マモリ「ZAFTが紛れ込んでたのよ!どうして気付かなかったの!?」
基地司令部「バッキャロー!」(コスモ並感)
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プトレマイオス基地 連絡船ドッグ付近通路
ZAFTが紛れ込んでいる。キラは、マモリの言ったことが信じられなかった。
だってそうだろう?ここは連合宇宙軍の最大拠点で、今は休戦中で、しかもそれはまだ継続していて───。
「───了解した、連絡員を残す。自分はこれより潜入部隊の追撃に当たる。なに、単独では危険?ラクス・クラインの身柄が抑えられているんだ、見過ごすわけにいくか!」
通信機に十分に怒鳴り散らしたマモリは通信を切ると、床に転がった拳銃を拾い上げ、残り弾数を確認する。ZAFTで正式に採用されているものではなかったが、連合で使用されているものでもなかった。
ちなみに現在の大西洋連邦は、かつて35年もの間制式採用されていた拳銃ベレッタM92の直系機種であるベレッタM192が使われている。見た目は傑作機M92と同様だが、素材がステンレスから強化プラスチックに変わっているなどの改良が施された、信頼性の高い機種だ。
今マモリが拾い上げたものは、かつてイスラエルで使用されていたジェリコ941に似ている。マモリはそれが、ジェリコ971という後継機であることを知っていた。
───それが非正規兵御用達の代物であることも。
死体からは予備弾倉が2つ出てきた。
「さて、と。ヤマト少尉、シンジョウ少尉。お前達はここに残り、これからやってくるMPに事情を説明した後に安全な場所まで退避しろ」
「りょ、了解。……あの、教官は?」
「奴らを追う。ヤマト、奴らは”コペルニクス”との連絡船の方へ向かったんだな?」
「それはそうですけど、まさか1人でいくつもりですか!?」
「当たり前だ、貴様らのような素人を連れて行くわけにはいかん」
キラが驚きの声を挙げるが、マモリはしかめっ面で淡々と返す。
たしかに一度も生身での戦闘を経験したことのないキラ達を連れていくという選択は、あまりよろしいものではないのかもしれない。
しかし、敵は服数人いる。キラが咄嗟に確認出来た限りでもこの死体含めて5人以上はいたのだ。
それをマモリだけに追撃させるというのは、余りにも無謀だ。
「自分も行きます、きょ……中尉を1人で行かせるわけにはいきません」
「ダメだ、お前達は……」
「自分は、もう、
命がけの戦いも、ましてや人殺しなんて、とっくに経験済みだ。
キラはそう言って、マモリを説得する。
マモリは少し逡巡した後に、キラに自分の使っていた拳銃と、その予備弾倉を渡す。
「貸す。こっちのに比べれば、そっちの方が使い易いだろう。壊すなよ?」
「……!はい!」
すぐに弾倉を引き抜き、残弾数を確認する。
ベレッタM92に似たこの拳銃は弾倉の中の9mmパラペラム弾の数も15と共通している。
マモリから渡されたこの銃には、あらかじめ薬室内、つまり弾倉を抜いていても装填することの出来る1発含めて2発が発射済みなので、予備弾倉も含めて29発発射可能ということになる。
貴重な29発、慎重に使わなければなるまい。
「私とヤマトは、これから連中を追撃する。シンジョウ、お前はここで待機し、MPの到着を待て。いいな?」
「りょ、了解しました」
マモリはそう言い残すと、足早に通路の先、ZAFTと思われる集団の後を追い始める。
キラもそれに着いていき、その場にはユリカ・シンジョウと物言わぬ死体のみが残された。
<こちら、ディーバレスキュー01。状況を報告せよ>
……。
<なに?……っち、だから素人を寄越すなと言ったんだ。いや、奴に任せた俺のミスか?>
……。
<了解した、
……。
潜入部隊の後を追うキラとマモリは、油断なく拳銃を構えながら通路を進む。時折廊下に転がっている兵士や職員の死体がキラに言い様のない不快感をもたらすが、マモリはチラリと視界に入れるのみで足早に進んでいく。
やはり教導隊に選ばれるような人物は違う。感心したキラは、ふと疑問に思ったことを尋ねてみることにした。
「きょ……中尉。質問よろしいでしょうか?」
「言ってみろ」
マモリは視線を前方に向けたまま、キラに質問の許可を与える。
幸いと言うべきか近くに敵の気配も無いので、マモリは教え子の疑念を払拭することを決めていた。
「中尉は、なぜあの敵をZAFTと断定したんですか?」
「写真は見ただろう、わざわざ説明しなければわからんかボケが」
「そりゃわかります。砂時計をバックにZAFTの制服着てるなんて、軍人なら誰だって。……わかりやすすぎませんか?」
プラントを背景にした写真、その中には射殺された男の姿も映っていた。男がZAFTの構成員だという明らかな証拠。
休戦協定中の敵の拠点に潜入するというのに、あのようなあからさまな証拠が出てくるのがかえって不自然だというのは、ある程度の教育を受けたキラにはわかっていた。
だがマモリはあの時、ためらいなくZAFTのメンバーだと司令部に断言した。
「あれじゃあまるで、ZAFTの構成員ですとアピールしているみたいです。もしかしたら───」
「私が、連中をZAFTだと判断したのにはいくつかの理由がある」
キラの言葉を遮り、マモリが話し始める。キラはその言葉に耳を傾けた。
「まず1つ、敵はラクス・クラインの身柄の確保が目的らしいということ。殺害が目的だというならわざわざ体を運ぶ必要も無い。2つ目にわざわざお前達を殺害しようとしたこと。もしも黒幕がユーラシアや東アジア、連合の主導権を狙う者であるというなら、わざわざ作業員として紛れ込み、”コペルニクス”の連絡船を使う必要が無い。もっと楽に連れ出せる。このような面倒なことをしてでも身柄を確保したい勢力となると、ZAFTくらいなものだろう」
「なるほど。……でもそれだと」
「ああ。ラクス・クラインの救出部隊というには、余りにもお粗末だと言うんだろう」
そう、そうなのだ。潜入部隊の正体がZAFTという可能性がもっとも高いのはいいとしても、それはそれで疑問になるのがそこだ。
プラント最高評議会議長の娘、そしてプラントのトップアイドルでもあるラクスを救うのに、あのようなミスをする輩がいるというのが、どうしても引っかかるのだ。
救出する気があるのかどうか疑わしくさえある。
「……もしかしたら、失敗しても構わないのかもしれない」
「え?」
「既に、彼女にそこまでの価値が無く、救出に成功しても失敗してもいいのだとしたら?それはつまり、プラント国内では既に……」
マモリがそこまで言ったところで、通路が揺れた。否、通路がではない、基地全体が揺れているのだ。
『月震』という月独特の地震が起きることもあるにはあるが、弱い揺れが長時間続くのが特徴な『月震』と違う、散発的で強い揺れが連続して起きる。
「中尉、これって……」
「ちいっ、やはり潜入部隊だけではなかったか……!」
程なくして、基地全体にサイレンが響き始める。
プトレマイオス基地、第一種戦闘態勢。
それは、仮初めの平和が砕かれた瞬間に他ならなかった。
時は少し遡り、マモリ達が潜入部隊の追撃を始めたころ。
プトレマイオス基地の司令部は突如舞い込んだ敵襲の報を受け、混乱状態にあった。
休戦協定中というのもあるが、なぜこの基地にラクス・クラインが捕らえられていることがZAFTに漏れたのか、どうやって侵入してきたのか、そもそも本当にZAFTの仕業なのか。
判断材料が少ないこともあるが、とにかく潜入部隊を基地から出さないためにMPを出動させることを決めたところで、基地周辺のレーダー観測員がそれを捉えた。
「ん、隕石?よりによってこんな時に面倒臭い……自動迎撃装置は正常作動中、問題は無いな」
これまで何度も繰り返してきた作業であるため、この迎撃が成功することに疑いは無かった。
かくして迎撃用のミサイルが隕石に向かって飛んでいき、迫り来る隕石に命中する。
小さな爆炎が宇宙空間に広がるが、次の瞬間、それを何かが突っ切ってくる。
「んっ!?な、なんだあれは!?」
「報告!」
「隕石の影に……いや、バルーンで隕石に偽装したのか!?所属不明艦が当基地に接近中、データ照合……ダメです、該当ありません!」
前方に大きく突き出た艦首が特徴的なその艦は、船体中央から3連装の砲塔をせり出してくる。よく見れば、艦橋らしき部分を挟み込むように配置された2連装の砲塔も、こちらを向いているではないか!
「総員、第一種戦闘配置!所属不明艦に告ぐ、貴官らの所属と目的を明らかにせよ!」
不明艦からの返答は、砲撃によって為された。
「各艦、鶴翼の陣を形成しつつ砲撃開始。間違っても指定エリアには当てるなよ?各艦の奮闘を期待する」
奇襲を仕掛けた所属不明艦、”アテナイ”級巡洋戦艦1番艦”アテナイ”の艦長にして作戦の司令官、ライエル・アテンザの指示に従い、
先ほどまで偽装されていた”アテナイ”の後方から、同じように隕石がプトレマイオス基地に向かった飛んでくるが、それらは全て、隕石に見せかける偽装を施されたZAFT艦隊。たちまちバルーンが破裂して真の姿を晒していく。
”アテナイ”を貴艦として”ナスカ”級4隻、”ローラシア”級2隻の中規模艦隊。それが、『ラクス・クライン救出作戦』に参加する陽動艦隊の総勢であった。
ライエルの副官は、この作戦に乗り気ではなかった。作戦の意義はどうでもいい、上が協定を守れと言えば守るし、破れと言えば破る。
気にくわないのは作戦に参加する戦力についてである。
新型艦があるのはいいとしても、たった7隻で連合宇宙軍の本拠地を攻撃?それはいったい何という名前の刑罰なのですか?
もっと解せないのは、この作戦にあっても自分が副官を務めるライエル・アテンザは顔を顰めることすらしなかったことである。
「ここからが、本番ですね」
「そうとも、ここで得られるのはあくまでボーナス、そこどれだけ上手くやれるかだよ。港口を潰せ、一隻たりとも発進させないつもりで撃つんだ」
ライエルの指示に従い、艦隊は基地に対して攻撃を加えていく。
『そもそも敵艦を発進させない』、それこそがライエルが司令官として取った選択であり、作戦を成功へと導くためのベストな手段であった。
「艦隊と真正面から戦ったら負けるなら、そもそも真正面から戦わなければいい。そもそも戦いの盤面に上げてやらない。……悪いが、我々も死にたくは無いのでね。屈辱を抱えて死んでいってくれたまえ」
「艦長、物憂げに格好付けてるところ申し訳ないのですが、敵艦隊です。おそらく定時監視周回の艦が集まったものでしょうね」
「まあ、そうなるな」
自分の作戦を妨害しかねない存在が現れたことにライエルは苦笑を隠せない。
そりゃそうだ、たかが奇襲に成功した程度でペースを握り続けられるとは思っていない。作戦には確実に妨害が入って然るべきだ。
「敵艦隊は”ネルソン”級2に”ドレイク”級3、おっと、基地からもMS隊が出撃してきましたね。どうします?」
「無論、応戦だ。各艦からMS隊を発進させろ、守備隊の迎撃を食い止める。艦隊は……我々がなんとかしようかね」
「……了解しました」
その一言を皮切りに、”アテナイ”は敵艦隊へと向かっていく。
基地への攻撃の手を緩めるわけにはいかないが、敵艦隊を迎撃しなければならない。
ちょうどライエルには、”アテナイ”単艦で艦隊を食い止めるだけのビジョンがあった。司令官が前に出ることの善し悪しはケースバイケースだが、この場合は”アテナイ”が食い止めるのが最適だと判断したからそう使うというだけなのだ。
「あれのテストも兼ねて、ね。───”マイスタージンガー”、照準」
「了解、”マイスタージンガー”発射準備」
”アテナイ”の大きく突き出た艦首から、一つの砲門がせり出していく。
通常のビーム砲よりも一回り、いやさ二回りほど巨大なその大砲は、プラント本国で先日開発され、この”アテナイ”に先行搭載された新兵器。
連合軍の新型艦の性能に脅威を感じたZAFTが作り出した、必殺の兵器。すなわち───ZAFT製陽電子砲である。
「陽電子バンクチェンバー臨界、マズルチョーク電位安定」
「よーしよしよし、では……放て」
ライエルの号令を受け、砲門にため込まれた陽電子の塊が敵艦隊に向けて迸る。
その威力は”アークエンジェル”に搭載されたものに勝るとも劣らず、命中した”ネルソン”級を1撃で撃破せしめた。
その威力に慄いたのか、艦隊は2つに別れて狙いを分散させようとする。
それこそが、ライエルがこの1撃に求めた結果であった。
「今だ、MS隊発進!分散した艦隊など恐れるに足りん、各個撃破しろ」
その命令に従って、艦体の左右の発進口からMSが射出されていく。
一度に4隻もの敵艦とその護衛部隊を敵にするのは危険だが、2隻ずつに分けてしまえば大したことではない。戦争初期にNジャマ-によって従来の通信機能を無効化された連合艦隊は連携を乱され、MSによって各個撃破された。
かつてNジャマ-が行なったように、ライエルは陽電子砲の威力で敵艦隊を分断したのだ。
もちろんそれは敵艦の艦長も理解しているだろうが、固まって動いても陽電子砲に命中する可能性が高まるだけである。
ライエル・アテンザの恐ろしいところは、『敵がそう考えて動くだろうということを考慮して陽電子砲を放った』という点だ。
「えー、”マイスタージンガー”の調子はどうかな?」
「砲身冷却中、また陽電子チェンバー内への陽電子充填も行なわれておりますが、再使用には53分の猶予が必要です」
「1時間弱で1発かぁ……。まぁいい、仕事はしてくれたしな」
「後は地道に潰していくだけです、踏ん張りどころですよ」
副官の言葉に、ライエルは顔を顰める。
「やなんだよねぇ、そういうの、明確な時間制限の無い持久戦。この作戦の成功条件を言ってみたまえよ」
「『ラクス・クラインの救出』です」
「そう、それ。たかが1人の女の子連れてくるだけで、なんで艦隊引っ張り出さなきゃいけないのさ。そのクセして潜入部隊の中には自分達の所属を明かす代物を忍ばせる間抜けを入れる……やだねぇ、上のお考えって」
「やる気を出せ……というのは今更ですが、そこまでにしといた方がいいですよ。他の兵のやる気も削がれます」
「いやさぁ、いかにも大義ありますって面して兵士諸君に指示するこっちのことも考えてってこと」
「どういうことです?」
副官が話の筋をつかめずに困惑と共に疑問をぶつけると、ライエルは心底不愉快だという表情を隠さずに答える。
「
「それは……」
「そしてこのプトレマイオス基地を初めとして、
そう言うとライエルは艦長席の肘掛けに頬付いて、本心の正反対に位置するであろう言葉を吐く。
なぜ本心の正反対と断言出来たかというと、それなりの付き合いである副官にはその表情が、ヤケクソに近いものであると分かった故に。
「あー、戦争たーのし」
「本当にあんたの頭の中どうなってるんです?」
「やあ皆。俺だ、クライド・フォッシルだ。今日は隊の皆と月面に遠足に来たんだ!これから始まるのは、楽しい楽しい
「トリップするなら終わってからにしてください。レクリエーションで死にたくないでしょう」
整備兵からの呆れ混じりの目線が染みるなぁ。主に平常心に。
死んだ目でMSの起動準備を進めながら現実逃避するのは、かつて第2次ビクトリア基地攻防戦で生き残り、『
案の定激戦区へ回されることになった彼の次の任務は、基地から発進してくる敵MS部隊から艦隊を護衛することだった。
艦隊の攻撃が途切れたら、敵基地の艦隊が出撃してきてゲームオーバー。潜入部隊が時間をかけ過ぎても、やはり徐々に増えてくる敵部隊に押しつぶされてゲームオーバー。撃墜されたら生きてても救助なんてする余裕は無いだろうし、これでもゲームオーバー。
やはりこれクソゲーなのでは?クライドは訝かしんだ。
「せっかくの新型なんですから、有効活用してくださいね?」
「ちくしょう、他人事だと思ってぇ」
現状を嘆くクライドだったが、救いはある。彼に回されてきたMSが新型だということだ。
正式名称は”ゲイツA型”というこの新型は”シグ-”を上回る総合性能を持ち、連合の次期主力MSだという”ダガー”とも渡り合えると整備兵は言う。
たしかにその手に持ってるレールガン”シヴァⅡ”は”テスター”を1撃で破壊出来るらしいし、右腰に付けられたレーザー重斬刀の威力は数々の試作機からのお墨付きだ。
クライドは知り得ないことだが、これは本来の歴史、『原作』では存在すらなかった機体だ。
”ヘリオポリス”から奪取したMSの性能を考慮すればきちんとビーム兵器を持たせるべきである。だがそれが判明した時点での”ゲイツ”は精々シグ-に毛が生えた程度の性能しかなく、設計を見直す必要が出来た。
しかしそれを実現出来るころには戦争の大勢は決しているだろうから、場つなぎ的な意味でこの機体が配備されることになったのだ。『PS装甲機に対抗出来る』としてレーザー重斬刀が装備こそされているが、それも苦肉の策でしかない。
『レーザー重斬刀で対抗出来る』ではなく、『レーザー重斬刀でしか対抗出来ない』が正解だ。射撃武器はもれなく全て実弾である。
それでも、戦局を鑑みて配備せざるを得なかったというのが、ZAFTの世知辛さを表していると言えよう。
そんなことは露知らず、クライド・フォッシルは機体を発進口まで運ぶ。
───せめて、『”ダガー”を凌駕する』くらいは言って欲しかったけどな!
心の中で文句を言う彼だが、けして口には出さない。そんなことを言うと誰彼に怒られるのは目に見えている。
あるいはそこでハッキリと口に出せる人間であれば、きっぱりとZAFTを退役することも出来たのかもしれない。そう思いながら、クライドは出撃していくのだった。
「クライド・ファッシル、“ゲイツ”、出るぞ!頼むから帰ってくるまで沈むなよ!?」
『セフィロト』
”コロンブス”艦橋
「発進準備、発進準備!」
「MS隊はいつでも出撃出来るようにスタンバっておいてください!」
いつものオペレーター面々が忙しなく機材を操作し、通信機に叫ぶ中、ユージ・ムラマツは艦橋に足を踏み入れる。
「状況は!?」
「発進準備が完了するまであと2分、観測機器は最大稼働させてますよ!」
「わかった」
エリクの報告を聞いたユージはそれを聞くと、通信機を操作して副官のジョンを呼び出す。
ジョンは現在、”マウス隊”のオフィスにて待機しているはずだった。
<隊長、ご指示を>
「ジョン、お前はそこで待機だ。留守を任せる」
<了解です>
現在”コロンブス”にはユージと、MSの整備要員としてマヤも乗り込んでいる。
”マウス隊”の中でも上位権限を持つ3人の内2人が乗り込んでいるのだから、1人は基地に残しておきたい。そう考えたユージの指示の意図をくみ取ったジョンは、速やかに了承する。
「頼む。……しかし、解せないな。なぜ奴らはこのタイミングで協定破りなど」
「ただラクス・クラインの居場所を掴んだから救出しようっていうなら、楽なんですけどね。この作戦を考えたバカが相手にいるとわかりますから」
「マヤ君、MSは良いのか?」
「既に準備万端ですよ、何回こんな状況になったと思ってるんです?」
「それもそうだな」
艦橋に現れたマヤの言葉に納得するユージ。緊急出動などもう慣れっこというのは悲しいことだったが。
ちょうどいいので、ユージはマヤと、この騒動におけるZAFTの狙いを相談することにした。
「マヤ君、連中の狙いはなんだと思う?」
「判断しかねます。これがZAFTによるものだとすれば特に」
「だな。こんな真似をして手に入れられるのがラクス嬢の身柄だけというのは割に合わん。正体不明な集団の方が、想像の余地があるだけやりやすさも感じる」
「『休戦協定破り』というカードは、有利にも不利にも働く鬼札です。それを切るということは、手に入れられるメリットが大きいということ。いや、しかし……」
頼れる技術部のトップでさえ結論が出せないという現状はわずかにユージの不安を掻き立てるが、今はとにかく月基地を救援しなければならない。
目先の問題を解決することを優先したユージの元に、発進準備が完了したという報告が届く。
「よし、”コロンブス”発進!これより月基地への救援に向かう」
『了解!』
”コロンブス”のエンジンがうなりを上げ、前へ前へと艦体を押し出していく。
その時、ユージは自分の心の中に一つの疑問が生まれたのを感じた。
(やはりこの襲撃は杜撰だ。いくら奇襲に成功しても、この『セフィロト』は月と地球の中間、すぐに駆けつけられる。そのことは連中も理解しているはずだ)
それはこの拠点の長所の一つ、『月基地と密接していることで、片方に何かあればすぐに駆けつけられる』ということ。
戦略ゲームで例えるなら、「ターン終了までにどれだけ敵拠点の戦力を削っても、次のターンには増援が駆けつけてくる」という難攻不落の拠点なのだ。
にも関わらず、月面にだけ戦力を差し向ける?
そこまで考えたところで、ふと艦の外に視線が向く。
見慣れた格納庫、いつも通りに発進する自分達に敬礼する艦外整備士達。何もおかしなことは無い。
そのはずだった。
”コロンブス”の行く手の反対側、『セフィロト』内部に通じるドアの一つ。そこに立つ小柄な人物の存在だけが、異物感を醸し出していた。
遠目にはその人物の背丈くらいしかわからない。
しかし、ユージには、その人物が。
ニヤリ、と笑ったのが見えた。
「───っ!総員、衝撃に備えろ!」
「えっ───」
突然の指示に戸惑う艦橋メンバー達だったが、ユージの指示に従って各々耐ショック姿勢を取る。
次の瞬間、”コロンブス”は大きな衝撃に襲われた。
提督、緊急事態です!
ZAFTが、休戦協定を破って複数の拠点に同時に攻撃してきました!
宇宙では月面プトレマイオス基地と『セフィロト』に、そして地上でも、ハワイ諸島とイギリスエリアに対して攻撃が開始されたと報告されています!
プラント政府からはこの攻撃に対して、「連合軍が卑劣にも
たった一度しか切れないカード、最大限活用するのは当然だよなぁ!?
今回登場したユニットの情報とステータスを載っけときます。
アテナイ
移動:8
索敵:B
限界:170%
耐久:550
運動:12
搭載:6
アンチB爆雷
武装
主砲:170 命中 60
副砲:120 命中 50
ミサイル:80 命中 45
機関砲:40 命中 45
陽電子砲:300 命中 40 (砲撃武装)
○ZAFTが開発した新型巡洋戦艦。
”アークエンジェル”との戦闘で得られたデータから、もはや新型MSを開発するだけでは戦争に勝てぬと悟った司令部からの命令で造られた。
参考にした”アークエンジェル”とは違って宇宙でしか使用出来ないが、単純な性能では比肩する。
主砲として新型のビーム砲”オデッセイ”、副砲として”ペネーローペ”など様々な新兵器が搭載されているが、試験的に搭載された陽電子砲”マイスタージンガー”の威力は絶大で、連合軍の艦艇を1撃で沈めることも可能。
しかし発射間隔は一時間弱で1発と非常に長く、使いどころを見極める必要がある。
見た目のイメージ的には大型の翼とインパルスシステムの無いミネルバといった感じで、もしもこの世界でミネルバが造られることがあったならこの艦がプロトタイプとして位置づけられる。
ゲイツA型
移動:6
索敵:D
限界:150%
耐久:180
運動:24
シールド装備
武装
レールガン:130 命中 60
レーザー重斬刀:170 命中 65
○ZAFTの新型MS。
奪取した”イージス”の性能を鑑みて早急にビーム兵器を標準搭載したMSを量産する必要があると司令部は判断したが、この世界では”テスター”始め連合軍のMSが早期投入、しかもそれらの性能が”ジン”や”シグ-”を凌駕することから、「早々に新型を投入しなければ、完成を待たずして敗北する」と結論。結果、場つなぎ的な意味でこの機体が投入された。
とは言っても基本性能は優秀で、武装として採用されたハンドレールガン”シヴァⅡ”は”テスター”であれば1撃で破壊出来る威力を持つ。
対PS装甲としてはレーザー重斬刀が装備されているのみだが、そもそもPS装甲MSは連合でも量産が難しいことから、大きな問題では無いとされた。ビームライフルを標準搭載出来なかった言い訳とも取れるが、連合軍の主力MS”ダガー”はビーム兵器に高い耐性を持つので、結果的には最適解であったと取れる。
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。
追記
活動報告、更新しました。