機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
蘊・奥「日本にガーベラストレートの作者いるよ」
変態4人組「ガタッ」

久しぶりの更新だ、待たせたな諸君!
次の展開に死ぬほど悩んだので、とりあえず中東を燃やすことにしました。
ガンダムSSで展開に迷ったら、とりあえずドンパチさせとけばいい。これは真理だ。


【挿絵表示】


アッアッア、バアルちゃん可愛い……。こんな子が戦闘中は歯を剥き出しにして狂戦士と化す辺りがいい……。良くない?
「Dixie to arms」からいただきました、スノウ・バアルの支援絵です!
彼女の活躍はこれからだ!


第55話「中東、燃ゆ」

皆さんは汎ムスリム会議、という国家のことを知っているだろうか?

元々はアラビア半島からパキスタンまでのイスラム諸国による連合国家であり、反大西洋連邦色の強い経済・軍事同盟、そして親プラント国でもある。正直「ガンダムSEED」という作品ではそれ以上に物語に関わることは無く、設定上は存在しているというだけの勢力でしかない。

だがこの「パトリックの野望」世界線では少々事情が異なる。

 

というのもこの世界では連合軍が”テスター”や”スカイグラスパー”、”ノイエ・ラーテ”といった新戦力を次々と投入しているため、両軍間の戦力差はほとんど無い、どころか逆転されてしまっていた。

その証拠に、本来の歴史では問題無く攻略出来ていたはずのカオシュン宇宙港は未だ健在であり、ZAFT司令部でもビクトリア基地のZAFTだけでの攻略は不可能に近いと判断されていた。……そう、ZAFTだけでは。

戦力が無いなら余所から引っ張ってくれば良いじゃない。そう考えた司令部は最高評議会タカ派筆頭にして、自分達の最高指導者であるパトリックを通じて、親プラント国に対して参戦要求を出した。

始めは各国も反発していた。それはそうだ、元々戦争に巻き込まれたくない、エネルギー問題を解決したいと考えてZAFTからの積極的中立勧告を受けたのに、いざ劣勢になったら戦力を寄越せなど、都合のいいことこの上無いではないか。

しかしこの、まるで都合の良いATMに対するような要求を各国は呑まない訳にはいかなかった。

ここで要求を蹴ってZAFTが敗北すれば、連合軍は戦後、嬉々として自分達に対して制裁あるいは侵略を行なうだろう。そして要求を無碍にされたZAFTは、おそらく中立の条件として提示したプラントからのエネルギー供給を絶つに違いない。

行くも地獄、引くも地獄。かくして親プラント諸国は、実質的に命を他国に握られた状態で参戦することになったわけである。

 

話が多少ズレてしまったが、要するに汎ムスリム会議という国も他国同様にプラント側について参戦せざるを得なかったということだ。そして各所から戦力をかき集めたZAFTは、なんとかビクトリア基地を攻略することに成功し、連合軍との間に休戦協定を締結した。

ほんの一ヶ月程度の間ではあるが、両軍との間に戦闘が起きることは無い。この報に世界中の人々は安堵し、兵達はつかの間の休息をかみしめた。

しかしそれは「連合とプラント間」でだけの話。

()()()()()()()()()()()()()は、何も禁じられていないのだ。

汎ムスリム会議にとって不幸だったのは、なんといっても立地だろう。

オセアニアを支配する大洋州連合を攻めるには、地上におけるZAFT最大拠点であるカーペンタリア基地の存在がネックとなる。少しでもZAFTに流れ弾が飛んでいってしまえば即戦争再開、せっかくの休戦協定(準備期間)が台無しである。

北アフリカを支配するアフリカ共同体も同様に、半ばZAFT支配されているようなもの。侵攻など出来よう筈も無い。

故に、ユーラシア連邦と東アジア共和国に隣接し、なおかつZAFTに流れ弾が飛んでいくという懸念も少ないこの国は格好の獲物であった。

技術でも物量でも劣り、なおかつ侵攻しても問題無い敵対勢力に対して、連合は大量生産した戦車や戦闘機、更には実戦データが必要なMSを惜しみなく投入。「一ヶ月しかない、ならば一ヶ月で落とす」の精神を以て蹂躙を試みたが、そうは問屋が卸さない。

明らかに速攻ですり潰されるのがわかりきっていた汎ムスリム会議首脳陣は、ZAFTに対して援助を要請。「お前らの要請に応じて参戦してやったんだから、何かしてくれよ!」ということである。

ZAFTからしたら、カーペンタリアの土地を提供してくれる上に、オセアニアという広大な領域を安全圏としてくれる大洋州連合に比べると、汎ムスリム会議という存在は正直どうでもいい存在だった。戦力もビクトリアでそれなりに消耗したし、やられるならせめて少しでも敵を道連れにしてくれればいい、それくらいの認識しかない。アフリカ共同体にいたってはそんなのいたっけレベルで無視されていた。

だがここで、司令部はあることを思いついた。

 

「汎ムスリム会議に売りつけたってことにして、試作兵器を投入して戦闘データを取るのはどうだろう」

 

休戦明けに備えて何か少しでも戦力を増強したい司令部はこれを直ちに承認、いくつかの試作兵器と、身分を偽装されたパイロット達がこの国に派遣されることとなる。

結果、汎ムスリム会議という国家は後世の歴史家にこれらの称号で評されるようになった。

 

『万国兵器博覧会 ~試し撃ちを添えて~』

『休戦中に戦争出来る国』

『自分の土地で他人に実弾サバゲーを楽しまれた国』

 

国民からしたら不名誉極まる称号であったが、どれも的を得た称号であった。

この文章はそんな不憫な国家で起きた戦闘、その一部を記したものである。

 

 

 

 

 

3/10

イラン中部 イスファハーン州

 

監視塔で望遠鏡を構えていた男は視界に映った物を見て、ついにこの日が来てしまったかと嘆き、望遠鏡を放り出した。

 

「司令部に伝えろ!我、『女帝』を確認せり!」

 

その場には男の他にも数人の兵士がいたが、その言葉を聞いて動揺しない者はいなかった。すぐさま司令部に報告を飛ばした後に、一目散に逃げ出す。

それほどに恐ろしい物が、迫ってきているからだ。

望遠鏡に映ったそれは、およそ300mほどの高さを持ち、横幅は2000mにも及ぶ巨大な物体であった。

それだけならば少しばかり背の低い山か何かと誤認するやもしれないが、それは微かに揺れながら、男達のいる監視塔の方向に近づいていた。

もっと近づいて見ると、それは山などではないことがわかる。

一本の巨大な鋼鉄の樹木、その底部からは根のように8本の足が伸びており、それらが前後左右に移動することで巨体を運んでいる。

中腹からは枝のように巨大な甲板が広がっており、その上には何機ものMSや戦闘機、輸送機が乗せられている。

そしてこれは巨木のどの箇所にも言えることであったが、至るところから巨大な砲身が伸びていた。

”エカチェリーナⅡ”。それがこの山のように巨大で、鋼鉄で出来た樹木の名。正確な分類をするなら、まさしく陸上移動要塞とも言うべき代物である。

この恐るべき要塞はかつて再構築戦争の折に、ユーラシア連合の主導権を握ったロシアが開発、2機が建造されてそれぞれ日本と中国に対して投入された。

日本に投入された機体は当時の自衛隊の手によってなんとか破壊されたが、中国に投入された機体は破壊されることなく終戦を迎えたために、終戦から60年ほどが経過したこの時代でも現存していた。

ユーラシア連邦はあろうことかこれに近代化改修を施し、対ZAFTに投入することを決定したのだ。

本来はジブラルタル基地攻略のために使われる筈だったのだが、突然の休戦協定の報に予定変更、ヨーロッパに向かっていたところを南下して汎ムスリム会議との戦争に使われることになったのが、この恐るべき女帝がこの場所にいる理由である。

Nジャマ-のせいで長距離誘導兵器は使えず、また近づけばその恐るべき対空砲火と直掩機の手で一瞬で叩き潰されるこの要塞の存在によって、既にイランから東に位置するトルクメニスタン・パキスタン・アフガニスタンは陥落し、こうしてイラクの中央部まで侵攻される羽目になったのだ。

 

「くっそ、司令部からの返答はまだなのか!?」

 

「未だに……いえ、来ました!『これより防衛戦を開始する。貴官らは直ちに後退するべし』、と」

 

「よっしゃぁ、すぐに逃げるぞ!あんなの相手に抗戦しろとか言われたら無許可離隊するところだったぜ!」

 

その場における司令官に位置する人物がこのようなことをのたまっても、それを咎めようとする兵士はいない。

当たり前だ、あんな巨木相手に人間がどう太刀打ちしろというのか。

”エカチェリーナⅡ”からしたらMSですら蟻以下、微生物のようなものでしかない。それに歩兵である自分達が立ち向かう?馬鹿げている!

”エカチェリーナⅡ”は、重い足音を一定の間隔で響かせながら近づいてくる。その速度は時速50kmほどだが、ここで疑問が浮かんでくる。

なぜ、たった時速50kmほどの速度しか出していないこれが見えただけで、ここまで慌てて逃げ出す必要があるのか?その理由は二つある。

一つは、”エカチェリーナⅡ”の最大射程は36kmであり、その気になればあの場所から彼らのいるところまで攻撃を行なうことすら可能だから。

もう一つは、”エカチェリーナⅡ”はあくまで移動要塞であり、その先陣には必ずMSや戦車、戦闘機の大部隊が位置しているからである。

望遠鏡を握っていた男は全速力で仲間と共にジープに乗り込む。

すると、遠目に何か土煙のような物が上がっているのが見えた。あれこそは先陣を切る化け物戦車隊の上げているものだ。

 

「出せ出せ、速く出せぇ!来てるんだよぉ!」

 

さて、今日は何人の味方が死ぬんだろうか。急発進するジープに振り落とされないように椅子にしがみつきながら、男はそんなことを考えた。

 

 

 

 

 

「全速前進!立ち塞がる全てを排除して、我らが”女帝”の道を整えろ!」

 

『了解!』

 

派手に土煙を巻き上げながら、ヘルマンは愛機たる”ノイエ・ラーテ”の車長席で声を張り上げる。

彼が現在指揮しているのは、ビクトリア基地での戦績を評価され、晴れて量産が決定した”ノイエ・ラーテ”によって構成された機甲部隊である。

ヘルマンはビクトリアで投入された”ノイエ・ラーテ”の中で唯一帰還した車両の車長であり、現状ではもっとも”ノイエ・ラーテ”に精通していることから隊長に抜擢されたのだった。

 

「前方に敵部隊を確認!MS・戦車の混合部隊のようです!」

 

お出ましか。ヘルマンは眼鏡を掛け直し、指示を出す。

 

「各車展開、楔形陣(パンツァーカイル)!有効射程に入ると同時に斉射、敵陣をかき乱す!」

 

その言葉に従って各車両が扇形のように広がっていき、その巨砲を放っていく。

ヘルマンの乗る車両以外は試作品から更にコストカットを図られた『J型』と呼ばれるものであり、主に足回りの簡略化が行なわれている。

しかしそれ以外の基本性能はほとんど変わっておらず、MS、特に”バクゥ”と互角以上に渡り合える基本性能は保たれているこれらの斉射は、敵陣に着弾、その近くにいたMSや車両を吹き飛ばし、無数の弾着痕を生み出す。

それが何度も、短いスパンで繰り返されるのだから、敵にする汎ムスリム会議からしたら地獄以外の何物でもない。

 

「今だ!ヤークト隊、突撃!」

 

しかしそれだけで終わらないのが『通常兵器地位向上委員会』、もといユーラシア連邦である。

扇形に広がった”ノイエ・ラーテ”隊の合間をすり抜けるように前方に突出していくのは、やはり”ノイエ・ラーテ”であった。

しかしその砲塔は従来の物ではなく、固定砲塔のいわゆる「突撃砲」式になっている。

”ヤークト・ノイエ・ラーテ”と呼ばれるこの機体は、砲塔の旋回機能を無くした代わりに460mm口径の大砲を有し、さらに構造がシンプルになったことで各所の装甲を厚くされている。

本来は砲兵部隊として固定標的を撃破するのに用いられるべきこの機体を、侵攻部隊は敵陣破壊のために、文字通り「突撃」に用いることにしたのだ。

正面装甲は少なくとも”フェンリル”の主砲に数発耐えることの出来る厚さを持っているため、敵MS・戦車隊にこれを止める方法はない。

 

<畜生、側面からなら!>

 

それでも防衛部隊は果敢に攻める。当たり前だ、ここを突破されたらもうイランに後が残されていないのだから

ZAFTから購入した”バクゥ”の機動性を駆使して、突撃を続ける”ヤークト・ノイエ・ラーテ”の側面を取る兵士。

 

<これなら!>

 

<───惜しかったなぁ!?>

 

レールガンを発射しようとする寸前、”バクゥ”に砲弾が命中し、推進材に引火する。

盛大に爆発した”バクゥ”、その爆炎の中を突っ切って、人型が躍り出る。

”パワードダガー”。大西洋連邦の次期主力MSである”ダガー”の背部と脚部にホバーユニットを取り付けたことで、高速ホバー移動を可能とした機体である。

汎ムスリム会議攻略はユーラシア連邦を中心に行なわれているが、その他の勢力が何も手出しをしないなどということはない。

既に連合軍ではホバー移動を行なう車両を開発し、指揮車両として実戦に投入しているが、ホバーユニットをMSに装備させるには色々と技術的に不安が残っていた。

そこで大西洋連邦は脅威度が低く、かつ実戦のデータが取得出来るであろう汎ムスリム会議に対してこの機体を実験的に投入することを決定したのだった

ホバーユニットは”ノイエ・ラーテ”への追従が可能な機動力を与え、戦車隊との連携力を強化することに成功した。腕部には大きな変化がないので武装の選択も自由自在であり、先ほど”バクゥ”を撃破したのは『原作』でストライクが用いたバズーカである。

情報の流出が懸念されたものの、そもそも”ダガー”は装備するストライカーによって性能と用途をガラリと変える機体であるので、たかが一種類の装備のデータが流出したところで痛くも痒くも無い。

 

「パワード3、援護に感謝する」

 

<なーに、それが仕事だ。小回りが効かないところは俺達でカバーってな!>

 

多少試作機から足回りが劣化した”ノイエ・ラーテ”シリーズであったが、この”パワード・ダガー”の存在がその弱点を無いも同然としてしまった。

正面から受け止めることは出来ず、側面から攻めようとしてもこの”パワード・ダガー”に阻まれる。

上から攻める?”アームドグラスパー”の群れにたたき落とされるだけである。

 

<それに、そろそろ()()が出てくるころだろ?早めになんとかしねぇと被害が───!?>

 

”パワード・ダガー”パイロットの言葉を遮るように、近くに砲弾が落ちてくる。

前方を見ると、多数の”フェンリル”がこちらを待ち受けるように展開しているのが見えた。

ZAFTがライセンス生産を認めたことで親プラント国でも生産されるようになった”フェンリル”だが、これは”ノイエ・ラーテ”シリーズに真っ向から対抗出来る数少ない戦力であることもあり、各地で奮戦していた。

問題はそれだけではなく、その周囲にいるMS隊も大きな障害であった。

明らかに、そこだけ動きが良いのである。いくらこちらのナチュラル用OSを参考に開発したのだとしても、一つ飛び抜けて動きが良い。

しかも装備もいい。見たことの無い機体はもちろん、ビーム兵器を使用出来るように改造されたらしい”シグ-”などもいる。

どうせ身分を偽造か何かしてZAFTのパイロットを紛れ込ませているのだろう。それがわかっていても証拠が無いので追求は出来ないし、敵は少しでも追い込まれていると判断したら撤退してしまうため、証拠を掴むことも出来ない。

 

「前方に第2陣を確認、攻撃開始!今日こそ腕の一本はいただいていくぞ!」

 

<MSの相手はMSだ、”フェンリル”は頼んだぜ!>

 

そう言うと、”パワード・ダガー”はバズーカを構えて前方に向かっていった。ヘルマンはそれに少し後方から追従し、援護射撃を行なう。

本番はこれからだ。

 

 

 

 

 

同日

イラン セフィードルード川

 

その集団は、川を遡るように進んでいた。脚部にエアクッション型揚陸艇のような装備を付けたこの機体は”ダガーDD”。河川部や沿岸からの揚陸能力を強化されたこの機体は気密処理や塩害対策もされており、広い行動範囲を誇る最新鋭機でもある。

カスピ海側から侵攻した部隊から発進したこの小隊は、新たな拠点を建設するための斥候役として、イランを流れる中では2番目に長いこの川を遡っている最中であった。

突如、水中から伸ばされた腕が”ダガーDD”の脚部を掴んだ。”ダガーDD”はそのホバー機能によって広い範囲を行動出来るものの、その安定性は低く、襲撃者は難なく水中に引きずり込むことに成功する。

襲撃者の正体は”ジン・ワスプ”、その改良型であった。

”ジン”のライセンス生産を許可された各国は地球上にそれぞれ海洋国としての面を兼ねることから、水中型の”ジン・ワスプ”の改良に着手した。

”ジン・ワスプ改”と呼ばれるこの機体は従来機よりも深い深度で活動出来るだけでなく、機動力を向上させることにも成功しており、戦後「優良現地改修機」として高い評価を受けることになる。

”ダガーDD”を引きずり込んだ”ジン・ワスプ改”は近接戦用に開発された銛を構えると、”ダガーDD”のコクピットに向けて突き刺そうとする。

川底に仰向けに倒れてしまった”ダガーDD”は咄嗟に盾を構えてこれを防御、結果銛が盾に突き刺さり、抜けなくなる。

”ジン・ワスプ改”はそのまま体重を掛けて押し切ろうとするが、”ダガーDD”は背部スラスターを全力で噴射。逆にこれを押し返した。

いくら水中では有利といっても所詮は”ジン”、最新機種の”ダガー”のパワーには敵わず押し返され、今度は逆に川壁に押しつけられてしまう。

その後はもはや消化試合であった。”ダガーDD”はビームサーベルを右手に持って”ジン・ワスプ改”に近づくと、胴体にそれを押し当て、起動する。

水中ではビームは大幅に減衰してしまうが、極短時間であればビームサーベルも展開出来る。

”ジン・ワスプ改”はコクピットを貫かれたことで目から光を失い、ズルズルと倒れ込む。

後に残ったのは、無造作に盾から銛を引き抜こうとして出来ず、墓標を立てるように”ジン・ワスプ改”の胴体に突き刺す”ダガーDD”のみであった。

 

 

 

 

 

3/11

イラン南西部 フーゼスターン

 

「おらよっと!……こんなもんか?」

 

ミゲル・アイマンは”テスター”を”シグー・ディープアームズ”のビーム砲で撃ち抜きながらそう呟く。

第二次ビクトリア基地攻防戦ではあまり満足な戦いが出来なかった彼は汎ムスリム会議への増援(という名の兵器実験部隊)に参加し、そこで猛威を振るっていた。

明らかに動きの違う上にオレンジカラーが特徴的な”シグー・ディープアームズ”を見て連合側は即座にパイロットが『黄昏の魔弾』ミゲル・アイマンであると看破、ZAFTに事情説明を求めたが、「この機体はあくまで汎ムスリム会議に売却した機体であり、カラーは向こう側が勝手にそのままで使ってるだけ。ミゲルは関係無い」と主張、やはり証拠が無いため追求は終了した。

というのもこの男、MSパイロットの質が高いZAFTにおいて異名を持ち、独自のカスタマイズをすることが許可されているエースパイロットであり、機体もGATシリーズに対抗しうる性能があるので、捕縛など試みようものなら逆に返り討ちになるのである。

現に今、ミゲル対策に出撃した部隊の一機である”テスター”が撃破されたのだが、この前日には”ダガー”だけで構成された小隊が撃破されている。

 

「しかしいくら撃墜されて介入の証拠を残すわけにはいかないっていっても、こんな場所で戦って何の意味があるってんだ。イスファハーンは昨日突破されたっていうし、そっちの方が良かったような気もするぜ」

 

参戦すればほぼ死が待っている戦場に飛び込みたいと言って許されるのは、この男やそれと同格以上のパイロットだけであろう。

どんな場所でも確実に戦果を挙げ、生きて帰ってくる。それを続けられるこの男は現状のZAFTでも最高クラスの戦力であるのは間違い無い。

 

<アイマン隊長、こっちも片付きました。いやー、連合のMSっていっても大したことないですね>

 

「だろ?たしかに性能は結構いいけどよ、結局MSは腕だ。ナチュラルのほとんどは雑魚だぜ?落ち着いて戦えば負けやしねえよ」

 

近づいてきた3機の”ジン・オーカー”、その内の一機からの通信に、自信満々に返すミゲル。

彼はMS操縦の腕は言うに及ばず、ナチュラルを見下してはいても戦況を冷静に分析して行動出来る思考力も持ち合わせていたため、最近になってZAFTで施行されたバッジ制度に基づいてバッジを与えられている。

MS小隊の隊長となった彼はこの場所で実戦データの取得に勤しんでいたが、どうやら部下も問題無く対処出来たようだった。

MSの技術が向上しているのは連合だけではない、ZAFTもまだ生来の学習能力の高さを活かしてOSや基本性能のアップデートに努めているのだ。

だが、ミゲルの部下達は一つだけ理解していないことがあった。

「ほとんどが雑魚」ということは、「雑魚しかいない」ではないのである。

 

<ですね。それじゃいったん基地にでも───!?>

 

言葉を言い切る間もなく、どこからか飛んできたビームによって撃ち抜かれる”ジン・オーカー”。

ミゲルは咄嗟に周囲を警戒し、レーダーに目をやる。

いや、その必要は無かった。その暇も無く、赤いMSが『何か』を振りかぶって上方から”シグー・ディープアームズ”に斬りかかったからである。

その一撃を受け止められないことを直感したミゲルは瞬時に回避、『何か』が地面に衝突し、土煙が上がる。

 

<なんだこいつ!?>

 

<敵か、ならば……!>

 

生き残った部下達がライフルを射かけるが、赤い敵MSはそれを気にする様子も無く『何か』を振るい、土煙を振り払う。

現れたMSは全身の赤い装甲と頭部のツインアイ、そして2本の角が特徴的であったが、それよりも目を引いたのは、その右手に持った『何か』こと、巨大な剣である。

まるで巨大な鉈の刀身に持ち手を付けたようなそれは、当たれば確実にMSを引き裂いてしまうだろう迫力を持っていた。

その後方からは、やはりツインアイと2本角が特徴的なMSが近づいてきていた。こちらは緑や黒といったカラーの装甲で覆われており、両肩から突き出すように装備されている2つの大砲が印象的であった。おそらくあの砲で、”ジン・オーカー”を破壊したのだろう。

コンピュータが導き出した、目の前の機体らの正体は、GAT-X102”デュエル”と、GAT-X103”バスター”。ミゲルは、おそらくそれらの陸戦改修機であると察した。

そして同時に、それらの機体に誰が乗っているのかも。

 

「……はっ、お早い帰還じゃないか。本当にナチュラルかよ?……お前達は後退しろ、俺もすぐに追いかける」

 

<し、しかし>

 

「黙れ!今はお前達の世話してやる余裕なんて無い、さっさと逃げろ!」

 

ミゲルの迫力に呑まれ、部下2機は大人しく拠点に後退していった。

それを見届けたミゲルは”シグー・ディープアームズ”にレーザー重斬刀を引き抜かせ、油断なく構える。

この敵を相手に、油断など生まれるはずもない。

 

「新しい機体に剣を引っさげてきたんだ、がっかりさせるなよ?エドワード・ハレルソン!」

 

 

 

 

 

 

<エド、いったん引くわよ。奇襲が失敗したのだから>

 

「いや、このままだ。このまま奴を仕留める」

 

エドワードは新たな愛機、”陸戦型デュエル”に剣を構えさせながら、同じく“陸戦型バスター”に乗り換えたレナに返答する。

 

<何を言ってるの、貴方まだ病み上がりなんだから無理はさせられないわよ。またジェーンにひっぱたかれたいの?『心配させるな』って>

 

「うっ、それを言われると……いや、やるぞ。ちょうど2対1で有利なんだ、この機を逃すわけにはいかねぇ」

 

たしかにジェーンのビンタは強烈で何度も食らいたいわけではないが、それでも絶好の機会を逃すわけにはいかない。そう考えてエドワードは言い返す。

一瞬、本気で迷ったが。

 

<たしかにそうだけど……仕方ない、速攻で片付けるわよ>

 

「……速攻で片付けられるなら、な」

 

目の前の”シグー・ディープアームズ”を見据えながらエドワードは言う。

目の前の機体に自身の好敵手が乗っている証拠など無かったが、あの動きは奴の物だ。これまで何度も戦ったのだから間違えよう筈も無い。

 

「本当は1対1でやり合いたいが……我が儘言ってると味方に被害が出る。悪いが仕留めさせて貰うぜ!」

 

新たに手に入れた剣、試作斬艦刀二型『バルザイ』を振りかぶり、”シグー・ディープアームズ”に向かって直進する。

対する”シグー・ディープアームズ”もレーザー重斬刀を構え、迎撃の姿勢を取る。

 

「新しくなった『切り裂きエド』の力、たっぷり味わっていきやがれ!」

 

両雄、激突。




というわけで、汎ムスリム会議の受難でした。
ちなみにこの後、ミゲル君は無事にガンダム2機(inエース)から逃げ切りましたとさ。

今回出たオリジナル機体、ならびにリクエストで募集した機体の解説を行ないます。例によって長いので、ここでブラウザバックして大丈夫です。





○エカチェリーナⅡ(ドゥヴァ)
ユーラシア連邦の世界最大規模の移動要塞兼陸上戦艦兼空母である。
外見は一本の木に根のように伸びた8本の移動用脚部、幹から枝のように伸びる砲台群と3枚の発着用カタパルトが枝のようにつけられている。カタパルトは時計の針のように移動することが可能。
 大きさは全長2000メートル(発着用カタパルト収納時は1000メートル)、高さは300メートル、といった巨体を誇る。ハリネズミのような夥しい対空機銃と対空・対地ミサイル、極めつけに56センチ主砲13門、ビーム砲台11門、三枚の羽に見える発着用カタパルトからは艦載機(戦闘機は80機)とMS(50機)が展開される。8本の移動用脚部を使用し、大地を地盤ごと破壊しながら踏破する様は圧巻の一言である。
再構築戦争の折にロシアによって開発、日本と中国に投入されたものを改修し、汎ムスリム会議に投入したもの。
動力は核分裂炉から、宇宙艦艇に採用されている核融合炉複数に換装されている。
元々弾道ミサイルを迎撃出来る対空性能を持っていたが、Nジャマ-によって長距離誘導兵器の効果が激減したことで再利用することを決定、再改修されることが決まった。
元ネタは、アーマードコアFAのスピリット・オブ・マザーウィル。
ガンダム世界でACネタ出すのかと悩んだが、この世界のロシアならやっててもおかしくねえなと考え採用。
詳細は活動報告の「第2回オリジナル兵器・武装リクエスト」を参照すべし。
「今日は晴れ」様のリクエスト。

○ダガーDD
気密処理、塩害対策、化学物質(CE世界の海とか汚そうだし)が施されたストライクダガー。
膝から足首までLCACのホバー式で水面を滑走し、揚陸艦からの展開機能や河川部沿岸部で機動力を高める為作られた。
海は超えられないし高波くらえばドボンするから嵐や台風は天敵であり、ドーバー海峡やジブラルタル攻略を想定に含んでいる。
東アジアの中国や日本、大西洋のイギリスやユーラシア軍など需要先は多いと思う、というか大河や海峡が多いからヨーロッパはいる。
あといつかやるだろう北アフリカ解放や欧州の解放で使えるだろうし、多少手間はかかるが脚部以外大きく変わらないと思うから生産性的には大丈夫だと思う。

元ネタはノルマンディー作戦で作られたシャーマンDD。……らしい(ここまでリクエストのコピペ)。
「Dixie to arms」様のリクエスト。いつかやるかもしれないヨーロッパ奪還作戦で、再登場するかも?

○ジン・ワスプ改
"ジン"のライセンス生産権を獲得した「大洋州」を始めとした親プラント国が、水中用MS"ジン・ワスプ"を改造、改修し深度での戦闘も可能にした機体になります。

機体開発時にはなかった「新型バッテリー」を採用し、マテリアルに「チタンセラミック複合素材」を採用、コクピット部分には「大洋州」で極秘開発されていた「チタンセラミック複合素材」の後継素材を採用する事で水圧の問題を解決。姿はあまり変わらずに深度での戦闘も可能にしました。

また、「ZAFT」では重視されなかった「日本泳法」や「水球」、「アーティスティックスイミング(シンクロ)」などの「泳法」のモーションを取り込む事で"グーン"や"ゾノ"とは異なる不規則でありながら細かい動きと「ハイドロジェット推進」と合わせて使用した今までにはあり得ない方向転換が可能になりました。

【武装】
基本的には"ジン ワスプ"を踏襲していますが、バッテリーの換装と素材の変更で可能になった追加ラックで重武装化が可能になっています。
また、敵MS"ポセイドン"が出現した事で近接戦闘用の「銛」を装備しています。銛の手元には射出機構があり距離を幻惑する事もできます。
詳しくは「第2回オリジナル兵器・武装リクエスト」を参照すべし。
「taniyan」様からのリクエスト。



○陸戦型デュエル
陸戦における『G』兵器の有用性を検証するために開発された機体。
元の”デュエル”から宇宙用の機構を取り外しており、若干性能が向上している。また、PS装甲の色が出力最高クラスの赤であるため、防御力も高い。
試作機がエドワード・ハレルソンに支給されたが、彼がこの機体で多大な戦果を挙げたことで、3号機まで増産されている。
なお、エドワードの乗る1号機には、試作斬艦刀二型「バルザイ」が装備されており、これは広い刀身に対ビームコーティングが施されているため盾として用いることが出来るだけでなく、刀身が展開することでレーザー発生装置を展開することが可能であり、実体剣とレーザー刀を使い分けることが可能な、高性能近接武装である。
なおこの装備を見てユージ・ムラマツの発したセリフ、
「ここは覇道財閥じゃねぇんだよ!」の意味を理解出来た者は少ない。
作者のオリジナル機体で、以前にも話に上がった機体。

○陸戦型バスター
これも”デュエル”と同じく陸戦型に改修された機体だが、現在開発中の新型GATシリーズの武装のテスト機としての側面も持っている。
背中から両肩に掛けて突き出すように装備されているビーム砲「プロト・シュラーク」を主武装とし、腕には電磁バズーカ「トーデス・ブロック」を装備している。
盾とビーム砲を兼ねた「ケーファー・ツヴァイ」の装備も検討されたが開発が間に合わず、左腕はパイロットの好みに合わせて様々な装備を持たされる。
1号機はレナ・イメリアによって運用されたが、同じく3号機まで増産される。
作者オリジナル機体。



ユニットステータスです。
後日、番外編のステータスまとめに移そうかと思ってます。
そして素晴らしいリクエストを送ってくれた読者の皆様に多大な感謝を。

エカチェリーナⅡ
移動:5
索敵:A
限界:120%
耐久:2000
運動:1
搭載:15

武装
大型ビーム砲:300 命中 35
副砲:200 命中 40
ミサイル:150 命中 30

パワード・ダガー
移動:8
索敵:D
限界:155%
耐久:200
運動:28
シールド装備
ラミネート装甲

武装
バズーカ:150 命中 60
バルカン:25 命中 40
ビームサーベル:150 命中 70

ジン・ワスプ改
移動:7
索敵:D
限界:140%
耐久:100
運動:17

武装
魚雷:90 命中 65
銛:80 命中 60

ダガーDD
移動:7
索敵:C
限界:150%
耐久:200
運動:25

武装
ビームライフル:120 命中 65
バルカン:25 命中 40
ビームサーベル:150 命中 70

○捕捉説明
この機体はユージの眼では確認出来ないマスクデータ、「地形適正」が非常に優秀という隠し設定が付与されている。

陸戦型デュエル
移動:7
索敵:C
限界:170%(エドワード搭乗時220%)
耐久:320
運動:35
シールド装備
PS装甲

ビームライフル:130 命中 70
バルカン:30 命中 50
ビームサーベル:150 命中 75
斬艦刀:250 命中 55

陸戦型バスター
移動:6
索敵:B
限界:170%
耐久:340
運動:28
PS装甲

武装
ビームキャノン:220 命中 60
バズーカ:140 命中 50
ミサイル:60 命中 40
アーマーシュナイダー:100 命中 50

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