機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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投稿に遅れたのは全て私の責任だ。
なので私は謝罪する。
……すんませんでした!


第80話「荒野を走る死神の列」

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地球連合軍 モザンビーク基地

 

「すっげ、あれが”ノイエ・ラーテ”ってんだろ?」

 

「実物を見るのは初めてですが、なるほど壮観ですね……」

 

キラ達MS隊パイロットは現在、モザンビークに設けられた基地の倉庫までやってきていた。

ミヤムラ、マリューらが明日行なわれる作戦の打ち合わせを行なっている間、現地部隊との顔合わせをしておこうというムウの指示に従ったためである。

現在地上軍の主力となっている”ノイエ・ラーテ”は、その車体を構成する大半のパーツが既存兵器の物の流用ということを感じさせない威厳を以て並んでいた。

 

「250mm砲だっけ?すごいわよねぇ、あんなの当たったらMSじゃ木っ端微塵よ」

 

「それでいて装甲も厚い……が、なぁ」

 

「どれだけ威力があっても当たらなければ意味は無い。装甲とて攻撃を防げなければ無いのと同じだ」

 

「スノウちゃん、声」

 

しかし、遠慮など知らんと言わんばかりにスノウは切って捨てる。

たしかに”バクゥ”を前にしては不利なのは間違い無いが、それにしたって言い方という物はあるだろう。

開けっぴろげに言うスノウにヒルデガルダが諫めるが、当の本人は何処吹く風と言った様子で更に言葉を続ける。

 

「『ちゃん』は止めろと……そもそも事実だろう。そうでなければわざわざ”アークエンジェル”を地上に呼ぶ理由も無い」

 

現在のアフリカ戦線では東のインド洋、西の大西洋共にZAFTの影響があり、思うように物資を運ぶことすら出来ない、誰が見ても孤立している状況下にある。

特にネックとなっているのは、赤道連合の存在だ。

東南・南アジアの国家からなる連合勢力であるのだが、ちょうど連合軍勢力圏とインド洋を分断するように横に広がっているため、ユーラシア大陸側からアクセスを行なうのが手間なのである。

1番妨害がされずらいだろう宇宙からの降下でさえあれだけ手こずったのだから、地上ではどれだけ苦心しているかが窺い知れる。

 

「常に事実を言ってれば事態が良くなるっていうわけじゃないぜ。共同で作戦を行なう相手の心証を悪くするのも()()だろ?こういうのは余計なことをベラベラ話さないで、パパッと『よろしくお願いします』くらい言っとけば良いんだ」

 

「そういうものでしょうか」

 

「そういうもんだ。おっ、あれか?」

 

そんなことを話しながら歩いていると、基地内に建てられた倉庫の1つにたどり着く。

1台の”ノイエ・ラーテ”が納まったそこに、今回の作戦へ参加する戦車隊の隊長が待機しているとのことだった。

 

「───失礼します」

 

ムウが先陣を切って入ったその部屋は、「戦う男の部屋」という表現がもっとも相応しい場所だった。

床に散らばった何かの食べかすや紙、ゴチャゴチャと拳銃や酒缶が散らばる机。

そして、ソファで寝そべって資料らしき紙束を捲っているイタリア系男性。

 

「ん”ー?ああ、話には聞いてるな」

 

「”第31独立遊撃部隊”の、ムウ・ラ・フラガ少佐、以下6名。作戦に参加させていただきます」

 

ムウの後ろで敬礼をするキラ達へ多分に疑惑の混じった視線を向けながら、男も立ち上がって敬礼を返す。

 

「ミケーレ・コッポラ少佐。第144機械化混成連隊の大隊指揮官をやってる」

 

「明日はよろしくお願いします」

 

ムウは一貫して腰の低い態度でミケーレに接する。

同じ少佐ではあるが、ムウの方が年齢も少佐に昇格したのも後。軍隊に限らず、同じ階級の場合は先任の方が立場は上となる。

その姿を見てミケーレは、しかし鼻を鳴らす。

 

「『エンデュミオンの鷹』とか言われてるらしいが、こんなところでボーイスカウトの引率とはな。どんな奇妙な道筋を辿ったのやら」

 

「んなっ……」

 

「っ……!」

 

あからさまな侮辱にマイケルやスノウが憤るが、キラやヒルデガルダは手をかざして制する。

ヒルデガルダはここで問題を起こしたところで何の意味も無いということを直感していた故であるが、

 

(まあ、これくらいはあるかもとは思ってたかな)

 

キラにとっては、この程度の侮辱は想定内であった故の行動である。

設立されたばかり、しかも宇宙軍管轄だというのにアフリカに降りてきた部隊などが懐疑的視線に晒されるのは当然だ。

それに。

 

(耐性、付くもんだなぁ……)

 

敬愛する教官からの愛(罵倒慣れ)のおかげというのも多分にあった。

 

「まあ、色々とあったもんでしてね。それと私はボーイスカウトの引率ではなく、MS隊の隊長としてここに来たんですが」

 

「どうだかな……まあいい。仕事さえしてくれるなら何だろうと知ったことではない」

 

そう言うとミケーレは再びソファに腰掛けて資料を眺める作業に戻ってしまった。

勿論キラにも、宇宙からなんとか降りてきてこの態度を受けたことには腹の一つも立つ。これから共同戦線を築こうというのだから尚更だ。

しかし、相手からは「なんか宇宙から来た変な奴ら」程度の認識しか得られないのも事実。

この場はグッと言葉を飲み込んでおくしかなかった。

 

「了解しました。ボーイスカウトなりに、仕事をこなすとします。ほら、いくぞ」

 

袖にされながらムウはそう言い、後ろに控えていた部下達に退室を促す。

何かを言いたそうな何人かを手で制しながら部屋の外に押しやる。

十分にミケーレのいた場所から離れ人目にも付きづらい倉庫の陰にたどり着くと、当然のようにスノウは噛みついた。

 

「何故言い返さない少佐!あれでは言われっぱなしじゃないか!?」

 

スノウの言い分ももっともではあるのだが、ムウは頭を掻きながら反論する。

 

「あのさぁ、あそこで反論したところで却って話がこじれるだけだろ?それに、あんなの小手調べみたいなもんだ。あの程度の嫌みにいちいち噛みつくような奴が指揮下に入ってたらそれこそ面倒だろ」

 

「今回は隊長の意見に賛成かなー?戦争やってるって時に反骨精神旺盛な人がいたら、指揮する人は何時暴発するかってヒヤヒヤものだもん」

 

普段はマイケルやベントと連んでいるヒルデガルダだが、名家生まれだけあって公の場における人間関係構築の困難さについては人並み以上に知っている。

だからこそ、余計に話を拗らせないために話をさっさと進め、打ち切ったムウの決断は正解だ。

ヒルデガルダはその旨をスノウに伝えるが、スノウはなおも納得していないようだ。

 

「しかし……しかしだな!」

 

「まあ、落ち着けよ。……ぶっちゃけ、俺もあの少佐殿の言い方には腹が立ってる。しかし今の俺達が何言っても大した物にはならん」

 

だから。

ムウは人の悪そうな笑みを浮かべながら、隊員達に向かって言い放った。

 

「───俺達の実力を見せつけて、黙らせてやりたくなった。きっと愉快だぜ?」

 

 

 

 

 

4/3

タンザニア南部 ZAFT軍前線基地

 

タンザニアのムトワラ州、その中でもモザンビークとの国境線───南アフリカ統一機構が成立してからは「旧」国境線が正確───にほど近い場所。

そこでは現在、ZAFT軍の前線基地が構築されていた。

現地住人を雇ったり作業用オートマトンを用いたり等して、着々と基地としての機能が整っていくその光景は、しかしその基地の司令官となる人物の顔を歪ませるばかりであった。

 

「上は何を考えてるんだ……?これだけ戦線を広げても、維持する余裕も無ければ更に攻め込む余裕も無いのなんて百も承知だろうに」

 

「『グリニッジ標準時線に沿って地上を分断し、連合の連携を絶つ』と聞いておりますが……」

 

「バカか、そんなのに何の意味があるんだよ」

 

司令官と副官は、仮設テントの下で団扇を仰ぎながら言葉を交わす。

クーラーなんて都合の良いものは近くに停留している”ピートリー”級陸上巡洋艦の中にしか無いし、3日前にそこら辺から買ってきた扇風機はつい1時間ほど前にご臨終した。

不良品を掴んできた部下にも腹が立つが、一番腹が立つのはよりにもよってこんな場所に飛ばした上層部である。

ひたすらに暑いし、そこら辺を名前もよく分からない羽虫が飛び交っている。

プラントに居た頃は熱気に当てられて「我々選ばれた人類は地球から巣立つべきなんだ」とか騒いでいた司令官だったが、今ではまったく別の理由で同じ文言を吐くだろうという確信を持っていた。

こんな場所からはさっさとおさらばしたい。

人間が何年も住むような場所ではないのだ。

 

「大がかりに準備した物ほど、実際には大して役に立たないなんてことは()()だ。わざわざ丁寧に制圧しなくたって南アフリカは既に半死人だし、そんなことする余裕があるなら他の場所に送るべき戦力があるだろ」

 

「はぁ……そんなものでしょうか」

 

「そんなもんだ。お前も実務ばっかじゃなくてもっと積極的にだなぁ……」

 

司令官は自意識というものが些か欠如した副官に向かって小言を飛ばそうとした。

まさにその時である。

───基地内に警報が鳴り響いたのは。

すぐさま通信機を手に取って、”ピートリー”級の艦橋につなぐ。

 

「どうした!?」

 

<南方警戒線より報告、連合軍の部隊が接近中!先頭には空中を飛行する大型の艦艇、おそらく宇宙から降下した”アークエンジェル”級と思われるものが確認されました!>

 

「本気か!」

 

つい先日に衛星軌道上で戦闘が発生したこと、そして1隻の宇宙艦、“アークエンジェル”が降下してきたということについては聞いていた。

だが彼も含めて多くの指揮官が「大きな影響は無いだろう」という結論に落ち着いたのだ。

───たった1隻に何が出来る?

 

「油断していたな……まったく、有史以来もっとも人間を殺してきたものが油断というのに。……コンディションレッド、ボサボサしてるんじゃないよ!」

 

 

 

 

 

タンザニア南部 ZAFT前線基地南方

 

「ったく、連合の皆さんは血の気が多いこって……」

 

愛機に乗り込みながら、男は呟いた。

何が何やら、訳の分からないうちに南アフリカの首都を陥落させたのが10日ほど前のこと。この前線基地の建造なんて1週間前に始まった。

たった1週間、その程度の時間であの大敗を忘れたというのならさすがに連合軍の司令部が愚かすぎて前線の兵士に同情するが、そうではないのだろう。ビクトリア・サバイバー(歴戦の兵士)たる彼には、激戦の前に感じられる特有の空気(プレッシャー)というものがヒシヒシと感じられた。

 

「まあいい、強化された”バクゥ”の前には意味がないって教育してやるよ」

 

彼の愛機である”バクゥ”には、休戦期間中に頭部へのビームサーベル増設が行なわれていた。

”ノイエ・ラーテ”の登場により火力の不足が指摘されていた”バクゥ”だが、この改装で”ノイエ・ラーテ”の装甲を突破出来るようになり、一気に戦場での立場は逆転した。

なにせ、あの強固な重戦車が横をすれ違うだけで倒せるのだから!

接近するまでが一苦労とは言うが、男にはそれを為すだけの自信と実績があった。

なので、彼が今戦場で恐れているものは()()()1()()である。

”バクゥ”を駆って前線へ足を進めていると、遠くからでもよく分かる特徴的な艦影、”アークエンジェル”がその白亜の巨体が見えてきた。

そして、彼はこのプレッシャーの正体を知った。

”アークエンジェル”のその下方に、砂煙を立てながらこちらに向かってくる人型の影。それこそが、彼が戦場で唯一恐れるものなのだから。

 

「なるほど、そりゃ悪寒もするわな!───『長靴(ホバー)履き』がいるぞ、気を付けろ!」

 

 

 

 

 

<各機、ソード1を先頭にトライフォーメーションで前進!”バクゥ”共を追い散らせ!>

 

「了解!」

 

<りょ、了解!>

 

ムウの取った作戦はシンプルで、『PS装甲持ちかつもっとも戦闘能力に長けた”ストライク”を先頭に敵部隊に突入する』というものだった。

未だに”バクゥ”にはビームキャノンの類いは装備されていない、つまり”ストライク”には射撃は有効ではない。他MSの被害を抑えるためにも、”ストライク”が前面に出るのは当然のことだった。

問題はそこではなく、作戦の要であるパワードストライカーが3機分しか無い、ということの方が大きかった。

”アークエンジェル”はストライカーシステムを運用することを前提として建造された艦ではあるのだが、それにしたって容量の限界というものがある。

エール・ソード・ランチャーの基本3種に加えて、地上試験予定の試作ストライカーパックも積むとなると、バランスを取るためには仕方の無いことであった。

そしてこのパワードストライカーを装備して”バクゥ”部隊と相対する栄えある役目(貧乏くじ)を担うのは、”ストライク”のパイロットであるキラとMS隊長のムウ。そして。

 

<ちくしょう、やっぱこえぇ……!>

 

ワンド3こと、マイケル・ヘンドリー軍曹。

客観的に見て役者不足ではないかと思わされるこの選出にも、当然理由があった。

といってもその理由は至ってシンプル、「マイケルがもっともパワードストライカーへの適正があった」からである。

キラとムウを除いてもっとも腕が立つのはスノウだが、彼女の機体は非ストライカーシステム搭載機である”デュエルダガー・カスタム”。

自然と残された3人の中から選ぶことになったのだが……。

 

『わっ、とぉ?ほりゃぁ!』

 

ヒルデガルダはそもそもパワードストライカーの操作性に対してまったく適正が無く、

 

『これは……すいません、自分には使えそうにないです』

 

ベントは使うことこそ出来たものの、「じっくりと狙いを定めて撃つ」という自らの基本戦い方(スタイル)に合わないとして辞退。

結果、目を張るようなものは無いがそつなく使ってみせたマイケルが消去法的に選ばれたのだった。

 

<落ち着けワンド3、俺達はソード1の撃ち漏らしを叩けばいい>

 

<そりゃ、分かってますけど……!>

 

ムウが声を掛けるも、マイケルの怖じ気は中々取れない。

それも仕方ないことだろう、今のマイケルが担っているのは戦局全体を左右しうる重要な役割なのだから。

1人ではないとはいえ、その肩にのしかかるプレッシャーは相当なものだ。

ならば、彼に言うべきことは1つだろう。キラは口を開いた。

 

「マイケルさん」

 

<お、おう>

 

「前は僕が切り開きます。───背中を任せました」

 

<……!よ、よし任せろ、やってやるぜ!>

 

キラの激励を聞いたマイケルは、まだ恐れが取れきってはいないものの、自分を奮い立たせる。

能力面はともかく、キラ達に対して兄貴分として振る舞うマイケルには、「頼りにしている」という言葉は何より効果的だった。

 

「お願いします!」

 

<───来るぞ!>

 

ムウの言葉通り、“バクゥ”の群れは既に目の前に迫っていた。

キラは”ストライク”にバズーカを構えさせると、”バクゥ”部隊……ではなく、その前面に砲弾を撃ち込む。

当然その砲弾は”バクゥ”を撃破するどころか掠りすらしないが、自分達の方向に飛んで来た砲弾から逃れるために”バクゥ”部隊は散開する。

キラはその隙を見逃さず2発目の砲弾を発射、一番砲弾に近かったために大きく動きを乱してしまった”バクゥ”を吹き飛ばす。

 

「1つ!」

 

自軍側よりも数の多い集団を相手にする時、まずやるべきことは敵の連携を乱すことである。

キラはマモリから教わったことを思い返す。

 

『普通にやれば戦争では数の多い方が勝つ。だが、ただ多ければいいというわけでも無い。分かるな?』

 

『最適な指揮と連携が必要、ですよね?』

 

『そうだ。西暦よりも以前、テルモピュライと呼ばれる地で行なわれた戦いでは、数で劣るギリシア軍が狭い地形でファランクス(密集陣形)を敷く等、その場に適した戦法を採ることで時間を稼ぐことに成功した*1。この稼いだ時間がギリシア軍全体の勝利に繋がった。言いたいことは分かるな?』

 

『どれだけ敵が強大でも、戦術次第でやりようはある……』

 

『そうだ。もっとも、1番いいのはそんな数で劣る状況に陥らないことではあるのだが……それはお前達の考える事ではないのでな』

 

確認出来た限りでは、”バクゥ”の数は10機前後といったところ。

1つ1つ潰していけば問題はない数だ。

イーゲルシュテルンで牽制しつつ、更にバズーカを発射する。

 

「2つ!」

 

順調に”バクゥ”の数を減らしていく”ストライク”、その後ろからビームサーベルを起動した”バクゥ”が襲いかかる。

───しかし、横合いから飛んでいた砲弾がその機体を吹き飛ばし、”ストライク”を守った。

ムウの駆る”パワード・ダガー”の放ったものだった。

 

<おーおー、見せつけてくれちゃってさ!いくぞワンド3、俺達は連携プレイで叩く!>

 

<了解!>

 

たった1機ですら驚異的な”ストライク”だが、その周りには2機の”パワード・ダガー”が控えていた。

彼らが”ストライク”に迫る”バクゥ”を迎撃することで、”ストライク”はその戦闘力の大半を攻撃に注ぐことが出来る。

3機の人型の通った跡には、かつて”バクゥ”だったものが次々と生み出されていった。

 

「───3つ!」

 

 

 

 

 

「やるじゃないか、アークエンジェェェェェェェル……!」

 

ホバートラックの上から双眼鏡でその様を見ていたミケーレは、あまり()()にしたくはなかった味方の活躍にほくそ笑む。

宇宙から降りてきたばかりの小綺麗な部隊に何が出来るとか、これまで地上でヒーコラ言いながら戦ってきたのは自分達だとか色々言いたいこともあったが、それはそれとして自軍の優勢は素直に喜ばしい。

”アークエンジェル”から支援砲撃が放たれて”バクゥ”が吹き飛ぶ様も痛快だ。

しかし、ただ喜んでいるばかりではいられなかった。

 

「大隊、前へ!MS乗り共に遅れを取るなぁ!」

 

この作戦の主役はあくまで自分達陸軍なのだ。”アークエンジェル”隊にだけ活躍させるわけにはいかない。

急発進した車両に揺られながら、ミケーレはアドレナリンの活気に満ちた歓喜の表情で叫ぶ。

ようやくの出番だ!

 

「タァァァリホォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」

 

 

 

 

 

「E4地点にバリアント照準、てぇっ!」

 

「MS隊、更に前進します!」

 

「10時の方向より”インフェストゥスⅡ”接近、数は4!」

 

コリントス(対空ミサイル)で撃ち落とせ!」

 

MS隊の活躍には、母艦たる”アークエンジェル”の働きの影響も大きかった。

戦場全体の把握とそれに応じたMS隊への指示、必要となったら支援砲撃、移動拠点として出来ることをやりきっている。

時折空から襲来する”インフェストゥスⅡ”や“ディン”は南アフリカ所属の”スカイグラスパー”隊が迎撃しているため、”アークエンジェル”はそれらの役割をこなすのになんら支障は存在していなかった。

”スカイグラスパー”と言えば、”アークエンジェル”にもトールの駆る”スカイグラスパー”が配備されているのだが、彼は現在出撃していない。

トールも、彼にしか出来ない役割をになっている。

 

「”ストライク”、エネルギー残量が3割を下回りました!ペンタクル1、発進してください!」

 

<了解です!待ってろキラ!>

 

通信士として奔走するリサから友の危機を聞かされた少年が飛び立っていく。

 

<こちらペンタクル1!ソード1、お届け物だぞ!>

 

<ソード1了解、ドッキングシフトを開始します!>

 

構造上、防御力の大半をPS装甲に依存する”ストライク”はエネルギーの消耗も激しい。

よってパイロットは常にエネルギー残量に気を払いながら戦う必要があるのだが、ここで”スカイグラスパー”本来の役割が活きてくる。

パワードストライカーをパージした”ストライク”がジャンプすると同時に、”スカイグラスパー”が装備していたエールストライカーを投下。

空中換装を成功させた”ストライク”は、エールストライカーから供給されるエネルギーを元手に、バズーカから持ち替えたビームライフルを乱射する。

 

「ほう、見事なものだな……あのように瞬時に機体特性を変えられるとは、戦場の変化を感じるよ」

 

艦長席の隣のシートに腰掛けるミヤムラの賞賛に、”ストライク”を始めとするGATシリーズを作り上げたマリューは微笑む。

自分達の成果が認められるというのは、物を作る人間としてそれ以上に嬉しいものは無いからだ。

 

(もっとも、あそこまでスムーズに出来るのはパイロットの腕もあると思うけどね……)

 

しかし感慨に耽っている時間は無い。

戦場は常に流動的に動いており、”アークエンジェル”にもまだ役割が残されているからだ。

 

「第144機械化混成連隊より通達、『所定の位置に到着、露払いを開始する』とのことです」

 

「承知した。MS隊を下がらせろ」

 

「了解!」

 

1分後、敵陸上艦隊に対して砲弾の豪雨が降り注いだ。

”バクゥ”という天敵を気にすることなく、悠々と歩みを進めた”ノイエ・ラーテ”が牙を剥いたのだ。

その”バクゥ”についても、ムウ達MS隊の活躍によって連携を乱されたことで攻撃が散発的になり、そこを各個撃破されていた。

如何に”バクゥ”とはいえ、1機ずつ孤立しているところを叩いていけば十分に一般部隊でも対処が可能だ。

ともあれ、ZAFTが建設中だという前線基地はあらゆる防衛戦力を剥がされ、残っているのは予備戦力として残っている一部の機体のみ。

 

「ソード2、ワンド2、ワンド4の各機は出撃、()()()()()()()()()()()!」

 

これが最後の仕上げ。

ZAFTが再構築戦争時代の軍事拠点を再整備して拠点を建造しているという情報を得た参謀本部は、あろうことかMS隊を乗り込ませてそのまま基地の設備を乗っ取ってしまおうという大胆不敵な作戦を練っていたのだった。

再整備なだけあってその建造はスムーズに進んでいるようだし、それなら自分達で有効活用しようというのは、なるほど利に叶っているようだった。

そして、基地に残っている敵部隊に襲いかかるのは、ここまで温存されたことで闘志に満ちているスノウ・バアル(二刀の悪鬼)

この戦闘の勝敗は、既に決着しているようなものだった。

 

 

 

 

 

その後に語るべきことは、こと()()()()()()少ない。

”デュエルダガー・カスタム”を先頭とする”アークエンジェル”MS隊第二陣は基地内の”ジン・オーカー”複数機を悠々と撃破し、基地施設内部も歩兵隊によって制圧。

快勝といって差し支えないものだった。

……スノウ・バアルが、投降の意思を見せている敵兵に向けてイーゲルシュテルン(頭部バルカン砲)を発射しかけ、それをキラが制止したことで両者間の空気が緊張したことを除けば。

*1
『テルモピュライの戦い』より




いや、本当にお待たせしました……。
恥を上塗りするようでなんですが、これからも投稿間隔はしばらく空くと思います。
リアルって辛いね……。
以下、長い後書きが入ります。



今回、『オリジナルキャラクター募集』企画から1人採用いたしました。
「バカルディ・ラム」様より、「ミケーレ・コッポラ」少佐です。
素敵なリクエスト、ありがとうございます!

そして、皆さんお待ちかね(?)。
次(の次)に投稿する番外編の内容に関するアンケートの結果発表です!
次は「ムルタ☆ダイアリー」で確定です……盟主王好きだね君達。

それではまず、第3位。
「S.I.D」、43票!
ユーラシア連邦特殊部隊の『黒い』お話が、第3位でなりました!
あくまで第3位、更新する順番というだけなので、必ず更新されます。その時をお待ちください。

続いて第2位。
……。
「プライベート・アスハ」、58票!
オーブ軍特殊部隊による馬鹿娘連れ戻し大作戦のお話が、第2位です!
アンケート最初の方では1位だったので逃げ切るかなと思ってましたが、少しばかり意外な結果に。
これもいずれ更新します。

そして、第1位。
「Thunder clap」、62票!
徐々に「プライベート・アスハ」に追いついていき、最終的には1位に輝きました!
内容は「???」となっており、ワーストかなと思っていたのですが……結構皆さん、知ってる人はいるってことですかね?
それとも怖い物見たさで投票?
ともあれ、1位です。

というわけで、番外編の更新順は以下の通り!

「ムルタ☆ダイアリー」
 ↓
「Thunder clap」
 ↓
「プライベート・アスハ」
 ↓
「S.I.D」

の順で更新していきます!
投票に参加した方も、そうでない方も気長にお待ちください!

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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