どうしてくれる。(どうもしねぇよ)
3/29
“アークエンジェル”艦橋
「敵艦隊、近づく!」
「MS隊は直ちに発進準備、お願いします!」
「やはり、見逃してはくれんか」
モニターに映る3隻の”ナスカ”級を捉え、ミヤムラは呟く。
ハナからすんなりと事を運ばせてはくれないだろうと思っていたが、まさか初戦から戦力比1:3の戦いを強いられることになるとは。
「総員、第一戦闘配備!」
自分の隣、艦長席で命令を飛ばすマリューの姿を横目で見やる。
既に何度か戦闘を経験しているとはいえ、”アークエンジェル”は正式な作戦行動はこれが初めてだ。緊張の1つもするものだろう。
加えて、この戦闘をくぐり抜けた先、大気圏突入こそが本番ということも大きい。
「ラミアス艦長。肩の力を抜け……と言われて抜けるようなものではないのだろうな」
「ミヤムラ大佐……そう、ですね。何もかもが初めての試みだらけですので」
マリューはおずおずと返答する。
この状況で緊張せずにいられると断言出来るほど、彼女の肝は太くなかった。
そもそも忘れがちだが、彼女は本来技術者である。人手不足かつ『G』の運用に最も長けた”アークエンジェル”級に対する理解が深い、そのために艦長職となってしまったが。
つまり、後方こそが彼女の本来の戦場なのだ。
それでも今艦長席に座っているのは、奇特な運命のイタズラによるものである。
「はっはっは、私もだよ。この歳になって新型艦に乗り込んで、そこの部隊の隊長をやれなどと言われる。まったく、奇妙な人生だ」
「はぁ……」
「だが、だがな艦長。確実に言えるのは、何もかもを背負う必要は無いということだ。───思うように指揮をしてごらんなさい。責任を負うために私がいるのだからね」
「ミヤムラ大佐……分かりました」
これでいい。ミヤムラはうなずき、MS隊へ指示をするために通信機を手に取った。
自分はあまり出しゃばるべきではない。それは、若芽を潰すということに他ならない。
マリューは先ほどまでの不安さが嘘のように……とはいかないが、マシな顔つきで思案している。
(ラミアス艦長、君がどう戦うのかを見せてもらうとするよ)
少しの時間考えた後、マリューは顔を上げて声を発する。
「───ローエングリンを起動して。それとワンドチームには全機ランチャーストライカーを」
なるほど、そう行くか。
ミヤムラは通信機を起動した。
<よし、今回の作戦をまとめるぞ>
久しぶりに座る”ストライク”の操縦席は、なんだか妙にしっくり来る気がする。ムウの声を聞きながらキラはそう思った。
正確には“ストライク”には昨日の時点で調整のために乗り込んでいるのだが、シチュエーションの違いだろう。
そう、自分はこれから。
───戦いに出るのだ。
キラは気を引き締め、話に耳を傾ける。
<まず、”アークエンジェル”がローエングリンを発射して敵部隊を牽制する。当たれば御の字だが、敵もバカ正直に喰らってくれるほど甘くはないからな。
次はランチャーストライカーを装備したワンドチーム全機で砲撃支援を開始、発進してきた敵MS隊を攪乱する
最後はソードチームによる切り込みだ。シンプルだがもっとも堅実な作戦と言えるだろう。
目標は敵艦1隻の撃破だが、これはあくまで暫定的なものだ。最終的に”アークエンジェル”が降下さえ出来ればその時点で俺達の勝ちなんだからな>
<大気圏突入かぁ……ほんとに出来るんですかね?>
<そんなの俺だって知らん。だが、ラミアス艦長始めスタッフやエンジニアの皆様が出来るっていうなら信じるしかないんだよ>
マイケルの言葉を切って捨てるムウ。だが、この艦に乗り込む大半の人間が思っていたことでもある。
そう、”アークエンジェル”には大気圏突入能力が備わっているのだが、それを実際に為したわけではない。
全て、理論上の話なのだ。
<結構ビビリよねぇ、マイケルって>
<なんだとぉ!?>
<喧嘩を始めないでください、作戦前ですよ>
<<だってこいつが!>>
いつもの軽い口喧嘩も、よく聞けば全員声が震えている。
『ヘリオポリス』”以来、この艦は呪われているのではないかと思うほどに困難に見舞われている。
───上等だ。
このくらいの困難、乗り越えて見せなければ戦う目的がどうだのと
「『時には開き直ることも大切だ』、教官に教えられました。きっと、なんとかなりますよ。今は出来ることをしましょう」
<ま、概ねヤマト少尉の言うとおりだ。───なるようにならぁな>
キラの言葉をきっかけとして、隊員達の顔つきも若干だがほぐれる。
再会した時に一皮むけたとは思っていたが、まさか「最年少の自分が張り切る姿を見せることで、年上に奮起を促すことが出来る」ということまで考慮に入れていたのだろうか?
本当に多芸、否、多才な奴だ。その本音を漏らさずにムウはキラに同意する。
<こちらCIC、以後の作戦行動中はカップ0と呼称します。これより通信士として皆さんをサポートします、リサ・ハミルトン少尉です。改めてよろしくお願いします>
モニターにアジア系の女性の顔が映る。
CICからの通信が来たということは、もうじき始まるということか。
<ローエングリンへのエネルギー充填が完了しました。MS隊は直ちに発進し、砲雷撃戦に備えてください。健闘をお祈りします>
<ワンド1、了解。───いくぞ、お前ら!>
『了解!』
ムウの乗る”ダガー”が発進ゲートまで運ばれていくのを眺めていると、新たに通信回線が開かれる。
先ほどまでの全体での回線ではなく、1対1での通信だ。
モニターに映るのは、先ほどまでの会話に参加しなかったスノウ。
「何か用ですか、バアル少尉」
<……分かっているな、コーディネイター。この作戦の成否は私達、ソードチームの切り込みが成功するかに掛かっていると>
「……はい」
雰囲気は刺々しいものの、会話の内容自体は至極マトモだ。スノウなりに作戦を成功に導こうという気概はあるらしい。
<知っているだろうが私の機体は装甲が薄い、そこで……>
「僕が前衛、壁を務めればいいんですよね」
<……そうだ>
「分かりました。発進後に”ストライク”のバックに付いてきてください」
キラがそう言うと、スノウは意外そうな顔をする。
何かおかしなことでも言っただろうか?
「どうしました?」
<……なんでもない。もう一度言っておくが>
「妙なことをすれば……ですよね。大丈夫、分かってますよ。それと、僕からも一言いいですか」
<なんだ>
胡乱げに言葉を返すスノウに苦笑するキラ。
変に勘ぐるのはやめて欲しい。本当に、些細なことなのだから。
「僕の名前はコーディネイターじゃなくて、キラ・ヤマトですよ。お先に行きます」
<……>
僅かに目を開くスノウの姿を尻目に、発進シークエンスに移るキラ。
以前は、この過程がたまらなく嫌だった。
友達を守る為とはいえ、やりたくもない殺し合いなどさせられるのだから、それは当然だ。
今だって、戦うのは嫌だ。今度こそ誰か死んでしまうかもしれないし、ともすればその誰かが自分になってしまうかもしれないのだから。
だが、それでも進み続けると決めたのは自分だ。
エールストライカーが”ストライク”の背部コネクタに接続されたのを確認し、軽くスロットルを動かしてスラスターの調子を確認する。……問題無し。
<進路クリア、”ストライク”発進どうぞ>
今までは、誰かの都合に振り回されて戦ってきた。
だからこれは、ある意味では初陣だ。
───自分の意思で戦うと決めてから、初めての戦いだ。
さあ、高らかに宣言しよう。これからの道を歩いていくために。
「ソード1、『ガンダム』行きます!」
まったく気に入らない。
何が『自分の名前はコーディネイターではない』だ。
そんなこと、知っている。知って、その上で『コーディネイター』と呼んでいるのはあの男も理解しているだろうに。
「……ふん」
良いだろう。
お前が『違う』というなら見せてみろ。そうすれば……まあ、『敵候補』から『使える弾よけ』くらいには扱いを変えてやってもいい。
スノウは一度目を閉じて深呼吸をし、そしてカッと開く。
思考のスイッチを切り替えるためのルーティーンだ。以前より頻発していた『味方相手の暴走』にはスノウ自身も悩まされており、ユージ始め何人かの”マウス隊”メンバーに相談したことで、この行為を習慣付けることに成功した。
これで、
さあ、自分の機体もカタパルトに接続された。あとは、出るだけだ。
<進路クリア、”デュエルダガー・カスタム”、発進どうぞ>
そういえば気に入らない理由はもう一つあった。
『今は出来ることをするしかない』、その一言に共感してしまったことだ。
ともあれ、今自分がするべきことは1つ。
───斬って、斬って、斬り尽くす。それだけだ。
「ソード2、出るぞ!」
「クソっ、なんて日だ!」
クライド・フォッシルはいつものように悪態を吐いた。
彼は自分が呪われていると確信していた。するしかない。
月面基地への攻撃作戦も無事に終わり、しばらくは連合も大きな動きは出来ないだろうと上官に聞かされたのがつい3日前。
普通に行動起こしてるじゃないか、連合軍!おまけに敵は、あの『足つき』こと”アークエンジェル”!?
そして何より彼にこの日を厄日だと確信せしめたのは、そんな艦に対して攻撃を行なう栄誉ある(笑)部隊の中に彼も含まれていたことだ。
<ど、どうするクライド!?これじゃ、とても白兵戦なんて!>
「回避しながら接近するしか無い、ていうか反則だ反則!
なんでMSがポンポンと艦砲クラスの砲撃を行なえるってんだよ!?」
彼と彼の所属するMS隊の面々を苦戦させているのは、敵艦、正確にはその周囲に展開するMS隊からの砲撃だ。
本国から回されてきた情報によると、あの『アグニ』とかいう大砲は連合軍が主力としている”ダガー”の砲撃戦用装備の1つであり、コロニーを内側から外郭まで貫通してしまうほどの火力を秘めているらしい。
いくらこちらが耐ビームシールドを備えているとはいえ、うっかり受け損なってしまえばあっという間に蒸発してしまうだろう。
たった1隻の戦艦を落とすだけなんて楽勝、こっちは3倍の数がいるんだ。そんなことを言っていた奴もいたがその兵士の機体はついさっき反応が無くなった。
悲しいには悲しいが、残念ながら態度に出す余裕は無い。
<火が!かあさ……>
今もまた、1機の”ジン・ブースター”が撃墜された。
アカデミーでの訓練課程を終えて間もない新人だったと記憶している。
クライドは会って間もないが、陽気で家族思いの良い奴だということは分かっていた。
そういう奴に限って早々に死んでいく。クライドはこの世の無情と、「明日は我が身」という表現がピッタリな現状を呪った。
「この戦いが終わったら、俺、退役するんだ!」
<あ、当たった!>
「いよぉし、これで3機!だがまだ戦力比は2:5だ、油断するなよ!」
<<了解!>>
部下達に指示を飛ばしながらもムウの手は休むことなくトリガーを引く。
せっかく敵が手を出せない距離にいるのだ、今のうちに吐き出す物は吐き出しておかねば損というものだろう。
モニターには前方に向かって次々と放たれていく火線と、それらに一方的に襲われる敵MS隊の姿が映っている。
哀れと感じつつも、ここで手を緩めては逆にこちらが数の差で一方的に嬲られるだけだということをムウは理解していた。
「撃て撃て、撃ちまくれ!その分切り込みやすくなる!」
そこでムウは、微かな異変に気付いた。
本当に僅かであるが、先ほど敵MSを撃ち抜いたベントの動きが鈍っているように感じられたのだ。
「どうしたベント、もっと撃て!」
<えっ、あっ、了解です……>
通信越しに聞こえるその声からは、明らかに覇気が抜けていた。
そういえば、とムウは思い返す。
彼、そしてマイケルとヒルデガルダの2人は先の『ヘリオポリス』からの道程で戦闘を経験しているものの、たしか確認撃破は1つも無かった。
あの戦闘はかなりの混戦状態だったので、もしかしたら流れ弾の1つや2つは当たっているやもしれないが、彼はこれが初めて。
───初めて、人を殺したと実感したのだ。
「ベント、色々と
<……はい>
さて、自分が初めて敵を殺した時はどうだっただろうか?
ショックは受けたが、たしかそこまで尾を引いたというのは記憶に無い。
───そんなことを引きずる余裕が無かっただけかもしれない。
「っと、あいつらにああ言った俺がこんなんじゃカッコつかんだろ」
今、彼らのトップに立っているのは自分だ。1番歳を取っているのも自分だ。
指揮官が迷う素振りを見せれば、部下は不安になる。
「カッコつけるのも、仕事の内か。───そろそろ頃合いか。ワンド2、3は一度艦内へ戻れ。頼むぞソード1、ソード2!」
「了解、ソード1突貫します!」
<ソード2、了解>
キラはペダルを踏み込み、”ストライク”を加速させる。
ムウ達の砲撃によって敵MS隊は陣形を乱され、その防御網に穴が生まれている。切り込むなら今だ。
久しぶりに乗る“ストライク”は”テスター”よりも断然反応が良い。
「これなら!」
攻撃の勢いが弱いところを見つけ、そこに”ストライク”を突っ込ませる。
あっという間に眼前に迫る”ゲイツ”。パイロットは突如現れた”ストライク”に驚いたのか、わずかに動きが硬直する。
<こ、こいつ”ストライク”───!?>
「少尉!」
<分かっている!>
”ストライク”は勢いを殺さずに”ゲイツ”とすれ違い、代わりに”ストライク”の後ろから現れた機体が”ゲイツ”を両断する。
スノウが駆る”デュエルダガー・カスタム”は彼女の適正に合わせて改造が施された、高機動タイプの機体だ。
”第31独立遊撃部隊”で『ソード』のコールサインが与えられたのは2人にはそれぞれ異なるデータを収集する任務がある。
例えばキラことソード1には「地上戦用試作ストライカーの試験」が目的とされている。
それに対しソード2、スノウの役割は「標準的なMSを特定の個人の長所に応じた改装をすることの意義」の検証。つまり、
これは元々スノウと”デュエルダガー”の戦闘データを分析していた”マウス隊”技術陣が「スノウは盾を余り使わない」ということに気付き、
「どうせ使わない盾なら取っ払って、代わりに機動性を増したらいいんでねぇの?」
という意見が生まれた結果行なわれた改装である。
何故かすんなりと
といっても行なわれたのは機体各所にスラスターを増やすことの他には僅かに装甲を薄くした程度(それもコクピットなどの
しかし元の”デュエルダガー”自体が高性能MSでもあったこと、そして何よりスノウ・バアルが高い操縦能力を持つため、十分な強化と言えるだろう。
<なんだこいつ、速───>
<遅いな、コーディネイター!>
”デュエルダガー・カスタム”は素早く敵のレールガン射撃を躱しながら接近し、両手に持ったビームダガーでX字状に2機目の”ゲイツ”を切り捨てる。
爆散する”ゲイツ”から飛び退きつつビームダガーを腰の定位置に戻し、代わりに後腰部のマシンピストルを構えて弾丸をばらまく”デュエルダガー・カスタム”。
この機体は機体本体に加えて武装面でも接近戦用に変更されており、主兵装に2丁のマシンピストルと、刀身の長さを変えられるようになったビームサーベル兼ダガーを持っている。
より攻撃的になった”デュエルダガー・カスタム”、しかしそれに気を取られる余裕などZAFT側に許される筈もなかった。
<ちくしょう、なんで当たらない!?>
<PS装甲だ、まずはPS装甲をどうにか>
<そんな余裕があるか!>
”デュエルダガー・カスタム”が安全に得意の距離に持ち込めるように壁となったキラと”ストライク”だが、こちらもエールストライカーを装備したことによる高機動性を活かして“ゲイツ”や”ジン”に対して射撃を加えていた。
ZAFT側も”ストライク”がPS装甲ということを知っているのでレーザー重斬刀による近接戦に持ち込もうとするが、”ストライク”に意識を向けた一瞬の隙をスノウは見逃さず、死角から接近されて切り裂かれる。
「───今!」
そして、ついに”ストライク”の照準が1機の”ゲイツ”の胴体を捉える。
あとは引き金を引くだけで。
『俺が、皆を守るんだ!』
一瞬だけ、トリガーを引く指から力が抜ける。
かつて、何も覚悟が出来ていなかった頃の記憶。自分を、そして友の命を守る為と”強行偵察型ジン”を撃った時の記憶がよぎった。
(───ごめん!)
躊躇ったのは、僅か0.1秒。
引き金は引かれ、モニターの中で”ゲイツ”が爆散する。
申し訳ないという気持ちも、人を殺した罪悪感もある。
だが、命を踏みにじることを選んだのは自分だ。……踏みにじってでも、手に入れたい未来があるからと選んだのだ。
キラは迷わない。そんな気持ちでいてもいい場所ではないと知っているから。
「まずは1つ!」
”ストライク”は新たな敵に照準を向けてライフルを放つ。
少年は、大人の階段を昇り始めていた。
”ナスカ”級駆逐艦 ”ムーア”艦橋
「MS隊の被害拡大!艦長、これでは……!」
「分かっている!ええい……」
”ムーア”の艦長であり、”第4遊撃艦隊”の指揮官を務めるグレッグ・ロバーツはオペレーターの悲鳴に顔を顰めながら怒声を返す。
不快にもなる。なにせ、最初からここまで常に敵にペースを握られっぱなしなのだから。
敵のやっていることは『常にこちらの有効射程外から先制攻撃を加える』という、ただそれだけだ。
こちらの艦砲の射程距離に入る前に陽電子砲、MS隊の有効射程外から砲撃戦装備のMSで攻撃、そして今度は砲撃に目が眩んだMS隊に白兵戦用MSを切り込ませる。
敵はたしかに数は少ないが、その場その場での最適な行動を選択している。良い指揮官がいる証拠だ。
「仕方あるまい、MS隊を後退させろ!」
「し、しかしそれでは」
「艦砲射撃で押しつぶす!奴らは1隻こちらは3隻、そこは変わっていない!」
「了解!」
敵部隊がペースを握り続けるというなら、一度状況をリセットしてしまえば良い。
(MS隊が後退して射線が空けば、存分に数の暴力を味わわせてやる!)
そうしてから改めてMS隊を前進させてやれば、後はなるようになるだろう。
未だに数ではこちらが上なのだ。
しかし、グレッグは1つだけ思考の範疇から外しているものがあった。───敵もまた、ペースを握られてしまったら不利であり、そうはさせまいと理解して動くということだ。
「敵艦、増速!本艦に向かってきます!」
「なにっ!?」
モニターに映る敵艦は、たしかに、徐々にこちらに近づいているように見える。
何をするつもりかは、明白だった。
「次は艦艇による
ようは、ラミネート装甲の防御力頼みに接近しようというわけだ。以前の『エンジェルラッシュ会戦』ではそういう戦法を採ったと聞いている。
本来ならMS隊が敵艦の動きを止めてそこを砲撃で仕留める予定だったが、今MS隊は後退させている。『足つき』の突撃を止める手段は、無いも同然だった。
この時ばかりは機動力に優れた”ナスカ”級よりも”ローラシア”級の方が欲しくなる。あちらの方が実弾火器が多いからだ。
別に”ナスカ”級が悪いという意味ではない。ようは適正の問題だ。
「敵艦、更に加速!これは……」
『足つき』は突如として下方向に舵を切り、こちらの射線上から逃れる。
あれは移動性能が優れているのか、それとも優秀な操舵士がいるのか。どちらにせよ、敵艦はこちらに狙われている窮地を脱したというわけだ。
それだけではない。
構造上”ナスカ”級の真下を狙える武装はビーム兵器の主砲と数基の
対する『足つき』には、真上を狙える砲が備わっている。
「いかん!回避運動───」
「ダメです、間に合いません!」
『足つき』は”ナスカ”級と同等の速度で接近し、ついには”ムーア”の真下を取る。
次いで訪れる2つの衝撃。ここにきてグレッグは、敗北を悟った。
「両舷に被弾、推進システムに異常発生、エンジン出力低下!艦長……!」
「これ以上の戦闘は不可能か……撤退する、信号弾撃て!」
痛打を与えていった『足つき』は、速やかに距離を離していく。惚れ惚れする程の1撃離脱戦法だ。
こうなってはもはや”ムーア”は足を引っ張るだけで、ここに留まる意味は無い。
グレッグはこれ以上の被害拡大を避けるために撤退を指示する。
敵の狙いは未だ不明だが、たった1隻の艦相手にこれだけの被害を強いられることになるとは想像も出来なかった。グレッグは己の未熟を悔いるが、それも生き残らなければ意味は無い。
しかし、ここで驚くべき事態が発生する。
「待ってください、これは……」
「これ以上の戦闘は不毛だ、続けるならたとえ1隻でも奴は我々を食い破ろうとしてくるぞ」
「違います!”ゲルブ”が突出、『足つき』に向かっているんです!」
「なんだと!?」
オペレーターからの報告に驚愕するグレッグ。たしかに、モニターに映る僚艦は増速を掛けているようだ。何機かのMSもそれに続いている。
すぐさま通信回線を開いて”ゲルブ”艦長に怒声を叩きつける。
「なんのつもりだ、撤退と言ったはずだぞ!」
<ロバーツ隊長、今ここで奴を見逃せばもっと多くの被害が出る!そんな確信があるんだ!
───”ゲルブ”はこれより、特攻を掛ける!申し訳ないが、脱出させた若いのを頼む!>
「脱出艇確認!艦長……」
「バカ戻れ、そんなことが許されると思っているのか!これ以上被害を拡大させることはないんだ!おい!」
「通信、切断されました……」
「ああクソ、ロマンチズムに酔うんじゃない!───”パリボク”に連絡、脱出艇の回収をさせろ!」
今の”ムーア”では”ゲルブ”からの脱出者救助も満足に行えないため、残ったもう1隻の僚艦に救助を命じる。
”ゲルブ”は艦長含め『血のバレンタイン』で家族、特に子供を失ったことをきっかけに入隊してきた中高年の兵士が多い。
なるほど、子供達を失った恨みやら圧倒的な『足つき』への恐怖が相乗して特攻など掛けるわけか。随分と見上げた覚悟だ。
(───とでも言うと思ったか!ふざけるな、こんな戦いで”ナスカ”級1隻無駄にする必要があるわけないだろ!)
こんなの何て
(『男やもめ達が愛国精神発揮して特攻かましました』……ダメだ、クロエ教官が何言ってくるか予想も出来ん!
良くて部隊を統制出来なかったことへの厳罰とバッジ剥奪、艦長権限剥奪すらあり得る!)
グレッグはクロエがZAFT黎明期に教官役として活動していたころの教え子の1人であり、その優秀さは30歳という若さで戦隊司令を務めていることからも明らかだ。
だからこそ一見子供のように見えるクロエの実力は十分に理解しているし、怒ればどれだけ恐ろしいかということも理解している。
グレッグは鮮やかな青髪───遺伝子調整による生まれつき───をガシガシと掻く。正直、良い手がまったく思い浮かばなかった。
「なるようになれ、だ。───予定変更無し、撤退するぞ」
結局、グレッグは厳罰覚悟で”ゲルブ”を見捨てることにした。下手に付き合って更なる大惨事を引き起こす必要も無い。
それに。
(怒られるのが怖くて戦隊司令など出来るか)
新生アークエンジェル隊の初陣でした。
もうちっとだけ続くんじゃ。(大気圏降下作戦)
”デュエルダガー・カスタム”とスノウのステータスです。
デュエルダガー・カスタム
移動:8
索敵:C
限界:170%(スノウ搭乗時220%)
耐久:200
運動:45
武装
マシンピストル:140 命中 60
バルカン:30 命中 50
ビームダガー:165 命中 75
スノウ・バアル(Cランク)
指揮 3 魅力 7
射撃 11(+4) 格闘 12
耐久 2 反応 12(+4)
ブーステッドマン
以上、強化されたデュエルダガーと1ランク上がったスノウのステータスです。
デュエルダガー・カスタムのイメージは宇宙世紀の「ジム・ライトアーマー」と「ピクシー」を足して2で割ったような感じです。
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けてります。