「これは演習では無い!」
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ハワイ諸島 オアフ島西部 ワイアナエ市
「くたばれ、ZAFT野郎共め!」
「司令部、司令部!こちら第27陸戦隊、指示を……ちくしょう、回線が切れやがった!」
「もうダメだ……俺達ここで死ぬんだ!」
悲鳴と銃声だけが、その場に響き渡っていた。
島の西側に上陸したZAFT部隊の侵攻を阻止するために出撃した陸戦部隊だったが、どれだけ撃って敵の数は減らず、しかしこちらの戦力は削れていく。
ハワイ島の拠点も陥落寸前、一部の部隊は撤退を開始しているという。これで、救援の可能性も潰えたということだ。
今はこうやって市街地に侵攻してきた敵部隊と戦っているが、それもすぐに終結してしまうだろう。
「来たぞ、オートマトンの第2波だ!」
「もう火力なんぞ残ってねえんだぞこっちは!」
ZAFTがこの戦闘で投入してきた新戦力、
およそ100万を超す人間が暮らすゆりかご、しかしそれは作るのも維持するのも簡単なことではない。
そこで開発されたのが自動整備機械であり、これは普段は自動でコロニーを整備してくれる。異常が発生した場合はコントロールセンターに通報し、未然に事故を防ぐことが出来るのだ。
人の生活を守るための機械が、戦争に転用される。それも戦争の性と呼べるのかもしれない。
本来整備用の装備が内蔵されていた長方形の中には5.56mm対人機関銃が内蔵されており、「武装している」「ZAFTの制式装備ではない」などの条件に合致する人間に対して自動で攻撃を加えるように設定されていた。
これに対して通常装備の歩兵では対抗は難しい。機体に用いられている装甲を突破するには対物ライフル級の火力が必要で、通常の対人銃撃戦を考慮した連合兵では手榴弾のような爆発物を用いるくらいしか打てる手は無い。
物を直すための道具を捨てた戦闘機械から、今、銃弾が発射される。
「ぐあっ!」
「ライアン!ちくしょう、ちくしょう……」
オートマトンの機銃掃射に1人の連合兵が巻き込まれる。幸いにして致命傷には至っていないが、それでも自力で動くのは困難だろう。
オートマトンがゆっくりと近づいてくる。止めを刺すためか、あるいは無力化を確認して後方の兵士に報告するのか。
どちらにせよ、自分達の所属していた部隊は自分達を残して全滅している。打てる手は無い。自分だって、銃を捨てて手を後ろに回しているから撃たれずに済んでいるのだ。
惨めだった。多くの仲間を殺され、唯一残った仲間が苦しんでいる中で自分は生き残るために手を挙げているしか出来ない。
「ちくしょう……!」
それでも、敵を見据え続けた。目を閉じず、さりとて現実を受け入れず、起死回生の一手を探し続けた。
───だからだろうか。自分達がこの場から生還出来たのは。
『オオオオオオオオオオオオッ、ラアアアアアアアアアアアッ!!!』
オートマトンの横手から、人型の何かが飛び出し、オートマトンに激突する。
人間に出しうる速度の限界を超えたその突撃による衝撃は重厚なオートマトンを吹き飛ばし、横転させる。
飛び出してきたそれは右手に持っていた銃、マクミランTAC-60対物ライフル*1を発射する。対人用の拳銃は無効化出来る装甲でも、12.7mmの対物級の威力を受け止めることは出来ず、貫通。オートマトンは物言わぬ鉄塊と化した。
『無事か?』
「えっ、あっ、ああ……」
『そりゃよかった。早く後退しろ、ここはもう保たん』
突如出現し、オートマトンを撃破したそれは一見ロボットか何かに見えるが、人間の男性のようだ。
よく見ると分かるが装甲の隙間に緑色の布のようなものが見え、実態は宇宙服の上に装甲を貼り付けたような存在だと分かる。
おまけに背中にスラスターが取り付けられており、先ほどはあれを起動して高速で突撃したようだ。
キュイィィィィィィィィィンと脚部のローラーダッシュから音を立てながらその場を後にする彼の後ろ姿を見て、戦友に肩を貸しながら安全圏への待避を図る男は、あれが最近一部の陸戦隊に配備されたパワードスーツだということを思い出した。なんでもビクトリア基地での歩兵戦で大打撃を受けた陸軍が開発したものだとか。
とにかく、自分達は助かったようだ。それだけ分かっていれば十分だ。今は、退かねば。
後ろの方から新たに雄叫びと破砕音が聞こえ始めたが、そんなものに耳を貸す余地は無かった。
オアフ島 ヒッカム空軍基地 港湾部
ZAFTの攻撃は、ワイアナエ市の攻略を待たずとも真珠湾への侵攻を開始するほどの勢いを持っていた。
空軍基地と銘打ってはいるが、この基地は正確には空軍と海軍の2つを抱える統合基地であり、相応の規模の海洋戦力も持っている。そのため、基地司令から出された迅速な撤退命令に基づき、港湾部には脱出を目論む艦艇あるいは潜水艦がひしめき合っていた。
増援が到着する前に基地が陥落する。そう判断した司令官による命令だったが、具体的な計画の1つすら作る時間が無かったため、基地内は混乱状態にあった。
今もまた、1隻の大西洋連邦の輸送型潜水艦が脱出を試みているものの、中々出港出来ずにいる。
「助けてくれ、”ディン”が来る!」
「落ち着け、まだ入れる!」
「やめろ、押すな!?」
この潜水艦は基地内の人員を脱出させるために留まっているのだが、すでに沖合や上陸地点から飛び立ってきた“ディン”や”インフェストゥスⅡ”、あるいは上陸し始めた”ゾノ”の攻撃が近くまで迫っていた。
今もまた、潜水艦が係留されている地点の近くに砲弾が落着、近くにいた連合兵が複数人、紙のように吹き飛ばされる。
「もうだめだ、俺達みんなここで死ぬんだ!」
「弱音を吐くな!大丈夫だ、さっさと乗って脱出しちまおう!」
恐怖に耐えきれずに発狂し出す兵まで現れ始める。水中から飛び出した”ゾノ”が、そんな彼らの近くに降り立つ。
既にこんなところまで侵攻されていたのか。無力な兵士達に向けて”ゾノ”がその凶悪な爪を振りかぶる。
しかし、その爪が彼らに振り下ろされることはなかった。”ゾノ”の背後に現れたMSがビームライフルを数発射かけ、動きの止まった”ゾノ”を潜水艦とは別方向の海中に突き飛ばしたからだ。
一瞬の間の後、”ゾノ”の落ちた場所から大きな水柱が挙がる。どうやら水中で爆発を起こしたらしい。
兵士達がホッと息をついていると、”ゾノ”を撃破したMSから声が響き始める。外部スピーカーから発しているらしい。
<危ないところだったな、無事か?>
「……ああ、無事だ!あんたは何者だ!?」
<連合軍第17機械化試験部隊、隊長のユウ・アマミだ。たまたま目に入ったから援護したが、こちらも手一杯だ。早めに撤退してくれ>
そう言うと、その青い胴体が特徴的なMSは別の方へ駆けていってしまった。
促された兵士達は、ひとまず目の前から危険が排除されたことある程度の落ち着きを取り戻し、冷静かつ迅速に潜水艦に乗り込んでいく。
「あれが、東アジアの『ガンダム』か……!」
<ア~マミたいちょー!こちらツクヨミ2ことイツキ!そろそろ俺達だけで抑えるのにも限界があるので早く助けに来て欲しいかなって!>
<ぼやかない!隊長、お気になさらず>
「すまない、今戻る」
新たな愛機を駆って、ユウ・アマミは戦場を駆け巡る。
先ほどは偶然目に入ったから助けに入ったが自分達もそう余裕があるわけではない。右腕に持たせたビームライフルを背部のサブアームに懸架させ、代わりにアサルトライフルに持ち替えさせながら、ユウは反省した。
ユウが現在操縦しているMS『一式歩行戦闘機”
MS開発において大西洋連邦に劣っていた東アジア共和国は、早急に高性能MSを手に入れる必要があった。
大西洋連邦は言わずもがな、ユーラシア連邦も”ノイエ・ラーテ”を始めとする通常兵器の大量増産で戦力を整えつつあり、このままでは戦争に勝っても次の戦争、つまり連合加盟国間で起きるだろう戦争に敗北してしまうということは容易に想像出来たからだ。
『地球連合等と謳ってはいても所詮は影で相手の腹に肘を喰らわせ合うような関係、戦争が終結すれば次に兵器を向けるのは他の加盟国』
少なくとも東アジア共和国の首脳陣はそう考え、それに備える必要があると考えた。
しかし大西洋連邦の工業力、ユーラシア連邦の数の暴力に対抗するために、自分達が進むべき道はどのようなものか?
首脳陣はこの問題を『1つ1つの戦力の質的向上』で解決することに決めた。
量で勝てないなら質で。それしか取れる手が無かったという事実からは目を背けつつ、まずは大西洋連邦から供与された”ポセイドン”をコピー、陸戦用の機体を開発することが決定された。
そうして生まれたのが”須佐之男”の原型ともなった『零式歩行戦闘機”
最初は”デュエル”から発展した”ポセイドン”を再び陸戦用に改修するという矛盾を孕んでいたため、劣化『G』兵器程度の性能しか持っておらず、武装も”テスター”や鹵獲したZAFT機のものを使い回すなど、お世辞にも高性能とは言えなかった。
しかしユウ達を始めとする複数の実験部隊が実戦でデータを集めたことで、ついには『G』兵器と同等以上の”須佐之男”という成果が結実した。
今回は大西洋連邦との合同訓練……という名目で”須佐之男”のお披露目を行なおうとしていたのだが、予想外の戦闘に巻き込まれてしまったというのが、東アジア共和国所属のユウ達がハワイ諸島にいた理由である。
<来ましたよ、”グゥル”付きが3,”ディン”が4です>
ツクヨミ3ことナミハ・アキカゼが更なる敵の来訪を告げる。ユウは冷静に増援部隊を捕捉し、アサルトライフルを射かける。
”須佐之男”が生まれた経緯は前述の通りだが、具体的な機体コンセプトを一言で表すならば、「より実戦向きになった前期GATシリーズ」である。
高コストなPS装甲は”ポセイドン”と同じく胴体にのみ採用することで生産性を向上させているのは言うに及ばず、一番特徴的なのは背部のハンガーユニットだ。
左右に1基ずつ武装を懸架することが可能で、必要に応じて併設されたサブアームによって必要に応じて武装を取り替えるこれは、ストライカーシステムを分析した東アジア共和国技術部の意見によって開発された。
『ストライカーシステムは機体コンセプトをまるごと変える、それよりもあくまで武装選択の自由度を上げるだけに止めた方が現場に即しているのではないか?』
実際、ストライカーシステムは画期的なシステムではあるが、運用には手間が掛かるという弱点がある。
バッテリーも内蔵するストライカーを生産する費用、ストライカー自体の整備要員、ストライカーを運用する設備……これらの負担を負うことを避けて開発されたこの機構は、現場の兵士からは概ね好評だった。
近接戦が得意なパイロットは実体剣、弾幕を張りたいならアサルトライフル、狙撃をしたいならビームライフルや狙撃銃。
手軽に機体に個性を生み出せるこのシステムに欠点があるならば、状況に応じて咄嗟に武器を持ち替える判断力だが、”テスター”配備当初から戦い続けたユウには懸念する必要は無かった。
ユウはイツキとナミハの”陸戦型テスター”と共に上空から迫り来る敵機を迎撃するが、流石にZAFTもヒッカム基地という要所を攻撃するのに生半可なパイロットを選出はしないということか、数機のMSが基地に降り立つ。
いや、もうこれは練度の差というレベルの問題ではない。既に
だが、それでもいい。ユウは接近してきた基地に降り立った”ゲイツA型”を、左手に持たせた実体剣で切り捨てながら、そう思う。
「この程度、こんなものは苦境などではない」
ユウはかつて、MA”メビウス”のパイロットとして戦っていたパイロットだ。
”メビウス”に乗って
しかし、それで得られたものなど何1つ得られなかった。
戦友を失い、守るべきものを守れず、ついには地球にNジャマーを投下されるのを防ぐことも出来なかった。
あの頃は何も出来なかった。何も出来ずにそのまま負傷して後方に回されている間に自国の資源衛星も奪われ、今は敵の要塞とされている。
今の自分には、力がある。抗うことの出来る力がある。
撤退すること、撤退を援護するしか出来ない?それは結構、何も出来ないよりはずっと良いではないか。
生き恥をさらして生き延びてきた。ならばこれも恥の1つに加わるだけだ。
「逆転の機会は必ず来る、それまで耐えるだけだ」
<そりゃ何時です!?今にも俺達死にそうなんですけど!>
イツキが弱音を吐くが、ユウはそれにこう返した。
「生き残れたら分かるさ。だから……今は戦え!」
<あーっ、ちくしょうが!やってやりますよ!>
<元からそのつもりです!ほら、次が来ましたよ!>
「ツクヨミ1、敵増援部隊との戦闘を開始する!」
負ける戦いにはもう慣れた。そうなれば勝利の味が欲しくなるのが人間というものだ。
いつか手に入れる『勝利』をつかみ取るために、極東における海神の名を冠する機械人形は、基地に降り立った敵部隊に向けて刃を振り下ろした。
この戦闘を生き延びた彼らに待ち受けるのは、栄光か。
それとも……『蒼』の因果か。
「あいつら、行けたか?」
「ああ。人員も機体もピンピン、五体満足で逃げられたよ。あとはこいつらだけだ」
そうか。この基地に勤めている中では1番の年長である老歩兵はタバコに点火しながらそういった。
水上艦艇も潜水艦も、果てには航空機も去ったヒッカム空軍基地。もはや基地は陥落したようなものだった。
それでもこうして残っているのは、どういった理由があるのだろうか。
老兵と呼ばれる齢に至った兵士達は、酒を飲んでいたりタバコを吸ったり、あるいは思い出話をしながら、最後に基地に残ったイージス艦が出港しようとしている様子を見つめる。
既に基地司令部の機能は喪失していた。爆撃用装備を付けた”ディン”の攻撃が、偶々直撃したためであった。
『時間をかけて練り上げた作戦でも予定通りに進行することは少ない』と言うが、ZAFTもまさかここまで予定外に上手くいくとは思っていないだろう。
突然の出来事に基地はただでさえ崩壊しかけていた統率を完全に失い、次々と戦力を削られていった。無事に逃げ出せたのが半分、残り半分は次々と海に沈んでいった。基地に転がる”テスター”や”リニアガン・タンク”の残骸の数も少なくはない。
そして、自分達もそこに加わるのだ。
<皆さん、出港準備が出来ました!皆さんも早く、機を捨てて乗り込んでください!>
「あぁ?だからなんべんも言わせんなっての。逃げ出すのが遅れたイージス艦が1隻、援護も無しに今から逃げ出せるわけもなく……」
「俺達がかかしになって引きつけてやるから、その隙に逃げ出せって話になったんだろうが」
<ですが……ですが!>
イージス艦の艦長が必死になって老兵達を説得しようとしている。
彼はこの基地に配備されていたイージス艦の艦長の中ではもっとも若輩だ。故に出港準備に手間取り、更には艦が流れ弾に見舞われるというトラブルに見舞われたために最後に撤退することになった、おそらく今日1番の災難に見舞われた人だろう。
そんな彼だからこそ、自分の不手際をフォローするように囮とならんとしている老兵達を見捨てることは出来なかった。
「気にすんなって。……まあ、正直に言っちまうと囮半分と意地半分ってところだな、俺達が残るのは」
<意地……?>
「この基地はよぉ、長らく、それこそC.Eになる前、俺の親父や爺さんの代から太平洋の平和を守ってきた場所なんだ。
そんな場所がたかが奇襲1つ受けただけですんなりと落ちるってのは、癪だろ?
老兵は笑いながらそう言い切った。
俺達がこれから死ぬのは単なる意地の問題でしかないと、断言したのだ。
「今のお前にはわからんかもしれんがな、艦長殿。未来のお前にもきっと、何かの意地のために命を捨てる選択肢が目の前に浮かぶことがある。それを前にしてどうするか。そこでお前の軍人としての全てが決まるとだけ覚えておけ」
「そうそう。俺達のこたぁ、『理屈蹴っ飛ばしたアホ老害』の一例とでも覚えて、それでいっちまいな」
<……そう思えたら、どれだけ……>
本音を言えば、自分だってこの場に残って戦いたかった。死ぬと分かっていても、敵に背を向けて逃げ出すなんて嫌だった。
だが、自分は艦長だ。自分の指揮するこの艦の乗組員、そして生き延びてこの艦に乗り込んで来た残存兵の命を預かっている。
そんな彼らの命を救うには、どうしてもこの老兵達の意地に縋って逃げ出すしかないのだ。
まさかこの後に及んでZAFTに捕虜にしてもらえるなんて考えられるわけもない。少なくともこの艦長の中でのZAFTに対する印象は地の底に落ちていた。
「頼むよ、艦長さん。俺達のことを慮ってくれるっていうんならよ……黙って、さっさと失せてくれや」
<……わかりました>
ついに決心した艦長はの号令に従って、イージス艦が湾の外に進み始めた。湾の外に陣取ったいくつかのZAFT艦隊もそれを確認したのか、砲塔を動かし始める。おそらく“ディン”が駆けつけるのも時間の問題だろう。
老兵達の役目は、それらの目を引いて無事に味方を逃がすことである。
「おーい、お前本当にそれ乗れんのか?」
<あったりまえだ、これでも元航空機パイロットだぞ!むしろ今の奴らはこんないい機体に乗って戦って負けてたってのが信じられん>
今は整備兵に転向したものの、かつては戦闘機に乗って空を駆けた老兵が笑って言う。どうせ置いていくならと”スピアヘッド”に乗り込んだ彼は自信満々にそう言う。
攻撃を受け続けてボロボロになった基地の滑走路だが、VTOL機の”スピアヘッド”にとってはそれは大した問題ではない。
「おい、なんで”ダガー”が残ってるんだ?」
<こいつにつけた装備が重くって、外す暇も無かったらしくってなぁ!せっかくだからと貰ってきちまった>
かつて戦車兵として戦った男は、基地に放棄されるはずだった”ファランクス・ダガー”のコクピットで堂々と無断搭乗を自白する。
まあ何もしなくても破壊されるか鹵獲されるかなのだから、問題はあるまい。
MSの動かし方などよく分からない。まあ、歩かせて、武器弾薬をぶちまけることが出来れば上々だろう。説明書を読めばそれくらいは出来る。
<よっし、こいつはまだ使えるぞ>
昔はイージス艦の戦闘システムの管制官だった男は崩壊した基地の防御機構の中で生き残っていた対空砲台を発見し、システムを再起動する。
男が現役だった時代のイージス艦には、精々が海を荒らす海賊の掃討くらいしかやることは無かった。せっかく学んだ技術を少しは活かせる機会を得られたことを喜ぶべきか、それとも嘆くべきだろうか?
<まだまだこいつらが活躍出来るって見せてやらねえと。なあ、そうだろう?>
<むしろここが稼ぎ時さ>
<ちくしょう、せっかくそのデカ物に乗れるいい機会だと思ったのによ>
ある男達は基地に放棄された”ノイエ・ラーテ”に乗り込んで、沖合の敵艦に照準を定める。
”ノイエ・ラーテ”の主砲は元々艦艇の装備だったのだから、十分に射程圏内だ。命中させられるかどうかは腕次第だが。
”ノイエ・ラーテ”への搭乗権を巡るコイントス勝負で敗れた男達は2人乗りに改装される前だった”リニアガン・タンク”に乗り込んでいる。
別に悔しくなんかないやい、こっちの方が乗り慣れてるから全然気にしてないやい。
<これさぁ、昔見たことあるような気がするぜ。なんだっけな、近代戦史だっけ>
<あれじゃね?ほら、日本が使ったってやつ。たしか……回天だっけ?>
<ああ、それそれ。……いや
弾を撃ちつくし損傷し、帰投したものの時間が無く放棄された”メビウスフィッシュ”に乗り込んだ男達がいる。
男達にとって潜水艇の操縦とは多くの人間が協力して行なうものだが、個人で動かせてしかも戦闘まで出来るような代物が生まれるとは、人生分からんものである。
一応魚雷は積んだが、どうせ素人の自分達では動かすしか出来ない。
仕方ないが、こいつらには可哀想な目にあってもらおう。
「お前らぁ、準備は出来とるかぁ~?」
『とっくに!!!』
準備万端、なら始めよう。
死出の道を、笑顔で歩もう。
笑顔で、未来で輝く灯火を見送ってやろう。
「じゃあ……逝こうや」
老いた自分から、若い君へ。
歩みを止めてしまった我々から、未だに歩み続ける君達へ。
願わくは、その未来に光あれ。
この1時間後、大西洋連邦ヒッカム空軍基地から一切の抵抗が消失、基地は完全に陥落した。
最後にこの基地から出港したイージス艦はいくつもの損傷を負いながらも、無事に味方と合流。安全圏までの離脱に成功する。
遠く、望遠鏡があっても見えないだろう水平線の彼方。
たしかにそこには、理屈や道理では語れない誇りが存在していた。
そしてその誇りは。
───灯火となって、若者達を照らす。
今回は色々と無茶苦茶な展開になったと自覚しておりますが、これは「書きたいシーンを書く」ことを優先したためです。
手抜きになってしまったこと、深くお詫びいたします。
今回登場したオリジナル兵器の解説を載せておきます。
○歩兵用装甲服・軽/重タイプ
第2回オリジナル兵器・武装リクエストより、「モントゴメリー」様のリクエスト。
第2次ビクトリア攻防戦においてエクスキューショナーを始めとするZAFTの暴虐的な対人戦法に対抗するための装備を陸軍歩兵部隊が要求、それをお馴染み「通常兵器地位向上委員会」が叶えたもの。
簡単に説明すると『ノーマルスーツの規格を流用した装甲服』であり、耐熱性と対NBC防御を備えている。
物理的防御力は、至近距離からの拳銃弾、中距離以遠からのライフル弾に耐えることが可能であり、ZAFTの主要な歩兵火器の大半をシャットアウト出来る。
ヘルメットは簡易FCSを含めたヘッドアップディスプレイになっており、連合国で使用される各種歩兵装備に対応している。
今回登場したものは「重装型」と呼ばれるタイプであり、装甲パーツを追加し、バッテリー駆動する完全な意味での「パワードスーツ」である。
背中のスラスターや脚部のローラーダッシュを用いて高速で戦場を駆けることが可能だとであり、機動力も備える。
更に今回は従来型の12.7mm対物ライフルを装備したが、本来の装備は『20mmリニアライフル』であり、当たり所次第ではMSの破壊すら可能と、攻撃面でもハイスペックになっている。
これらの欠点は言わずもがな、高価だということである。
特に「軽装型」であればともかく、パワードスーツとして見るにも「重装型」は非常に高価で、日夜「戦車や航空機を量産したい派」や「歩兵の気持ちになって派」、「いやMSで置いていかれるわけにもいかんだろ派」で討論しているとかなんとか。
○一式歩行戦闘機”須佐之男”
「taniyan」様のリクエスト「ポセイドン陸戦化改修案」を元に生まれたオリジナルMS。
本編で説明した通り、零式歩行戦闘機”伊弉諾”をテストベッドとして得られたデータを基に開発された機体。
水中戦用機から陸戦機に改修された”伊弉諾”と違って完全に陸戦機としてのポジションを確立しており、その性能は前期GATシリーズを超える(拡張性では試作機としての面が強い前期GATシリーズに軍配が挙がる)。
特徴は背部のハンガーユニットであり、状況に応じて武器を持ち替えることで流転する戦況に対応することが出来る。この機構の元ネタは「アーマード・コアV」シリーズにおけるACのハンガーユニット。
外見イメージとしては頭部がガンダムタイプのジム・ドミナンス。
「モントゴメリー」様、「taniyan」様の両名には多大な感謝を。
素敵なアイデア、ありがとうございます!
次回からは再び宇宙に視点を変えます。
いい加減に展開を動かしたい……。
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。