何かあったっけ?()
4/4
『セフィロト』 第5指令室
「MS隊各機、トレーニングモードで起動完了を確認しました」
「よし、それではこれより、GAT-X103”バスター”の強化プランAの稼働試験を開始する」
ユージの号令を皮切りに、俄に慌ただしくなる室内。
先日の”アークエンジェル”支援のための陽動作戦においてカシン・リーと”バスター改”は足止めでありながらMS4機を撃破する戦果を挙げたが、その中で彼女は”バスター”の限界を感じ始めていた。
いかに『ガンダム』といえど、激化していく戦争と成長していく各軍の技術力を前には膝を屈せざるを得ない場面も多くなる。
率直に言ってしまえば今の”バスター”は『砲撃戦能力とPS装甲という長所があるが、他は並かそれ以下』という機体になってしまったのだ。
特に、装甲と限界性能以外は“ストライク”に匹敵する”ダガー”が量産されているというのも大きいだろう。
しかしカシン・リーと”バスター”という組み合わせは未だに───特に東アジア共和国で───高いネームバリューを持っており、あっさり他の機体に乗り換えさせるのもどうかという意見があったことから、”マウス隊”が次に取り組む任務がこのようになったのだった。
「カシン、”バスター”の調子はどうだ?」
<ためしに動かしただけですけど、問題無いように思えます>
モニターに映る”バスター”の姿は、初期の連結砲を装備していたころとも、”バスター改”とも違っていた。
まず、背中に背負っている物が違う。
背中のバックパックには砲の代わりに筒のような中型ミサイルランチャーを装備している。これはミサイルコンテナ『スタークレーゲン』、”マウス隊”技術者が開発した”バスター”の新装備である。
通常時はランチャーストライカーにも搭載されている350mmミサイルが6発、左右で合計12発が装填されているが、コンテナの中身を機材ごと入れ替えることでマイクロミサイルや大型対艦ミサイルに変更することも出来る。
敵からすれば実際に撃たれてみることでしかどんな弾頭が搭載されているか分からず、対艦攻撃機と思って近づいてみたら実際にはマイクロミサイルをばらまかれて迎撃される、といった一種の偽装効果が期待されるのだ。
とはいえ、それはこの装備が普及することがあればの話であり、この”バスター”1機で使われた程度では意味が無いのだが。
そして1番に懸念されていた『近接戦能力の欠如』だが、これは”バスター”が両手に1丁ずつ装備した
見た目は後の時代において作られる筈の”ヴェルデバスター”が装備していたものに酷似しているが、この装備には連結機構が存在しておらず、機能性で劣るといったところか。
しかしビームライフルとしての性能は十分に保持しており、扱いやすさから俄に評価を上げつつある”デュエル”のビームライフル同様、運用結果次第では量産も視野に入る優良武器だ。
これらの装備を持つことで砲撃支援機から前線火力支援機に姿を変えたのが、”バスターガンダム・アサルトスタイル”だ。
「───納得いきません」
しかし、そこに異を唱える者もいた。
ユージの隣に立つ、マヤ・ノズウェルもその1人である。
「”バスター”の近接戦能力を補う必要性、それは、ええ、了解していますとも。───そのために本来の持ち味である砲撃戦能力を無くすというのはどういうことなのか、ということです」
「たしかに、今の”バスター”は以前までよりもガラッと変わっているな。見た目はそこまででもないが」
「それだけじゃありません。”バスター”のPS装甲はエネルギーを多く消費する武装に合わせて出力を低くすることで、継戦能力を少しでも高めようとしています。しかし今の”バスター”は実弾、しかもエネルギー消費量が少ないミサイルが多く装備されているんですよ?率直にいって、アンバランスです」
たしかにマヤの言うとおり、今の”バスター”は
わざわざ”バスター”をあのように改修するよりも、”ダガー”を1機、カシン用に調整してやった方がよほど効率的だと。
「まあ、そこは今後の課題じゃないか?素人意見だが、片方のミサイルコンテナを外して強力なビーム兵器を積むとか、そういうことも出来るだろう」
「出来ます、出来ますけど……」
「……とにかく気に入らない?」
「はい」
ユージが自分の弱さをさらけ出した女性は、なるほど美点である故に誰かに疎まれる性格をしていた。
目上の人間に対する敬意を持つことも礼儀も知っているが、それはそれとして気に入らない物には気に入らないとハッキリとケチを付ける。
それはおそらく、
(これは、苦労しそうだ……)
ユージが頭を掻いていると、オペレーターとして新たに配属されたオリヴィア・マイルスから声が掛かる。
「隊長、”アサルトスタイル”の機動データの収集が完了しました。問題が無ければ、このまま予定通り模擬戦に移行いたしますが、よろしいでしょうか?」
「……ああ、うん」
「どうしました、貴方らしくもない」
どこか気の抜けた返事を返すユージに、マヤが眉を潜める。
色々と目が面倒の掛かる我らが隊長ではあるが、仕事をしている最中にこのような姿を晒すのはよほど理解しがたい状況に追い込まれた時くらいだ。
ちなみに、その『理解しがたい状況』を作り上げる割合は8割越えで
「いや、その、なんだ……初めてだから、大丈夫かなー、と」
「そりゃ彼らも模擬戦とはいえこの部隊で初めての任務ですけど、貴方がそこまで緊張するほどのことでは……」
「うん、えっと、分かってるよ、うん?」
やはり、何かがおかしい。
一昨日までは新しくMSパイロットが来るということを喜んでいたはず。今になって何故、なんとも言えない微妙な表情を浮かべるのか?
「300秒後に模擬戦を開始します。スカーレット隊は直ちに出撃し、配置についてください」
やはり分からない。
何故か『スカーレット隊』という言葉を聞いた瞬間、更に顔を顰めるユージに、マヤもまた肩を竦めるしかなかった。
『セフィロト』第3格納庫
<にしても初任務が模擬戦でボコられろだなんて、ほーんと俺達ツいてないっすよね>
<ぼやくなジャック。それに撃破されることなど求められていない>
「ブレンダンの言うとおりだ、ジャック。我々は試作機の仮想敵として模擬戦を行なうだけだ。勝敗は関係無い」
まったく、とベンジャミンは溜息をつく。
せっかく”マウス隊”という実験部隊とは名ばかりのトップエース部隊に配属されたというのに、チームの中でもっとも若手のジャクスティンがやる気を出さないのではこちらも困らされてしまう。
才能は間違い無くある奴なんだがなぁ。
<だってそうじゃないっすか。こっちは量産機、しかも数を揃えるための急造品なのにあっちはガンダムですよ?しかもパイロットは『機人婦好』カシン・リー。無理です、はい>
<質で大きく劣ることは間違い無いだろう。だが、その分は数の利と連携で補えばいい>
「そうだ、俺達は俺達の強みを活かして戦うだけさ。それに……『英雄』と呼ばれるカシン・リー相手に、俺達がどれだけ戦えるか試してみたくもある」
乗り慣れた“メビウス”では対抗しきれないと言われ、最初は憤りを持たずにはいられなかった。ZAFTの真似をして手に入れた力の価値を認めたくないという思いもあった。
しかし、実際に戦ってみればMSにはMSの利点があるということを知り、興味を抱くようになった。
そして、宇宙空間を自在に進んでみせるMSを乗りこなしてみせるとベンジャミンは決意したのだ。
詰まるところ、『自分達の力を試してみたい』というところに終着するのだが。
「所詮は模擬戦などという考えは捨てろ、ジャック。本番のつもり、そして勝つつもりで戦うんだ。───負けるよりは、勝つ方がずっといいだろう?」
<ま、そりゃそうっすけどね>
<最初からそう言っておけ>
そう、自分達は自分達らしく戦うだけだ。
試験の結果として申し分ないデータを提供してやろうではないか!
「よし、いくぞお前達!───スカーレット隊、発進!」
「スカーレット隊、全滅!」
「……うん」
知 っ て た 。
いや、彼らが弱かったということはない。けっしてない。
普段から”マウス隊”という最高峰のMSパイロット達が集う環境下に置かれれば、パイロットの
ゆえに、今回の模擬戦の結果はカシンの立ち回りの上手さが大きいというだけの話だ。
ユージは冷静に先ほどまで行なわれていた模擬戦について振り返る。
「固まり過ぎず、かつばらけ過ぎず。お手本のような編隊飛行をしていたスカーレット隊に対し、カシンはスタークレーゲンのミサイルを一斉射。カシンの上手いところはただ撃つだけじゃなく、周辺のデブリにも何発か命中させることで破片による攪乱を織り交ぜていたところだな」
「流石に訓練課程において『デブリの破片を生み出して攪乱してくる敵への対処方法』なんてところまでは教えてませんからね……」
それを受けたスカーレット隊の面々だが、流石実戦を経験している者は状況を把握してそれぞれ対処し始める。……ただ1人を除いて。
1番の若手かつ実戦未経験のジャクスティンは突発的事態に対応出来ず、足を止めてしまった。カシンはそれを見抜き、死角に回り込んでジャクスティン機を撃墜。これで数の不利を多少軽減された。
残りの2機は味方がやられても動揺を抑えて挟み込むように連携攻撃を仕掛けるが、カシンはすぐに移動して2機を正面に捉えると、今度は”バスター”に元から備わっていたミサイルを発射。
ベンジャミンとブレンダンは頭部バルカンによる迎撃とシールドによる防御を併用してそれを防ぐが、カシンは更に上を行く。
「シールドで防御しているベンジャミン機を蹴りつけて加速し、ブレンダン機に急速接近して銃剣で一突き。残ったベンジャミン機は順当に性能差と手数の多さを押しつけて撃墜、と。これまたお手本みたいな”アサルトスタイル”の使い方だな」
「……うーん」
機体特性を最大限活かしてみせたカシン、しかしマヤは不満、否、不可解そうに顔を顰める。
「どうした?」
「えっと、ちょっとカシンに通信してもらっていいですか?」
「はい」
オリヴィアが機材を操作すると、モニターにカシンの顔が映し出される。
ヘルメットを脱いで一息吐いていたところだったようだ。
「ご苦労、カシン。お疲れのところ悪いが、マヤからお前に聞きたいことがあるみたいなんだ。いいか?」
<え?はい、大丈夫ですけど>
「別に文句があるとかではないの、カシン。ただ気になったことがあって。……あれ、貴方の戦い方じゃないわね?」
マヤがそう言うとカシンは苦笑し、肯定する。
<そうですね、ちょっとレナさんの戦い方を真似してみました>
「……なるほど、言われてみればレナの戦い方に似ていたような気もするな」
”マウス隊”初期パイロット勢は誰もがトップエース級のMS操縦能力を持っているが、それぞれ際だった個性を持っている。
たとえばエドワードの場合は敵部隊への切り込み能力。機体と自身を信じて『まっすぐいってぶっ飛ばす』という点では”マウス隊”の中に並ぶ者はいない。
モーガンは類い希なる指揮能力、セシルは電子戦への適正。
そしてレナは、「ここぞ」というタイミングの見極めが上手いという個性がある。
高機動で攪乱し、ベストタイミングでミサイルを乱射することで大きな損害を与えるのが得意戦法でもあったはずだ。
それを考慮すれば、なるほど、今回のカシンの戦い方はレナのそれに似ているようにも思える。
「隊長、残念ながらこのプランは不採用に終わりそうです。カシン専用機として”バスター”を改装する筈が、レナさん用の機体になってる時点で何かおかしいです」
「うーん……カシン、とりあえず戻ってくれ。スカーレット隊の諸君もご苦労、御陰でいいデータが採れた」
<了解しました>
モニター越しにピシッと敬礼するベンジャミン。模擬戦開始前に意気込んでいただけあって意気消沈していないかと思っていたが、表情を見る限り杞憂だったようだ。
(いや、そう見えるだけかもしれないし、何より他2人がどうなっているかも気に掛かる。……それにしても)
なんとなく予想はしていたが、本当に瞬殺されるとは。やはり『スカーレット隊』には呪いでも掛かっているのだろうか?
しかし、模擬戦の中では特に問題のある行動を取っていたわけではないし、何よりカシンが短期決戦を目論んで仕掛けたことが大きいように思える。
問題は、「これが実戦でも働いてしまったらどうしよう」ということであって。
(……しばらくは様子見、かな)
たかがチーム名、されどチーム名。
どちらにしろ、彼らを活かすも殺すも自分の肩に掛かっているというわけか。
ユ-ジは密かに、しかし大きく溜息をついた。
「ところでマヤ、カシンに合った機体ってなんだと思う?」
「……正直、難しい質問ですね。彼女は射撃が得意ですが、近接戦も出来ないわけではありません。最初は総合的な能力を鑑みてカシンさんに”バスター”を任せましたが、そもそも”バスター”という機体自体がそこまで相性が良くないような気もします」
「砲撃に偏りすぎてるから?」
「そういうことですね」
「ちなみに、マヤ的にはどんな機体が彼女に合ってると思う?」
「射撃寄りな万能型、という意味では……そうですね。エールストライカーを装備した”ストライク”に強力な射撃武器を持たせたような、言うなれば『高速射撃機』が最適かと思います」
「なるほど……この件、あいつらに持っていってみるか」
4/5
『セフィロト』 ”第08機械化試験部隊”オフィス
「なんか静かですね~、そして妙に珍しく慌ただしいですねと分析したが、何があったよ?」
「おっ、ブロントさんは知らなかったのか?」
「ナイトもたまには穴熊に一時転職してみるようなこともある。あと僅かに少しで『レムリア』と『アトランティス』が完璧に完成された設計図を書けるんですが?で、なにがあったよ?」
「第1艦隊司令……に、なる予定の将校が地球からたどり着いたんだとさ。数日前から少し話題になっていたんだが、具体的に何時来るのかは防諜対策で味方にも伏せられていたんだよ」
「ほう、第1艦隊司令がもうついたのか! はやい! きた! 提督来た!」
「で、いったん『セフィロト』を経由して月基地に向かうってんで、隊長含む何人かはそのお出迎えってわけだ。特にデヨー艦長は知り合いらしくてな、ウキウキしてたよ」
「黄金の鉄の塊で出来ているナイトやアkラに声が掛かっていないyうな気がするんですが? おいィ、お前らには聞かされていますか?」
「『お前らだけは絶対来るな、オフィスで大人しくしていろ』とのお達しが出てるな」
「お前それでいいのか?」
『セフィロト』 第1格納庫
格納庫内の気密扉が完全に閉じたことを確認し、ユージ達はハルバートンを先頭にしてそのシャトルへ近づく。
前日になっていきなり本日に来訪すると聞かされたこともあるが、ユージの心臓はドクドクと速く脈を打っていた。
なにせ、第1艦隊司令である。
いずれ行なわれるであろうプラント攻略作戦で陣頭指揮を取る事になるし、連合宇宙軍のトップと言っていい。当然、ハルバートンよりも階級は上。
下手な振る舞いをすると、何が起こるか分かったものではない。
(特に変態4銃士なんて出したら何が起こるやら……待機命令を出しておいてよかった)
そんなことを考えていると、シャトルの扉が開いて1人の男が降り立つ。
見るからに高齢で、髪はほとんど白髪。
しかしその目には、力強さが宿っていた。
「お久しぶりです、オルデンドルフ中将」
「うむ、久しいなハルバートン君」
ハルバートンが前に出て手を差し出すと老人───オルデンドルフもしっかりとその手を握り返した。
どうやら、知己の間柄だったようだ。
ユージの『眼』にステータスが表示される。
ウィリアム・B・オルデンドルフ(ランクS)
指揮 18 魅力 16
射撃 7 格闘 0
耐久 7 反応 5
得意分野 ・指揮 ・魅力
不得意分野 ・格闘
老体のためか直接な戦闘力は並以下だが、それを補って余りあるほど指揮能力を持っているようだ。
能力面では問題無し、となればあとは人格面だが……。
「いやしかし、こうして私の前に君が艦隊司令として立つことになるとは思っていなかったよ。君は上司の顔を窺うというのは苦手だったからな」
「私も、出世は望めないだろうなと感じていましたよ。何かしらの因果が巡り巡って、このようになっておりましたが」
「はっはっは、相変わらずだな!これで大艦巨砲の良さが理解出来ていればなぁ」
「またそれですか……中将、何度も言っておりますが、大艦巨砲主義というのは今の時代に通用するものではないと……」
「MSという『新型戦闘機』に制宙権を取られたのが敗因だ、こちらにもMSがあれば戦艦は無敵となるのだ!」
「戦艦を作る金と資源があるならそれでMSを作った方が成果を挙げられます」
「航空機は消耗しやすい、戦艦ならば強靱に戦い続けることが可能だ」
「どれだけ装甲が厚くても航空機に取り付かれれば絶対絶命、大火力も当たらなければ意味も無し、それらの条件をクリアしても金が掛かる。”アイオワ”や”ミズーリ”の二の舞になるだけです」
「戦艦には他の艦種に無い、突破力もある! それは航空戦術ではけして為せないのだよ」
「ならば駆逐艦を使えば良いでしょう」
「それこそすぐに沈むではないか!それにNジャマーのせいで誘導兵器の大半が役に立たなくなった以上、やはり決定打となるのはより大きな火力と射程を備えられる戦艦は必要なのだ!」
「ですからそれはMSを用いることで……」
(ダメかもしれん)
まさかまさかの大艦巨砲主義者である。いや、仕方ないのかもしれないが。
近頃は『Nジャマーによって誘導兵器が役に立たなくなった』という事実と『MSなんて敵の作った物に頼りたくない』という心理もあって出会う機会も増えてきたが、まさか実戦部隊のトップに立つ人間が
しかも、ハルバートンとの会話の勢いがドンドン激化しているような気もする。ひょっとして、良い関係ではないのか。
とにかく、周りの兵達もどうしていいものか困惑顔をしているし、この場を納めなくては。
しかし、どうやって?
「───お二人は仲が良くないのですか?」
『む?』
一瞬、思考が停止する。
(誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?そんなこと聞くなもしこれで関係悪化したらどうするんだお互いに艦隊司令なんだぞ仲が悪いとか悪夢だろう空気読めぇ!)
どこからか響いてきた女の言葉にユージは冷や汗を掻きながら内心で絶叫する。
もしこれでどちらかが悪印象を植え付ける発言でもしようものなら派閥が生まれて面倒臭いことになるのは確実だ。
しかしハルバートンとウィリアムは顔を見合わせて首を傾げると、
「「いや、そんなことは無いが?」」
と答える。
「大艦巨砲の良さを分からないのは至極残念だがハルバートン君は頭ごなしに否定するのではないしな。話すのに熱中していると仲が悪いと思われることもあるが」
「まあ、人間は誰しも拘っていることで話しているとヒートアップするものですからな。しかし、そのような誤解をされるのは喜ばしくはない。とりあえずこの場は納めておきましょうか」
「そうするか」
はっはっは、と互いに笑い合うウィリアムとハルバートン。
本人達からすれば純粋に討論しているだけなのだろうが、端から見ている者達からすればヒヤヒヤ物なので控えて欲しいものだ。
問題は解決したが、今度はまた別の問題が残っていた。
「それで、そちらの者は?」
ハルバートンがウィリアムの後ろに目をやると、先ほどの空気の読めない発言(結果的に問題は無かったが)を飛ばした下手人が立っていた。
おそらくキラ達とそう歳の離れていないだろう長い銀髪を携えた少女、しかしただ者では無いと見破るには、その襟元に付けた少佐の階級章だけで十分だった。
どこぞの兵士の家族が戯れにその衣装を身に纏っている、というには佐官の階級章は過分だ。
「ああ、紹介を忘れていたな。彼女は私の教え子の1人だよ」
「初めまして、リーフ・W・ウォーレスと申します。若輩者ながら、この度”ペンドラゴン”級1番艦”ペンドラゴン”の艦長へ任命されました」
ぺこり、と頭を下げる少女、リーフ。
しかしその発言の中にはとんでもない文言が含まれていた。
「“ペンドラゴン”の!?」
「ああ、私が任命したのだよ」
ウィリアムの言葉にハルバートンは更に衝撃を受ける。
「本気ですか中将!リーフ・ウォーレスの噂は私も聞いたことがあります。15歳にしてオックスフォードを飛び級で卒業し、そのまま軍に入隊した後も高い能力を見せていると。……しかし少佐、かつ17の少女を旗艦の艦長に据えるなど!」
「本気だよ、ハルバートン君。私が第1艦隊司令に任命されるにあたり、彼女を乗艦の艦長にすることを条件にした。───彼女ほどの逸材にこの戦争を経験させぬままというのは、余りにも惜しすぎる」
「……貴方がそこまで言うのなら、たしかなのでしょう。しかし……」
「問題無い。今はまだ未熟だが、私もいるからな」
ハルバートンとしては酒も飲めない歳の少女に”ペンドラゴン”の艦長を、いや、もっと言うなら戦場に出ることも苦々しいことだった。
自分もキラ達を兵として受け入れたことはあるが、それにしたって試験部隊として後方で働いてもらうことで戦場に駆り出されることが無いように配慮したつもりだ。もっとも、時勢の悪化によって戦場に駆り出さざるを得なくなったが。
ウィリアムは大艦信者の頑固者ではあるが、そういう面ではハルバートンと考えを同じくする筈だった。
その師が、そうだと分かった上で巻き込むということは、それだけの価値をこの少女に見いだしているということに他ならない。
「ウォーレス君、君は出来ると思っているのかね?」
「───それが命令ならば」
「……はぁ」
諦めたように息を吐くハルバートン。
ウィリアムはそんなハルバートンの肩を叩く。
「心配するな、私が付いているのだからな」
「あなたが巻き込んだのでしょう……『生まれついての
「任せろ、ZAFTとかいう木っ端共は16インチ砲で粉砕してやるとも」
良くも悪くも自信満々なウィリアムだが、ハルバートンは知っている。
こういう時の師の判断は概ね成功している、と。
あるいは、自身の後継者が現れたことを喜んでいるだけかもしれないが。
再び話に若干置いていかれている周りの者達の中、ユージはウィリアムの判断が正しいということを理解していた。
(なるほど、たしかにこれほどとは……多少の倫理をすっ飛ばしてでも引っ張り出したいのが分かるな)
リーフ・W・ウォーレス(ランクE)
指揮 10 魅力 6
射撃 3(+2) 格闘 3
耐久 5 反応 5(+2)
空間認識能力
得意分野 ・指揮 ・魅力 ・射撃
これまでユージは何人かの指揮官タイプのネームドを見てきたが、初めて、ともすれば今後お目に掛かることが無いかもしれない、『指揮ステータスが
というか純粋な指揮能力では『ギレンの野望』シリーズにおけるレビル将軍と同等である。
(連合上層部もようやく本気になった……と見て良いのか?)
着々と強化されつつある味方陣営にユージが内心で喜んでいると、リーフはハルバートンの前に立ってその手に持っていた袋を差し出す。
「つまらない物ですが、兄弟子へ贈り物をと思いましたので差し上げます」
「む、ありがとう。ところで中には何が入っているのだね?」
「私の好みの茶葉と、最近イギリスエリアで流行っているパンジャンドラム型クッキーを同封しております」
「そ、そうか……」
色々とつかみ所の無い性格であるようだが。
なんだろう、ウィリアム・B・オルデンドルフの教え子というのは皆こうなのだろうか?
なんとも言えない感情がわき上がる一幕だった。
「そういえば、もう1週間か。……”アークエンジェル”はどうなっているのやら」
『紅』いMSと『紅』い部隊と、『紅』茶の国からの使者。
今回、『オリジナルキャラクター募集』の中から『ウィリアム・B・オルデンドルフ』を採用いたしました。
「モントゴメリー」様からのリクエストです、感謝します!
彼とその弟子であるリーフの設定は後日書こうと思います。
それと今更ですが、ファンアートをいただいたので紹介をば。
https://img.syosetu.org/img/user/275847/78572.png
フローレンス・ブラックウェル(イメージ画)だそうです。
「Dixie to arms」様からいただきました!素晴らしいクオリティだ素晴らしい……。
次回は彼女が初っぱなから登場する予定です。
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。