機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
セシル「情熱無き作品は、尽くが画竜点睛よ」

ラクスの処遇とかビクトリア基地攻防戦のプロットを考えていたら、更新が遅れてしまったぞ……。
これからは本格的に週1投稿になるかも?


第31話「ターニングポイント」

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"アークエンジェル" 艦橋

 

それは偶然であり、現在の”アークエンジェル”が待ち望んでいたものでもあった。

 

「……ん?艦長!連合軍の通信周波数に該当する通信が、暗号発信されています!これは……第八艦隊所属艦のものです!」

 

”アークエンジェル”の通信士を担当するロメロ・パルからの報告を聞き、マリューの顔は驚きと喜びが混じったものになる。

 

「本当!?」

 

「はい!”ヴァスコ・ダ・ガマ”にも知らせます!」

 

<その必要はない。こちらでも捉えたからな。発信されている方角を特定しろ>

 

現在は”ヴァスコ・ダ・ガマ”にて業務に取り組んでいるユージがモニターに映り、発信源の特定を急がせようとする。それも当然だ。発信源の方角へ進んでいけば通信をもっと鮮明に行えるようになるし、味方と合流することも出来るのだから。

 

<……ザザッちら、第八か……”モントゴ”……”ークエンジェ”……答せザザッ……>

 

パルは発信源の方角を特定すると、通信をより鮮明に聞けるように試みる。

そこから聞き取れた内容は断片的だが、それだけでも十分わかることがある。───ついに、正式な救援と合流出来るのだ。

物資は先日”ユニウス・セブン”から補給できたとはいえ、限りはある。だが、第八艦隊から正式に派遣されてきたということは、救援のための物資も当然持ってきているだろう。

 

<ふむ……聞き取れた内容から察するに、おそらく救援艦には”モントゴメリ”が来ているのだろう。とすると、指揮官はコープマン大佐か。やれやれ、ようやく肩の荷が下ろせそうだよ>

 

「中佐……お疲れ様です。色々と」

 

<はは、ありがとう大尉。”アークエンジェル”、”ヴァスコ・ダ・ガマ”、”コロンブス”は”モントゴメリ”を初めとする救援艦隊との合流を目指す!>

 

「はっ!」

 

突如もたらされた福音に、沸き立つ隊員達。それもそのはず、これでやっと予断を許さない状況から解放され、安全に基地までたどり着くことが出来るのだから。

しかし、顔では他の皆と同じように喜んでいるユージだが、その内心は穏やかではなかった。

それもそのはず、もしも運命の強制力だとか何かが働いているなら、先遣艦隊と合流するよりも先に先遣艦隊はZAFTと戦闘になるのだ。しかも、その内1機はアスランの駆る”イージス”。

キラ達の奮戦も空しく先遣艦隊は全滅し、”モントゴメリ”に乗艦していたジョージ・アルスターも死亡。そして、父の死を受けてフレイの精神が段々と歪んでいく……というのが、本来の筋書きだ。

その時は”イージス”を含めてもMSの数は4機、ラウの機体を含めても5機程度がいいところだったので、現在の”マウス隊”の戦力だけでも太刀打ちできる。

というかアスランやラウの存在が問題なのであって、この世界の連合では、既に艦隊で行動する時は必ずMS隊を乗せた輸送艦が1隻は編成に組み込まれるのが当たり前になっている。

”マウス隊”で一部の突出した戦力を抑え、その間に他の”ジン”等を袋だたき。それが理想的ではあった。

 

(そう上手くはいかないんだろうな……)

 

ユージは、次の戦いにおいてZAFTが原作通りの戦力で掛かってきてくれるとは思っていなかった。

理由として、連合宇宙軍が艦隊で行動する時はMS隊が必ずセットだということをZAFTも知っていることが挙げられる。ラクスの捜索にしたって、必ずそれなりの戦力を揃えてくるはずだ。

それに、あのラウが原作通りの戦力で攻撃を仕掛けるだろうか?

そこまで考えたところで、ユージは思考を中断した。

全ては憶測だ。『来るかもしれない敵』におびえているようでは、指揮官失格ではないか。

今は、出来る事をやる。そう決めたユージは、コープマンに提出するための報告書を作り始めた。

 

「出来れば、仕事の負担が減ってくれたらいいんだけどなぁ……」

 

それだけは、切実な願いであった。

 

 

 

 

 

”アークエンジェル” 格納庫

 

「本当ですか!?」

 

「うん。この分なら、明日にでも合流出来そうだって」

 

格納庫で”ストライク”の整備を手伝っていたキラは、カシンから教えられた吉報に顔をほころばせる。これでようやく一息つけるというものだ。嬉しくない訳がない。

ちなみに、セシルと話し合った翌日にキラはカシンと和解している。

 

「ふへぇ……これで、連日の偵察発進から解放されるんですねぇ」

 

セシルも”ストライク”の近くまで寄ってきて、会話に混ざる。

実は彼女は、ここ数日でもっともMSで出撃した人物でもある。なにせ彼女の乗機は”EWACテスター”。偵察にはぴったりな機体であった。

普段からどちらかというと非活動的な彼女には堪える作業だったようで、出撃の度に気怠そうにMSに乗り込むのは見慣れた光景となっている。

 

「これで、キラ君が”ストライク”に乗って戦うこともなくなるといいんだけどね。救援ってことは、物資も積んできているだろうし」

 

「そうですねぇ。物資を調達する必要は無くなるでしょうしぃ、艦隊で来ているらしいですからMS隊も編成に組み込まれているでしょう。流石にそんな状況では、ZAFTも手を出してこないと思いますよぉ」

 

「……」

 

キラはその会話を聞いている内に、複雑な気分になっていた。

ユージが言っていたように、たしかに先遣艦隊と合流すれば艦隊の安全性は増し、自分が出撃することはなくなるだろう。そして『セフィロト』という場所にたどり着けば、晴れて自分達は自由の身というわけだ。

しかし、彼女達は戦い続けるのだろう。彼女達には戦う理由があって、自分には戦う理由がない。そのことが引っかかっていた。

自分達は安全な場所で、”ヘリオポリス”で平気な顔をして日々を過ごしていた。今だって、あの時間に戻りたいと思う気持ちはある。

だが、「このままでよいのだろうか?」という気持ちが芽生えているのも事実だ。何かを出来るだけの力があるのに、このまま引き下がってもいいのか?

そこまで考えたところで、頭を振る。何をバカなことを考えているのだ、自分は。これではまるで、自分から戦いたがっているようじゃないか。

 

「どうかしましたかぁ、キラ君?」

 

その様子を目に捉えたのは、セシル。彼女はキラの悩ましげな姿を見て、心配していた。

 

「い、いえ。なんでもないです。たぶん、疲れがどっと出てきたんだと思います」

 

「……本当?」

 

カシンの声には、どこかキラを疑うような気持ちが込められているような気がする、しかし、キラはいつもと変わらないように振る舞う。

 

「はい、大丈夫です。そういえば、そろそろ良い時間なので食堂に行きたいんですけど、いいですか?」

 

「良いと思いますよぉ?私達はもう少しこちらで作業してからいきますけど」

 

「うん、そうだね。私達はもう少し……。キラ君、無理はしないでね?何か悩みとかあったら、聞くから」

 

「ありがとうございます、カシンさん」

 

そういってキラはその場を離れ、食堂へ向かっていく。心の内に、密かな悩みを抱えたまま。

そういえば、と一人の男性のことを思い出す。カシンやセシルと同じ、“マウス隊”のエースパイロット。温和で、自分から戦いに出ていくようには到底思えない人。

 

(アイザックさんは、どうして戦っているんだろう……)

 

結局、それも聞けないままで終わるのだろう。というか、終わって欲しい。

キラはなんとなく、アイザックの戦う理由を聞いてしまったら、もう自分は後戻りが出来ないような気がしていた。

 

 

 

 

 

2/7

”ヴァスコ・ダ・ガマ” 艦橋

 

特に何事もなく、翌日を迎えた一行。艦橋に、先遣艦隊からの通信が入る。

<本艦隊のランデブーポイントへの到着予定時刻は予定通り。合流後”アークエンジェル”、”ヴァスコ・ダ・ガマ”、”コロンブス”は本艦の指揮下に入り、本隊との合流地点へ向かう。あとわずかだ、無事の健闘を祈る>

 

モニターには、”モントゴメリ”艦長であるコープマンの姿が映っている。

これには、”アークエンジェル”だけでなく”マウス隊”指揮下の人員も顔をほころばせた。これで、このトラブル珍道中もお終いだ。

特にマリューとユージは、これで艦隊のトップに立つ苦しみから解放されるとして、ホッと息をついたり肩を回したりしている。

 

<ムラマツ中佐、君たちが”ヘリオポリス”に向かったと聞いた時には、不躾かもしれないが『またか』と思ったものだよ>

 

「言わないでください大佐。自分も、そろそろ”マウス隊”がトラブルの邪神かなにかに呪われているのではないかと考え始めたくらいなのです」

 

<ははっ、それはすまないな。そういえば、君たちを救援するのもこれで2度目だったか>

 

「ええ。あの時も今も、助けられっぱなしですよ」

 

モニターで行われるユージとコープマンの会話を聞いて、両者の間にはこれまでも関わりがあったのだろうことがうかがえる。

ユージは『あの時』、つまりクルーゼ隊との突然の戦闘が起きた時を思い出す。

装備も練度も、今より低質だった。それでもなんとか戦い続けたから、彼らの救援が間に合ったのだ。

そして、今度は立場が逆転することになるのだろう。もしもこの世界が運命通りに進もうとしているなら、既にラウ達ZAFT艦隊は先遣艦隊の存在をキャッチしている。しかし誰も気付いていない以上は、いくら自分が「ZAFTに見つかっている」と言ったところで怪訝そうな顔をされるのがオチだ。

 

<大西洋連邦事務次官、ジョージ・アルスターだ。まずは民間人の救助に尽力してくれた事に例を言いたい>

 

”モントゴメリ”側のモニターに、別の人間が映り込む。

ジョージ・アルスター。フレイ・アルスターの父親であり、”ブルーコスモス”に所属する人間でもある。彼の死をきっかけにフレイの精神は歪んでいき、やがてキラを救いながらも苦しめていくことになる。

もしも彼が死ぬ、つまり”モントゴメリ”が沈むようなことがあれば、ナタルはラクスを人質にその場を切り抜けようとするだろう。そうなれば、キラは必ずラクスをZAFTに返そうとする。

そうなれば連合が『人質』という非道を行なった事がプラントに知られ、プラント主戦派の勢力が増すことになる。つまり、長期的に見れば不利になってしまうのだ。

心情的にも、軍政的にもやりたくはない。だが、現状を打開出来る有効な手はほとんどない。ついでに言うなら、戦闘が起きるかどうかも定かでは無い。

原作通りに娘を心配するジョージの姿を見ながら、ユージは内心で悩みを抱え続けるのだった。

 

 

 

 

 

ユージの葛藤は、ある意味では杞憂に終わっている。しかし、それは悪い方にだが。

既にラウ達は先遣艦隊の存在をキャッチしており、ユージ達との合流を防ぐために動き始めていたのだった。

 

”ヴェサリウス” 艦橋

 

「地球軍の艦隊が、こんなところで何を……?」

 

「『足つき』が月、あるいはL1の宇宙基地に向かおうとしているなら、どうするかな」

 

アデスの戸惑いを含んだ声に、ラウは独り言のように応じる。

このあたりにZAFTの宇宙拠点は存在しない。にも関わらずレーダーに映し出されるのは戦艦を含む4隻による艦隊だ。それだけの戦力でいったい何をするのかと言えば、今考えられるのは一つしかない。

 

「補給……もしくは出迎えの艦隊……と?」

 

「ふむ……今、叩いておくべきだろうな」

 

「我々がですか?しかし、我々は……」

 

アデスは何かを言おうとするが、ラウは手をかざしてそれを制する。

 

「たしかに、我々の目的はラクス嬢の捜索だ。しかしここで奴らを見逃せばいずれ『足つき』と合流され、今度こそ手出しは出来なくなる。未だに合流出来ていない今だからこそ、それを許さずに一気に仕留めるべきだ。それに……私も後世、歴史家に笑われたくはないからな。全艦に告げる。我々はこれより、敵艦隊への攻撃を行なう。総員、戦闘配置に付け」

 

ラウの命令を聞き、現在ラウが指揮を執る全艦隊が戦闘態勢を取っていく。

”ナスカ”級高速MS駆逐艦2隻に”ローラシア”級MSフリゲート3隻。少し前までは過剰過ぎると言える戦力であったが、連合軍にMSが配備され始めて数ヶ月が経つ現状では、絶対の自信を持つことは難しくなってしまっていた。

”アークエンジェル”と合流される前に潰すことが出来なければ、その優位は覆される。

 

「目に付いたものには、何事も早く対応するべきなのだよ。それが虎であっても、子猫であってもな」

 

 

 

 

 

”アークエンジェル”艦橋

 

「レーダーに艦影4,捕捉!”モントゴメリ”、”バーナード”、”ロー”、”ネオショー”です!」

 

”アークエンジェル”の艦橋に笑顔があふれるが、パルの顔が怪訝そうになっていくのをマリューは見逃さなかった。

 

「これは……」

 

「どうしたの?」

 

「───Nジャマーです!一帯に干渉を受けています!」

 

冷や水でも浴びせられたかのように静まりかえる艦橋。

無理も無い。その一報が知らせることは一つだけ。───先遣艦隊は、見つかったのだ。

”モントゴメリ”側で得られた、接近するMSのデータが”アークエンジェル”でも映し出される。

 

「な……何だよ、これ!?”ジン”タイプが20、いや24!“シグー”が4、それに……X303”イージス”!?」

 

『えぇっ!?』

 

その報告を聞き、誰もが驚愕する。”ジン”の数もそうだが、敵の中に”イージス”が混ざっていることも彼らの驚愕を助長していた。

ということは、敵の中にはあの”ナスカ”級も混ざっているのか!?”ヘリオポリス”からこちらまで、散々痛い目に遭わされてきた相手だ。忘れる方が難しい。

 

「”モントゴメリ”より入電!『ランデブーは中止、”アークエンジェル”を初めとする艦隊は反転離脱』とのことです!」

 

「けど、あの艦には……!」

 

サイがCICで声を挙げる。

そう、あの艦にはフレイの父親であるジョージ・アルスターも乗っているのだ。ここで離脱するということは、彼を見捨てなければいけないということだ。

マリューは俯いていたが、即座にユージへと確認を取る。

 

「中佐、どうするべきだと考えますか?」

 

<考えるまでもない。全艦で反転離脱する>

 

「……!?」

 

それはある意味、最も予想外な言葉でもあった。

接した時間は短いが、それでもこの上官が情の深い人物であることはわかる。だからこそマリューは、質問を重ねる。

 

「本当に、良いのですか!?先遣艦隊と合流して戦えば……。それに、今から逃げても逃げ切れる保証もないんですよ!?」

 

「ラミアス艦長!」

 

CICからナタルが非難するような声を掛けてくる。上官の命令に反した言動を採っているのだから当たり前だが、マリューは気にしなかった。

今ここで食い下がらなければ、先遣艦隊は完全に壊滅してしまうのだ。

 

<君の言うことはもっともだ。今から逃げても確実に逃げ切れるとは言えんし、彼らを見捨てることになる。だが、忘れてはいないか?”アークエンジェル”が何を背負っているのか。ああ、”ストライク”や他の”G兵器のことではないぞ?>

 

ユージからの問いかけにマリューは少し考え込み、ハッと気付く。

 

「……!民間人!」

 

<そうだ。これは回避出来る可能性がある戦いで、我々は彼らを守るためにも逃げなければならない。リスクを背負うワケにはいかないんだ。……君なら、どうする?民間人を守る義務と、先遣艦隊との合流。どちらも手に入れたいとなったら?>

 

ユージから、難題に近い問いかけが為される。

逃げなければならない。しかし、先遣艦隊を助けにいきたい。

どうする?どうするどうするどうする!?マリューは必死に頭を巡らせるが、良い考えは浮かばない。

 

<難しく考えるな。我々は一人ではない、使えるものも、”アークエンジェル”一つではない>

 

ユージがこぼしたヒントを聞き、マリューは閃いた。

いや、この上官はこの答えを、あるいはより優れた答えをマリューが出すのを期待していたのではないか?

 

「”コロンブス”……あの艦に民間人を移し、後方で待機させれば、”アークエンジェル”と”ヴァスコ・ダ・ガマ”が動けるようになる」

 

<ああ、それもそうだな。それと……その考えは、意見具申と受け取って良いかな?>

 

「ムラマツ中佐、あなたも先遣艦隊と合流するべきと考えるのですか!?」

 

<バジルール少尉、より安全な方ばかりを進んでもそれが最適とは限らない。そういうこともあるんだよ。全艦に通達!これより本艦隊は、先遣隊援護に向かう!非戦闘員を”コロンブス”に移乗させろ!”コロンブス”は後方で待機!……もしもの時は、そちらの判断で艦を動かすことを認める>

 

ユージの号令に合わせて、艦隊が慌ただしくなっていく。

長いようで短い旅路も、ここでターニングポイントを迎えることとなる。そこを生き残れるかどうかは、自分達次第。

そして、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

戦闘宙域

 

”モントゴメリ”を初めとする先遣艦隊は、突然の会敵にもかかわらず迅速に戦闘態勢を整えていく。

我らは栄光ある第八艦隊。そして、ハルバートン提督に”アークエンジェル”救援を任されたのだ。日頃の訓練の成果、今こそ見せる時。

たとえこの戦いが死地に赴くものだったとしても、逃がした希望はいつかの未来、連合軍に希望をもたらすことになるのだ。

”モントゴメリ”や”バーナード”、”ロー”からは、内部に格納していたMA隊や外部に係留していた”メビウス”隊、合わせて14機が発進する。

 

<進路クリア。アルファ小隊、ベータ小隊、順次に発進してください>

 

<了解。アルファ小隊、出るぞ!ZAFTの連中に一泡吹かせてやる!>

 

<ベータ小隊、同じく了解。発進する>

 

そして、本来の歴史では存在しなかった筈の”コーネリアス”級輸送艦、”ネオショー”からは、合計8機のMSが発進していく。

現在の連合宇宙軍には、元々MSを運用するために開発された軍艦が”アークエンジェル”しか存在していない。そのため、複数の艦艇で行動する際には必ずMSを運用出来るようにした輸送艦が最低1隻は編成されるようになったのだ。

といっても、連合の艦隊運営の基本コンセプトから離れたものでは無い。もともと、MA母艦である”アガメムノン”級が担当していたポジションにMS搭載艦が代わって配置されただけなのだから。

MS部隊の構成は、通常の”テスター”4機と、その砲戦仕様である”キャノンD”4機による2個小隊。”テスター”が前衛を担当して”キャノンD”を護衛し、”キャノンD”は”テスター”を援護するコンセプトに基づいて構成された部隊だ。

この戦法が構築されたのには、”マウス隊”を初めとするMS試験運用部隊による『ある結論』が深く関わっている。

それは、『どうやっても過半数のナチュラルは、近接戦においてコーディネイターに敵わない』ということだ。

エドワードやモーガン、レナといった優れたパイロットはともかくとしても、やはりナチュラルとコーディネイターの間に存在する基本能力の差は埋めようもない。

そうして構築されたのが、『相手がその基本能力の高さを発揮出来ないように、射撃戦と連携を徹底した集団戦を行なう』ための戦術。

離れた位置から一方的に相手を叩き、能力を発揮する前に殲滅する。それが現在の連合のMS戦術であった。

今回出撃した”テスター”小隊は全機、通常の基本装備以外にも左手に持っている武装があった。

『6連装ボックスロケットランチャー』。この装備は”テスター”の実戦投入が決定してから間もなく開発された装備であり、無誘導ロケット弾を6発まで発射することの出来る武装だ。

対MS用というよりはどちらかというと対艦用のこの装備だが、これから行なわれる行動には必要なのだ。使い終わったあとは投棄されることになっている。

 

「コープマン艦長、全部隊、配置に就きました!」

 

「よし、そのままで待機だ。最大まで引きつけろ」

 

通信士からの報告を聞き、コープマンは今準備している行動の『次』を考え始める。この程度で優位に立てるようなら、既に連合はMS無しでも戦争に勝利しているのだから。

どうあがいても、この数的不利は覆しがたい。”アークエンジェル”と合流しても、それで確実に勝てるかと言われると答えには困る。

コープマンが思考を巡らせていると、隣からがなり立てる声が響く。パニック状態に陥ったジョージの声だ。

 

「か、艦長!”アークエンジェル”と合流しなくてよいのかね!?たしかあちらには、”マウス隊”もいるのだろう!?」

 

これだ。

娘恋しさに権力を振りかざして強引に乗り込み、挙げ句ピンチになったら騒ぎ立てる。

これだから素人を艦にのせたくなかったのだ。

 

「彼らがここに来ても、確実に戦局を打開出来るとは思えません。最悪、あの艦も沈められるかもしれない。そうなれば、ここまで来て結果を悪化させるだけで終わってしまいます」

 

「だが!」

 

「ご心配なく。万が一の時は、脱出艇を用意させていただきます。そうなればあとは……あちらに脱出艇を打ち落とすような狂人がいないことを祈るだけですな」

 

「そんな……」

 

「艦長、敵MS隊が有効射程圏内に到達するまで、カウント10を切りました!」

 

「了解した。総員、攻撃態勢!」

 

コープマンの号令を聞き、全隊が敵が迫ってくる方向へ武装を構えていく。

コープマンは右手を挙げ、その時を待つ。

 

「カウント……3、2、1」

 

「発射!」

 

右手が振り下ろされると、MSやMA、そして”モントゴメリ”、”バーナード”、”ロー”。

戦闘能力を持つあらゆる艦から、ミサイルが発射されていく。

全部隊による非誘導ミサイルの一斉射。それは違うこと無く敵MS部隊へと向かっていく。

そしてそれが、この戦いの火蓋を切ることになった。




めちゃくちゃ難産でした☆
更新遅れて申し訳ありません……なんて言うと思ったか!元々「週Ⅰ投稿が目標」と明記してあるんだ!だから私は謝らない!

イキリおふざけはこれまでにして、実際リアルが忙しくなっているんですよね。これまでのような連日投稿は難しいと思います。
ですが、ご安心ください。元々加速していたペースが本来の速度に戻るだけです。失踪だけは石にかじりついてでもしませんので、あしからず。

それと、劇中で登場した「6連装ボックスミサイルランチャー」ですが、イメージはまんま陸戦型ガンダムが持ってるあれです。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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