機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
飛べ、(デュエル)ガンダム!

それと、一言だけ。











なんでわかったの?


第17話「『ガンダム』、その証明」後編

12/2

プトレマイオス基地 周辺宙域

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

息が上がる。スロットルを握る手に、余計な力が入る。それを自覚しても、力を抜いている暇がない。

"デュエル"と"ジャガーテスター"の模擬戦が始まって、10分が経過した。既に"デュエル"のエネルギー残量は50%近くにまで減ってしまっている。

強い。アイザックは改めて、目の前の対戦相手が自分よりも上の能力を持っていることを認識する。

此方が何発ビームライフルを撃っても、掠りすらしない。牽制のイーゲルシュテルンも同様だ。まるで、自分の考えが読まれているかのように当たらない。

対照的に、あちらの攻撃はことごとく命中する。今まで、これ程正確な射撃を受けた経験はない。

加えて、戦場も慣れたデブリ帯ではなく、ほとんど何もない空間だ。

小細工は、出来ないし効かない。

 

「くっ…一度距離を…!?」

 

距離を取ろうと後退すれば、すかさずグレネードランチャーを撃ち込まれる。PS装甲製の"デュエル"に乗っているから撃墜判定は下っていないが、そうでなければ既に20回は撃墜されているだろう。

アイザックを狙う対戦相手は、ジワジワとアイザックを追い詰めていた。MSの性能差が戦力の決定的差となり得ないことを証明しているかのように、戦いは謎の人物が操る"ジャガーテスター"が有利に事を運んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、やはりというべきか。それとも、恐るべしというべきか」

 

それを管制室で眺めていたユージは、しかし想定通りといった表情を浮かべる。この場にいる中では、彼だけがアイザックの対戦相手のことを知っていた。

 

「アイクさんが、あそこまで追い込まれるなんて……誰が"ジャガー"に乗っているんですかぁ?」

 

「あれだけの動き、まだ私達には出来ませんよ?」

 

カシンとセシルが、ユージに尋ねてくる。

無理もない。"デュエル"の性能は外側から見ても十分な性能だし、アイザックの操縦技術も知っている。それでもなおアイザックを圧倒出来るパイロットなど、限られるからだ。

 

「君達も、『彼』の戦闘記録は見たことがあるだろう?ほんの、一月ほど前にね」

 

「え?…まさか」

 

「我々は知っているはずだよ、『彼』の頼もしさを。同時に、想像したはずだ。『彼』が敵に回ったら、どれだけ恐ろしいかを」

 

この模擬戦の結果如何で、"デュエル"の行く末は決まる。それだけの期待が、この戦いに寄せられている。

 

(今さらだが、心してかかれよアイザック?そして、学ぶんだ。今お前が戦っているのは、この世界でも5本の指に入るだろうMSパイロットなのだからな。胸を借りるつもりでいけ)

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、駄目だ…偏差射撃もまるで通じないなんて」

 

視点は戻り、アイザックは弱音を吐く。ことごとく自分の狙いが外れていることに、ついに諦め始めたのだ。

このままでは、せっかくの"デュエル"もお蔵入りにされてしまうだろう。目の前の対戦相手に、カシンやセシルが勝てるビジョンが浮かばない。否、"マウス隊"の誰が相手でも、目の前の相手には一対一なら確実に負けるだろう。それほどの強敵だ。

自分がもっと、上手く扱えていれば……。アイザックが絶望に沈みそうになった時、"ジャガーテスター"から通信が入る。

 

『お前の行動は正確だ。しかし、正確だからこそ読みやすい。もっと敵を見ろ、そして敵を誘導するんだ。戦闘とはあらゆる思考の積み重ねによって成立する』

 

「えっ…あっ、はい!わかりました!」

 

なぜ、いきなり対戦相手に助言したのか?その理由はわからないが、彼の助言について思考を走らせる。

敵を見る…観察しろということだろう。アサルトライフルによる攻撃をシールドで防ぎながら、"ジャガー"の動きを注視する。

すると、巧妙にカモフラージュされているが、動きに一定のパターンが存在することに気づく。回避や急旋回を行う際に、ローリングの動作があるのだ。先程よりも、敵の動きを目で追えていることを実感する。

誘導…これは、どうしたものか。

今までは誘導と言えば、味方との連携の中で行うものだった。味方の攻撃を避けた敵に生まれた隙を、自分が突く。あるいは、その逆。

それを一人で行うにはどうする?そこまで考えて、アイザックは決断した。

 

(これが正解とは限らないけども…!)

 

ビームライフルを、少しだけ照準をずらして発射する。偏差射撃とはまた違う、『当たりそうで当たらない』射線での攻撃だ。

当然、その攻撃を避ける"ジャガー"。しかし、ローリング回避した先に既に射撃が向かってきていることに気づく。

なんとか回避に成功したが、続いて放たれた第三射を避けきることは叶わなかった。機体の右脚部にビームの命中判定が下される。

そこからは、"デュエル"の独壇場だった。

撃つ、撃つ、撃つ。

僅かに生まれた隙を逃さずに放たれた、頭部のイーゲルシュテルンをも交えた連続しての攻撃が、"ジャガーテスター"へ命中していく。元々が貧弱な耐久力の"ジャガー"に撃墜判定が下されたのは、至極当然なことであり。

そしてそれは、"デュエル"の勝利を決定付けるモノでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか、勝てたぁ……」

 

「お疲れ様、アイク」

 

コクピットから降りてきたアイザックはその場で尻餅を突くような姿勢で自身の疲労をアピールし、カシンはそれを労う。

模擬戦終了後の現在、格納庫では"デュエル"のメンテナンスが行われていた。"テスター"よりも複雑な構造の内部パーツを点検するのに、整備兵がマニュアル片手に悪戦苦闘しているのが目で見てとれる。

 

「対戦相手に、助けられちゃったよ。あはは…」

 

「話したんですかぁ?"ジャガー"に乗っていた人と」

 

「うん、少しだけね。たぶん、あの人は…」

 

「やはり、気づくか」

 

会話に加わったのは、彼らの隊長であるユージ。彼が頭で促した方向には同じく整備中の"ジャガーテスター"がハンガーに固定されており、コクピットからパイロットが降りてくるのが見える。

その人物はユージ達に近づくと、着ていたパイロットスーツのヘルメットを外して顔を見せる。

 

「やはり、あなたでしたか。傭兵部隊『サーペントテール』リーダー、叢雲劾さん」

 

「いつ、気付いた?」

 

「ついさっき、戦闘終了してからですよ。冷静になって考えてみたら、貴方の戦闘機動には覚えがありましたから」

 

『セフィロト』での戦闘記録、たくさん見ましたからね。とアイザックは続けた。

ユージの目には、劾のステータスが表示される。

 

叢雲劾(ランクB)

 

指揮 10 魅力 12

射撃 14(+2) 格闘 16

耐久 11 反応 14(+2)

空間認識能力

 

圧巻のステータスだ。最初に会った時よりも成長しているのは、『植樹戦役』の時の経験値が加算されたからだろうか?

 

「なんで、模擬戦の最中に助言してくれたんですか?あれも、契約の内……?」

 

「ふっ…俺達の受けた依頼は、ヘリオポリスからの試作MS輸送計画の護衛と、仮想敵役、アグレッサーだけだ。そのやり方に関しては、一切指示を受けていない。いわゆる、リップサービスというやつだな」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「どこかの勢力に肩入れするのは傭兵として失格だが、お前個人にどうしても口を出したくなってしまってな…お前はもっと、腹芸を覚えるべきだ。素直さは美点だが、それだけでは戦場で生き残れない」

 

「はい!」

 

そこまで話して、劾はユージの方を向く。

 

「これでいいか?」

 

「完璧だ。100点中120点を与えたいくらいには、満足いく結果だよ。流石、『サーペントテール』といったところか。

さて…カシン、セシル。この後2時間ずつのクールタイムを挟んで、お前達にも彼と模擬戦をしてもらう。条件は先ほどと同じだ」

 

「了解!」

 

「うぇいっ!?私もですか!?無理無理、無理ですよぉ!」

 

「勝ち負けは問題ではない、彼と戦うこと自体が重要なんだ。たっぷり絞られてこい」

 

「そんなぁ…」

 

ぶつくさと言うセシルを尻目に、劾を観察する。表向きは静かに佇んでいるようだが、何かを探っているような気を感じる。

 

「何か、気になるものでも?」

 

「…あの四人は来ていないのか?」

 

ああ、と思い出す。

そういえばあの変態どもは、『植樹戦役』中に高い戦闘能力を見せつけた劾に直接会いに行き、何度も試作の近接武装の試用を要求していた。劾は毎回淡々と追い払っていたが、印象に残らざるを得なかったようだ。

最先端技術の塊である"デュエル"のテストに来ていないのが不思議なのだろう。

 

「あの四人は、色々やらかしていてね…今回は『セフィロト』に留守番だよ」

 

「そうか…」

 

「何か用でもあったかね?」

 

いや、と言うと劾は"ジャガーテスター"の方に歩いていってしまった。

 

(まったく、俺も道化に成り果てたと思う瞬間だな)

 

ユージは知っていた。劾が気にかけているのは、あの四人ではなく。

その中の一人だということを。

『自分と同じ存在』である彼女を、劾は気にかけているのだ。『世界の外側』を知っている故のジレンマとでも言うべきか、自分も何かしら世話を焼いてやりたくなる。

 

「そろそろ、取り組まねばならんか」

 

「?何がです、隊長?」

 

「いやなに、避けては通れぬものがある、ということを再認識しただけさ」

 

「…?」

 

 

 

 

 

 

 

12/5

『セフィロト』反省房

 

「聞こえるかね、アリア曹長。……入るぞ」

 

ユージは月から『セフィロト』に帰還してすぐに、反省房へと足を運んだ。『彼女』に会うためだ。

果たしてそこに、”ドリル系変態”こと、アリア・トラストはいた。だが、その目はこちらを向いておらず、部屋の中に備えられた机に向き合って、これまた備え付けられたメモ書きとペンを使って何かを書いている。一心不乱という言葉がこれほどピタリと当てはまる様もないだろう。ユージに気付いてすらいないようだ。

 

「アリア曹長。アリア曹長。……『フォー・パルデンス』!」

 

ビクッ、とした後に動きを止める彼女は、ゆっくりとこちらを向き始める。

その顔には、おびえたような表情が浮かんでいる。目は見開かれており、立ち上がった足はおぼつかない。

 

「……あ、ああ、ムラマツ隊長ではありませんか。本日は、どのような用向き、で?」

 

「はぁ……いつかはこうなるかもとは思っていたよ。アリア曹長、君、この3日寝ていないだろう?目に隈が……」

 

「それより!見て、見てください!これ、これ、これ!今度こそきちんと出来ました!出来たんです!」

 

彼女は明らかに常軌を逸した様子で、メモ書きを束ねたモノをユージに見せてくる。

ユージはそれを受け取って、流し見する。どうやらそこに書き記されているのは、様々な兵器の設計図のようだった。軽く見ただけだが、『強酸性液散布装置』、『コロニー外郭破壊ミサイル』、『超長距離砲撃用劣化ウラン弾頭』など、目を疑うような兵器の設計図が記されている。

 

「これなら、出来ますよ!コーディネーターを滅ぼせるんです!ええ、ええ!()()()()()()()()()()()()!だから、だからぁ、見捨てないで、ください……私、もっとやれますからぁ……」

 

彼女を反省房に入れて、5日ほど経っている。時折様子を見に来ていた他の変態共が言うには、初日はぶつくさ文句を言っているだけだったが、二日目には部屋の隅で縮こまって動かなくなり、三日目にはこのようになっていたそうだ。さすがにまずいと感じて、『セフィロト』で待機を命じていたジョンに直談判して、一度彼女のいる独房の中に入れてもらったが、やはり変態共の方を向かずに設計図を書き上げていたらしい。メモとペンを取り上げたら、泣き叫び出し、誰の言葉にも耳を貸さずにわめき散らしたと聞いている。

彼女の暴走の原因は、彼女の出生にあった。彼女の目をよく見れば、わかるだろう。───何らかのコードが、瞳孔に刻まれているのが。

優秀な姉達と比較され、けなされ、虐げられ。

そのうち、『誰かの役に立たなければ』という、彼女の遺伝子に刻まれた歪んだ使命感が彼女の中に根付いてしまったのだ。

今回は、それが悪い形で表に出てしまった。それが、今回の騒動の真相である。

 

「……ほう、すばらしいじゃないか。うむ。効率はともかく、より多くのコーディネーターを殺そうという意思が伝わってくる。合格点をやれるな」

 

「ですよね!ですよねですよねですよね!?これなら、私は……!」

 

()()()()()()()()()()()、だがな」

 

「……え?」

 

アリアは固まる。ユージが何を言ったか、理解出来なかったようだ。だが、ユージは逸らずに、言い聞かせるように話していく。

 

「君はアリア・トラストだ。君が生まれた場所の人間達が何を言ってもな。私だけではない、『第08機械化試験部隊』の全員がそれを知っている。君の名前は、アリア・トラストだということを。だから、無理をしなくて良い。ここには君をただ叱責するだけの人間はいない。

問題を感じたなら、指摘してやる。

一人では出来ないことなら、出来る範囲で手を貸してやる。

……もう君は一人ではない。誰も()()と比べたりなど、しない」

 

「私は、わた、し、は……」

 

そのままへたり込む彼女。先ほどまでの狂乱具合が嘘のようにおとなしい。

 

「一度、出ようか。あのバカ共が君を心配している」

 

アリアは、ユージに手を引かれて立ち上がる。半ば無理矢理に立たせたせいでふらついているが、きちんと歩けるようだ。

 

「よし、行くぞ」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「おお、心配したぞ同士!ずいぶん目に隈が貯まっているではないか」

 

「俺は謙虚だから、お前はきっと多分絶対無事だと思っていた。だが、心配させるお前に俺の寿命がストレスでマッハだから、はやく謝るべき」

 

「どうやら、少しは立ち直ったようですね」

 

休憩室に、4マイナス1のバカ共が揃っていた。そこに現れた口々にアリアへ向けて声を掛けていく。

 

「……アキラ、怒ってないの?」

 

「報連相をしっかりしていなかったことには、今でも怒っているぞ?だが、仲間のフォローは義務かつ趣味だからな。今度はきちんと、作用するゲッ○ーミサイルを作ろうぜ?」

 

「……ブロントさんは?」

 

「俺たつはミスして放置ナウイング。このままはアワレ忍者にも劣るアウトロードとなるのは確定的に明らか。メイン盾として汚名挽回せぬば。ちな汚名は返上するモノって、それ200年くらい前から言われてる」

 

「……ウィルソン」

 

「あれを作ったのは私()です。ブロントさんに倣うわけではありませんが、汚名は返上しなければなりません。もちろん、連帯責任というのもありますけどね」

 

それを聞いて涙ぐむアリア。

そうだ、そうだった。ここはもう、あの暗くて寒い研究所じゃない。

『フォー・パルデンス』ではなく、『私』を見てくれる人たちがいたじゃないか。

そのまま、泣き出してしまったアリアに近寄る仲間達。

 

(……流石に、これ以上は野暮か)

 

そう考え、ユージは立ち去ろうとする。

実際のところ、アリアには別に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

元から自分で抱え込む性質があった彼女だったが、今回の一件で、少しは他人を頼ることを覚えただろう。今度は勝手に行動することはしないだろう。少なくとも、変態達で話し合ってから行動するようになるはずだ。まあ、彼らと自分の中間に位置する彼女には、奴らの手綱という負担を掛けてしまうだろうが。

マヤ君、すまない。

休憩室の外で待機していたマヤに、目配せをする。

苦笑を浮かべているが、あれは「任せておけ」という意味だとユージは知っている。この数ヶ月で、”マウス隊”の中での結束は強まっている。これくらいの意思疎通は出来る。

そのまま退室しようとするが、後ろから彼らの声が聞こえてくる。

 

「私、いや、私達は間違っていたんですね」

 

「ああ。やはりロマンを追及するなら、もっと技術を手に入れてからじゃないとダメだったんだ」

 

「ようやく、話がわかるようになってきましたねアキラ。以前の君なら、ごり押しで解決しようとしていたでしょう」

 

「かもしれん。だが、月にて実験が行われた『G』兵器稼働テストでは良好な性能が確認できたのだろう?ならば、今度は『X0型』ではなく『X100型』のフレームを元に作ればきっと、今度は成功するはずだ」

 

「銀の銅の塊が黄金の鉄の塊へと進化し、”グーン”はアワレ爆発四散する」

 

「……やっぱり皆さん、同じことを考えていたんですね」

 

ぞわり、と。全身の毛が逆立ったのを感じる。これは、今までに何度も味わった感覚。ユージ自身の危機回避能力が警告している。これ以上は聞くなと。

待て、やめろ。綺麗に終わらせろ。頼む。待って?何を言い出す気だ。

 

「ですね。元々、水中でMSを動かすなら『X100型』でなければ実用に耐えられないとはハッキリしていました。ですが、その条件はクリアされた」

 

「後はゴーウィゴーウィヒカリッヘーするだけ」

 

「俺達はバカじゃないから、今度はきちんと人型で“グーン”以上の機動性を持たせられる!この5日間、ずっと設計していたからな!基本構造は任せろーバリバリってやつだ!」

 

「今回の失敗で、水陸両用ミサイルの欠陥はハッキリしました。次は同じ轍は踏みません、キャタピラーを使う必要も無いのです。今度こそ、我々のゲッ○ーを。そう……」

 

待 っ て(ユージの心の声)。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はゲッ○ーポセイドンを作りましょう」

 

「「「やっぱり俺達親友だ!!!」」」

 

「マヤ君!こいつらまとめて、追加で三日間の反省房に入れておいてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、なんで綺麗に終わらせられないんだ……」

 

「もう、諦めましょう。彼らは()()なんです」

 

要らんところまでリブートした変態共を反省房にぶち込み、愚痴を漏らしながらユージとマヤは通路を歩く。反省房の方から、何やら呪詛のようなモノが聞こえてくるような気がするが気にしない。聞こえ無いったら聞こえない。

 

「それより、良いんですか?」

 

「何がだ?」

 

「彼女…アリア曹長のことですよ。勝手にMSの武装を弄って、それで出撃させたなんて。普通なら死刑になってもおかしく無い重罪ですよ?テストパイロットの遺族になんと言うつもりです?」

 

「ああ、そのことか」

 

『セフィロト』内に与えられた、『第08機械化試験部隊』専用のオフィスに入り、自分のデスクに座ると、ユージは話し始める。

ちなみに彼ら専用のオフィスが与えられているのは、基本的に『セフィロト』で活動することが多くなったユージ達に、ハルバートンが都合したからだ。その広さはこじんまりとしているものだが。

部屋の中にいつの間にかたたずんでいたジョンが、二人のデスクにコーヒーを差し出す。

彼は基本、何も言わない。そんなことをしなくても、この二人は自らを変えていける人間だからだ。

 

「戦闘記録を後で見直してみると良い。”ベアーテスター”が撃破されたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「と、言いますと?」

 

「撃破された二機、件の武装を使う間もなく撃破されている。”ベアーテスター”の鈍重さを突かれてな。加えて、威力が低下した魚雷であっても”グーン”相手にはダメージが有効だった。責任があるとすれば、あのような機体を造ってしまった我々全体にある。おそらく、今後は水中戦闘の分野では当てにはされんだろうな。やつらが何を造っても、精々が試作機止まりだろう。我々は、既に『信用の喪失』という形で代償を支払っている。これ以上、彼女個人を追求してもしょうがない」

 

「……それは詭弁です」

 

「だろうな、同意するよ。だがようやく彼女は、他人を本当の意味で信じ始められてきたんだ。それを摘む方が、一番の『最悪』だ。殉職したパイロットには、心の底から申し訳ないと思っているよ。何が何でも、あれだけはハルバートン提督に上申するんじゃなかった」

 

「隊長……」

 

「軽蔑してくれていいよ。横暴人事、汚職軍人とね。自分でも、汚い大人になってしまったと思っている」

 

「後ろめたいことのない人間なんて、この世に何人いるでしょうか。少なくとも、あなたは私が見てきた中でもまだマシな人間だと思いますよ」

 

「世辞でも、救われるよ」

 

ユージは、机の上に置かれていた帽子を被り、目元を隠す。

誰にでもあるだろう。顔を見られたくない時など。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これからしばらくして、彼らの部隊に稼働テストを終えた”デュエルが配備され、”マウス隊”に多大な戦果をもたらすことになる。その近くにはやはり変態4人衆が集い、”デュエル”の性能向上にいそしんでいた。しかし、以前よりも他人へ積極的に話しかけるアリア・トラストの姿があったという。




というわけで、初めての前後編、後編でした!
前編への感想欄では、いろいろなことが離されていましたね。今回のあとがきでは、それらへの回答をしていきたいと思います。

※今回も、例に漏れず長いあとがきです。






”ジャガー”のパイロットは、叢雲劾でした!なんでみんな分かったの?(すっとぼけ)
まあ、この時期にこんな強者オーラ醸し出して突然現れるなんて、劾くらいしかできないですけどね。ちなみに、これでも劾は手加減、例えばローリングの多様などの隙を作っています。
察していた方もいらっしゃいましたが、『デュエル輸送』の必要資金3000は、サーペントテールへの依頼料と装備の調達に使われました。具体的には、輸送に使用した偽装民間船と、連合の関与を疑わせないように”ジン”を都合したりですかね。
感想を眺めていたら、ピタリと資金の使い道についても当てて見せていた方がいらっしゃいました。
どこの誰とは言いませんけど、見事正解したあなた!
あなたには、この『GUNDAM 0079 War For EARTH』をプレイする権利と義務を差し上げましょう!ほんと、ラッキーボーイだぜぃ★
(訳:見抜かれたのが悔しいから、八つ当たりします)
知らないっていう皆は、どんなゲームかググって調べてね!




さて、肝心の”ドリル系変態”の暴走についてですが。
先に、変態どものプロフィール紹介を済ませますかね。本編だけだとなんのこっちゃって感じでしょうし。

アリア・トラスト
作者曰く、「ドリル系変態」「量産型倫理観欠如系少女」。
正式名は、「技術発展補助用コーディネーター『パルデンス』№4」。簡単に言うと、戦闘用コーディネーターである「ソキウス」と同じく、用途だけ異なる「連合コーディネーター」。その製造目的は、技術開発系の分野に長けた第1世代コーディネーターのクローン体を量産し、テクノロジー面でもZAFTを上回ろうという、狂気の産物としか思えないものである。「パルデンス」は、ラテン語で「賢者」を表す。
劾が気にかけていたのは、彼もまた、連合に作られた「戦闘用コーディネーター」であり、自分と同じように彼女の網膜にプリントされた管理コードを、植樹戦役の時に発見したから。
彼女たちは「ソキウス」よりも生産数が少なく、4人、つまりアリアの時点で生産がストップしている。これは、ベースにしたのが女性だからか、戦闘用よりも調整の難しい「技術開発補助用」だからか。10体作った内の1体しか人の形にすらならず、残りは肉塊となってしまうほどのコストパフォーマンスの悪さが原因だといわれている。
上の3人には、ナチュラルへの服従遺伝子の植え付けや感情の大部分消去に成功している。しかしアリア、否、4番目の彼女は遺伝子調整に失敗し、感情の消去に失敗したばかりか、予定されていた性能を発揮することができなかった。それでも即刻廃棄されなかったのは、数少ない『生誕』に成功した例だからこそ。
姉たちと比較され、心を持たない道具のような扱いを受ける内に、彼女の中には「暴走した使命感」、つまりどんな形であっても性能を追求し、自分が姉達より劣っていないこと、自分の価値を認めさせようという悪癖が生まれてしまった。
紆余曲折を経て、彼女は第8艦隊に配属される。それは、彼女の教育係を務めていた女性の嘆願と、「出来損ないの廃棄場所にはちょうどいい」という、上層部の思惑があったから。つまるところ、「ハルバートンへの嫌がらせ」である。
そこで過ごすうちにブロントさんと出会い、彼から様々なロボットアニメを布教される。その中で彼女は、圧倒的な力を敵に見せつけるスーパーロボット達の姿を見た。スーパーロボット達の中に、光を見出した。
「こんな機体を自分で作れば、価値を認めさせられる」。純粋な彼女がそう考えた時が、彼女が変態とカテゴライズされた瞬間とも言える。
当然、倫理観に対する教育なども受けて育っていないので、”マウス隊”の面々でもなければ、パイロットのことは単位・パーツとしか見ていない。だって、そうしたほうが『彼ら』は喜んだから。1人を犠牲にしても、100人を殺せる兵器のほうが求められたから。
彼女はまだマシなほうだ。間違いを学習し、これからどんどんと学んでいける「心」があるのだから。彼女の姉たちは、「心」を学ぶ機能すら失われている。
ワン・パルデンスとツー・パルデンスは、それぞれ別の連合軍の秘密工廠に勤務している。
スリー・パルデンスは、デトロイトに本拠を置く、ある大手軍需産業の代表に引き取られたという。スリーを引き取った男、いったい、何盟主王なんだ…。
ちなみに、「アリア・トラスト」という名前は彼女の教育係がつけたもの。この教育係もまた、ブルーコスモスに所属している。コーディネーターに良い思いなど持っていないはずの彼女が、なぜこのような名前を付けたかはまだわからない。
外見モデルは、東方の「フランドール」を髪を伸ばして少し成長させた感じ。最も、モデルの彼女と違ってアリアは実年齢は5歳だが。

アキラ・サオトメ
「ごり押し系変態」あるいは「黄金の精神の持ち主」。
幼いころに見た、数々のロボットアニメを現実にさせようと技術畑に足を踏み入れた。
彼にとって「スーパーロボットの建造」は妄想ではなく、いつか叶える「未来」である。いくら周りに止められても、彼が止まることはない。
だって、あんなにも輝いていたから。スーパーロボット達は、いろいろな方法で世界を救って。世界をあんなに輝かせるロボットを、作りたくなってしまったのだ。もっと、世界をよくしたいと思ったから。
巨大な人型が地上を闊歩し、真に平和に暮らしたいと考える人々を苦しめるなら。
まさしくそれは、スーパーロボットの出番だろう。
彼に、第08機械化試験部隊からのスカウトを断る選択肢は最初から存在しなかった。
彼のあこがれは、止まらない。
自らの夢と現状が、奇跡のベストマッチを果たしてしまった男。実は、変態達の精神的リーダーである。
外見モデルは初代アニメ「ゲッターロボ」の流竜馬。元サッカー部ではない。

ウィルソン・A・ティブリス
「狡猾系変態」「よみがえった夢」。
かつてはかっこいいロボットを開発して、それのパイロットに自分がなることが夢だった。しかし、成長する中でその夢は挫折し、惰性的に働き、軍で給料をもらうような生活になっていた。
かつての夢の名残で第08機械化試験部隊のスカウトを受けたが、そこで変態共と邂逅。かつて自分があきらめたことに全力な馬鹿どもを見て、熱意を取り戻す。才能自体は他の3人よりも劣っているのを自覚しており、彼が選んだのは「夢を可能な限り凝縮し、現実にする」こと。つまり、彼がいなければ他の3人はもっと暴走している。”イーグル”と”ジャガー”が、まだ現実的なコンセプトを保っているのは彼の仕事。
外見モデルは「仮面ライダー555」の琢磨逸郎。

ブローム・フロント
「大きさ=破壊力系変態」「ブロントさん」。
変態どものなかで最も謎が深い人物。
彼の話す言葉はどこかおかしく、慣れなければ理解できない。だが、解読できれば意外や意外、比較的まともなことを言っているのがわかる。あまり親しくない人の前では、携帯しているPDAを用いて筆談のような形で話しているが、その文法がおかしいこともない。
実は、遺伝子調整に失敗して親に捨てられたコーディネーター。彼のような人間も珍しくないというのが、C.Eの救えなさを象徴している。
ジャンク屋の養父に引き取られ、そこで機械に関しての技術を手に入れた。「機械は人のためになるもの」と教えられて育つ。幼少期に読んでいた英雄譚の影響もあり、いつしか彼は「人々を守る黄金の盾」を作り出すことを自身の目的にした。ハンデを背負いながらも工学系の学校を無事卒業し、育ててくれた養父への恩返しの意味も込めて安定した給料を手に入れられる軍への入隊を決める。扱いづらいからと第8艦隊に配属され、そこで自分の趣味でもあるアニメの布教を始め、アリアと出会った。
外見モデルは、「ブロントさん」。
なお「ブロントさん」は自称したあだ名でもあり、「さん」を省くと怒り出す。ユージからは今でも、自分と同じような転生者ではないかと疑われている。
こればっかりは、どこか別の世界から電波でも受け取ったのかもしれない。
作者も、「なんかいつの間にか、ブロントさんもどきが作品内に出現していた」レベルで首をひねる存在。



というわけで、変態どものキャラ紹介でした。いやー、疲れた。
前回の感想には、アリアへの批判が多く確認されています。それはまあ、仕方ないことです。私もこんな奴に命を預けたくないですし。
でも、彼女にはそうするだけの理由があったんです。ほかの誰に何を言われても、常識から著しく外れていたとしてもです。彼女にとっては、自分の有能アピールは死活問題だったんです。命の大切さを、教えてくれる人はほとんどいなかったんです。
そのことは、忘れないでほしいのです。その上で、気に入らない、ありえない、エトセトラの感想を持つなら。
それはぶれることのない、「真実の意見」です。私もこの作品を書き、背負う身です。彼女への批判は私への批判。甘んじて受け止めますとも、ええ。
これからも、どしどし感想をお送りください。私に応えられる範囲であれば、いくらでも返答しますとも。
某ライトノベルのキャッチコピーを借りるなら。
さあ、私たちの戦争(ディベート)を始めましょう?
一応断っておきますけど、ただの悪口は発見次第運営に報告しますからね?そこだけは気を付けてください。



誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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