機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
クルーゼ「今夜は……帰りたくないな」
マウス隊『もう帰ってくれ頼むからっ!』

今回は一拍挟んで、ハワイ基地奇襲作戦の様子をお届けしたいと思います。


第63話「パールハーバー・リターンズ」

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ハワイ諸島 オアフ島 ヒッカム空軍基地

 

「スクランブルを掛けろ!」

 

「対空システム起動、オールグリーン!急げよ!」

 

「MS隊よりも戦車隊だ、寄せ付けないんだよ!」

 

基地のあちこちで怒号が鳴り響く。

突如として開始したZAFTの奇襲に対応するために基地全体が慌ただしくなる中、新人パイロットのリチャード・イエーガーは寝ぼけ眼で宿舎の自室のドアから顔を出し、目の前を走り去ろうとする同僚に声を掛ける。

 

「おーい、いったい何だよこの騒ぎは?今日は何かの訓練でもあったっけか……?」

 

「これが訓練に見えるかボケェ!ZAFTが攻めてきたんだよっ!」

 

「はあ?いやいや、今は……」

 

「休戦協定が破られた!」

 

それを聞いたリチャードは、パチクリ、と何度か瞬きをし。

絶叫する。

 

「どうしてそうなったぁ!?」

 

「俺が聞きてえよ!とりあえずお前は顔を洗って身なりを整えてこい、スクランブル掛かってるぞ!」

 

リチャードは泡を食ったように部屋の中に戻り、準備を進めていく。

顔に冷水をぶつけて強制的に目を覚ましたリチャードだが、その思考は混乱で埋められていた。彼は今日、完全にオフのつもりでいたので、この混乱もしょうが無い。

どうして?ていうか実戦かよマジかよ、俺こないだ訓練終了したから初めてなんですけどミサイルどころか機銃も実弾撃ったこと無いんですけどマジですかそうですか?

制服の袖に腕を通したところでリチャードは、非日常的な騒がしさの中に聞き慣れた甲高い音が混ざるのを聞き取った。

これは、”スカイグラスパー”や”スピアヘッド”、戦闘機の飛び立つ時の音だ。

窓の外に、次々と飛び立っていく戦闘機の群れを認めたリチャードは、今度こそ実感した。

───マジのマジで戦争かよ!?

パニックが頂点に達した彼は、一周回って冷静になった頭で考え、タバコを吸い始めた。

非日常の中でも変わらない味があることに安堵し。

 

「クソッタレが」

 

ジェシカ(最近出来た恋人)とのデートが始まる前から台無しだ。

今日のスケジュールを完全にぶち壊されたことを呪い、リチャードは唾を吐き捨てるのだった。

 

 

 

 

 

ハワイ諸島 南方空域

 

「クソ、やはり出てきたか”インフェストゥスⅡ”!」

 

“アームドグラスパー”を駆るアダム・ゼフトルは、またしても不慮の奇襲を受けたことを嘆いていた。

かつて第2次ビクトリア基地攻防戦でもやむを得ず戦闘に参加することになったという経験を持っている彼だが、その時の方が今よりもマシだと考えるのは、現在自分と仲間がドッグファイトを繰り広げる敵戦闘機の存在が原因だ。

これまで彼らが戦場で見る敵と言えば、空中戦が可能なMS”ディン”や”インフェストゥス”戦闘機くらいのものだった。それらは純粋に空中戦のために作られた戦闘機である”スカイグラスパー”の前では脅威となり得ず、それ故に開発からここまで”スカイグラスパー”は空の王者であり続けたのだ。

しかし、今自分達が戦っているのは敵の新戦力である”インフェストゥスⅡ”、文字通り”インフェストゥス”の後継機となる存在である。

汎ムスリム会議攻略戦の最中に、当該国が開発し───勿論連合側は実際にはZAFTが開発したと気付いていたが───戦線に投入した新型戦闘機が、今こうして太平洋にも姿を現したのだ。

元々ZAFTではMSに偏重して開発が行なわれていたこともあるが、旧型である”インフェストゥス”には、洋上母艦を持たないZAFTが運用出来る戦闘機という制約が課せられていた。

”インフェストゥス”は機体全体を変形させることで優れた艦載収納性を誇っていたが、その代償として戦闘力は”スピアヘッド”に劣る程度のものしか発揮出来なかった。

しかしこの”インフェストゥスⅡ”は、その艦載収納性という利点を捨て、純粋な戦闘機として設計されている。

これによって水準から大きく劣っていた火力と航続距離を改善、更に”ディン”や”インフェストゥス”から得られたデータを参考に作られたこの機体は、”スカイグラスパー”隊に大きな障害となって立ちはだかった。

 

「奴らも、小型とはいえビーム兵器を搭載してきたとはな……だが!」

 

アダムは左右上下に機体を動かして敵機からのビーム攻撃を躱しながらも右方向にブレイク(急旋回)し、背後についた”インフェストゥスⅡ”を惑わせる。

如何に性能が向上したとは言え、空戦のノウハウの量は未だに連合軍側に軍配が上がる。急旋回から今度は自分が敵機の後ろを取る形にしたアダムは、冷静に中距離用空対空誘導弾の照準を行なう。

 

「そう易々とやられるか!」

 

放たれた誘導弾は”インフェストゥスⅡ”に命中する───直前、撃ち落とされる。それを為したのは、”インフェストゥスⅡ”と共に襲撃してきた”ディン”の持つショットガン。

ZAFTは”ディン”と”インフェストゥスⅡ”の混成部隊で攻め込んできていた。

”ディン”は空戦の王者の座を”スカイグラスパー”に奪われこそしたものの、未だに優秀な対地攻撃能力を持っている。言ってしまえば単純に上から下に撃ち下ろすだけなのだが、古来より戦闘において高所は絶対有利、「上から攻撃出来る」というだけでも”ディン”は優秀だし、それに”ディン”でも”スカイグラスパー”に対抗出来ない訳では無い。

『ある程度は自衛出来る爆撃機』である“ディン”を”インフェストゥスⅡ”が護衛する、これがZAFTの新たなる戦術であった。

 

「ちょこざいな……!」

 

<こちらグラスパー4、後ろを取られた!援護を頼む!>

 

「グラスパーリーダー了解、援護する!」

 

アダム達も簡単にやられるつもりはない。面白くなってきた、とアダムは笑った。

”スカイグラスパー”を手に入れた時はこれでZAFTに一泡吹かせられると思ったが、そこからずっと空戦では苦戦と言えるほどの苦戦は無かった。それは軍人としては喜ばしいことであったのだが、1戦闘機パイロットとして、より歯ごたえのある敵を求めていたのも事実。

ZAFTの兵士よ、今まで見てきた”スカイグラスパー”が、全力であるなどと思ってくれるな。

『大空の支配者』の名を与えられたこの機体の本領は、これからなのだから。

 

 

 

 

 

大空で熾烈な争いがくり広げられている一方で、海面下でも静かに戦端が開いていた。

まるで鯨の群れのように押し寄せる”ボズゴロフ”級、そして大洋州連合の保有する潜水艦による艦隊は、ゆっくり、しかし着実にハワイ諸島に近づきつつあった。そして連合も、それらを迎撃するために虎の子の潜水艦隊を発進させる。

”ボズゴロフ”級から多数の”グーン”部隊が発進、迫る敵艦隊に向けて魚雷を発射していく。連合側も負けじと魚雷を応射、海中で衝突した魚雷が爆発し、大きな衝撃を生み出した。

(あぶく)のカーテンを抜けてZAFT潜水艦隊に迫るのは、連合軍が開発し、圧倒されていた水中での戦闘に光明をもたらした海神、”ポセイドン”。

その後ろに付き従う”メビウスフィッシュ”は、『G』兵器を基に開発されたためにコストが高い”ポセイドン”のサポートをするために、第一線から退いた”メビウス”を水中戦用に改修した機体である。

”メビウスフィッシュ”は性能面、特に防御力という面では”グーン”に劣るものの、”ポセイドン”の持つハンドトーピードランチャーを調整したものを装備しているので、火力面では十分な物を獲得している。

とはいえ、その戦術は至ってシンプルだ。

 

「魚雷一斉発射用意。3、2、1……発射!」

 

”メビウスフィッシュ”部隊の隊長の号令に合わせて、魚雷群が発進してきたZAFTのMS部隊に襲いかかる。

並べて、撃つ。数的優位による面制圧こそが”メビウスフィッシュ”の最大の強み。

敵が10の”グーン”を持ち出したなら、50の”メビウスフィッシュ”をぶつける。それが可能なほどには”メビウスフィッシュ”は生産性も高かった。

しかし、魚雷の群れを避けながら連合水中部隊に迫る緑の機影がある。

重装甲でありながら水中では高い運動性を発揮するZAFTの水中MS、”ゾノ”だ。かつて”ポセイドン”を駆る『白鯨』ジェーン・ヒューストンが戦闘し、痛み分けに持ち込むしかなかった強敵の制式量産型は、戦場に投入されてからこれまで、”ポセイドン”と水中の王者の座を奪い合っていた。

”ポセイドン”が銛を構えて突撃し、”ゾノ”はそれをクローで迎撃する。銛がたしかに“ゾノ”に命中したものの、その装甲に阻まれて致命傷を与えることは出来ず、逆に頭部を鋭利な爪で貫かれてしまった。

別の場所では”ゾノ”のフォノンメーザー砲をかいくぐって接近した”ポセイドン”が、”ゾノ”の推進器に魚雷を命中させ、行動不能状態に陥らせた。

小回りの”ポセイドン”と膂力の”ゾノ”、両者の戦闘力はほぼ互角。

であれば、大勢を決するのは覚悟の差。

そしてこの場には、強い覚悟───狂気と言い換えてもいい───を持つ男がいた。

 

「来たな連合の小魚共!」

 

意気揚々と”ゾノ”を駆って戦場を突き進むのは、『紅海の鯱』ことマルコ・モラシム。

ハワイ諸島への電撃侵攻作戦を確実に遂行するために参加を命じられた彼だったが、彼の頭の中には()()()()()卑劣な真似をした連合、飛躍させてナチュラルへの怒りが渦巻いていた。

 

「自分達から申し出た休戦協定まで破るとは、そこまでして我らコーディネイターを滅ぼしたいのか!断じて許さん、滅ぼされるのは貴様らだ!」

 

他の可能性が存在するとは微塵も考えずに、ひたすらに戦うモラシム。

彼はけして頭が回らない人間ではない。バッジの授与こそ見送られたが、そもそも能力の無い人間に1部隊の隊長が任されるわけがない。

協定違反が発覚する前からZAFT軍では大動員が行なわれており、発覚から間髪入れずに反攻作戦。()()()()()()()反攻作戦だということは、誰の目から見ても明らかだった。

だが、モラシムは気付かない。いや、()()()()()()()()

モラシムにとってこの戦争は、自由や正義のためとかに行なわれる物では無かった。極端に言えば、プラントに住む同胞のためでもなかった。

彼を突き動かすのは、恩讐。この戦争は、報復。

なぜ自分の妻は、子供は殺された?核まで使って”ユニウス・セブン”を破壊する必要はあったのか?

ああ、あったんだろうな。戦争ってそういうものなんだろうからな。もっと言うなら、気に入らない奴がいれば殺そうと思うのはそこまでおかしなことでもない。誰もが理性でそれを押しとどめているだけなんだろうが。

───知ったことか。

モラシムにとって家族は全てだった。全てをなげうってでも守ろうとした、誇り、輝き、宝物、愛だった。

それを奪われた。たった1発のミサイルで。

あの時、彼の中で最優先されるべき事柄は塗り替えられたのだ。

守護から、復讐へ。

何もかもを燃やし尽くす。何もかもを踏み潰す。何もかもを、殺し尽くす。

後のことなど知ったことか。それだけが全てだ。

 

「───うぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!!!」

 

だから、死ね。

そこを退けとは言わん、速やかに静かに絶望にうめきながら死んでいってくれ。

それだけでいい、それだけがいい。

ナチュラルもコーディネイターも地球人も宇宙人も男も女も老人も若人も皆皆皆みんなみんなみんな。

俺をジャマする奴は、水底に沈んでいってしまえばいい。

狂える鯱は、目の前の小魚(メビウスフィッシュ)を食い散らし、海神を騙る人形(ポセイドン)を引き裂き、その先の(潜水艦)に迫る。

 

「我らの怒りを思い知れぇっ!」

 

 

 

 

 

数時間後、ヒッカム空軍基地に潜水艦隊が継戦能力を喪失して撤退を開始したという情報と、ZAFT潜水艦隊、並びに()()()()が北上しているという情報が伝わった。

また、敵航空機の迎撃に発進した航空戦隊も戦闘続行が不可能となり、一時撤退が決定された。

太平洋の宝石、美しい海。かつて旧世紀における最大の海洋戦争の引き金が引かれたこの地が再び戦火に見舞われることを、誰もが直感した瞬間である。

 

 

 

 

 

ZAFTハワイ侵攻部隊 旗艦”エアーズロック”艦橋

 

「ハワイ諸島到達まで、残り30Km!」

 

「総員、第一種戦闘配置!潜水艦隊が切り開いてくれた血路だ、戦果を挙げるぞ!」

 

『了解!』

艦隊が足早に大海原を掛けていく様は、戦艦がどっしり、重厚に進むのとはまた別の魅力がある。

連合軍による妨害が自軍の潜水艦隊によって退けられたことで、ZAFT艦隊の士気は十二分に挙がっていた。

彼らが現在乗艦しているのは、ZAFTと大洋州連合が共同で開発した”エアーズロック”級陸上巡洋艦である。

陸上と銘打っているもののその行動範囲は水上も含んでおり、これはホバーを用いて航行するためであり、最大で6機のMSをその艦内に収めることが出来るこの艦は、ZAFTの戦術が明確に変わり始めたことの証拠でもあった。

これまでZAFTでは海に面した拠点への攻撃には”ボズゴロフ”級潜水母艦あるいは”ヴァルファウ”型輸送機でMSを輸送し、攻撃させるという徹底したMS偏重主義に基づいたロジックが存在していた。

しかし『カオシュン攻防戦』における敗退や宇宙の『エンジェルラッシュ会戦』で”アークエンジェル”が猛威を振ったことによって、ZAFTは艦艇自体の作戦行動能力というこれまで目を向けていなかったものに目を向けなければならなくなる。

ZAFTの基本戦術である『MSを主軸とした電撃戦』に対応しつつ、それを十全に支援することが可能な艦艇として新たに開発されたのが、この”エアーズロック”級だ。

全長132mと小柄ではあるもののその分小回りは効くし、艦を動かすのに必要な最少人数は操舵士、通信士、オペレーターと艦長の3+1人のみ。双胴式艦体の左舷側からは200mm連装砲が備わっており、この武装を使って陸上、対空の支援を行なうことも可能となっている。

加えて左舷側のMS格納庫とは別に右舷側には航空機の格納庫と簡易滑走路が備え付けられており、これによって艦内に3機、艦外に1機を駐機させて合計4機のVTOL戦闘機を運用することも可能と、その機能は多岐に渡る。

MS中心の戦術を維持しながらもそこに柔軟性を加えた点は、後の世にも評価される艦艇である。

 

「第2次航空部隊発進、真珠湾の再現をしてやれ!」

 

「艦長殿!一言申しますとその真珠湾攻撃を行なった軍隊は最終的に敗北しており、非常に不吉なのでもっと別の言い回しをして欲しいのであります!」

 

「構わん構わん!歴史は塗り替えるもの、我々はナチュラルより優れているらしいのできっとたぶんおそらく同じ轍は踏まないだろうと思いたいなぁ!」

 

「どっかヤケクソになっていませんかぁ!?」

 

歴史好きな操舵士の悲鳴を笑い飛ばすが、”エアーズロック”艦長のバルタザール・レグは内心で、まったくその通りだと自嘲する。

操舵士が言ったように、かつてこの艦隊と同じように真珠湾に奇襲を行なった軍隊は敗北しているが、その他にも似ているところはあった。

かつての軍隊は宣戦布告を行なうことをしないまま奇襲を行なったし*1、ZAFTは明らかに準備を済ませた上で協定違反へのカウンターアタックを実施した。

どちらにせよ相手側がカンカンに怒り狂うのが目に見えているのだ、ヤケクソになって何が悪い。今更ながら、本当に司令部はこの戦争に勝つないし終戦の手筈があるのか心配になってきた。

 

「第2次航空部隊、全機発進完了!」

 

オペレーターの声に窓の外を見れば、戦闘機や”ディン”、”グゥル”に乗ったMSや新型が、真珠湾に向かって飛んでいくのが見えた。

その光景はなんとも勇ましい物だったが、これから彼らが作り出すだろう、そして味わうだろう地獄を想像すれば、空白しささえ感じられる。

なんでこうなったのだろうか。戦争が始まってから幾度も繰り返した問いを、バルタザールは今一度、自分自身に問いかけた。

 

 

 

 

 

ハワイ諸島 オアフ島南西エリア

 

そこでは、いくつもの対空砲台が空に向かって殺人花火を打ち上げていた。

いくら奇襲が完璧に近い形で決まったと言っても、それで全てが解決したわけではない。航空部隊と潜水部隊が稼いだ時間は、基地の防衛システムを起動し、防衛部隊が出撃するのに十分な時間を稼いでいた。

連合軍水中部隊を突破してきたZAFT水中部隊も引き続き攻撃には参加するが、ある存在が邪魔となって思うように進めずにいた。

というのも連合軍は海底に特殊な機雷がしかけており、その排除に手間取っていたのである。

1m、あるいは3mの小型機雷は敵機の反応を捉えると海底から急速浮上し、その体の上に備わった爪で敵機に張り付き、一定時間が経過すると爆発する仕様になっている。

とりわけ厄介なのは、1つ張り付いたらその1つが特殊な信号を発し、近くの機雷を誘導してしまうということだ。このせいでZAFT水中MSは1発も被弾するわけにはいかず、上陸部隊の安全を確保するために掃海作業に従事せざるを得なくなる。

しかし攻撃の手を緩めてしまえば連合の体勢を整える時間を与えるだけのため、航空部隊による攻撃が継続していた。

 

<ちくしょう、取り付けない!>

 

<対空砲を潰せ!艦隊からの支援砲撃はまだ来ないのか!?>

 

<安全な場所の確保に手間取ってるんだってよ!>

 

<それじゃ俺達、ここで七面鳥()になれってことかよ!?>

 

本来なら上陸部隊による対空砲台の無力化に成功した後が自分達の仕事だ。これでは順序が真逆の無駄死にである。

幸い、海底機雷の存在が早めに発覚したために被害はまだ大きくない。敵に時間を与えるのは業腹だが、無理に強行すれば被害は増すばかり。

一時後退の命令を出すなら今、そう考えて航空部隊指揮官が声を発しようとした瞬間である。

 

<───クリムゾン0、突貫する>

 

<アスラン、待たんか貴様!>

 

年若い兵の多いZAFTの中でも特に若い、少年兵らしき声がスピーカーから響いてくる。

その直後、深紅の戦闘機───それにしても大型の機影だが───が対空砲台に向かって、まるで流星のように急速に降下していく。

 

「な!?待て無茶だ───」

 

<指揮官殿、こちらはザラ隊デルタ1、イザーク・ジュールだ。今降りていったのはウチの隊長なんだが、我々も続いて対空砲の強硬排除に取りかかる。援護を頼む>

 

”グゥル”の上に乗った白と青の機体が、指揮官の乗る”ディン”に近づく。

指揮官はその機体が、本国で開発されたばかりの最新鋭機”アイアース”であるということに気付いた。そしてパイロットの名乗った部隊名にも聞き覚えがあった。

 

「ザラ隊……あの実験部隊か!いやしかし、あの弾幕を突破は無理だ、危険過ぎる」

 

<心配無用、我々の機体はPS装甲製でビームを除けばそこまで怖くない。それに……奴があの程度で落ちるものか>

 

そう言うと彼と他2機、合計で3機の”アイアース”も、『隊長』を追って弾幕の中に突っ込んでいってしまった。

指揮官は一瞬呆気にとられてしまうが、それどころではないと頭を振り、指示を出す。

 

「各機、今突っ込んでいったバカ共を支援しろ!バカであっても無駄死にはさせるなぁ!」

 

 

 

 

 

基地に向かって急降下していく赤い戦闘機、巡航形態の”ズィージス”の中で、アスランは心臓が平時よりもずっと早く拍動する中で、やけに落ち着いている自分がいることに気付いた。

不思議な感覚だった。PS装甲で出来ていると分かっていても目の前に迫るミサイルや砲弾への怖さは消せないし、ビームなんてなおさら、しかも自分はその真っただ中に突入中。

正直これが正しいことなのかは分からない───たぶん間違いだ───が、なんで実行してしまったのだろうか。

自信、驕り、自暴自棄。この中でもっとも当てはまるものがあるとすれば、たぶん自暴自棄だろう。

アスランにだって分かる、この戦闘の引き金となった協定違反が仕組まれたものであるくらいは。

まるで協定が破られる時が分かっていたように準備が進められ、実際にそうなった。これで気付くなと言われる方が難しい。

もっとも、分かっていた上で無視している人間が大半なのだろう。……これを発案しただろう父のように。

認めたくなかった。ZAFTがそこまで追い込まれてしまったことも、意図的な協定違反を黙してしまえる上層部も、父が変わってしまったことも。

 

(父上……どうして、こうなってしまったのでしょうか)

 

いかにタカ派と呼ばれていても、父はたしかな優しさを持つ人間だった。1人の人間として不当な扱いに立ち向かう(こころざし)も持っていた。

今の父は違う。勝利のために手段を選ばず、優しさを怒りに変えた復讐者だ。

そんな父の期待に応えるために、自分はZAFTに入った筈だった。しかし、今はそうではなかったのかもしれないと思う。

きっと、()()が理由だったのだ。

このままでは父も死んでしまうのではないか?あるいは、自分の知らない誰かになってしまうのではないか?それがたまらなく怖かった。だから、たとえ将と兵の関係であっても、つなぎ止めるために、兵になったのではないか?

その答えはいやにしっくりときた。だから、怖くてもこうやって危険に飛び込んでいくのだ。

父を、唯一の肉親を狂わせたままで死ぬわけにはいかない。戦争を終わらせ、あの微笑みを取り戻すまで、死ぬわけにはいかない。

だというのに、だからこそ。

この(対空砲火)は、邪魔だ。

 

「戦い抜いてみせる……全てが終わるまで、俺は死なないっ!」

 

何かが自分の中で弾ける感覚と共に、全てがスロウリィに感じられるようになる。

ミサイルの壁を突っ切り、時折混じるビームを躱し、アスランは進む。

前へ、前へ、前へ!

気付けば、目の前に対空砲台があった。アスランは即座に”ズィージス”をMS形態に変形させ、ビームライフルを照準、発射する。

熱線を撃ち込まれた対空砲が爆散し機能を失うのを見届けずに、アスランは次の対空砲台をターゲット、次々と破壊していく。

近くの”ダガー”、”テスター”がそれを妨害しようとするが、”ズィージス”はそれを意に介さずにすり抜け、次々と対空システムを破壊していく。

そして”ズィージス”に気を取られたMS隊、あるいは”ズィージス”の進行方向とは別にある対空砲台を、3機の”アイアース”が掃討していく。ビームライフルや背部のミサイルポッドを発射して手早く敵を処理していく様からは、彼らもエースないしそう呼ばれるに足る能力を持っていることを察せられる。

幸運にもコクピットへの直撃を避けた”テスター”のパイロットは、機体から命からがら脱出すると、今もなお蹂躙を続ける深紅の機体を見て、恐れおののきながら呟く。

 

「俺達は、何を敵にしたんだ……?真っ赤な、真っ赤な……」

 

アスラン達の活躍も相まって、航空部隊は無事に沿岸の制圧に成功、上陸部隊が安全の安全を確保した。

この戦闘でアスランと”ズィージス”は23機のMSと14機の対空砲台、他多数の戦果を挙げる。

生き残った兵の話から、突如として現れ、全てを焼き尽くすようなその戦いぶりを見せつけたことは連合にも知れ渡った。

パイロットの正体も相まって連合軍は彼を敵エースパイロット『紅凶鳥(クリムゾン・フッケバイン)』として認定、要注意戦力としてマークされることを、アスランはまだ知らない。

 

 

 

 

ハワイ諸島 ハワイ島エリア

 

主戦力は南西だが、ZAFT作戦司令部は陽動も兼ねてこちらにも部隊を派遣していた。

ヒッカム空軍基地が存在するのはオアフ島だが、その他の諸島を無視していいということはない。特にこのハワイ島はハワイ諸島と呼ばれる島々の中でも最大の面積を誇り、また、もっとも南方に位置することから南太平洋の警戒を担当するのはこの島に存在する拠点だったことから、派遣が決まったのだ。

しかしそれだけにハワイ諸島の中ではヒッカム空軍基地に次ぐ規模の拠点であり、充実した戦力の前にZAFTは攻めあぐねていた。

今もまた、風の強い岩海岸に上陸した“ゲイツA型”をソードストライカーを装備した”ダガー”が対艦刀で切り捨てる。

 

<これで3機目、連中、どれだけの戦力をつぎ込んでいるんだ!?>

 

<落ち着け、連中の主戦力はオアフだ。だとすればこちらはマシ、いつか限界が来る。むしろ、こっちを片付けてあちらを助けに行くくらいの気概でいろ>

 

<りょ、了解>

 

その機体に近づいていく2機の”ダガー”。それぞれエールストライカーとランチャーストライカーを装備しており、エールストライカーを装備している機体が隊長機のようだ。

制式量産機ではあるが比較的高価な”ダガー”のみで構成されるこの小隊は、精鋭部隊と言っても差し支えないだろう。

だからこそ、()は目を付けた。

超電磁加速された砲弾が突如として飛来し、隊長機の右肩から先を吹き飛ばす。

 

<ぐあぁっ!>

 

<なんだ!?>

 

レーダーを見ると、こちらに急速で接近する機体の反応がある。

どうやらその機体は飛行しているらしかった。”ディン”にしては高い火力を持っていると感じた”ソードダガー”のパイロットはその接近する機体を目に捉え、絶句する。

その機体は先ほど自分が切り捨てた機体と同じ”ゲイツ”タイプであったが、大きく違う点がいくつかあった。両腰に取り付けられた砲、あれで隊長機を砲撃したらしい。

まず、”ゲイツA型”は緑主体の機体色であるのに対し、この機体はライトブルーが基本。

そしてその背中には”グゥル”をコンパクトにしたようなバックパック、いや、『リフター』と呼ぶべきものが付いている。

見慣れない装備の敵機に対して”ランチャーダガー”は背負った『アグニ』を数発発射するが、その機体は鮮やかに避けながら接近し、左手のシールドと一体化したガトリングを発射してくる。

支援機である”ランチャーダガー”を守るために”ソードダガー”も盾に内蔵されたロケットアンカー『パンツァーアイゼン』を発射する。

青い”ゲイツ”は驚くべき反応速度でシールドから抜き放った偃月刀のようなヒートサーベルでワイヤーを切断、そのままの勢いで狙いを”ソードダガー”に変更し、右手から何かを発射する。

 

<なにっ!?>

 

「これで決まりだ!」

 

発射されたそれはワイヤーにつながれており、”ソードダガー”の装甲に張り付くと同時に高圧電流を流し、機体の制御系をショートさせる。

護衛が全滅した”ランチャーダガー”に迫り、ヒートサーベルで両脚部を切断、行動能力を奪い去る。

 

「ははっ、この機動は最高だなぁ!”ジン”とは違うね、”ジン”とは!」

 

青い”ゲイツ”こと、”ゲイツ・インヴォーク”に搭乗していたパイロット、ハイネ・ヴェステンフルスは自分に宛がわれた機体の性能に歓喜の声を挙げると、行動不能にした”ダガー”3機に対して投降勧告を行なう。

別に人命を重視したとかではない。やりたくはないがハイネは殺せと言われれば割り切って殺せるし、殺すなと言われれば敵を殺さずに事を為せる、優秀な兵士だ。

今回も、そうだというだけ。

”ダガー”の鹵獲を命じられたから、そうするだけだった。

 

「ただ、なぁ……」

 

1つだけ不満があった。

他の人間には取るに足らないことかもしれないが、彼的には外せないこだわり。

 

「オレンジに出来てれば、なぁ……」

 

このままでは、本格的にあの後輩のカラーとして定着してしまうではないか。

先に始めたのは自分なのに。

 

 

 

 

 

この3時間後、ハワイ島の南部、オアフ島の西端が制圧された。このことを受けた司令部はハワイ諸島での継戦を断念。

予想だにしなかった、ハワイ諸島撤退の実行が決定された。

*1
詳しくは『対米覚書』を閲覧のこと




なんとか年内最後の更新、間に合った!
更新遅くなって申し訳ない……(泣)。

今回登場した機体や武装の解説とステータスを載せます。”インフェストゥスⅡ”や”エアーズロック”等は既に解説済みなので、無しです。
長いので興味が無いという人はスキップ推奨。





○耐海中浮上機雷-深淵
第2回「オリジナル兵器・武装リクエスト」より、「ムッシー」様のリクエスト。
1m~3mまでのバリエーションサイズのある球体型機雷。上下に4対の爪がある。
海中散布後で海底まで沈み、下部4本の爪で海底にひっつく。独自のソナーがあり、索敵範囲内にひっかかった物体に対し、急上昇し上部4本の爪で対象にくっつく。その後、約1分の間、特殊信号を発生させ周囲の機雷を一斉に誘引させる。その後、連鎖爆破。
実験した結果として1mサイズ50発、3mサイズ約10発ぐらいでMSの海中行動不能にさせる威力がある。

シンプル故に安価で量産がきく。また、広範囲にバラまく事で制圧能力もある程度ある。
味方機体に特殊信号の送信機を積んでいないと反応される。

○ゲイツ・インヴォーク
同じく第2回より、「佐藤さんだぞ」様のリクエスト。
ビーム兵器搭載前のゲイツの設計データを基に、テスターとの戦闘記録やイージスの機体データなどの類を用いて作られた対MS用MS。

PS装甲非搭載MSとの戦闘を前提に作られており、ビーム兵器を搭載していない代わりに総合的な機体性能の底上げが行われている。
また、実弾兵器が主になっているため、弾切れの状況下でも戦えるよう近接向きなMS。
初期カラーはライトブルー。

武装は頭部バルカン
バックパックの代わりに装備されたリフター“ゴースト”
ヒートサーベルを収納したガトリングシールド
両腰に取り付けられたレールガン
前腕部には脱着可能な3連装ガトリング砲
右腕部にはヒートワイヤー
(状況に応じて、重突撃機関銃や無反動砲、脚部ミサイルポッドなどを装備する場合もある)

特にリフター“ゴースト”はSFS“グゥル”の発展させた装備であり、メインスラスターとして機能することは勿論のこと、分離し上部に乗り込むことも可能(無線および有線遠隔操作機能付き)。
また“ゴースト”にもバッテリーを搭載することでエネルギーの節約と共有化、出力の向上化に成功している。
武装としてはバルカンおよび着脱可能なミサイルポッド。
(これをさらに発展させたのが、“ジャスティス”の“ファトゥム00”)
モデルは”グフ・カスタム”と”火器運用試験型ゲイツ改”。

以上、2つのアイデアを採用させていただきました。
素敵なアイデア、ありがとうございます!



最後にステータス。

アイアース
移動:7
索敵:B
限界:175%
耐久:400
運動:36
シールド装備
PS装甲

武装
ビームライフル:150 命中 70
ミサイルポッド:120 命中 60
バルカン:30 命中 50
ビームサーベル:165 命中 75



ゲイツ・インヴォーク
移動:8
索敵:C
限界:180%
耐久:180
運動:32
シールド装備
飛行可能

武装
ガトリングシールド:100 命中 55
レールガン:200 命中 45
ガトリング:80 命中 50
ヒートサーベル:210 命中 75
ヒートワイヤー:150 命中 50(防御無視)



エアーズロック
移動:6
索敵:B
限界:140%
耐久:350
運動:10
搭載:6

武装
主砲:120 命中 45
※外見モデルは「ガンダムX」に登場したフリーデン。



アスラン・ザラ(Bランク)
指揮 8 魅力 11
射撃 14(+2) 格闘 16
耐久 15 反応 15(+2)
SEED 3

イザーク・ジュール(Bランク)
指揮 11 魅力 10
射撃 13 格闘 12
耐久 12 反応 10

ディアッカ・エルスマン(Bランク)
指揮 7 魅力 10
射撃 12 格闘 8
耐久 11 反応 11

ニコル・アマルフィ(Bランク)
指揮 8 魅力 12
射撃 9 格闘 10
耐久 10 反応 10

ハイネ・ヴェステンフルス(Bランク)
指揮 11 魅力 12
射撃 12 格闘 12
耐久 8 反応 14



では、これにて。
何か質問がある場合はどしどし送ってくださると有り難いです。
皆さん、良いお年を!

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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