機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
?「蒼き清浄なる世界のために、死ねぇ!」
アイク「なんだこいつ!(ドン引き)」




第48話「憎悪の刃」

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『セフィロト』 周辺宙域

 

「くっ、この!なんだこいつ!?」

 

『敵機』から放たれたビームを避けながら、アイザックはその動きを観察する。

頭部は”ダガー”に酷似しているが、首から下は”デュエル”に近い。以前ストライカーシステムを搭載した”ダガー”の完成予想図を見たことがあるが、それとは違う。

おそらく”ストライク”ではなく”デュエル”の量産型、それもエース用にカスタムされた機体ではないかと予想する。

その戦い振りは白兵戦に強く作られた”デュエル”のコンセプトに沿ったものであり、動きの機敏さは一般兵のそれとは格が違う。間違いなく、エース格のパイロットが乗っている。

しかしアイザックは、その『敵』に強く違和感を覚える。

 

(なんだろう、動きは鋭いし狙いも的確、なんだけど……前のめりな戦い方だ)

 

そして、似た動きをする人物をアイザックは知っている。

キラ・ヤマト。今はプトレマイオス基地にて訓練を受けている少年の、『高い基礎能力に任せた』戦い方にそっくりなのだ。

 

「まさか、コーディネイター?」

 

『敵』の正体をキラと同じコーディネイター(訓練を受けていない素人)かと想像するが、どうも違う気がする。この苛烈な戦い方はむしろ、記録映像で見た自分の戦い方に近いような───。

 

「っとぉ!考え事をしながら戦える相手じゃないな」

 

すぐ近くを漂っていたデブリに、訓練用に低出力で放たれたビームが着弾する。

キラもこの『敵』も、「地力が高い」というところは共通しているのだ。───”マウス隊”に配属されたての自分が同じ機体を使っても、彼らと同じように動くことは出来ないだろう。

だが、それを大人しく受け入れるほどアイザックは物わかりが良いつもりは無かった。

 

「やってみるさ……」

 

アイザックにあって彼らに無い物。それは、「多様な敵との戦闘経験」。

たしかにこの敵の動きは目を見張るものがあるが、()()()()()()()それだけだ。かつて戦った叢雲劾の方がよっぽど恐ろしい。

”マウス隊”の戦い方を見せてやる。そう決めたアイザックは密かに策を巡らし始めた。

 

 

 

 

 

『セフィロト』 第3司令室

 

「隊長、あの機体はいったいなんですか!?あんなもの、想定にはありませんよ!?」

 

「機体コード照合……ダメ、該当無し!形式番号以外アンノウン!」

 

「隊長……!」

 

部下達からの問いかけに対し、無言を貫くユージ。今まではどれだけ衝撃的な事態であっても何かしらの対応をする彼の異様な佇まいに、周囲は困惑を隠せない。

 

「隊長、たしかあのMSは”デュエルダガー”……一部のエース用に製造・改造された”ダガー”のカスタム機。前もって製造されていた”ダガー”のパーツを用いて作られたものの、その生産数は少ない機体のはずです。それがなぜこのタイミングで、この場所に存在するんですか」

 

技術部所属のアリアは他より早く、介入者の正体に気付いていた。

別に”デュエルダガー”自体は軍内で情報が公開されているし、それがここにあることも多少不可解だがあり得ない話ではない。

問題は、何故このタイミングで表れたのかということだ。それもあの動き、あれは普通のパイロットのそれではない。おそらく、格納庫で待機しているマヤと変態達も困惑していることだろう。

余談だがこの”デュエルダガー”と呼ばれる機体、『原作』では”ロングダガー”と呼ばれる機体である。機体コンセプト自体は『原作』もこの世界も同じなのだが、『ロング』と名付けられる原因である『奪われた機体の名を冠するのは嫌』という理由が消滅しているため、本来の予定通りに”デュエルダガー”と名付けられるに至ったという経緯がある。ユージの眼に表示されているのは、『原作』を基準とした名称だということだ。

 

「……」

 

アリアの問いかけにも、ユージは無言を貫き通すばかり。ただし、眉間の皺はドンドン深くなっていく。

じれったさから、アリアも声を大きくしていく。

 

「隊長───!」

 

「そこまでにしておきなさい、『フォー・パルデンス』」

 

突然その場に現れた男達、その中の一人が発した言葉を聞いた瞬間、アリアは目を見開き、口から言葉にならない言葉を発し始める。顔色はたちまち悪くなり、後ずさり始める。

その様子を見て、気づけない人間は”マウス隊”に存在しない。

今現れた存在は「やばい」と。

 

「……おや、他の場所でモニターすると聞いていたのですが」

 

「ああ、その通り、その通りです。たしかにそのようにするつもりだったのですが、少々気が向きましてね。せっかくですから共に見物させてもらおうかと」

 

先ほど部屋の中に入ってきたのは、白衣を着た3人の男性。その中でも、襟に大佐の階級章を付けた男が前に進み出る。

その男は、これといった特徴を持たない男だった。身長は170㎝前後、顔はわずかに丸みを帯びている。おそらく、東アジア系の血が混じっているのだろうと思われる。

だが、その男の目を見た瞬間にそのような些細な印象は吹き飛ぶ。

その男の右目は怒りの炎で何もかもを焼き尽くされたかのように強膜まで真っ赤に染まっていた。

そして左目には、どこまでも冷たく、そのまま周囲まで凍てつかせるのではないかと思わせる、漆黒の瞳孔が浮かんでいた。

 

「なるほど、気が向いたから。まあ、そのようなこともあるでしょう。ささっ、どうぞこちらに。『第358特別研究部隊』総括、レナード・チャーチル大佐」

 

「ああ、ありがとうございます中佐。流石、()()()()()()美しい血を引いているだけありますね」

 

『……っ!?』

 

ユージが務めて薄っぺらい笑みを保ったままシートに案内するが、彼とアリア以外の誰もが、その言葉に戦慄した。ユージの発した言葉、その中に、けして聞き流せない単語が混ざっていたからだ。

『第358特別研究部隊』。それは連合軍内で広く噂されているが、実在するという証拠を誰も持っていなかったために幻の部隊であるとされてきた部隊。

その役割さえも定かではなかったが、有力説とされていたのが『コーディネイターを抹殺するために、あらゆる手段を用いてコーディネイターを上回る人間を生み出す』こと。

『あらゆる』というところがポイントで、仕事でしくじった軍人はその部隊で人体実験されるのだというブラックジョークが酒の席などでの定番だった。

そんな曰く付き部隊のトップに相当するであろう人物がこの場にいる。いや、それよりも。

なぜこのタイミングで現れたのか?

 

「いやぁ、かなり良い動きをされますね。たしか、バアル少尉でしたか?あれほどの兵が所属されているとは、実に羨ましい限りだ」

 

「歴戦の軍人であるあなたにそう言われると嬉しいものがありますね。それを言うならこちらもですよ、()()相手に中々奮戦していらっしゃる。我々の想定では、既に戦闘は終了しているはずだったのですが……」

 

「おやおや、それは残念な光景をお見せしてしまいましたかね?」

 

「少しばかり。まあいずれそうなるのですから、大したことではありませんがね」

 

オペレーターとしての作業をこなしながら、エリクとアミカは背後で繰り広げられている話に思考を巡らせる。

 

(どういうことだ……話からして、あの機体は彼らが差し向けた物……わざわざこちらに知らせなかったことには意味があるはず)

 

(アリアちゃんの反応を見る限りー、なんかとんでもない関係な気がするー。そういえば、アリアちゃんがどうしてあんな歳で技術部なんかにいるのか気になってたけどー……)

 

(……まさか訓練中に事故に見せかけて、ヒューイ中尉を葬るつもりか!?こちらがそれにいくら抗議したとしても、あちらの背後にはとてつもなくデカい存在がいる。本当に人体実験なんてしてるなら、それこそ……)

 

(なんか、気付いちゃったかもー。アリアちゃんはあの部隊で人体実験かなにかされて、なんやかんやあって第8艦隊まで飛ばされた。その時のなんやかんやがトラウマになって、今みたいに怯えてるんだー)

 

(間違いないな)

 

(とりあえずー)

 

((こいつら、敵だ))

 

アイコンタクトを交わし、いつでも立ち上がれるように準備する。この手の人間は、思い通りにいかなければどんな手に出るかわかったものではないのだ。

そんな輩にユージ達を害させるわけにはいかない。今のところ、ここ(マウス隊)以上に快適に働ける場所は知らないのだから。

 

「どうしたエリク、アミカ。肩が強ばってるぞ?他の部隊から見られているのがこそばゆいのはわかるが、いつも通りで、な?」

 

そんな二人の肩にユージは手を置いた。エリクとアミカも、平常を装いながら返答する。

 

「も、申し訳ありません隊長。まさかこんな場所に、あの(悪名高い)『第358特別研究部隊』の方がいらっしゃるとは……」

 

「たいちょー、エリカはともかく私は緊張なんてしてないですよー?そりゃー、(マッド共の巣窟と噂される)『第358特別研究部隊』の人達が来たのは珍しいことですけどー」

 

「はっはっは、リラックスリラックス」

 

出来るか。二人の思考は一瞬だけ完全にリンクした。

ユージの虚無感漂う笑顔に、その袖を掴みながらもなんとか立っていますという風体のアリア。そしてそんなアリアを見てニマニマと笑っているレナード。

精神的不快指数が上限無しに上がっていくのを感じる。二人がイライラしていると、いつのまにかユージに掴まれている肩に違和感を感じることに気付いた。

通信士として一級の能力を持つエリクとアミカにはわかる。これはモールス信号、特殊な符号を用いる通信手段だが、ユージはそれを指拍で再現している。

 

(えーと、なになに?)

 

(ふむふむ、なるほど)

 

((『合図 を したら 撃て』))

 

この場で一番怒り狂っている人物は隊長だった。よく見たら額に青筋が浮かんでいる。

そりゃそうだ、と二人は納得する。

ユージからすれば、頼れる仲間であるアイザックを見くびられ、成長し始めてるアリアには悪影響しか与えず、ついでに「半分だけ綺麗」とユージの出自(ハーフコーディネイター)をあからさまにバカにしている。

キレる。絶対にキレる。

 

(どうすんのー……隊長激おこじゃん)

 

(落ち着け、隊長だって本気で撃とうとするはずがない。あちらから手を出さない限りは……たぶん)

 

アイコンタクトで簡単に意思疎通をこなすが、一つだけハッキリしていることがある。それは、”マウス隊”で働く内に気付いた、上官の主義ともいうべきもの。

ユージ・ムラマツは絶対にやらない、あるいは出来ないことはそもそも口にしない。───それは先ほどのモールス信号にも言える。場合によっては、本当にレナート達を銃撃するかもしれないということだ。

二人は密かに、銃の安全装置を外した。

 

 

 

 

 

”デュエルダガー” コクピット

 

殺す。殺す。殺す。

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

こいつらのせいで。こいつらがいるから。こいつらは。

コーディネイターは、許してはいけない。逃してはいけない。

逃げるな!

ゴミ(デブリ)の影に隠れてこちらからの攻撃を防ごうとするが、そんなままで許すわけがない。ビームサーベルを引き抜き、切り刻もうとする。ああ、また盾で防がれた。

お前達にそんな戦い方はゆるされると思うか。お前達は、もっと卑劣で、あざ笑いながら、蹂躙してきたお前達は、どこ、へ───?

痛い。痛む。頭が酷く。

あれはなんだ?なんの光景?わたしは、だれ?

 

『さあ、あれが君の敵だ。あれを倒せばその痛みは止まるよ。その痛みは、奴らがいるから止まらないんだ。だから……殺せ』

 

……そウ、だ。このイタみは、やつラのせいダ。だカら、コろさネば?

 

「逃げるな、コーディネイタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

「まさか、接近戦にも長けていたなんてね!いや、こっちの方が本命か!?」

 

”デュエルダガー”の猛攻をなんとか躱し、距離を取るアイザック。だが、その言葉からは余裕が感じられない。

アミカ達から密かに送られてきた通信内容によれば、あの機体のパイロットは尋常な存在ではない可能性が高く、注意して欲しいとのことだったが……。

 

「デブリを蹴りつけて加速なんて、味な真似をしてくれるじゃないか!」

 

近接戦に切り替えてからの攻撃は、先ほどまでの正確なだけの射撃よりずっと苛烈で、驚異的だった。

どこまでも張り付いて、ひたすらに斬撃をたたき込んでくる。こちらもビームサーベルを抜いて応戦しているが、いつ拮抗状態が崩れるかわかったものではない。

だが、()()()()()()。あとはそれをどう手に入れるかだ。

 

 

 

 

 

『セフィロト』 第3司令室

 

「いいよぉ、そこだ!……ああ、惜しい!」

 

まるでスポーツ観戦か何かの様相だな、とユージは思う。

ここまであからさまな凶人にして狂人を見れば、転生だとかチートだとか無くたってわかる。───『ブルーコスモス』。その過激派と呼ばれる派閥の、更に先頭を独走するタイプだ。会話が成立しているように見えても、それは見えるだけ。相互理解の「そ」の字すら、彼は理解しえないだろう。

改めて、アイザックと対戦しているパイロットの名前を見る。

スノウ・()()()

たしか、ブーステッドマンの名字は全てソロモン72柱の悪魔から取られていたはず。そしてバアルは、72柱の中でも第1席を誇る悪魔。

 

(おそらく、宇宙世紀における『プロト・ゼロ』に相当する人物なんだろうな。開発した強化人間が実戦投入出来るレベルにまで到達したから、とりあえず連合軍でもトップクラスの腕前を持ち、なおかつコーディネイターであるアイザックと戦わせることでデータを取る。負けても改善の余地が見つかるし、勝てば勝ったで、『それだけの成果を生み出した』という実益と『憎きコーディネイターを上回った』という自尊心、両方得られる)

 

体よく使われていることといい、ここに至るまでの態度といい、気に入らないことばかりだった。

が、しかし。そこまでいってもユージは(青筋を浮かべてこそいるが)焦ってはいなかった。

 

「……ふぅむ、ムラマツ中佐。貴方はあまりこの戦いに興味が無いのですか?」

 

「いえ?予期せずして”デュエルAS”の戦闘データが採れていますし、あちらのMSの動きも実に素晴らしいと思います」

 

「その割には、ずいぶん涼しげな顔をしているようで」

 

ジロリ、と赤い目が向けられるが、ユージは小揺るぎもしない。そもそもたかが模擬戦の結果で一喜一憂してどうなるというのか。

しかし、ユージは嘘を言っていない。この戦いには興味がある。無いのは、この戦いの()()である。

 

「まあ、結果がわかった戦いですからね」

 

「……なんですと?」

 

レナードの顔が怪訝そうに歪むのを見て、ユージはこう返した。

 

 

 

 

 

「うちのアイクに、()()()()()()()です。それでもいい線いってたとは思いますがね?」

 

 

 

 

 

”デュエルダガー” コクピット

 

何故落ちない、死なない、止まらない?

唾棄すべきコーディネイターはこれまでも散々戦わされてきたが、尽くを討ち果たしてきた。

だが目の前ノこいつはなンだ?何をしてモ倒れない、コイツハナンナンダ!?

 

「いい加減に、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

そうこうしていると、唐突に絶好のチャンスが訪れた。目の前を飛んでいた敵が、デブリに脚部を引っかけたのか、バランスを崩したのだ。

敵はフラフラと、覚束なくデブリ帯を進んでいる。

()()は乗機を加速させ、ビームサーベルを振りかぶらせた。

当然訓練用に低出力にしているため、それで目の前の敵が死ぬわけではない。だが、今の彼女の思考の中からそのようなことは抜け落ちている。

排除しなければ。その一念に振り回されている。

 

「ははっ、間抜けが!これで、おわ───!?」

 

敵機の中に存在するパイロットの視線に射止められたような感覚を、彼女(狂戦士)は感じた。

フラフラとした動きは消え失せ、左腕を振りかぶった敵。その直後、敵は驚愕の行動を採った。

左腕に装備していたシールドを、こちらに向けて投擲してきたのだ。MSより一回り小さい程度ではあるが、相応の質量を伴っている。

水平に飛んできたそれを加速している”デュエルダガー”は避けられず、脚部に直撃。立場は逆転し、今度は“デュエルダガー”が不安定な機動をすることになる。

そして、そんな隙を見逃すアイザック・ヒューイではない。

”デュエルダガー”のコクピット、そのモニターにシミュレーション上のダメージ報告が表示される。

胴体にビームライフルが命中、戦死判定。火器の使用にロックがかかる。

私が負けた?こんな奴に!?

頭の中が怒りで埋め尽くされるが、その思考はそれを上回る苦痛で上書きされる。

 

「うあ、ガ、ぎぃぃぃぃぃぃぃぃ……!?」

 

動悸が止まらない、吐き気がする、頭が痛い!?

喉をかきむしりたくなるが、パイロットスーツにジャマされる。ヘルメットを脱ぐという簡単な思考も、今の彼女には出来ない。

 

「あ、ぁあああァアああアァぁぁァぁァ……」

 

うるさい、消えろ、おま、えは誰、───?

顔の形も髪の色も、何もかもが不明瞭で、しかし悲しげな顔をしている少女の姿が、見えた気がした。

彼女はそのまま、気を失った。

 

 

 

 

 

『セフィロト』 第3司令室

 

「実験終了、お疲れ様でした。両機は基地に帰投、第5格納庫へ。……いや、中々良いデータが取れましたよ。感謝します、チャーチル大佐」

 

「……それは何よりです、中佐。こちらとしても、有意義なデータが採れましたよ」

 

モニターには、何故か動かなくなった”デュエルダガー”を牽引する”デュエルAS”の姿が映っている。中に乗っている人物がどういう存在なのか知っているユージはその理由を察していたが、ここでそのことを話してはただ怪しまれるだけなので、いかにも「何も知りませんよ」という風に見せかける。

『第358特別研究部隊』の面子、特にレナードはいかにも面白くありませんという顔をしていたが、癇癪を起こすまでには至っていないようだ。部屋の中にいた”マウス隊”の面々は、銃にロックをかけ直す。

 

「さて、我々は格納庫へパイロットの様子を見に行こうかと考えているのですが、そちらはどうします?」

 

「既に専門のスタッフが向かっているので、そちらに任せます。我々はやることがありますので、ここで失礼させていただきます」

 

「そうですか、ご苦労様です。……ああ、それと一言だけ、よろしいでしょうか?」

 

「……なんでしょうか」

 

よりどす黒くなったような右目から放たれる怒りに、ユージは真っ向から言葉を叩きつける。

 

「無理のあるものに金を使うくらいなら、その金でMSを作った方が戦争は勝ちに近づきます。そうは思いません?」

 

「……」

 

実体を持っていれば、人1人どころか100人は殺せそうな視線を向けてから、レナード達は去って行った。

自動ドアが閉まり、その先に男達の姿が消えると同時に、オペレーター達は背伸びをしたり、安堵のため息をつく。アリアはへたり込んでしまったが、ユージから差し出された手を取ってなんとか立ち上がる。

 

「はーっ、生きた心地がしませんでしたよ」

 

「あたしもー。てか、やばくない?何がっていうか、何もかもー」

 

「まあ、だろうな。お疲れさん」

 

「隊長も、いいんですか?あんな喧嘩売るみたいに……」

 

「はんっ、あんなものが『喧嘩を売る』の範疇に入ると思うか。───上に行けば、もっと陰険なやり取りが待っているぞ」

 

そういうユージではあったが、眉間を揉み込んでいるあたり、相当緊張していたようだ。

あらためてエリクは、ユージに真相を問う。

 

「隊長、答えてください。隊長は今回のことを知っていたのではありませんか?彼らは何故、ここに来てあのようなことをしたのですか?」

 

「……」

 

「隊長!」

 

語気を強めるエリクに、ユージはぽつりと返す。

 

「慎みある人間は、それについてあまり深く考えるべきではない。───つまりそういうことだ。お前達は今日、極々普通の日常を過ごした、つつがなく実験は進んだ。今は、そういうことにしておけ」

 

それだけ答えると、ユージも格納庫へ向かおうとする。普段はアリアもそれについていこうとするが、まだ平常心を取り戻せていないようで、シートに座りこんで沈黙を保つ。

 

「隊長、せめてこれだけは答えてください。あれは、なんだったんですか。いったい何が乗れば、あんな動きになるんですか」

 

ユージはまたしても頭に右手を伸ばして制帽で表情を隠そうとするが、無いことに再び気付く。

行き場を失った右手で頭を掻きながら、ユージはエリクにこう返した。

 

「我々の新たな仲間だよ。スノウ・バアル少尉、今日からこの部隊に編入されることになる」

 

部屋中の人間がポカンとした表情をするのを見届けてから、ユージは司令室を後にした。

この隊長、とんでもない地雷をとんでもないタイミングで放り込んでいきやがったのである。

 

 

 

 

 

一方そのころ、プトレマイオス基地。

 

「貴様ぁ!何度外せば気が済むんだボケが!貴様が撃った砲弾の一発一発が、国民の血税が基となっている!そして貴様がそれを外す度に血税と、それを当てるための操縦手と車長の努力が無に帰すんだ!それが戦車なんだ!」

 

「す、すいませんマム!」

 

「『申し訳ありません』、だろうが!止まっている敵にも当てられない貴様のような奴がMSに乗るなどおこがましい、10発中10発が当てられるまで寝られると思うなよカス!」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」

 

戦車の砲手席に乗せられてしごかれている、哀れにすら見えるキラ・ヤマトの姿があった。

この後彼は10発中7発まで命中させられるようになったが、その報酬は美人教官からの強烈なビンタと、「何故ぶたれたのか、明日までに考えてこい!このウスノロ!」という罵倒だけであった。

キラの苦難の日々は、始まったばかりである。




レナート「クソ共が、私を激昂させるんじゃあない……」
ユージ「うるせえ、バーカ!そっちこそ無駄遣いしてんじゃねぇよ!」

ついに出ました、『ブルーコスモス』と書いて『キ○ガイ』と呼ぶ連中。オリキャラではありますが、まあこういうキャラの1人や2人は原作でもいるかと。

それと、一つお知らせをば。
前回実施して、絶賛をいただいた「オリジナル兵器・武装リクエスト」ですが、予想以上の反響があったこと、「またやって欲しい」という要望があったことから、第二回を開催したいと思います!
詳しい内容は活動報告にて告知しています。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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