機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
スミレ「タイマン張らせてもらうぜ!」




第44話「第2次ビクトリア攻防戦」その6

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ビクトリア基地 南方

 

「ダメです、射線から離脱しきれません!」

 

「クソ、流石『深緑の巨狼』……食いついたら離れないというわけか!」

 

走行ユニットが激しく駆動し、地面に履帯の痕を刻み込む。そうして出来た履帯跡を、別の車両が踏みならしていく。

現在、”ノイエ・ラーテ”1号車は”プロト・フェンリル”に追いかけられながら戦っていた。俗に言えば、「ケツを取られた」ということになる。

”プロト・フェンリル”が明確に”ノイエ・ラーテ”を初めとする連合製戦車に劣る点として、「タンク形態では砲塔を旋回させられない」というものが挙げられる。

例えば機体の真横に敵が陣取った場合、”ノイエ・ラーテ”が砲塔を旋回させるだけで主砲を向けられるのに対し、”プロト・フェンリル”は同じ事をする為にわざわざ車体を動かす必要がある。どちらがよりスムーズに行えるかは明らかだろう。

かといって砲塔を真横に向けられるモビル形態では車高が高くなり、砲撃の安定性を欠く。なにより、モビル形態はMSなどに接近される事態に備えた近接戦モードでもある。戦車同士での戦いではあまり有効ではない。

そのことを理解していたスミレは、”ノイエ・ラーテ”の後ろに回り込むような機動を繰り返した。徹底して背後を狙う”プロト・フェンリル”に対し、”ノイエ・ラーテ”の車長モーリッツは距離を離すために車体を急加速させて”プロト・フェンリル”を引き離しにかかった。

本来なら砲塔を旋回させられないというハンデを負った”プロト・フェンリル”には旋回射撃戦(一点を軸として円を描くように撃ち合うこと)を挑むべきだが、モーリッツの脳裏には一撃で3号車を沈黙せしめたスラッグ弾の存在がちらついていた。

モーリッツ達にとって悔しいことだが、操縦技術では明らかに”プロト・フェンリル”のパイロットの方が上であった。”ノイエ・ラーテ”での実戦経験の薄い自分達よりも自分の機体について理解しているだろう敵なら、不意をついて接近してスラッグ弾をたたき込むことも可能だろう。

そう考えたモーリッツは、スラッグ弾を封じるために距離を引き離しにかかった。

この挙動にはスミレも意表を突かれたが、咄嗟にアクセルペダルを踏み込んで加速。結果、”ノイエ・ラーテ”が”プロト・フェンリル”に追われるという現状が生まれた。

やや”プロト・フェンリル”に有利な状況だが、”ノイエ・ラーテ”も砲塔を180°旋回させて応射している。

あちらこちらを飛び交う250mmと400mm砲弾。丁寧かつ大雑把に量産される弾着痕。なぎ倒される樹木。

そんじょそこらの自然災害を鼻で笑えるのではないかと思わせる破壊の嵐が主戦場から徐々に離れていくように移動していったのは、双方の味方を巻き込まないためか。

それとも、気兼ねなく殴り合うためか。

 

「スモークの残量は!?」

 

「あと一回分です!」

 

煙を巻いて振り切ろうにも”ノイエ・ラーテ”はここまで連戦続きで、こういう「鬼ごっこ」に有効な煙幕弾の残弾も残り1回分しかない。

数が限られたカード、使いどころを間違えればそれが敗北に直結する。そんなギリギリな状況だというのに、モーリッツは胸が高鳴っていくのを感じていた。

 

(とんでもない強敵と追いかけっこして、一発でも当たったらお終い。たとえ勝ったとしても無事に本隊にたどり着ける可能性も低い。なのに、なんで俺はワクワクしてるんだ?)

 

まるで、ジュニアハイスクールに通っていたころ家の近くに引っ越してきた女子大学生を見た時のような。いやいや、流石にあれと比べるのは違い過ぎる。

だけど。だけども。それ以外の何で表現出来るだろうか。

撃って、撃たれて。走って追われて、避けて避けられて。

こんな燃えるようで、もどかしい感覚。それこそ『(殺意)』以外に言い表せるだろうか!

 

「なあ、お前ら!お前らはどうだ!今俺はワクワクしてるが、お前らはどうだ!?」

 

「砲弾がかすめる度に、絶頂しそうになりまぁす!」

 

「徹甲弾でも榴弾でもいい!早くあれにぶち込ませてくれ車長!」

 

『指示を!あいつをぶっ殺せと命じろ!』

 

「ぶっ殺せ!完膚なきまでたたきのめし、あいつが最後に見る物を俺達にしてやれ!いくぞぉ!」

 

『アイアイサー!』

 

バカ×バカ×バカ+戦場の兵士のテンション=変態誕生。車長がバカなのに同乗員がバカでないわけがない。

戦車バカが敵の戦車と出会った時に考えることなんて、一つしかないのだ。

『ぶっ殺せ!』だけでいい。

 

「全部をぶつけ合おう!じゃないと、もう俺達は何処にもいけない!」

 

その言葉が敵に対しても向けられていることを、操縦手と砲手は感じ取った。

特に挟むべき言葉はなかった。そんなものは無粋なだけである。

 

 

 

 

 

「ああん、もう!まーたそんな急角カーブとか決めてくれちゃって!ナイスカーブ、それはそれとして当たれ!」

 

そしてこっちにもバカが一人。

戦場と戦争のリアルを知って精神をすり減らす日々を送っていたスミレだったが、本来の彼女は負けず嫌いで男勝り、勝ち気な性格の少女。

ようは、熱くなりやすいのである。

そんな彼女が、「サイズはともかく見た目は正統派、しかもMSと正面からぶつかれる敵戦車」などという存在を目にした時。

しかもそんな敵と余計な枷や条件無しにぶつかれるなんて、そんな状況になった時、どのような化学反応を起こすのか。

 

「あっははははあははははぁ!最高、最高よ!バカの尻拭いのつもりで来たのに、何よこれ、何よこれ!?”バクゥ”よりは鈍いのに当たらない!これが戦車!これが地球!メリー!あたしにこの子(フェンリル)をくれたあなたに感謝ね!」

 

目は血走り、歯を食いしばり、全神経を目の前の敵を倒すために稼働させる。

それでも当たらない。倒れない。まったく、これまで多くの敵を撃ち抜いて築いてきた自信が木っ端微塵だ!

最高だぞお前ら!

 

「今だけは全部、面倒なことを思考からカット!───っとぉ!危ない危ない」

 

テンションを最大限まで引き上げながらも思考は澄み切ったままのスミレ。敵から放たれた砲撃(殺意)を、土砂を巻き上げながら避ける。

見る者がいたなら竦むであろう獰猛な笑みを浮かべながら、スミレはトリガーを引く。

 

「今だけは、あたし()は自由よ。だから……果てるまでやりあいましょう!?」

 

根拠もなく、敵も自分と同じようにこの状況に昂ぶっていることを確信し、言い放つ。今だけは戦い狂いのキ○ガイに成り果てることをスミレは改めて誓う。

放たれた砲弾が敵の車体をかすめた。惜しい!けどラッキー!

まだまだ戦える!ぶつけ合える!

 

 

 

 

お互いに殺し合っている癖に、否、殺し合っているからこそ通じ合う。どちらかが一方的にではなく、お互いに、同じような銃を向け合っているからこそ見える世界。

どこまでも歪な光景だったが、それを指摘する者はどこにもいない。

わかることは、心ゆくまで彼らは戦い抜くだろうということだけ。それだけでよかった。戦士にはそれだけでいい。

そしてこちらにも、戦い抜いた戦士達があり───。

 

 

 

 

 

???内

 

「……んぁ?」

 

ジェイコブはほの暗い空間で目を覚ました。

はて、ここはどこだったか。たしかさっきまで、とても楽しい思いをしていたはずなのだが……。

落ち着け、まずは周囲の確認だ。「ほの暗い」だけで完全な暗闇というわけではない。

そうだ、ここは”ノイエ・ラーテ”2号車の内部だ。右と左の斜めに、操縦手と砲手が座っている。どうやら先までのジェイコブと同じく意識がないようだ。

周囲のモニターを確認するが、何故かレーダー類は機能していない。アンテナが破損でもしているのだろうか。

最後に、外部の映像を映し出しているモニターを見る。

そこはどこかの格納庫のようで、帽子を被った作業員のような男達や緑色の制服を着て銃を構えた男達が……。

 

「ん?緑色?」

 

おかしい。連合軍の制服の中にあのような色のものはなかったはず。そもそもあのデザインと、男達から感じられる殺意は……。

 

「ああ、そういうね。そういえばそうだったわ」

 

ジェイコブは思い出した。

ここは、『”レセップス”の内部』だ。

1号車と3号車が時間を稼いでくれたおかげで、なんとか”レセップス”に追いすがった自分達は、なんとか”レセップス”が撤退部隊と会敵する前に追いついた。

護衛部隊の妨害も『深緑の巨狼』と比べたらそよ風のようなものであったが、弾薬の残りも少ない中でどのように”レセップス”を落とすかとジェイコブが考えていた時だった。

たしか砲手が、

 

「発進用ゲートを狙いましょう!あそこは構造上、脆くなってるはずです!」

 

と言ったのを聞いて、たしかにその通りだと納得して実行に映した。

”レセップス”級は正面のメインゲートを含めて15もの発進用ゲートを備えているため、その中でも特に中央に近い側面に主砲を発射した。

結果命中したゲートは大破、爆発によって大穴が空いた。

そこで何をとち狂ったのか、ジェイコブは「穴に飛び込め!中から吹き飛ばしてやる!」などと指示を出した。

映画の見過ぎと笑われるような指示だが、生憎その場に異を唱えるような無粋者は存在していなかった。

そのままの勢いで飛び込んだは良いが、車体のどこかが突っかかったようで、すっぽり穴にはまるような状況に陥ってしまった。

その時の揺れで、全員気を失っている間に周囲を艦内の兵士に取り囲まれた、ということらしい。

結論:大ピンチ。

 

「あー……こりゃもう無理だな」

 

ジェイコブは恐ろしいほどあっさり、生還を諦めた。

たぶんこの状況から抜け出す方法はないし、あったとしても周りに待機してるだろうMSから逃げ切れるとは思えない。

それに加えてZAFT兵の無法ぶりについては有名だ。投降した連合兵を虐殺したなんて噂もあるくらいだし、ここまで暴れた自分達を許すわけがない。もしくは”ノイエ・ラーテ”の情報を得るために尋問という名の拷問が待っている。

だがまあ、目標は達成してるから問題ないだろう。目覚めてから今に至るまで振動を感じない、ということは現在この”レセップス”は停止しているということであり、進行を止めることに成功したということだ。

あとは、どのように散るか。

 

「おい、おい。起きろお前ら」

 

操縦手と砲手が目を覚まし、周りの状況を確認する。

二人とも目を点のようにしてジェイコブの顔とモニターを見比べるが、やがて肩から力を抜いてシートにもたれかかる。

 

「あっちゃ~、やりすぎちまいましたかね?」

 

「『空いた穴につっこめ!』って言ったどこかの誰かさんもそうですけど、それに悪ノリした俺達も俺達でしたな」

 

「目標は『何がなんでも”レセップス”を止める』だろ?俺は車長として一番だと思う行動を取っただけだ」

 

あっはっは、と笑い合う男達。

思う存分暴れた。連中に一泡吹かせてやった。しかも、味方を救うことも出来たとくれば思い残す事も無い。

 

「……で、どうする?」

 

「やることなんて決まり切ってるでしょ?」

 

「まさか中にいる状態で使うなんては思っていま……したね、ちょっとだけ」

 

彼らは頭の中にある装置の存在を思い浮かべていた。

実験機体や特殊な用途の機体には付きもののそれは、当然この”ノイエ・ラーテ”にも積まれていた。

 

「使うか……自爆装置」

 

この場所はおそらく”レセップス”の格納庫の中。であれば、まだ多少は残っている弾薬も巻き込んで自爆すればかなりのダメージを与えることが出来るはずだ。

 

「俺はこれを確実に起動させるために残るが、お前らはどうする?」

 

「へへっ、イカレタ上官に付き合う部下なんて、様式美じゃないですか」

 

「最後までお供しますよ」

 

まったく、余計なところまでノリのいい連中だ。自ら命を捨てることを決めるキ○ガイは自分一人でいいというのに。

 

「ところで、さっきからうるさいこの通信、どうします?」

 

「開け。ちょっとビビらせてやる」

 

あえて無視していた通信回線を開く。

スピーカーから響いてきたのは、尊大なようでいてどこかおびえた声だった。

 

『自分は”シジウィック”艦長のエルモ・ビートである!ただちに投降し、その戦車から降りてこい!今なら命は助けてやるぞ!』

 

古来からそう言って、実際に助けた例などない。もしくは、助けるような人間だった試しもない。

どうせ”レセップス”をここまでボロボロにした自分達を始末し、残された”ノイエ・ラーテ”を持ち帰ることで艦をボロボロにした過失を補おうというのだろう。

ZAFTにもローデン・クレーメルのように、連合にも知られるまともな軍人はいるが、ここまで典型的なムーブをされると困る。リアクションに。

 

「ああ言ってますけど、どうします?」

 

「昔、訓練学校でアニメオタクの同僚が寮のテレビにアニメを垂れ流してたことがある」

 

「は?」

 

「俺は特に興味も無かったんだが、気に入ったセリフが一つある。───『バカめ』と返してやれ」

 

「あいあいさー」

 

しばらくして、周りの兵士に動きがあった。”ノイエ・ラーテ”にとりついて、外部から強制的にジェイコブ達を引き釣りだそうというのだろう。

おあつらえ向きだ。地獄への道連れは、その人物が敵兵であるならば多い方がいい。

 

「最後に一杯、やりたかったんだがな」

 

「あの世とやらで、好きなだけ飲めばいいじゃないですか」

 

「お供しますよ。あの世なら二日酔いになることもなさそうだ」

 

あのエル・アラメインの戦いの後にこの部隊に配属され、”ノイエ・ラーテ”の開発に携わり、こうして敵地で散ろうとしている。

短いようで濃密で、最高な日々だった。これなら、先に逝った仲間達にも胸を張れるだろう。

俺は最後まで戦い抜いた。最後まで付き合ってくれる部下にも恵まれた。

他にもやり方はあったかもしれないが、反省会はそれこそあの世でやればいい。

 

「グッバイワールド!お先に逝かせてもらうぜ!」

 

そして、ジェイコブは自爆装置のスイッチを押した。

爆発は近づいていたZAFT兵を吹き飛ばし、”レセップス”内の格納庫に甚大なダメージを与えた。

彼らはその命を以て、たしかに任務を達成したのである。

 

(俺はやることやったが、お前らはどうだ?もしも不甲斐ない真似しやがってたら、あの世からたたき出してやるからな?)

 

共に戦った2人の車長へ激励を飛ばし、ジェイコブは炎に包まれながら逝った。

 

 

 

 

 

「部隊の撤退進捗率、80%を超えました!」

 

「まだ20%残っている。まだ気を抜くな」

 

「了解!」

 

マキシミリアン・ランダスは思う。また、部下を失ってしまった、と。

たしかに、この作戦を考案したのは自分だ。目論見通り、相当数の味方を無事に撤退させることにも成功した。

だが、自分の部下達は帰ってこなかった。自分で死地へ送りこんでおきながら悲しむのは滑稽だが、この感覚は忘れられそうにない。

元々『通常兵器地位向上委員会』を結成したのも、以前の部下達の死を無駄にしたくないという思いによるものだった。

たしかに、MSは強力だ。本来宇宙用の兵器であるにも関わらず地上でも高い汎用性を備えている。

今でこそ、それぞれの戦場に特化した兵器───戦車や航空機───で十分対抗出来ているが、汎用性を高めていけばそれらの兵器を凌駕するものが生まれるかもしれない。異星人からオーバーテクノロジーでも供給されたのだろうか?それほどの『発展性』がMSの強みだった。

そのことにマキシミリアンは既に気付いていた。通常兵器ではなく、MSの研究を進める上層部の考え方はけして間違ったものではない。これからの戦場は、MSが主役となる。

しかし、マキシミリアンはそうだとわかっていても組織を結成し、通常兵器の価値をアピールし続けた。

嫌だったのだ。古い、時代遅れの兵器に乗っていたために自分の部下達が死んだなどとは思われたくなかった。

戦車も航空機も、まだまだやれる。その一心だった。

結局のところ、マキシミリアンも古い時代に取り残されていたのだろうか?帰ってこない部下達を思い、歯を食いしばる。

 

「ん?……これは」

 

オペレーターが驚いた声である報告をした。それは、マキシミリアンが今、もっとも求めているものだった。

 

「”ノイエ・ラーテ”3号車の反応です!生きて、帰ってきたんです!」

 

「なにっ、本当か!?」

 

『……ちら、”ノイ……”、……答願う!応答を!』

 

間違いない、ヘルマンの声だ。彼らは帰ってきたのだ!

モニターに映し出された映像には、弾痕や貫通穴が見られるものの、走行してこちらに向かってくる”ノイエ・ラーテ”3号車の姿が映っていた。

後から聞いた話では彼らは『深緑の巨狼』と遭遇し、近距離から攻撃された衝撃で搭乗員が意識を失う事態に陥ったものの、バイタルパート(主要機関)へのダメージは軽微に収まっていたために応急修理し、ここまで撤退してきたというのだ。

他の2両については彼らも知らないというが、ヘルマンはこう言った。

 

「彼らは間違いなく、最後まで戦い抜きました。それだけは確実です。根拠はありませんが、そう感じるのです」

 

なんとなく、それは正しいだろうとマキシミリアンは思った。

あの戦車バカどもは、そういうやつだった。

 

「ヘルマン。……”ノイエ・ラーテ”は、どうだった?」

 

「現時点で『戦車』としては最高です。兵器として、現在の戦況でも通用するものなのは間違いありません。ですが、ZAFTにも”フェンリル”がある以上、圧倒的な性能で居続けることは出来ないでしょう」

 

「そうか……」

 

「だから、研究を続けましょう。MSの研究なら他の誰かがやってくれます。俺達は、戦車がどこまでいけるのかを研究しましょう。きっと、それが許されるだけの成果を”ノイエ・ラーテ”は持って帰りました」

 

ヘルマンの言葉は、マキシミリアンに大きな衝撃を与えた。

そうだ、一回で諦めるようでは軍人失格だ。

今度こそは、次こそは。諦めが悪いと言われようが、知ったことか。

それでも私は戦車を、航空機を作り続ける。そう、決めたのだ。

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

「残弾数、3」

 

「エンジンも吹かしっぱなしで、いつ()()火を吹いてもおかしくないですよ」

 

先ほどのチェイスから数分が経過し、現在”ノイエ・ラーテ”と”プロト・フェンリル”はお互いに正面を向いて向かい合っていた。

楽しく激しくチェイスしていた両者だったが、ついに”ノイエ・ラーテ”の走行ユニットの内1機が故障した。

走行に乱れが生まれた”ノイエ・ラーテ”だったが、モーリッツはそれを利用して不規則に蛇行しながら後退した。

要は、先ほどスミレが実行した「わざと車体の軌道を不規則にする」という動作を真似たのだ。

これにはスミレも驚き、緊急カーブを掛ける。一瞬であったが生まれた”プロト・フェンリル”の隙をついて軌道を安定させ、ついに車体正面に”プロト・フェンリル”を捉えることに成功した”ノイエ・ラーテ”。

だがそれは、”プロト・フェンリル”にとっても同じことだった。お互いに砲塔を向け合う、『時代遅れの怪物』達。

ここまで散々撃ち合い、避け、受け止めてきた両者にはわかっていた。───次の一撃が、お互いに最後の攻撃となるということを。

弾があるまで戦い続けられる、そんな兵器は存在しない。無限のエネルギーがあってもだ。

兵器とは、もっと言えば機械とは、連続で使い続ければ続けるほど消耗し、壊れていく。もう履帯は千切れる寸前だろう。それだけの戦いをしてきた。

いつまでも、戦っていたかった。不思議なことに、目の前の強敵のことがたった数時間の戦闘で何もかも理解出来たような感覚さえある。

それでも、終わらせなければならない。自分達は、どちらが勝つことになっても未来へ進まなければならないのだから。

 

「……とどめを掛ける。回り込み、合図と共に『ハーフクロック』だ」

 

「了解」

 

『ハーフクロック』。それは”ノイエ・ラーテ”が今まで一度も見せなかった『決まれば』必殺のマニューバ。

今の”ノイエ・ラーテ”に出来るかという疑問は、考えさえしなかった。

俺の、俺達の作った”ノイエ・ラーテ”は最強だ。たとえいつか、いや、ひょっとすれば今この時、時代においていかれるとしても。

今この時だけは、黒鉄の城にも宇宙戦艦にも負けない最強の兵器なのだ。

ならば、必ず出来る。

 

「───いくぞ!」

 

『アイアイサー!』

 

かけ声と共に、”ノイエ・ラーテ”は動き出す。

それに合わせたかのように”プロト・フェンリル”も動き出した。

お互いに円を描くように、かつ互いに近づきながら同じタイミングで砲弾を撃ち合う。残り2発。

彼我の距離はどんどん近づいていく。またも同じタイミングで撃ち合う。残り1発。距離が縮んでいくことで、互いの砲弾が装甲にかすりあう。

そして、距離が無くなり───。

 

「加速!」

 

ゼロ距離で砲弾を放ち合うかと思われた両者は、しかし。

”ノイエ・ラーテ”が急加速して”プロト・フェンリル”の脇を通り過ぎたことで、”プロト・フェンリル”の砲弾が”ノイエ・ラーテ”にかすることもなく飛んでいく光景を生み出した。

 

「『ハーフクロック』!」

 

そのかけ声と共に、”ノイエ・ラーテ”は()()()°()()()した。

時計の針が半周するかのような超信地旋回により、真後ろにいた”プロト・フェンリル”を正面に捉えた”ノイエ・ラーテ”。

 

「撃て!」

 

 

 

 

 

その時の光景を、モーリッツは生涯忘れることは出来ないだろう。

”プロト・フェンリル”は瞬時にモビル形態に変形し、あろうことか()()()()()()()()()()()

前進していた”プロト・フェンリル”はその勢いのまま地面に突き立てられた右腕を支点として旋回。右腕は負担に耐えきれずに異音を立てながら粉砕したが。

”ノイエ・ラーテ”の最後の砲弾は”プロト・フェンリル”に命中することはなく。

モビル形態に変形した”プロト・フェンリル”が、”ノイエ・ラーテ”に主砲を向けていた。

 

「ああ、クソ……」

 

それだけしか、言葉は出てこなかった。

その直後に、”プロト・フェンリル”の砲弾()が”ノイエ・ラーテ”に突き刺さるのであった。

 

 

 

 

 

ビクトリア基地 南方 

 

『エド!たった今、ビクトリア基地からの撤退部隊の90%が撤退に成功したわ!潮時よ!』

 

「わかってる!ここをかたづけたら、今すぐ……うおっ!」

 

至近に着弾したミサイルの衝撃に、エドワード・ハレルソンは声を漏らす。通信先のレナ・イメリアが心配して声を掛けてきたのに大丈夫だと返事をしたものの、もはや空元気に近い。

彼らは元々、南アフリカ統一機構のケープタウン基地でMS操縦の教導を行なっていた。

そのタイミングでこの戦闘が発生し、彼らはビクトリア基地攻略のためにZAFTが作り上げた仮設拠点や補給線に対しての攻撃による支援を行なっていた。

しかし基地の放棄が決まったことで、その役割は撤退する部隊を支援するために敵部隊を陽動するというものになっていた。

 

「クソ!流石に”イーグル”じゃ限界ってことかよ……!」

 

彼の乗る”イーグルテスター”はエドワードに合わせて調整された専用機だが、流石に激戦の連続をくぐり抜けてきただけあって性能限界が見えてきていた。

エドワードの成長もあり、”マウス隊”でも新しくガンダムタイプの機体を用意することになっていたのだが、それがこの戦いに間に合わなかったのは明らかである。

だからこそ、このタイミングで()と遭遇してしまったのは、紛れもない不幸であった。

 

「新たな敵性反応接近……あれか!」

 

 

 

 

 

「ようやく見つけたぜ、『赤壁』」

 

改変された運命。変わりゆく運命。

その影響が、エドワードに襲いかかろうとしていた。

運命を撃ち抜いた魔弾。その名は。

 

「今日こそ決着を付けてやる!この”シグー・ディープアームズ”でなぁ!」

 

ミゲル・アイマン。死の運命を乗り越えた『黄昏の魔弾』が、ビームを放った。

 

 

 

 

 

隠しイベント「ミゲル生存」 発生

・条件

「ヘリオポリス襲撃」までにミゲルがAランクまで成長




詳しいことはまた次回。
次でようやく、ビクトリア基地編も終了です。

もう少し、付き合ってください。

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