お父さん、お母さん、お元気ですか?キラです。
前回からおよそ一ヶ月ぶりの手紙になりますが、こちらも込み入った事情があったので、ご容赦ください。
あれから、色々とありました。
恩師と呼べる人との出会い、親友と呼べる人との別れ、そして……。
色々ありすぎて、手紙で伝えきるのは難しいので、現状、自分がどういう状況にあるのかを手短に説明します。
僕は、今───。
「……」(じとーっ)
「……えっと」
「ちっ」
「えぇ……」
銀髪の女の子に睨まれながら、MSパイロットやってます。
どうしてこうなったのか、分かりません。
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『セフィロト』 第5ドック
「2人も“アークエンジェル”に配属されるなんて思ってなかったよ」
「おいおい、”ヘリオポリス”からここに着くまで誰が副操縦士やってたと思ってんの?」
キラは『セフィロト』の港に降り立った。───サイ、トールの2人と共に。
本来なら3人はそれぞれ別の場所に配属されることとなっており、離ればなれになることを残念に思っていたキラだったが、連絡艇に乗り込んだタイミングで2人の姿を見つけた時には驚いた。
なんでも、先の奇襲で本来”アークエンジェル”の艦橋要員として務める筈だった人間が負傷、入院してしまったことが原因なのだという。
そこで”アークエンジェル”に関して他よりも知っているサイ、トールの2人が急遽”アークエンジェル”隊に編入されることになったのだとか。
もうすぐ出番というタイミングでこのアクシデント、あの艦は呪われているのではないのだろうか?
「まあ、トールは副操縦士じゃなくて戦闘機パイロットとしてだけどな」
「むっ、いいだろ別に。肩書きは『副操縦士兼航空機パイロット』なんだから」
その中でもトールは一風変わったポジションに落ち着くことになった。
元々は”アークエンジェル”での経験を活かして艦船の操縦士としての訓練をこなしていたのだが、その途中で航空機操縦への適正を見いだされ、航空機訓練課程も同時に履修することになったらしい。
「よく2つも訓練課程こなせるね……」
「キラほどじゃないさ。それに、航空機の方はともかく艦艇操舵についてはそこまで難易度が高くなかったんだ。複雑な操作や咄嗟の行動以外はコンピュータがオートマでやってくれるし」
昔は艦艇も、艦橋には何人もいないと動かせなかったらしいが、近年の艦艇はコンピュータ技術発展のおかげで少人数でも動かせるようになっている。
いかに工業大学の学生とはいえ、素人のサイ達がオペレータや副操舵士をこなせたのはその点が大きい。
だとしても、2足のわらじを履くことになるトールの負担は非常に大きくなるのではないだろうか?
そのことをキラが聞くと、トールはこう答えた。
「ああ、それは大丈夫。あくまで本操舵士2人の補佐だし、それも2人の内のどちらかが席を外している時の代理みたいな感じだから、どちらかというとパイロットの方に比重を置いてるんだよ」
「でも、それは……」
彼も戦闘機で戦場を飛び回るということ、つまり危険が増すということだ。
「そりゃあ俺も怖いけど、艦橋にいた時だって怖かったさ。それなら何処にいたって同じだし、出来ることは増やしておきたいんだ。……教官には、『調子に乗るな』って言われちゃったけどさ」
「トール……」
「でも、『精一杯出来ることをやるだけでいい』って言われたからさ、そうするだけだよ」
「そうだな……ミリアリアを残して死ねないもんな」
「まあね」
このリア充め。
サイと2人で軽く小突きながらじゃれ合っていると、3人に近づいてくる集団がある。
「キラ君達ひっさしぶり~!」
「おいーっす」
「元気そうで何よりだよ」
「ヒルダさん!それに、マイケルさんにベントさんも」
かつての逃避行の折、友誼を結んだ3人がキラ達に近づく。
「やー、こないだぶりだけど随分印象変わったね皆。特にキラ君」
「前はヒョロヒョロの如何にもインドア少年って感じだったのにな。……やっぱ、特別コースの賜物か?」
「あはは……まあ、そんな感じです」
「サイにトールも……は、あまり変わらない、かな?」
「酷っ!?」
「そうですよ、サイはともかく俺は戦闘機パイロットとして訓練積んだんですから」
「トールお前……!」
久しぶりの再開に、喜びを分かち合うキラ達。
かつてこの『セフィロト』で別れて1ヶ月ほどしか経っていないが、その間にはいくつも語るべき出来事があった。
しかし、話ばかりをしているわけにもいかない。
「それより2人とも、忘れてないよね?」
「?」
「忘れるって何を?」
ヒルデガルダとマイケルは首をひねる。マイケルはその様子を見て溜息をついた。
「僕達はここにキラ君達を案内しに来たんじゃないか。なんでこの短時間で忘れるのさ」
「……あー、そうだった」
「そういやそうだったな?」
「そんな記憶力でよく軍隊入れましたね……」
『んだと!?』
「あのー、案内って?」
そのままだとお馴染みの面子での喧嘩が始まりそうだったので、キラは話の方向を是正するために横やりを入れる。
この3人、「喧嘩するほど仲が良い」を地で行く集まりなのだ。
「ああ、これから”アークエンジェル”隊結成の集会と会議があるから、その会議場まで案内しようって感じだよ」
「あーそうそう、そんな感じ」
「ふっふっふ、聞いて驚きなさい!なんとあたし達、”アークエンジェル”隊に編入されることになっていたのよー!」
「本当ですか!?」
サイ、トールに続き彼らも”アークエンジェル”に配属されるとは予想していなかったキラは驚きの声を挙げる。
実力に疑問があるとかではなく、純粋に知り合いが同じ部隊に集まってくるということには奇縁を感じざるを得ない。
いや、もしかして。
キラはそこであることを推測した。
ヒルデガルダは現大統領の娘で、おおっぴらに言うことは出来ないが前線に出すのは軍上層部からはよろしくない。
だからこそ”アークエンジェル”隊という実験部隊に
そこまで考えて、キラは頭を振る。
もしそうだったとしても、一兵士の自分がどうにか出来るものではないし、そもそも何か問題があるわけでもない。
考える必要のあるものではないのだ。
「そういうことで、同じ部隊に参加するっていうキラ君達を呼びに来たのよ!」
「ありがとうございます、わざわざ」
「気にすんな、大したことじゃねえ」
会議開始まで時間もそこまで余裕があるわけでもないので、早々に移動を開始し始める。
道中も会話が途切れることは無かったが、サイはふと疑問に思った。
(有り難いには有り難いんだけど、わざわざ案内するような距離かなぁ。『セフィロト』には前も来たことあるけど、月基地とかに比べればそこまで広々してるわけでもないし……)
「とうちゃーく!ここだよ」
ヒルデガルダはあるドアの前で立ち止まる。ドアの上には『第4会議室』と書かれたプレートが取り付けられていた。
事前にキラ達に渡されていた資料に記されていた通りの名前なので、間違えているということは無さそうだ。
「あっ、そうそう。なんてったってMSパイロットは部隊の華だから、最前列で決まりだからね?」
「え?あっ、はい」
「よし、じゃあ、開けるよ?」
やたらと挙動が不審なヒルデガルダ。よく見ればマイケルとベントの2人も様子がおかしい。
まるで、立ったままスタートダッシュに備えているような……。
ヒルデガルダがドアの横のパネルを操作し、ドアを開ける。
───瞬間、キラ達は部屋の中から冷風が漏れ出したような錯覚を覚えた。
寒気とも、怖気とも言えるそれは、ある少女から発せられていた。
「……」
『……』
その少女はうっすらと光を反射する長い銀髪をたたえ、胸部は豊かな双丘をほこっていた。全世界規模で集計しても、100人中99人は美少女と例えるだろうその少女。
しかしその眉間には常に皺が寄っており、腕は硬く体の前で組まれている。
見れば少女から発せられる雰囲気に当てられたためか、少女の後ろの席に座るものであっても一言も発さずに静かに座っている。
少女の真後ろに座っている男性、たしかダリダ・ローラハ某はひたすらに俯いてプレッシャーに耐えている様子だ。
そう、
少女の前には席はない、つまりヒルデガルダの言うことが正しいのなら少女もMSパイロットであり、これから共に戦うことになる仲間、なのだが。
「あっじゃあ私ここね」
「俺はここで」
「ごめん、キラ君、トール君……」
「俺はオペレーターだから……」
仲良し3人組と何かを察したサイは早々に席に着いてしまい、残されたのはやっと事情を飲み込んだキラとトールの2人。
なるほど、残された2人はようやっとここまで少しだけ感じていた違和感の正体に気付いた。
少女は列の左端に座っており、その隣は空席。
((生け贄に捧げやがった、あの人達!))
おそらくあの3人は自分達を迎えに来る前にこの部屋にたどり着き、少女と遭遇したのだ。
しかし少女の発するプレッシャーに耐えきれず、しかし少女を避けるように座るのも何か気まずい。
そこで事情の知らないキラ達を案内するという口実の元に一度部屋を離脱し、まんまとひっかかったキラ達を生け贄に捧げることで少女の席の隣が空くという『気まずい空間』の発生を防ごうというわけだ。
”ヘリオポリス”でリーダーポジションを務めていたサイも早々に部屋の空気を読み解き、さっさと通信士達の集まる席列の中でもなるたけ少女から離れた席に着く。
残されたのは、キラとトールの2人だけ。
2人は部屋の中から見えず、かつ声も聞こえないように小さくしながら話す。
「お、お前逝けよキラ」
「無理無理無理、あんなプレッシャーに当てられながら会議とか絶対無理!ていうかそういうならトールが逝ってよ」
「俺はほら、戦闘機パイロットだし?ていうか副操縦士だし?それにミリィもいるし?」
「あー、なんだか唐突に、トールが月基地で美人の女性士官に何度か見とれていたってことをミリィに話したくなってきちゃったなぁー?」
「それは反則だろ!」
必死に友人を生け贄に捧げようとする友情、プライスレス。
もっともこれは仲の良い友人同士だからこその会話なので、よい子の皆は真似をしてはいけない。
「……ここで雌雄を決するしかないみたいだね、トール?」
「ああ、そうみたいだな……」
パキポキとお互いに拳を鳴らし、闘志を表明するキラとトール。
その目には平時の穏やかさは残っておらず、あるのはただ1つの漆黒の意思のみ。
「やめてよね、本気を出したらトールが僕に敵う訳ないだろ?」
「だが彼女いない歴イコール年齢だ」
「あはははは」
「はははは」
「……」
「……」
今、空気が弾ける。
「「じゃんけんポン!!!」」
これで、どちらが貧乏くじを引いても恨みっこ無し。正々堂々、勝負!
キラはともすれば実戦並の気迫を出しながら、
(きっといける絶対いけるこれでもしごかれてるし動体視力自信あるし何より人間は追い込まれた時複雑な思考に難が生まれて単純な手しか出せなくなるしつまり理論的にいってパーかグーのどちらかが来る確率大勝てなくとも
「……」(ゴゴゴゴゴ)
「……」
なんであそこでパーを出したんだ5分前の僕。
斯くして、冒頭の場面に至るキラであった。
キラが気まずい空間に放り込まれて30分、続々と現れる”アークエンジェル”隊メンバーと思われる人々。
しかし、誰もが気まず空間に取り込まれて会話はまばら、あるいはヒソヒソ話だけという地獄空間が続いていた。
(最新鋭艦のクルーに選ばれたやったーってなったのに、なんでこんなことになってんだ……)
(おうち帰りたい)
(誰か和ませろ、頼む、全ての人の魂の安らぎのために……!)
(ちくわ大明神)
(あー、やっぱりこうなったかー。エリトなんとかしなよー)
(エリクだバカもん)
(ていうか変なの混じってないか?)
退かず進まず、奇妙な膠着状態にあった室内だが、ある人物の登場によって状況が変化する。
「皆、集まってるようだな……」
現れたのは、憔悴した様子のユージ・ムラマツ。
何故かグッタリとした彼の登場にキラは首を傾げた。
彼は“マウス隊”の隊長の筈、何故”アークエンジェル”隊の会議に姿を現すのか?
ユージに続いて何人かの士官が入室してくる。その中にマリューやムウといった見知った人々がいるのに安心するが、1人見慣れない人物がいることに気付く。
その人物はどう見ても初老といった様子で、既に退役していてもおかしくないような男性だった。
襟元に大佐の階級章をつけていることから、これまで会った中ではハルバートンに次いで階級が上の人物ということになる。
「とりあえず、私の出番はもう少し後になる。まずは結成集会を済ませてくれ。では、お願いします」
「ん、はい」
そう言うとユージは部屋の隅に立ち、代わりに初老の男性が前に立つ。
「初めまして、皆さん。私はヘンリー・ミヤムラ大佐、先日までは後備役という立場にいたものですが、この度”アークエンジェル”隊の隊長として就任することとなりました。戦場に立つのはしばらくぶりですが、よろしくお願いします」
なるほど、彼が自分達のトップということになるのか。階級的には順当だが、「先日までは後備役」という言葉が気に掛かった。
大雑把に予備役というのは平時は民間社会で生活し、非常時に軍に招集されて軍務に取り組む兵士のことを指す。
その中でも、予備役を経た上で「実質引退したようなものだが一応は軍籍が残っている」ような存在が後備役と呼ばれる。
それはつまり、「後備役を招集しなければならない」事態に陥ったということを意味していると取ってもいい。
それほどに先の奇襲で連合軍が負ったダメージは大きいのだろうか?
「とは言え、あくまでまとめ役として隊長の座についたようなものです。現役の皆さんに比べたら役立たずも良いところなので、『一応いるだけ』と思っても結構ですよ」
穏やかそうに卑下するその姿に、ここにいる全員が戸惑いを隠せなかった。
咳払いをしたユージが解説する。
「あー、ミヤムラ大佐は結成して間もないこの部隊の統括として、ハルバートン少将直々に誘致された御方だ。現役時代には海賊の多数検挙等の成果を挙げるなど、経験豊富なベテランなので敬意を持つように」
「そこまで大したことはしていませんよ、中佐」
そういうことか。キラはユージの説明を受けて納得する。
先の逃避行でユージが一時的戦隊司令として振る舞ったように、本来は艦長が部隊のトップを兼任するということは少ない。
艦長としての業務と隊長としての業務を兼任するというのは並大抵の労力では為せず、ユージのようにカフェイン漬けとなるのが当たり前だ。
それを避けるため、そして部隊の総括という『責任者』のポジションを用意することで、隊の運営をスムーズにこなせるようにするということだろう。
「私のことより、話を進めましょう」
そう言ってミヤムラはその場を退き、他の者に自己紹介を促す。
なるほど、一歩退いて穏やかに部下達を見守るスタイルらしき彼ならば、いざ意見決定の際に部下達からの反発も起きづらい。
見るからに平均年齢の低いこの部隊では必要な人物だろう。
そして自己紹介が進み、部隊内人員構成が明らかになる。
○隊長
ヘンリー・ミヤムラ大佐
○艦長
マリュー・ラミアス少佐
○副長
ナタル・バジルール中尉
○正操舵士
アーノルド・ノイマン少尉
マイケル・ルビカーナ少尉(”マウス隊”より移籍)
○オペレーター
アミカ・ルー少尉(”マウス隊”より移籍)
エリク・トルーマン少尉(”マウス隊”より移籍)
○CIC
ジャッキー・トノムラ曹長
ダリダ・ローラハ・チャンドラII世曹長
サイ・アーガイル2等兵
○通信士
リサ・ハミルトン少尉(”マウス隊”より移籍)
○艦載機パイロット
ムウ・ラ・フラガ少佐
キラ・ヤマト少尉
ヒルデガルダ・ミスティル軍曹
マイケル・ヘンドリー軍曹
ベント・ディード軍曹
トール・ケーニヒ2等兵(副操舵士と兼任)
スノウ・バアル少尉(”マウス隊”より移籍)
○整備班
アリア・トラスト少尉(班長)(マウス隊より移籍)
コジロー・マードック曹長
etc
○軍医
フローレンス・ブラックウェル中尉(”マウス隊”より移籍)
以下、各所メンバー。
……”マウス隊”から移籍したメンバー多くない?キラの第一印象はそれに尽きた。
特にブリッジ要員などは、”マウス隊”オールスター勢揃いと言ってもいい。
どうしてこれほど移籍者が多いのか疑問に思っていると、ユージが口を開く。
「あー、ここにいる多くは”第08機械化試験部隊”からの移籍者が多いことを疑問に思っているかもしれないが、これは交換留学のようなものだ」
曰く、”アークエンジェル”級はいまだ1隻しか完工していない希少な艦艇で、その操縦経験を積める機会は少ない。
よって一時的に”マウス隊”から移籍させて”アークエンジェル”級運用の経験を積ませることが目的なのだという。
その割には艦橋要員以外にも移籍者が多いが、まあ、そこも何かしらの意図があるのだろう。
「これで、大体は紹介し終えたでしょうか。では、この部隊の任務について改めて。私から説明させてもらいます」
ミヤムラはそう言うと、スクリーンを起動する。
そこに羽根の生えた盾のような紋章が映し出され、キラはそれがこの部隊の隊章なのだろうと理解した。
「我々”第31独立遊撃部隊”の任務は、地上の各特殊環境下における試作装備の試験並びに地上各地での遊撃です。……本来は前者、装備の試験のみが任務だったのですが、事情が大きく変化しました」
なんでも、先の奇襲は世界各地の戦線に大きな影響を及ぼし、こうやって予備役の老兵を招集しなければいけない程度には連合軍は追い込まれてしまったのだという。
そんな中で最新装備を有した”アークエンジェル”隊をのんびりと試験だけ行なわせておくわけにもいかず、また、本来拠点とするはずだったハワイ諸島も制圧されてしまったことから、任務内容は更新された。
地上と宇宙を問わず運用可能な”アークエンジェル”と新型MS、それらを地上の困窮した戦場に派遣することで戦線の安定化を図りつつ、各種装備の実戦データを取得する。
それが、”アークエンジェル”隊の任務となったのだった。
「先の奇襲で我が軍は大きな痛手を負い、結果として本部隊の役目も危険度を大きく増すこととなりました。しかし、我々は兵士です。たとえどれだけ危険だとしても、勝利するためには顧みずに戦場に赴かなければいけません。しかしそれをくぐり抜けることが出来たその時、皆さんは類い希なる存在に成長出来ているでしょう。私はそれを望んでいますし、そのために全力で職務に取り組む所存です。
まあ、つまるところ私が言いたいのは『命を大事にしつつ、全力で任務に取り組もう』ということなのです。
たとえ任務に失敗しても生きていれば挽回は可能ですし、そうして人は成長していくものなのですから」
穏やかに、かつしっかりと自分の思いを伝えていくミヤムラ。
なるほど、ハルバートンが直々に出向いたという話も納得出来る。
この老兵はそれだけの価値を有する人物だ。キラは会って間もないが、そう直感した。
「それでは、”第31独立遊撃部隊”結成集会はここで締めさせてもらいます。───ムラマツ中佐」
「はい」
それを最後にミヤムラは脇に退き、代わりにユージが前に立つ。
「ここからは、私から説明させてもらう。なんといっても、次の作戦は私達”第08機械化試験部隊”と君達”第31独立遊撃部隊”での合同任務となるわけだからな」
いきなり合同任務?キラが疑問に思っていると、スクリーンが別の物を表示する。
それはぱっと見、宇宙要塞のように見えた。
しかしキラはその考えを否定する。よく見れば要塞というには不自然なことに背部に推進器のようなものが見えるからだ。
「数日前、衛星軌道上に出現した大型敵機動兵器だ。技術部はこれをZAFTの大型空母と判断した。コードネームは『バハムート』」
それは、かつてとある神話で
そしてユージの『眼』には、この怪物の正しい名前が表示されていた。
───”ゴンドワナ”。それがこの巨大な機械の怪物の真の名前であり、本来ならば2年後の世界で登場するはずだった存在だ。
ユージは更に解説を続ける。
「この暫定大型空母は艦内に船渠機能を備えているらしく、”ローラシア”や”ナスカ”といったZAFT艦艇を整備することが可能だ。連中は『バハムート』を衛星軌道上に常駐させることで拠点として活用しているらしく、我々は衛星軌道上の主導権を奪われた形になる。既に偵察も行なわれたが『バハムート』の周囲には常に艦隊が取り巻いており、生半可な戦力では返り討ちに遭う確率が高い」
つまり”ゴンドワナ”が存在する限り衛星軌道上の艦隊に被害を与えても修理されて戻ってきてしまうし、そもそもその周囲の艦隊を突破しなければいけないということだ。
正式な要塞ではないから維持には相応の手間が掛かるだろうが、即興策としては面白い手と言えるかもしれない。
相手する側としては非常に面倒臭いが。
「おまけにこいつに主導権を握られているせいで思うように地上と宇宙を行き来することも難しくてな。完全に封鎖されてるわけではないからすぐに宇宙が干上がるということはないんだが、それでも地球に降下するのは容易ではない。そこで、我々の出番というわけだ」
スクリーンが再び切り替わり、電子マップといくつかの光点が表示される。
作戦説明の際に使われるシミュレーション画面だ。
その中では”マウス隊”と思われる光点群と”アークエンジェル”と思われる光点がそれぞれ別方向から進行している。
「今回、我々”第08機械化試験部隊”が『バハムート』に対して陽動攻撃を敢行する。君たちはその隙を突いてアフリカ大陸に降下、以後は現地の部隊と協力しつつ任務に取り組んでもらうことになっている。
しかし、それも降下に成功した場合の話だ。当然敵も易々とは通してはくれまい。我々が陽動を掛けると言っても敵戦力は大多数、”アークエンジェル”に対しても妨害攻撃を仕掛けてくることは容易に想像出来る。
要するに、我々が引きつけられなかった分は君たちに対処してもらう他無いということだ。
初戦闘が衛星軌道上というのは不安かもしれないが、どうか切り抜けて欲しい。
以後、本作戦は『エンジェル・フォーリング』と呼称、3月29日の
各員の健闘を祈る」
”第31独立遊撃部隊”として最初の戦い、それは、始まる前から波乱を予感させるものだった。
ということで、新生アークエンジェル隊の紹介回となりました。
アークエンジェルの大気圏降下作戦、何のトラブルも無い筈が無く……。
それと今回、「オリジナルキャラクター募集」より、「アキ飽き」様のリクエストされた『フローレンス・ブラックウェル』を採用決定いたしました!
素敵なリクエスト案をありがとうございます!
具体的な人物は次回以降説明していきます。
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。