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衛星軌道上 ZAFT艦隊
「長距離光学センサーに感あり、敵艦隊です」
「あれが『足つき』か……MS隊を発進させろ!」
荒い画質でモニターに映った
現在、地上のハワイ諸島では連合軍による反攻作戦が行なわれており、その規模は、この戦いの結果次第で後の地上戦の趨勢を決定するとも言われている程である。
男が率いているのは、そんな地上戦において大きな役割を担うであろう、敵降下部隊の妨害をするための艦隊だ。
ハワイで懸命の防戦を行なっている同胞達を救うための任務とあって、その士気は一兵卒にいたるまで高い。
「なるほど、『足つき』は地上でも飛行可能らしいし、降下部隊の移動司令部として使うつもりか。まったく、便利なものだな」
───我々にも分けてもらいたいものだ。
連合軍の狙いを看破した司令官は、発言とは裏腹に不敵な笑みを見せる。
『足つき』と言えばバルトフェルド隊を単艦で撃破してみせた大敵だ。撃沈すれば、それだけで最高級の勲章を授与されるのが確実とされるほどに。
大気圏突入という、もっとも無防備になるタイミングで遭遇出来たことは天恵に違いない。
「しかし、奴らは本気なんですかね?」
「ん?」
「『足つき』がいることには驚きましたが、それ以外は大したことが無いように見えます」
副官の漏らした言葉は、司令官も頷かざるを得ないものだった。
敵艦隊の数は”アークエンジェル”を除けば4隻。しかも、1隻は降下部隊のための大気圏突入ポッドを運んできたと考えれば実際に戦力に数えられるのは3隻がいいところだろう。
対するZAFT艦隊はというと、”ナスカ”級が6隻にMSも満載して36機。戦力が不足しがちなZAFTでは、大盤振る舞いと言って良い。
数で上回られるのが常だったZAFTからしてみれば、不自然極まる布陣だ。
「油断するべきでは無いが……これだけの作戦だ。もしかしたら、連合軍も手が回らないところがあったんじゃないか?」
ハハハ、と朗らかな雰囲気が艦橋を漂う。
勿論、戦いの前にリラックスさせるためのジョークとしての発言だが、それでも僅かに油断している。
しかし、彼らを責めることが出来る者がいるだろうか。倍以上の数で敵に攻撃しようというところで、まったく油断せずに挑める者がいるとすれば、それはなんとしても敵の全てを滅ぼしてやろうという、狂気に身を委ねた人間くらいだ。彼らはそこまで狂いきっていなかった。
だが、この場合は狂っていた方がマシだったかもしれない。
この後、彼らを襲ったのは、常識では量りようがない集団だったのだから。
「MS隊、全機発進完了しました。いつでも仕掛けられます」
「ようし……攻撃開始、手始めに艦隊による砲撃を───」
「待ってください、敵艦隊に動き……いや、大型の物体が接近してきます!」
「大型の?……詳細を報告しろ」
「これは……MSか? だが、この速さは……」
レーダーを見つめながら怪訝そうに話すオペレーター。実際、敵機を示す光点はMSを遙かに超える速度でZAFT艦隊に迫っていた。
レーダーだけで判別することは困難であると判断した司令官は再びモニターに視線を移す。───そして、絶句した。
「な、な、あれは……!?」
そこに映っていたのは、たしかにMSだった。連合軍の開発した”デュエル”だ。
しかし、背中に妙な物がくっついている。否、そのサイズを考えれば”デュエル”の方がくっついているようなものだ。
他にも腕部や肩部に妙なパーツを装着した
当然ながら、この場にいるZAFT兵達の中にそんな敵と遭遇したことのあるものはおらず。
ただ、誰でも分かる事実が1つだけあった。
「ガ……『ガンダム』が、来る!」
「きつ……い……でも、いけ、るっ!」
容赦無く自分に襲い来るGに耐えながら、アイザックはフットペダルを踏み続けて”デュエル”を前進させる。
現在の”デュエル”は”マウス隊”の誇る変態技術者達が開発した強化ツール『グリズリー・ユニット』を装備していた。この装備はスーパーロボット”真ゲッター3”をモチーフに開発されたものだが、その実態は些か異なっていた。
まず、原典の”真ゲッター3”は高い防御力と圧倒的ミサイル弾幕、そしてゲッターパワー漲る両腕によってあらゆる敵を粉砕するパワー型のスーパーロボットだ。
しかし、『グリズリー・ユニット』の場合は背中に装着した大型ブースターポッドがミサイルポッドを兼ね備えており、MSとしては異常な推進力を備えている。
優秀なコーディネイターであるアイザックでさえ気を飛ばしそうになる加速力は、”真ゲッター3”というよりも、C.E版の”デンドロビウム”のようだった。
「ターゲットロック……攻撃開始!」
アイザックがトリガーを引くと、”デュエル”の肩に装着された砲身から圧倒的威力のビームが敵部隊に向かって飛翔した。
両肩に装備されている『580mm複列位相エネルギー砲 スキュラ』は、PS装甲のMSさえも撃墜しうる武装だ。これをアイザックは、交互に一門ずつ連射していくことによって敵部隊に圧力を加えていく。
大型ブースターポッドの内部に内蔵された複数のバッテリーからエネルギーが供給されているため、エネルギー切れを気にする必要はない。
あくまで牽制として放たれた砲撃なので、敵MS隊は悠々と回避しつつ応射してくる。
30を超えるMSの攻撃に加えて、敵艦からも砲撃が飛んでくる。普通のMSであれば、圧倒的火力差に押しつぶされてしまうだろう。
「光波リフレクター、起動」
アイザックがスイッチを押すと、機体前方に淡く輝く光の膜が張られた。
”デュエル”の胴体に取り付けられた追加装甲に内蔵された、光波リフレクター発生装置によるものだ。
機体に直撃するコースの弾を瞬時にコンピューターが判断し、瞬間的にリフレクターの出力を上げて防御力を高めるこの装備は、正面突撃を行なう『グリズリー・ユニット』には欠かせない装備だった。
光波リフレクターで守備を固めながらも大推力を十全に発揮して敵部隊との距離を詰めていく”デュエル”。
その射程圏内に、敵部隊が収まった。
「全ミサイル、最終安全装置解除。熱感知追尾システム起動完了……いける!───ミサイル、ストォォォォォォォォムっっっ!!!」
トリガーを押し込んだアイザック。次の瞬間、大型ブースター各所のハッチが展開し、夥しい数のマイクロミサイルが敵部隊に向けて発射されていった。
“真ゲッター3”の必殺技、『ミサイルストーム』を模したこの武装が一度に発射する弾数は、180。戦艦級でもそうそうは発揮出来ない火力だ。
おまけに、発射されたミサイルはこの武装のために新規設計された新型だ。威力、誘導能力共に既存のミサイルよりも上回っている。
<これ、全部ミサイルかよぉっ!?>
<おちつけ、宇宙空間でそうそう当たるものでは……ぎゃっ!?>
ミサイルの雨あられに襲われた部隊は混乱状態に陥り、1つ、また1つとミサイルに命中していく。
冷静に対処していけば被害は最小限に抑えられただろうが、物量が与えるプレッシャーは想像以上に人に動揺をもたらす。ここで2機がミサイルで撃墜された。
「キャッチ!」
<え、なん───>
そして、ミサイルを避けていた1機の”ジン”を、”デュエル”の両肩に取り付けられた試作兵器『ギガントマキア』が
MSをスクラップするのに使われる工作機械を実戦転用したこの装備に掴まれたMSの最後は決まっている。
空気があれば、ビシッ、メギッ、という音が聞こえてきそうな有様で潰れていく”ジン”。パイロットは既に潰れて死亡し、肉塊に成り果てていた。
『ギガントマキア』が”ジン”の残骸を投げ捨てると、直後に”ジン”の推進材に引火して爆発を引き起こす。
「く……っはぁ。はぁ、はぁ……これは、流石にキツいな」
一度敵部隊から距離を取り、一呼吸を入れるアイザック。
ハッキリ言って、『グリズリー・ユニット』の加速力は、ナチュラルだコーディネイター云々が誤差でしか無いほどに人体には酷だ。
それでもアイザックは、この装備を十全に使いこなしていた。
(”ファルコン・ガンダム”に乗った経験が、まさかここで活きるなんて)
そう、アイザックはこの『グリズリー・ユニット』以上に暴れ馬な『ガンダム』に乗った事がある。
”真ゲッター1”を模したあの機体は、コーディネイターであるアイザックが薬物(合法)を摂取していなければ満足に動かすことも出来なかった。
たしかに『グリズリー・ユニット』は高推力ではあるが、常にあらゆる方向に内蔵をシェイクしてくるようなあのMSよりはマシだと考え、アイザックは戦いに意識を戻す。
「さて、と」
正面から突撃してきた”デュエル”の手によって、敵MS部隊は現在混乱の渦中にある。
アイザックは当初の計画通りに、敵MS部隊───ではなく、更に後ろに控える艦隊の方に機体を向かわせる。
(これでいい。目論見通り、敵部隊は混乱した。これで───)
『彼ら』が、思う存分に暴れられる。
アイザックが暴れている間に、5機のMSが戦場に向かってきていた。
彼らこそは”マウス隊”結成当初からのパイロット達。
地球連合軍最強のMS部隊が、生け贄と化したZAFT兵達に襲いかかろうとしていた。
「良い感じじゃないか、アイク!」
まず、専用に調整された”ダガー”を駆るエドワード・ハレルソンが切り込んだ。
2種類のストライカーの特性を合体させた『エールソードストライカー』。その機動力を以て敵陣に突入した彼は、手頃な”ゲイツB型”に対艦刀で斬りかかる。
”ゲイツ”は盾でそれを受け止め、払いのける。腕はそれなりに立つようだ。
今の”ダガー”は両手で振った対艦刀を弾かれた状態であり、大きな隙を晒している。
そこに、”ゲイツB型”の腰に取り付けられた新装備『エクステンショナル・アレスター』が射出された。絶対絶命のピンチだ。
「おっと、面白い武器じゃねぇか。だが!」
しかし、エドワードは咄嗟に脚部のスラスターを活用して、逆上がりをするように機体を回転させて攻撃を避けた。
こうなると、今度は『エクステンショナル・アレスター』を伸ばした”ゲイツ”の方が隙を晒してしまう。
エドワードは加えて、伸びきったケーブルを掴んで引っ張り、更に敵の体勢を崩した。
「貰ったぁ!」
2度目の斬撃を切り抜ける術を、”ゲイツB型”は持っていなかった。
横薙ぎに振られた対艦刀が”ゲイツB型”の胴体を真横に一閃。2つに別れた”ゲイツB型”はスパークしながら爆散する。
「絶好調!───次に斬られたいのは誰だぁ!?」
次へ、次へと敵を切り伏せていくエドワード。彼の二つ名、『切り裂きエド』の名はけして伊達では無いと言わんばかりの戦いぶりだった。
「エド、前に出すぎるなと何度も言ったわよ!」
エドワードに続いて、『乱れ桜』ことレナ・イメリアも攻撃を開始する。
彼女の駆る”ダガー”には『エールランチャーストライカー』が装備されており、『アグニ』には劣るものの高い攻撃力を誇る2門のビーム砲が装備されていた。
「そこっ!」
両肩のビーム砲を避けた”ジン”の回避行動を予測してビームライフルを発射する”ダガー”。”ジン”は呆気なくビームで撃墜された。
近接戦は不得手と見た”ゲイツA型”がレーザー重斬刀で斬りかかるが、レナの駆る”ダガー”をそれを華麗に回避して蹴りで反撃し、吹き飛んだ”ゲイツB型”にビームを射かける。
ビームを撃つ。避けた先に更にビームを撃つ。反撃を捌く。教本に載せられているような淡々とした戦いを、レナは的確にこなしていく。
1対1では敵わないと判断した2機の”ゲイツB型”が2方向から攻めるが、レナは後退することなく、むしろ踏み込んだ。
<なっ、こいつ!?>
「数少ないコーディネイターの同胞を、果たして撃てるかしらね!?」
ビームライフルを手放してビームサーベルを抜き放ち、”ゲイツB型”の腕を破壊した”ダガー”は、なんとそのまま後ろに回り込み、もう片方の“ゲイツB型”と自機の間に”ゲイツB型”を配置する。
ただでさえ連合軍に対して数で大きく劣るZAFTにとって、同士討ちはあり得てはならないことだ。
その躊躇の隙に、”ダガー”は盾にしていた”ゲイツB型”を蹴り飛ばして躊躇う敵機にぶつける。
「喰らえ、宇宙人共!」
『エールランチャーストライカー』の両翼にはミサイルランチャーが装備されている。レナはそれを、衝突した2機の”ゲイツB型”に発射する。
一塊になっている所をミサイルに襲われた2機の”ゲイツB型”は機体各所にミサイルの直撃を受け、間もなく爆散する。
「進化した人間と言っていたのだもの、宇宙で散るのは本望でしょう?」
教本のような丁寧な動きと、実戦経験に基づいた応用戦術。
そこに、家族をコーディネイターの手で奪われた者の怒りが加わっているのだ。今の彼女を止めるには、この場にいるZAFT兵達では力不足だった。
「重装甲が悪いとは言わんが……これはイマイチだな!」
自身の乗機に対する不満を漏らしながらも”ジン”を穴だらけにするのは、『月下の狂犬』と呼ばれるエースパイロット、モーガン・シュバリエだ。
彼の駆る”ダガー”は、普段よりも更に装甲を追加していた。
”フルアーマー・ダガー”。事前に”デュエル”などでデータ取りが行なわれていた『
主兵装は右腕に装着された『57mm二連装高エネルギービームガン』、そして両肩から大きく突き出るように装着された『90mm対MSガトリング砲”ザライスンレーゲン”』*1。
艦隊に近接戦を仕掛けてくる敵MSをこれらの装備を用いて迎撃するのだが、現状ではその役割を果たせるか怪しい、というのがモーガンの評価だった。
「目の付け所は悪く無いが、宇宙空間でこの反動を制御するのは……ああ、くそ、またズレた!」
主兵装である『ザライスンレーゲン』はたしかに通常装甲のMSを相手にする分には十分な火力を備えており、耐ビームシールドにも効果的ではあるものの、毎秒50発の弾丸を発射する反動は凄まじく、機体の動きを鈍らせてしまうのだ。
加えて、豊富な弾薬を供給するドラム型弾倉を装備するためだけに背中のストライカーシステムを使っているのもモーガンは気に入らなかった。
ストライカーは装着する物にもよるが、内蔵された追加バッテリーによる稼働時間の延長という恩恵を得られる。
しかしこの装備の場合、機体バランス安定のためにバッテリーが内蔵されておらず、機動力低下を防ぐスラスターも無いため、ガトリングを使えなくなった場合はデッドウェイトと化してしまう。
せめてビームガンとガトリングが逆だったなら、と思わずにはいられない。
「おっ!?」
そんなことを考えていると、1機の”ゲイツA型”が弾幕を掻い潜って”フルアーマー・ダガー”に接近を試みているではないか。
モーガンが苦心しながら攻撃を加えるが、”ゲイツA型”のパイロットはベテランのようで、ダメージを最小限に抑えながらレールガンで反撃してくる。
流石”フルアーマー・ダガー”というだけあって厚い装甲は本体に攻撃を通さない。それを見て取って、”ゲイツA型”はレーザー重斬刀を抜いて近接戦を試みた。
「ちっ、こんな時に限って」
ここで、不運がモーガンを襲った。『ザライスンレーゲン』が弾詰まりを起こしたのだ。
ビームガンを射かけるが、弾幕の圧力が消えたことを好機と見て”ゲイツA型”が加速する。
絶対絶命のピンチだ。レーザー重斬刀が振りかぶられ───。
「───おらよ!」
だが、その刃がモーガンの命を奪うことは無かった。
咄嗟に前方に加速したモーガンの”フルアーマー・ダガー”は右肩を前に突き出し、タックルを”ゲイツA型”に命中させる。
レーザー重斬刀は大きく突き出た『ザライスンレーゲン』の砲身を切り飛ばすだけに留まった。
普通ならここで距離を取って仕切り直すところだが、”フルアーマー・ダガー”にはもう1つ、左腕に装着された武器が残っていた。
「貰ったぁ!」
モーガンは”ゲイツA型”の腹に当てた
『まさか、そんなものを───』
接触回線が起動したのだろう、敵パイロットと思しき声が響く。
”フルアーマー・ダガー”の前には、腹部に大きな穴が空いた”ゲイツA型”が漂っていた。
「……俺もまさか、使うとは思っていなかったさ」
”フルアーマー・ダガー”の左腕に装着されていたのは、『炸薬式徹甲杭”ビギニング”』*2。───まさかのパイルバンカーである。
接近してきた敵機の攻撃を装甲で防ぎ、カウンターで命中させることを目的として装備されたものだが、使い勝手が悪すぎるのが難点だった。
実際、一部の変態技術者が「
状況が状況だったために使用したが、そうでなければ別の銃器でも装備していた方が遙かにいいだろう。
「とは言え、ガトリングが使えないんじゃ能力半減だ。すまんが、俺は下がるぜ」
不満を持ちながら、モーガンは母艦に向けて後退を始めた。しかし、そのことが彼の評価を落とすことは無い。
先ほどの”ゲイツA型”を含めて、モーガンは既に4機の敵MSを撃墜している。初乗りかつ、問題を抱えた機体に乗って、である。
”マウス隊”でもっとも多くの戦闘経験を積み重ね、自らの直感を信じる胆力を兼ね備えるモーガンにとっては、それでも不満のある戦果だったのかもしれない。
「モーガンさんが離脱しました、火力が減るので注意が必要ですよぉ……!」
戦場を赤い『ガンダム』が駆け抜ける。『ゲームマスター』セシル・ノマの駆る”イージス”だ。
この世界でも1機だけZAFTに奪取されてしまったこの機体は、以前に『クライン派』との裏取引で返却されたものだ。
ZAFTに奪取されて情報が渡ってしまった今となっては戦略的価値の薄い機体だが、優秀な機体であることに変わりなく、愛機が強化修復中のセシルに代用機として宛がわれたのである。
「”ヒドゥンフレーム”よりも前に出る機体ですけど、なんとか……!」
気弱な発言とは裏腹に、正確無比な射撃を浴びせていくセシル。本来の乗機である”アストレイ・ヒドゥンフレーム”が狙撃機のためか、1発ごとの正確さを重視した撃ち方をしている。
並のコーディネイターを遥かに超える情報処理能力を有する彼女の役割は、”イージス”の機動力と通信能力を活用した遊撃だ。
「エドさん、狙われてます!」
一瞬でMA形態に変形した”イージス”が、エドワードの”ダガー”を後ろから狙う”ゲイツB型”目掛けて『スキュラ』を発射する。
発射された『スキュラ』が”ゲイツB型”のライフルを右腕ごと破壊するが、彼女はそこから更に加速し、体当たりを仕掛けた。
MA形態の”イージス”の突進に弾き飛ばされた”ゲイツB型”が体勢を崩し、再びMS形態に変形した”イージス”がライフルでそれを打ち抜く。
<わりぃセシル、助かった!……おい、大丈夫か?>
「うえぇ……シミュレーションでは普通にやれましたけど、結構、瞬間的にぃ……」
通信画面を開いた先のエドワードは、むしろセシルを心配する言葉を口にする。
先のモーガン同様に初めての機体を使いこなすセシルだが、一瞬のうちに”イージス”の高加速を味わったことにより、グロッキーになっているようだ。
そこを見逃さずに狙う”シグー”を、横から飛来したビームが撃ち抜く。
<大丈夫、セシル?>
”シグー”を撃破したのは、『機人婦好』ことカシン・リーの”バスター改”だ。
両手で保持しているビーム兵器『ヴェスバー』は、複数種類のビームを発射することの出来る高性能ビーム兵器であり、正面から耐ビームシールドを貫通することも可能となっている。
そんな『ヴェスバー』を操るのは、高い射撃能力を持つ”バスター”と、”マウス隊”最高の射撃能力を持つカシンの組み合わせだ。
既に彼女は、敵部隊が他の”マウス隊”に注意を引かれているところを狙い撃つことで6機もの敵MSを撃破していた。
「すみません、カシンさぁん……」
<大丈夫、もう終わりそうだから>
カシンの言葉通り、既に戦場は終局に向かっていた。
モーガンが離脱したとはいえ、この時点で1人当たり最低でも4機、合計で24機のMSを撃墜している。そこに加えて、アイザックは単独で艦隊に攻撃を開始しており、3隻の”ナスカ”級を撃沈していた。
未だに10機程度のMSが残っているが、その程度の数的優位は”マウス隊”フルメンバー相手には何の足しにもならない。
”アイアース”が混ざっていればもっと手こずっていたかもしれないが、それはおそらく”ゴンドワナ”艦隊の方に回されたのだろう。この戦場には確認出来なかった。
「それにしても皆さん、久しぶりの宇宙戦だっていうのに大暴れしてますねぇ……ほんとにずっと地上で戦ってたんですかねぇ?」
<おいおい、俺達が実戦に出始めた頃は、こんな風に宇宙での乱戦ばかりだったろ?───身体に染みついてるのさ!>
エドワードの言うとおり、”マウス隊”はデータ収集のためにOSが未完成であっても戦う必要に迫られることも多々あった。
そんな中で彼らが選んだ戦術が、デブリ帯における待ち伏せ・先制攻撃・敵の連携阻止を徹底したものだった。それが一番、生き残る確率の高い戦術だった。
デブリ帯ではないが、今このシチュエーションは正に彼らがもっとも得意とする状況なのだ。
<1機抜けたわ!>
とは言え、全てを完璧に進められるわけではない。
1機の”ゲイツB型”が、後方の”マウス隊”母艦の方に向かっていったのだ。誰がどう見ても破れかぶれの突撃だった。
咄嗟に反応して狙いを定めるセシル達だったが、そこに通信が届く。
<───こちら、スカーレット1。迎撃は任せてください、そのための『スカーレットチーム』です>
<ちくしょう、聞いてない、”マウス隊”が再集結してるなんて、聞いてないぞ!>
つい10分ほど前まで「たった3隻の艦隊なんて楽勝」と余裕の態度でいたZAFT兵は、左腕を失った愛機”ゲイツB型”を、”マウス隊”の母艦である”コロンブスⅡ”目がけて進ませていた。
既に部隊は壊滅状態に近く、母艦も奇妙な装備の”デュエル”に襲われて撃沈されていた。こうなってしまっては、もうどうしようもない。
生き残っている彼らに許されている選択肢は『投降』か『死』か、この2択だけだ。
そして、彼は『死』を選んだ。生きて虜囚となることを、彼のプライドは良しとしなかった。
<せめて……せめて一太刀……!>
幸か不幸か、艦隊からの迎撃の勢いは大した物では無く、傷ついたMSでも回避が可能な程度のものだった。
前線のMS隊に誤射しないようにしているのだろうか。ZAFT兵は、望外の幸運に笑みを作る。
───もう自分に生き残る道は無いが、”マウス隊”の母艦を沈められれば、それは後の味方の助けとなるだろう。
<うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!>
「フォーメーション、パターン8で行くぞ!」
『了解!』
ZAFT兵の前に、3機の”ストライクダガー”が立ちはだかる。
ベンジャミン・スレイター少尉、ブレンダン・ゴンザレス軍曹、ジャクスティン・ウォーカー伍長の3名で構成される『スカーレットチーム』だ。
規模が拡大した”マウス隊”に新たに配属されてきた彼らは、この戦闘において艦隊の護衛を担当していた。
<どけぇ、雑魚共!>
”ゲイツB型”はビームライフルを連射するが、”コロンブスⅡ”を撃沈することに思考を占有されている状態で放たれたビームの精度は悪い。
『スカーレットチーム』各機はビームを避けつつ散開し、3方向から反撃のビームを加えていく。
「無理に当てようとしなくていい、追い込むんだ!」
ベンジャミンの言葉に従い、3機の”ストライクダガー”の射撃は徐々に包囲網を狭めるように狙いを”ゲイツB型”に集束していく。
最初は外れ弾ばかりの弾幕を嘲っていたZAFT兵も、『スカーレットチーム』の狙いに気付いて顔を青ざめさせた。
<くっ、こいつら……!?>
やがて、3方向から放たれたビームがほぼ連続して”ゲイツB型”に突き刺さる。シールドを左腕ごと失った”ゲイツB型”に、これを防ぐことは出来ない。
全身をビームで貫かれた”ゲイツB型”は、間もなく爆散した。無謀な突撃の、当然の末路だった。
「こちらスカーレット1。敵MSの迎撃に成功しました」
<こちら”コロンブスⅡ”。降下部隊を含めて被害は確認されませんでした、引き続き警戒をお願いします>
「了解」
ベンジャミンは通信を済ませると、再び油断なく前方を睨んだ。
「我々『スカーレットチーム』がいるんだ、簡単に母艦を沈められると思うなよ」
”コロンブスⅡ”艦橋
「……若干、敵部隊に同情してしまいますね」
「上官としてはその言葉を咎めるべきかもしれんが、同意だな」
艦長のカルロス・デヨーが漏らした言葉に、ユージは苦笑を返した。
実際、”マウス隊”のパイロットが全員宇宙に帰還しているという事実をZAFTが知る機会は、今が初だろう。
フルメンバーの”マウス隊”、しかも大作戦に向けてトンデモ試作装備を持ってきている。相手方からすれば、理不尽極まる布陣だ。
「”マウス隊”初期メンバー、それもパイロット達は誰もが異名持ちのトップエースだ。これまでは最低でも誰か1人が艦隊の防衛に付かなければならなかったんだが、今は『スカーレットチーム』がいる」
「本来彼らが持っていた『攻撃力』の全てを、ようやく全力でぶつけられるようになったということ?」
「そういうことだ」
ユージはマヤの言葉を肯定した。
どんなに優れたMS隊でも、母艦を撃沈されてしまえばどうとでも対処が出来る。実際、これまでの戦いでMS隊を無視して母艦を狙われることも何度かあり、大抵の場合は手こずらされていた”マウス隊”。
しかし、今は『スカーレットチーム』がいる。色々と不安な名前ではあっても、普段からアイザック達にしごかれて身についた実力は伊達ではないのだ。
「敵艦隊、全艦撃沈を確認しました」
「分かった、残存する敵MS部隊に投降勧告を───」
「……今、最後の敵MSが撃墜されました」
再びユージは苦笑し、頭を軽く掻く。
───これからは、あらかじめ投降勧告をするべきだろうか。彼らの腕では、ユージが言葉を発するまでの短時間で残った敵を全滅させてしまう。
「手加減しろ、とは言わないがな……まぁ、いいか。全員無事だし」
「本官としては手加減して欲しいですな。これでは艦隊の出番がありません」
不満そうなカルロスへ、つい「無い方がいいんだよ」と言いかけるユージだが、口を
大鑑巨砲を愛する彼にそんなことを言ったらヘソを曲げてしまうだろう。
「隊長、格納庫から通信が……」
<───なんとかしてくれ隊長! こいつら、破損した装備と一緒にパイルバンカーを外せっていったらボイコットを始めやがったんだ!>
<<<それを外すなんて、とんでもない!>>>
「またか、あのバカ共!」
忘れてはならない。”マウス隊”が最強の部隊であり続けるためには、頭のネジが緩い変態技術者達の手綱を取らなければならないということを。
艦橋にて部隊の指揮を取り、デスクで書類を片付け、ハルバートンに頭を下げて予算を認可してもらい、そして暴走する変態達を鎮圧する。
”マウス隊”隊長、ユージ・ムラマツ。もしかしたら、隊で一番『戦っている』と言えるのは、彼なのかもしれない───。
次は、2週間以内に投稿します。
また、返信は出来ていませんが感想欄も欠かさず目を通しています。いつも愛読していただき、感謝の念が耐えません……(泣)。
次回は、久しぶりに地上へ視点を移したいと思います。
また、ここで『グリズリー・ユニット』を装備したデュエルのステータスを記載したいと思います。
参考までに、素体のデュエルのステータスも載せておきます。
長いので興味の無いかたはスキップ推奨です。どうせフレーバーテキストなので。
デュエルガンダム(グリズリー・ユニット装備)
移動:10
索敵:B
限界:190%
耐久:500
運動:47
PS装甲
光波リフレクター(回避選択時、射撃ダメージ半減)
武装
スキュラ:270 命中:50 間接攻撃可能
バルカン:30 命中:50
破砕アーム:400 命中:60
ミサイルストーム:180 命中:60(MAP兵器)
デュエルガンダム
移動:7
索敵:C
限界:170%
耐久:300
運動:32
シールド装備
PS装甲
武装
ビームライフル:130 命中 70
ゲイボルク:160 命中 55 間接攻撃可能(ビームライフルと選択式)
バルカン:30 命中 50
ビームサーベル:150 命中 75
武装変更可能
ギレンの野望でいうところのデンドロビウムみたいに運用するユニットをイメージしています。
敵陣に突っ込んで豊富な防御スキルで耐えて、ミサイルストームをぶちまける……みたいな。ギレンの野望でそんなプレイしたら、即袋だたきですけどね(笑)。
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。