機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
蘊・奥「いざ尋常に、勝負!」
ユージ「いやそこで何故俺ぇ?」

今回、ユージにご都合設定が生えます。


第54話「グレイブヤード」後編

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”グレイブヤード”

 

「いや、何故に?」

 

ユージは思わず間の抜けた声を発してしまう。

何故自分が蘊・奥と立ち合わなければいけないのか?わざわざガーベラストレートの秘伝を賭けてまで?

まあ、()()()()()()()()()()

 

「ふん、すっとぼけるのは上手いな、ええ?()()()()よ。貴様の顔はあやつによく似ておるのぅ」

 

「あー……ご存じでいらっしゃった?」

 

「うむ」

 

それを聞いたユージは、顔に手を当てて天を仰ぐ。

まさか自分の出自を知る人物がこんなところにいるとは思わなかったのだ。

 

「隊長、どういうことですか?この方とお知り合いで?」

 

「いや、その、初対面ではあるんだが……」

 

歯切れの悪いユージの姿を見て疑念を持つアイザックと4人組。そんな彼らに構うことなく、蘊・奥はあるものをユージに投げ渡す。

細長いそれは、どう見ても蘊・奥の持っているものと同じような日本刀であった。

試しに柄を握って鞘からわずかに抜いてみると、紛う事なき真剣の証明たる輝きを放っていた。

 

「……真剣でやるのですか?」

 

「使ったことはあるのだろう?」

 

「……」

 

ユージの問いを聞き流し、小屋の外に出て行く蘊・奥。如何にも「やれやれ」と言いたげなユージもそれについて行くと、小屋には事情を飲み込めていない5人が残るばかりであった。

いったい、自分達の隊長は何者なのか?

 

 

 

 

 

小屋の外に5人が出てくると、蘊奥は既に刀を抜き放ち中段で構えている。剣先を相手の目に向けるように構えることから「正眼の構え」とも言われ、攻防バランスの整っていることから剣道などでも多用される構えだった。

対するユージは渡された刀を未だに抜かず、棒立ちのままでいる。

それは素人だからというより、未だに立ち合いに乗り気ではないという意思の表れのようであった。

 

「あの、真剣はともかく、せめてサシでやりたいのですが……」

 

「見届け人は必要であろう」

 

「聞く耳持たず、というわけですか。……アイク、悪いがこれを持っていてくれ」

 

そう言うとユージは、被っていた制帽をアイザックに投げ渡す。

覚悟を決めた様子でユージは刀を鞘から抜き放ち、まるでバッティングポーズに似たフォームで刀を構える。

個人的趣味で剣道について調べたことがあったアキラは、それが「八相の構え」と言われる攻撃的な構えであること、そしてそれが競技剣道では有効打になりにくい、()()()()の構えであることを思い出した。

ジリジリと擦り足で蘊・奥の左側に回り込むように動くユージに対し、蘊・奥も回り込ませまいと合わせて動く。

円を描くように両者は移動しているが、徐々に両者間の距離は縮んでいく。互いに、回り込むと同時に少しずつ相手に近づいているのだ。

緊迫した雰囲気の中、その光景を見守る外野一同。アイザック以外は戦闘の素人であったが、誰もがこの勝負の決着が一瞬で付くと理解していた。

ウィルソンが思わず、唾を飲み込む。

ゴクリ、という音が響いた瞬間。

 

「───っ!」

 

ユージは一気に踏み込み、目の前の老人を袈裟懸けに切り捨てようとする。

しかし蘊・奥は即座に反応し、自身の刀でその斬撃を防いだ。

ユージはそのまま力で押し込もうと体重を掛けるが、蘊・奥はユージが体重を掛けきったタイミングでユージの刀を受け流し、左に回り込む。

攻撃の失敗を悟ったユージは即座に距離を取ろうとするが、蘊・奥は猛追し、連続で斬撃を浴びせる。

ユージはそれを刀で防ぐが、徐々に体勢を崩していく。

そして。

 

「あっ……!」

 

アリアが思わず発した声を以て、決着がついた。

重々しい金属音を上げて弾き飛ばされた刀が地面に突き刺さる。その刀の主がどちらであるかは明白であった。

無手となったユージの喉元に、蘊・奥が刀を突きつけている。

 

「……参りました」

 

「うむ」

 

蘊・奥が納刀するのを確認すると、ユージはその場に尻餅を付くようにへたり込んでしまった。あの一瞬の攻防が、どれだけの負担になったかがわかるというものである。

 

「た、隊長!お怪我はありませんか!?」

 

「無い。この御仁がそのような下手を打つものか」

 

なんとか立ち上がったユージはアイザックから帽子を受け取り、目深に被る。

わかりきった結果ではあったが、それでも負ければ悔しいものだ。

 

「うむ、未だ未熟なお主に負けるほど衰えたつもりはない。しかも貴様、踏み込みが甘かったぞ。さては日々の鍛錬をサボっておったな」

 

「……最近、軍務が立て込んでおりまして」

 

「そんなことだと思ったわい。しかし……筋は中々良かった。以後は鍛錬を怠らぬように」

 

「……時間を見つけるところからですな」

 

さて、と蘊・奥は4人組に顔を向ける。

 

「約束は約束、ガーベラストレートの秘伝は渡さぬ」

 

「そんなぁ……」

 

「いやしかし、うーん」

 

「ギブアッポするしかないんdがあ?」

 

「ていうか隊長は何者なんです?」

 

それぞれが残念そうに(一人は疑問)をぼやく中、蘊・奥は手を挙げて制する。

 

「まぁ待て、話はまだある。そもそもお主ら、何か思い違いをしとらんか?」

 

『思い違い?』

 

「うむ。儂が当時、”世界樹”に招かれたのは、『日本刀を振る技術』の専門家としてだ。『刀を作る』専門家としてではなくな」

 

「っ!ということは!?」

 

「ガーベラストレートを作る技術はたしかに持っているが、ガーベラストレートを作ったのは()()だ」

 

蘊・奥の口から放たれた言葉は、その場にいる多くの人間を驚愕させるものだった。

今の今まで、この老人が作ったものとばかりに思い込んでいたこちらの落ち度であると反省させると同時に、「ならばその、ガーベラストレートを作った人間は何者なのか?」という疑問が浮かんでくる。

 

「ガーベラストレートを作り上げたその男は”世界樹”が崩壊する数日前に、地球に残した妻の体調が悪化したことで故郷に戻った。それ以降のことは知らんが……」

 

蘊・奥はチラリと視線をユージに向けた。ここから先はお前が話せ、ということだろうか。

ユージはため息をつきながら、話を引き継ぐ。

 

「その男は今、故郷のジャパンエリアで包丁作りの仕事に就いているよ」

 

「な、何故知っているんだ隊長?」

 

アキラの疑問に対し、ユージは観念したように答える。

 

 

 

 

 

「その男の名は村松誠一郎(むらまつせいいちろう)。『最後の刀鍛冶』と称される刀剣製造のプロフェッショナルにして……私の祖父だ」

 

 

 

 

 

「いやー、まさか隊長にそのような謎が秘められていたとは!このアリアの目を以てしても見抜けなんだ!」

 

「教える必要が無かったからな」

 

”デュエル”や”ミストラル”を置いておいた場所に向かう道中で、アリアは感嘆の言葉を漏らす。

ユージの衝撃的なカミングアウトの後、蘊・奥はこう続けた。

 

『儂は儂の意地として、ガーベラストレートの秘伝を軍人であるお前達に渡すことは出来ん。しかし元々ガーベラストレートを作ったのは誠一郎だ。あやつが教えるというなら、止めるつもりはない。あやつもまた堅物だが……秘伝が欲しいというなら、あやつくらい説き伏せてみよ』

 

つまり、教えを請うなら自分よりも適任がいるという情報を教えてくれたわけだ。なんだかんだで自分達を認めてくれたということだろう。

 

「隊長は知っていたんですか?お爺様が”世界樹”に務めていらっしゃったと」

 

「いや、知らなかった。祖父と言っても住む国が違っていたからな。学校の長期休暇の時などに遊びにいったくらいの関係だよ。もっとも、その度に刀の使い方を教えられていたんだがな。さっき見た通り、達人には軽くあしらわれる程度でしかない」

 

なるほど、とユージの剣の腕前に納得する一同。

刀剣製造のプロフェッショナルから教えられたというなら、ある程度の実力も納得出来る。いやあの老人(蘊・奥)は別だが。彼は明らかに生まれる世界を間違えている。

 

「ああ、なるほど!隊長の名前の響きがジャパンエリアっぽいと時々思ってたんですが、そういうことだったんですね」

 

「そういうことだ。ジャパンエリア出身の父が大西洋連邦に移住して、そこで母と結婚して私が生まれて……。いわゆる、日系アメリカ人なんだよ私は。それなりにあの国には縁がある」

 

ユージも転生して間もないころは、慣れない北米暮らしということで苦労していた。そんな中、時々のジャパンエリアへの旅行が癒やしになったものだと過去を振り返っていると、通信端末に着信が入る。

送り主は“コロンブス”艦橋。

何か起きたのだろうかと首をかしげ、通信を開く。

 

「こちらムラマツ。何かあったか?」

 

<隊長、出来れば急いでお戻りください!>

 

「落ち着けリサ、何があった?」

 

それなりに修羅場をくぐり抜けてきた通信士のリサの声には、明らかに焦りが感じられた。

そのためユージは、まずは落ち着きを促す。

 

<す、すいません>

 

「落ち着いたか?なら報告だ。もう一度聞く、何があった?」

 

 

 

 

 

<えっと簡単に言うと、MSで周辺を警戒していたセシルさんが無許可で発砲、隕石を破壊しました。本人が言うには、”コロンブス”に直撃コースで向かっていたので迎撃したそうなのですが……>

 

 

 

 

 

”グレイブヤード” 港跡

 

「暇、ですねぇ……」

 

<そうだねぇ>

 

セシルは乗機のコクピット内でそう呟く。彼女は現在カシンと共に”グレイブヤード”の周辺を警戒しているのだが、この宙域がそもそも人気の無い場所だということ、停戦中であるためにZAFTからの奇襲もそこまで警戒する必要が無いということもあって、絶賛暇を持て余すもとい気が抜けているのだった。

もちろん自分達の仕事が大切であることは、兵士として何度も戦ってきたわけだから重要なものだとわかっている。そうだとしても、この退屈は耐えがたいものなのだ。

 

<だけど、私達が暇なのはいいことだよ。それより、”ストライク”の調子はどう?>

 

「ばっちしですぅ。流石『ガンダム』だけはありますねぇ」

 

カシンの言うとおり、セシルが現在乗っているMSは、いつもの”EWACテスター”ではなかった。

GAT-X105”ストライク”。3週間ほど前までキラが搭乗し、戦っていた機体。

現在はOSをキラの作り上げた物から、ストライカーシステムに対応した『GUNDAM.OS』に入れ替え、”マウス隊”で試験運用されていた。パイロットにはセシルが選ばれたが、これは様々なストライカーの試験を行なう都合上、優れた情報処理能力を持つセシルが適任であること、そして成長しているセシルの能力に”EWACテスター”が追いつかなくなったためでもある。

現在”ストライク”が装着しているストライカーも、セシルの適正に見合ったものであった。

 

ライトニングストライクガンダム

移動:6

索敵:A

限界:175%

耐久:290

運動:32

PS装甲

 

武装

レールカノン砲:200 命中 90(超間接攻撃可能)

バルカン:30 命中 50

アーマーシュナイダー:100 命中 50

 

セシル・ノマ(Bランク)

指揮 13 魅力 8

射撃 11 格闘 4

耐久 6 反応 14

 

得意分野 ・指揮 ・射撃 ・反応

 

『”ストライク”のパワー容量を150%増す』という軍の要求に基づいて製造されたこの装備は、友軍機へのバッテリー供給を目的としており、後腰部から伸びるように設置された大型バッテリータンクがそれを可能としている。

それと同時にこの装備は長距離狙撃用としての武装も含まれており、そのために両肩を挟み込むようにストライカーから伸びる多目的コンポジットポッドと、両腕部にレールカノン砲『ホワイト・フェザー』を分割して備え付けている。

コンポジットポッドには測距離センサー・バーニア・放熱機構の機能が複合されており、これらを用いて、宇宙空間では一万㎞にも及ぶという最大射程距離と、友軍MSへのエネルギー供給という役割を全うするのだ。

『原作』では連合傘下企業のIDEX社が完成させられず、モルゲンレーテが完成させた代物であったが、この世界では連合のMS技術レベルが『原作』よりも向上したために完成に至った代物であったりする。

 

「この子のセンサーは”EWACテスター”と比べてもかなーり良いモノですぅ。私にはピッタリの装備なんですよぉ」

 

<良かったね。ずっと私達ばっかり『ガンダム』に乗ってたから、実は少し気にしちゃってて……>

 

「ふっふっふ、この”ライトニングストライク”を手に入れたセシルにかかれば、どんなMSもイチコロですよぉ」

 

誰が見ている訳でもないMSのコクピットの中で胸を張るセシル。その胸は平坦であった。

 

<だけど、最終的には”ストライク”はキラ君に返すんでしょ?ずっとは使えないっていうのがね>

 

「うっ、痛いところを」

 

そう、実は”ストライク”とセシルの別離は決まってしまっている。

というのも、かつて『セフィロト』に帰港した時に”ストライク”のオーバーホールした結果、”ストライク”の各部に掛かる負担が限界ギリギリまで高まっていたことが発覚したのだ。

それはつまり、キラは”ストライク”の性能を限界まで発揮出来るということであり、元々工業系大学の学生として機械に対する理解の度合いが他の多くの兵士よりも高いキラは、短期養成終了後に”ストライク”のテストパイロットとしての内定が決まっているのだ。

この際”ストライク”は諦めるにしても、せめてライトニングストライカーだけは欲しいなぁ。セシルがそう思っていると、モニターにチラリと映る物があった。

こういう時は大抵が宇宙を漂うゴミが光を反射しただけなのだが、妙に胸騒ぎがしたセシルはセンサーを起動してその方向を注視する。

そこには、いた。

 

「───”長距離偵察型ジン”?」

 

あの特徴的な肩のレドームは見紛うはずもない。今まで何度も戦闘したことがあるのだからなおさらだ。

十中八九あの”ローラシア”級から出撃したMSだろうが、こちらを窺っているのは何故だ?まさか戦闘を仕掛けようというわけではあるまいし。

 

<どうしたのセシル?>

 

「ああいえ、実はあっちに偵察タイプの”ジン”が───」

 

そう言うが早いか、”ジン”はどこかに去って行ってしまった。

これまたおかしい。何がおかしいかというと、その”ジン”はこちらに気付かれたから逃げた、という様子ではなかったのだ。

これは、そう。まるで何か、目的を達したからと言わんばかりに……。

セシルに育まれたパイロットとしての勘が告げている。このままだと、何か非常にまずいことになると。

 

<セシル?”ジン”がどうしたの?>

 

カシンの呼びかけを無視して、”ライトニングストライク”の各種センサーを最大限稼働させ、『異常』を探し始めるセシル。そして、彼女はとんでもないことに気付いた。

隕石。それもMSより1回り大きなサイズのものが一つ、向かってきているのだ。それも、港跡に停泊している“コロンブス”に向かって。

しかもご丁寧に、もしもそれに激突すれば”コロンブス”くらいなら轟沈せしめるだろう速度で。

 

「───っ!?」

 

思わず目を見張るが、隕石が向かってきている現実は変わらない。しかもこの速度なら、残り20秒ほどで激突するだろう。しかも、今気付いているのは自分だけ。

見開かれていたセシルの目が細まる。

今からセシルがやろうとしていることには、少しのミスも許されない。

 

”ライトニングストライク”の両腕部に分割して備え付けられたレールカノン砲を結合、展開させる。残り15秒。

展開したレールカノン砲を起動し、隕石に向けて構える。残り10秒。

レールカノン砲の出力を最大まで引き上げ、狙いを定める。残り5秒───!

 

「ファイア!」

 

セシルの放った砲弾は、果たして隕石に命中。

最大出力で放たれたそれは隕石を粉砕し、無数の細かな隕石へと変貌させる。

 

「ふいー……なんとかなりましたかぁ」

 

<セシル!?何があったの!?>

 

<こちらブリッジ!発砲が確認されたが、いったい何事だ!?>

 

肩の力を抜いてシートにもたれかかろうとしたセシルだったが、そういえば誰にも言わずに隕石破壊を実行したもんだから、他者から見たらいきなり自分がどこかしらに発砲したように見えるだろう、ということに気付いた。

退屈を持て余してはいたが、こんな形で忙しくなるのは流石に想定外であった。

 

「やれやれ、ですねぇ……」

 

機体状況を確認してみれば、いきなり最大出力で発射したことでレールカノン砲に掛かった負担は大きく、「ERROR」の五文字を表示している。

これについても報告しなければいけないということに、肩を落とすセシル。そこでふと気付いた。

───あの”ジン”は、結局何のためにこちらを監視していたのか?

 

 

 

 

 

”ノージック”艦橋

 

「……隕石、破壊されたようです」

 

「ふーむ、『まさか』と言うべきか、『流石』と言うべきか。……後者だろうな」

 

「良かったのですか艦長、あんなことをして」

 

「あんなこと、とは?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とした、一連の行動のことですよ。これは明らかに休戦協定違反です」

 

「私には君が何を言っているのか、さっぱりわからんな。()()()()()()()()()()

 

「事故ですか?」

 

「そう。たまたまあの輸送艦を沈められるサイズの隕石が、たまたま速度を付けて、たまたま停泊していたあの艦に衝突しそうになった。そんな事故だよ」

 

「……ジークとナバスの”ジン”を見られていても、その言い訳は通るでしょうか」

 

「通る、というか通す。たしかに私はあの二人の手で観測、隕石に取り付けた小型スラスターで確実に命中するように遠隔で微調整させた。が、その証拠が何処にある?休戦協定中とはいえ怪しげな敵艦が妙な場所でコソコソ何かをやっている、それだけで見張る理由になるだろう?隕石とは無関係さ。取り付けたスラスターもまとめて破壊してくれたあのMSに感謝しよう」

 

「2年ほど貴方の副官を務めておりますが、『面の皮が厚い』とはこのことを言うんだ、と何回思ったでしょうね」

 

「君が知らないなら私も知らないさ。さて、帰るとするか」

 

「”グレイブヤード”の調査はどうするのですか?」

 

「そりゃ君、十中八九あの廃棄衛星がそれだろうよ。だが今から向かったところであの部隊に怪しまれるだけだ。『目的の衛星は見つけましたが、連合に先にたどり着かれてしまい、休戦協定を破るわけにもいかないので帰ってきました』と正直に言うのが一番だよ。ついでに隕石を破壊したあのMS、あれも『偶然にも敵が試作装備の試射を行なっているところを発見しました!』とでも言ってデータを提出すればいい。こうすれば目的は達成出来なかったものの、連合の新戦力についてのデータをわずかでも持って帰ったことになる」

 

「いったい何食って育てば、そこまで悪辣に物を考えられるようになるんです?」

 

「朝と昼と夜に一杯ずつミルクを飲めばいい。どうしたら縛りのある状態でも敵を倒せるか、どうやって倒してやろうかをワクワクしながら考えられるようになる。……今度は戦場で会おう、”マウス隊”」

 

 

 

 

 

”コロンブス” 後部展望スペース

 

「隕石による被害はほとんど無し、それよりも、破損したレールカノン砲の方が問題か……」

 

ユージは一人、その場所で端末とにらめっこをしていた。

自分の祖父がガーベラストレートの制作者だということもそうだが、セシルの突然の発砲とその事件に関しての報告書を読む必要が生まれ、色々と現状を整理するために人気の無いこの場所で作業をしているのだった。

すでに”コロンブス”は”グレイブヤード”を発進し、『セフィロト』への帰路を辿っていた。”グレイブヤード”は遠く離れ、今や肉眼で確認することは出来ない。

 

「……休戦協定中というのに、やってくれる」

 

ユージはセシルの報告書の内容と当時の状況を照らし合わせ、”コロンブス”に襲いかかろうとしていた隕石の正体が、ZAFTからの攻撃であると見抜いていた。

いくつもの偶然を重ねた結果の事故であると判断するより、意図的な物と考えた方が有意義ということもある。

おそらく、セシルが見たという”強行偵察型ジン”の正体というのも、この隕石を正確に”コロンブス”まで誘導するための観測手だろう。おそらく小型のスラスターか何かを取り付けていたのだろうが、レールカノン砲が隕石を木っ端微塵に吹き飛ばしてしまったので、確認する術が無い。

セシルを咎める気はない。そもそも”コロンブス”が破壊されてしまっていたら、MSは補給を受けることも基地に戻ることも出来ず、いずれ物資とエネルギーが尽きて敵に鹵獲されるかもしれなかったのだから。

それにしても、この攻撃を実行したのは先ほどのZAFT艦の艦長なのだろうか?確認出来たステータスも、ZAFT兵にしては高い指揮能力だった。

 

「こういう指揮官が一番怖いんだ、正面戦闘も出来る上にルールの穴を突く戦法も採れる。……休戦明けが怖いな」

 

ユージがううむと唸っていると、展望スペースのドアが開いて入ってくる人物がいた。

そこには昼間”デュエルダガー”に搭乗して暴走し、白衣の男達に連れて行かれたスノウ・バアルが立っている。

 

「バアル少尉、目が覚めたか」

 

「ムラマツ中佐……。申し訳ありませんでした」

 

本当に昼間暴走した少女と同一人物なのだろうか?やや憔悴した様子を見せながらこちらに頭を下げて謝罪するスノウの姿に、ユージも戸惑いを隠せない。

どうやらあの白衣の連中はいないようだし、少し踏み込んでみるのもありだろうか。

 

「あー、もう大丈夫なのか?”デュエルダガー”から出てきた時、やけにぐったりとしていたが?」

 

「はい、あれは特別な麻酔でしたので。2時間ほど前に目が覚めたのですが、わずかに倦怠感がある以外は問題ありません」

 

そういうとスノウは展望スペースの窓の近くにまで寄り、窓の外を眺め始める。

 

「……少尉、落ち着いて答えて欲しい。君の憎しみは、私の命令に背き、艦に被害を与えることになろうとも晴らしたいものなのかね?」

 

「当然です……奴らは、私、の……?」

 

途端に頭に手を当てて苦しげにするスノウ。

おそらく、「私の」の次には「家族」でも「友人」でも、「何かを奪われた」という言葉が続くはずだったのだろう。苦しんでいるのは、トラウマ的体験を想起でもしているのだろうか。

 

「済まない、いきなり過ぎたな。無理に答えなくともいい」

 

「いえ、大丈夫、です。少々、立ちくらみしただけですので」

 

「なら、いいが……」

 

「……隊長、よろしいでしょうか」

 

スノウから質問が来るとは少々予想外だったユージだが、話を聞く態勢を取り、続きを促す。

普段は誰に対しても剣呑とした雰囲気を崩さないスノウだが、今ばかりは参っているということなのだろうか?

 

「私は奴らに、ZAFTに大切な物を奪われた、はずなんです。しかし、そのことを思い出そうとすると、途端に痛みが……!」

 

「ふう、む。記憶障害か何かを引き起こしているのだろうか。そのことは、()()には?」

 

「言ったのですが、『その痛みも喪失も、奴らを倒せば全て解決する』とだけ。だから私は、奪われた何かを、取り返さなくては……」

 

「……」

 

ユージはその言葉に嫌な予感を覚えた。

スノウ・バアル。ソロモン72柱の悪魔、その第一位に該当する悪魔の名を与えられたブーステッドマンの少女。

以前ユージはスノウがこの世界における「プロト・ゼロ」、つまり実戦投入された最初の強化人間に該当する人物だと考えていた。そしてプロト・ゼロは強化を受ける際に元々の記憶を奪われ、敵であるジオン軍に対しての過剰な敵意を植え付けられていたはずだ。

もしも、それがこの少女にも該当するのだとしたら?彼女はもしかしたら、自分でも制御出来ない憎しみに振り回されているのではないか?

気になることは他にもある。目の前のスノウは、食い入るように窓の外を見つめているのだ。

まるで、何かを探し出そうとしているかのように。そしてその何かに、ユージは心あたりがあった。

 

「“グレイブヤード”、か?」

 

「……はい。既に調査任務を終え、用は無いはずなのです。ですが、『あそこに何かがある』と、私の中の、何かが……」

 

「そうか……。ガーベラストレートを除いても、あそこは失われた情報の宝庫だ。もしかしたらまた、赴くことになるかもしれない。今回の暴走のことを考えると難しいかもしれんが、その時は君も任務に参加出来るように掛け合ってみよう」

 

「隊長……感謝、します」

 

そう言うと、スノウは再び窓の外を眺め始める。ユージもしばらくその隣で、宛ても無く宇宙を眺め続けた。

偶には、何も考えずにボンヤリとするのもいいだろう。




※今回スノウがグレイブヤード内部に侵入していた場合、ユニットとして使用不可能になる可能性がありました。

勘の良い読者の皆様はスノウの正体に勘付いてきたかもしれませんが、それらに対する言及は展開予想として運営対応される可能性があるので、どうしても書きたいという場合は個人メッセージで送ってくれると有り難いです。



それと、前回の感想欄で蘊・奥のステータスが知りたいというメッセージがあったのでここに載せます。
ぶっちゃけ、これ以降は出番があまり無い人物ですので。
それと今回のユージとの立ち合いですが……お願いだから剣道警察の方は深く突っ込まないでください()。

蘊・奥(ランクS)

指揮 0 魅力 12
射撃 0 格闘 20(最大値)
耐久 5 反応 10

得意分野 ・無し



アンケートの集計の結果、僅差で「設定回や番外編は独立するべき」という意見が多かったので、近々新しくそれらをまとめた物を別作品として投稿することになると思います。
流石に色々とっちらかってきた気がするので……。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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