機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
スノウwith怪しげな白服「よろしくニキー」
ユージ「帰って-」

今回と次回は、いまいち需要があるかわからない地球連合の加盟国やZAFT、オーブの内情について触れていきたいと思います。
その中で、現在開催しているリクエストからもいくつか話の中に登場すると思います。あとがきで解説もするので、よければ最後まで見ていってください。


第49話「それぞれの思惑」前編

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大西洋連邦 ホワイトハウス

 

「───では、そのように進めてくれ」

 

『かしこまりました』

 

その男は机の上に置かれた電話機の上に受話器を置く。ただそれだけだと言うのに、気品と剛気を同時に感じさせるのは、その男が傑物だという証明に他ならない。

ジレン・ミスティルJr.。大西洋連邦の現大統領であり、『ブルーコスモス』の№2を兼任する男。鮮やかな金髪をさらりと掻き上げる彼に、秘書が声を掛ける。

 

大統領(プレジデント)、お疲れさまです。午後の予定ですが……」

 

「ユーラシア、東アジアとの会談を終えた後にフロリダへ飛び、宇宙船工場の視察だろう?わかっている」

 

「はっ」

 

秘書の言葉を遮り、自分の記憶を基に今後の予定について淡々と述べる。

本当はこの男には秘書など要らないのではないだろうか。秘書はそう考える。

ジレン・ミスティルJr.。大企業を経営し、いまや地球の一大派閥となった『ブルーコスモス』の№2を代々務めるミスティル家に生まれた傑物。

実直な性格と他者を魅了するカリスマを持ち、生まれ持った地位と資産に甘んじることなく邁進し続ける男。

なによりも特徴的なのは、『ブルーコスモス』でありながらコーディネイターに理解を示し、なおかつ幅広く支持を集めることに成功していることである。

 

「コーディネイターに限らず、人間は生まれる親を選べない。金を積んで尊い生命を弄ぶ遺伝子操作技術は否定すべきものだが、それによって生み出されたコーディネイターもまた、被害者である。かつて先人達は『トリノ議定書』によって新たにコーディネイターを生み出すことを禁じたが、失敗した。私は誓う。今度こそ悪しき因果を断ち切ること、すなわち不必要な遺伝子操作を完全に禁止することを。その先にナチュラルも、そして既に生まれ出てしまったコーディネイターも関係なく暮らすことが出来る世界があるのだ」

 

彼の主張は要約するとこのようになる。

ナチュラルもコーディネイターも関係なく過ごせる世界、それこそが真に蒼き清浄なる世界。

見ようによっては八方美人をしようとしているようにも見えるが、持ち前のカリスマがその言葉に現実味を持たせる。───この男なら、やってくれると。

今大戦の開始後も悠然とした態度で的確な政策を実行し続けており、先日結ばれた休戦協定の際についた異名が『あと1年就任が早ければ戦争を防げた男』。

そんな彼は休戦中も多忙に追われる日々を送っている。むしろ、休戦協定中だからこそ多忙なのかもしれない。

未だ完全に解決していないエネルギー問題に各国との連合加盟国や中立国との関係構築、休戦明けに備えた軍備増産。やるべきことはいくらでもある。

 

「大統領、それと昨日の件なのですが」

 

「昨日というと、戦費引き上げの件か。たしかにかなり粘られたが、議会や国防総省との折り合いは付けられたはずだが?」

 

「……アズラエル財閥より、再考の要請が届いております」

 

例えば、物わかりの悪い味方への対処とか。

『ブルーコスモス』は軍部だけではなく、議会にも一定数存在している。そんな彼らは先日更なる軍拡の必要性について議会で熱心に語ったものの他の議員と真っ向から対立し、大統領からの支持を取り付けるために連絡を取ってきたのだが、ジレンが拒否したことで目論見が頓挫したはずだった。

そして今度は、『ブルーコスモス』でもジレンよりも上の立場にあるムルタ・アズラエルを頼ったのだろう。

 

「やれやれ、私を説き伏せられないからと盟主にすがりついたか。───NOと返答しておけ。既に決定したことだ」

 

「よろしいのですか?」

 

「彼は『ブルーコスモス』の盟主だが、同時に優れた経営者でもある。絶対に無理なことを無理強いするような人間ではない。おそらく、彼らの顔を立てて一応は要請したという体面作りだろう。ハッキリと言えばしつこくは迫ってこない」

 

「かしこまりました」

 

「そんなことより、連合軍の今後の戦略プランについてなのだが……何か、進展はあったかね?」

 

№1を介した要請をもバッサリと切り捨てた彼は、休戦明けに備えた今後の戦争へと話題を移す。

先日『セフィロト』に”ストライク”が到着したことで、次期主力MSである”ダガー”の量産態勢が整った。今の連合、とりわけ大西洋連邦では機体の量産と、『ストライカーシステム』の更なる可能性の追求に力を費やしていた。

 

「はっ。各地の工場では”ダガー”本体とストライカーパックの量産は滞りなく行なわれており、現在は特殊環境下でのストライカーの研究・開発が行なわれているとのことです」

 

「特殊環境下?」

 

「砂漠や水中など、通常の装備では戦闘が困難になると予想される地域での運用、あるいは艦隊防護や突撃などの極々限定された用途で運用されることから、特殊環境下という形でひとまとめにしたようです。いくつか概要が届いておりますが、ご覧になりますか?」

 

「ふむ、そちらの考えには疎いのだが見せてくれ」

 

ジレンがそう言うと、秘書は前もってプリントアウトしていた計画書を差し出す。

それらには、様々な姿をした”ダガー”の姿が記されていた。

 

「ホバーシステムを組み込むことで地球各地を踏破することが出来る性能を持たせた、”パワード・ダガー”、

狙撃・電子戦に対応した偵察用の”ホークアイ・ダガー”、

重砲撃に特化した”ファランクス・ダガー”か。

他の2機はともかく、”ファランクス・ダガー”の役割はランチャーストライカーで賄えるのではないかと思うのだが?」

 

「提案した者が言うには、『ランチャーストライカーは一定の機動力を確保しているため、パイロットや運用次第で器用に立ち回ることが出来る。逆に”ファランクス”は砲撃に特化しているため、艦隊戦などではこちらの方が需要があると思われる』とのことです。ただ、高コストな装備となることが予見されているため、まずは試作機を作って様子見をするとのことです」

 

「そうか……ありがとう」

 

「いえ。それと、MSの配備が進んだことで余り気味の”メビウス”についてですが、偵察機としての改修や、宇宙用に開発されたことに由来する高い機密性を活かして水中戦用MAに流用するプランが提出されています。ご覧になりますか?」

 

「いや、そろそろ昼食の時間だ。フロリダまでの機内で読ませてもらおう」

 

「かしこまりました」

 

そう言って男は机から立ち上がった。

彼は理解している。この戦争が歪なものであると。

彼は分析している。大西洋連邦を脅かし得るあらゆる存在を。

彼は自覚している。自分の決断で世界を動かせることを。

故に彼は揺るがない。自分が揺らぐことが大西洋連邦を揺るがすことを知っているから。

だから、今日も戦うのだ。彼なりの、彼にしか出来ない方法で。

 

「それとミスティル本邸から連絡です。ヒルデガルダ様からのメールが届いたと」

 

「今すぐ家に連絡し私の端末に送信させてくれ、今すぐだ。ハリーアップ!」

 

世界の命運の一端を背負っても揺るがないこの男を揺るがすことが出来るのは、愛する家族からの便りくらいだろう。

これくらいの愛嬌を備えているくらいがちょうどいい、秘書はしみじみそう思うのだった。

 

 

 

 

 

総括「大西洋連邦」

:大西洋連邦はストライカーシステムや余った”メビウス”などの研究・改修を主軸とした戦略に則っている。

これは「”ダガー”を上回る総合性能を持つMSは今大戦で出現しないだろう」という見通しや、既存の兵器を出来る限り応用することでローリスクハイリターンを狙っているため。

全体的にMSを主軸とした戦法にシフトしつつある。

イギリスとアメリカが主となって成立した国家であり、かつての再構築戦争ではユーラシア連邦の母体となったEU・ロシア連合との戦争をきっかけに誕生した。旧アメリカ派閥と旧イギリス派閥の関係は悪くはないが、良いとも言えず、時折火花が散るくらいの関係。

旧イギリス派閥が最近大きなリアクションを見せていないことをジレンは警戒している。

 

 

 

 

 

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ユーラシア連邦 ブリュッセル 

 

「───であるからして、我々は更なる軍備増強を行なう必要があるのである!立ち上がれ、同志諸君よ!今こそ人類の脅威たるZAFT、そしてその尖兵と成り果てた汎ムスリム会議に対し、鉄槌を下す時だ!」

 

Ураааааааа!!

 

その場に集った人々の内、実に半数以上が雄叫びを上げ、議場を揺らす。その熱気は建物全体が揺らぐのではないかと錯覚するほどだった。

しかし、それとは対照的に白けた雰囲気を見せる者達がいる。

ここはユーラシア連邦、ブリュッセルに存在する連邦議事堂。その場には集う人々は2つの集団に分けられる。

ずばり、『旧ロシア出身者』と『それ以外』である。

ユーラシア連邦では、かつて再構築戦争においてその力を奮った旧ロシアとその出身者が大きな発言力を保持している。結果、どのような会議でも旧ロシア派閥の意見が優先されることが多々有り、同じくユーラシア連邦の母体となった旧EU派閥からは大いに不興を買っている。

 

「そのための策として、我らの優秀な技術者達は1つの解答を示した。全兵士の質を大きく向上させるための策、すなわち『パベーダ・プラン』!これらが戦場にもたらされた時、それが我らの勝利となるのだ!同志諸君、今こそ大いなる大ロシアの復活の時だ!」

 

そう宣言する現ユーラシア連邦議長、マキシム・アグーリンの姿を見て、旧EU派閥出身者の面々はこう思う。

 

(勝手にやってろイワン)

 

(巻き込むな全国民アルコール中毒者共)

 

(急性アルコール中毒で皆くたばればいい)

 

(一応)仲間内だというのにこの仲の悪さ、実に頭C.Eである。

なんだ、「兵士の脳内にエースパイロットのデータをインプットしたチップを埋め込むことで兵士の質を向上させる」って。

問題無く異論無く受け入れられるこいつらは、愛国心でもロマンチズムでも、はたまたアルコールでも何かしらに酔っているに違いない。それがこの場にいる旧EU派閥出身者の共通する意見であった。

とは言え、彼らも旧ロシア派閥に好きにやらせるわけではない。彼らなりの方法で手を打っていた。

先日行なわれた『第2次ビクトリア基地攻防戦』において、ユーラシア連邦を中心とした連合軍は敗れ、基地を失うことになってしまった。それだけであれば苦い思い出でしかないのだが、一筋の光明が残されていた。

“ノイエ・ラーテ”と呼ばれる新型戦車が、想定外の大活躍を見せたことである。旧ロシア派閥が報復だ鉄槌だと狂乱している中、旧EU派閥はこれに目を付けた。

 

「大西洋連邦に純粋なMS技術で勝つことは難しい。ならば同じ土俵で競おうとするよりも、別の方向からアプローチするべきである」

 

これが旧EU派閥内での共通意見であった。要するに、それぞれの持ち味を活かす方向にシフトしたということである。

ユーラシア連邦は連合加盟国の中で最大の国土に相応しい兵士数を誇っている。これを最大限に活かすにはどうすれば良いか?その答えは簡単、それだけの兵士を乗せることが出来る数の兵器を作れば良い。

”ノイエ・ラーテ”を開発した「通常兵器地位向上委員会」が以前に提出していた開発プランを再び精査したところ、それに相応しいものが見つかった。

1つは”リニアガン・タンク”の改良型。といってもこれはマイナーチェンジに近いものであり、武装の再設計や装甲強度の見直し、砲塔旋回速度の向上といった細々としたものが中心となる。だが最大の旨みは、新型OSを搭載することによって従来の3人乗りから2人乗りに移行させられるということだ。

戦車は通常、操縦手と砲手、そして車長の3人乗りが基本となっている。ここに新たなる支援OSを搭載することが出来れば、砲手としての役割を車長に兼任させ、2人乗りが実現出来るのだという。

もちろん乗組員の負担が増し、性能が低下するというデメリットもある。しかしそこは各所の再設計や、2人乗りに改良したことによって単純に1.5倍の数を揃えられるというメリットで十分以上に補えるのだという。

2つ目は、”ネッフ”爆撃機。純粋な爆撃機として設計された機体である。

一度Nジャマ-によってズタズタにされた航空連絡網だが、Nジャマ-影響下でも使用可能な通信手段の研究が進んだ結果、以前に比べると少し見劣りする程度には水準を戻すことが出来るようになった。そこに注目し、改めて対地攻撃に特化した爆撃機を設計したのが本機とのことだ。

ZAFTの主力空戦機である”ディン”の攻撃に耐えるだけの装甲と、他を隔絶する積載量を持つ本機はこれからの地上戦を優位に進めるキーパーソンになり得ると設計者は太鼓判を押している。

副次効果として、これまでは”ディン”からの襲撃に対抗するために無理矢理”スカイグラスパー”に爆撃装備を取り付けていたところを、本機の導入によって全ての”スカイグラスパー”を空戦に宛がえるようになるとも書いてある。やらない手は無い。

他にも、現在『アルテミス』では”アルテミスの傘”のシステムをMSに搭載するためのテストが行なわれているという。それさえ完成すれば、宇宙でもイニシアチブを得ることが出来る。

そしてZAFTとの戦争に隠れてこれらを量産し、戦争終結後に旧ロシア派閥などは滅ぼすのだ。

 

(この戦争が終わったら、次は貴様ら狂人どもだ)

 

(精々酔っ払っていればいい、我らが喉元を掻き切る時までな)

 

(今に見ていろアル中原人、全滅だ!)

 

永久凍土すら溶かし尽くすのではないかと思わせる熱狂の中、彼らの命を絶つための刃は密かに研がれていた。

 

 

 

 

 

総括「ユーラシア連邦」

:一番国内が不穏な空気に包まれている連合加盟国であり、一番ZAFTに対して憎しみを抱いている勢力でもある。

エイプリルフール・クライシスによって地球全土で核エネルギーが遮断され、地球最大の国土を誇るユーラシア連邦は最も大きな被害を負った。特にロシアエリアでは、エネルギーの遮断=暖房のシャットアウトを意味し、とりわけ餓死者や凍死者が増えた。このことから旧ロシア派閥はZAFTどころかプラント全てを根絶やしにしかねない程に怒り狂っている。旧EU派閥も大きな損害を負い、国家に対して不信感を抱いた一部の地域ではデモが頻発するなどZAFTに対して大きな怒りを持っているが、それはそれとして旧ロシア派閥が冷静さを失っている今が好機と捉えている。

実質2つの勢力が無理矢理1つにまとまっているような国家であり、戦後が一番不安な国家でもある。

ここまでそれぞれの派閥間での関係がこじれているのは、かつて再構築戦争時にロシアが主導してユーラシア連邦を設立した、つまりロシアがEUを取り込んだためである。

常任理事国の1つであるイギリスの離脱による大幅なパワーダウンと解決しない中東からの難民問題で混沌の渦中にあったEUに、ロシアはアメリカやイギリスを打倒するために同盟を迫った。その要請を躱せるほどの余裕は当時のEUには存在せず、結果として対米英戦線への鉄砲玉とされてしまった経験があり、それ以来連邦内では両派閥間での(しのぎ)の削り合いが繰り返されている。

旧ロシア派閥は兵士へのインプラントによる質的向上を、旧EU派閥は通常兵器の発展を主軸とした対ZAFT戦略を構想として持っている。

 

 

 

 

 

2/25

東アジア共和国 台北市 最高議場

 

「我々はこのように考えているのですが、どうでしょうか?」

 

「ふむ、我らに異論は無い」

 

「ではこのように」

 

その場所は異様な緊張感に包まれていた。

12人の人間が円卓囲み、一見和やかに、かつ円滑に話し合いが進んでいるように見えるが、その場に存在する人間の中で『本物の』笑みを浮かべているのはただ2人だけである。

渡辺銀太(わたなべぎんた)王子轩(ワン・ズシェン)。彼らは東アジア共和国の2大派閥である旧中国派閥と旧日本派閥、それぞれのトップに相当する人物である。

かつて強大なロシアに抗うために同盟を結んだ両国は、当時実質GDP(国内総生産)で2位と3位の国だったこともあり、東アジア共和国内でも大きな発言力を有していた。

この場所は東アジア共和国の「チャイナエリア」「ジャパンエリア」「コリアンエリア」「台湾エリア」から集った、各エリアの代表達が集う会議場なのだが、その議席数はチャイナとジャパンが4つ、コリアンと台湾が2つであることが彼らの力関係を表している。

 

「渡辺代表、これを見て欲しい。先日、チャイナエリアの戦略研究所が提案してきた大型輸送機の開発計画なのだが……」

 

「拝見します。……これは、ずいぶん凄まじい物を提案してこられましたな。輸送機というより、空中要塞ではありませんか」

 

「ええ、まあ」

 

苦笑する王。渡辺は渡された紙の資料を読み進めていく。

 

「MSの数十機搭載が可能な積載量とサイズ、さらにはシャトル中継基地としての機能さえも備える、ですか。予想される開発費用は……これまた凄まじい」

 

「でしょう?私もそう思ったのですが、設計者の意見を聞く限り、必要になると思うのです」

 

「聞かせてもらえますか?」

 

ほぼ2人で進められていく会議だが、他の10人も何もしていないわけではない。

チャイナエリアは資料を見た他エリアのメンバーの動きを注意深く観察し、ジャパンエリアのメンバーは資料を食い入るように精査する。

台湾エリアの人間もジャパンエリアと同じように注意深く資料を見ているが、コリアンエリアのメンバーは刺々しい視線をジャパンエリアに向けている。

 

「我々東アジア共和国は、他の2大国家と比べるとわずかながら国力に劣ります。先月のカオシュン攻防戦で、私は更にこうも考えたのです。今マスドライバーを失ってしまえば、我らは連合における一切の発言権を失ってしまうのではないかと」

 

「たしかに、ビクトリアが陥落したことで南アフリカ統一機構は大きく発言権を削がれ、かの基地を共同開発したユーラシア連邦も大きく力を削がれましたからね。ユーラシアでさえそうなのだから、我らの場合はもっと悲惨なことになる、と」

 

「その通りです。ZAFTだって、1度失敗した程度でカオシュンの攻略を諦めるとは思えません。虎視眈々と機会を窺っているはずです。その時に、他国にアピール出来る何かが無ければ我らは見捨てられるでしょう」

 

「その何かが、これだと?」

 

「はい。超大型輸送機”大鷲(ターチオ)”。これが、我らだけの力があれば、地上で一定の発言力を維持し続けることに成功するでしょう」

 

「大西洋連邦にはMSの研究で、ユーラシア連邦には物量で水を空けられていますからね。独自の強みを確保しておくことは必要でしょう。───それで、チャイナエリアはジャパンエリアに何をして欲しいのですか?」

 

目を細める渡辺に、王は口端をつり上げ、確信する。やはり彼こそ、自分と並び立つに相応しい人物であると。

 

「渡辺議員!何ですかその物言いは!」

 

「控えろ君礼準(クン・イェジュン)。そのような些細なことで会議を乱すものではない」

 

「くっ……」

 

コリアンエリアの議員が激昂するが、かつての宗主国であり現在も実質目上の立場にあるチャイナエリアの王から言われては大人しく引き下がるしかない。

 

「よろしいですか?」

 

「ああ、すみません。率直に言うと、そちらのフジヤマ社から何人か、技術者を派遣してもらえないでしょうか?東アジアでもっともMSの技術に長けた会社であるのは明白、よって力を借りたいのです」

 

「フジヤマ社、ですか。……難しいですね。彼らは今、独自のMS開発のために力を注いでおります。先日”ポセイドン”の陸戦改修型のテスト機がようやく出来上がったばかりでして……」

 

「それは聞いています。しかし、これが完成した暁には我らの地位は盤石となるのです」

 

「……」

 

渡辺は考え込む素振りを見せる。

彼自身としては、この計画に不満は無い。自分達だからこその強みは必ず必要になるし、この”大鷲”はそれを満たすことが出来る価値を秘めている、と考えている。

それが実現可能かどうかが問題となるのだが……。

 

「わかりました。なんとか人員を派遣出来るようにフジヤマ社に要請してみましょう」

 

「ありがとうございます、必ず素晴らしい物が出来るでしょう。───他に議題はありましたかな?」

 

「ジャパンエリアからは特にありません」

 

「台湾エリア、ありません」

 

「……コリアンエリア、ありません」

 

「では、これからも東アジアの共栄のために」

 

その一言を以て会議は終了し、席から議員が立ち上がっていく。クンが渡辺をにらみつけながら去って行ったことを除けば、円満に終わったと言えるだろう。

渡辺と王が最後に円卓から立ち上がる。

そして目を合わせた2人は、ニヤリと野心に満ちた笑みを見せる。彼らは同じ大学、同じ学科で学生生活を送った友であり、ライバルでもあった。

彼らには夢がある。授業の合間に、飯時に、寮部屋での酒の席に語り合った夢が。

ZAFTなど大西洋連邦やユーラシア連邦に任せれば良い。プラントの技術も、今となっては固執するものではない(無論もらえるものはもらう主義だが)。

彼らはこの戦争の先を見据えていた。すなわち───2大国家との戦争を。

ZAFTが起こした様々なイベントは、見事に世界を引っかき回してくれた。半ば凝固しつつあった世界情勢は崩れ、それぞれの国が抱える闇も噴出し始めた。

もちろん東アジア共和国にも言えることだが、自分達が舵取りをやりきってみせればいいだけのことだ。

戦争が終われば、おそらくユーラシア辺りが大きく動き始めるはずだ。この戦争ではできるだけ消耗を抑え、かつ国家の規模を拡大する必要がある。

彼らのさしあたりの目標は、明確に敵に回ってくれた大洋州連合を吸収することである。

かつて先人達が夢に見て、しかし実現することはなかった大いなる野望を叶えるために。

 

((我らが夢見た、『大東亜共栄圏』の実現。いずれ来るその時のために))

 

東アジア共和国はその時のために力を蓄え続ける。

世界を手にするのは、我々だ。

 

 

 

 

 

総括「東アジア共和国」

:共和国を謳ってはいるが実体は複数の国の同盟であり、その中でもチャイナエリアとジャパンエリアがもっとも大きな発言力を持っている。力関係を具体的に示すとこのようになる。

 

チャイナ=ジャパン>台湾エリア≧コリアンエリア

 

なぜこのような力関係になったのか。それはやはり、再構築戦争を起源とするものであった。

元々中国はかの戦争において日本と敵対しており、ロシア・EU連合との戦争状態に陥ったアメリカが日本の防衛を放棄したことで、実質「中国対日本」の関係が出来上がった。

国力の中国と技術の日本、両方が守勢的な国だったこともあって戦争は泥沼化していくと思われた(中国は日本を太平洋進出の足がかりにする目論見があったため、核兵器の使用を渋った)。

ところが、双方が疲弊したところに介入してきた国家が存在する。

ロシアである。EUを米英にぶつけたことで余力のあったかの国は、疲弊した中国と日本を取り込むために戦争に介入、勢いに乗って中国から黒竜江省、日本から北海道を奪い取ることに成功した。

かつて様々な国との戦争で敗北を喫した経験があり「このままでは負ける」と直感した中国と、(自称)平和主義者達がソロモン諸島辺りまで「平和主義の理念を守るために」逃亡したことで戦争に前向きに取り組むようになった日本が急遽結託。

発言優位を保ちたい中国に日本側は強気に応じ、ダラダラ話し合う訳にもいかない中国が日本との対等な関係を認めたために現在の「チャイナ・ジャパン2大巨頭体制」の土台が出来上がった。

空前絶後の同盟は、ロシアを押し返すことは出来なかったものの、押しとどめることに成功。同盟が大きな益となることを理解した双方が対等な関係を維持し続けることを選択、そのまま朝鮮半島や台湾などを取り込んだ。

台湾の扱いに揉めたこともあったが、「一度台湾の独立を認め、その後に東アジア共和国の一部として迎え入れる」ことで、台湾にアイデンティティの保持を認めつつも、自分達の旗下に取り込むことに成功した。

朝鮮半島は日本の扱いが中国と同等であることに反感を持ち問題行動をいくつか起こしたが、「日本が味方になった中国」「9条を踏み倒した日本」によって一気に鎮圧されてしまい、後の発言権の低下を招いた。

ハッキリ言って、この世界でもっとも面倒な成り立ちを持つ国家。チャイナとジャパン、双方のトップが友好的であることから一番国内情勢が安定している国でもあるが、連合加盟国の中で一番不穏なことを考えている国家でもある。

独自の強みを活かす方向性を持ち、着実に地球で勢力を拡大するためのプランを練っているが、戦後を見据えすぎてZAFTへの警戒がおろそかになりつつある。

カシン達エースパイロットの力を重要視し、特別な兵士を養成する「衛士計画」なるものを考案しているという噂もあり、謎も多く抱える。

結論、一番面倒くさい。




長くなったので、前後編に分けます。
後編はオーブやZAFTに焦点を当てる予定です。

以下、今回の話の中で登場した兵器の解説です。
現在開催している「オリジナルMS・兵器リクエスト」の中からもたくさん採用させていただきましたので、興味のある方は覗いていってください!

警告:非常に長いので、細々した設定に興味の無い方はブラウザバックをオススメします。
今回は重大告知の類いもないので、安心してください。



○パワード・ダガー
”ダガー”系のバックパックと脚部を変更し、ホバー移動を可能にしたタイプの機体。
バックパックと脚部のイメージはサンダーボルト版の陸戦型ガンダムS型。
海上と陸上をスムーズに移動可能なホバーは、島々が多い地域や足場が沈む雪原、砂上で有効であると判断されたため、開発が決定した。
しかし本作ではMSをホバーさせられるだけの技術があるかどうかがあやふやなので、開発は多少難航しているという設定になる予定。
「あのぽんづ」様のリクエスト。

○ホークアイ・ダガー
”ダガー”をベースに開発が進められた電子戦・狙撃対応型偵察用MS。
ZAFTの”長距離強行偵察型ジン”をモチーフとした機体で、その役割から単機運用となるため生存性を高めるべく総合的に高い性能を有している。
(センサー類の向上化によってサブパイロットは不要となり、単座型となっている)
電子戦・狙撃対応型偵察用MSと名を打ってあるが、その高性能から電子戦用バックパックを取り外せば戦闘運用は可能。
また、狙撃特化ではなく狙撃“も”行える機体であるため、近距離戦なども行える。
高性能ゆえに高コストな機体にはなってしまったが元々単機での運用のため採用、前線に送られた。
機体カラーはその運用地域によって変更されるが、初期製造機はモチーフに因んで黒。
武装は折りたたみや出力の調整が可能な新型ビームスナイパーライフル、大腿部に備え付けられたホルスターに収められた2丁のビームガンやビームサーベル、そして電子戦用に開発された新型バックパック。
状況に応じてマシンガンやシールド(ダガーのもの)
このバックパックは索敵や情報収集だけでなくジャミング電波を発信したり、パイロットの能力次第でハッキングをかけることも可能な代物。任意でのパージも可能。
「佐藤さんだぞ」様からのリクエスト。

○ファランクス・ダガー
”バスター・ダガー”と同時期に開発され、同機以上の砲撃能力と防御能力を獲得した機体。機体カラーは赤と白のツートンカラー。
しかしその代償として、当然のごとく大幅な運動性の低下や生産コストの増大を招いている。
”バスター・ダガー”に似ているが3本のアンテナを持つ頭部を有している他、全体的にゴツいシルエットになった。特に目を引く大型バックパックは、豊富な武装を十全に扱うための新型冷却装置も兼ねている。
非常に多くの武装を有しており、ここに書き切るのはめんd……困難なので「第二回オリジナル兵器リクエスト」の中の該当箇所を見てくるのがてっ取り早い。
元ネタはラーズアングリフ。
「刹那ATX」様からのリクエスト。

○EWACメビウス
”メビウス”の改修機。主力を”ダガー”に切り替えるにあたって、
既に生産済みの”メビウス”及び生産ラインを無駄にしないための開発プラン。
空気抵抗を考慮しなくともよい宇宙で運用する事に加え、全方位を警戒する必要が有るため球状のレドームを装備している。
また、岩塊やデブリに係留するためのアンカーを装備した簡易腕や、有線カメラユニットなど索敵に用いる機器を充実させている。
これらの改修を施したことで直接戦闘力は非常に低いが、そこはMS以上の加速力で逃げ回るコンセプト。
前述の”ホークアイ・ダガー”が高コストな機体であるため、その穴を埋める目的でもこの開発プランは速やかに実行された。
「1000-Re:Q」様からのリクエスト。

○フィッシュメビウス
これまた不良在庫化しつつあった”メビウス”の流用プラン。高コスト故に量産が難しかった”ポセイドンデュエル”の穴を埋める目的で開発が計画された。
レールガンを排して魚雷を満載。単独戦闘は最初から除外して3、4台でチーム組みポセイドンの随伴機として活用する。援護はもちろんポセイドンの装備を運搬することもできるし有線で無人化して策適用など多用途で用いることが出来ると考えられる。
元ネタは宇宙世紀の”フィッシュアイ”らしく、元々宇宙用に開発された”メビウス”は気密性が高く、水中機に流用出来るのではないかという思考もあり採用。
「ms05」様からのリクエスト。

○『パベーダ・プラン』
”インスパイアテスター”の効果を見て味を占めた旧ロシア派閥が次に着手した計画。
その実体は「優秀な兵士のデータをインプットしたチップを脳内に埋め込み、彼らの能力を再現させる」というもの。
特定の音楽や音声を聞かせることで起動し、脳内のチップが起動した兵士はエースパイロット並の動きが出来るようになる。
弱点としては、一度埋め込んだチップの更新が出来ないこと、データに無い敵機に遭遇した場合動きが極端に鈍くなるなどが挙げられる。
ユーラシア連邦の”ブルーコスモス”が関与しているという。
余談だが、このリクエストに酷似した存在として宇宙世紀の「バイオ脳」技術がある。アムロ・レイの戦闘データをインプットしたバイオ脳をパイロットとしたMS”アマクサ”は非常に強力だったが、トビア・アロナクスの「一度もアムロが見ていないだろう攻撃=初見殺し」によって撃破されている。
「kiakia」様からのリクエスト。

○ネッフ
「通常兵器地位向上委員会」から提出された新型爆撃機の開発プラン。
「ニュー・イラ・フライング・フォートレス」の頭文字から取って”ネッフ”(NEFF)とした。
いうなればC.E版の”デプロッグ”だが、こちらはMSやNジャマ-の存在を前提として設計されているため、総合的にはこちらの方が性能は上であると思われる。
自衛能力強化のために対空レーザーの搭載も検討されているという。
「モントゴメリー」様からのリクエスト。

○ポセイドン陸戦化改修案
「カオシュン攻防戦」で「G」が与えた影響から、「戦後の政治的な発言力の喪失」を予見した「東アジア共和国上層部」により提言された。
当初は政府上層部が「政治的なインパクト」から独自開発に拘っていたものの、用兵側の「早期戦力化の声」と「フジヤマ社」の「MA製造のノウハウしかないために時間がかかり過ぎる」という回答、「ユーラシア連邦」や「オーブ首長国」が既に開発に着手しているとの情報が諜報部門からもたらされた事で路線を変更。先ずは「身の回りの技術を活用」して「G」に近い機体を送り出して「実績」とし、そこで得た技術と知見、経験を基に独自開発をするものとした。
「ポセイドン」の「OS」や「PS装甲」、「フレーム」はそのまま活用。「海洋戦装備」をオミットし武装は「カオシュン攻防戦」で大量に鹵獲されたザフトの武装を連合規格に改定した物や損傷した「リニアガンタンク」の主砲を改修したキャノン砲、「陸戦型テスター」で使用されている「ビームライフル」を採用して早期戦力化を目指す。
元ネタは「08小隊」に登場する「ガンダムEz8」とのこと。
「taniyan」様からのリクエスト。

○大鷲(ターチオ)
「カオシュン攻防戦」で「地上マスドライバー」を本当に失ってしまった場合、「大西洋」や「ユーラシア」から見捨てられてしまう危険性に気づかされた「東アジア上層部」が「フジヤマ社」を巻き込んで「既存の輸送機」を拡大・大型化して建造が進んでいる。
「プラントの打倒」、「プラント理事国」への返り咲きが現状では難しいため「地球連合での発言力の維持」、「再構築戦争」から一部領土を不当に占拠し続けている(東アジア目線)「ユーラシアに対する圧力」を目的として「採算を無視」して「シャトル中継基地」、「空中要塞」としての機能も同時に求められている。
モデルは宇宙世紀の“ガルダ”級輸送機。
こちらも「taniyan」様からのリクエスト。



以上、今回登場がほのめかされた、「オリジナルMS・武装リクエスト」からの採用リクエストです。
繰り返しお伝えしますが、次回はオーブやZAFT、その他の勢力からの目線での話をする予定です。今回登場しなかったリクエストも、そちらで登場するかもしれないし、しないかもしれません。機会はこの作品が終わるまでいくらでもあるので、今登場しなくても気を落とさないで欲しいです。
皆様、多くのリクエスト案、本当にありがとうございます!
現在「第二回リクエスト」を募集中(執筆時点)です。今回の話を見て興味が出たという方も、是非こぞってご応募ください!

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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