機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
地球連合軍、まとまりが無かった(周知の事実)

今回はZAFTやオーブのお話になります。
色々と作者好みに設定を生やしたりしてますが、ご容赦ください。


第50話「それぞれの思惑」後編

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プラント 『ディセンベル・ワン』 ZAFT本部

 

「どいつもこいつも……話にならん!」

 

パトリックは激怒した。必ず、かの楽天的な議員どもを除かねばならぬと決意した。

パトリックには「和平」がわからぬ。パトリックは、復讐者(アベンジャー)である。MSを作らせ、兵を侵攻させてきた。

故に「弱腰」に対しては、人一倍に敏感であった。

 

「奴らときたら、会議で口を開く度に和平和平と……今更そんなものが通ると思うのか?我らは多くを敵に回してきたのだ、そんなこともわからんのか!」

 

先刻までパトリックは、プラント最高評議会の定例会議に出席していた。それぞれの市の運営状況についての議題が終了した直後に、シーゲル・クライン率いる『クライン派』が会議で発言してきたのだ。

 

『ビクトリアを落とすことにも成功したのだし、ここらで連合にも我らの力を示せただろう』

 

『人手の不足が誰の目から見ても明白になってきた。これ以上は戦争どころではない』

 

『せっかく休戦にまで至ったのだから、この勢いのまま和平交渉を進められないだろうか』

 

色々と細かい事情を並べているが、結局誰も彼も、「戦争をやめたい」と言っているのだ。

元から戦争をやめる気などパトリックには無いが、流石に「現実を見ていない」発言の数々に対して辟易しているのだ。

 

奴ら(ナチュラル)我々(コーディネイター)も、奪い奪われを繰り返してきたのだ。───決着を付けなければ気が済むものか」

 

勝利した、敗北したが問題なのではない。何を得て、何を無くしたか。戦争の本質とは結局、そんな単純なものでしかない。

今和平交渉をして、向こうにとってメリットがあるか?我らに一方的に攻められて、一方的に奪われ、我らに対抗出来るだけのMSの用意が出来てきたであろうこのタイミングで。

そんなことを認められる人間がいるものか。失った分の補填をどうにか得なければ、奴らだって戦争をやめられない。

中途半端が許されない段階まで来てしまっているのだ。勝つか、負けるか。

 

「とは言え、まったく理解出来ない意見ばかりというわけでもない」

 

『原作』ではひたすらにナチュラルへの復讐を望む狂人と化し、この世界でもそうなりつつあるパトリックであったが、この時期のパトリックにはまだ多少の冷静さが残っていた。

未だ最高評議会議長に就任していない=プラントの全てを背負っていないこと、満足いく出来ではないがビクトリア基地の攻略に成功していたことなどの要素が存在していたことが理由である。

 

「アマルフィはきっかけさえあればこちらに引き込むことが出来なくもない……だがホワイトは難しいかもしれんな……」

 

『クライン派』『ザラ派』の中にもさらに『積極』『消極』の2つのグループが存在しており、『積極』の人物は何があっても意見を変えることはないだろうが、『消極』の方は問題さえ解決するならどちらに転んでもおかしくない。

今はわずかにザラ派の方が優勢だが、休戦期間を得たことで考えを改める人間も出始めているのが現状だ。

ちなみに、現在のグループ内訳はこのようになっている。

 

『クライン派・積極』

シーゲル・クライン(アプリリウス市代表)

アイリーン・カナーバ(セプテンベル市代表)

アリー・カシム(ヤヌアリウス市代表)

 

『クライン派・消極』

ユーリ・アマルフィ(マイウス市代表)

パーネル・ジェセック(ノウェンベル市代表)

 

『ザラ派・積極』

パトリック・ザラ(ディセンベル市代表)

エザリア・ジュール(マティウス市代表)

ジェレミー・マクスウェル(クインティリス市代表)

ヘルマン・グールド(オクトーベル市代表)

ルイーズ・ライトナー(ユニウス市代表)

 

『ザラ派・消極』

タッド・エルスマン(フェブラリウス市代表)

オーソン・ホワイト(セクスティリス市代表)

 

見ての通り、現在はザラ派の方がどちらかと言えば優勢ではあるのだが、先ほども記述した通り、『消極』に分類される議員はきっかけ次第でどちらに転んでもおかしくはない。

特にオーソン・ホワイト。彼はNジャマ-を開発した人物であり、最初は『積極派』に属していたものの、エイプリルフール・クライシスで地球に住む何億もの人間を殺してしまったこと、そしてその中にはプラント人口の5割を超える数のコーディネイターも含まれていたことを知り、若干精神を病んでしまった。そこを『クライン派』に突かれ、今にも消極派に傾こうとしている人物でもある。

彼が向こうに鞍替えしてしまえば、技術協力を渋る可能性もある。それだけは困る。

今計画している新兵器開発に彼の力はなくてはならないのだ。

 

「しかし、ううむ……いや、今はこちらの方を優先すべきだな。上手くいけば、いくつかは問題を解決できる」

 

そう言って、机の上に置かれている端末に表示されている資料に目を落とす。

『アイギス・プラン』。戦争が膠着、長期化したことで明らかになったZAFTの問題点を解決するために発動した軍策。

これに関しては、パトリックも自身の見通しが甘かったことを認識せざるを得なかった。

 

「まさか連合があれほど早くMSを開発、実戦投入してくるとは……。それだけではない、“スカイグラスパー”という航空機。これも驚異的だ、”ディン”の強みである高旋回能力を凌駕する戦闘力とは」

 

以前は一蹴していた、バーダー開発局の言葉が少なからず正論であったことがハッキリした。もはや”ディン”では現在の連合空軍に対抗することが出来ない。

陸戦に関しても連合側は、MSと戦車等の通常兵器を組み合わせた戦法を生み出し、互角あるいはそれ以上の脅威となって自軍に襲い来る。

何か決定的な手を打たなければ敗北は必至だ。

 

「何はともあれ、まずは指揮系統の改善から始めなければな。もはや階級制を無視することは叶わん」

 

そう、以前から一部の人間より指摘されていた指揮系統の杜撰さが、無視出来ない領域まできていたのだ。

元々ZAFTはパトリックやシーゲルらが立ち上げた政治結社、そこから発展した義勇軍。だからこそ階級制度は存在せず、役職ごとに分けられるくらいが精々だった。

しかし、そのために現場で指揮系統の混乱、新兵の突出、スタンドプレーの頻発を招いてしまった。これまでは結果次第で黙認されていたが、これからはそうもいくまい。

特に一部の兵が暴走するということが問題だ。開戦後に定められた戦時条約である『コルシカ条約』で定められているはずの『投降した敵兵への、条約に則った扱い』、これを無視して虐殺する兵士が存在するのである。

このせいでZAFTには捕虜の数が少なく、先日の休戦協定に含まれた『互いの捕虜交換』にも碌に対応することが出来なかったのだ。

捕虜の面倒を見る負担を無くすことも出来るからと甘く見ていたツケが襲いかかってきていた。よって、これは下手をすれば新兵器開発よりも解決を急がなければならない命題なのである。

 

「しかし、いきなり階級制度を導入したところでそれに兵が合わせられるかという問題もある。現在の体制から乖離せず、かつ指揮系統を改善する……難しいな」

 

パトリックは額に手を当て、考え込む。

この後に控えていた国防会議でもこの議題の解決は難航したが、ある国防委員からの提案が採用されたことでわずかながらに改善が見込まれた。

その内容は至って単純、同じ制服を着ている者達の中でも優秀な実績や能力を示した兵士にバッジを支給し、戦闘や非常時においては彼らの判断を優先するというものだ。

これなら現行の体制からの変化が少なく、兵士にとっても指揮系統がわかりやすくなる。多くの委員にそう考えられたため、この案が採用された。

このアイデアが実行された後の指揮系統を具体的に表すと、このようになる。

 

紫>白(バッジ)>白>黒(バッジ)>黒>赤(バッジ)≧緑(バッジ)>赤≧緑

 

要するに、同じ色の制服を着ていてもバッジを着ている側の意見が優先されるということだ。赤と緑に関してはアカデミー卒業時の成績で色が分けられている程度なので、「どちらかと言えば赤を優先」程度に止まる。

大規模作戦の発動時には更に最高指揮官を示すためのバッジを用意し、指揮権の一本化を図る。

不安は残るが、休戦期間はわずかに1ヶ月ほど。その間に変えられることと言えばこれくらいしか無い。

 

「地上戦力に関しても問題だ……対人戦にMSでは過剰過ぎるが、歩兵の数では圧倒的に負けている。ビクトリアのようにアフリカや中東から引っ張ってくるのも限界がある。いっそ生身の歩兵戦力は特殊部隊などに限定し、陸戦では無人兵器に任せてしまう方が有効かもしれん」

 

この議題に関しても、会議は大いに盛り上がった。

MSに偏重したせいで歩兵に対して的確に対処出来る戦力が不足してしまったというのは、『第2次ビクトリア基地攻防戦』以降かなりの提言が前線から送られていたため、こちらも早急に解決する必要のある問題だった。

これに対し国防委員会は『陸戦用無人兵器』の開発、実戦投入を決定した。

当初は無人兵器に搭載するAIの技術的問題、生産コストが問題視されたこれらのプランだが、用途を限定してAIの単純化を図ること、歩兵戦における人的資源の損耗率を劇的に改善出来ることなどから承認。大洋州同盟などの親プラントにも委託生産させ、急遽前線に配備させることが会議で決定されることとなった。

 

「そしてMS……そう、MSだ。連合の次期主力MSの性能は、”ヘリオポリス”で奪取した”イージス”のデータから、我々が現在開発している”ゲイツ”と同等以上と推測されている……これでは他をどう改善しても()()の完成を待たずして敗北するだろうな」

 

自分達が独立のための決戦兵器として用意したものだというのに、こうも易々と追いつかれては立つ瀬がない。

現行のMS、”ジン”や”シグ-”、”バクゥ”らの改良と新型MSの量産を行なわなければいけないというのは辛いものがある。最大の敵は連合よりも自分達の財布の底だ。

 

「だが、こちらは目処が付いているだけまだマシだ。”イージス”の存在前提というのは気に入らんが、背に腹は代えられまい……」

 

そう、実はMSの改修・開発に関しては目処が付いていた。

俗に言うと『”イージス”量産計画』と呼べるそれでは、

”イージス”のコピー機に航空戦能力を持たせた”ズィージス(ZAFT・イージス)”、

”イージス”から複雑な変形機構を取り除き、純粋な高性能MSとして量産も視野に入れた”アイアース”、

といった機体の開発プランが提案されていた。元にした機体が機体だけに、失敗する確率は低い方だろうからこれらは無条件に承認しようと決めている。

これら”イージス”から得られた様々なデータを元に新型MSを開発するというプランに加えて、バーダー設計局がここぞとばかりにこれまで不採用とされてきた開発プランの再設計したものを提出してきたのだ。

 

「鹵獲した敵戦闘機のデータからより航空戦に適した形になった”インフェストゥスⅡ”、

防空能力に特化した”ザウート・ヘッジホッグ”か。

流石に”ディン”で誤魔化し続けるわけにもいかんし、開発を認めるとしよう。……いや、いっそのことハインライン設計局と共同開発を行なうことで”ディン”に変わる空戦MSのための試金石とするのも有りか?両局長に話をもっていってみるか」

 

他にも、”ジン”にサブアームを取り付けることで火力の増強を図る、実弾火力の向上を図るために50mmマシンピストルや90mm重機関砲などの様々なプランが提案されているが、全てを取り入れるだけの余裕はない。

お財布(軍事費)の中身と相談しながら進めなければ。

本命の()()に掛かる費用もバカにならない。ただでさえ『クライン派』の目をかいくぐりながら密かに進行させているのに、金さえなくなったら完成さえ危うい。

だが諦めるわけにはいかない。それでは、これまでの戦いの全てが無駄になってしまう。

勝つ以外に、プラントの道は許されない。守れない。

 

「……今更、降りることは出来んのだシーゲル。何故それがわからん」

 

 

 

 

 

総括『プラント(ZAFT)』

:みなさんご存じ、民兵上がりの軍隊もどき。ようやく自軍の欠陥に気付いて取り組み始めたが一ヶ月でどれだけのことが出来るか、未知数である。

地球連合加盟各国ほどではないが国内情勢は混沌としており、『ザラ派』と『クライン派』が「評議会議員引き込み合戦」であからさまに対立している。むしろ対立が明確な分、他の勢力ほどドロドロしていないかもしれない。

戦争の長期化とZAFT入隊が志願制である故に、民間の人手が不足。経済状態が悪化している。

 

今更無理に階級制度を導入しても失敗するのは目に見えているため、『バッジ』という形で指揮権の優先力を定めることで妥協した。『バッジ』を付与する条件は

・実戦で結果を出していること

・実戦で冷静さを保つ精神力

・命令を確実に守らせるだけの統率力

上記の3つを主として査定し、条件に合致した兵士に渡されることとなる。

新兵器の開発に関して、歩兵の代替としての無人兵器、通称『オートマトン』の開発で補うことを決定。連合地上軍の歩兵部隊の一般的火力を無効化する装甲と対人用機関砲を装備したこれらを生産することで歩兵の損耗を防ぐことを決定。

”インフェストゥスⅡ”や”ザウート・ヘッジホッグ”といった、低評価兵器を再設計したものだけでなく、”ジン”の改修や新装備の開発など様々なプランが提案されているが、本命は『”イージス”量産計画』で生み出される機体群である。

 

『ザラ派』は極秘裏に「戦争を勝利に導く『何か』」を作っているらしいが、それが何なのかを知る者は当人達しかいない。

いったい、何ネシスなんだ……?

 

 

 

 

 

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オーブ ヤラファス島 オロファト市 内閣府官邸

 

「ウズミ様、もうそろそろお休みになられては如何ですか?仮眠を取られたとは言え、わずか3時間ほどではありませんか」

 

「そうしたいところだが、そうするわけにいかないのが現状だ。それに、せっかく連合とZAFTの両軍が休戦状態にあるのだ。片付けられる時に片付けるべきものを、だ」

 

「……かしこまりました」

 

毅然と返すウズミであったが、秘書の言うとおり休憩を取らなければ体が保たないだろうことは自覚していた。

結局、1時間ほど仕事を継続した後に休憩を取ることにしたウズミは、秘書を部屋から退室させ、座っていた椅子の背もたれに体重を掛ける。

 

「このまま戦争が終われば良いとは思うが、そうはいかんだろうな。両軍ともに、引っ込みが付かないところまで来ている」

 

机の上に載っている資料は、国勢調査結果や他国の情勢をまとめたもの、そして軍事費増加の意見書などの山。

”ヘリオポリス”崩壊、そしてその原因となった『連合とのMS共同開発』の責任を取って首長の座を退いたウズミであったが、その手腕とカリスマに代わるだけの人物が存在しなかったことからこうやって実権は握ったままでいた。

そのようなややこしい状況を作り出した原因である、サハク家の双子について思いを馳せる。

 

「彼らの言うこともわかる。数え切れない被害者を生み、凄惨な戦いが繰り返されるこの寒い時代に、備えが無ければただ飲み込まれるだけであろう。……しかし、彼らはそれ以外の可能性を排除しているように思える」

 

オーブ連合首長国。ソロモン諸島の大小様々な島々からなるこの国は、オーブ建国以前からその地域を支配していた者達の末裔たる『氏族』と選挙によって選出された議員達によって運営されている国である。

しかし議会の方はほとんど形骸化、国内の些末事の解決くらいしか仕事は残されておらず、実際に運営しているのは『氏族』、その中でも代々首長を排出し続けるアスハ家を中心とする一部の人間達だった。

その中でもサハク家はオーブの軍事を司る氏族であり、現在はロンド・ミナ・サハクとロンド・ギナ・サハクの姉弟が次期当主として活動している。

しかし彼らは歴代の当主の中でも強硬的であり、その証拠に『連合とのMS共同開発』を首長であるウズミに知らせず独断専行していた。

 

「力を手に入れた者には相応の責任が発生する。漁夫の利とはいかんのだ」

 

彼らの、『民を守る為の力は必要である』という言葉はもっともだ。自分が今行なっているのも自国の、国民の平和を保つための仕事なのだから。

彼らも自分も、オーブという国とそこに住む人々を守りたいという気持ちは一緒。しかし、始まりは同じ筈なのに違う方向を向いてしまった。

 

「『オーブは他国を侵略しない、他国の侵略を許さない、他国の争いに介入しない』……か。自分の言だというのに自信を持てずにいる私は、果たしてあの時の私と同じ人物なのだろうか?」

 

連合に与すれば、ZAFTから。ZAFTに与すれば、連合から。

どちらかに付いて戦争に参加すればもう片方からは必然と攻められる。そして、オーブはそれぞれの国の盾となって焼かれる。”カーペンタリア”が建設されたことで(結果論ではあるが)明白に連合とZAFTの間の勢力圏に挟まれるようになったオーブを見れば、咄嗟に中立宣言を出したことは間違いでは無いと思っている。あの時のオーブがどちらかに付いてしまえば、瞬きをする間に滅ぼされてしまっていたことだろう。

それに、ウズミだってただ中立宣言を出してそのままにしておくつもりは無かった。MSの開発を最初に命じたのだってウズミだ。中立を宣言しただけで平和が維持できるなどと考える愚か者はいない。

しかし、ここでウズミはミスをした。サハク家とモルゲンレーテ兵器部門が、勝手に連合と共同開発を決めてしまったことだ。

彼らは他国よりも性能の良いMSを作ろうとして、禁断の手段に手を出してしまったのだ。必要なのは、「大した脅威ではない」「しかし攻めるのには一苦労」程度の力で良かったというのに。

弱すぎず、強すぎず。それがウズミの理想的な軍事的備えだった。提出された”アストレイ”のデータを見ると過剰性能だ。しかも聞いた話だと、機動性重視の軽装甲MSだという。

素人のウズミにだって、この機体が守りには向かない機体だということがわかる。

 

「攻撃用MSを作ってどうするつもりなんだ、彼らは……。必要なのは『剣』ではなく『盾』だというのに」

 

半国営とは言え、結局は企業。政府や防衛軍に対しての配慮がなされていない。これをサハクが通したというならもっとマズい。

軍事を司る者が護国に必要なものを見誤るなど笑い話にすらならない。

何より悪いのは、よりにもよって即戦力を求めたばかりに、連合独自の技術たる『GUNDAM.OS』をそのまま”アストレイ”に盗用し、その証拠たる試作四号機と五号機(グリーンとグレー)が連合の手に渡ってしまったことだ。

大統領(ジレン)が穏便に事を済ませてくれなければ、それを盾に連合加盟を迫られてもおかしくはなかった。大西洋連邦に少しばかり貸しを作ることになっただけで済んだのは、単に向こうがその気でなかっただけなのだ。

 

「……限界、かもしれんな。『氏族』の」

 

アスハ家を始めとする氏族は代々オーブの舵取りを行なってきた。特にアスハ家は国民から厚く信頼されており、その信頼に応えるためにウズミも、その父達もその手腕を奮ってきた。

だが、いつしかその信頼は盲信へと変わり、アスハ家もそれに応える能力とカリスマを持ち合わせてしまったせいで、オーブ国民は考えることをやめてしまった。

戦争は余所の国のもの、自分達は関係ない───そのような意識を育んだ責任の一端は、間違いなく自分にもある。

”ヘリオポリス”崩壊の報から数日間はこの官邸の門前や内閣府にデモ隊が押し寄せたものだが、自分が首長の座を退いただけで彼らのほとんどは満足し、今はほとんどの国民が平気な顔をして日々を過ごしている。

”ヘリオポリス”の悲劇があってなお、国民の普遍的意識(平和ボケ)は直らなかったのだ。今日まで上手く「いき過ぎた」結果がこれだ。

無論彼らも守るべき、愛すべき国民に違いない。しかし、あまりに戦争に、世界に対して無理解過ぎる。

 

「我々は、どこで間違えたのだろうか。私に何が出来ただろうか……」

 

『オーブの獅子』などと言われようが人間であることには変わらず。だが、アスハの名がそれを他者から覆い隠してしまう。

多くの国民は愚鈍になり、一部の切れ者はそれを嘲りながら自らも破滅への道を知らず知らずに辿る。

今の自分にそれが変えられるとは思えなかった。夢を託す筈の一人娘はアフリカに飛んで戦士ごっこ(レジスタンス)に明け暮れる始末。

机の上に載った資料の中に描かれた高性能MS”アカツキ”や、敵の上陸を未然に防ぐための”アストレイ水中戦仕様”、新型潜水艦”イブキ”級といった数々の新兵器のデータも慰めにはならない。

ウズミは人知れず悩み続けた。

彼はたしかに人並み外れた優秀な人物であったし、国を、国民を愛していた。彼らを守るために何が出来るかを模索し続けた。

しかし彼には明確な欠点がある。それは1人で抱え込もうとしてしまうこと。責任感の余りに自分一人で何もかもを背負おうとしてしまうことだ。そして、それを察して力になろうとする者や彼を止める者も周りにはいなかった。

歪に、それでいて誰にも気付かれずに成長してきた『平和の国』。

ウズミは、目に見えない『崩壊』の足音が迫ってきていることを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

総括『オーブ』

:たぶん感想欄で一番話題に挙がるだろう国(先制攻撃)。

賛否両論多いウズミだが、「基本的には無能を書きたがらない」作者の性分によって「実は人知れず苦悩していた」属性が付与された。頼むからお前ら(特にウズミとサハク姉弟)殴り合ってでも互いの意見を戦わせてくれ、と思わずにはいられない。

アスハ独裁体制に慣れきり政治に無関心になった国民、首長のイエスマンに成り下がった他の氏族、暴走するサハク家、すごく優秀だけど一人で抱え込む首長。

とんだ地雷国家に成り果てたなぁ、えぇ?

経済的には連合やZAFTなど、他の様々な国と貿易を行なっているために好調。エイプリルフール・クライシスの影響も主な発電が地熱発電だったために少なく、一番恵まれてる(ように見える)国。

しかしそのせいで難民がオーブを目指して押し寄せて来ようとしたり、他の国からの嫉妬や不興を買ったりと、例えるなら「中はぬるま湯、外は猛吹雪」状態。

経済と国防、両方の面で重要なファクターであるモルゲンレーテの手綱を(少なくとも『パトリックの野望』では)政府が握りきれておらず、「高性能だけど、違うそうじゃない」兵器である”アストレイ”などが生まれる結果になった。

仕方なく”アストレイ”を主力とした防衛戦略を練ったりするものの、『絶対強攻ロンド☆ギナミナ』らがこっそり余計なことをしたがるため、ウズミの胃には順調に穴が開き始めている。

ウズミも自分の『一人で抱え込みがち』という欠点には薄々気付いているため、愛娘たるカガリには『他者に頼ること』『より広い視野をもってもらうこと』の大切さを学んでもらいたいと考えている。

信じて送り出した娘が、いつの間にやらアフリカでレジスタンスやってた。何を言ってるかわからねえと思うが……状態になったウズミはストレスで脱毛が加速した。

 

「ちょうどいい性能のが欲しい」云々は、wikiで「ギナ達が連合からの侵略を免れるために協力したことで、アズラエルにオーブの技術力への興味を抱かせてしまった」という記述があったため導入した。

「高い技術力、少ない国力」の国とか誰でも欲しがるに決まっているのだが、盟主王を見くびった挙げ句に「オーブを攻めない」という協定を反故にされたとか。

このSSを書き始めてから、作者のこの国と国民への評価は段々と低下していくばかりである。

 

とりあえず海戦能力の圧倒的不足を補うため、それとこのままだとアークエンジェル組がいない分やばいことになるのが明白なので色々とテコ入れをする予定。

この国をどう書くかに、ガンダムSEED二次創作者としての力量が試される気がする。

 

 

 

 

 

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<だーから無理って言ったじゃないですか。僕が言ったくらいで簡単にホイホイと国動かすような人じゃありませんよ、あの人>

 

「し、しかしですね。現状の予算では目標を達することが出来ず……」

 

<で、予算を増やせば目標を達することが出来るって?そんな単純なものなんです、君たちの研究?>

 

「は、そっ、え、それは……」

 

<たしかに単純な能力では大概のコーディネイターを上回ってる、それは認めますよ。でもこのデータを見る限りだと、戦いに慣れてる敵にこうやって時間を稼がれたら時間切れで負ける代物じゃないですか。しかもその時間も短いし……これなら、『特別教育プログラム』の方に力を注いだ方がマシでしたかねぇ?リターンは少ないですけど確実ですし、コスパもいいですから>

 

「───っ!どうか、もう一度チャンスを!あと一歩というところなのです、絶対に後悔はさせませ、いや、満足させてご覧にいれますので!」

 

<ふうん?……はあ、仕方ないですね。僕のポケットマネーから融通効かせましょう。これでダメなら……わかってますね?>

 

「もちろんです!全ては、蒼き清浄なる世界のために!」

 

<頼みますよ、ホント。……君たちも所詮、いくつもある内の一つ。換えの効くものでしかないんです。頑張って価値を証明させ続けてくださいね?僕は使えるならコーディネイターでも使うけど、使えないものはサッパリと捨てる派ですから>




先んじて忠告しますけど、余りに汚い暴言などを感想欄で確認した場合は容赦なく運営に報告しますので、注意してください。

大幅にテコ入れ(?)したウズミさんですが、作者の「こんなんだったら良いな」という思考に沿って書かれています。
単なる無能なんて書きたくありませんよ、ほんと。もう見飽きてます。

以下、今回話の中で登場した機体・兵器の解説です。
また長いです。

○陸戦無人兵器
国力に劣るZAFTが繰り出した苦肉の策。モデルは「ガンダムOO」に出てきたオートマトン。
歩兵の一般火力を無効化する装甲と、対人用の機銃を備える。
AI技術の未発達などが指摘されるが、用途ごとに異なる思考ルーチンを組み、その内容に応じた戦場に投入することで補う。

○ズィ-ジス
イージスの完全コピー機の改造した機体。名前は「ZAFT・イージス」を略したもの。
イージスの高い基本性能を向上させると同時に航空戦能力も持たせることで、高い汎用性を持たせる。
イメージはSEEDの「Re版」漫画に登場した、追加パーツを付けたイージス。
主兵装はロングビームライフルとシールドに取り付けた3連ビームクローの他、イージスの内蔵装備は使える。
総合的に後期GATシリーズとも渡り合える性能を獲得している。
イージスを無くしたアスランに宛がうために考案した機体。

○アイアース
ザフトがファーストステージシリーズの随伴機としてエースパイロット用に開発した機体。少数生産され、ザフトの中でもMSの操縦技術が特に秀でているパイロットたちに与えられた。(イザークたちレベルの赤服、ミゲルのような二つ名がついているパイロット、FAITH、など)
ゲイツのように元々開発していた機体にGATシリーズの技術を取り入れたものではなく、イージスを徹底的に解析して一から設計された機体で外見の所々にイージスの面影が見られる。しかし、イージスから可変機構を取り入れていたリジェネレイトとは違い、こちらは可変機構をオミットしている。動力は新型バッテリー。
頭部はイージスと同じくセンサー類が強化されたガンダムタイプだが、メインカメラは今までのザフト機と同じくモノアイとなっている。(いわゆるモノアイガンダム)装甲はPS装甲であり、展開時の基本カラーは、白とネイビーブルーのツートン。パイロットの中には電圧を変更し、自身のパーソナルカラーにしている者もいる。
全体的な性能はゲイツを超えており、搭乗するパイロットによっては後期GATシリーズとも充分に渡り合うことが可能。
武装は
腕部ビームサーベル、
腹部高エネルギー拡散ビーム砲「カリュブディス」
ピクウス近接防御機関砲
後背部に備えたスラスターに内蔵した8連ミサイルポッド
(ブレイズウィザードに近いシルエット)
を基本に、ビームライフルやシールドといったオプション兵装を使い分ける。
「刹那ATX」様からのリクエスト。

○インフェストゥスⅡ
ZAFTに現在配備されている戦闘機の後継機として生み出された航空新戦力。
スピアヘッド以下の性能しかなかった先代よりも航空戦のノウハウが集まった状態で開発が進められたため、飛躍的に性能が向上した。
スカイグラスパーに追従出来るだけの基本性能を誇り、主兵装は連装ビーム砲とバルカン、ミサイルと手堅くまとまっている。

○ザウート・ヘッジホッグ
ザウートは既に前線の兵士からも評価も低く、支援砲撃もジンやバクゥさえあればいいという風潮が既に広まっている。
その為にザウートを支援任務ではなく対空任務を担う為に、ザウートの二連キャノン砲を155ミリ50口径対空連射砲に変更して六門装備(設計局は当初ザウートと同じ四門の予定だったものの「あれ?タンク形態なら更に仕込んでも問題なくね?」と更に増やした)。
脚部、バックパックには複数の四連装対空ミサイルランチャーを装備、腕部にはジンのライフルと口径が同じ76ミリの対空4銃身ガトリング砲を装備(元ネタグフカスタムのガトリングガン)しており、機動力を犠牲にした重装備のヘッジホッグ(ハリネズミ)と化した。
「kiakia」様からのリクエスト。
本来はスカイグラスパー対策という目的もあったらしいが、インフェストゥスⅡの投入によって削られた。
申し訳ない……。

○補助腕
ジンの改修案の一つ。ジンにサブアームを取り付けることで4本の腕による弾幕を張ることが出来るのではないかという目論見がある。
同じく「kiakia」様からのリクエスト。
元のリクエストでは腰辺りに取り付けるらしいが、なんとなく「マブラヴ」の戦術機みたいにイメージしたためそうなるかもしれない。要するに後背部に取り付ける。
腰か後背部か迷っている。

○90mm機関砲
現状のMS主力兵装である76mm突撃銃の威力が不足しつつあることを懸念したZAFTで開発が検討されている装備。(検討中)
威力は上がるが、90mm弾の生産設備を作らなければいけないことがネック。
「モントゴメリ」様のリクエスト。

○イブキ級潜水艦
見た目はガンダムUCに登場するジュノー級潜水艦でMS搭載能力をもった潜水艦。
オーブに潜水戦力が不足しているのは明らかなのでリクエストの中からちょうどいいものを見繕った。
「kiakia」様のリクエスト。……ん?

○水中専用アストレイ
イブキ級の艦載機であり、アストレイブルーフレームスケイルシステムの廉価版機体。基本的機能はブルーフレームスケイルシステムと同じであるが、史実よりも多く水中MSの残骸などを確保出来た(ポセイドンの活躍の御陰)ためにより原作のそれより技術力が高まっている。
武装はスーパーキャビテーティング魚雷発射管とアーマーシュナイダー他、連合やZAFTの機体の装備を解析、オーブで使えるようにしたもの。
「kiakia」様のリクエスト。
違うんや、そうじゃないんや。
たまたま「kiakia」さんのものが多くランクインしただけで、狙ったわけじゃないんや。
本当なんです、信じてください!(必死)

今回と前回に登場しなかったリクエスト達も、いつ登場させてやろうかと機会を見計らってます。
今回登場しなかったことで落ち込む必要はありません、今はその時ではないというだけです。
では次回、またマウス隊やキラ達の視点に戻ります。

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