マモリ「店長、おかわり!」
キラ&ユリカ『何杯呑むんだこの人……』
人生、何が起きるかわからないものだ。ユージ・ムラマツはぼんやりとそんなことを考えた。
『原作』との乖離激しいこの世界で、もはや自分の知識などはどこまで役に立つか。いや、本来の人間のあり方に戻っただけなのだが。
”ヘリオポリス”の時は遠征任務にかこつけて無理矢理アークエンジェル組と合流し、本来の筋書きから外れることにある程度成功した……と思う。あのような
『未来』とは、未だ来ていないと書いて『未来』なのだ。
「ロウ・ギュール、お前には器物損壊とMSの能動的戦闘利用の疑いが掛かっている!これより臨検を開始するが、抵抗した場合は罪状を認めたと思ってもらおうか!」
<いいっ!?なんだよそりゃあ!>
だから。
こうやって
どうしてこうなった?
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『セフィロト』 周辺宙域
デブリの中を、トリコロールのMSが進んでいく。
その機体はまるで、補助輪無しで自転車に初めて乗った子供のようにフラフラと、時々鋭い軌道を描きながらスラスターを吹かし、目的地へたどり着こうとしている。
しかしそのような危うい動きでくぐり抜けられるほど、デブリ帯というのは安全な領域ではない。
MSを操縦している本人すら予測出来ない鋭い機動を行なうMSはやがてバランスを崩し、近くのデブリへと向かっていき───。
<───はい、そこまでですぅ>
「あー、やっぱり無理だよこれ。鋭すぎる」
激突する直前に周囲の景色が暗闇へと変わり、後に残されているのはモニターの画面だけ。その光景を見ながら、先ほどまでMSを動かしていたパイロット、アイザック・ヒューイはため息をつく。
先ほどまでの光景はシミュレーションによるコンピューター上での出来事であり、アイザックがデブリにMSを激突させるという結果に終わったためにシミュレーションを終了したというのが、今に至るまでの過程である。
シミュレーション用の機械の中から出てくるアイクに、外部からデータを観測していたセシルが近づいてくる。
「やっぱり、アイクさんでも使えそうにないですかぁ?“ストライク”」
「うん、無理だね。少なくとも今の僕じゃ使いこなせそうにない」
先ほどまで仮想空間でアイザックが操っていたのは、先日”ヘリオポリス”から『セフィロト』まで届けられた”ストライク”。アイザックは”ストライク”を、『キラが組んだOS』を組み込んだ状態で動かした場合のシミュレーションを行なっていたのだった。
結果は惨敗。なんとか動かすこと自体は出来たものの、ZAFT製OSの『複雑さ』を更に洗練させたような操縦難易度に振り回され、デブリに激突という結果に終わった。PS装甲で覆われた”ストライク”ならば大破炎上まではしないだろうが、そうでないMSにとっては致命的だし、戦場では隙が生まれることになる。
上手くいけばこのOSを改良・発展することも出来ないかと考えたが、この有様では実現には遠いだろう。結局このOSのデータは参考資料として残されるだけに止まった。
「よくこんなの使えるなぁ、キラ君。いや、自分で組み上げたものなんだから当然か」
「それにしては高度すぎますよぉ。疑うつもりはないですけどぉ、キラ君って本当にただの学生さんだったんですかぁ?」
「……そこのところは隊長達も疑問に感じているらしくてね。出来る範囲で彼についての情報を集めているらしい」
”マウス隊”の人間は基本的に他者に対して優しい人間が多いが、それはけして呑気というわけではない。
学生どころかコーディネイターとしても非凡な能力を持つキラに対して疑問を持たないわけが無かった。ユージも暇を見つけては身元を探っているらしい。
もっとも、その姿に違和感を覚える人間も少なくなかった。違和感を持った人間曰く、「なにかしらの当たりがついているようだ」「あらかじめキラについて知っていたのではないかと思うほど迷い無く情報集めを行なっている」と。
まさか「前世でキラの出自を知っていた」などという真相が隠されているとは、誰にも想像出来まい。
「へぇ……。悪い情報が出てこないといいですねぇ」
「そうだね。そういえば、カシンはどんな様子かな?」
そう言いながら、アイザックはモニターを操作して基地の外の光景を映し出す。
そこには、新たに改修された”バスター”がデブリの中を飛び回る姿が映し出されていた。
「機動テスト終了。これより、武装テストに移行します」
カシン・リーの言葉通り、装いを新たにした”バスター”が停止し、新たな得物を腰だめにして構える。
バスターガンダム改
移動:6
索敵:B
限界:175%
耐久:320
運動:26
PS装甲
シールド装備
武装
インパルス砲:220 命中 55 超間接攻撃可能
ビームライフル:130 命中 70
対装甲散弾砲:180 命中 55
ガンランチャー:100 命中 60
ミサイルポッド:60 命中 40
カシン・リー(ランクA)
指揮 5 魅力 14
射撃 14 格闘 9
耐久 8 反応 14
SEED 1
得意分野 ・魅力 ・射撃 ・反応
GAT-X103B”バスター改”。幾度かの実戦を経て、”バスター”の問題点のいくつかを改善した機体。
”バスター”の特徴である2丁の射撃兵装。実体弾とビーム、それぞれ2種類の弾を発射するこれらの砲には、連結することで更に出力を高めることが出来るという独特の機能が備わっていた。
しかしこの機能、連結の際には時間がかかり、しかも動作中無防備になるという弱点を抱えている。様々な兵装を時々に合わせて使い分けることが”バスター”の強みだが、強みと弱点が一体となってしまっているのだ。
この問題を解決するために”マウス隊”技術陣が導き出した結論は、「最初からくっつけちゃえばいいじゃん」というシンプルなものだった。
”バスター改”は新型のバックパックに、長方形の箱のようなものを背負っている。これは”バスター”に本来備わっている武装の「350mmガンランチャー」と「94mm高エネルギー収束火線ライフル」をその中に収めたもので、名称もそのままマルチウェポンボックスとなっている。
宇宙世紀で例えるならば、フレームランチャーという複合兵装に近い見た目をしていると言えるだろう。
この改修は、最初から砲を一つの箱の中に束ねて収めておくことで連結の手間を減らすことに成功しており、”バスター”をより実戦に適応させた。4つの武装をほぼノータイムで使い分けることが出来るようになった”バスター”は、実力を順調に伸ばし続けているカシンの能力を余すことなく発揮させている。
更に、この改修を行なったことによって左側のアームに空きが生まれたため、”デュエル”や”ストライク”と同型のシールドを装備させられた。これからはビーム兵器が台頭してくるだろうことを考慮すれば、最適な処置と言えるだろう。
<こちら管制室。まずは通常モードでの射撃を試してください。問題が無ければコネクトモードでの射撃に移ります>
「了解」
実験部隊として何度もMSに搭乗し、様々な武装をテストしてきたカシンにとって、この程度の実験でミスなど起きるはずも無い。
少しのトラブルも発生せず、つつがなく実験は終了した。カシンが一息ついていると、通信が入る。
モニターに映った顔は、自分達の隊長であるユージ・ムラマツのものだった。
<ご苦労、カシン。改修された”バスター”はどうだ?>
「前よりも格段に使いやすいと感じます。連結の手間が省けるのもそうですが、砲身を連結する度に伸びて取り回しが悪くもなっていましたからね。シールドがあるのも有り難いです」
<テストは成功と見ていいかな?それは何よりだ。これから出番があるかもしれないからな>
出番?
ユージの言葉に違和感を持ったカシンはユージに問いかける。
「出番って、この時期にですか?休戦期間中なのに……」
<あー、いや、確定ではない。
「ZAFTじゃ……ない?」
モニターの中では、ユージが顔をしかめている。ユージは嫌悪感というより、戸惑いの表情を浮かべていた。
<ああ。これから俺達が相手をする必要があるのは……ジャンク屋だ。とりあえず説明するから、帰投したら第3会議室に集まってくれないか?>
『セフィロト』 第3会議室
「ロウ・ギュール……ですか?」
「ああ。その男を調査、場合によっては捕縛することが俺達に回ってきた仕事だ」
ユージはアイザックの問いにそう返す。
現在、第3会議室には宇宙に残った”マウス隊”のメンバー全員が揃っていた。
本来はアイザック達MSパイロットやエリクのような艦艇運用メンバーだけで良かったのだが、この際だからキラのOSのシミュレーションや”バスター改”の稼働試験の結果報告会もまとめてやってしまおうという理由で技術部のメンバーも集まっていた。そこまではいつもの光景である。
1人の少女から放たれた殺気が漂う場所があったのを除けば、だが。
「……」
仏頂面で会議に参加する少女の名はスノウ・バアル。先日”デュエルダガー”に搭乗して”デュエル
なお、ユージはステータス視認能力でブーステッドマンであることを知っているが、その他の隊員達は「特殊な訓練過程を経たMSパイロット」としか聞かせられていない。
薬物を用いて強化した兵士などという存在が知れ渡れば大問題である。特に、『原作』ほど”ブルーコスモス”が権力を握っていない今のこの世界では。
そんな少女だが、現在不機嫌度MAX状態で会議室の椅子に座っていた。隣に座っているセシルは「またですかぁ……」と半年ほど前のことを思い出していた。隣に殺気立った女性が座るのは、既にレナで経験済み、どこか達観したような気分で視線を向けないようにしていた。
彼女をひっつれて来た白衣の男達も”マウス隊”に所属しているはずなのだが、普段は何処にいるのだろうか?謎は深まるばかりである。
ユージはそのような雰囲気はものともせずに、話を続ける。
「この男には現在、アクタイオン・インダストリーの資源衛星における器物損壊と、MSの能動的戦闘利用の疑いが掛けられている。
「よろしいですか」
手を挙げたのは、意外や意外、スノウ・バアル。
常に仏頂面で言葉も荒いが、命令や指示には忠実だったこの少女が手を挙げるのは誰も予想していないことであった。
「バアル少尉、何か?」
「なぜ我々がそのような任務を行なうのでしょうか。我々は”第08機械化試験部隊”、犯罪容疑者の捜査が任務に含まれるとは思えません。別の部隊が担当すべきではないのですか?」
たしかに。”マウス隊”隊員達の思考が一つになった瞬間である。
元々はナチュラル用OSを開発するために結成され、一応の完成を見てからは試作MSや武装のテスト(時には実戦テストも含む)へとその役割を変えた自分達。
“アークエンジェル”の捜索・護衛をしたこともあるが、それだって自分達しかいないからやっただけのことである。
何故、わざわざ自分達が一ジャンク屋の捜査などをしなければいけないのか?
「たしかに、我々の普段の任務からはかけ離れているな。だがこれには理由がいくつかある」
「複数あるのですか?」
「そうだ。まず一つ、このロウ・ギュールという男はMSを所持している。しかも”ジン”や”テスター”などとは違う、高性能MSをだ。これを見てくれ」
ユージがそう言うと、モニターに画像が表示される。
そこに映っている姿は、”アークエンジェル”護衛に参加した者や技術班には見覚えがあるものだった。
「”アストレイ”……しかもこの色は」
「”ヘリオポリス”の時の……っ!あいつがロウ・ギュールだったのか!」
「やっぱり逃がすんじゃなかったんじゃないのー、たいちょー?」
たしかに、あの時ロウを拘束していれば今自分達に面倒事が回ってくることは無かっただろう。その点では、アミカの言うことはもっともだ。
ユージはそれに対して返答する。
「たしかに、あの時拘束していれば問題が起きなかったのはたしかだ。しかしあそこで彼らを拘束すれば、下手をすればジャンク屋組合を敵に回すかもしれなかった。民間人を敵に回す可能性があった以上、独断で行動するわけにもいかなかったんだ。すまん」
「あー、そういえばあれ民間組織でしたねー」
「評判は良くないけどね。『ジャンク屋組合のマークを付けた艦船等は、いかなる国も入国拒否出来ない』……いったい、どうやったらそんな強権を握れるのかしら」
マヤを初めとして、技術班達の顔が歪む。
ジャンク屋の仕事は戦争によって生まれた様々なジャンクを回収して修理・販売するいわゆるリサイクル業務なのだが、戦闘が行なわれた現場にすぐさま駆けつけて目を付けた物をかっさらっていく、いわゆるハイエナもいる。”ヘリオポリス”のロウ達の行動速度は、まさしくそう呼ぶに相応しい。彼らの場合は、ロウの仲間である『プロフェッサー』がモルゲンレーテのエリカ・シモンズから”アストレイ”の回収を依頼された故の即応であるのだが。
技術班としては、戦場跡に残された
もちろんほとんどのジャンク屋は一般的モラルに則って活動しており、回収したジャンクを民間の復興資源として活用している。一部が悪目立ちしているだけだ。
「つまり、あそこで彼らを逃がした私の責任を問われているというのも理由の一つだ。そして2つ目の理由。これは単純に、我々が一番動きやすい部隊だというのがある」
「動きやすい?」
「そうだ。現在、連合宇宙軍では来たる決戦の時に備えて宇宙艦隊の再編計画『ヴィンソン』を発動している。新たに艦隊を編成するだけでなく、新型宇宙艦の建造、旧型艦には対MS戦に対応した改修など、やることは多岐に渡る。”テスター”投入以前から被害の少なかった第8艦隊も、多数の艦艇を更新する必要があってな。改修が後回しにされている艦艇もほとんどは警備任務に回されている。彼らに比べれば時間のある我々がこの任務を受け持つのは、仕方のないことだ。これでいいか、バアル少尉」
「了解しました」
聞きたいことを聞き終わると、そのまま再び話を聞く体勢に戻るスノウ。
コーディネイターであるアイザックやカシンには刺々しいが、訓練の時のアドバイスはきちんと活かすあたり、根は悪い人間ではないのかもしれない。ユージはそう考えた。
「他に質問のある者はいないか?無ければ任務の概要を改めて説明する。
容疑者はロウ・ギュール。容疑は器物損壊とMSの能動的戦闘利用、これらが真実であった場合は拘束するのが我々の任務だ。行方についてだが、先日プラントを訪れた後に地球に向かったという情報が入ってきている。我々は彼らの航路を予測して張り込むことになるな。
この画像を見て分かる通り、容疑者はGATシリーズに比肩する性能の”アストレイ”を所持している。万が一彼がこの機体で反攻を試みてきた場合は……撃墜は許可されている。各自、警戒しながら任務に当たれ。出発は明朝の
外伝主人公を逮捕無いし抹殺、そのようなことを自分の部隊で行なうような事態だけは避けたい。ユージに出来ることは祈りが天に通じることを祈るばかりだった。
3/1
地球外縁軌道 ”コロンブス”艦橋
このようないきさつで、冒頭の場面に至る。
まさかユージも、張り込んでから3時間も経たずに目的の一行と遭遇するとは予想出来なかったが、これは情報の確度が高かったことを喜ぶべきなのだろうと納得させる。
長期任務になることを想定して多めに積み込んだ物資の、そのために資料を用意した時間が無駄になったことは気にしていない。
徒労に終わった分の書類仕事のことなど気にしていないとも。
「我々も暇じゃないんだ、さっさと選んでもらおうか!臨検か、拘束か!この二つ以外の選択肢が許されると思うなよ!」
<なんかわかんねぇけど、イライラしてねえかあんた!口調が刺々しいぞ!?>
「誰のせいだと思ってる!さっさと選べ!」
「……隊長、冷静にお願いします」
「たいちょー、なんか今日おかしくない?」
「ほら、あれだよ。出港前にあの4人に歩兵の宇宙用パワードスーツの資料提出されたから。私もちらっと見たけど、どこの特撮ヒーローって感じの奴だったから怒ってるんだよ」
「いや、今日の朝食がマズかったからじゃないですか?」
「純粋に寝不足では?」
オペレーターや操舵士共が何か言っているが、ユージは無視した。
関係ない関係ない、用意した物資が無駄になったことも変態共がテ○カマンスーツの設計図を提出したことも、余っているからって朝食にオートミールと納豆と紅茶を出されたことも。
何も気にしていないとも!寝不足はあるが!
<わ、わかったわかった!臨検だな!?何もなかったら解放してくれるんだよな!?>
「地球連合軍人は嘘を付かない!」
ユージの剣幕にビビリながら、ロウは臨検を受け入れた。
良くも悪くも自分の感情に素直なロウのことだ、おそらく自分達にやましいことは無いから大丈夫だと思ったのだろう。
だが、それは当人からしたら良くても、第3者から見ても同じとは限らないのだ。
この時期ならロウ達も変な物を持っていないはずだし(”アストレイ”は除く)、何事も無く厳重注意だけで済んで欲しいとユージは思っている。
ユージは仏頂面を崩さないまま、連絡艇でロウ達の母艦”ホーム”へ乗り込んでいった。
”ホーム”艦橋
「我々を訴えた企業についてですが、これは完全にあちらの逆恨みです。証拠の映像もこちらにあります」
そういってモニターに映像を表示するのは、ロウの仲間であり、後にジャンク屋組合の代表に就任することになるリーアム・ガーフィールド。
ナチュラルの兄を持つ奇特な来歴を持つ彼の手によって映し出された映像には、企業側の訴えた内容が虚偽であるという確たる証拠が残っていた。
「なるほど、つまりこうか。君たちはある企業に依頼されてジャンクを販売しに向かったが閉じ込められ、MSを渡すように強要された。それに抵抗した結果、向こうの設備を破壊するに至ってしまった、と」
概ね、ユージの想定していた通りの真相であった。
前世でASTRAYシリーズの漫画を読んだことのあるユージはこのエピソードに覚えがあり、無駄骨となることが分かっていたためにこの任務には乗り気ではなかったのだ。
他にもこの任務、というよりロウ一行との遭遇を忌避した理由はある。
「そうそう、そういうことなんだよ」
「ロウ、あんたは黙っていなさい」
余計なことを言うんじゃ無い、とロウに釘を刺すのは、C.Eでも屈指の謎を内包する女性こと「プロフェッサー」。本名も出自も何もかも不明、エリカ・シモンズと知人であったり、作品によっては
ユージは現状この女性をC.Eでもっとも警戒していた。余りにも謎すぎて、もしかしたら
故に、ロウ一行との接触をできる限り避けていた理由の一つでもあった。
極力彼女と目を合わせないようにしながら、話を進めていく。
「これが偽造したものでない、という証拠もないが……エリク、済まないがこの映像を精査してくれないか?」
「了解しました、隊長」
「頼む。もうしばらく付き合ってもらうぞ、ロウ・ギュール」
「うへぇ、マジかよ……。悪事なんて俺達してねえぞ?」
「お前達はそう認識していても、他から見たらそうではないこともあるということだ。”ヘリオポリス”の例で言うなら、お前達は崩壊から間もなくやってきただろう?そういう行為を見て『火事場泥棒が目的だったんじゃないか』と勘ぐる人間も少なくない」
「そんな、我々は!」
リーアムが反論しようとするのを、ユージは手で制する。
「別にお前達がそうだと言ってるわけじゃない。だが……そういう人間もいるということだ。ハイエナと同一視されたくなければ、自分達の行動の是非をもっと注意深く判断するんだな」
「……はい」
「そんな奴がいるのか……ジャンク屋の風上にも置けねえぜ」
ロウが右の手の平に左手の拳を打ち付ける。
無意識のうちに自分達がハイエナのように見られていたということは反省するが、意図的にそのような行為に及んでいる同業者がいるということは許せないことであった。
自分達は戦争の「破壊」によって生まれたものを「再生」するのが仕事だというのに、それでは「破壊」を望んでいるようなものではないか。
「理解したならいい。既に今更だがあのMS……“アストレイ”のことだってグレー扱いされてるんだ。これからは慎んでだな……」
「ん?”アストレイ”って、レッドフレームのことか?」
「ああ、”アストレイ”試作2号機、それがお前達が手に入れた───」
<隊長、すぐに来てください!この船の格納庫です!とんでもないものを見つけましたよぉ!>
ロウに”アストレイ”に関して簡単に説明しようとした瞬間、通信機からアリアの声が響いてくる。
ロウ達から事情聴取している間、マヤ達技術班は数人の護衛と、ロウの仲間である山吹樹里立ち会いの下で格納庫内に不審なものが隠されていないかの調査を行なっていたのだ。
尋常ではないその声を聞いたユージは目を鋭くし、ロウに拳銃を突きつける。
「何も変なものを持っていないはずでは無かったか?どういうことだ!」
「ま、待って落ち着け!本当だ、何も変なものは───!」
「いいから来い、弁明なら後から好きなだけさせてやる!」
その場に数人のスタッフを残し、ユージはロウを連れて”ホーム”の格納庫に向かう。
この時、感づいていれば良かったのだ。せめて、アリア達が何を見つけたのかを聞き返していれば。
普段のユージであればもっと注意深く行動出来たはずなのだが、寝不足で体調不良の現状では詮無きことであった。
「……あー、トラスト少尉。これは?」
「見てください、これ!こんなもの見たことがない、MSサイズの
「何で出来ているんだ、これは……しかも何度か使われた形跡がある!」
「こんな技術がこの世に存在していたとは……」
やっちまった。ユージは手で顔を覆い、微かに首を振る。普段は一緒に頭を抱えているマヤも、今回ばかりは目を輝かせて目の前の『お宝』に関してのメモを書き留めている。
この変態共が声を張り上げるような事態なんて、それこそ『お宝』を見つけた時くらいだということを忘れていた自分に、あきれ果てているのである。
(なんで俺は、ガーベラストレートの存在を失念していたんだ!こんなものを見つけたら、こいつら暴走するに決まってるじゃないか!)
廃棄衛星『グレイブヤード』の、オーパーツ染みたテクノロジーによって作られたMSサイズの日本刀。
如何にも彼らが好みそうな代物だ。
しかも、ユージの失態はこれだけではない。
「いったいこれは!?ていうか、何処で手に入れたんです!?作者は!?」
「ああ、ガーベラストレートか?それなら俺が直したものだぜ」
その言葉を聞いて、変態共がマッポーめいたアトモスフィアを漂わせながらロウに近づいていく。
ギラギラと目を輝かせながらジリジリと距離を縮めていくのだ、コワイ!
『詳しく聞かせろ!』
ユージが今回犯した、最大の失敗。それは、彼らの目の前にロウ・ギュールを、C.E最大手の変態技術者ならぬ変態ジャンク屋を連れてきてしまったことだ。
ということで、マウス隊とロウ達の2度目の邂逅です。
あの4人がガーベラストレートなんて見つけて、平然としている筈ないんだよなぁ……。
今回はロウ達に説教染みたことをしました(ユージにさせた)が、別に私はロウ達のこと嫌いじゃありません。
人格的には至極善人ですし、たぶん漫画で書かれている以外の日常では彼らも普通にジャンク屋稼業で働いてるはずですから。
ただ、やっぱりC.Eで生きてる当事者達からしたら気に入らないって部分もあるだろうから、ユージに釘を刺させたというわけです。
ロウ達に限りませんが、この作品は過剰なアンチ・ヘイトは行なっておりませんので。
あしからず。
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。