機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
ユージ「この作戦、キラが戦わなかったらやばいことになるよなぁ……(冷や汗)」




第33話「ゲームメイク」

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戦闘宙域

 

「くっ……!流石にやる!」

 

アスランは現在戦っている敵、”デュエル”に賛辞を送る。

やはり”イージス”と同じPS装甲を使っている機体なのだろう、先ほどから牽制に放っているイーゲルシュテルンは尽くが無効化されている。機動性もかなりのもので、”イージス”の全力機動にもついてくる。

なにより、そんなMSを使いこなすパイロットの腕が問題だ。正確な射撃に加えて、こちらの虚を突くかのような攻撃が織り交ぜられて放たれる。かといって近接戦を挑もうとしても、耐ビームコーティングされた盾を見事に使いこなしてこちらの攻撃を防ぎ、あちらもビームサーベルで反撃してくる。

こういった堅実な戦い方をする敵は総じて厄介だ。けして勝てない相手ではないが、時間が掛かる。別の場所に気を取られようものなら逆に撃破されてしまうだろう。

流石は、音に聞こえし“マウス隊”といったところか。

 

「このままでは味方が……!」

 

現在の戦況は、間違いなくこちらに有利だ。既に敵艦隊はMS隊による包囲がなされており、こちらの艦隊の有効射程範囲内にも程なくして収まる。敵のMS・MA部隊も既に半数以上が撃破されており、防衛能力はほとんど喪失していると言っていいだろう。

しかし、『確実に勝てる』とは言えない。アスランは、そんな胸騒ぎを覚えていた。

現在も遠くから放たれる砲撃は、おそらく『カオシュンの悪魔』によるものだ。既にやつ1機のためだけに3機のMSが撃墜されている。この混戦状態の中を狙撃だけでだ!これを無視することは出来ないと、”シグー”を駆る隊長格が4人がかりで対処に向かっている。

更に、『足つき』から応援にやってきたであろうMS隊の戦力も無視出来ない。1機を除いて動きは稚拙だが、きちんと固まって艦隊中央の”ネルソン”級戦艦を防衛している。一般の兵士だけではあれを切り崩すのはかなりの負担だ。ここに隊長格の指揮があれば話は別だが、彼らは現在『カオシュンの悪魔』の対処に追われている。

けして勝てないわけではない、しかし時間がかかる。

アスランはこの状況を『敵が時間を稼いでいる』と判断した。だが、時間を稼いで何をしようというのか。

アスランの思考はそこで中断させられた。”デュエル”からビームが射かけられたからだ。

なんとかしなくてはいけない、だが目の前の強敵はそれを許さない。

しかし、状況は一転した。”デュエル”にとってまったくの見当違いな方向からビームが放たれたからだ。

 

<ずいぶん手こずっているようだな、アスラン>

 

「く、クルーゼ隊長!?」

 

”デュエル”にビームを射かけたのは、特徴的な形のビームライフルを構えた”シグー”。ラウが現状を見かねて出撃してきたのだ。

 

「申し訳ありません、隊長自ら来られるとは……」

 

<気にするな、それだけの相手だ。ここは連携して叩くぞ>

 

「了解!」

 

良かった、これでなんとかなりそうだ。アスランは安堵した。

まずは”デュエル”を撃破する。それから他に対処すれば良い。

 

<行くぞ>

 

「はい!」

 

アスランが”イージス”のサーベルを展開し、”デュエル”に切り込む。”デュエル”は近づかれる前にビームライフルで迎撃しようとするが、ラウによる援護攻撃がそれを妨害する。これが実弾攻撃であれば無視することも出来たが、生憎と放たれたのはビーム攻撃。当たったら致命傷となるその攻撃を防げば、”イージス”は既に目の前。仕方なくそのままの態勢で防御を試みるが、片手がビームライフルで塞がっているせいで反撃に移れない。そのまま構えた盾ごと蹴りつけられてしまう。

なんとか態勢を立て直して”イージス”にビームを放とうとするが、そこをまた”シグー”に狙い撃たれてしまい、ライフルを破壊されてしまった。ならばと”シグー”に向かう”デュエル”だったが、今度は”イージス”の射撃によって阻まれてしまう。

アスランとラウ、二人のトップエースを相手にしたことで、アイザックは追い込まれていく。

 

 

 

 

 

”ヴァスコ・ダ・ガマ” 艦上

 

アスランか、友軍か。キラは一人悩み続けていた。

親友と殺し合うなど論外だ。しかし戦わないということは、今前線で戦っているアイザック達や”モントゴメリ”に乗り込んでいるというフレイの父を見捨てることになる。

行動してもしなくても、誰かの命が掛かってくることになる。『進むも地獄、引くも地獄』とはまさにこのことだ。

だが、迷っている時間も無い。現に、通信がつながったままの”ヴァスコ・ダ・ガマ”艦橋からは、忙しなく戦況を報告する声が響いている。

 

<”ロー”に被弾、ミサイルユニットで誘爆発生!?ああっ!……”ロー”、撃沈>

 

<先遣艦隊所属機、残存戦力が30%を切りました。MS・MA共に3機ずつしか残っていません>

 

<カシンさんは……”シグー”タイプ4機にとりつかれてます!>

 

<……()()()()だ。今のところはな>

 

モニターの中のユージは特に焦った様子は見せずに、キラを見つめ返す。───キラの答えを待っているかのように。

いや、実際に待っているのだ。自分という戦力が参加するかどうかで作戦を変更すると言っているのだから、それも当然だ。

どうする、キラ・ヤマト。どうすればいい?

 

<キラ君、もう時間は無い>

 

聞きたくない。ユージからの言葉を聞かないように、思わず耳を塞ごうとさえしてしまう。ヘルメットに内蔵された通信機から発せられているのだから、まずヘルメットを取らなければいけないのに。

その様子を見たユージは、帽子のつばで目元を隠しながら話し始める。

 

<……君はどうしたい、キラ君。どんな風にこの戦いが進んで欲しいと思う>

 

「え……?」

 

<アスランの命を奪いたくない、かといってアイク達や先遣艦隊を見捨てることも出来ない。そして私は、どちらかを切り捨てろと言った。だがな……それは、『私』が定めたことだ。君の意見など聞かずにな>

 

この男は、自分に何を言おうとしているのか。キラにはわからない。

ユージは続ける。

 

<つまりだ、君としてはアスランを殺すことなく、アイク達を助けたい筈だ。違うか?>

 

「……はい」

 

<ならば、何故()()()()()()()()()()()と言えない。アスランは殺さないし、アイク達も見捨てない。君は少なくとも”ストライク”を十分に扱えるし、それを実行に移せるだけの力がある筈だ。少なくとも、私はそう考えている>

 

「そ、そんなの出来るわけないじゃないですか!」

 

本当に何なのだこの男は。最悪の二択を迫ったかと思えば、その二択以外の選択を選べと言い出す。

そんな都合のいいことが出来るのなら、人間はもっと上手に生きていける。それが出来るほどの力が、あるなら……。

 

<何故だ?ヘリオポリスで君は、禄に知りもしない“ストライク”を操って”ジン”を撃破してみせた。脱出後の戦闘でも、ほとんど孤立無援の状態にありながら”イージス”を含む複数のMSから”アークエンジェル”を守りぬいた。客観的に見ても、自分には相応の力があるということがわかる筈だ>

 

「でも……でも!僕一人が行ったところで何が出来るって……!」

 

<1人ではない!>

 

いきなりユージから発せられた怒号に、身が竦む。今まで穏やかに話していたところしか見たことが無いキラには、衝撃があったようだ。

 

<君は1人じゃない。”アークエンジェル”も、フラガ大尉も。”マウス隊”もいる。君がこうしたいと言えば、私達も君と話し合うくらいは出来る。君が何かミスをしても、フォロー出来る実力があいつらにはある。……自分が一人で何でも出来るとは思ってはいけない。しかし、無力だと思うのもいけない。重要なのは、自分がその集団の中で何が出来るか、自分の役割が何か、そして、()()()()()()()()()()()()()()、だ。もう一度聞くぞ。()()()()()()()?>

 

「僕は……」

 

キラは一度俯いた後、ゆっくりと顔を上げてユージの目を見る。

 

「僕は、アスランと殺し合いたくなんてない。だけど、あの人達を見捨てることも出来ません。教えてください、僕はどうしたらこれを両立出来ると思いますか……?」

 

ユージは、満足したかのようにうなずくと、話し始める。

 

<言葉に出すなら簡単なことだよ。()()()()()()()()()()()()()、ただそれだけだ。アスランを撃たない、しかし、アスランを他の味方の方へ行かせない。そうすればアイク達が他の敵MS隊を抑えてくれる、”アークエンジェル”が目的を達成するまでの時間稼ぎも出来る。言っておくが、ただアスランを倒すよりも遙かに難しいだろう。……それでも、やるか?>

 

キラの答えは決まっていた。

それで、この場を切り抜けられるなら。アスランを殺さずに、アイザック達も救えるなら───!

 

「やります、やってみせます!」

 

<よく言った!発令!”ストライク”は”イージス”相手に時間稼ぎをしろ!なお、”イージス”に対して攻撃を行なわなくとも一切咎めないことを明言する!……発進!>

 

命令が下った。キラは、操縦桿を握る手に力を入れ、フットペダルを踏み込む。

 

「キラ・ヤマト、『ガンダム』、行きます!」

 

かくして、『ガンダム』は飛び立った。たとえどんな難題でも、その先に自分の願いがあると信じて。

その光景を、ユージは複雑そうに見ていた。

 

 

 

 

 

「お見事ですね、隊長。彼、上手いこと乗ってくれましたよ」

 

「世辞に見せかけた皮肉とは、ずいぶん偉くなったものだなエリク?……私だって、本当はあんなことはしたくなどなかった」

 

「……申し訳ありません」

 

「いや、いい。私が負うべき咎だ。……どう言いつくろっても、道に悩む子供を言いくるめて戦場に送り出したんだ。あたかも彼の望みに応えるかのように、ね」

 

「私は比較的()()()()なので率直に申し上げますが、彼の力が無ければこの戦いは切り抜けられません。そもそも彼に参加しない選択肢などなかった。でしょう?」

 

「……ああ。彼が行かなければ我々は全滅していただろう。離れている”コロンブス”だって、少し探せば見つかるし”ナスカ”級なら追いつける。そして、”コロンブス”を人質にされたキラ君は投降せざるを得なくなる……。本当に彼のことを考えるなら、素直に反転離脱していればよかったんだ」

 

「たいちょー、大丈夫ですよー。私達、皆何かしらの形で人殺してるんですよー?皆仲良く人でなしですー」

 

「ほう、お前にも人を励ます……励ます?ような器用なことが出来たんだなアミカ」

 

「エレカは相変わらず失礼ー」

 

「だから、エリクだといっとろうが!」

 

「……ありがとう。では、我々も準備に取りかかるぞ!そろそろ”アークエンジェル”も準備が出来ているだろうしな!」

 

『了解!』

 

 

 

 

 

<ああ、助けてくれぇ!隊長が!>

 

<来るな、こっちに来るなぁ!>

 

<いやだ、いやだぁ!>

 

戦況はハッキリ言って、最悪の一言に尽きる。セシル・ノマはそう分析した。いや、もはや分析などではない。こんなことは新兵にだってわかる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

味方が次々と死んでいき、いつ自分がそうなるかもわからない。先ほど、追い打ちか何かのように”ロー”が沈んだ。新兵達はよく恐慌状態に陥っていないものだ。3人で連携して、敵を落とせないまでも”モントゴメリ”に寄せ付けずに奮戦している。

こんな状況、ずいぶんと久しぶりなように感じられる。最近は”デュエル”や”バスター”が配備されて、どこか安定した戦いが出来ていたものだからなおさらそう思う。

その頼れる仲間達は、現在”イージス”や”シグー”といった強敵に囲まれている。おそらく、こちらに手を貸すことは出来まい。というかあの”シグー”の動き、かつて自分達が苦渋を飲まされた機体のものではないか?こんなところで出くわすとは、なんというアンラッキーか。

だが、もしもあの”シグー”があの時と同一の人物によって操られているというなら、()()()()()()()()()()()()()ことの証明となる。

それまで、こちらが撃破されなければの話だが。

 

「皆さん、落ち着いてくださぁい!こうバラバラだと、撃ってくれといっているようなものですよぉ!?」

 

<ああ……わあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?>

 

<いやだ、助けてくれ!父さん!母さん!>

 

こんな有様である。

危機的状況かつ、自分を指揮する人間が既に落とされていることが大分響いている。既に”ネオショー”所属のMS隊は3機ほどしか残存していない。目に映るもの、未だに自分達を包囲出来る数の敵機。

もう、どうしようもない。セシルはそう結論づけた。

そして、普段垂れ目な彼女の目が、スッと細まる。彼女は、”モントゴメリ”に通信をつなげた。

 

「───コープマン大佐。艦隊所属のMS・MA全機の指揮権を私にください」

 

<いきなり何を言って───!?>

 

「速く決断してください。作戦の前に全滅しますよ?」

 

コープマンは、目と耳を疑った。

セシル・ノマ。”マウス隊”所属のパイロットの一人であり、現在”EWACテスター”で戦闘している女性兵士。『ゲームマスター』の異名を持つ者ではあるが、ハッキリ言って目立った活躍は見せていなかった。

先ほどの通信ではどこか間延びした話し方をしていた彼女だが、今モニターに映っている彼女からはそんな様子は感じられない。双子か何かではないかと疑うほどだ。

 

<……君なら何とかできるかね>

 

「やります」

 

返されたのは、やはりこちらに有無を言わせる気のない言葉。

だが、今のコープマンでもわかることがある。それは、この戦場が最悪な状態にあること。そして、自分にそれを解決する能力がないことだ。

 

<わかった、本艦隊に所属する全MS・MA部隊の指揮権を君に委ねる。全部隊に通達───>

 

「もうこっちでやってます。それでは」

 

目を見開くコープマンを無視して、セシルは深い思考を始める。

現在の自軍戦力。”デュエル”、”バスター”がそれぞれ1機。しかし、どちらも敵高性能MSに包囲されており戦力計上不可。”EWACテスター”1機、”テスター”4機、内3機は新兵。新兵は”モントゴメリ”周辺で防衛戦闘中。残り1機は撃破された”ロー”側に未だ残留。”キャノンD”2機、こちらは”ネオショー”付近で戦闘中。内1機は左腕損傷、ライフル消失。”メビウス”3機、現在は戦場をバラバラに飛び回っている。流れ弾に当たる可能性大。”メビウス・ゼロ”、戦場の中心から離れて遊撃に徹している。”モントゴメリ”、”バーナード”共に対空砲台のほとんどを潰されて対空防御不可。”ネオショー”も同じく。

現在の敵戦力。”イージス”と推定いつぞやの”シグー”、”デュエル”が現在対応中。4機の”シグー”、”バスター”が対応中。“ジン”タイプ、16。内、5機は脚部を大型ブースターに換装したタイプ。敵艦隊はまだ離れた場所にいる。射程距離でもおかしくないが、混戦状態では味方にも命中する可能性があるため砲撃不可能状態にあると推測。散発的な動きと”シグー”が全機『ガンダム』タイプに対応中ということから、現在、敵MS隊の指揮を執る者は正式な指揮官ではない、あるいは指揮官がいない可能性大。

周囲。あちこちに散乱するスクラップ(障害物)。そして───。

思考の海から、意識が浮上する。

ここまでの時間、実に1秒。

 

「ヘンドリー機、ミスティル機、ディード機はそのままの状態で応戦を継続。撃破するより撃破されない戦いを心がけてください。アルファ3、今から私とエレメント(2機で構成される、部隊編成の最小単位)を組んでもらいます。ベータ2、ベータ3も同じくエレメントを組み、引き続き”ネオショー”の護衛を継続。対艦装備の敵機体を優先してください。時間稼ぎには十分です。フラガ大尉、残存した”メビウス”の指揮を執って遊撃をお願いします」

 

命令しながらも、”EWACテスター”の操作は機敏に行なうセシル。また1機、”ジン”がセシルの放った銃撃により撃墜された。

次の瞬間、驚くべきことが起きた。別の”ジン”から放たれた後方からの銃撃を頭部を軸に180°縦に回転することでよけたばかりか、逆に反撃で撃墜してみせるセシル。

最初は「小娘が何を」という思いを抱えていた先遣艦隊所属機だったが、彼女の有無を言わさぬ言動と先ほどのアクロバティックな機動を目にし、おとなしく命令に従うことを決めた。

 

「ライフルを回収、残弾……無し。予備弾倉は残存。───アイクさん、これを」

 

辺りを漂っていた”テスター”の残骸から、保持されたままだったアサルトライフルを回収すると、”イージス”に向かって銃撃を行なう。彼らは比較的近い場所にいたため、セシルも援護が出来る。

”イージス”は律儀に銃撃を回避するが、そこで生まれた隙を見逃すアイザックとセシルではなく、先ほど回収したライフルが”デュエル”に投げ渡される。既に予備弾倉は装填済みだ。

これで、”デュエル”が射撃手段を手に入れたことになる。

 

<ありがとう、セシル!>

 

「あの”シグー”の射撃間隔にはそれなりの開きがあります。推定、6コンマ3」

 

<───了解!>

 

セシルの様子に息を飲むが、すぐさま平静を取り戻して戦いに戻るアイザック。セシルに攻撃しようとする”イージス”だったが、それをアイザックは許さずに立ち塞がる。

セシルも特に感慨を見せずに、戦線に復帰した。近くに、アルファ3の”テスター”が接近してくる。

 

<自分達は何を!>

 

「”バーナード”を防衛します。───右後方に敵機。散開!」

 

<───!?>

 

アルファ3はとっさに散開する。すると、先ほどまで自分がいた場所を銃撃が通過していくではないか!

そのまま、セシルは淡々と右後方の”ジン・ブースター”に反撃を加える。シールドに阻まれて致命打とはならないが、少なくない損傷を与えることに成功する。

 

「行きますよ、アルファ3」

 

<え……あ、はい!>

 

感情を動かす様子を見せずに、淡々と”バーナード”を守りながら再び戦い始めるセシル。

その様を見て、アルファ3ことバード・テックスは異質なものを覚える。

なんだ、これは。20にもなっていないような女に、このような振る舞いが出来るのか?このような機動が出来るのか?まるでこの戦いの全てを把握しているような、敵味方関係なく、彼女の手のひらでもてあそばれているかのような……。

しかし、そんな彼女の力がなければ瓦解してしまうような戦場でえり好みが出来るわけもなく。

バードは自分の心を押し殺して、戦線に復帰するのだった。

 

 

 

 

 

『セシルって、対戦系のゲームは遊ばないの?』

 

『ふぁい?』

 

『いや、セシルってよく自由時間とかにゲームで遊んでいるのを見るけど、いっつもRPGとかばっかりだなぁって。ねぇ、アイク?』

 

『え?……言われてみれば、そうかも。FPSゲームとかもやらないね。ひょっとして、苦手なの?』

 

『うーん別に嫌いってわけじゃないんですけど……なんて言えばいいんでしょう。飽きやすいんですよねぇ』

 

『飽きやすい?』

 

『はいぃ。誰も彼も、ちょっと遊んだだけですぐに()()()()()()()()()()()。私は別に弱い者いじめとかは好きじゃない、むしろ嫌いな方なのでぇ』

 

『そ、そうなんだ……』

 

『どのキャラクターがどんなアクションが出来るか、どんな性能なのかが大体わかってからは、それが顕著ですねぇ。皆さん、どんなことをしてくるのかが丸わかりなんですもん。FPSとかもどんな武器使ってもヘッドショット出来ますから、一時期ナイフ縛りでオンライン対戦とかもしてたんですよぉ?9割ぐらいで勝ちましたけどぉ。その点、パーティゲームとかは最高ですねぇ!ああいう運要素の強いゲームだと、どれだけ知っててもひっくり返されたりしまいますからぁ。……一緒にやる人はいませんでしたけどぉ』

 

『ご、ごめん。……今度、いっしょにやる?ゲームとかは詳しくないけど』

 

『いいんですかぁ!やったぁ!これで、ひとり寂しくパーティゲームする虚無とはおさらばですぅ!』

 

『……アイク(小声)』

 

『……わかってる、カシン。いつの間にか、他の人が弱くなってるんじゃなくて』

 

『『セシルが()()()()()()()()んじゃないかな……』』

 

 

 

 

 

”ヴェサリウス” 艦橋

 

「残存MS、19!あっ、いえ!18になりました!」

 

「くそっ、MS隊は何をやっている!敵艦に接近しすぎだ!これでは砲撃で巻き込みかねない!」

 

「半ば混乱状態にある模様です!指揮官は……敵の砲撃MSへの攻撃を続行中!」

 

指揮官が部下を置いて、砲撃MSの対処!?百歩譲って、一部隊がまとまって砲撃MSを対処するならわかる。というかむしろ、そうして欲しかった。

だが、現実には隊を預かるはずの指揮官達は突出して1機のMSを集中攻撃しているという。どう考えても異常な事態だが、自分や“ヴェサリウス”、”ガモフ”に”ツィーグラー”の乗組員以外は特に焦りを持っていないようだ。

 

<何を焦っている、アデス艦長?たしかに敵の抵抗は中々目を見張るものがあるが、それも時間の問題。いずれあの青いMSもクルーゼ隊長達が撃墜してくれるだろうさ>

 

今回の任務で部隊に編入された”ナスカ”級”シュティルナー”の艦長がそう言ってきたことに、唖然とするアデス。

逆だ、逆!これだけの数を投入しておきながら、未だに落とせていないことが問題なのだ!

おまけに、部隊の最高指揮官であるラウが出撃することになってしまっていることに、なぜ危機感を覚えない!彼が出撃したのだって、指揮官が全員突出したことで混乱した戦線を立て直すためだぞ!?それくらいガタガタなのだ、現状の我々は!そのラウは、アスランと共に青いMSに手間取っている。これでは戦線の立て直しなど、夢のまた夢だ!

いっそのこと、撤退信号を挙げるか?いや、ダメだ。ラウの意思を聞かずに行動するのはともかく、『一応は優勢な』この状況でおとなしく引く兵がいるだろうか?

どいつもこいつも、宇宙の防衛戦力という名の第2軍だ。優秀な指揮官の大半は地上に引っ張られていってしまった。そのせいで、個々の腕はそれなりであっても連携を重視しようとする者は少なめだ。なにせ、連携などしなくとも今まで勝ってきたのだから。

()()()()()()()()()のだから。

アデスも、もう少し信じていたかったのだ。まさか思うまい、自軍の兵士、ましてや1艦を預かる艦長でさえこのような楽観的思考を持っているなど!悪夢なら覚めて欲しいくらいである。

たしか、今本国では戦術の見直しや対敵MSを見越した兵器の開発を行なう『アイギスプラン』が検討されているらしい。今回の戦いで生き残れたなら、絶対に『兵士の意識改革』も含めるように上申しよう。ラウならば、現在のZAFTがガタガタだということに気付いてくれているはずだ。彼から上層部にはたらきかけてもらえれば……。

 

「戦域に、新たな反応!これは……”ストライク”です!」

 

その報告を聞き、ついに恐れていた事態が訪れたことを嘆く。

たった1機、あの1機のMSに我々クルーゼ隊は『足つき』の撃破を阻まれてきたのだ。少なくともアスランかラウのどちらかでなければ、対処することは出来ないだろう。そうでなければもう数を頼みに押し切るしかないが、そうした場合敵艦隊に反撃の機会を与えることになる。いや、むしろその方が敵艦隊からMS隊が離れてくれる分、砲撃を行ないやすくなるのか?

そこまで考えて、ふとアデスの頭にある思考が浮かんでくる。

”ストライク”がここにいるということは、当然『足つき』もこの戦場にいるはず。───『足つき』はどこにいるのだ?

 

「───っ!全艦、警戒態勢!」

 

「りょうか……これは!?5時の方向より、高熱源体接近!”足つき”です!」

 

やられた。敵の司令官は自軍のMS・MA隊と艦隊を餌にして、我らの目を『足つき』からそらしたのだ!中々艦隊を撃破出来ないことに焦っている間に、『足つき』は密かに我々の後方に回り込んできていた!

迎撃しようにも、既に艦隊にMSは残っていない。最高指揮官にして予備選力であるはずのラウは、敵エースに()()()()()()()()()()()()

結果、艦対艦という前時代的な戦いに持ち込まれた。

MSを運用することを前提としたZAFTの艦と、古くから艦隊戦のノウハウを蓄積してきた連合軍の艦でだ!

 

<はっ、単艦で何ができるというのだ!目標に照準を合わせろ!返り討ちだ!>

 

バカかこいつは!いや、場数が足りないだけか。

自分が向こう側の指揮官なら、何の策も無しに単艦で敵艦隊に突っ込ませるわけがない。つまり敵は、この艦隊を単艦で撃破ないし突破出来る策を用意している。

そして、その予感は的中したようだ。モニターに映った『足つき』の、足のような部分から何かがせり出してくる。

あれは、砲門だ。

 

「全艦、散開───!」

 

 

 

 

 

”アークエンジェル” 艦橋

 

「艦長!”ローエングリン”、1番2番共に発射準備完了しました!」

 

「敵艦隊に動きが見られます!散開する模様!」

 

「このままでは回避されます!艦長!」

 

「わかっているわ!”ローエングリン”の発射と同時に、全速で敵艦隊に突入!()()()()()()()()()()!……撃て!」




お待たせしましたぁ!

今回のセシル無双(?)ですが、実は最近になって入れた設定です。こういう時でもないとセシルの真価が発揮されないので、顰蹙を買うかもしれないことを覚悟した上で入れました。
彼女はぶっちゃけ天然チートキャラです。今まではアイクやカシン、そしてエド達といった優秀なパイロットがいたから全力を出す機会がなかった(自分が全力を出す必要が無い)だけで。彼女に指揮権限を与えれば、その類い希なる情報処理能力と適切な戦術指揮によって1が2どころか10になりかねないほどにです。
どの場所に何があって、味方や敵がどの場所にいるかを常に把握されていたら?それら情報を活かした指揮を行ないながら、自分もエースクラスの戦闘能力を発揮出来る能力があったなら?
そういう存在が、セシルです。
実は、成長しきったセシルの指揮値はユージやモーガンを超えて、ハルバートンに並ぶレベルに設定しましたからね。おかげで、めちゃくちゃ扱いづらいキャラクターになりました。結局、作者視点で見ればマウス隊で地道に情報収集でもさせておくのが一番無難というのが悔しいです。
まあ、彼女が本気を出す場面っていうのは、マウス隊が滅茶苦茶ピンチになるっていうことですけど……。(黒)
あ、ちなみにセシルの目が細まったら本気モードだと思ってください。

さて、長い長い先遣艦隊救援戦も、ついに次回でラストです。
そして、キラ達にはまた一つ、選択肢が生まれます。
果たして、キラ達はどんな道を選ぶのか……?
次回に続くよ?

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

追記
こんな原作追体験みたいな退屈なパート、さっさと終わらせろ?
早く、血みどろで、容赦なく、ひたすらに人的資源を消費する戦いが見たい?
主人公でもなんでもない、それでもそれぞれの願いを抱えた人間達の戦争をよこせ?
安心しろ、安心しろよ。

もう少しで、地獄の「第2次ビクトリア攻防戦」です。

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