3/29
衛星軌道上
「くそっ、こう数が多いと……!」
”ゲイツ”、”ジン”の混合部隊からの攻撃を捌きながらアイザックは舌打ちをする。
PS装甲頼みに突撃したが、戦闘も中盤にさしかかり、内蔵バッテリーのエネルギー量も減少しつつあった。
ガトリングも既に弾切れでビームライフルに持ち替えて応戦しているため、余計に消耗が加速しているのもアイザックの焦りの要因だ。
加えて、そろそろ別働隊の方も限界に近いだろう。
ここでいう別働隊とはカシンや”ヴァスコ・ダ・ガマ”、”アバークロンビー”らの足止めを担ったチームを指すのだが、あれは”バスター改”や艦艇による遠距離攻撃で敵を近づけないようにして時間稼ぎを行なっている。
戦闘開始から時間が経てば、弾幕をかいくぐって白兵戦を仕掛ける敵MSもあるだろう。
そうなればその敵の対処に動かねばならず、砲撃がおろそかになり、接近するMSの数も増えて……崩壊する。
そのような考えごとをしていたせいだろうか。ついに、アイザックを無視して”コロンブスⅡ”の方へ向かう”ゲイツ”を2機、通してしまう。
「っ、しまっ───!?」
とっさに追いすがろうとするが、それを他のMSに遮られてしまい、距離を開けられてしまう。
そうなれば、もはやアイザックに出来ることは無かった。
「くそっ、セシル!そっちで頼む!」
「任されましたよ、アイクさん……!」
通信が繋がっているわけではない。しかし、たしかにそう言った筈だという確信を持ってセシルは呟いた。
アイザックは現在、5機以上のMSに囲まれて孤軍奮闘中。であれば、その渦中から外れてこちらに向かってくる敵はセシルが倒さなければならない。
セシルは白兵戦が得意ではない。部隊内で1対1の模擬戦でもすれば確実にビリになるだろうし、今乗っている機体も基本戦術は狙撃。
それでありながら、2機の”ゲイツ”を相手取らなければならない。
「”ヒドゥンフレーム”のベール、少し脱ぐとしますかぁ!『アトラク=ナクア』起動!」
だが、今彼女が乗っているのは彼女のために改装された”アストレイ”だ。
狙撃だけの一芸屋ではないことを見せてやろうではないか。セシルは
<敵母艦に接近中、いけるぞ!>
<砲撃も飛んでこない、まさか使えないのか?好都合だな!>
2機の”ゲイツ”に乗るパイロット達は事前の打ち合わせ通りに分散し、2方向から”コロンブスⅡ”、そしてその甲板上に陣取った”ヒドゥンフレーム”との距離を詰めていく。
たしかに高精度の狙撃は厄介だが、1度に飛んでくる攻撃は1発だけ。加えて狙撃の厄介なところは意識外の方向から高速で弾丸が飛んでくる点にある。
位置はハッキリしている、直掩機もいないMSの狙撃ならば、2機で十分に対処可能だ。
<これでも喰らえ!>
ついに”ゲイツ”のレールガンの有効射程距離に捉えた。放たれた弾丸は”ヒドゥンフレーム”のガードコートによって防がれるものの、”ヒドゥンフレーム”の体勢は崩れる。
その隙にもう片方の”ゲイツ”が抜剣しながら接近に成功、絶好のチャンスが到来した。
<これでおわ……!?>
必墜の確信をした”ゲイツ”パイロット達だったが、突如とした斬りかかった方の”ゲイツ”の体勢が崩れたことで、疑問を抱かされる。
どこからか放たれた攻撃が背部スラスターに直撃したのだが、それを誰が為したのか?
”コロンブスⅡ”の対空機関砲?体勢が崩れた”ヒドゥンフレーム”を除けば唯一脅威となり得る存在を意識外に置くわけがない。
”デュエル”か”バスター”が援護に駆けつけた?それもない。”バスター”は依然として別働隊の足止めに徹しているし、”デュエル”も同じくMS隊によって足止めされている。
であれば、『それ』を為したのは必然、”ヒドゥンフレーム”に限られる。
試作有線遠隔操作式レーザー砲『アトラク=ナクア』。”ヒドゥンフレーム”の新型頭部に搭載された装備であり、空間認識能力に優れないパイロットでも使えるように開発されたオールレンジ攻撃用兵器である。
”メビウス・ゼロ”などに搭載される有線式オールレンジ攻撃兵装『ガンバレル』は火器とスラスターを内蔵し、それらを有線遠隔操作することで敵の予想外の位置から攻撃を加えることが出来るという強力な兵器だった。
しかし複数の子機を自在に操るには、自分の周囲の空間、そこに存在する物体の位置や自機との距離を正確に把握する『空間認識能力』に長けているパイロットの搭乗が不可欠。
故に実際にガンバレルを搭載した”メビウス・ゼロ”の生産数は少なく、技術発展の歴史に埋もれていく技術……だった。
「1つを極むることで強うなる、これはナイトのダイレクトな直感」
「決められた動きしか出来ないんですか、しかしそれで十分dしょう?」
「ハイスラァ!」(小型ビーム砲開発成功)
複数動かすのはかなりの負担?じゃけんまず1機動かすところから始めましょうねぇ。
多角的な動き?死角から攻撃させるだけなら複雑な操作などいらないな(確信)。
サイズ?小型ビーム砲にしてしまえば少なくとも弾倉を搭載する必要がなくなるね。
こうして様々な要素をそぎ落とし、しかしそれに変わる要素を継ぎ足していった結果生まれたのが『アトラク=ナクア』である。
使用したのが”ヒドゥンフレーム”、つまり優れた空間認識能力を持たないセシルであることからも分かる通り、この装備を使うのに特別な素養はいらない。
更に射出するのがスラスター・レーダー・火器など様々な機器を内蔵した兵装ユニットではなく、直径2m弱の円形小型ビーム砲なので敵から視認される可能性も低下しており、不意を打つという意味ではガンバレルよりも優れている部分がある。
勿論、弱点も相応にある。
インコム内のエネルギーが枯渇したら一度充電するために頭部へ格納し直さなければならないし、先述した通りガンバレルよりも複雑な動きをさせることは出来ない。
精々、敵を一瞬驚かせるだけにしかならない。
しかし、この場では問題にならなかった。
<あっ……>
その胴体に、”ヒドゥンフレーム”がライフルを発射するには、
コクピットを撃ち抜かれた”ゲイツ”は力なく漂い始め、やがて”コロンブスⅡ”のイーゲルシュテルンで穴だらけにされていった。
<き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!>
残された”ゲイツ”は、しかし離れては敵の利になると判断して直進し続ける。
実際、その考えは正しかった。既にタネの割れたインコムの脅威度は低下しており、2方向から射撃が来るということに気を付けていれば問題無い。
”ゲイツ”のパイロットは”ヒドゥンフレーム”が狙撃用の機体であり、接近戦に弱いと踏んだ。
しかし、その考えは
たしかに”ヒドゥンフレーム”はセシル・ノマ専用機としてカスタムされているし、彼女の適正に合わせて電子戦・狙撃戦に強く調整されている。
だが、”ヒドゥンフレーム”はそれ以上に『試作兵装実験機』としての面があるのだ。
セシルはすぐさまスナイパーライフルを手放し、バックステップして”ゲイツ”の斬撃を回避。
空いた両手で、両腰に付けられたホルスターから2丁の拳銃を取り出す。
「───『クトゥグア』、『イタクァ』!」
100mm口径自動拳銃『クトゥグア』、そして90mm口径回転式弾倉拳銃『イタクァ』。
”ヒドゥンフレーム”に装備された近・中距離用射撃兵装であり、『あるコンセプト』に基づいて開発された試作実弾兵器でもある。
これらの装備が開発された経緯には、『MSに装備可能なビーム兵器の普及』という、兵器開発者の誰しもが無視出来ない事実が関係している。
現状、ZAFTでビームライフルを装備するMSは”ズィージス”、”アイアース”などの試作機や高級機に限られているものの、そこまでこぎ着けているのであれば全量産機への普及は時間の問題だ。
そうなった時、ありとあらゆる勢力が研究するのは何か?
───
ビームは通常装甲の兵器では1発当たれば撃墜、PS装甲であっても大きなダメージは免れない強力な兵器だ。
連合・ZAFT共にその脅威については認識しているし、だからこそ対ビームコーティングのほどこされたシールドやラミネート装甲などの耐ビーム技術の研究が活発することは必然である。
『クトゥグア』と『イタクァ』は、その先を見据えた兵器だ。
耐ビームが普及するならば、次は
現在の戦局でMSのビーム兵器に対するもっとも効果的な防御手段は耐ビームコーティングシールド。
ならば、そのシールドを破壊するための装備を作ることにどれだけの効果が見込めるか?それを検証するために、これらの装備は作り出された。
つまりこの2丁の大型拳銃は、『対耐ビーム兵器』なのである。
<そんな、シールドが……!>
2丁の拳銃による射撃はシールドを破壊する……に留まらず、貫通してその先の”ゲイツ”にも巨大な弾痕を刻み込んでいく。
”ゲイツ”のパイロットが最後に見た光景は、シールドに開けられた穴の先から、ツインアイを鋭く光らせる”ヒドゥンフレーム”が拳銃を発射する姿であった。
”コロンブスⅡ”艦橋
「”ヴァスコ・ダ・ガマ”より信号弾確認、『これ以上の継戦は不可能と判断し、予定通り後退する』とのことです」
「限界か……」
オペレーターからの報告に顔を顰めるユージ。たった1機と2隻による足止め、その無茶な戦法に限界が訪れた瞬間だった。
ここまで保っただけでも想定以上の結果だ。ここからでは確認出来ないが、予定通りなら”アークエンジェル”も大気圏突入を開始している頃合いでもある。
なら、あとは自分達が撤退するだけ。
しかし、敵もここまで好き放題にやられてあっさりと返してくれる筈もない。少しでも背を向ければ一気に押し込んでくるだろうとユージは推測した。
なにかしらの切っ掛けが必要だ。
「とはいえ、いつも通りにやるだけか。───信号弾打ち上げ、緑を3に赤が4だ」
ユージが指示したのは、事前に取り決めていたある戦法を実行に移すという合図の打ち上げだった。
この戦法は以前にも使ったことのあるものだったが、命令する度にユージの胃はキリキリ痛む。
自分の無能を証明するようなものだからである。
「本当にやるつもりですか……?」
「カルロス君、よく見ておいて欲しい。俺達、いや俺はこういうことしかさせられないんだよ」
”ナスカ”級 ”キェルケゴール”艦橋
「敵艦よりコンテナの射出を確認……いえ、コンテナが分解しました!」
「なんだと?」
「コンテナの中身は、どうやらMS用のバズーカのようです。”デュエル”タイプに確保されました」
このタイミングで”デュエル”への補給が行なわれたことに”キェルケゴール”の艦長は疑問を覚えずにはいられなかった。
戦闘が始まってから相応二時間が掛かっている。であれば戦いっぱなしの”デュエル”に行なわれるべきは武装よりもエネルギーの補給であり、普通の指揮官ならば一時後退を命じるべき場面だ。
「ここでバズーカを補給する意味がどこに……まさか!」
男も3隻の”ナスカ”級を擁する戦隊の司令であるため、ユージの狙いを看破する。
もしも自分の予想が正しければ、次に敵艦が行なうのは───。
「敵艦、増速!」
「やはりきたか!全艦、”デュエル”に対して照準を定めよ!」
「”デュエル”にですか?」
「復唱せんか!目標、”デュエルガンダム”!」
鬼気迫る剣幕で指示を出す艦長の姿に気圧されながらも、艦橋クルー達は速やかに行動していく。
”デュエル”のエネルギーはおそらく、そう多くは残されていない。そんな状況でバズーカ、つまり対艦装備を補給するということは、必然やるべきことは限られる。
ようするに敵の司令官は、こちらの艦隊に穴を空けてそこから一気に戦域を離脱する腹づもりなのだ。
そして、それを為すのは”デュエル”。
「気狂いめ……我らとてそこまで無謀なことはさせんぞ」
この戦法には大きすぎる欠点がある。”デュエル”の働きが不十分であれば、戦隊に一挙に囲まれて袋だたきに遭うということだ。
消耗している”デュエル”を、よりにもよって敵戦隊の前面に押し出す?いくらなんでもやり過ぎだ。
半分パイロットに「死ね」と言っているようなものではないか。
「”デュエル”、こちらに向かってきます!」
3隻の”ナスカ”級の砲門が”デュエル”、その奥の”コロンブスⅡ”の方向へ向けられる。
いずれの”ナスカ”級も、”コロンブス”からの砲撃が再開したとしてもすぐさま散開出来るように配置した上でだ。
手こずらされたが、これで終わりだ。「砲撃開始」の一言が発せられようとしたその時のことである。
「敵艦よりミサイル、いや、これは……!?」
”コロンブスⅡ”から放たれた数発のミサイルが”デュエル”を追い越し、そして炸裂する。
すると、炸裂した箇所に煌めく何かが散布された。間違い無い、あれはアンチビーム爆雷の輝きだ。
こちらからのビームも遮られてしまう代わりに、敵からのビームを無効・軽減することの出来る防御兵器。これを”デュエル”の前に展開することで、突入をサポートするということか。
男はユージの狙いに気付くが、「無謀」という感想を覆すには至らない。
アンチビーム爆雷は特殊な粒子でビームを防ぐ、しかしビームを受け止める度に粒子は拡散して徐々に効果を失っていくという弱点も抱えている。
加えて、炸裂した地点からも戦隊からの距離は離れている。爆雷の効果圏外に出たところを一斉に砲撃すればいい。
男は構わず砲撃を命じようとして、
「敵艦より更にミサイル、同じくアンチビーム爆雷と思われます!」
「なんだと!?」
”コロンブスⅡ”から続けて放たれたアンチビーム爆雷が、1発目よりも更に戦隊に近づいた地点で炸裂する。
男はここで、ようやくユージの狙いに気付く。
要するに、順次アンチビーム爆雷の壁を”デュエル”の前に展開し続けることで、こちらから向けられるビームを無効化し続けようということだ。
時間が経てば効力が無くなるというなら、そのたびに補充してやればいい。
言葉にすればそれだけなのだが、それにはMSと母艦の息がピッタリ合い、最適なタイミングで”デュエル”の前に爆雷を撃ち続ける必要がある。
”デュエル”も母艦からの援護を信じて、命を託して進み続けなければならない。
「ぬっ、く……
艦体側面のVLSから迎撃用の小型ミサイルが飛んでいくが、”デュエル”は頭部バルカン砲で迎撃もしくは身体で受け止めることでその弾幕をくぐり抜ける。
なんという反射速度、集中力、そして胆力。
───イカレている。
「”デュエル”、接近!」
そして、モニターにではなく、強化ガラスを隔ててすぐそこの宇宙空間に。
”デュエル”は、『ガンダム』はたどり着く。
(これが、エースか……!)
直後、炸裂弾が艦橋に飛び込み、そこにいた人間達を吹き飛ばしていった。
その有様は皮肉にも、大戦初期の連合軍とZAFTとの位置を逆転させたようだった。
”コロンブスⅡ”艦橋
「最大船速、ただちに現宙域を離脱する!」
『了解!』
ユージの号令によって、船体に大きく加速Gが掛かる。
モニターにはアイザックが1隻の”ナスカ”級を潰し、迎撃のために近づいていた”ジン・ブースター”を
アイザックは”マウス隊”の中ではエドワードに次いで切り込み役として優れた能力を持っている。そのことを理解していたユージは、この戦闘における切り札としてこの作戦を立案していたのだが、やはり渋い顔をせざるを得なかった。
先のアンチビーム爆雷の連射において、数発アイザックの機動とタイミングがずれていたものがいくつかあったのだ。
アイザックが適宜フォローしていたとはいえ、やはり人員交代の影響は無視出来ない。エリク達ならば狂い無く為せた筈だ。
しかし、ユージは頭を振ってその考えを追い出す。
そもそも、こんな戦法しかさせられない自分にこそ責任がある。ユージはそう考える。
「MS隊、着艦しました」
「よし。これよりポイント
徐々に遠ざかる敵部隊を確認し、肩を回すユージ。
更に息を大きく吐いたユージは、艦長席で怪訝そうな顔をするカルロスに顔を向ける。
「で、どう思った?」
「どう、と言われましても……率直な意見を申し上げるなら、『絶対に学校や大学では教えられないだろうな』、でしょうか」
「だろうな。俺もこんなもの教える教官がいたら、そいつの授業は片肘付いて受けてるよ」
エースの力量頼みで強行突破?
アンチビーム爆雷を順次発射して壁を張り続ける?
少しでも狂いがあれば失敗するようなものは作戦とは呼ばない。というか、カルロスは呼びたくない。
そういう一極賭けは、もはやそれ以外にどうしようもない状態になってこそ行なわれるべきものの筈だ。
「しかし、私はこういうやり方しか出来なくなってしまったのさ。エースの戦い方はそれなりに知っているが、真っ当な部隊の指揮では感覚が違って苦戦するだろう。今までは、精々2隻を指揮するだけで済んだからそれでもよかったのだがな」
これからは3隻、しかも一定以上の戦闘力を持つ艦隊を指揮しなければならない。
そうなれば、これまで通りの指揮のやり方では足りなくなってしまう。ユージはそのことをよく理解していた。
「今から覚えようとしても、精々付け焼き刃にしかならん」
「……」
カルロスはじっと続きの言葉を待っている。
きっと彼は、ユージ・ムラマツは大事なことを言おうとしている。
「君は艦隊の指揮という点では私よりもずっと上と見込んでいる。丸投げとは言わないが……アテにしてるよ」
「……なるほど、よく分かりましたよ隊長」
「?」
「貴方は、人をおだてるのが得意のようだ。───そんな言い方をされたら、やる気になってしまうでしょう」
戦場で戦う兵士にとって、欲しいものは究極的に2つへ絞り込むことが出来る。
1つは、欲しい物を欲しいタイミングで渡してくれる兵站。
そして2つ目は物わかりの良い上官だ。
その点、”マウス隊”は1つ目はどうか知らないが2つ目はクリアしていると言えるだろう。カルロスはそう直感した。
「”コロンブスⅡ”、”ヴァスコ・ダ・ガマ”、”アバークロンビー”。これら3隻の指揮、やりきってみせましょう」
「そうしてくれ。……さて、と」
ユージは戦闘態勢が解除された艦橋の窓に近づき、ある方向を見る。
そちらでは、”アークエンジェル”が大気圏突入を行なっている筈だった。
おそらく、あの艦にはこれからも様々な禍戦が待っていることだろう。『原作』よりも戦力が増えてるといっても、それは敵も同じだ。
だが、きっとあの艦の行き着く先には希望があるのだ。今は、そう信じる以外に出来なかった。
ユージは姿も見えない白亜の大天使、そして少年達に向けて敬礼する。
どうかその道行きに、僅かでも光がありますように。
”ゴンドワナ”艦長室
質実剛健と絢爛豪華、ちょうどその中間に当たるような雰囲気の広々とした空間。そこには2人の人間がいた。
直立不動、しかし冷や汗を流すグレッグ・ロバーツ。
そして執務机に両肘を付き、顔の前で手を組むクロエ・スプレイグの2人である。
ちなみにこの執務机はクロエの体格に合わせた特注品であり、子供が無理して大人の机を使っているようには見えないように作られていたりする。
おかげで、グレッグはクロエからの重圧を違和感なく受け止めることが出来るのだった。
「今回の敗戦、貴官は何が原因だと考える?」
「……本官の指揮能力の不足にあると考えます」
「ほう、その結論に至ったのは何故かな?後ろでちょこんと座るだけだった私にもよく分かるように教えてくれ」
組まれた手で隠されたその顔がどのような表情を浮かべているか窺い知る事も出来ないグレッグだったが、間違い無く言えることがある。
……
「まず、敵部隊の攻撃可能距離を誤った認識で以て戦闘に臨んだことが挙げられます。陽電子砲への対応は出来ても、敵MSが並んで砲撃戦を仕掛けてくること、そして陣形の崩れたMS隊に白兵戦用MSが切り込んでくることへの対処に遅れました」
「ふむ、つまり?」
「終始、敵のペースでした。私の落ち度は敵に対して有効な切り返しが出来なかったこと、そこに集約するかと思われます」
「たしかに、君の指揮能力は優秀だったが突発的な事態に弱いという弱点があったなぁ。自分で付けた総評だというのに忘れていたよ」
じっと次の言葉を待つグレッグ。
しかし、クロエが発した言葉に目を見開く。
「ならば、やはり今回の敗戦は私の不手際だ」
「そのようなことはありません!司令の采配は十全でした、我々が至らないばかりに……」
「かつて私は、師と呼んだ人間からこう言われたことがある。『前線で戦う兵士が求めるのは、欲しいものを欲しい時に手に入る兵站と物わかりの良い上官』だとな」
クロエは組んでいた手をほどき、グレッグの目を見つめる。
そこにはグレッグを責めるような意図は感じられず、代わりに自省の感情だけが感じられた。
クロエ・スプレイグという女性は誰かに責任を求めるよりも先に自らの責任をきちんと見つめる人間だった。
彼女が怒りを覚えているのはまず自分自身、次いで部下を満足に戦わせることの出来ない現状だった。
「お前に”アテナイ”が渡せていれば、先手をみすみす打たせることも無かった。敵MSの砲撃にも、同等の射程距離を保つ銃や防ぐことの出来る防御装備があれば無理なく距離を詰められただろうな。言いたいことが分かるか?」
「……」
「それを用意出来なかった我々全体の負けということだ。だから、貴様だけの責任ではない。とはいえ敗北は敗北だ。どちらにせよお前の艦はしばらく修理中で使えん、であれば謹慎が妥当なところか」
処分は追って伝える。クロエはそう言うと、椅子を回転させて背を向けてしまう。
グレッグは黙って敬礼し、部屋から退出していった。
「……足りない」
ぼそりと、クロエは呟いた。
連合宇宙軍の戦力に対する認識も、装備も、何もかもが足りていない。
元々、ここまでこじれる筈では無かった。『オペレーション・ウロボロス』で地球からエネルギーを奪い、それで和平交渉の席に着かせるというのが初期の戦略構想だった。
しかし連合が徹底抗戦を示し、地球に直接足を下ろさなければいけなくなったところからおかしくなった。
限られた人的資源、伸び続ける戦線、敵MSの実戦投入……。
逆転の一手はいくつか用意されていると聞いているが、ハッキリ言ってクロエは
しかし、もはやそれくらいしか逆転の策が思いつかないのも事実。
「……仕方ない、か」
せめてあと2ヶ月は保たせてみせよう。その決意を固めつつクロエは椅子から降り、通信室へ足を運ぶ。
”アテナイ”級の更なる増産要請と、『クロエ』の待ち望む
「開発コード『ウラノス』……か。ようやくうなずいてくれたのは有り難いが、私は戦前からこれを求めていた筈だぞ、パトリック隊長」
次回、第77話『紅の集結』。
マウス隊回です。アークエンジェル隊回は少々お待ちください。
以下、オリジナルユニットのステータスになります。
長いので興味の無い方は飛ばしても大丈夫です。
デュエルガンダム改
移動:8
索敵:C
限界:180%
耐久:300
運動:42
シールド装備
PS装甲
武装
ビームライフル:130 命中 70
ゲイボルク:160 命中 55 間接攻撃可能(ビームライフルと選択式)
ガトリングガン:140 命中 60
バルカン:30 命中 50
ビームサーベル:160 命中 75
アストレイ ヒドゥンフレーム
移動:7
索敵:A
限界:190%
耐久:200
運動:47
ガードコート装備(オールレンジ攻撃を除く全ダメージを半減)
武装
ビームスナイパーライフル:180 命中 85 間接攻撃可能
インコム:100 命中 70 間接攻撃可能
ハンドガン×2:200 命中 50
ビームサーベル:150 命中 75
○裏設定として、ヒドゥンフレームの各種装備の名付け親はブローム(ブロントさん)となっている。
この他にも腕部と脚部に近接戦用装備を取り付けようとしたがユージが「詰め込みすぎだ馬鹿!」と却下したことにより断念。
……サンプルとして素体のまま保管されているグリーンフレームに目を付けているとかいないとか。
コーネリアス改(コロンブスⅡ)
移動:7
索敵:B
限界:160%
耐久:450
運動:10
ラミネート装甲
アンチビーム爆雷
武装
主砲:180 命中 60
機関砲:50 命中 40
カルロス・デヨー(Bランク)
指揮 10 魅力 9
射撃 10 格闘 0
耐久 10 反応 7
得意分野 ・指揮 ・射撃
不得意分野 ・格闘
以上です。
今回も閲覧していただき、ありがとうございました!
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。