機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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ねぇよそんなもん。


第72話「ドキッ☆美少女だらけのアークエンジェル隊【ポロリもあるかも?】」

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”アークエンジェル” 医務室

 

「ンー!ンンッ、ンー!」

 

「大人しくなさい、貴方もMSパイロットでしょう」

 

医務室。病気であったり、怪我であったりを治す場所。

そこは人から苦しみを取り除く為の場所であり、人に『憩い』を与える……はずだった。

しかし、今この部屋にある物はというと。

───ベッドに縛り付けられて猿轡(さるぐつわ)を噛ませられたキラ・ヤマトと、その傍らに立って注射器を構える白衣を着た女性。

こんなもんから『憩い』が得られてたまるか。

キラ・ヤマトはベッドの上で体をよじらせながら、妄想で天に向かって唾を吐いた。

 

「大丈夫、安心なさい。───痛みは一瞬です」

 

「ン” ン” ン” ン”ーーーーーッ!!!?」

 

さて、自分(キラ・ヤマト)は今年に入ってから何回、「何故こんなことに」と唱えただろうか?

 

 

 

 

 

場面は数刻前まで遡る。

キラは正式に自分のMSとなった”ストライク”をチェックするため、”アークエンジェル”の格納庫に赴いた。

既に艦は『セフィロト』を出港し、地球に向かって進行していた。なにせ作戦の決行は明日の午前10時、実は時間に余裕は無い。

 

「わっ、増えてる」

 

「前はあんまり来たことなかったけど、たしかに増えてるなぁ。しかも全部”ダガー”タイプだぜ」

 

キラ、そして共に格納庫へやってきたトールが驚きの声を挙げる。

最初に乗り込んだ時は”ストライク”とムウの”メビウス・ゼロ”だけだったのに、今は空きハンガーのほとんどが埋まっており、充実した戦力を感じさせた。

しかもその全てが高性能機の”ダガー”タイプ。以前のように”イージス”と”ジン”部隊を相手に孤軍奮闘を強いられることも無いだろう。

だが、1つだけ目につくものがあった。

それもまた”ダガー”タイプではあったのだが、背中にストライカーシステム用のコネクタが備わっておらず、また、各所の装甲も厚みが薄い。

あんな機体、聞いた事があっただろうかと首をひねっていると、ヒルデガルダが近づいてくる。

無重力を実感させるふわりとした動作でキラ達の前に降り立ち、口を開く。

 

「おいっすー、キラ君トール君。キラ君達も、乗機の調整?」

 

「あ、はい。ヒルダさんの機体はあれですか?」

 

「そ。コールサインはワンド2よ。ちなみにマイケルはワンド3、ベントはワンド4」

 

「へー、MS隊は『ワンド』なんですね。俺はペンタクル1でしたよ」

 

ヒルデガルダの説明を受けて、トールはそう応える。

キラはそこで疑問を抱いた。

自分に与えられたコールサインはワンドでもペンタクルでも無かったからだ。

 

「あの、僕はソード1なんですけど……」

 

「あれ?あたしはてっきりMS隊はワンドで統一されていると思ったんだけど……」

 

「ほら、あれじゃないか?キラの機体は特別だから」

 

なるほど、装備の試験を行なう機体と通常の艦載機ではコールサインが別々のようだ。

それにしても、ワンド()ペンタクル(硬貨)ソード()。これらには何の意味があるのだろうか。

キラが疑問を口にすると、ヒルデガルダが答えた。

 

「んー、たぶん小アルカナじゃないかな。杖、硬貨、剣……たぶんCICとかが聖杯(カップ)でしょ」

 

「小アルカナ?」

 

「タロットカード占い、知ってる?あれって簡単なのだと22枚でやるんだけど、もっと複雑に78枚でやる場合もあるのよね。で、タロットには22枚の大アルカナカードと、56枚の小アルカナカードがあるの。更に小アルカナにも4種類あって、それがさっき言った奴」

 

『……』

 

「な、何?」

 

説明し終えると、何故か驚いたような顔をしているキラとトールに、ヒルデガルダは戸惑いの声を挙げる。

2人は顔を見合わせると、遠慮がちにヒルデガルダに話す。

 

「えっと、その……物知りだなぁって」

 

「なんていうか、占いとかってあんまり信じて無さそうっていうか、アウトドア派だと思ってたもんで」

 

「……いや、まあ、言いたいことは分かるけどさ」

 

ヒルデガルダは僅かに顔を歪め、苦言を呈する。

彼女自身、性格と余り結びつきづらい知識を持っていることに自覚はあった。

 

「あたしだって昔は、それこそお淑やかな女の子だったのよ。その時の趣味がタロットってだけ」

 

「おし」

 

「とやか」

 

キラとトールは想像の中で、今よりも若干背が小さく、フワフワとした服装のヒルデガルダを描こうとする。

……1秒で無理と悟った。

同性のようにマイケルらと(つる)む普段の姿から想像出来るものではなかった。

 

「あ、疑ってるでしょ」

 

「ソンナコト、アリマセンヨ」

 

「あたしだって頑丈な堪忍袋の緒がキレることはあるんだからね!こうなったら、今度占ったげるわ。あたしのタロット捌きを見れば、嘘じゃないって分かるでしょ」

 

(それって結局、タロットの腕がハッキリするだけでイメージの払拭に繋がるわけではないのでは……?)

 

キラは心の中でツッコミを入れる。

あとその『頑丈な堪忍袋の緒』、いつもの2人(マイケルとベント)相手に結構あっさり切れてませんか?

そんな風に話しているところに近づく人間が1人。スノウ・バアルが歩み寄ってくる。

いや、歩み寄るというのではなく、単に自分の通り道に邪魔者が立っていることに苛立っているというように見えた。

 

「何を突っ立っている、邪魔だ」

 

「あっ、ごめん……」

 

「謝るくらいなら最初からやるな。ちっ……」

 

舌打ちをしながらそう言うと、スノウは自分の機体、特殊な”ダガー”の元に向かっていってしまった。

あの機体は彼女の機体だったようだ。

 

「うわー……キラ、なんかやっちゃったの?やたら刺々しそうだったけど……」

 

「……」

 

キラ自身には、彼女に何かをしたということは無い。

しかし、心あたりはあった。

昨日行なわれたミーティングの後、キラはスノウに呼び止められていた。

そこで、こう言われたのだ。

 

『妙な真似をすれば、“ストライク”のパイロットだろうと私は撃つ……自分の振るまいには気をつけるんだな、コーディネイター』

 

自分は彼女にコーディネイターであると言った覚えは無いし、会議でも口にされることはなかった。

しかし、彼女はそのことを知っていた。

自分のことを知っている誰かから聞いたのかもしれないが、それにしたってあの剣呑さ。

コーディネイター、あるいはZAFTに対して大きな怒りを抱いているらしい少女が自分に対して敵意を抱いているのは間違い無い。

 

「スノウちゃん、あそこまでトゲトゲしてたっけな?」

 

「ヒルダさん、話したことあるんですか?」

 

「うん。『セフィロト』でね」

 

ヒルデガルダは歳が近い同性ということもあり、何度か話しかけてみたらしい。

しかしその時はあそこまで冷たい雰囲気を漂わせておらず、どちらかといえば戸惑いがちに会話していたとのことだ。

だからこそ、昨日の会議の時点で部屋の中の空気を凍てつかせていた時には驚いたとか。

 

「やっぱり、僕がコーディネイターだから……ですかね」

 

「キラ君、それは」

 

「いえ、いいんです。そういう目で見られるような立場にあるんだって、分かってますから」

 

ジョージ・アルスターの時のように問答無用で実力行使(未遂だったが)されなかっただけまだマシだ。

それに、ヒルデガルダの話から察するところ、自分とそれ以外で余りにも態度が違い過ぎるということもなさそうである。

 

「今は言葉で解決出来そうにないです。だから、まずは行動で『僕』を分かってもらおうと思います」

 

「……キラ君、やっぱり変わったね」

 

何処か自身を優しげに見つめるヒルデガルダに、キラは苦笑を返す。

変わったというより、『身につけた』が正しいだろう。

 

「戦う目的が生まれただけですよ。それ以外、なんにも変わってません」

 

 

 

 

 

スノウ・バアルはブーステッドマン(強化人間)である。

筋骨隆々の陸戦隊にも引けを取らない筋力、卓越した反応速度の他にも、様々な能力が薬物を始めとする様々な『処置』によって強化されている。

そして、その中には当然、聴力も含まれていた。

スノウは先ほどのキラ達の会話を、十メートル以上離れた”デュエルダガー”の元で聞き取っていた。

 

「……ちっ」

 

気に入らない。

コーディネイターのくせに、何故そのようなことが言える。

コーディネイターのくせに、何故自分の非を認める。

コーディネイターは悪だ。コーディネイターは人類史における癌細胞そのものだ。

そうだ、そうでなければならない。

でなければ、でなければ。

 

 

 

 

 

ワタシタチハ、ナゼ、フミニジラレタトイウノ?

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

ああ、まただ。また、頭の中をムカデが這いずり回っているような感覚が。

この頭痛はなんなのだろうか。最近は特に発生する頻度が増えた気がする。

 

「ドクターに……いや、無駄か」

 

どうせ、「それはコーディネイターがいるからだ」と言われてお終いだ。

彼らが自分にコーディネイターを抹殺させたいのは自覚している。

だが、それにわざわざ刃向かう理由も無い。コーディネイターを排除しなければと、自分でも思っているからだ。

……本当に?

 

「本当に……気にくわない」

 

コーディネイターである以前に、そのあり方が気にくわない。

自分は目覚めてから一度だって、あんな風に。

───「戦う目的がある」と、自信を持って言えたことがない。

 

 

 

 

 

「そこの貴方。キラ・ヤマト少尉ですね?」

 

ヒルデガルダとの会話を切り上げ、今度こそ”ストライク”の元へ向かおうとしていたキラ。

しかし、横から掛けられたその声に足を止められる。

顔を向けると、そこに立っていたのは白衣を纏った女性。

短く整えられた黒髪に切れ長の目、スラリとした体系で、街に出れば男女問わず衆目を集めるだろう人物から声を掛けられたキラ。

ドギマギしながら答える。

 

「あ、えと、はい」

 

「先日のミーティングの時にもしましたが、改めて自己紹介を。

私はフローレンス・ブラックウェル中尉。この度”アークエンジェル”の軍医として着任しました。以後、よろしくお願いします」

 

そういえば、とキラは思い出す。

隣に座っていたスノウからのプレッシャーに圧されて所々うろ覚えだが、軍医が女性兵士ということはギリギリ記憶出来ていたのだ。

 

「よろしくお願いします、ブラックウェル中尉」

 

「では、さっそく1つよろしいでしょうか?時間はあまり取りません。

……貴方次第ですが

 

最後に付け加えられた言葉に首を傾げるが、キラは特に深く考えずにうなずく。

 

「いいですよ。何をすればいいんですか?」

 

「そうですか、では

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方の血液を渡してください」

 

「えっ、いやですけど」

 

唐突に掛けられた言葉に、即時の否定を返すキラ。

その瞬間、キラの意識は闇に落ちていった。

後に、この光景を自分の機体のところから偶然見ていたムウはこう語った。

 

「何が起きたかを説明するのは簡単だ。

ブラックウェル中尉は素早くキラの後ろに回り込み、手刀を首筋に当てて気絶させた。

いくら無警戒だったとはいえ、特別養成コースで鍛えられたキラが何も抵抗出来ずに制圧されるたぁ驚いたよ。

それにしても、恐ろしい速さの手刀だった。俺でなきゃ見逃しちゃうね(反応実数値13)。

あの時から、俺達”アークエンジェル”隊の中では『絶対に軍医に逆らうな』という不文律が出来上がったのさ」

 

 

 

 

 

そして、冒頭の場面に至る。

 

「ンンー!」

 

「こら、暴れないでください。針が外れたらどうするのです」

 

抵抗しようにも体は包帯か何かで縛られており、精々よじるくらいしか出来ない。

そうこうしている間にも、針はどんどん迫り来る。

 

(もうダメか……!)

 

心の中で両親への謝罪、アスランを止められずに逝く後悔などを始めてしまったキラ。

キラにはもうそれ以外に出来ることは無かった。

そう、キラには。

 

「───はい、そこまでです!」

 

この時、キラは本気で神の存在を信じたくなった。

救いの手を差し伸べるかのように医務室に飛び込んできた少女の声によって、フローレンスが動きを止めたのだ。

 

「どうしました、トラスト少尉。私はこれから採血を開始するところですが」

 

「見た目がやばいっていうのと、今後のゴタゴタを予防するためです。落ち着いて説明すれば縛ったりしなくて良いんですよ。とにかく、いったん彼を解放してあげてください」

 

渋々といった様子でキラの拘束を解くフローレンス。拘束が解かれた瞬間に部屋の隅までいって防御態勢を取ったキラを責められる人間はいないだろう。

ドアの前にいた少女はやれやれと言いたそうに溜息を吐きながら口を開いた。

 

「ほらこうなった。”マウス隊”のころのクセでしょうけど、問答無しにやるのはやめた方がいいですよ?」

 

「しかし、急を要することなのです」

 

「何のために採血するかくらいは説明するべきですね」

 

「むっ……たしかにスムーズにことを運ぶにはそうする方が適切でした。申し訳ありません、ヤマト少尉」

 

先ほどまでの強硬姿勢はどこへやら、深々と頭を下げるフローレンス。

次から次へと流れ込んでくる情報の濁流に、キラの頭は混乱しっぱなしである。

 

「私はクルーに発生しうるあらゆる事態に対応するため、また、現在の健康状態を確認するために採血を行なおうとしていたのです。説明不足で申し訳ありません」

 

「すいませんヤマト少尉。フローレンスさん、以前エドさん……面倒な患者さんに手を焼かされていたので、言葉より先に手が出る気質が強くなっていたんですよ」

 

「はぁ……具体的に何が面倒だったんですか?」

 

「よくぞ聞いてくれました!」

 

くわっと目を開くフローレンス。

勢いに圧されるキラを置き去りにしてフローレンスは愚痴り始める。

 

「まったくなんですかあの方は!パイロットのくせに出撃後の健康診断は受けず、報告書はいつも『特になし』ばかり!

大体、常日頃からハンバーガーハンバーガーのTHE・アメリカンな食生活!体が資本という言葉を知らないに違いありません!

御陰で何度実力行使しなければいけなかったか、考えるのも嫌になります!

そもそも……」

 

「わ、わかりましたわかりました!酷いもんですね!」

 

これ以上は愚痴愚痴愚痴のオンパレードになる、そう判断したキラは落ち着かせようとする。

 

「そう、酷いのです!だからこそ、私は声を大にして言うのです!───健康第一、と!

ヤマト少尉、貴方の健康のために、血を渡しなさい!さぁ、早く!」

 

「い、イエスマム!」

 

鬼気迫る勢いではあるが、今度はきちんと通常サイズの注射器を持ち出したフローレンス。逆らって良いことなど何もなかった。

キラは椅子に座って腕を出しつつ、思った。

 

(絶対、絶対にこの人には逆らわないぞ───!)

 

あと、『エドさん』とやらは会ったら絶対1発ぶち込む。

それくらいは許されていいはずだ。

 

 

 

 

 

「意外と、すんなり終わった……」

 

「フローレンスさん、ああ見えてどんな状態でも患者さん第一ですからね」

 

医務室から解放されたキラと、その隣を少女が歩く。

意外なことにフローレンスの採血は丁寧に行なわれた。些か勢いのありすぎる気性だが、腕は信頼していいだろうとキラは判断する。

それよりも、今のキラには大きな疑問が生まれていた。

───この少女は、いったい何者なのか?

 

「えっと、それで君は……?」

 

「おや、そういえば自己紹介がまだでしたね。ミーティングの時には他のお仕事を片付けていた最中ですし」

 

少女はそう言うと、キラの前に躍り出てかわいらしく敬礼する。

 

「この度”アークエンジェル”隊の整備班長を任されました、アリア・トラスト技術少尉です」

 

「あっ、キラ・ヤマト少尉です……って、えぇ?」

 

キラは条件反射で敬礼するが、その衝撃的な情報への驚きは隠せなかった。

目の前の少女はどう見ても未成年、どころか中学生程度の見た目をしている。いくら連合軍が追い込まれているといっても、15歳以下の、しかも少女を兵士として入隊させるようなことはあるまい。

それに加えて、どう考えても技術班長という肩書きは似合わない。

 

「私と初めて会った方は皆さん驚かれますけど、ご安心ください。これでも軍籍上は15歳です。……あっ、そういえばこないだ16歳に更新されたんでしたね」

 

「16……いや、それより、班長?」

 

キラがそう言うと、若干不機嫌そうに顔を歪めるアリア。

年齢よりも、能力を疑われたことの方が気に入らないようだ。

 

「むっ、信じていませんね?自分で言うのもなんですが、そこそこは使えますよ?以前は”マウス隊”で働いていましたし」

 

「”マウス隊”で?」

 

「ええ。むしろこの部隊に配属されたのはそれが大きいです。GATシリーズに触ったことのある人間なんて少ないですから」

 

たしかに、”ストライク”を始めとするGATシリーズは現状の連合軍屈指の高性能機かつ、その緻密な機体構造から整備難易度の高い機体だ。

その点、”マウス隊”には”デュエル”、”バスター”という2機のGATシリーズが配備されており、整備経験のある者は多いだろう。

 

「まあ、見た目のことで色々と言われるのも慣れてますし、そこのところは今後の働きで払拭していくとしましょう。───そんなことよりも!」

 

ずいっとキラの顔に自身の顔を近づけるアリア。

鮮やかな紅目に見つめられたキラは息を飲むが、そんなことは気にせずにアリアは言葉を続ける。

 

「ヤマト少尉!これから”ストライク”の操縦系に現在の貴方のデータを読み込ませる作業があります。フローレンスさんに拉致されて早々で申し訳ありませんが、付き合ってもらいますよ?」

 

「えっ、まあ、その、いいけど」

 

「そうと決まれば、善は急げの精神でいくとしましょう!レッツゴーですよ!」

 

「ちょっ、待っ……!」

 

アリアはそう言うとキラの手を引いて走り出す。キラはよろけつつも、なんとか走り出すことに成功した。

なんとなく、これからの航海が波乱に満ちた物になるような予感をキラは抱くのだった。

 

「ああ、それと私は整備班長に加えて”ストライク”の武装試験責任者でもあります。───よろしくお願いしますね?」

 

───本当に、どうなってしまうのだろうか?

 

 

 

 

 

”コロンブスⅡ” 艦橋

 

「結論から言おう。───まともに相手はしない」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

心底意外そうなリアクションを取るのは、先日晴れて”コロンブスⅡ”の艦長に就任したカルロス・デヨー。

どうやら彼には、この方針に不服なようだ。

ユージは溜息をついた。どうやってこの大艦巨砲主義者を納得させたものか、その労力を想像したからだ。

 

「少佐、君の気持ちは分からんでもない。聞いたところによると君は”コロンブスⅡ”が初めて艦長を務める艦だというし、その分張り切ってもいるだろう。だが、そもそもこの戦いで艦船を活躍させるのは難しいんだ。分かるな?」

 

「……もちろん、分かっております。本作戦における我々の役割があくまで”アークエンジェル”降下までの時間稼ぎであるということ、そもそも正面からやり合えるだけの戦力が我々に無いことは」

 

忸怩たる、といった様子で言葉を紡ぐカルロス。

彼は紛れもない大艦巨砲主義者ではあったが、今はそれが最善ではないと理解していた。

 

「我々の戦力は10にも満たない数のMSと3隻の艦船、しかも戦艦や空母ではなく巡洋艦と駆逐艦のみ。それに対して、『バハムート』からは”ローラシア”でも”ナスカ”でも好きなだけ出せる」

 

衛星軌道上に居座った”ゴンドワナ”の厄介なところは、常にその周囲に30を超える艦艇が待機していることだ。

当然、MSの数もそれに比例して増加する。

こちらの3隻に対して、相手は2倍の6隻でも3倍の9隻でも好きなだけ出せるのだから、マトモな戦闘などは望めない。

 

「なに、役割が無いわけではない。今回はMSも、艦も、何もかもを使わなければいけない困難な任務だというだけだ」

 

非常に名残惜しそうな顔をみせるものの、カルロスは大人しく引き下がる。

 

「うぅむ、たしかに今回は分が悪いですな。しかし、それなら何か作戦はあるのですか?」

 

「ああ。むしろ、そこでこそこの艦の出番なんだよ。───マヤ、準備は出来ているか?」

 

そういってタブレットを取り出したユージは、画面に映ったマヤに話しかける。

マヤの後ろからは何かしらの作業を行なっている作業音が響いており、マヤ自身も忙しない様子を見せていた。

 

<進捗率80%といったところでしょうか、明日の作戦には間に合わせますよ!>

 

<フハハハ、絶賛超過駆動中の俺!>

 

<つべこべ言わずにこのパーツを組み込め!ここでは1つのミスが2を通り越して4倍弱点につながるぞ!>

 

<んんwww確1以外あり得ない(1撃で致命傷)www>

 

変態共も絶好調、『準備』は進んでいるようだ。

準備と言えば、()()()()についても聞いておかなければ。

 

「ブロントさん、秘匿機体(ヒドゥンフレーム)の調子はどうだ?」

 

<bあっちりな状態に仕上がってるのは誰の目から見ても確定的に明らか。お前、心配こきすぎた結果よ?>

 

ここで言う秘匿機体とは、ようやく完成したセシル専用機、すなわち『カスタムアストレイ』のことを指す。

サンプルの少ない機体をベースとして改造したこと、特殊装備を複数搭載したことから完成が遅れていた機体だが、なんとかこの作戦に間に合ったのだ。

”ストライク”も結局借り物のようなものだったため、ついに自分の専用『ガンダム』を手に入れたセシルはウッキウキで調整作業に参加しているとか。

とにかく、打てる手は全て打った。あとはなるようになれ、だ。

 

「1発ぶち込んでやろうじゃないか、あのデカ物に」

 

モニターに映る画像、その中の”ゴンドワナ”を睨みながらユージはそう言った。

横っ面に痛打を浴びせるのだけは自信がある。その点だけは間違い無く。

───“マウス隊”は、最強だ。




次回、ゴンドワナ艦隊相手の陽動作戦開始です。
投稿が遅れてすみませんでした。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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