機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

20 / 133
前回のあらすじ
作者「(自分が)無知すぎるwww恥ずか死ぬンゴwww」

カオシュンから見て東は山脈と知らなかったワイ、感想欄でそのことを突っ込まれて無事死亡。敵陸上艦隊のやってくる方向を東から北にサイレント修正しました。

あと、今更ながら基本設定の追記をば。
パイロットステータスの「空間認識能力」は、所持者に「反応値+2」の恩恵と、ドラグーンのような特殊装備を使用可能とする効果があります。これくらいしないと、クルーゼがキラに瞬殺されてしまう……。


第20話「カオシュン攻防戦」中編

1/15

ZAFT前線基地 司令部

 

「どうなっているんだ、これは!想定をはるかに超えた損害だぞ」

 

「なぜナチュラル共の対空砲火くらいも潜り抜けられない!”グーン”隊もだ!あの程度の機雷原も突破できないのか!」

 

前線を知らないやつらは、()()だから。

”ボズゴロフ”級潜水母艦”デグレチャフ”の艦長は、前線基地の司令部に対して内心苛立ちを覚える。こちらは必死に戦っているというのに、労いの言葉は一つも無し。たしかに自分たちにも責任はあるだろうが、衛星軌道上からの降下部隊がほとんど迎撃されてしまったことに焦って、基地の予備戦力までも逐次投入し続けることを決定したのは誰だ?その愚策によって、未帰還者を多く出したのは?

母艦を基地と往復させたおかげで前線の兵士たちの何人かは、必要な時に潜水艦に帰投することもできず、そのまま撃ち落とされていったというのに、その責任は棚上げにして自分たちにばかり責任を押し付けようとしてくる。

 

「責任の追及は作戦の後でいいだろう!今話すべきは、どのようにカオシュンを落とすかだ!」

 

「そんなことはわかっている!」

 

なるほど、人に歴史あり。

彼らは今まで、連合との戦闘に敗北した経験がないのだ。だからこそ、現状に対応できない。

「ナチュラルなどは劣等種であり、自分たちの敗北はあり得ない」などと考えているのだろうが、”デグレチャフ”艦長から言わせてもらえれば、それはあまりにも幼稚な考えだ。

ZAFTが今まで有利に事を運べた最大の理由は、Nジャマーによる地球側の混乱があったからだ。たとえ”バクゥ”でも、けして無敵などではない。MSが連合に登場する前から、何機かは通常兵器に撃破される事例があったのだ。

強大な地球連合が態勢を整えたなら、これまで通りにうまくいかないことは明白だ。

 

(せめて、戦力の逐次投入だけはやめて欲しいのだが……)

 

艦長がそこまで考えたところで、会話に入ってくる人間がいる。その男は呆れと嘲りと自信を浮かべた顔で、この場に存在する全員に告げる。

 

「ナチュラルの基地一つ攻略出来ないとは、貴様らそれでもZAFTの一員か?だが、俺が来たからには安心さ」

 

「マルコ・モラシム……!」

 

そこに現れたのは、『紅海の鯱』の異名を持つZAFTのエースであるマルコ・モラシム。()()()の時に備えて、わざわざインド洋から東アジアまで呼び寄せられた彼だが、その()()()の時、つまり遅れてきた彼を引っ張り出さなければならなくなったという事実が、現在の状況を表している。

本来ならZAFTの圧勝を見届けた後にカーペンタリアで休暇を取るはずだった彼は、見るからに不機嫌そうだ。しかし、自分が必要とされる状況の到来自体は歓迎しているようだ。ナチュラルを抹殺する機会は、いくらあってもよいということだろう。

 

「この状況に至ってようやく腰を挙げるんだ。もちろん、何か策はあるんだろうな?」

 

「もちろん。まず、戦力の逐次投入はやめる。いくらナチュラルが矮小だろうが、こちらもそれに付き合ってチマチマ出す必要もない。全力を持って叩き潰す」

 

それくらいなら、誰でも考えつくことだろうがな。

モラシムはそう言うと、こちらの方が本命だと言わんばかりに連々(つらつら)と述べていく。

 

「水中MS部隊は今日と同じく、水中からの攻撃を継続させろ。機雷も無限ではない。

空戦部隊は俺が指揮を執る。小蠅どもの相手は任せろ。

で、肝心の策だ。やつらの基地から見て北側から、”ピートリー級”と”バクゥ”、”ジン・オーカー”部隊を攻め込ませろ。防備の薄くなっている箇所を攻撃すれば、連中は対処の手が追いつかなくなる。そこで生まれた隙を突けば、あとは勝利は目前さ」

 

「陸上戦艦は、”ピートリー”級でいいのか?”レセップス”級は……」

 

「必要なのは、機動力だ。少数精鋭で敵を攪乱し、ジワジワと敵の取れる手段を削っていく。あくまで陸上部隊は、囮なんだからな」

 

「なるほど、それなら少数でも問題ないな!」

 

そのまま会議が進んでいくのを傍目に見ながら、”テグレチャフ”艦長は思う。

 

(いや、普通に考えて一度撤退するべきだろう。今日だけでどれだけの”ディン”を失ったと思っている?”グーン”はほとんど被害は出ていないとは言え、機雷を処理し終えるまでに航空戦力が全滅しない保証がどこにある。一気に攻め落とそうというなら、既に失敗している。だからこその現状だろうに。まさか、敵が他の方向から攻め込まれた時を想定していないと思うのか?たしかに基地周辺よりは規模も小さいだろうが……)

 

しかし、ZAFTは徹底的な実力主義だ。既に失敗した彼らよりも、成功続きのモラシムの方が発言力を持つ。加えて、モラシムは水中だけでなく空中戦においても秀でた能力を持っている。ひょっとしたら、低下した航空戦力の穴を埋めるやもしれないと思わせるくらいには。

とりあえず、『紅海の鯱』の腕を見せてもらうとするか。そう考えながら、”テグレチャフ”艦長は盛り上がる会議を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

1/16

台湾 台南市付近

 

「畜生、嫌な予感ばっかり当たりやがる!」

 

モーガン・シュバリエは絶叫しながら、”陸戦型テスター”にアサルトライフルを撃たせる。

敵は北方から別働隊を攻め込ませる。そう考えたビンバイの采配によって、モーガン機含む4機のMSは、朝方から台南市付近に形成された防衛線に配置された。

そしたら、案の定ZAFTは北方から攻め込んできた。しかしその規模は、”バクゥ”含むMSが2個小隊分、つまり8機と、こちらと比べて2倍というものだった。同じく北部防衛線に配備されていたリニアガン・タンクや戦闘ヘリ、更に自走式リニア砲などと連携することによって持ちこたえているが、如何せん戦力不足であることは否めない。

更に、その後方には”ピートリー”級陸上戦艦が2隻控えている。このままでは、いつ戦線が崩壊してもおかしくない。敵の進軍スピードが芳しくないのは、こちらが前もって陸上戦艦の通るだろうルートに限定して地雷などを埋め込んでいたからに過ぎない。モーガンとしては防衛線全体に地雷を敷き詰めたかったのだが、流石に台南市という市街地も近くにある状況で地雷を多用するのは問題があるという意見があった故に敵の予測侵攻ルートに絞っている。

 

<大尉、敵艦からミサイル多数!>

 

「迎撃!」

 

前線指揮を任されたモーガンの号令に合わせて、味方の陣地から迎撃のための対空砲火が放たれる。しかしそれでも防ぎ切れず、何発かが陣地に着弾した。

 

<このままだと、なぶり殺しにされますよ!基地からの援軍はまだなんですか!?>

 

「来れるならとっくに来てる!だが、未だに敵の潜水母艦の一隻も沈められてねえんだ!”スカイグラスパー”隊が母艦を落とすのを待つ他無い……!」

 

<そんなぁ……!>

 

部下からの情けない声が響くが、モーガンは気にせずに思考を巡らせる。

 

(このまま耐えていても、いずれは突破される。どうにかして敵の進軍を止めるか、撤退させる必要があるな……俺や”マウス隊”の連中だったら問題なく殲滅まで持っていけるが、こいつらにそれを強要するのは馬鹿馬鹿しい。……ん?あの位置は確か……いけるか?)

 

「ツクヨミ1より、全隊!これより30秒後に、スモークディスチャージャー搭載機はありったけのスモーク弾を射出!散布終了後に俺とツクヨミ2・3は敵陸上戦艦『甲』に突撃、敵戦艦を無力化を図る!」

 

<はあ!?狂ったか大尉!>

 

<いくらスモークがあるといっても……!>

 

「ツクヨミ4は、後方より援護射撃!俺が合図したら、ポイントC5にライフルを撃て!」

 

<C5……まさか!?>

 

ツクヨミ4としてモーガンの下で戦っていたナミハは、モーガンのやろうとしていることに気付く。たしかに、()()は今ちょうど良い位置にある。

だが、いくらなんでもむちゃくちゃではないだろうか!?

 

「一応、起動出来るはずだ!……行くぞ!スモーク!」

 

<スモーク散布!ご無事の帰還を、『月下の狂犬』!>

 

「当たり前だ!行くぞ!」

 

<ツクヨミ2、ツクヨミ1に続き突貫する>

 

<ああ、畜生!ツクヨミ3!突撃突撃突撃ぃ!>

 

周辺から一斉に煙幕が吹き出し、連合軍の陣地を圧倒的『白』で覆い隠していく。ZAFT兵達もバカでは無く、様子を窺いながらも動きを止めることはしない。

しかし、その時間が長びくことはなかった。煙が連合の陣地を包んでまもなく、”陸戦型テスター”が3機、後方に控えている“ピートリー”級に向けて突撃を始めたからだ。

ZAFT側もMSの数機は突然の事態にも見事に反応し、迎撃を試みる。しかし3機が飛び出して間もなく、煙の中に残ったナミハや通常兵器の部隊から再開された攻撃に注意を割かねばならなくなり、結果として大した妨害も出来ずにモーガン達の突破を許してしまう。

もちろん、陸上戦艦の直掩に就いていた機体も存在している。そして何より、現在ツクヨミ小隊が突撃を敢行している陸上戦艦からの砲撃が、彼らを襲う。

 

「止まるな、進め進め進め!止まったら死ぬぞぉ!」

 

<くっ……!>

 

<うひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?あた、当たった!ガンって!左肩!>

 

「まだだ、もう少し……よし、今だ!」

 

弾幕を避けきれずに、左肩に被弾するツクヨミ3ことイツキ・ハシモト。彼の悲鳴を聞きながらも、モーガンは何かのタイミングを計っているようだった。

そして、時は訪れた。近くに敵艦からの砲撃が着弾するのも構わずに、モーガンは信号弾を打ち上げる。それを見たナミハは、指定されたポイントをビームスナイパーライフルで打ち抜く。静止目標に当てることくらい、彼女にとっては「お茶の子さいさい」と言えるほど容易いことだ。

ビームが目標地点に着弾した瞬間、大爆発が起きる。そしてその爆発は、その近くに存在していたZAFTの”ピートリー級”陸上戦艦、2隻いる内の『甲』にも及んだ。

モーガンはC5と呼称した位置に地雷が埋まっており、なおかつその地雷の威力も知っていた。敵戦艦が地雷に近づいていることに気付いた彼は、なんとナミハの機体が装備するビームスナイパーライフルの一撃を以て()()()()()()()()()()()()ことで敵戦艦の足を止め、その隙に敵戦艦を無力化するという、あまりにも荒唐無稽な作戦を即断実行してみせたのだ。まさに、『月下の狂犬』たる証明とでも言うべきか。

運悪くエンジン部にその煽りを受けてしまった『甲』は、見るからに動きが鈍くなる。更にこの突然の爆発から、乗員は立ち直っていないようだ。迎撃の弾幕が弱まっている。直掩機も爆発の衝撃で、体勢を崩しているようだ。

 

「今だ!各機、『甲』に対し攻撃!なんとしても無力化しろ!」

 

そう言いながら、さらに敵艦との距離を詰めるモーガン。敵艦は、ここまでスラスターなどを使って全速力で詰めてきたこともあり目前だ。

なんとか体勢を立て直した直掩の”ジン・オーカー”が、モーガン機に向けて銃を向ける。しかし、それよりも先に蜂の巣のようにされて、地面に崩れ落ちる。ツクヨミ2こと、ユウ・アマミがアサルトライフルの連射を浴びせたからだ。

もはや、モーガンを拒む物は存在しない。彼の機体はジャンプして『甲』の艦上に昇り、アサルトライフルを艦橋に突きつける。

 

「残念だったな、小僧共!」

 

 

 

 

 

衛星軌道上 ”コロンブス” ハンガー内

 

「だから、無理だって!」

 

「いくら何でも無茶だカシンちゃん!成功例も無しに……」

 

「お願いします、やらせてください!」

 

そこでは、普段は物静かなカシンが珍しく大きな声を挙げて、整備班に対して何かを要求しているようだった。

既に、衛星軌道上での戦いは終結していた。ZAFTはほとんどの降下部隊を撃破されてしまい、宇宙からのカオシュン宇宙港攻略支援を断念。降下ポッドに搭載されていたMS、占めて36機を連合軍に撃破され、その護衛に当たっていたMSも、18機という数が撃破されてしまっている。なお、そのうち12機は”マウス隊”だけで撃破したものだ。これは別に他の部隊が無能だったという訳では無く、『ガンダム』を所有しかつ、対MS戦闘の経験が豊富な”マウス隊”が敵MS隊との戦闘を率先して引き受けたからであり、”マウス隊”以外のMSも降下ポッドの破壊などで相応に戦果を挙げている。

特にカシンの”バスター”は従来のMSを遙かに上回る長射程かつ高火力な武装を存分に(ふる)い、なんと敵艦9隻の内4隻を撃沈、2隻を中破に追い込んでいる。文句なしの大戦果だ。

それが激戦だったことは明白であり、それ故に、まだ何かをしようとしているカシンに対して注目が集まるのも当たり前だった。

 

「何事?」

 

「あ、マヤ大尉!大尉からも言ってやってください!カシンちゃん、”バスター”でカオシュンに降下したいっていうんです!」

 

「はあっ!?」

 

「地上ではまだ、戦っているんです!カオシュン宇宙港があるのは、東アジア共和国で!モーガンさんも……!」

 

そう、”バスター”がカタログスペックでは大気圏突入可能であることを知った彼女は、あろうことか激戦の後にも関わらず、そのまま”バスター”で地球に降下し、カオシュンの防衛に当たりたいというのだ。

 

「カシン、落ち着きなさい!ユージ隊長も言っていたでしょう、私達に出来るのは支援だけだって!それに、突入出来ると言ったって……」

 

「やらせてください!お願いします!」

 

「何があなたをそこまで動かしているの?普段なら、引き下がるところじゃない」

 

カシンは普段、あまり自分の意思を押し出そうとする人間ではない。基本的に他の人の意見を尊重し、自分はそれをサポートする。それがマヤの知る、カシン・リーだった。だが、今の彼女からはその様子が見られない。

 

「……カオシュンの司令官は、私にとっての恩人なんです。半ば無理矢理入隊させられた軍の中で、コーディネイターの私にもけして差別せずに応対してくれました。今”マウス隊”にいるのも、その人からの推薦があったからです。せめて、実戦から少しでも離れた実験部隊にって……あの人が、ビンバイ中将がいなかったら、私はどこかの戦場に放り出されて死んでいたと思います。だから、私……」

 

「カシン……」

 

「僕からも、お願いしますマヤさん。彼女の願いを……」

 

まさか、アイザックまでカシンを後押しするとは思っていなかった。彼もまた、秩序を重んじるタイプの人間だというのに。

 

「……ああ、もう!それを言うのは私にじゃないでしょう!」

 

叫んで、マヤは小型通信機を取り出す。目当ての人物は他の艦に乗っているが、今は戦闘終了後かつ隣接する艦にいるため、小型の通信機でも会話が通じるのだ。

 

「隊長、聞こえますか!?カシンが単独で地球に降下すると言いだしたんです!」

 

直後、通信機の向こう側から何かを吹き出すような音と<きったね!?><おおー><隊長!?><なんか、とんでもない言葉が聞こえたような?>と、喧々囂々(けんけんごうごう)とする様子が聞こえてくる。少しばかり、タイミングを誤ってしまったようだ。

持ち直したユージに状況を説明した後、マヤは通信機をカシンに渡す。ユージが直接話すようだ。

 

<話は聞いた。……本気か?>

 

「本気です」

 

<いかに”バスター”といえど、所詮はカタログスペックだ。当てにはならん>

 

「絶対に出来ないことは、カタログに書かれません。……たぶん!」

 

<降下ポッドはこちらにはないし、ZAFTの物は全て破壊してしまった。”バスター”のコクピットはさぞ熱くなるだろうな?>

 

「体は丈夫なつもりです」

 

<……君一人がいって、何とかなるのか?>

 

「何もしないより、ずっと良いです。隊長……」

 

<……>

 

通信機の向こうではしばらく、無言が続く。やはり、無理なのだろうか?

しかし、通信機の向こうからユージの声がかすかに聞こえるようになる。断片的に、<提─く。たし──、”メネ──ス”は、───を積ん──したね?>という声が聞こえてくる。内容から察するに、”メネラオス”と通信しているのだろうか?

やがて、ユージの声がハッキリし始める。こちらとの会話を再開するつもりのようだ。

 

<カシン・リー少尉>

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<サーフィンの経験は、あるかね?>

 

「………………はい?」




次で後編、カオシュン決着です。
カオシュン攻防戦の最中に出てきたオリキャラに関しては、後編の後書きで軽く紹介したいと思います。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。