機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
アイク「やるなら徹底的にやれぇ!」
キラ「押忍!」

実はアイクやモラシム、マーレといった憎しみや差別が激しいキャラは攻撃的なステータスに設定しています。
モラシムはまだ公開してないけど。


第36話「姫」

『……以上で、これからの行動計画についての会議を終えたいと思うのですが、何か疑問や質問はありませんか』

 

『私からはない。どちらにせよ”モントゴメリ”と”バーナード”、”ネオショー”の応急修理が終わるまでは動こうにも動けん。最低でも、あと1日はここで時を待つしかあるまい』

 

『私も、特に問題は無いように思われます』

 

『待ちたまえ!コープマン大佐も、ええと、ラミアス大尉も何を考えているのだ!これでは、”ストライク”のパイロットという問題が残ったままではないか!それに、ラクス・クラインのこともだ!』

 

『事務次官……そのことは既に話し合ったでしょう。()()()()。彼に我々への敵対意思は見られませんし、必ず誰か正規の軍人が彼らの近くで逐次行動を監視しているんです。なんなら、”ストライク”には遠隔で自爆させられる機構も積んでいる。クライン嬢にも監視は付いている。これ以上、何をしようというんです?』

 

『コーディネイターに艦内を自由に歩かせているなど、正気の沙汰ではない!早く営倉にでも入れて行動を制限するべきだ!』

 

『コーディネイターというなら、ヒューイ中尉とリー中尉もコーディネイターです。そして、先の戦闘では彼の尽力もあったからこそ、無事に撤退することが出来たのです。今は問題を新たに生み出すべきではない』

 

『ぐっ……し、しかし!』

 

『どうやら事務次官は、戦闘に巻き込まれたことで少々気が立っておられるようだ。……我々はプロです。彼らが何か良からぬことをしようとすれば、即座に取り押さえられるようになっています。あなたの不安もごもっともですが、我々を信用してください』

 

『……』

 

『(既に何度かクライン嬢は、監視の目をすり抜けて部屋の外に出ているということは話さなくて正解だな。ただでさえクソ忙しいのに、これ以上面倒事を増やしてられるか。あー、ファッキン政治家)』

 

 

 

 

 

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”アークエンジェル” 展望デッキ

 

会議でのそういったやり取りを経て、彼は結局暴走して今に至る。

ジョージの声に合わせて、両隣に控えていた兵士が手に持った拳銃をキラ達に向ける。

アイザックはキラとラクスを背後に隠して守ろうとするが、大した意味を為していないのは明らかだ。

 

「何のつもりですか、アルスター事務次官!」

 

「退きたまえ、ヒューイ中尉!いや、そもそも君たちは、何を考えてコーディネイターの子供を『G』に乗せたままでいるのかね!?それに、そこにいるのはラクス・クラインだろう!」

 

荒い声を受けて、ラクスはビクリとする。

成人男性が声を荒げた時の、極当たり前の反応だ。それを見て、キラもラクスの前に立とうとする。

銃口を向けられていては意味が薄いが、男には張りたい『意地と格好』があるのだ。

 

「これは明らかな越権行為です、わかっているんですか!君たちも、何をしているのかわかっているのか!」

 

アイザックはジョージだけでなく隣の兵士達にも非難の声を浴びせるが、彼らはなんらアクションを取ろうとしないどころか、敵愾心さえ感じられる視線を向けてくる。

ここでアイザックは直感する。───彼らも、ブルーコスモスだ。しかも過激派。

おおかた、都合良くコーディネイターを始末出来る機会が巡ってきたと考えてジョージに便乗したのだろう。本当にどさくさ紛れが得意な連中だ。

こうなった以上、説得は無理と考えた方がいい。そう考えたアイザックは、キラ達に密かに指示を飛ばす。

 

(キラ君、僕が突っ込んで事務次官の動きを止める。一応僕は正式な連合軍人だから、彼らも撃つのをためらうかもしれない。その隙にクラインさんを連れて逃げて)

 

(そんな!)

 

(時間はない、準備を)

 

アイザックの言うとおり、目の前の彼らはいつ動き始めてもおかしくはない。

しかし、彼が本当に撃たれないという確証もない。

 

(どうする───!?)

 

「大体、コーディネイターなどが生まれたから戦争が───」

 

 

 

 

 

「さっきから聞いてれば、何よそれ。笑っちゃうんですけど」

 

 

 

 

 

だからこそ、もう一つの入り口の方から聞こえてくる声には誰もが意表を突かれた。

目を向ければ、ずかずかとこちらに向かってくる少女。女性兵士用の制服を着ていることから、連合軍の兵士なのだと思われる。

アイザックは、彼女のことを知っていたようだ。

 

「ひ、ヒルデガルダ伍長?」

 

「いつからあなたは、軍艦の中で勝手に行動出来るほど偉くなったんですか。そして、彼らを拘束する?男の子の方は私の命を2度も救ってくれた恩人です。クラインさんは遭難していたのを救助されただけ。敵国民に相当しますけど、営倉に入れるようなことでもありません」

 

いきなり現れてジョージに非難を浴びせていくヒルデガルダ。

最初は怪訝そうな顔をしていたジョージだったが、彼女の顔を見ている内に、どんどん顔が青くなっていく。

 

「なんだ貴様は!一介の伍長風情が───」

 

「ば、バカ!銃を下ろせ!」

 

兵士は銃を向けようとしたが、一番意外な人物、ジョージがそれを制する。

銃口を向けられたヒルデガルダだが、ふんっ、と鼻を鳴らすのみで、そのまま歩みを進める。

 

「撃ってみなさいよ、このあたしに。このヒルデガルダ・()()()()()に、撃てるもんなら撃ってみなさい!」

 

「ミスティル……!?」

 

姓名を強調して名乗るヒルデガルダ。それを聞いた兵士は、なんと銃を服の中に隠し、敬礼をする。

 

「し、失礼しましたぁ!まさか、ミスティル家の方がいらっしゃるとは……」

 

「はん、謝るならあたしじゃなくてあっち、アイク中尉達にでしょ。───アルスター事務次官。ここまでの一連の行為は、お父様に報告させていただきます」

 

「そ、それだけは!?」

 

20にもなっていないであろう少女に膝をついて許しを請うジョージ。

それを見て、キラはますます混乱した。

いったい、彼女は何者なのか?

 

「先ほどまでのあなたの行動が、あなたを外務次官に任命したお父様の顔と、ミスティル家の看板に泥を塗るものと知りなさい」

 

「───ミスティル伍長。もう、いいかね」

 

先ほどヒルデガルダが入ってきた方の入り口から、ユージが姿を現す。

どうやら、途中から見ていたようだ。

 

「む、ムラマツ中佐……」

 

立ち上がったジョージが、すがるような目を向けてくるが、ユージは感情を映さない視線を返す。

 

「……どうやら、()()()お疲れだったようですね。そこの君たち。アルスター事務次官を“モントゴメリ”まで連れて差し上げろ。───まさか、嫌とは言うまいな?」

 

そう言われた(おそらく)ブルーコスモスの兵士達は、ジョージを丁寧に立たせて連れて行く。不満げな顔をしていたが、ユージが冷たい視線で睨むとキビキビと動いていた。

どうやら、危機は去ったようだ。キラは、その場を支配していた重苦しい雰囲気が霧散していくのを感じた。

アイザックが、ふう、と息を吐いていると、ユージとヒルデガルダが近づいてくる。

 

「申し訳ありません、クライン嬢。お見苦しい様をお見せしました」

 

そう言って、ラクスに頭を下げるユージ。

先の光景を見ていれば、敵国民に頭を下げるのもやむなしというものだろう。

まあ、基本的にユージ(中間管理職)の頭は軽いのだが。

 

「世界には、人の数だけ思想が存在します。私は今、その一つを見ただけですわ。ですから、どうか頭を上げてください」

 

「ご理解していただいたこと、感謝します。───キラ君も、済まなかったな」

 

「あ、いえ、僕は全然、大丈夫ですから……」

 

そのままキラにも謝罪を重ねるユージ。

その様はまさしく、上司の責任を押しつけられた中間管理職。おそらくこの後、また会議に参加することになるに違いない。

 

「アイク、お前からは後で話を聞かせてもらう。そもそもお前がクライン嬢をさっさと連れてきていれば、こうならなかった可能性もある。……まあ、悪い時間ではなかったようだから、大目には見てやるさ」

 

「すいません、隊長……」

 

「こんなところか……。ミスティル伍長も、世話を掛けた……と、言うべきか?」

 

「気にしないでくださいよ、中佐。あたしが勝手にやっただけですから」

 

「あの、ムラマツ中佐。この人は……?」

 

ラクスはどうやら、『ミスティル』と聞いた時点でピンときたらしく、未だに信じられないといった様子で様子を窺っている。

この場でヒルデガルダが何者なのかを知らないのは、キラだけのようだ。

キラは好奇心を抑えきれず、ユージに尋ねる。

それを聞いたユージは、どこか呆れたような表情をする。

なんで知らないのかと言わんばかりだ。

 

「キラ君……まさか、ミスティルを知らないとは言わないよな……?」

 

「……」

 

「……これからは、もっと新聞を読むことを勧めるよ」

 

気まずそうに沈黙するキラだが、ヒルデガルダは、愉快でたまらないという顔をする。

 

「あっははははは!ちょっと来なさいよマイケル!ここにもあんたと同じ子がいるわよ!」

 

「す、すいません。新聞とかってあまり読まなかったもんで……」

 

「いいのいいの!あたしの名前を聞いた人、ほとんど似たようなリアクションばっかりだから、むしろ新鮮っていうか!」

 

キラの謝罪を笑って受け止めると、ヒルデガルダは制服のスカートを、まるでドレスを着たお嬢様のようにわずかに持ち上げて、自己紹介をする。

 

 

 

 

 

「改めまして、ヒルデガルダ・ミスティルです、キラ・ヤマト君。父は、()西()()()()()()()()を努めてます」

 

「勝手に付け加えさせてもらうが、彼女の家は代々ブルーコスモスの事実上№2を努める家系でもある。要するに、アルスター事務次官の直属の上司だな」

 

 

 

 

 

とんでもないビッグネームが出てきた気がする。

大西洋連邦大統領というと……。

 

「えっとたしか、ジレン大統領、でしたよね?」

 

「そうだな。ジレン・ミスティルJr.大統領」

 

「……」

 

ここに来て、キラは理解する。

目の前の彼女は、正確には彼女の父は。

地球連合軍のトップの一人である、ということを。

 

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

「おっ、良いリアクションだな」

 

ユージは呑気に評しているが、そんなことを考えている余裕はキラにはなかった。

いや、目の前で朗らかに微笑んでいる彼女が、それほど重要なポジションに位置する人間だとは、思っていなかった。

たしかに外国(忘れかけている読者も多いかもしれないが、キラはオーブ国民である)の政治家などには興味をあまり持たなかったから、大統領のフルネームもおぼろげだった。

だが。

大統領。大統領である。どんなバカでも、どれだけ偉いのかくらいはわかる役職ランキング№1である。対抗馬は王様。

そんな人間の娘が、なぜ軍の制服を着てこんな場所にいるのか?

それに、たしか伍長と言ったらユージは疎かアイザックよりも低い階級のはず。

16歳の少年には、あまりにも情報量が多すぎた。

 

「あっはははは、大丈夫だよ。ミスティルがどうとか言ったけど、あたしはただのヒルデガルダだから。なんなら、ヒルダって呼んでもいいよ」

 

「伍長、あまりからかってやるな。キラ君、彼女はたしかに大層な家系の人間だが、家とは関係無しに軍に入隊している。本人の望み通り、ただのヒルデガルダとして向き合ってやってくれ」

 

「は、はあ……」

 

「それより、伍長。何かキラ君に用があったのではなかったか?だから”アークエンジェル”まで来たんだろう」

 

「あ、そうでした!」

 

思い出した、といわんばかりに手を打つヒルデガルダ。

当然だが、キラにはヒルデガルダが会いに来る理由は見当もつかない。まったく接点は無いはずだが、いったい彼女はどういう理由で自分に会いに来たというのだろうか?

 

「えっと、ね。今回は、お礼を言いに来たの。助けてくれてありがとうって。しかも、2回」

 

「え?」

 

「ほら、デブリ帯での補給中にさ、”ジン”から助けてくれたでしょ?あの時の”テスター”、私がパイロットだったの」

 

ヒルデガルダに言われて思い出す。たしかに、あの時”ジン”と”テスター”の戦いに割って入ったのだった。キラには苦い思い出となった一件だが……。

 

「2回目は、昨日。”イージス”にターゲットされた時は、『あっこれ死んだ』って思っちゃったよ。だけど、君が割り込んでシールドで守ってくれたでしょ?」

 

昨日、アスランとの戦いではアスランを押さえ込むのに必死だったからどの機体に誰が乗っているかは覚えていないのだが、知らず知らずに彼女の命を救っていたようだ。

 

「あの時は、必死で……よく、覚えていないんです」

 

「それでも、助けてくれたでしょ?だから、お礼を言いに来たの。お父さんから『恩を受けたら、必ず返しなさい』って言われて育ったから、これは私の我が儘。ね、ありがとう」

 

そう言ってこちらの手を取るヒルデガルダの顔からは、混じりけの無い謝意が読み取れた。本心からの言葉なのだとわかる。

だが、紹介の中で気になる部分があったのをキラは忘れなかった。

 

「だけど、その、いいんですか?僕は、コーディネイターで……」

 

「いいのいいの。私とあの人達で、違ってるから」

 

「違ってる?」

 

「ミスティル家は『正統ブルーコスモス派』と呼ばれることもあってね。ブルーコスモス結成当初からの活動である、環境保護に力を入れている人達が集まる派閥でもある。アルスター事務次官と同じブルーコスモスではあるが、反コーディネイターとしての姿勢はおだやかなものさ」

 

ユージが捕捉して説明するが、キラにとっては目から鱗が出るような情報であった。

なにせブルーコスモスと言えば、反コーディネイターの代表のような存在である。同じ組織だというのに、派閥というものが違うだけでかなり差があるものだ。

 

「そうそう、お父さんよく言ってたもん。『遺伝子操作技術は認められないが、既に生まれた人間を迫害するのが正しいわけがない。彼らが自然に生きていける世界を目指すべきだ』って。あたしも嫌いって思った人は嫌いだけど、コーディネイターってだけで嫌いにはなれないかな~」

 

つまり、こういうことだろうか。

遺伝子操作を行なうのは人の命を好きに弄ることなので認められないが、生まれた子供に罪はない。その子供が遺伝子に縛られず生きていけるように、支えてあげるべきなのだと。

たしかに、遺伝子操作を受けて不幸になったという人がいるという話は聞いたことがある。

今でこそ活躍しているアイザックやカシンも、遺伝子操作のせいで復讐者となったり戦争にかり出されたりと、不幸になったと言えるかもしれない。

 

「皆がジレン大統領のように考えられたら、良いのだがね……」

 

「ほんと、そうですよ!お父さんに会いに来る人、皆で『コーディネイターは悪だ』とか『滅ぼせ』とかしか言わないんだもん。コーディネイターでもいい人はたくさんいるのに……」

 

「……どうして、このような、憎しみあう時代になってしまったのでしょうか」

 

ユージとヒルデガルダの話を聞いて何か思うところがあったのか、ラクスは話始める。

 

「数は少ないですがわたくしにも、お友達がいます。婚約者も。皆さん、とても優しい方々ですわ。でも、彼らも戦争にいってしまいました。今もどこかで、戦っているかもしれません。どうして、そうなってしまうのでしょうか。優しさを押し殺してまでも、戦わなければいけないのでしょうか……」

 

悲しげに呟くラクスの言葉に、キラとヒルデガルダも物憂げな表情を作る。

アイザックは、違ったようだが。

 

「奪われたからだよ。人命を、資源を、土地を。そして、自由をね」

 

チラリと視線を下に向ければ、彼の拳が硬く握りしめられているのがわかる。

彼もまた、奪われた者。その目の中には、暗い炎が灯っている。

 

「まずプラントは、平和を奪われていた。コロニー内で頻発した反コーディネイターのテロに、プラント理事国はまともに対処しようとしなかった。自分達で政治を行えない彼らにとって独立とは、自分達の身を守る行為でもあったんだろうね。そしてナチュラルは、プラントを奪われた。自由黄道同盟、現在のZAFTが許可を得ずに独立を宣言したことでね。プラントからしたら命が掛かっているわけだから正しい行為でも、彼らが住んでいるコロニーはそもそも、理事国がお金を出して作られた。理事国としては、勝手に資産を盗まれたに等しい」

 

そこまで話して、アイザックは息をつく。

キラ達は気付いていないがユージにはわかった。あれは、憎悪を押しとどめている証だ。アイザックは子供達に自分の憎悪を見せないように、相当気を張っている。

この思いは自分だけが持っていればいい。そんなことを考えているのだろう。

 

「そんなことの繰り返しだ。奪い、奪われ。笑っちゃうよ、なにせ、理事国がコーディネイターのことを慮っていれば、こうはなってなかったかもしれないんだ。互いに歩み寄ろうとしなければ、ドンドン遠ざかっていくだけなのに……」

 

今にもZAFTに対する憎しみを爆発させそうなアイザックだが、それを抑えながら言いたいことは言い切ったようだ。再度息をつく。

 

「ナチュラルはコーディネイターに、コーディネイターはナチュラルに対する理解が足りない。キラ君、クライン嬢、そしてミスティル伍長。難しい話かもしれないが、君たちには『お互いを知ろうとすること』を忘れないで欲しい。きっと、そういうことの積み重ねなんだ」

 

「中佐……はい」

 

「う~ん、難しいことはよくわかりませんけど、偏見は良くない!ってことですよね?だったららくしょーですよ!」

 

「……ムラマツ中佐、ヒューイ中尉。今あなた方に会えて、本当によかったと思いますわ」

 

少年少女に大人の責任を押しつけるようで気が重いが、それでもユージは彼らに託すしかないのだ。

どんな力や知識があっても、自分は所詮、1人の軍人でしかない。

それでもこうして主人公、否、子供達に何かを教えられるなら。

それはきっと、こうして自分が軍人になったことも無意味ではないのだろう。

 

「───見つけたぞ、ヒルダ!っていうか、ムラマツ中佐にヒューイ中尉も……って、うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

「いきなり大きな声を出さないでください、マイケル。失礼しました、ラクス・クラインさんですね?」

 

入り口の方から、マイケルとベントが入ってきた。

ヒルデガルダと一緒にいた彼らにも、ラクス捜索を頼んでいたということをユージは思い出した。

実は、会議における様子からジョージが暴走するのではないかと考えたユージは、ジョージをほぼ確実に止めることの出来るヒルデガルダを捜索に参加させていたのだった。

結果的には丸く収まったが、これが知られたらヒルデガルダの機嫌を損ねてもしょうが無い采配である。

 

「ま、マイケル・ヘンドリー伍長であります!」

 

「……マイケル、あんたひょっとして」

 

やけにマイケルが挙動不審だが、ヒルデガルダは何かを悟ったかのようににやつき始める。

 

「ねえ、クラインさん?こいつ、実はクラインさんの大ファンなのよね。良かったら、サインとかしてあげて?」

 

「うぇい!?い、いやいやいや!そんな恐れ多いことは、とても!」

 

「……ふふっ。はい、わたくしのもので良ければ喜んで!」

 

「ひょう!?」

 

「まったく……ああ、君はキラ・ヤマト君だろう?ヒルダからはもう礼を言われたかな?僕からも、礼を言わせてくれ。僕も君には助けられたからね」

 

「えっと、その、どういたしまして?」

 

「それと、良ければ君の回避機動について聞きたいことがあるんだ。時間があったら、教えてくれないか?」

 

「ぼ、僕のですか?」

 

「ああ。ヒューイ中尉達よりも、なんというか先鋭的だった」

 

「せ、先鋭的?」

 

たちまち賑やかになっていく展望デッキ。

その光景を見て、ユージはアイザックに語りかける。

 

「なあ、アイク。さっき私は、手を取り合うのは難しいかもしれないと言ったな?」

 

「ふふっ、言ってましたね」

 

 

 

 

 

「意外と、難しいことではなかったのかもしれん。……守っていきたいな」

 

「はい。僕も、そう思います」

 

 

 

 

 

ここから、少しの時間が流れた。

ユージはこの間気を揉んでいたが、結局クルーゼ隊の追撃はなかった。

先の戦闘では少なくない被害を与えたことや、奪取された『ガンダム』が1機だけということもあるのだろう。

道中で他のZAFT部隊に遭遇することもなく、“モントゴメリ”を含む先遣艦隊を交えた艦隊は、順調に目的地への航路を進んだ。

ちなみに、ジョージは”モントゴメリ”に監視付きで事実上拘束されることになった。ユージとしては意外なことに、フレイがこの数日間で父親と会話することはなかった。

流石に事のあらましを聞いても、父親を盲信するほど世間知らずではなかったのだろう。暴走した父に代わって、キラに謝罪していた姿は中々に衝撃的だった。

それに、そもそもジョージは穏健派寄りだ。でなければ、ヒルデガルダの父とのパイプを築くことも出来ないのだから。

ZAFTとの戦闘に巻き込まれて気が立っていた彼は、そこを先遣艦隊に紛れ込んでいた過激派にそそのかされてしまい、あのような暴挙に及んだというのが真相らしい。件の過激派兵士は、もちろん営倉入りである。

後日正式にキラへ謝罪をしたことから、もう遺恨は残っていないと見て間違いない。

 

戦いをくぐり抜け、騒動を解決した。

ネズミたちは子供達に自分達の思いを伝え、子供達は未来を考え始める。

そうして芽生えたわずかな希望の芽と共に、艦隊は『セフィロト』へとたどり着いた。

これで連合軍は、次期主力量産MSの試作機とMS運用能力を兼ね備えた最新鋭戦艦の実機、そして、ラクス・クラインの身柄を手中に収めたことになる。

それがどのような未来を引き寄せるかはわからない。ユージにわかっていることは、ただ一つ。

───本来の未来が変わったことだけは、たしかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

報告します!

”アークエンジェル”が、無事に”マウス隊”と共に『セフィロト』に到着しました!

試作MS”イージス”を奪われてしまいましたが、ストライカーシステムを搭載した”ストライク”は無事だとのことです。

我々はこれで、次期主力量産型MSである”ダガー”を開発することが可能です!

 

 

 

 

 

開発部から、新兵器の開発プランが提案されました。開発部からの報告をご覧になりますか?

 

「”ストライク”の量産」 資金 3000

ストライカーシステムを搭載した量産型MSを開発する。

3種類のストライカーを状況に応じて付け替えることで、様々な戦況に対応出来る高性能MSとなると考えられる。

 

 

 

 

 

 

重戦車の試作」 資金 3000

MS以外の兵器の「戦場における役割」を再検証するために開発する。

本機の開発は、開発部内の「通常兵器地位向上委員会」を名乗る派閥によって主導される。




というわけで、ヘリオポリスからの珍道中はこれで終了です。お疲れ様でした!
え、低軌道会戦?やだなあ、マウス隊とキラ達に加えて、基幹艦隊にも相応数のテスターが配備されてるんですよ、この世界?
クルーゼさんがかちこもうもんなら、返り討ちにあいますね。

「機動投機トレーダーSEED」という作品がハーメルンにもあるんですけど、あの作品で語られたことが結構、SEEDの戦争が起こった原因を解決する方法の一つなんじゃないかと思います。
ご都合主義が結構強めな作品ですが、1話だけの短編ということもあって非常に手軽に見れて、かつ作者の主張(私ではない)もはっきりしてるので、暇だったら見るのもいいと思います。
作者のお気に入りに登録してありますんで。はい。



ここから自分語り。
面倒な人はブラウザバック推奨。
私が最初に全話見たガンダムは、「機動戦士Zガンダム」でした。ですが、当時小学生で父の借りてきたZのDVDを見ても、当時アッパラパーだった私には難しくて、「Zガンダムかっけー!」くらいしか考えてなかったんです。
だけど、それでよかったんだと思います。そうでなかったら、私のガンダム観はZのようなシリアスなものに傾倒していったと予測されますからね。
幼い時は、純粋にかっこいいと思ってガンダムを見ていればいいんだと。
小難しいことは、成長して後からかんがえてりゃ良いと。
視聴一回目ではMSのアクションに夢中になって、二回目では登場人物の機微や重厚なストーリーに唸る。
それが、私にとっての「ガンダム」なんです。1粒で2度おいしい(なんだそりゃ)。
おかげで、「ガンダムAGE」も「Gのレコンギスタ」も素直に楽しめましたよ(笑)。

小学生から少しの時間が経って、私は自分でDVDを借りるようになったころ。
私がZガンダムの次に全話視聴したのは……。
「機動戦士ガンダムZZ」でした。
ジュドー達、シャングリラチルドレンが戦争の中で生き抜いていく姿は、鮮烈に映りました。傷つきながらも前に進んでいき、成長していく。
物語の最後にジュドーは、希望を持って木星圏へ旅立っていきました。
ここで、私の「グッドエンド症候群」とも言うべき性が生まれたんですよね。
どんなに辛く苦しい物語でも、最後は明確にハッピーエンドで終わって欲しい。そういう主義が生まれたわけです。
そんな状況で次に見たのが「機動新世紀ガンダムX」なもんですから、私はどうしても「子供の成長」というシーンを入れたくなるんですよ。今回の話も、そういう私の我が儘です。世界に、こうあって欲しい、とね。

MS開発記を期待して読んでくださっている方々には申し訳ないことに、今後もこういう少年少女の機微を描写する回は多々存在すると思います。
ただ、その根底には間違いなく「かっこいいガンダムが書きたい、私なりの戦争を書きたい」という思いもあって。
どうか、最後までお付き合いいただけると幸いです。
それになんといっても、まだまだ書きたいオリジナル兵器がありますしね!

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

カウント、3

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