機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
ガンダム・バルバトス「呼ばれた」
グレイズ・リッター「気がする」

君で大気圏降下するようなしないようなガンダム、はっじまーるよー。


第21話「カオシュン攻防戦」後編

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カオシュン宇宙港 基地司令部

 

「第18ミサイル発射装置、大破!」

「港湾防衛用機雷、残数15%を切りました!」

「第4対空砲座、沈黙!司令、これでは……!」

 

その場所では、様々な悲観的な情報が通信士達から放たれていた。

カオシュン宇宙港では、朝の8時から再開されたZAFTからの攻撃に対して、防衛行動を行っていた。

しかし、敵の行動パターンの変化、また、基地から北側に敷かれた『台南防衛線』に敵部隊が確認され、そこにモーガン・シュバリエを派遣したことなどから苦戦を強いられていた。

敵は戦力の逐次投入を反省したのか、昨日のようにMSが無尽蔵かと錯覚させる程には湧いてこなかった。その変わりに、敵の動きが見るからに変わった。

水中戦MSの動きはほぼ変わらないが、”ディン”によって構成される空戦部隊の動きが見るからによくなった。傍受出来た通信の内容から「モラシム」という単語が聞き取られたことから、この「カオシュン攻防戦」に、かの『紅海の鯱』が参戦した、あるいはしていたという事が防衛部隊に知られることとなった。

マルコ・モラシム、普段は紅海やインド洋などで活動しているZAFTの隊長格。その活躍振りは敵対勢力である連合内においても注視されている。

司令部からではどこにモラシムがいるかはわからなかったが、今日になっての敵の行動パターンの変化、空戦部隊の統率力強化などから、前線に出てきていることは間違いないと思われた。

連合側でモラシムに対抗出来るやもしれない前線指揮官といえばモーガンくらいだが、当の本人は台南にて戦闘中、とてもこちらに戻ってこれる状況ではない。

これはモーガンを北に向かわせてしまった司令部のミス、ではない。()()()()()()()()()()()のだ、少数の手勢で北からの別働隊を抑えられる指揮官は。

カオシュン宇宙港の防衛戦力は既に限界近くまで稼働しており、台南へ向けられる戦力は最小限にしなければならなかった。そこに、モラシムという存在が現れてしまった。個人としてのスキルと指揮官として部隊を有効に動かせる能力を兼ね備えた彼は、かろうじて膠着状態にあった現状を、ZAFT有利に持って行く程の存在だった。”スカイグラスパー”や”スピアヘッド”がモラシムの指揮する”ディン”部隊によって少しずつその数を減らしていき、水中からの侵攻を食い止めていた機雷群もほとんどが処理され、もはやその体を為していない。

加えて、昨日の戦闘では存在しなかった敵がカオシュン宇宙港に牙を剥いていた。

MSを運び続けることに専念していた“ボズゴロフ”級潜水艦が、長距離ミサイルによる攻撃を始めていたのだ。Nジャマーによって誘導兵器が戦場から失われたのは周知されているが、静止目標であるカオシュン宇宙港に打ち込む分には何ら問題とはなっていなかった。次々と、基地の戦力が失われていく。これでは、”スカイグラスパー”隊が母艦を攻撃するよりも先に基地が陥落してしまうだろう。

 

(やはり、”テスター”や”スカイグラスパー”があるだけでは抗えんか。連中の方がMSの扱いに長けているのは当たり前、MSを手に入れて間もない我々では、差を埋めることは出来ていても追い越せるのはまだ先のこと……)

 

だが、敵の損害も相当なものとなっているだろう。ならばそれは、これまでの戦いが決して無意味なものではないということだ。

 

「諦めるな!パッシブソナーを起動して、敵水中戦力への砲撃を開始しろ!それで少しは抑えられる。それと平行して、基地内の全てのデータを破棄、撤収準備を進めろ!───遺憾ながら、当基地を放棄する」

 

「ビンバイ司令、それは!」

 

「これ以上の戦いは、いたずらに被害を拡大させるだけだ!なれば、あとはいかに被害を出さずに戦闘を終わらせるかに掛かってくる。いつか来る反撃の機会のために、皆、屈辱に耐えてくれ……」

 

司令部の中の喧噪が少しだけ収まる。

悔しい。ただ、その感情だけが存在していた。しかし、これ以上打てる手がないのも事実だと、その場の誰もが理解していた。

誰もがビンバイの指示に従って行動し始めようとしたとき、通信士の一人が声を挙げる。

 

「待ってください!当基地の上空に接近する物体有り!これは……シャトルか?」

 

このタイミングでシャトル……?敵か、それとも味方か?誰もがそう思った。

司令部内のメインモニターには、一つの光学映像が映し出されていた。大気圏への突入を完了し、赤熱化していた船体は元の白色を取り戻している。

驚くべきは、そこからだった。なんと、()()()()()()()()()()()()()()が、シャトルの船体から離れ、この基地に向かって落ちてくるではないか!

あれは何だ?MAか?

いや、”テスター”だ!

 

 

 

 

 

あえて言おう、『ガンダム』だ。

 

 

 

 

 

 

「なんだ、あれは?」

 

搭乗している”ディン”のコクピットの中で、モラシムは疑問を口に出す。

突如基地上空に現れたシャトルから飛び降りるように、一機のMSが落ちてきているのだ。IFFで判別する限りでは、味方ではない。つまり、現れたMSは敵だ。

バカな敵だ。今にも基地が陥落しそうなこの状況でたった一機現れたところで、何が出来るというのだ?しかしモラシムの嘲笑は、次の瞬間驚愕に染まることとなる。

現れた二本角のMSは、降下しながらも背中に懸架していた二つの砲を連結し、ZAFT側に撃ってくる。

恐るべきはその威力と精度であり、大気圏突入後かつ自由落下中という不安定な状況からも、”ディン”を瞬く間に落としていくではないか!

慌てて何機かの僚機を迎撃に向かわせたが、今度は連結していた砲を組み替えて強力な散弾砲を発射してくる。迎撃に向かった”ディン”は、この弾幕を突破出来ずに撃破されてしまった。

 

「ば、バカな!?6機の”ディン”が、3分も経たずに?1機のMSに撃破された?そんなバカな話が、あってたまるか!」

 

あり得ない事態を引き起こした二本角のMSに、モラシム自身も向かっていく。

彼にとって、何もかもが許せなかった。

ナチュラルのMSごときに多くの”ディン”が瞬殺されていること。

しかもそのMSが、たった1機でそれを成し遂げたこと。

そんなあり得ない「怪物」が、よりにもよってもう少しで敵基地を押し切れるというタイミングで現れたこと。

過剰なプライドは、現状を正しく認識出来る頭脳を鈍らせていく。あってはならないのだ、このような逆転劇など。

 

「惨めで矮小なナチュラルは、俺達に駆逐されていればいいのだ!この、劣等種共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

しかし二本角のMSは、こちらが撃った弾丸をまったく受け付けない。それどころか、平然とこちらに向けて迎撃のミサイルを肩から撃ち出してくるではないか!?

いったい、どんな装甲を使っているというのだ!?モラシムは驚愕に捕らわれながらも、そのミサイルの回避に専念する。だが、さらに驚くべき事態が起きる。

なんと、今度は二本角のMSがこちらに向かって進んできたのだ。見るからに、空戦用のMSではない。それでもなお、”ディン”以上の加速力で以て自分に向かってくるMSに、モラシムはこの戦争において初めて、敵に対して恐怖を覚えた。

 

「何なんだ、貴様は……。何なんだ、貴様はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

<……こか……>

 

回線が混戦してしまったのか、どこからか若い女の声が聞こえてくる。

 

<……ていけ>

 

「この声は……まさか、目の前のこいつ!?」

 

敵がこちらとの距離を詰めるごとに、通信もハッキリとしてくる。つまりこの声の主は、二本角のMSに乗っているということだ。

『紅海の鯱』が、声からも小娘だと窺い知れるような敵に負ける?

 

「こんな、小娘なんぞにやられるか!俺は、俺はマルコ・モラシムだぞ!」

 

思わず怒声を挙げるモラシムだが、次の瞬間、それを上回る圧を伴った声が響く。

 

<ここから、出て行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!>

 

そうして、二本角のMS、”バスター”に搭乗したカシン・リーは。

『紅海の鯱』、マルコ・モラシムの乗る”ディン”の横っ面を。

”バスター”の重厚な拳を以て殴りつけた。

 

 

 

 

 

「あれは、味方なのか?」

 

「わ、わかりません。IFFには登録されていないMSです」

 

ビンバイが司令部内で驚愕を伴って発した疑問に、答えられる人間はいなかった。

絶体絶命の窮地に陥ったタイミングで現れた謎のMSは、瞬く間に多数の”ディン”を撃破し、さらに手練れ(おそらくモラシムの乗っていたであろう)の”ディン”を殴り飛ばし、現在は基地に向かってスラスターを使って減速しながら降下してくる。

ビンバイとしては、このMSを味方と認めたかった。だが、データベースに登録されていない存在を早急に味方と認定するには、基地司令としてはあまりにもうかつだ。

どうするべきか、と考えている間に、そのMSからの通信が司令部に届く。

 

<カオシュン宇宙港、聞こえますか?こちら、連合宇宙軍第8艦隊所属、カシン・リー少尉です。これより、そちらの防衛任務に加えさせていただきたく思います!>

 

「カシン・リー……リー君なのか?」

 

<ビンバイ司令、お久しぶりです>

 

突如現れたMSが、こちらの増援であることに安堵した司令部。しかし、ビンバイだけが驚愕に染まった表情を見せる。

確かに、最近の活躍具合については聞いていた。『機人婦好』という異名を以て喧伝される彼女を見て、本当にこれは彼女なのか?と疑ったほどだ。それほどに、自分の中の彼女のイメージと食い違っていた。

戦いには向いていない、儚げな女性だったはずだ。このカオシュン宇宙港から月に送り出した時まで、そのイメージが崩れることはなかった。

だが、通信から聞こえてくる声からは、そのような気配は感じない。力強い、戦士の声だ。

 

「いったい、君に何があったと言うんだ?以前までの君と……」

 

<……変わってなど、いません。ただ、出会っただけです>

 

「誰とだね?」

 

<仲間と、です>

 

それを聞いて、ビンバイは薄く笑む。なるほど、そういうことか。

 

「……良い仲間と、巡り会えたようだな」

 

<はい!それでは、迎撃行動に入ります>

 

”バスター”は基地に着地し、そのまま背中の砲を空に向けて発射し、残りの”ディン”や”ジン”を撃破していく。”バスター”の登場によって防衛隊は勢いを取り戻した。”バスター”に続くかのように”陸戦型テスター”が、”リニアガン・タンク”が、”ブルドッグ”が、自走砲台が。

無事な者は総力を以て空から襲い来る敵へ対空砲火を撃ちだしていく。

 

「ふふっ、ここまで諦めなかった我々へ与えられた、救いか何かなのかもな。当基地からの撤退命令は、撤回する。戦女神が、我々の奮闘に応じてくださったようだ。最後まで、決して諦めるな!」

 

基地全体から歓声があがり、みるみるうちに士気が上がっていくのがわかる。

反対にZAFT側では、急激に士気が下がっていた。

突如現れた敵の援軍によって、頼みの綱である『紅海の鯱』の機体を含む多くのMSが撃破された。そこに、息を吹き返したかのような敵からの苛烈な対空弾幕。

残る希望は水中部隊だけだが、元々”グーン”は、地上での運用などほとんど考えられていない。かの機体が最強でいられるのは水中限定であり、陸に上がったところで瞬く間に蜂の巣にされるのがオチだ。この状況を打開出来るとは思えなかった。

加えて、最悪の知らせがZAFT兵達を襲った。長距離ミサイルを発射するために浮上した”ボズゴロフ”級が、そのわずかな隙を敵戦闘機部隊によって突かれ、撃沈してしまったのだ。このままでは勝つどころか、無事に帰投出来るかすら怪しい。

誰もがそう思ったところで、沖合から信号弾が上空に打ち出されたのが見えた。”テグレチャフ”からの信号弾だ。その意味は、「撤退」。

普段ならば、ここまで攻め込んでおきながら撤退など、と言って戦闘を継続する馬鹿者もいる。しかし、この時ばかりは全員、おとなしく、かつ速やかに撤退を開始した。

今の自分達で、あの基地を、いや、あの二本角を落とせる気がしなかったのだ。

この敗戦を機にZAFT地上軍の意識は少しずつ変化し始め、それぞれの戦場における行動に慎重さが増したのは、言うまでもないことだった。

 

 

 

 

 

「包帯もってこーい!」

「こっちに何人かよこしてくれ!瓦礫を撤去したいんだ」

「警戒怠るな!」

 

戦闘終了後のカオシュン宇宙港では、至る所で慌ただしく復旧作業が行われていた。なんとか敵からの攻撃は耐えきったとはいえ、被害は甚大だ。祝勝会を開くには、あまり余裕はなかった。だが、彼らの顔にそれほど陰りは見られない。激闘の末に、勝ち取った勝利だ。嬉しくないはずがない。

その中にたたずむ”バスター”を見つめる目は多い。この機体の参戦によって、一気に戦況が好転したのだ。しかも、ここを救援するために単機で大気圏突入をこなしてみせたのだという。機体自体にも、そのパイロットに対しても。興味津々だった。

やがて、”バスター”のコクピットハッチが開く。そこから顔を出した人物は、ヘルメットを取っていたことも相まって、多くの人間にその顔をよく記憶されることとなる。

鮮やかな黒髪、穏やかそうな表情、すらりとした体躯。

 

「め、女神だ……」

 

誰からともなく、そんな声が挙がった。しかし、それを茶化す者は誰もいなかった。

皆、見とれていたのだ。あれだけの敵を落としてみせたMSのパイロットの、素顔に。その姿に。

宗教の権威が失墜したこのC.Eにおいてなお、そう評するに値する。今日このとき、窮地にあったこの基地を救ってみせたのだ。矮小かつ浅慮な自分達に、『女神』以外にどう評することが出来るというのか。

遠くから、MSを乗せたトレーラーが数台、基地に向かってくるのも見える。そこに乗せられたボロボロの”陸戦型テスター”の上では、”バスター”に向かって手を振る壮年の男性。モーガン・シュバリエが無事に帰還したのだ。

彼は少数の手勢を率いて敵陸上戦艦への奇襲を敢行し、これを撃破。基地の北部から襲い来るZAFT別働隊を見事に撤退へと追い込み、生還したのだ。

もちろん無傷とはいかずに、彼の乗っていたMSは左腕を損傷している。それでも、少数で敵MS部隊と戦艦を追い払って見せた手腕は、今後、連合・ZAFT問わず評価されることになる。

 

この『カオシュン攻防戦』の結果を聞いた者達の感想は様々だ。

この調子でいけば、当初の想定通り連合の勝利で終わるだろう。

いや、ZAFTはこの敗戦で自らを鑑み、更なる戦力向上を果たすはずだ。

様々な意見が飛び交うこととなるが、どれだけ立場の異なる者同士であっても共通していることが一つあった。

それは、『これからの戦いは一層激しくなるだろう』、ということだ。

 

 

 

 

 

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”コロンブス” ハンガー

 

「カシン、無事に降下に成功したそうですよ。それだけでなく、大戦果を挙げたとか」

 

「彼女と”バスター”ならば、出来るだろうとは思っていたよ」

 

そこでは、ユージとマヤが会話を(おこな)っていた。その内容は、単独で地球に降下して、カオシュン宇宙港の救援に駆けつけることに成功したカシンについてのものだった。マヤは見るからに、疲労困憊といった様子だ。

 

「君や他のメカニック・研究員にも、大分苦労させてしまったようだな」

 

「まったくですよ。まさか”バスター”を、大気圏突入用に”メネラオス”に積まれていたシャトルの上に乗せて、大気圏突入させるなんて」

 

カシンの要望に応えるためにユージが導き出した結論は、つまりそういうことだった。

原作でもヘリオポリスからの避難民を乗せて地球に降下するはずだったシャトルだが、今回の作戦において万が一を想定してメネラオスに積まれていたことを思い出したユージは、そのシャトルをハルバートンから許可を得た上で”バスター”をその上に乗せて、大気圏突入を行わせたのだった。

宇宙世紀を舞台とした『機動戦士Zガンダム』でも、ガンダムMarkⅡがフライングアーマーという大気圏突入用の装備を用いて、無事に地球に降下することに成功している。ユージは、シャトルをそのフライングアーマーに見立てて行動したわけだ。なお、シャトルは自動操縦で海に着水した後に回収されることになっている。

 

「シャトルを用いた大気圏突入用の、姿勢制御プログラム。”バスター”への可能な限りの耐熱処理。加えて、パイロット保護のための装置を緊急でコクピット内に取り付ける作業……。これは、ボーナスを期待しても、いいですかね?」

 

「あいにく私は君の給料を差配出来る立場にはいないが、今回の功績はきちんとハルバートン提督に報告しておくよ」

 

「それは、重畳……」

 

そういって、マヤは居住区の方に向かっていってしまった。上官への礼を失するほどに、疲れ果てているようだ。無理を言った自覚もあるため、苦笑を以て見送る。

どちらにしても、この後は否が応でも苦労を重ねることになるのだ。ならば、今のうちにこれくらいの修羅場は経験してもらっていた方がいいと言えなくもない。

一連の戦いで、”デュエル”と”バスター”の性能はZAFTに知られることになってしまっただろう。今後は敵も、どんどん新型MSを投入してくるはずだ。それに対抗するためにも、”マウス隊”も更なる力を手に入れる必要があるわけだ。

「原作開始」と想定している時期も、もはや目と鼻の先まで迫っている。目下のところ重要視するべきは、ヘリオポリス襲撃なのだが……。

そこまで考えたところで、アイザックとセシルの会話が聞こえてくる。

 

「本当に、大気圏突入しちゃいましたよぉ、カシンさん……」

 

「それどころか、速報だとあの『紅海の鯱』も退けたらしいよ。流石、カシンだね」

 

「カシンさんもそうですけどぉ……。すごいですねぇ、”バスター”も。あんな方法で大気圏突入したMSなんて、多分あの機体が初ですよぉ。”デュエル”でも出来ますかねぇ?」

 

「多分、出来ると思うよ。なんて言ったって、『ガンダム』だからね」

 

その会話、否、アイザックの漏らした一言を聞いて、ユージはドキリとしたのを自覚する。

その単語を、なぜ?

 

「アイク、その、『ガンダム』というのは……?」

 

「あ、隊長。えっと、『ガンダム』というのは、その……」

 

「”デュエル”、”バスター”に搭載されているOSが、General Unilateral Neuro-Link Dispersive Autonomic Maneuver Synthesis System、というんですけど。その頭文字をつなげたら『ガンダム』って読めるんですよぉ。多分、『G』用のOSなんでしょうけどぉ、なんだかそっちの方がかっこいいかなぁって皆で意気投合して、それ以降は、ですぅ」

 

「つまり、あだ名か……?」

 

「えっと、そうですね。そうなります。”デュエルガンダム”、“バスターガンダム”という風に」

 

それを聞いて、ユージはうつむく。何か気に入らないことでもあったかと、アイザック達はおそるおそる声をかける。

 

「あの、隊長……?」

 

「……ふふふ、ふはははははははは!そうか、そうか!『ガンダム』、か!」

 

今度はいきなり笑い出すユージに、アイザックだけでなく近くにいる全員が訝かしむ。いったい、何がそんなに琴線に触れたのだろうか?

 

「なるほど、『ガンダム』か。大いに結構!」

 

「あの、何かお気に召したのですかぁ?」

 

「気にするな、セシル。ただ、そうだな。『ガンダム』、格好良いじゃないか。そう思っただけだよ」

 

「はぁ……」

 

そして、彼にしては珍しく満面の笑みでその場を離れるユージ。

この珍百景以降、”マウス隊”メンバーの中では、「『ガンダム』にどういう意味があるのか?」という議論が繰り広げられるようになったとか。

 

 

 

 

 

ユージが笑い出したのは、そう難しい理由があるわけではない。

本来のC.Eにおいて、『ガンダム』の名を持つ機体はただ一機を除いて存在しない。それは単純に、セシルが説明したように、OSの頭文字を取って『ガンダム』、という程度の意義しか持たず、個人間で通じるあだ名でしかなかった。

ユージがSEEDシリーズにおいて、明確に不満を抱いていた点である。せっかく『ガンダム』なのだから、もっとその名が出ても良いじゃ無いか、とかつての彼は考えていた。

だが、しかし。こうして、”デュエル”や”バスター”を『ガンダム』と他者が呼ぶ光景を見て、彼は改めて実感したのだ。

この世界は、『ガンダム』なのだと。子供のころに憧れていた、『ガンダム』が存在する世界を、今、自分は生きているのだ。

それが嬉しいような、悲しいような。ユージが笑っていたのは、その感情を上手く他に吐き出すことが出来なかったから。

とりあえず、笑うことにしたのだ。

 

 

 

 

 

そして、少しの時が過ぎ。

C.E71、1/25。物語が、始まる。

その発芽した『芽』が、どのような成長を遂げるのか。




ということで、カオシュン攻防戦、終了です!
次回は番外編を一つ挟んでから、「原作」に”マウス隊”を参戦させたいと思います。野望シリーズの名を冠していながら要素が薄めな本作ですが、最後までお付き合いいただければと思います。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

P.S
活動報告を更新しました。暇だったら覗いていってみてください。

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