夜といった概念は存在しないも同然だが、人間である以上は必ず一定のリズムで眠気に襲われる。時計の針の回りでしか判別することは出来ないものの、今は間違い無く夜として認識されるべき時間帯。
電気の消えたその部屋で、ユージは机の上に置かれたパソコンに向き合い、キーボードを叩いていた。
その顔は『真剣』という表現がこれ以上に無いほどに合致する表情を形作っており、その指は時折止まりながらも一心不乱に画面に文字を打込み続けている。
「───きちんと寝るのも兵士の仕事。そう言ってませんでしたか、貴方?」
左肩に寄りかかる形で、マヤが顔を覗かせる。首筋にさらりと触れる黒髪がくすぐったい気持ちにさせるが、それでもユージは作業を止めなかった。
「スマン、できる限り早くに進めておきたいものでな」
「……『プロジェクト・RX』、ね」
ユージが熱烈にハルバートンにプッシュしているこの計画は、『連合軍が現在有する技術の粋を尽くし、最高性能のMSを建造する』ことを目的とするものだった。対外的にはユージは「連合軍のMS開発の限界を検証する」ためと言っているが、真相はそうではない。
マヤはユージの秘密───『前世』と『機動戦士ガンダムSEED』に関する知識の保有───を知っている。だからこそユージがこの計画を推し進めようとしているのが、ただ1人のためだけであるということも理解していた。
「それほどのものなんですね、キラ君の能力は」
「ああ。……”ストライク”で戦い続けることは不可能だろう」
本来の筋書き、『原作』においてキラはオーブ近海にてアスラン率いるMS隊と戦闘をした際にマルキオ導師によって保護され、プラントにたどり着く。
そこでラクス・クラインと再会し、紆余曲折あってラクスから核動力MS”フリーダム”を託されることになる。
しかし……。
「この世界でキラ君が”フリーダム”を手に入れられる可能性は低い。クライン派の動きは大分制限・監視されているようだしな」
「運命が変わったから、ですか?」
「ざっくり言えばそうなる」
そう、現状でキラが”ストライク”に代わる新しい『剣』を手に入れる可能性は0に等しかった。
”アークエンジェル”が今いるアフリカ大陸からオーブを経由してアラスカ基地に向かうような予兆は存在せず、また、アスランはアスランで『紅凶鳥』と呼ばれる、ネームバリューだけなら『砂漠の虎』に並ぶトップエースになり、『原作』のようにわざわざ”アークエンジェル”だけに
しかし、最終的にはプラントないしZAFT宇宙要塞『ヤキンドゥーエ』に攻め込むころには、ZAFTは核動力MSを作り出しているだろう。
如何にキラといえど、MSの性能が低ければその力を発揮しきることは出来ない。
───必要だった。”フリーダム”に代わる
そのための『プロジェクト・RX』。キラに『ガンダム』を与えるための計画。
「時間が無い……無いんだよ」
ひたすらに計画書を作成するユージ。そんなユージの姿を見たマヤは、溜息を吐きながらユージの首を動かし、自身の顔を視界に捉えさせる。
「なにを───」
有無を言わさず、口の中に暖かい何かが侵入してくる感覚がユージを襲った。首を向かせたマヤが口づけたのである。
「ぷはっ……」
「仕事は大切ですけど、殿方が女性を手持ち無沙汰にさせておくのは、あまり褒められたことではないと思いますよ?」
「それは……悪い」
「素直な人は好きですよ」
そう言われてはユージには反論のしようもない。
あれだけ
素直に非を認めて謝る
「……2回戦、いきます?」
目の前でそのようなことをされては、放っておく者は男どころか生物ですらないとユージは思考の中で断言する。
立ち上がってベッドに向かおうとして───。
<隊長、夜分に申し訳ありません。早めにお耳に入れておくべきと思われる案件がございまして……>
部屋に備え付けられたモニターを叩き割りたくなったユージは、きっと間違っていないだろう。
幸いにも、モニター付き通信装置にはプライバシー保護のために許可無く映像が流れることはなく、音声のみであったために通信先に部屋の中の様子を知られることはない。
これ以上ないほどに顔を顰めながら、
「いったいなんだオリヴィア、こんな夜更けに」
<地上派遣部隊のイメリア大尉から、隊長に極秘でご覧にいただきたいものがあると。画像ファイルが1つと、文書が1つです>
「レナ大尉から? 分かった、こちらに送信してくれ」
間もなくして、ユージの端末に1つのファイルが転送されてくる。
夜勤の苦労を労いながら端末に向き合うユージと、不満そうにしながら裸身にシーツを巻き付けて端末をのぞき込むマヤ。
開封された画像を見た瞬間、ユージはハッと息を飲んだ。
「これは……結構荒い画質ですけど、MSですね。背中のウェポンラックを見る限り、東アジアの”須佐之男”タイプに酷似していますけど……ユージ?」
「嘘だろ……」
上を向いて溜息を吐く男の姿から、マヤはただならぬ何かを感じ取った。
ユージの『眼』……機体や一部パイロットのステータスが見えるという、一見戯言のような能力が
「もう知らん……こんなんキャパオーバーだ」
突如立ち上がったユージはマヤを抱き上げ、ベッドに向かう。
半ばヤケクソ染みたその動きは、現実逃避の証拠だった。
「あの、ユージ……?」
「明日だ明日、今の俺はムシャクシャしてるんだ」
「でも……」
「良いから……な?」
「……もう。明日になったら説明してくださいね」
男女のシルエットが重なるのに、そう時間は必要なかった。
夜は、更けていく。
ユージの『眼』は、たしかに1機のMSの姿を映していた。
撮影者から遠ざかっていく姿を映したその画像。そこには。
───蒼いMSの姿が映っていた。
ブルーガーディアン Type01
移動:8
索敵:C
限界:190%
耐久:250
運動:46
シールド装備
Pシステム
武装
ビームライフル:150 命中 75
グレネードランチャー:200 命中 60
バルカン:50 命中 50
ビームサーベル:165 命中 75
実体ブレード:120 命中 70
前半中盤おふざけ回、後半しっとり回。
まあユージも男ですしおすし……。
というわけで。
次回更新するのは番外編の方、「Thunder clap」となります!たぶん前後編になるかと思います。
本編をお待ちの方には申し訳ありませんが、ご容赦ください。