機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
連合地上軍「他人の土地で水平花火大会を開きました!とっても楽しかったです」
汎ムスリム会議「ふざけんな」

非戦闘回もとい伏線回です。


第56話「過ぎゆく日々」

3/9

『セフィロト』 宇宙船ドック

 

「ここに来るのも久しぶりだな……」

 

この場所に来るために乗ってきた宇宙船を降り、辺りを見渡しながらモーガン・シュバリエは呟く。

MSの地上における戦闘データ取得、そして地上部隊へのMS教導のために地球へ降りたはずの彼は今日、隊長であるユージに呼び戻される形でこの『セフィロト』に帰還していた。

MS用新装備のテストも兼ねて、激化が予想される地上戦線に備えて新しいMSを用意してくれたらしい。そのことを聞いたモーガンは地球からここまで、まるで遠出の予定がある子供のように高揚しながらやってきたのだった。

 

「どんだけ作戦を練っても、流石に”テスター”じゃ限界が来てるからな……良いタイミングで呼んでくれたぜ」

 

「あっ、いた!モーガンさん」

 

懐かしいその声に振り向くと、そこには部隊設立から何度も共に戦ってきた仲間達、アイザックとカシンが立っていた。アイザックの後ろに若干隠れるように、セシルもいる。

部隊設立当初、戦闘に耐えられるようにしごいた時の苦手意識が抜けていないようだ。そのことに気付いたモーガンは、クスリと笑いをこぼす。

地上では何度も、教導したパイロット達の死に目に立ち会うことになってしまったが、彼らはかつて別れた時と変わらず、壮健でいてくれた。そのことが嬉しく思えたのだ。

 

「おう、お前ら!久しぶりだな。元気にしてたか?」

 

「はい!」

 

「なんとか元気ですぅ。……ゲームする時間は前より削られましたけど」

 

「そりゃ良かった。ところでセシル、てめぇはちゃんとトレーニングしてたんだろうな?」

 

「ぎくっ……も、もちのろんじゃない、ですか。アハハ」

 

挙動不審なセシルの様子と、苦笑いを浮かべるアイザックとカシンの表情を見て、モーガンは確信する。

こいつ、サボってやがった。

 

「パイロットは体が資本っつったろうが!ったく、こりゃ一度体力テストでもしてみたほうが良いかもしれんな?」

 

「げげぇ!勘弁してくださいよぉ」

 

「だからサボるなっていったのに……」

 

そんな風に和気藹々としていると、彼らに近寄ってくる人物がいる。

モーガン達が目を向けると、そこにはいつものように、ユージ・ムラマツの姿が。

 

「久しぶりです、モーガン大尉」

 

「ジョン?」

 

なかった。

いつもだったらここでユージが現れて本題に入るのだが、今回現れたのは彼の副官のジョンのみで、どこにも姿が見当たらない。

はて、どうしたことだろうかとモーガンが首をひねっていると、ジョンが説明を始める。

 

「隊長は昨日、5日間の休暇兼出張のため地球に向かいました。ちょうど入れ違いになったということですね」

 

「休暇?」

 

「はい。最近の隊長は働き詰めで禄に休暇も取っておりませんでしたし、休戦が空けたらますます忙しくなることは明白です。そしてちょうど地球に赴く必要も生まれたので、その用事を足すついでに、ということです」

 

なるほど、言われてみれば納得である。

連合軍で公的にMSを運用したのは”マウス隊”であり、実戦経験と知識、そして技術に長けた”マウス隊”は各地に引っ張りだこである。

そんな部隊の隊長であるユージは、なおのこと激務に襲われていたのだろう。先月聞いた話だと、”アークエンジェル”という新型艦の護衛の際に、数日間徹夜で艦隊を運営したらしいし、休める内に休んでおくというのは良いことであろう。

 

「モーガン大尉に機体を渡すのと、試作装備のテストは私が隊長から監督者に任命されていますのでご安心を。なに、いつもの4人組の作ったものをテストするわけではありませんから気を楽にしてください」

 

「それが一番の朗報だぜ」

 

かつて、脚部が脚部の体をなしていない”ベアーテスター”を乗機として宛がわれそうになった経験のあるモーガンは、心底から安心する声を出した。

モーガンとアイザック達はジョンに案内されて、格納庫に歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

「壮観だなぁ、こうもピカピカの最新鋭機が並んでるとよぅ」

 

『セフィロト』内には”マウス隊”専用の格納庫が用意されているのだが、その途中にある一般部隊の格納庫を見て、モーガンは呟く。

そこには、ついに本格量産が開始された“ダガー”がいくつも並んで立っていた。

これらの機体は1機1機がカタログスペックではベースとなった”ストライク”と同等、ストライカーシステムも勿論搭載されている。

生産性の向上のためにPS装甲は使われていない代わりに、胴体にラミネート装甲を用いることで、むしろ耐ビーム防御能力だけなら”ストライク”以上というこれらの機体は、休戦明けに一挙に戦場に投入されることになっている。

ユージが先日この光景を見た時も、思わず感嘆の声を漏らしてしまっていた。

 

105ダガー

移動:6

索敵:C

限界:150%

耐久:200

運動:25

シールド装備

ラミネート装甲

 

武装

ビームライフル:120 命中 65

バルカン:25 命中 40

ビームサーベル:150 命中 70

 

ユージの眼(ステータス閲覧)から見ても、この性能である。運動性だけは”シグ-”の27より少し低い程度だが、それ以外の全てで凌駕している。

更に言うなら、これはまだストライカーを取り付けていない素の状態でのステータスだ。ここから更に各種ストライカーを付け替えることにより、”ダガー”は幅広い戦局に対応出来る万能機体となるのだ。

”ゲイツ”の性能がいかほどかは知らないが、これを圧倒出来る性能というのは早々出る物ではないだろうという感想を持ったユージは、肩の荷をいくらか下ろした気分になって地球に向かったとか。

 

「現在は各部隊の機種転換が行なわれておりまして、完了しだい各艦隊に配備されることになるそうです」

 

「艦隊……そうか、そういえば宇宙艦隊の再建が進んでるんだったな。今はどんな塩梅なんだ?」

 

「さあ、私にはなんとも……隊長の予想では、おそらく第3艦隊までの再建は目前ではないかと言っておりましたが」

 

「へぇ……?」

 

通路を歩きながら尋ねるモーガンに、ジョンは曖昧に答える。

連合宇宙軍は緒戦からユージ達が”第08機械化試験部隊”を設立するまでの間に戦力の大部分を喪失していた。そのため月周辺の防衛を主な任務とする第4艦隊と、新設されたばかりで明確な役割を持っておらず、遊撃艦隊として大規模な戦闘に参加してこなかった第8艦隊以外はほぼ壊滅状態といってもおかしくはない状況にまで追い込まれていたのである。

それがいまや第1から第3艦隊までの再建が目前に迫っているとは、身内事ながら大したものだとモーガンは思った。

 

「っと、着きました。こちらです」

 

ジョンに案内されて入った場所は、『セフィロト』完成後すぐに地球へ降りてしまったモーガンにはなじみの薄い、”マウス隊”専用の格納庫であった。

そこにはここまでの道筋で見てきたのと同様に”ダガー”が1機置いてあるだけだったが、それこそがモーガンの求めていたものであった。

 

「待っていましたよ大尉」

 

「おう、マヤ。あいつらは一緒じゃねえのか?」

 

入るなり声を掛けてきた”マウス隊”技術主任のマヤに返事を返しながら、いつもの4人組はいないのかと疑問をぶつける。

マヤは苦笑しながら、彼らもまた休暇中であると返した。

 

「『この機に参考資料を熟読することでこれからの戦いに備える』と言って、部屋に籠もってしまいましたよ。また4人で昔のアニメを漁っているだけです」

 

「あいつらは変わらねえなぁ……。で、こいつが?」

 

親指で示しながら問うモーガンに、マヤはうなずく。

 

「はい。見た目こそ普通の”ダガー”と変わりませんが、中身はモーガン大尉に合わせてチューニングしてます。さしずめ、”ダガー・マッドドッグカスタム”といったところでしょうか」

 

そう、これこそがモーガンに用意された新しい剣。

味方との連携を主軸におくモーガンのスタイルに合わせてカスタムされ、モーガンが乗ることでのみ真価を発揮する機体である。

 

ダガー・MDカスタム

移動:7

索敵:B

限界:150%(モーガン搭乗時200%)

耐久:210

運動:32

シールド装備

ラミネート装甲

 

武装

ビームライフル:120 命中 70

レールキャノン:140 命中 55

マイクロミサイル:80 命中 50

バルカン:25 命中 40

ビームサーベル:150 命中 70

 

本体の改良点は指揮官機として通信機能の強化と各部パーツへの微調整のみだが、新造された”マッドドッグストライカ-”が目を引いた。

ストライカーの内訳としては増加スラスターを中心として左側にレールキャノン、右側に8連装マイクロミサイルポッドがマウントされており、機動性と実弾火力を向上させている。

 

「マイクロミサイルは”バスター”のものと同じ弾頭を用いており、弾幕を張る上では十分な性能があります。また左肩のレールキャノンは今後ZAFTにも装備したMSが増えてくることが予測されている、耐ビームシールドへの対抗策として装備しました。我が軍で採用されている耐ビームシールドは一撃で破壊することが可能です」

 

「状況に応じて使い分けろと。いいじゃねぇか、気に入ったぜ」

 

モーガンの心底満足したという反応を見て、マヤも顔をほころばせる。

ここ数日根を詰めて調整に取り組んだ甲斐があったというものだ。

 

「ありがとうございます。それとこの機体は全てのパーツが通常の”ダガー”と共有されているので、マニュアルさえあれば現地のパーツを用いて修復も可能なんですよ」

 

「ますます気に入った。早くこいつで戦いたいぜ」

 

「モーガンさん、まるで子供みたいに目が輝いてますねぇ」

 

新しいおもちゃを貰った子供のようにはしゃぐモーガンを見てセシルが呟く。それだけモーガンがこの機体をうれしがっているということだ。

モーガンが喜ぶのも無理は無い。『ガンダム』と同等の性能を発揮することが出来る上に修理も容易、こんな機体が自分のために用意されたともあれば、はしゃぐのが生粋のMSパイロットというものだ。

さっそく試し乗りを、というところでマヤからストップが掛かる。

 

「待ってください大尉、まずこちらの装備からテストを行なってもらいます」

 

「おう、どれどれ……なんじゃこりゃ」

 

「そう言いたくなるのもわかりますけど、まずは説明をさせてください。この”ガンバレルストライカー”は……」

 

 

 

 

 

3/9

東アジア共和国 ジャパンエリア

 

「ここに来るのも久しぶりだな……」

 

ユージは年期の入った木造建築を前にしてそう呟く。

モーガンが専用カスタム機を手に入れてはしゃいでいるころ、ユージはある人物を探して東アジア共和国の片田舎までやってきていた。

見た目はユージが転生する前、いわゆる「現代」における片田舎の一家屋そのものだが、それは見た目だけであり、中身はC.Eの技術で作られたハイテクな家屋である。

「古き良き日本の原風景を保存するため」としてジャパンエリアの田舎などでは、最新の技術で作られた木造平屋建てという、矛盾したような家屋が多数見られるのだが、ユージの尋ね人はその内の1つに、1人で住んでいた。

彼は荷物を背負ったまま、広い庭に佇む小屋、「工房」まで足を進めた。

近づいていくと、何か金属を金具で叩くような甲高い音がユージの耳に飛び込んでくる。ユージは小屋の室内引き戸をスライドさせて、中の人物に声を掛ける。

 

「久しぶりだな、爺さん」

 

「……勇治(ユージ)か」

 

室内で熱した金属を金槌で叩いていた人物は、ユージの「この世界における」祖父。

そして、『あの』ガーベラストレートの作者であるという、村松清十郎であった。

 

 

 

 

 

「なるほど、話はわかった」

 

そう言うと清十郎は緑茶をすする。ユージはその様子を緊張しながら見守っていた。

2人は家の中の居間でちゃぶ台を挟んで向かい合っており、現在は事情を説明し終えたユージが清十郎の答えを待っている最中だった。

”グレイブヤード”を訪れたこと、そこで蘊・奥と出会ったこと、そして清十郎がガーベラストレートの作者であると聞いたこと……。ユージが語ったのはそこまでだったが、清十郎はそれでユージがここまで来た目的を察したようだ。

 

「大方、ガーベラストレートの技術を提供してもらいにきた、というところだろう?」

 

「……ああ」

 

「勇治よ、前々から言っておるはずだ。もはや刀に、そして剣士が存在する意義は失われたのだと。……儂は協力しない」

 

想像はしていたが、祖父はガーベラストレートの技術を渡すつもりは無いようだ。

いまや世界にただ一人となってしまった刀匠であり、それだけ自分の仕事に誇りを持った清十郎にとって、この世界はまったく度し難いものであった。

ナチュラルだコーディネイターだで世間が騒ぐのを白い目で見つめ、やはり理解しがたい理由で戦争が始まる世界へ唾を吐く、それが村松清十郎という男である。

話を持ってきたのがユージであるから穏当に対応しているが、もしこれが別の誰かであったなら刀を持ちだしてでも追い返しにかかっただろう。

だがそこで簡単に諦めるほどユージも柔ではない。

 

「爺さん、たしかに今の世界は度し難い。しょうも無い理由で憎み合い、戦争を始めるんだからな。だが、そんな中でも純粋に平和を願って戦っている奴らがいるんだ。守りたいものがあって戦ってる奴らが。そんな奴らに力を貸して欲しいというのは、おかしいことか?」

 

「そんな奴らがいたとして、儂が力を貸すことを決めたとしよう。それで?戦争が終わるというのか?たかが刀を打てるだけの儂が力を貸して?」

 

「んなわけねーだろ。たしかにあんたの力を借りただけで戦争が終わるわけじゃない。というよりあんたは……怖いんだろ?自分の打った刀が戦争に使われて、徒に死人を増やすのが」

 

「……」

 

ユージの、家族だからこその無遠慮な問いに、無言を返す清十郎。

その通りだった。

戦場に誇りというものが失われて久しく、如何に敵を効率的に殺傷するかのみを追求して武器が作られるこの時代に刀は、剣士の誇りが存在する場所はどこにも無い。そう思っていることも事実ではあったが、一番の理由はユージの語った通りだった。

自分の作った武器で命が失われるのは耐えがたい。かつて“世界樹”に赴いてガーベラストレートを製造したのは、あくまで人類の技術、その発展のためであり、やはり人殺しのためなどでは無かった。

妻の体調悪化を理由として開戦から数ヶ月前に”世界樹”を去ったが、心のそこで安堵していた部分があるのは間違い無い。───これで、戦争に関わることはない。自分の技術が戦争に利用されることは無いのだと。

 

「爺さん、戦場から誇りが失われたのは事実だ。だがそのままにしておいて良いのか?違うだろ?」

 

「だが、刀などで何が出来る。ただ鋭く切れるのみで、折れやすい日本刀。そんな技術が加わったところで……」

 

「塵も積もれば山となる。あんたはそういったこともあるよな。つまり、そういうことだ。……頼む、戦争を終わらせるためにあんたの力を貸してくれ、村松清十郎」

 

頭を下げるユージを前に、瞑目する清十郎。しかしユージにはここで引くつもりは無かった。

何秒か、あるいは何分か。沈黙の後に、清十郎は口を開いた。

 

「……しばらく、考えさせてくれ……」

 

その言葉を聞いたユージはうなずき、立ち上がる。

 

「俺はもうしばらく、2日ほどこっちに滞在する。それまでの間に決断してくれ」

 

「……」

 

ユージはそう言い残し、家から外に出ていく。

普段の清十郎は頑固者だが、”世界樹”で切磋琢磨した仲間達の死や、激化する戦争を前にはその精神も揺らぐということなのだろう。

時間が欲しい、その一言を得られただけでもユージにとってたしかな進歩であった。

ユージが家から離れていくのを確認すると、清十郎は懐から1枚の写真を取り出して、しみじみと呟く。

 

「儂はどうすればよいのだ、どうするべきなのだ……」

 

その写真の中、”世界樹”で仲間達と共に撮った写真に写る清十郎の顔は、写真を見つめる現在の彼とはかけ離れた、自信に溢れた顔をしていた。

 

 

 

 

 

3/11

プトレマイオス基地 訓練兵宿舎

 

<トリィ!>

 

「へぇ、よく出来たペットロボットだねぇ」

 

「でしょ?」

 

その部屋の中には2人の男女と、1匹ならぬ1機の、金属で出来た鳥が羽ばたいていた。

2人の男女とは言うまでも無くキラ・ヤマトとユリカ・シンジョウなのだが、金属で出来た鳥ことペットロボット『トリィ』が羽ばたいているのが、普段とは違う点であった。

普段はキラが訓練生活に集中するために電源を切っているのだが、偶然電源の切られたトリィを発見したユリカが動かしてみせて欲しいと言ったために、久しぶりに部屋の中を羽ばたくに至ったのだ。

 

「主人に設定された人間とその近くにいる人間を認識してるのか。凝ったプログラミングじゃないか。キラが作ったの?」

 

「いや……友達が、”コペルニクス”に住んでいたころの友達が、作ってくれたんだ」

 

「”コペルニクス”に……てことは、作った当時まだ13かそこら?随分と高度な技術をお持ちだったようだね、その友達は」

 

驚きの表情を浮かべるユリカに、キラは苦笑を隠せない。

()は何時、どんなことにも全力で取り組む人だった。

勉強でも、遊びでも、こういった工作でも。なんでも出来る()はキラにとって憧れだったし、一緒に過ごす日々は輝いていた。

手加減とか手を抜くとかそういうのが苦手という、妙な不器用さがあった事も覚えている。

この間知り合った()の婚約者から聞いた話だと、婚約者に気に入られたペットロボットの同型を送り続けたこともあり、今では同じようなペットロボットが家中を転がり回っているのだとか。

そんな()が、今、戦争をしていて。人を殺して。そして、自分も彼と戦うことになってしまった。

 

「ほんと……すごかったんだ。スポーツも出来て、勉強も出来て、僕はそんな彼にお世話になりっぱなしでさ。……」

 

「キラ?」

 

複雑そうな表情を浮かべるキラに、ユリカは心配そうに声を掛ける。

 

「ああ、えっと……。そうだ、ユリカは”コペルニクス”に友達とかいるの?」

 

「え?ああ、いるよ。親友と言って差し支えない人が、ね」

 

ユリカは、キラが話題逸らしのためにした不自然な質問に答える。

親友のことを思い返しているのだろうが、その顔はどこか誇らしげであった。

 

「彼女は綺麗で、優しくて。しかも歌も上手いんだ。彼女に比べたら僕なんか比べものにならないよ」

 

「ユリカが比べものにならないって、相当なものだと思うんだけど」

 

そこら辺の男性よりも頼りになって、各訓練を好成績で突破する普段の彼女を知っているキラには、どうにもその親友とやらがどんな人物なのか想像が付かなかった。

だがユリカは、それでもその親友がすごいんだと力説する。

 

「いや、能力もすごいんだけど、心がね。ほら、僕ってこの通り口調が他の女の子とは違ってさ。だから上手く女子の中に溶け込めなくて、孤立してたんだよね」

 

「うーん、そうかなぁ。別に変じゃないと思うんだけど」

 

「ありがと。で、1人寂しく日々を過ごしていた僕と仲良くしてくれて、他の女の子達ともつながりを作るのを手伝ってくれてさ。今の僕がいるのは、その子のおかげなんだよ」

 

誇らしげに語るユリカに、キラはなんとなくシンパシーを感じた。

()のことを語る自分と今のユリカの姿が、なんとなくダブって見えるのだ。

 

「なんだか、僕達って似てるところがあるねぇ」

 

「たしかに。この子を作ったっていう友達も、すごい人だったでしょ?なんて人なの?」

 

キラは一瞬迷うが、この際だからユリカに打ち明けてもいいかもしれないと考え、()の名前を口にする。

名前を聞いたからと言って、彼女が()と関わりを持っているとかいう可能性は低いのだから。

 

「……アスラン。アスラン・ザラていうんだ」

 

「ふぁっ!?」

 

それを聞いたユリカは、なんと腰掛けていたベッドからずり落ちてしまった。

いきなりおかしな行動をとったユリカを心配し、キラは駆け寄る。

 

「ユリカ!?い、いったいどうしたの?」

 

「……はっ!キラ、アスランって、あれかい?アスラン・ザラ?プラント最高評議会議員パトリック・ザラの息子の?」

 

「え、う、うん。お父さんのことはよく知らないけど、たぶんそのアスラン・ザラだよ。ていうか近い近い!」

 

こちらに顔を近づけて勢い良く問いただすユリカに半分引き気味、半分照れ気味に答えるキラ。

如何せんユリカは、コーディネイターとかそういうのを抜きにしても魅力的な少女なので、健全な青少年であるキラは顔を逸らさざるを得ない。

キラの悲鳴に気付くと、ユリカはハッとなり、若干顔を赤くしながら離れる。

 

「あ、その、ごめん……」

 

「やけに食いついたけど、ユリカってアスランと知り合いなの?」

 

「え!?あっ、うん、そうそう。”コペルニクス”にいたころに、少し話しをしたことがあってさ。あは、あはははは」

 

キラはしどろもどろに答えるユリカを見て、彼女とアスランの間に関係があったことに驚きつつ、得心がいったかのように微笑んだ。

 

「なるほど、そういうことかぁ」

 

「っ!?な、何がかな?何か変なことでも?だいたい、僕がアスラン・ザラのことを知っていたからどうということは、ないんじゃないかな?」

 

その反応を見てキラは確信した。

やはり、この少女は。

 

「隠さなくてもいいよ。……うん、青春ってやつだよね」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

”コペルニクス”にいたころの彼は成績優秀、スポーツ万能、そしてルックスも優れているということで女子にモテていた。親友のキラに、彼の好きな物を聞きにくる女子がいたほどだ。

おそらく、ユリカもその1人だったということだろう。

冴え渡る自分の直感が怖い。

 

「……ああ、まあ、そういうことでいいよ」

 

得意げになるキラを見るユリカの顔が浮かべていた、安堵半分、呆れ半分という表情が印象的であった。

 

 

 

 

 

翌日、キラがユリカと共にいつも通りマモリからしごかれていた。

今日の訓練メニューは、アサルトライフルを初めとした装備一式を背負った状態での行軍訓練であったが、午前の部が終了すると、マモリがキラを呼びつける。

 

「ヤマト、お前は午後の訓練に参加しなくていい」

 

「えっ!?」

 

そんなバカな。教導大好き、生徒いじめが趣味のマモリが言ったその一言に、キラは驚愕する。

明日はスペースデブリの雨でも降るのではないか?

 

「何をそんなに驚くことがある。その代わり、1300(ヒトサンマルマル)になったら、この場所まで行け」

 

「へ……?」

 

そう言ってマモリは、地図らしきものが書かれたメモを渡してくる。

今時紙で伝えるとは、珍しいこともするものだ。

とにかく、自分は午後この場所に行けば良い、ということはわかった。

 

「ああ、そうそう。……今日出来なかった分は、明日以降ミッチリ仕込んでやるからな」

 

表現するなら、ニッコオォォォォォォリ、という凶悪な笑みを浮かべるマモリを見て、キラは安心してしまった。

なんだ、いつも通りの教官じゃないか。

そして明日以降の自分に襲い来る苦難の日々を想像し、涙するのだった。

 

 

 

 

 

「ここ、だよね?」

 

午後になり、キラはメモに書かれた場所にたどり着いていた。

それにしても、ここまで来るのは大変だった。道中やたら行なわれるボディチェックであったり、所属表明であったりと、とにかく時間を食われることが多かったのだ。

念のためかなり早めに部屋を出発したはずだったのだが、それでもここまでたどり着くのに時間を使い、結局ギリギリになってしまった。

それだけ重要な案件なのだろうと思うが、一応一介の兵士に過ぎない自分を呼ぶような用件なのだろうか。

ドアの脇に備えられたインターフォンを押すと、透き通るような少女の声で返事が返ってくる。

 

<はーい、今参りますわー>

 

「……?」

 

なんとなく聞き覚えのある声にキラが首をひねっていると、ドアが開く。

その顔を見てキラは、ともすると、午前にマモリから聞いた内容よりも多大な衝撃を受けるのだった。

 

 

 

 

 

「お久しぶりですわね、キラ」

 

「ら、ラクス!?」




書きたいこと多過ぎて、だけど時間は足りなくて。
ギュッとまとめた結果がご覧の有様です。

あ、ちなみに“ダガー・マッドドッグ”のイメージは「アーマード・コア」に登場するアナイアレイターというACです。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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