ユージ(オリ主)は、実験部隊の指揮官になった。以上。
7月17日
ユージの意見具申、そして「MS用OSの開発を目的とした実験部隊」の責任者への任命から、3日が経った。
ハルバートンが言っていたとおり、本日の昼にその部隊のメンバー、支給される装備、使用許可が与えられた施設、その他もろもろ、多くの資料が与えられたユージは、自室のデスクで唸っていた。
前世でも役所勤めの地方公務員として働いていたため、書類仕事自体は苦ではない。支給された装備なども、ハルバートンが、予算が限られる中で最大限便宜を図ってくれたことがわかる内容だ。
問題は、これから部下となる隊員についてだ。自分含めて、27人。大まかな内訳はこのようになっている。
隊長 ユージ・ムラマツ 特務少佐
副官 ジョン・ブエラ 中尉
MSパイロット候補生 6名
MS研究・開発スタッフ 15名
通信スタッフ 4名
以上27名で、OSを開発していくわけだ。通信スタッフは、与えられた装備品の一つにマルセイユ三世級輸送艦が有ったため、そちらで働いてもらうことになるだろう、とユージは考える。
副官のジョン・ブエラも、自分が以前所属していたMA隊からの同僚だ。気兼ねする必要はない。
問題はそれ以外のメンバー、つまり、研究員とパイロット候補生だ。
研究員は、各部署から厄介者扱いを受ける変人達ばかりが集められているのが、メンバー表と共に送られてきた総評から見てとれる。エンデュミオン・クレーターの戦いで壊滅した第三艦隊から移籍した者など、別の艦隊からのスタッフもいるが、誰もがため息をついてしまうほどに変人、あるいは狂人揃いだ。
第八艦隊の司令官であるハルバートン自身、連合軍のなかでは変人扱いをされている。まあ、上層部にも好かれてはいないので、まともじゃない面子が配属されやすいのだ。
能力は保証されているのが、救いである。だが、パイロット候補生もまた、くせ者揃いだ。
一人目、エドワード・ハレルソン少尉。
SEED外伝、MSVシリーズでお馴染みの「切り裂きエド」。恐ろしげな異名に似合わず社交性は高く、陽気だが職務には真面目。何の問題もないように見える。
だが、それは彼のことを、なぜ「切り裂きエド」と呼ばれるようになったかを知らない者の評価である。
この男、なんと以前地球でスピアヘッドという戦闘機のパイロットだった際に、なんとMSディンのコックピットを翼で切り裂いたことがあるのである。
適性検査の結果が良好だったこと、常識はずれな行動力を買われて航空部隊からスカウトされてきたのだと言う。能力は間違いなく、人格も良好。彼の名をメンバー表に見た時、普段は物静かなユージがついガッツポーズをしてしまったほどの逸材だ。
二人目、モーガン・シュバリエ中尉。
元々は第八艦隊の所属する「大西洋連邦」ではなく、「ユーラシア連邦」に籍を置いていた戦車乗りだ。
夜間の作戦を好んだこと、また、一見むちゃくちゃに見えるが、高度な予測能力のもとに作戦がたてられていたことから、「月下の狂犬」と呼ばれている。
アフリカで「砂漠の虎」アンドリュー・バルドフェルド率いるMS「バクゥ」の部隊に大敗してから、上官に何度もMS配備を要求した結果、訓練交換士官として厄介払いされてきた彼だが、空間認識能力と呼ばれる資質を持ち、MS戦でも高い戦果を出したエースパイロット。
これもユージは覚えていたので思わず、かの盟主王の如く狂喜しそうになっていた。その後、どんどん胃を痛める情報が飛び込んでくることを知らずに。
三人目と四人目 アイザック・ヒューイ少尉と、カシン・リー曹長。
アイザック少尉は白人の23歳男性だ。勤務態度もよく、模範的な軍人だと言う。適性も良好だ。
カシン曹長も、モーガンと同じように東アジア共和国からの訓練交換士官として大西洋連邦に移ってきたパイロット候補生と記されている。黒髪長髪、ボディラインといった外見もよく、22歳と若い彼女は、男性の多い軍隊では人気が出たであろう。──────普通ならば。
彼らには共通点が一つある。それは、コーディネーター、ということだ。よりにもよってナチュラル至上主義者の多い地球連合軍に入隊してしまうとは、いったいどのような理由があったのだろうか。
原作に登場しなかったいかにも訳アリな人物を見たユージは、「上げて落とす」という言葉を思い出した。そして、そういう予感は当たるのがお約束である。
五人目 セシル・ノマ伍長。
彼女は月都市コペルニクス出身
彼女はナチュラルでありながら、なんとコーディネーターをも上回る計算能力を持ち、いくつかの大会でも優勝するほどの才女である。ここまではいい。
しかし、その実は引きこもりかつ人見知り。悪人ではないが良いことをしようと自分から動くこともないダメ人間らしい。ハイスクールを卒業したその後、本格的に引きこもり始めたとか。
連合に所属しているのも、軍人の父に強制入隊させられたからだという。顔写真のひきつった笑顔がなんとも魅力的(笑)だ。
ユージは、頼むから最後はマトモであってくれと祈りながら、ホチキスで簡単に留められた資料集の、最後のメンバーが記されたページを開く。
6人目 レナ・イメリア中尉
かつてカリフォルニアの士官学校で教官を努めていた女性軍人。原作においても「乱れ桜」の異名を得るほどのエースパイロットとなり、射撃戦を得意としていた。とユージは記憶していた。なんでも、並みのコーディネーターを上回る反射神経の持ち主でもあるとか。
だが、ユージは彼女について、あることを思い出してしまう。
彼女は、弟をコーディネーターとの紛争で失ってしまってから、強くコーディネーターを憎むようになっているということを。
コーディネーターと、それを憎むナチュラルが。
同じ部隊に配属される。
なんとも、ハートフル(hurt full)な職場になりそうだ。
そう考えてからユージは、一時間ほど酒を煽ってからベッドに倒れこんだ。
そうでもなければ、やってられなかった。
寝つきが良かったことだけが、救いだった。
7月21日
プトレマイオス基地、第三会議室。普段は簡単なミーティングが行われているそこは、冷たく、重い雰囲気に包まれていた。
その雰囲気の発生源は、言わずもがなレナ・イメリア。自分の転属してきた部隊に、憎きコーディネーターがいると聞いてから、表情には出ていないが怒り心頭といった様子だ。不運にもそのとなりに座ってしまったセシル・ノマは、胃痛との格闘に精を出していた。
エドワードとモーガンもそのことに気づいていたが、触れたら切れそうなレナの近くからセシルに助け船を出すことが出来る者は、この部屋は愚かプトレマイオス基地内にすらいないだろう。
アイザックとカシンは、レナを刺激しないようにだんまりだ。
唯一この雰囲気に包まれていないのは、後ろ側で熱く、しかし小声で議論している一部の研究者だけだ。
「地球軍のMSの近接武器として、最もふさわしいのはチェーンソーだ!どんな装甲でも『無敵』だけは存在しない!押し込んでいけばいつかは壊せる!」(ボソボソ)
「これだから脳筋は。一度にスパッと切れるバスターソードこそが至高だとなぜ気づかない?それに、バスターソードなら既に対艦刀(シュベルトゲベール)として開発が進んでいるという実績もある。この話は早くも終了ですね」(ボソボソ)
「そんな取り回しが悪い武器が役に立つものか。アックスが一番に決まっているだろう。取り回しと威力を併せ持った最強武器だ」(ボソボソ)
「俺のドリルは、連合に勝利をもたらすドリルだ!」(ボソボソ)
そりゃ、こんなやつらなら左遷されるわな。
おっと失礼、地の文がはいっては興ざめだな。
しばらくすると、会議室のドアを開けて二人の男性が入ってくる。1人はユージ・ムラマツだ。もう1人の男性はどうやら副官のようで、中尉の階級章を身につけている。
そのことに気づいた室内の人々は、ユージに向かって敬礼する。小声で議論していた一部のマッドも、同じく敬礼する。公私は分けられるようだ、ということに安堵しながらユージも敬礼し、メンバーが着席したのを確認してからモニターの会議室のモニター前で話始める。
「初の顔合わせ、という者もいるから、まずは自己紹介といこう。私はユージ・ムラマツ”特務少佐”。君たちが新しく配属されたこの『第08機械化試験部隊』の隊長を務めることになる。こっちはジョン・ブエラ中尉。私の副官だ」
紹介されたジョンは一歩前に出て軽く一礼し、元の位置に戻る。実直そうな人間だという印象を部屋の中にいた人間は感じた。
「質問なども多々あると思うが、まずは我が隊が結成された理由について説明していく。質問はその後だ」
そういうとユージは、会議室のモニターを起動して、一つの画像を見せる。
見間違うはずもない、ZAFTのジンだ。レナの顔がハッキリと歪む。怨敵の操る機動兵器を見て、平静を保てなかったのだろう。
「現在、我ら地球連合軍が戦争状態にある『プラント』の軍事組織、ZAFTでは今画像に写っているジンを始めとして、MSと称される様々な種類の人型機動兵器を戦場に投入している」
モニターに、新たに二体のMSが表示され、それを見たエドワードはにやりと笑い、モーガンは顔をしかめる。翼のついたMSはかつてエドワードが戦闘機の翼で切り裂いてやったMSの純戦闘仕様型であり、四足型のMSは、モーガンがかつて苦渋を飲まされた相手だ。
「空中戦用MSディン、陸戦用MSバクゥ。ニュートロンジャマーによって既存の兵器の多くが役立たずになった戦場で、高い戦果を出し続けているこれらに対抗するために、デュエイン・ハルバートン准将は連合でもMSを運用すべきと考え開発計画を立ち上げ、つい先日、正式に許可が降りた」
モニターに映るZAFTのMSの画像に銃弾が撃ち込まれるようなエフェクトが発生し、『G』の文字が現れる。
「『G計画』。それが現在連合軍内で行われているMS開発プロジェクトの名だ」
はっと息をのむ声がする。自分達が、連合内でも重要度の高い計画に携わることになったことを今知った者が漏らしたものだ。自分達は、連合の反撃の先駆けとなるのだ。
「我々『第08機械化試験部隊』の任務はただ一つ、『G計画』で製造される高性能MSに使われるOS・機動プログラムの開発だ。現在『G計画』で研究が遅れている分野であり、この遅れを取り戻すために、君たちは集められた」
ここまでで何か質問はあるか、とユージが問うと、バッと手が挙げられる。
レナ・イメリアのものだ。
「イメリア中尉、質問を許す」
「ありがとうございます。ではお聞きしますが、なぜ、そのような重大な任務にコーディネーターを参加させているのですか」
「必要だから。ただそれだけだよ中尉」
「そのような重大な任務に敵を参加させるのですか!?」
「おい、レナ中尉・・・・」
レナの怒号が、部屋中に響く。アイザックとカシンはうつむいている。おそらく、以前にもこのような経験があるのだろう。ただひたすら、耐えている。エドはいくら何でもハッキリしすぎだと思い、自分の戦闘機操縦の教官だったレナをいさめようとする。
しかし、今まで見たことのなかったのだろう。彼に似つかわしくない、腰が引けた静止だ。モーガンは、じっと黙っている。この場をどう収集するのか、ユージを見極めようとしているのかもしれない。
「何度でも答えよう。必要だから招集したんだよ中尉。きちんと説明するから、一度座りたまえ」
ユージは静かに言葉を発し、レナも一度叫んだことで冷静さを少し取り戻したのか、おとなしく席に座る。目は鋭いままだが。
「実のことを言うと、ハルバートン准将は極秘にMSの研究を始めさせていた。正式に計画が認可されたのも、その成果を足場とすれば、比較的短期にMS開発を進めることができると上層部に判断されたからだ、と聞いている」
しかし、と一拍置く。
「OS開発は進んでいなかった。ジンに搭載されていたOSが複雑すぎてナチュラルに扱えるものではない、ということに気づいていながらだ。それはなぜか?──────余裕がなかったからだよ。予算も人員も、今以上に少なかったからだ。成果をハッキリ示すために、ハードを優先せざるをえなかった。その遅れが、今影響し始めた。その遅れを取り戻すには、もはや立場がどうのメンツがどうこう、気にしてなどいられない。そうして、『能力があるから集められた』のがこの部隊だ。アイザック少尉とカシン曹長が参加しているのは、そういう理由だからだ」
それを聞いたレナの表情は、「理解はしたが納得はできない」という顔だ。
ユージはため息をつき、話し始める。それは、レナにとって爆弾に近い部分に触れるものだった。
「君に起きた『不幸』については、聞いている。だが、それを軍務に持ち込むのは褒められたものではないな」
「・・・・!不幸、不幸ですって!?あの子が、弟が殺されたことが!?不幸の一言で片付けるの!?」
ついに堪忍袋の緒が切れたレナは、上官に対する無礼も気にせずに声を荒げる。
「『不幸にも』、車にはねられる。『不幸にも』に通り魔に襲われる。他者の手で命を落としたなら、それは例外なく『不幸』だろう。それに一つ、君は勘違いしている」
「私が何を勘違いしていると!?」
「憎しみの向きだよ、中尉」
「・・・・!?」
ユージが何を言ったのか、理解できずにいるレナにユージはさらに語りかける。
「さっきの『不幸』な例で言うなら、事故車の運転手を憎むべきだし。通り魔ならより明確にイメージできるだろう。君の言っていることは、今現在でも気軽に触れられる話題ではないが犯人が黒人だから黒人を憎む、と言っているようなものだ。憎むなとは言わない、だが憎むなら弟を殺した者達を憎むべきだ。何かおかしなことを言っているか?私は」
「しかし、今も彼らは戦争を仕掛けてきています!」
「そうだな、戦争状態だな。『連合とZAFT』が、な。・・・・この際だから皆にも聞いてもらいたい。我々が、何と戦っているのか。どう行動しなければならないのか」
そういってユージは近くに置いてあったボトルに口をつける。ここまで長々としゃべっていたせいで、喉が疲れていた。ボトルから口を離して元の位置に置くと、ユージは部屋にいる全員に向けて話し始める。
「『血のバレンタイン』、『エイプリルフール・クライシス』。被害規模は大きく違うが、共通していることがある。──────それは、犠牲となった者の多くが民間人だということだ。我々軍人がZAFTと戦っているのは、多くの一般市民の声を聞き、代表して立ち向かっているからだ。これはZAFTも同じだ。プラントの市民を代表して、彼らは戦っている。そして、戦争とは。代表同士がぶつかり合うことで決着をつけるものだ、と私は考えている。そこに一般人が巻き込まれるようなことはあってはならない。それがたとえ、敵国民でもな」
それは彼の、ユージが転生する前からの考えだった。
兵士はたとえ、自分が死ぬことになっても文句は言えない。その可能性があることを知った上で、軍に入隊するものだからだ。真に恐ろしいことは、そうではない無辜の人々が殺されてしまうことだ。
「兵士ではない人々を殺す、それはもはや虐殺だよ。獣畜生にも劣る行いだ。このまま戦争が続けば、いつかはそうなるだろう。生まれて間もない子供さえも、『コーディネーター』だから殺す。それはもはやこの世の地獄だろう。ハルバートン准将はそれを防ぐために、一刻も早くこの戦争を終わらせるために戦っている。無論、私も同じ思いだ。
皆、どうか力を貸して欲しい。気に入らない人間が同僚になるかもしれない。家族の敵を、殺すなと言われることもあるかもしれない。だがそれでも、君達が手を取り合わなければより多くの悲劇が生まれる。君たちの力があれば、それを防げるかもしれないのだ」
部屋の中は、静まりかえっている。ユージの言葉を聞いて、全員が何かを考えさせられたようだ。
「レナ中尉」
「はい・・・・」
レナもまた、思うところがあったのだろう。先ほどまでの触れれば切れるような雰囲気は、感じられない。
「コーディネーターを憎むこと、それをやめろとは言わない。だが、一度だけ。その目で見て欲しい。耳で聞いて欲しい。彼らが本当に、『敵』なのかを。幸いにして時間はまだある。ゆっくりと結論を出せば良い」
「了解、しました・・・・」
「さて、長話をしてしまったが、そろそろお開きだ。最後に、任務の確認と明日からの日程について説明して終わるとしよう。
我々に与えられた期間は、およそ4ヶ月!それまでにOSを完成させ、新型MSを使い物にすることが我々の任務だ!
研究スタッフはまず、『MSとしての基礎能力』を備え、かつ『OS開発』に最適な機体の開発を急ピッチで行ってくれ!
パイロット候補生は、鹵獲したジンの内一機を受領しているため試作機が完成するまではその機体を用いて少しでもMSに対する知識・経験の習得に努めよ!
通信兵は、同じく受領したマルセイユ3世級輸送艦の通信設備のセットアップ、データ収集を行いやすいように整えてくれ!
業務の開始は明朝0900から!それぞれに指定された場所で取りかかってくれ!以上、解散!」
そう締めて、敬礼。隊員達も同じように立ち上がって、敬礼する。
思惑はそれぞれ、違うだろう。だが、それでいい。ここがスタート地点、この部隊の物語はまだ始まったばかりだ。彼らがどのような道を歩むのかは、神でさえわからないのだ。
「・・・・ん?セシル伍長、どうした?もうミーティングは終わりだぞ?」
ユージが声を掛けるが、彼女はうつむいて席に座ったままだ。
様子がおかしい。いぶかしんだユージが近づき、絶句する。
気絶、している。20才の女性が、してはいけない白目顔を晒している。
まさか、レナの気迫に耐えれなかったとでもいうのか。
「・・・・あー・・・・」
「・・・・私が、医務室に送ります」
「・・・・頼む」
気絶させた張本人のレナが、セシルを医務室に運ぶというので任せたユージは、少し呆然とした挙動で部屋を出て行った。
エドとモーガンはその様子を苦笑いしながら見つめ。
アイザックとカシンはオロオロとするばかり。
ジョンはいつの間にか姿を消している。
この光景を見た一部のスタッフは、あることを確信した。
(この部隊は、今までで一番面白い場所だ・・・・!)
部屋にたどり着いたユージは。
後日またセシルに説明し直す必要が生まれたことに気づき。
特に明日の準備もせずに。
布団に突っ伏してふて寝した。
シリアス一辺倒だと、ほら。
なにより作者のメンタルが持たないからさ・・・・。うん。
たぶん次回の投稿は、オリキャラ紹介になります。
3話から、本題のMS開発に突入し、「ギレンの野望」ネタが絡んでくるかも。
他の人がどれくらい書くかは知らんけど、導入って疲れるもんすね。
誤字報告・指摘は随時受け付けております。