機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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ようやっと第3章突入です!



第3章
第70話「新たな出会い」


天国……いや、人殺しである俺達が天国にいけるとは思えないが、地獄に落ちてるとも思いたくないので、ここは北欧風にヴァルハラと呼称しておこう。

ヴァルハラのジョン、見ているか?俺は、ユージ・ムラマツはなんとか前を向いて生きていくことが出来ているよ。

皆が信頼してくれているということをようやく受け止められたし、マヤが更に頼れる存在になったんだ。

戦争を終わらせようって、決意を新たにも出来たんだ。

だけど、だけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今だ、艦隊突撃ぃ!全艦の大火力を以て決着を!」

 

「待て待て待て大馬鹿野郎!なんでそこで突撃を選択するんだ!」

 

「何を言います!勇壮たるMS隊によって敵艦の戦闘能力は既に喪失しており、まさしくまな板の上の鯛!なればこそ、艦砲でとどめを掛けることがMS隊を支援することに直結するのは極自然なことではありませんか!」

 

「なんのために“バスター”の火力があると思ってんだ!そも輸送艦である本艦をバカ正直に突撃させようとするんじゃない!」

 

「仮装巡洋艦なのですが……仕方ありませんな。では」

 

「分かってくれたか」

 

「まっすぐいって突撃、こっそり背面に回って突撃、蛇行しながら接近し機を見て突撃。好きな物を選んでください。オススメはまっすぐいって突撃です」

 

「突撃の方法にケチ付けたわけじゃない!」

 

「落ち着いてください、隊長!?」

 

「離せマヤ!この突撃バカを今すぐミサイルにくくりつけて飛ばしてやるんだ!」

 

 

 

 

 

「ふははは!よいか下郎共!

貴様らに足りない物、それはぁ!

情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ!

そして何よりもぉ!

脚部愛が足りない!

つまりどういうことかというと時代はランディングホイールだ!」

 

「違いますね、ここは足を4本に増やして山岳部における移動適正を高めた機体を作るべきです」

 

「ナイト的には重量2脚にするのがバランス的にベストな最適解。時代はキックを求める」

 

「おい待てブロントさん、ブーストチャージならガチタン以外ありえんぞ。石川御大もパワー系はタンクの3と言っている」

 

「あれはもはやキックではなく交通事故だと常ウェイズ言って言うタル!」

 

『どう思う、隊長?』

 

「念のため聞いておく。……お前らのそれは平均的MSパイロットが使えることを想定しているか?」

 

『身体は闘争を求める』

 

「答えになってないんだよ!今度はリアル系にかぶれやがって!」

 

「どうどうどう!落ち着いてください隊長!」

 

「離せマヤ!イレギュラーは排除せねばならん、早急にだ!」

 

 

 

 

 

またバカが増えました……。

なんでこの部隊にはまともな奴が少ないのだろうか?

マヤも怒ると世紀末バスケしだすし……。

まあ、なんだかんだで。

───我々は、我々らしく、今日もこの世界を生きているよ。

 

 

 

 

 

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『セフィロト』

 

「ようやく、通常業務に復帰出来てきたな」

 

「ええ。基地の機能も90%まで復旧したそうです。『宇宙の交番』復活ですね」

 

「『交番』?なんだそれは」

 

「月基地が警察署、ここは『交番』なんだそうです」

 

「ああ、そういう」

 

数日前まで弾痕や赤い何かで彩られていた通路が綺麗になっている様を見ながら、ユージとマヤは歩みを進める。

5日前にZAFTの手で行なわれた奇襲から、宇宙ステーション『セフィロト』は早くも立ち直りつつあった。

元々この場所への攻撃は月基地への攻撃を成功させるための陽動のようなものであったらしく、被害は他の拠点と比べればそこまでのものでもなかったというのが、早期の復旧の要因である。

そして基地機能が平常に戻ったということは、そこに務める兵士達の平常業務も戻ってくるということ。

ユージ達もまた、自分達に新たに与えられた装備の確認のために港口に向かっていた。

 

「しかし……残念でしたね、隊長。本来ならば”アガメムノン”級が配備されるはずだったのに」

 

「ああ……ついにまともな戦力として艦を使えると思ったタイミングでこれだからな」

 

本来ならばユージ達にはMS母艦としての機能を持たせられた”アガメムノン”級航空母艦とか”ドレイク改”級が1隻、配備されるはずだった。

MSとパイロットの質は文句なしだが、これまでの”第08機械化試験部隊”にはMS相手には力不足の”ドレイク”級とそもそも戦闘能力のない”マルセイユ3世”級がそれぞれ1隻ずつしか無かった。

そこでハルバートンは艦艇戦力を強化することでより多くの戦術を取れるようにと、新たな母艦を用意していた。

しかし、本来配属されるはずだった”アガメムノン”級だが、先の奇襲によって小さくは無い損傷を受けてしまい、船渠入りとなってしまったのだ。

幸いなことに”ドレイク改”級は無事だったが、今度は肝心のMS母艦が存在しないという事態に陥ってしまう”マウス隊”。

元から使っていた母艦の”コロンブス”も大破したので、さてどうしたものかというところで、ユージ達になんとか回ってきたのが……。

 

「おっ、これか」

 

「たしか、”コーネリアス”級を改造したものでしたね」

 

港口にたどり着いたユージとマヤは、そこに停泊している艦艇を見て声を上げる。

”コーネリアス”級仮装巡洋艦、その艦級で呼ばれるこの艦こそが、”第08機械化試験部隊”第2の旗艦となる。

この艦は名前から察せられるように、”コーネリアス”級補給艦を改造したものだ。

元々”アークエンジェル”級建造の際に参考元になった艦でもある”コーネリアス”級は、高い輸送能力を持っていた。そこに目を付けたのが、宇宙艦隊再編計画に参加した技術者達だ。

”ドレイク”級ミサイル護衛艦や”ネルソン”級宇宙戦艦はMSどころか”メビウス”も戦場に普及しきっていないころに設計された旧式の設計ということもあり、それを「MSの運用を可能な艦艇にする」というのは、難しい上に気乗りしないことだった。

しかし”コーネリアス”ならば少し改造することでMSを運用可能に出来るし、なんなら拡張性も高いから武装を施すことも出来る。

そして、余った艦は来たるべき決戦に向けて魔改造……という目論見があったかどうかは定かでは無いが、とにかく出来上がった物がこれだ。

推進力の強化と装甲のラミネート化以外には基本性能は大きく変化しておらず、武装も同じ。

”アークエンジェル”にも搭載されたエネルギー収束火線砲「ゴットフリートMk.71」を2基、後にロウ達の母艦となる”リ・ホーム”なら作業用クレーンが設置されている箇所に備え付けられた他、対空機関銃「イーゲルシュテルン」が数基取り付けられている。

あくまで応急の改装艦であるためにまだ火力は低いが、それでも”コロンブス”より性能は上だ。

廃艦が決まってジャンク屋組合に引き渡した愛艦のことを思うと少しの哀愁が漂うが、あの艦も精一杯働いた筈だと思うことで感傷を振り切る。

 

「そして、奥にあるのが”ドレイク改”級か。おおっ、”ヴァスコ・ダ・ガマ”も改装が終わっているのか」

 

「これで、やっとまともに艦隊として戦闘も行えるようになったということですか。……やっぱり技術試験部隊の規模じゃないですよね、これ」

 

「それだけ評価されていると思いたいな」

 

前述の通り、”ドレイク”級は設計が古く、MS運用を視野に入れた改造は難しい。ユージ達の使っていた”ヴァスコ・ダ・ガマ”は一応MSを2機搭載出来るように改造されていたが、それも艦外に係留出来るようにした程度だ。

技術者達は早々に見切りを付け、代わりに艦そのものの戦闘力を向上させる方向に舵を切った。

これら”ドレイク改”級駆逐艦は、なんといっても艦体を挟み込むように備え付けられた大型の砲台が目につく。

110cm単装リニアカノン「バリアントMk.9」。”アークエンジェル”に搭載されたMk.8型のマイナーチェンジ版だ。

Mk.8で問題視された『短時間連続発射によって使用不能となる』という弱点を解消するために冷却システムを強化されている他、砲身の延長によって射程距離と精密性を高めている。

代償としてMk.8よりも大型化し、折りたたんで格納するということが不可能になったことが挙げられるが、十分な強化だ。

 

「艦名は”アバークロンビー”というそうです。アバークロンビー級モニター艦に倣ったというわけですね」

 

モニター艦というのは要するに、小柄な艦艇に相対的に大型の砲塔を搭載した艦のことを指す。

沿岸部における対艦戦闘や対地攻撃を目的としているモニター艦だが、その特徴として航洋能力が低いことが挙げられる。

その点、この”ドレイク改”級はたしかに大型の砲は装備したが、機動力の低下は起こっていない。ゆえに駆逐艦として扱われることとなった。

 

「まさか、この1年で戦隊のトップかぁ……人生、分からんものだな」

 

「おや、ご自慢の()()があってもですか?」

 

「自分自身のことまで分かってたまるか。第一……ここで話すな」

 

「分かってますよ」

 

いたずらっぽく笑うマヤ。

まったく、自分達のいるこの世界、あるいはそれに近しい世界が物語として扱われていると知ってもこの有様。

……正直、羨ましくなる。ああいう強さを持てる人間というのは限られているものだ。

 

「ところで、こっちの”コーネリアス”級の名前は決まってるんですか?」

 

「ん、いや。まだ決まっていないんだ。こちらで決めて良いということになっている」

 

「何か候補は?」

 

「そうだな……

 

 

 

 

 

”コロンブスⅡ”、なんてどうだろう」

 

「隊長って、物に愛着持つタイプですよね」

 

「そうだな、中々物を捨てられないことがあるよ」

 

空回りな責任感とかな。

ユージはそう言って”コロンブスⅡ”の搭乗口に向かおうとして、マヤに耳を掴まれてそれを中断させられる。

力は込められていないから大したことはないが、痛いものは痛い。

 

「いでで、なんだいったい」

 

「まったく、貴方は気を抜くとすぐにそう弱音を吐こうとする。未来云々を語る前にそこから変えていかなければ」

 

「……母親みたいなことを言う」

 

「あの変態共を纏めていれば、世話焼きにもなります」

 

呆れたように笑うマヤに、ユージは肩を竦める他無い。

前世でなんども視聴した『ガンダム』シリーズだったが、例外なく女性の精神が強かったことだけは覚えている。

自分もまた、そんな強さと温かさに救われたわけだが、そのままでいようという気にはどうもなれなかった。

男はいつだって、女に良いかっこつけたがるものなのだから。

 

「それなら、戦争が終わったらたっぷりねぎらってやらないとな」

 

「期待してますよ、ユージ」

 

ユージ達がそのような会話をしているところに、1人の男性が近づいてくる。

黒髪でエネルギッシュ、わかりやすくワイルドなその男性は少佐の階級章を制服の襟元に付けていた。

男性の敬礼にユージ達も返礼し、男性が口を開く。

 

「お初にお目に掛かります。”第08機械化試験部隊”のユージ・ムラマツ中佐殿でありますか?」

 

「ああ。貴官がカルロス・デヨー少佐か」

 

ユージはこれまで、第08機械化試験部隊隊長としての役割と”コロンブス”、”ヴァスコ・ダ・ガマ”等艦艇の艦長を兼任していた。

一介の佐官が艦長と隊長を兼任するという異常な人事も、戦争初期の敗戦続きで人材が少なかったためであったのだが、さすがにこれ以上部隊規模を拡張していくとなればユージの手に負えない仕事量となるため、艦長業務を任せられる人材として転属してきたのがカルロスだ。

 

「かの”マウス隊”で母艦の艦長という大任をいただけるとは光栄です、全力で職務をこなします!」

 

「そこまで気張る必要もないよ。今後しばらくは大規模な作戦も無いだろうし、じっくりと部隊に慣れていけばいい」

 

「はっ、そういたします!」

 

言葉ではそう言うが、やはり威勢が衰えることはない。

”マウス隊”でも珍しい、直情径行タイプの人間のようだと第一印象を持つユージ。

カルロスは”コロンブスⅡ”を見上げる。

 

「いやあ、本来ならオフィスで着任の報告を先にするべきなのでしょうが、ついに1艦の艦長かと思うと自分を抑えられませんでな!名はなんと?」

 

「”コロンブスⅡ”、先の奇襲で大破した艦の名前を継がせたよ。デヨー少佐は宇宙艦艇が好きなのだな」

 

「それはもう!」

 

キラキラと少年のような目でユージに迫るカルロスを見て、ユージは嫌な予感を覚えた。

この空気には覚えがある。そう、これは。

 

(変態共が趣味を語り始める時の雰囲気───!)

 

傍らのマヤに助けを求めようと振り向くが、忽然と姿を消していた。

危機管理能力の高さは流石だが、即行で上官を見捨てるとはどういう了見だ貴様。

 

「よいですか隊長、そも戦艦とは───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ということなのです!」

 

「ああ、そう……」

 

30分以上ノンストップで続けられた宇宙戦艦アピールに、ユージは「ああ、そう」botと化すことで精神を守っていた。

一応自分もそこそこのガノタの自負があったが、オタクの中でもライト層とヘビー層が存在していることを思い知らされる。

 

「むっ、生返事はいけませんね。戦隊司令となったのですから艦艇方面への理解も深めていただきませんと」

 

「それは、まあそうだろうが」

 

「来たるZAFT共との決戦の際にもっとも重要な存在を担うのは艦艇なのです。そもそもMSが優位を得ることが出来た最大の要因はNジャマー環境に当時の艦隊が不慣れであったことが……」

 

「……少佐は、MSは嫌いかね?」

 

つい、口を出た言葉。

下手をすると今後の部隊内に不和を呼びかねない言葉をユージは自省したが、カルロスは笑い飛ばす。

 

「何をバカなことを言います。MSは革新的な兵器です、宇宙に留まらず地上でも運用可能、しかも優秀なパイロットが乗れば1機で何機もの敵機を打ち倒すことが可能、正に新時代の宇宙戦闘機と呼べるでしょうな」

 

しかし、とカルロスは言葉をつなげる。

 

「どれだけ強力な兵器であっても、それを圧倒的に上回る数を揃えて、堅実な戦略で采配してやれば、順当に打ち倒せるものなのです。隊長も10機のMSを相手に1機のエースを突撃させるような真似はしないでしょう?」

 

「それはそうだ、無策でエース頼みなど」

 

トップエースを何人も抱え込んだ部隊の隊長ではあるが、エースがエースとして活躍出来るのは環境や条件が整っているから、つまり実力を十全に発揮出来るからという意見を持っている。

そういう意味では、エースという存在はむしろ集団対集団でこそ活きる存在と言えるだろう。お互いに持っているカードの数が同じなら、より個々の質の高い側が勝利するのが当然だ。

戦略を戦術でひっくり返せるレベルの化け物(主人公共)がちらほら生まれるというのがおかしいのだ。

 

「更に、敵対する存在に対して有効射程距離で勝るということは、一方的に攻撃を加えられるということ。そうすれば、開戦時には機動兵器の数が同じでも先制攻撃によって敵の数を減らし、結果的に数的優位状況でMS隊も戦わせることが出来ます」

 

「『敵より遠くを撃てる砲を持っている側が勝つ』、だったな」

 

「そう、要は役割分担なのです。MSはMS、艦艇は艦艇。我々が上手く操ってやればいいのです。そして、一大決戦の場では戦艦こそが主役となるべきなのです」

 

なるほど、そういうタイプか。ユージは得心した。

カルロス・デヨーはMSの価値を大いに認めている。その上で、戦艦こそが主役となるべきなのだと言いたい人物なのだ。

なるほどなるほど。

 

(───ふざけんな一番面倒なタイプじゃねーか!)

 

ただMSを嫌っているとか、時代の違いについて行けない人間だとかの方がやりようはある。

MSの有用性を見せつけて心を折ってやるでもいいし、それがダメなら徹底的に干して窓際族に追いやってしまえば少なくとも余計なことはしない。

この手のタイプは「戦闘における最適解を選び取る」のではなく、「最適解を自分好みに改変しようとする」から厄介なのだ。

戦艦が活躍出来る作戦考案だったり、環境作りだったり、それらを他の人間の迷惑にならないように狡猾にこなすのだ。

そういう人間は封じ込めるよりも、上手く熱意を誘導してやることが出来れば益をもたらす。

つまり、カルロス・デヨーを上手く働かせるには誰かが手綱を握ってやる必要があり。

それを為すのは必然。

 

「また、貧乏くじかぁ……」

 

「どうしました隊長、浮かない顔ですが」

 

あんたが原因だよ。

例に漏れず奇人変人だった新任艦長を前に天を仰ぐユージだった。

 

 

 

 

 

「絶対に許さんからな」

 

「ユージが迂闊なことを口にするからです」

 

「ぐぅ」

 

ユージは逃げ出したマヤと合流し、“マウス隊”オフィスに向かう道中で恨み節をぶつけていたが、すぐに止めた。

どうやっても口で勝てる気がしなかったからだ。

 

「……まあいいだろう。ところで、君は聞いているか?技術部に新たに配属される隊員」

 

「名前と簡単なプロフィールだけは。

ヴェイク・アムダ少尉。元は地上で陸戦兵器の開発に携わっていたそうです。が……」

 

「が?」

 

マヤは非常に言いづらそうな表情を見せながら続ける。

 

「その、『委員会』所属を表明しております」

 

「よし、突き返そうか」

 

「落ち着いてください」

 

マヤの諫めに応じず、ユージはその場でうずくまって頭を抱える。

今時、連合軍内で『委員会』と言えば『通常兵器地位向上委員会』のことを指すというのは当然の常識である。

人間にはこの世の全てが理不尽に見える時が訪れることがあるが、今まさにその時が訪れていた。

 

「神様俺に何か恨みでもあるのか?なんでよりにもよって『通常兵器地位向上委員会』の奴らがここに飛ばされてくるんだよ!火に油どころの問題じゃねーだろ!」

 

「はぁ……本人に確かめたら如何です?オフィスはもうそこですよ」

 

「いきたくねぇ……」

 

「我慢してください、隊長でしょ」

 

首根っこを掴んで、マヤはユージを引きずっていく。

上官にする行為ではないが、残念ながら”マウス隊”隊員と分かった時点で咎める兵士は『セフィロト』にはいなかった。

ついにマヤは”マウス隊”オフィスの前にたどり着き、ドアを開けようとする。

 

『───んだとゴラァ!』

 

部屋の中から怒号が聞こえた瞬間、ユージは立ち上がって部屋の中に入る。

ZAFTの魔の手を心配したわけではなく、単純に面倒事の発生を察知して規模の拡大を防ごうという、悲しいことになれてしまったルーチンをこなすためであった。

 

「今度はいったい何があった?」

 

「隊長!」

 

変態4人衆の筆頭ことアキラ・サオトメが怒り顔でユージを向き、部屋の中の男性を指差す。

よく見ればブロームとウィルソンも怒り顔だ。

 

「なんとか言ってやってくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはははは!ネズミ共の親玉が出てきたか!」

 

「何を言えっつーんだよ」

 

高笑いを上げる金髪オールバックを見てユージが漏らした声であった。

なんで聖帝がいるんだよ。

ここはいつから世紀末になったんだよ。

ていうか白衣の上に更にマントを被ってるってどういうファッションセンス?

 

「我が名はヴェイク!『通常兵器地位向上委員会』人型兵器研究員にして、帝王の血を引く者!」

 

「あーはいはいついにあからさまな奴がご登場ですね即刻出て行けぇ!」

 

「落ち着いてください隊長」

 

「中身だけでなく外見まで変態を抱え込めるかぁ!」

 

憤慨するユージと後ろから脇を抱え込むマヤ。お決まりの光景である。

 

「聞いてくれ隊長!このパチモン、いきなり現れたと思ったら俺達に喧嘩を売ってきたんだ!」

 

「どうせゲ○ターを貶されたとかそんなんだろ」

 

「なんで分かった!?」

 

「で、ウィルソンはバトロイド形態不要論でも唱えられたか」

 

「我々の性癖を知り尽くしている、さすが隊長ですね。いやまあその通りなんですけど」

 

「で、ブロントさんは……」

 

「C.E71年、俺は怒りの炎で包まれた!ぐらっトンソードあリソース無駄使いではないんだが?」

(こいつ大剣なんてデカいだけで資源の無駄遣いだとか使えないとか言いやがった!)

 

「まったく、下郎共の考えることが余りにもしょうもなさすぎてついつい言葉が漏れてしまったわ!ふは、ふははははっ!」

 

それだけは同意だよ。

ともあれ、部隊内で問題事を引き起こしたことに関してユージは見逃すつもりは無い。

 

「で、サウ……じゃなかったアムダ少尉。たしかにこのアホ共の言っていることはネジを太陽系外まで吹っ飛ばしたようなことだというのは間違い無いが、部隊内に不和をもたらしたのは事実だ」

 

「ふふふ、貴様も無理に取り繕わなくてよいぞ隊長。貴様も辟易していたのだろう?このスーパー系キチ共に。よい機会だ、この場で矯正してやろうと言うのだ」

 

「いやたしかに辟易はしてたけどそういう問題ではなくてだな」

 

「聞け、下郎共!」

 

こいつ話聞かねータイプだな。ユージは確信した。

今にも制裁を始めようとしているマヤを制しつつ、聖帝擬きが何を言おうとしているのか様子を見守る。

最悪、後で全員懲罰房にでもぶち込めばいいかという考えがあるのは言わずもがなである。

ユージは面倒事が嫌いだった。

 

「ゲッ○ーだと?夢を見るのも大概にしろ、いったい何処にあの変態ギミックを再現する技術があるというのだ?

形状記憶合金などというレベルではないぞ?そもそも3機の戦闘機を合体変形させる必要が何処にある?

最初から別々の3機として作ってしまえば良いではないか」

 

「ぐぬう!?」

 

「バトロイド形態に変形するのは対巨人種戦闘を見越したというが、ならば何故VF-1には近接戦闘装備に碌な物がなかったのだ?

戦闘機なら戦闘機、人型なら人型として設計した方が結果的に構造に問題も生まれづらいのではないか?ん?」

 

「人型と戦闘機を使い分けるからいいんでしょうがリアル厨め……!」

 

「そしてぇ!大剣を持って切り込む?

貴様どこのイングランド出身だ?バグパイプを吹かしながら戦う時期はとっくに過ぎ去っておるわ!」

 

「ロマン全否定そしてエドワード全否定!

いきなり飛び火する中尉に同情を隠せない!」

 

「飛び火させたのはお前だろうが」

 

ユージはツッコミながらも、ある予感を抱く。

このパチモン、口調はともかく言っている内容はまともだ。

これはもしや。

 

「高い能力を持っていながら、アニメと現実の違いも分からんとはな!

その能力を活かしたいというなら、前線で戦う兵士のことを考えて実用性重視で物を言え!」

 

『ぐぬう!?』

 

「もしかしたら、外レアと見せかけて激レアだったか!?」

 

「隊長……」

 

ついに現れたまともな考えの技術者(この際見た目は置いておく)を前に感動を隠せないユージと、そんなユージに同情に満ちた視線を向けるマヤ。

何故そのような視線を向けるのか。いや、彼女からすればこのパチモンを管轄下に置かねばならないという心労が待っているのだから当然と言えば当然か。

 

「良いか、兵士達が求めるのは安定性の高い銃!そして利便性だ!

貴様らのそれはただの独りよがりだ!」

 

「そうだそうだ、もっと言ってやってくれ」

 

「ついでに、前線でも容易に修理出来るような安全性があれば整備兵も満足!」

 

「ほんと、そうだよ」

 

「ぐうっ、ここぞとばかりに隊長が合いの手を入れてくる!そんなにふざけた物を作った覚えはないのに!」

 

「お前こないだエド少尉にモーニングスター送ってただろうが」

 

しかも名前は「ミョルニル」。まさかの『原作』トップクラス変態兵装をまさか身内(アキラ)が作り出すとは思わなかった。

というかなんで『原作』では高機動強襲用MSである”レイダー”に搭載したのか。

悪役感の演出のためか?

 

「隊長」

 

「ん、どうした」

 

マヤが後ろからチョイチョイとユージの服の裾を引っ張る。

本当に残念そうな顔をしながら告げる言葉は、これから先の喜劇を見越していたのかもしれない。

 

「期待しすぎると裏切られた時の衝撃が半端ないですよ」

 

「いや、たしかにそうだろうが」

 

「言うことは言いました、ちょっと席を外します」

 

そしてマヤはオフィスから去って行った。

ヴェイクはなおも言いつのる。

 

「そう、そうだとも!貴様らに足りないのはリアル志向!

派手さに惑わされて男のあるべき道も見失ったか!」

 

「……ん?」

 

「土埃にまみれる機体、弾痕残る装甲、無骨に担いだ機関銃!

これこそが真の浪漫というものよ!」

 

何か、話がおかしな方向に向いてきた気がする。

というか変態共もさっきの怒りが嘘のように食いついているではないか。

 

「重厚さと利便性、そして機動力!

これらを兼ね備えた機体、それはつまり───」

 

「待って?(切実)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボト○ズは良いぞ!」

 

『俺達今から親友だ!』

 

「結局スーパー系変態にリアル系変態が合流しただけじゃねえか!」

 

先ほどの険悪さが嘘のように和気藹々し始めた変態共に、ユージは慟哭する。

油断した罰と言わんばかりに、変態共が癒着を深めていく光景には絶望しか見いだせない。

 

「ゲッ○ーは最高だが、リアル系も勿論好物だ!

今日は寝かせんぞ、夜通しアーマ○ド・コア大作戦だ!」

 

「良かろう、この俺の帝王的アセンを存分に見るが良いわ!」

 

「アーマード・トルーパー!そういうのもあるのか!

カレトヴルッフ作る時のジャンクの余りがありますし、ここはいっちょ!」

 

「素晴らしい目の付け所だ素晴らすい!

シェイクを奢ってやろう」

 

「……(呆)」

 

「また隊長殿が泡を吹いておられるぞ!」

 

「ほっとけ、どうせしばらくしたら再起動する」

 

「よーし、いつも通り仕事するぞー。変態共は隊長達に丸投げしときゃいい」

 

他の研究員達も、早々に自分達の仕事に戻っていく。

彼らは「面倒事は上司に丸投げすればいい」という真理に早々に至っていた。

ちなみに、なんだかんだで彼らも時折悪乗りして変態共に混ざってやらかすことがある。

”マウス隊”所属研究員の称号は伊達ではないのだ。

 

「ふは、ふははははっ!良い、良いではないか”マウス隊”!

ビバ、コズミック・イラ!」

 

「ダレカ、タスケテ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから言ったのに……」

 

マヤはオフィス近くのベンチで端末を眺めながら、オフィスから伝わってくる熱気に「やはりこうなったか」という諦観を抱く。

ここに飛ばされてくる人間がまともな訳がないというのに。

即行で見捨てた隊長のことに合掌しつつ、思い出したようにあの場にいなかった少女、そして仲間達のことについて思いを巡らせる。

 

「あの子達……”アークエンジェル”でもやっていけるかしら?」




変態が仲間になりたそうにこちらを見ている……。
どうしますか?

YES >NO

しかし、逃げられなかった!





今回、『オリジナルキャラクター募集』の中から「モントゴメリー」様のリクエストした「カルロス・デヨー」(元はカルロス・リー)を採用しました!
素敵なリクエスト、ありがとうございます!
また、オリジナル兵器募集の方からも「モントゴメリー」様の『アバークロンビー級打撃艦』について一部設定を採用、
「taniyan」様の『コーネリアス級仮装巡洋艦』を採用しました!
重ね重ね、感謝です!

ヴェイクこと聖帝のパチモンについては、後日設定を解説したいと思います。
次回はキラこと”アークエンジェル”サイドの描写となります。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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