機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

132 / 133
気付いたら劇場版公開まで2週間切ってるってマジ?


第132話「オペレーション・ブルースフィア」 6

5/14

太平洋 ハワイ諸島沖 

”アーカンソー”級イージス艦”ロドニー”艦橋

 

「砲撃、来ます!」

 

「総員、対ショック体勢……うおっ!?」

 

自艦の横を通り過ぎていく破壊の渦に、思わず悲鳴を漏らしてしまう”ロドニー”艦長。

幸いなことに、この攻撃で沈んだ艦艇は存在しなかったが、艦長は舌打ちをしてしまう。

 

「まさか、あんなものを隠していたとは……!」

 

地球連合海軍は現在、東西からハワイ諸島に対して攻撃を加えていた。

想定される彼我の戦力差は少なく見積もっても3倍以上とされており、連合軍の勝利は揺るがないものと見なされている。その前提自体は崩れていない。

しかし、それでも現在の連合海軍は、大苦戦を強いられていた。

艦長の視線の先、ハワイ諸島の州都が存在するオアフ島の海岸には、見慣れない兵器が存在している。

 

()()()()()()()()()()()()など……奴ら、こちらの都合はお構いなしというわけか」

 

ZAFTが開発した『自走式陽電子砲台”マルドゥック”』。それが現在、連合海軍を苦しめている存在の名前だ。

ZAFTが独自開発した陽電子砲『マイスタージンガー』を改造したこの自走砲台は、連合海軍の進軍がある一定のラインを超えたところで姿を現し、艦隊に向けて攻撃を始めた。艦隊が有効射程距離に入るまで待っていたのだ。

それだけならば大した問題ではないが、ここでZAFT軍は新たな戦力を投入した。”グーン”攻撃隊だ。

対MS戦も十分にこなせる”ゾノ”に敵MSを対処させ、旧式化してきた”グーン”を対艦攻撃に集中させることで戦力の効率的運用を図ったのだ。

海上を陽電子砲に狙い撃たれ、海中からは”グーン”が襲い来る。加えて、”マルドゥック”を排除しようにも敵MS隊が積極的に妨害を仕掛けてくるようになった。

 

(マズいな……)

 

───それでも、連合海軍の優位は揺らいでいなかった。

新兵器を投入しているのはZAFTだけではない。水中では新型MS”ディープフォビドゥン”が次々と敵MSを撃破している最中だ。

加えて、ZAFTの無法によって占領されてしまったハワイ諸島を奪還せんと、兵達の士気も高い。

そして、そもそもの数が違う。

多少時間は掛かるだろうが、この状況を脱するのは容易いことだ。

 

しかし、連合海軍には時間を掛けられない理由があった。

それは、『この作戦が民衆に対するアピールでもある』ということだ。

この『オペレーション・ブルースフィア』のために連合軍が掛けた手間暇費用は、今大戦で最大のものとなっていた。軍事・民間問わず様々な人間がこの作戦を実行するために身を粉にしている。

 

『勝てて当然、求められているのは圧勝』

 

もしも、それだけの意気込みで実施された作戦で苦戦などしてしまえばどうなるだろうか。

徒に被害を出し、敵部隊に損害を与えられず、そんな戦いをしてしまえば。───結果は、火を見るより明らかだ。

民衆は不甲斐ない軍に対する信頼を揺らがせるだろう。そうして厭戦気分を募らせた結果に待つのは、国内からの突き上げだ。

国内の纏まりが無くなってしまえば、敵につけいる隙を与えることになる。それだけは避けなければならない。

 

「政治の絡む戦場は好かんが……時間を掛けられないのは全く以て同意だ。───ミサイル発射準備、狙いは大雑把でいい!」

 

艦長はまず、”マルドゥック”の排除を最優先に考えてミサイル攻撃を指示した。陽電子砲の精度はけして高くは無かったが、何度も放たれれば水上艦の被害は増すばかりだ。

実際、あの砲撃によって既に2隻の”アーカンソー”級が撃沈されており、他の艦にも少なからず被害を生まれている。

だが、そうしてくるだろうことはZAFT側も織り込み済みだったのだろう。

開閉したミサイル発射口目がけて飛来した”ディン”が散弾銃を撃ち込み、誘爆したミサイルが”ロドニー”の艦上で爆炎を挙げる。

 

「くそっ、やはりやらせてはくれないか……誰でもいい、何でもいいからあの砲台を止めろ!」

 

 

 

 

 

”タラワ”級強襲揚陸艦”トモサブロウ”艦橋

 

「艦長、格納庫から通信が届いています」

 

「繋げろ」

 

地球連合海軍大佐であり、”トモサブロウ”の艦長である工藤 久昭(くどう ひさあき)は、モニターに目を移した。

そこには、通信回線が開かれた格納庫を背景に1人の男が映っていた。

 

<艦長、どうか出撃許可をいただけませんか>

 

「正気かアマミ中尉、この砲火だぞ?」

 

男───ユウ・アマミ中尉の正気を久昭は疑った。激しい攻撃に晒されているのはハワイの東側から攻撃を仕掛けている艦隊だけではなく、西側から攻撃を仕掛けている彼らも同じだったからだ。

現に、今も海岸から陽電子砲を放つ”マルドゥック”の姿は忌々しいほどに健在だ。ZAFTはこの移動砲台を複数製造し、東西の海岸に配置していたのである。

対地攻撃能力を持つ艦に対する攻撃も激しく、こんな状況でMS隊を出撃させようものなら瞬く間に撃墜されるだろうことは、想像に難くない。

 

<ここで尻込みをしている暇は無い、と認識しております。むしろ、M()S()()()()()()この状況の打開が行えるものかと>

 

「……根拠は?」

 

<敵も、『MSの突撃による状況の打開』という選択は想定していても、早急に対処することは困難だと思われます>

 

ユウの言い分は、全くの的外れとも言えなかった。

海岸線に陣取っている敵MSの数は案外と少ない。海岸から艦隊に向けて攻撃を放っても距離が遠く、効果が薄いからだ。

MSが戦艦などに対して有効な火力を発揮するには近づく必要があるが、海上に陣取る艦隊に対してそれが行えるのは、空を飛べる”ディン”や水中MSでなければ難しい話だ。

結果、現在の海岸には”マルドゥック”の他に”ザゥート”が陣取って砲撃を行なっているだけとなる。

つまり───。

 

「今、MSで強襲を仕掛ければ大した妨害も無くあの砲台を破壊出来る、ということか」

 

<はい>

 

「私としてはそうなってくれれば万々歳だが……君の()()は、いいのかね?」

 

久昭は眉を顰めながら問う。

ユウ達は特殊な任務を帯びたMS部隊、俗に言う『モルモット隊』だ。扱うMSも、何か()()()()()()()が搭載されているらしいと、久昭は聞いていた。

万が一、撃墜されてMSごとそのシステムが破壊されても、久昭は責任を取りたくは無い。そういう意図を込めての問いだった。

 

<問題ありません。こいつは……『ブルー』は、より多くの戦場を越える必要がある>

 

それは、必ず任務を達成して戻るという意思表示だった。

ユウがそう言うのであれば、久昭から言うべきことは無い。なにより、今この場で求められている優先事項を間違えてはいけない。

最優先は、状況の好転だ。

 

「分かった、君に任せる。───武運を祈る!」

 

 

 

 

 

「ツクヨミ1、発進する!」

 

”トモサブロウ”の側面発進口から、()()MSが姿を現す。

”ブルーガーディアン1号機”。東アジア共和国の主力MS”須佐之男”に酷似したその機体は、手始めに”トモサブロウ”を攻撃していた”ディン”を1機撃ち落とす。

 

「次!」

 

直後に”ブルーガーディアン”は大きく飛翔し、”トモサブロウ”よりも前方に位置取っていた”アーカンソー”級の甲板に着地。これを繰り返して、ドンドンと海岸に近づいていく。

 

<なんだ、あの蒼いMS!?>

 

八相飛び(ハッソー・フライ)のつもりか、時代錯誤のナチュラルめ!>

 

”ブルーガーディアン”の存在に気付いた”ディン”が攻撃を仕掛けるが、回避、あるいは左手の盾で受け止めるなどして()()()()ことで、“ブルーガーディアン”は勢いを殺さずに前進を続ける。

機体の性能ということも勿論あるが、パイロットのユウ・アマミは”テスター”が地上戦線に投入され始めた頃から戦い続けてきたエースだ。ナチュラルであっても、その戦闘経験は並のコーディネイターの比ではない。

 

(海岸まで、あと少し……使()()()だな)

 

しかし、その快進撃も足場となる艦艇が減少することで止めざるを得なくなる。

足場が無いのでは”マルドゥック”に近づけない。そして、近づいたと言っても海岸まではまだ距離があり、MSの有効射程には入っていない。

もう出来ることは無い。───普通のMSならば、だが。

 

 

 

 

 

「『プラントシステム』、起動!」

 

 

 

 

 

ユウがコクピットに取り付けられたスイッチを押すと、仄かな変化が”ブルーガーディアン”にもたらされる。『G』由来の緑のツインアイが、()()()()()()

次に、モニターに映し出される機体の各種数値を示すゲージが上昇した。機体に掛けられていたリミッターを解除したのだ。

機体に掛かる負荷も上昇するが、そうでなければ、この『システム』に機体が付いてこられなくなる。

 

「ぐっ……!」

 

苦悶の声を挙げるユウ。

ユウが味わった感覚を表現するなら、「頭の中の存在しない何かを、無理矢理に弾けさせられている」とでもいうようなものになる。

ユウはこの感覚が苦手だった。これが好きになる人間などいるものかと思うほどに強烈な違和感があるのだ。

しかしその恩恵とでも言うべきか、ユウの思考・反応速度は平時と比較して遙かに上昇していた。

 

「行くぞっ!」

 

”ブルーガーディアン”は飛翔した。先ほどまでの”ブルーガーディアン”よりも勢い良く、天高く。

その先には、いきなり性能が向上したように見える”ブルーガーディアン”の様子を窺っていた”ディン”がいた。

 

<はっ、えっ、なん───>

 

反応が遅れた”ディン”のコクピットをシールドの先端で突き刺した”ブルーガーディアン”は、次の足場に狙い定める。

”ブルーガーディアン”の向かう先には、SFS”グゥル”に乗った”ジン”の姿があった。

 

<こいつ……!>

 

「良い物に乗ってるじゃないか、借りるぞ!」

 

”ジン”を蹴り飛ばした”ブルーガーディアン”は、再び飛翔する。

先ほどまでの光景の焼き直しのようであったが、敵部隊のど真ん中を縦横無尽に暴れ回る”ブルーガーディアン”の姿は、その異常性を両軍に知らしめる。

 

「───届く!」

 

そして、ついに”マルドゥック”を射程に収めた”ブルーガーディアン”。右手のビームライフルを構えて狙いを付ける。

しかし、ここに来て”ブルーガーディアン”のことを侮る兵はいない。

“マルドゥック”の周囲に”ザゥート”が集まり、対空砲火を始めた。その内の一射が、”ブルーガーディアン”のライフルを破壊したのだ。

”ブルーガーディアン”本体に傷は付いていないが、残された射撃手段は頭部バルカン砲と右背部のウェポンラックに懸架したマシンガンのみ。

 

「その程度で、『ブルー』を止められると思うな!」

 

ならば、()()()()()()()

シールドを捨てた”ブルーガーディアン”は、左背部のウェポンラックから日本刀型の実体剣を抜き放ち、右手にも右腰から抜いたビームサーベルを構える。

二刀流となった”ブルーガーディアン”は大きな水しぶきを上げながら浅瀬に降り立ち、”マルドゥック”に向かって突撃を始めた。

”ザゥート”達が必死に弾幕を張って抵抗するが、『プラントシステム』を起動した”ブルーガーディアン”は現行最強格のMSだ。機動性が劣悪な”ザゥート”では、奇跡でも起きなければ刃が立たない。

 

「これで……終わりだ!」

 

護衛の”ザゥート”を切り捨てつつ、遂に”マルドゥック”の元にたどり着いた”ブルーガーディアン”。

飛びかかる勢いそのままに”マルドゥック”に取り付いた”ブルーガーディアン”は、ビームサーベルを”マルドゥック”に突き刺す。

 

「オマケだ」

 

それだけに留まらず、ダメ押しと言わんばかりに損傷した箇所に頭部バルカン砲を発射した”ブルーガーディアン”。

飛び退いた直後、”マルドゥック”はスパークして火花を散らしながら爆発した。これで、連合艦隊の進軍を阻む最大の障害は取り払われた。

MS単機による敵防衛線の中枢破壊、紛れもない快挙だというのにユウの表情は晴れない。

まだ戦闘中ということもあるが、それ以上に『プラントシステム』を使用したことによる負荷が大きいのだ。

 

(それだけじゃない。何故だ……無性に、()()()

 

『怖い』でも『辛い』でもない、『悲しみ』。それが、ユウの心の中で渦巻く。『プラントシステム』を使った後は、いつもこうだ。

”ブルーガーディアン”専属のスタッフ曰く、このシステムの詳細を知る者は開発者であるアンジェリカ・イザヤ博士しかいない。

そしてイザヤ博士は、元ZAFTに所属していた脳科学者である、とも言われている。

実際に会ったことは無いユウだが、このようなシステムを開発した人間がマトモである筈がない、という確信だけは持っていた。

 

「それでも……今は、力が必要なんだ」

 

ZAFTとの戦いで散っていった戦友達の無念を晴らすためにも、今は使えるものは何でも使うしかない。

たとえ、それが呪われた力であっても───。

 

 

 

 

 

地球連合海軍第1艦隊旗艦”ジェームズ・クック”艦橋

 

「たしか、アズラエルの私兵を載せた艦があったな」

 

「は……?」

 

「出させろ。幸運にも、目標は明らかだ」

 

カール・キンケイド中将は決断した。───手段を選ばずにこの戦局を打開することを。

時間を掛ければ問題無く突破出来るとしても、その時間を掛けることが問題となるのだ。被害が増えるのも望ましくない。

その点で言えば、アズラエル財閥の息が掛かっている例の部隊を投入するには適切と言えた。

 

「長時間の戦闘には耐えられない、なおかつ精神的に不安定……それだけのデメリットを背負っているのだ。ここで活躍出来なければ、そんな兵士に価値など無い」

 

 

 

 

 

<敵MS接近、この速さは……!?>

 

その戦場に変化が訪れたのは、すぐだった。

連合海軍のある艦艇から発進した3機のMSが、近場の敵を撃墜しながら侵攻を開始したのだ。

ZAFT軍は否が応でも注視しなければならなくなった。

被害の多さもそうだが、そのMS達の頭部の形状が、看過していいものではないことを知らしめていたからだ。

 

<3機の『ガンダム』だと!?>

 

 

 

 

 

<分かっているな、E-01。あの砲台を破壊さえすればいいんだ。それだけしたら、あとは速やかに帰投するんだぞ。いいな!?>

 

「……あぁ?」

 

<貴様、その態度はなんだ!>

 

「あー……もーしわけありませんでした」

 

胡乱げな研究員を相手にE-01と呼ばれた青年……オルガ・サブナックは苛立たしげに返答する。

自分達のお目付役としてこの戦場にまで付いてきた彼は明らかに荒事に不慣れらしく、オドオドとしていた。

そのクセして、自分達に命令する時だけは強気にふるまってみせようとするのだ。そんな所をオルガは見下していたし、そんな男に命令される立場の自分自身にも腹が立っていた。

 

「シャニ、クロト! 上官様から有り難いお達しだ!『余計に暴れ過ぎんな』だとよ!」

 

<はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!……よく聞こえなかったけど何か言った、オルガ?>

 

<はんっ、向かってくる奴だけ殺せって言うんだろ? じゃあ全員殺せってことじゃん。───滅殺!>

 

───ダメだこりゃ。

オルガは早々に匙を投げた。彼ら『ブーステッドマン』達の指揮官役として多少は教育を受けた自分と違い、彼らが教えられているのは敵を殺すこと、それだけなのだ。

それでも、指示に従うだけの知能はある。ならば上手いこと使っていく他あるまい。

目に付いた敵を片っ端から墜としながら海岸線に近づく3機。当然、その迎撃のためにZAFTも3機に浴びせる攻撃の密度を上げていく。

 

「シャニ、壁」

 

<だる……自分で避けられないの?>

 

「さっさとやれよ!」

 

オルガの怒声に、渋々といった様子で禍々しい鎌を持った『ガンダム』、”フォビドゥン”が近寄る。

“フォビドゥン”は現在の連合軍では珍しく単独飛行可能、かつ『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』というビームに対して最強と呼べる防御装備をも備えたMSだ。それでいて火力も相応に高く、空飛ぶ城塞と呼ぶに相応しい。

『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』を内蔵した2枚の稼働装甲を前に出した”フォビドゥン”を撃破することは、陽電子砲でもなければ不可能だ。

”フォビドゥン”の影に隠れつつ、オルガの駆る『ガンダム』、”カラミティ”が全ての火力を解放する準備を進めていた。

 

「3カウントで離脱しろ。3、2、1……」

 

<はいはい。派手で綺麗なの、頼むよ>

 

「───おらぁっ!」

 

”フォビドゥン”が飛び退いた直後、”カラミティ”のあらゆる武装が海岸のZAFT防衛線に向かって火を噴いた。

プラズマ・バズーカ弾が、高出力ビームが、破壊力の塊じみた赤いビームが、哀れな生け贄と化した者達を吹き飛ばす。

人も戦車もMSも、何もかもを瞬時に焼き尽くしたその威容は、正に『災厄(カラミティ)』と呼ぶに相応しい。

 

「あん?」

 

<やれてないじゃん。ダッサ>

 

それでも、”マルドゥック”は健在だった。近くにいた”ジン”や”ザウート”が、身を挺して”マルドゥック”を守ったのだ。

西側で”マルドゥック”を攻略した”ブルーガーディアン”と違い、オルガ達は敵MSに対しても攻撃していた。要するに、余計なことをして時間を使ったがためにZAFT側に守備を固める時間を与えてしまったのだ。

圧倒的な火力に晒されたZAFT部隊は、それでもオルガ達に銃を向けて抵抗の意思を見せる。

───健気な努力だ。オルガは嘲笑った。

どうやらZAFTでは無駄死にという言葉を教えていないらしい。

 

<圧殺!>

 

更なる絶望を叩き込むために、天空から飛来した漆黒の『ガンダム』、”レイダー”が左手のハンマー『ミョルニル』を振り下ろす。

勢い良く打ち出された鉄球が向かう先は、ZAFT兵達が命を捨てて守った”マルドゥック”。

高速回転する鉄球が、既に損傷していた砲台にトドメを刺す。大きく凹んだ装甲から火花が散り、爆発を引き起こした。

この理不尽な襲撃者の手で、ZAFT兵達の命を賭けた奮闘は意味を喪失した。

 

「もくひょうたっせー。戻るぞ」

 

<えぇー、僕まだやれるんだけど?>

 

<俺もまだいけるよ。てかこいつら、ウザいくせに弱すぎ>

 

文句を言う2人にオルガは舌打ちをする。

たしかに余裕はある。機体にも、自分達の体にも。

”カラミティ”のコクピットには他の2機と異なり、『ブーステッドマン』である3人の時間制限を把握するための計器も備わっていた。それを見れば一目瞭然だ。

 

(どーすっかな……ここで戻んねーと、あいつらウルセーだろうな)

 

オルガは3人の中でもっとも強化度合いが低く、ある程度は思考を冷静に保てる。何かボロを出す前に帰還するべきと彼の理性は言っていた。

しかし、本能は他2人と同じく『戦わせろ』と叫んでいた。

3人は今日が初の実戦であり、それまではずっと苦しい投薬と訓練だらけの毎日を過ごしてきた。───こんなものでは、まるで鬱憤を晴らすのには足らない。

これまで苦しい思いをしてきた分、少しは楽しませて欲しいという思いがあったのだ。

 

「……おっ?」

 

思案するオルガ。その目が、レーダーに映る光点を認識した。

おそらく、敵の増援だ。海岸に到達した自分達を排除するためにやってきたのか、それともデカ物(マルドゥック)を守る為に出撃したものの、とっくに護衛対象が破壊されていたノロマか。

オルガはニヤリと、意地が悪そうに笑った。

ちょうど、()()()()()()()()()()()からだ。

 

「……あー、こちらサブナック少尉。敵の増援を確認した、味方の上陸を支援するため迎撃する」

 

<なっ、待てE-01───>

 

返事を聞かず、オルガは通信を切った。───後でテキトーに「戦闘の影響で通信が切れた」とでも言っておけばいい。

とにかく、大義名分は出来た。

 

「……ってわけだ。もう少し遊んでいこうぜ」

 

<へぇ、やるじゃんオルガ>

 

「クスリが切れそうになったらすぐ撤退だ、分かってんだろうな?」

 

<少しは時間制限があった方が面白いよ!───どっちみち瞬殺しちゃうけどね!>

 

3機の『ガンダム』が、禍々しく瞳を輝かせながら、増援部隊に襲いかかる。

遊び疲れたかのように3機が悠々と去っていった後には、無数の鉄くずが散らばるのみだった───。

 

 

 

 

 

衛星軌道上

”アークエンジェル”艦橋

 

「通信、きました! 『審判(ジャッジメント)』です!」

 

CICからサイが伝えてきたのは、彼ら”第31独立遊撃部隊”の出番を告げる符号だった。───愚かなるZAFTに『審判』を下せ、と。

海軍がついにハワイ諸島の海岸に到達し、温存されていた敵のMS部隊を引き釣り出したのだ。これで、降下部隊による敵陣への急襲が行なうことが出来るようになった。

司令官たるヘンリー・ミヤムラ大佐が立ち上がり、号令をかける。

 

「これより、本隊は大気圏内に再突入を行ない、ZAFTに占領されている真珠湾基地に対する攻撃を行なう。……各員の健闘を祈る!」




次回の更新……劇場版の公開日までには……間に合わせます……。

今回登場したブルーガーディアンについては、「C.Eでもこういう変なシステムついてる機体とか外伝あっても良いのに」という思いが発露したものです。
いつか、単独で番外編を書いてみたいなぁ…完結が遠のく…。

それと簡単なアンケートを実施します。
自分の抱える悩みの解決に皆さんの力を借りるようで心苦しいのですが、参加していただけると嬉しいです。
期限は次回投稿日までということで。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けて下ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。