機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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色々と折れた心を接着しながら投稿しました。
前回から時間が経って「どんな話だったっけ」という方のために簡単なあらすじを説明すると、

①連合軍、ZAFTに占領されたハワイを奪還するために大戦力を集めて「オペレーション・ブルースフィア」を発動する。
②キラ達、アークエンジェル隊もその作戦に参加するべく衛星軌道上で待機中。
③ユージ達オリジナル主人公組はその護衛。
④それとは別に、衛星軌道上に陣取るZAFT艦隊を攻略するべく連合軍の第1・第8艦隊が戦闘を開始。←今ここ




第130話「オペレーション・ブルースフィア」 4

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地球衛星軌道上

 

<敵MS隊を確認、これより攻撃を開始する!>

 

規律だった動きで進むのは、地球連合宇宙軍第8艦隊のMS隊だ。

無機質なゴーグル状のカバーに覆われたカメラアイを備える鋼鉄の巨人達は、目の前に迫り来る()をその視界に捉えていた。

 

<来たぞ、第8艦隊のMS部隊だ!>

 

迫り来るZAFTの迎撃MS隊は、第8艦隊よりも動きの統率は取れていないようだったが、個々の動きの機敏さでは勝っているように見える。

一部例外はあれど、自然のままに生まれたナチュラルと、遺伝子操作をその身に受けて生まれ出たコーディネイターの違いが如実に出ていると言えよう。

しかし、この場に集ったそれぞれに共通して理解していることがある。

───今、この瞬間、この場を支配している『死』の気配の前では全てが等しく平等だと。

 

<“ゲイツ”は俺達(ベテラン)がやる、新兵共は”ジン”を狙え!大丈夫、”ストライクダガー”でも”ジン”よりは性能が上だ。確実に1機ずつ落としていけばいい!>

 

先頭を駆ける”ダガー”に乗ったパイロット───”テスター”が配備され始めた頃から生き残っている熟練者───が声を張り上げて指示を出した。

彼の”ダガー”の背中にはマイクロミサイルポッドとグレネードランチャーを備えたストライカーが装着されていた。

『マッドドッグストライカー』。元々はモーガン・シュバリエの為に開発された専用ストライカーだったものの、機体の重量バランスを大きく変えずに火力と機動力を増すことが出来ることから量産されたストライカーだ。

他にもマッドドッグストライカーを装備している機体は複数見られ、前線の兵士から高く評価されていることが分かる。

しかし、新しい武器を持ってきているのは連合軍だけではない。

 

<待て、一部の”ゲイツ”が見たことの無い武器を……!?>

 

何かに気付いた連合兵の呟きの直後、連合軍MS部隊に向かって()()()()()が飛来する。───ビームによる攻撃だ。

そのビームに命中した者はいなかったが、それ以上の衝撃を連合軍MS部隊に与えていた。

 

<遂に、ZAFTもビームライフルを……!>

 

この世界では、『原作』と異なり早期に連合軍がMSを配備し始めたことによって様々な食い違いが発生していた。

その1つが、ZAFTのMS”ゲイツ”だ。このMSは本来、連合軍の開発した『G』の性能とその正式配備に対応するために開発が遅延し、戦争終盤まで実戦投入が遅れてしまったという設定があった。

しかし、この世界では”ストライク”の制式量産機である”ダガー”が早期に投入され、前線を維持するためにビーム兵器を扱えない”ゲイツA型”という機体が実戦配備されている。

要するに、この世界における”ゲイツ”は()()()()()()()()()()筈なのだ。

その前提が今、崩れた。

 

<───各員へ告ぐ、一部の敵MSがビーム兵器を装備している!>

 

突如として伝えられた情報に動揺が広がっていくが、それを戒めるべく指揮官達は指示を出す。

 

<落ち着け、敵がビームを使ってこようがやることに変わりは無い。必ず複数機で掛かれ、単独では戦うな>

 

<”ストライクダガー”のシールドはビーム耐性がある、むしろチャンスと思え!>

 

士気が落ちないようにそれぞれに発破を掛けていくベテラン兵達。

だが、頭の中では新たな敵に対応した戦術の練り直しを始めていた。

 

 

 

 

 

<───撃ったのは誰だ、あんな当てずっぽうが当たるか!>

 

対するZAFT側のMS部隊はというと、ビーム兵器を装備した”ゲイツ”という隠し球を持ってきたというのに不安が漂っていた。

それも仕方の無いことだろう。遂にビーム兵器を装備することに成功した”ゲイツB型”───『原作』における”ゲイツ”───だが、そのパイロットの多くは実戦経験の少ない新兵(ルーキー)なのだから。

勿論、これにもワケがある。

ZAFT側にとって敵主力となる”ダガー”は、耐ビームシールドに加えて胴体周りに耐ビームコーティングを備えているなど、ビームに対して高い防御力を持つ機体だ。加えて、その簡易量産型である”ストライクダガー”でさえ耐ビームシールドを標準装備している。

つまり、“ゲイツB型”は実戦との噛み合いがそこまで良くないのだ。

 

<いいか新兵共、ブリーフィング通りだ。前衛の俺達が攪乱するから、お前達は1機ずつ丁寧に落としていくんだ>

 

<間違っても”ダガー”に撃つなよ、”ストライクダガー”を狙え!───”ダガー”は俺達の獲物だからな、横取り厳禁だ!>

 

このことを受けて、ZAFT側のMS戦術は新たに練り直されることとなった。

”ゲイツB型”はたしかに”ダガー”との相性は良くないが、その性能は新型機として相応しいものを備えている。それこそ、”ストライクダガー”などは1対1であれば余裕を持って撃破出来るほどだ。

ならば、”ストライクダガー”の対処を”B型”にやらせ、旧式となった”A型”が”ダガー”を対処すれば良いのではないか。その結論に至るのは、至極当然のことだった。

不幸中の幸いというべきか、”ゲイツA型”は主装備は実弾兵器のレールガンであり、耐ビーム装備の影響を受けない。

加えて”A型”に乗っている兵士達は連合軍MS部隊との戦闘経験を相応に積んでいる者が多かったため、新兵に高性能機を宛がって生残性を向上させることにも繋がる。

 

 

 

 

 

『より多く、より早くベテランを()った方が勝つ!』

 

連合軍とZAFT。敵対する者同士でありながら、至る結論は同じだった。

連合軍側からすると、たしかにコーディネイターは1人1人の基礎能力では自分達に勝るが、経験の浅い新兵であればどうとでも対処出来る。それこそベテランであっても、数倍の物量をぶつければ障害にはなり得ない。

一方、ZAFTからしても基礎能力で劣るナチュラルなどは1対1ならば容易く御せる存在だ。無論、複数を相手にする場合は話が別だが。

だからこそ、ベテランという単純な数値で表せない戦力を早急に排除し、それぞれの有利を押しつけられるようにする必要がある。

示し合わせたかのようにベテラン同士、新人同士に別れて銃口を向け合う両陣営。

 

『喰らえっ!』

 

1つ、また1つと光条の数が増えていき。

────それに比例して、火の玉の数も増えていった。

 

 

 

 

 

”ゴンドワナ”艦橋

 

「第9ブロックに被弾、損傷は極めて軽微!」

 

「”マーティノー”が被弾、後退します!」

 

「戦線に穴を空けるな、”トクヴィル”を向かわせろ!……想定の範疇ではあるが、その中でも最悪に近いな」

 

ZAFT艦隊旗艦”ゴンドワナ”、その艦長席に座るクロエは幼い顔立ちを歪めて臍を噛んでいた。───もっと戦力を集められていれば、と。

とは言え、この場の戦力だけでもZAFT宇宙軍のリソースを大きく削ってかき集めたのだから無理な過程である自覚はあった。余計な妄想に時間を費やした自分を叱咤し、戦況を分析するクロエ。

 

(陣形は保てている。だが、何も手を打たないでいればいずれは崩れ去るだろう。さすがオルデンドルフ師、MSを絡めた艦隊運用でも手堅く攻めてくるな)

 

クロエの見立てにおいて、この戦場でもっとも優先して対処するべきは敵艦隊からの砲撃だ。

MS隊は現在でも十分に奮闘している。精強と知られている第8艦隊のMS隊を相手にしているのだ、拮抗でも十分な働きと言えよう。

しかし、これだけ大規模な戦場ともなればMSが奮戦するだけでは到底勝利には届かない。

艦隊による砲撃が必要なのだ。MSを切り込ませ、大物を仕留めるというZAFTの戦術を通すには。

 

(だから艦隊戦想定の艦種を増やすべきと言ったんだパトリック……いかん、また過ぎたことを)

 

クロエも、この状況に備えて砲撃戦能力に長けた艦を開発するべきだという考えを持っていたが、ZAFT総司令のパトリックに進言したことがあった。

しかし、「リソースが足らない」という何度直面したか分からない理由で断念していたのだ。この場合のリソースとは、物的・人的の両方の意味である。

しかし、クロエの口元には笑みが浮かんでいた。

あくまで「最悪に近い」であって、想定の範囲内ではあったからだ。

 

「ここからが本番だ。───()()()です、オルデンドルフ師。貴方の弟子が、リハビリに付き合って差し上げましょう」

 

 

 

 

 

連合宇宙軍第1艦隊旗艦”ペンドラゴン” 艦橋

 

「作戦進行率8%、予定よりも遅れています」

 

「問題は無い、作戦を継続せよ。───左翼の動きがまだ固いな……実戦経験の問題か」

 

”ペンドラゴン”艦長を務める少女、リーフからの報告を聞きながら、第1艦隊総司令官を務めるオルデンドルフは泰然と顎髭を撫でる。

彼の率いる第1艦隊は、『大西洋連邦』の威信を賭けて建造された”ペンドラゴン”級戦艦を始めとして最新鋭の戦力を多く集めた大艦隊だが、実戦を行なうのはこれが初めてだ。

訓練をいくら積んだところで、実戦経験が伴わないのであれば張り子の虎でしかない。

事実、敵艦隊を上回る規模かつ、連合宇宙軍最精鋭と言って良い第8艦隊に前衛を務めて貰っても戦線を拮抗させられている。

優勢ではあるが、流れを掌握出来ているとは言えない。

 

「提督、”ダンカン”と”ヴェンジェンス”を前進させて左翼側への圧力を増やしてはどうでしょうか」

 

「リーフ艦長、その選択は上に立つ者として相応しいものではないな。貴官も初の実戦で緊張しているようだが、上の人間の動揺は敵に付け入る隙を与えるだけだぞ?」

 

「……申し訳ありません」

 

謝罪するリーフに、僅かに笑みをこぼす。

リーフは間違い無く天才だ。これまでオルデンドルフが見てきた中で最も才能があり、メンタルも安定している。

そんな彼女でさえ、普段は絶対にしないであろう凡庸な進言をする程度には動揺しているのだ。

先にリーフが名を出した艦を前に出せば、たしかに作戦の遅れを取り戻すことは出来るだろう。

だが、本陣には隙が生まれる。それを見逃すような相手では無い。

 

(やはり、彼女を艦長に推して正解だったな。上層部を説得するのは骨が折れたが……)

 

本来であれば少尉階級であるリーフが”ペンドラゴン”の艦長に据えられることは絶対にあり得ない。オルデンドルフが第1艦隊総司令を就任する条件として、無理矢理にねじ込んだのだ。

たしかに彼女は若く戦争の経験も浅いが、それはイコールで多くの経験を積む機会に恵まれているということでもある。

オルデンドルフは彼女の師として、教え子を育てる絶好の機会を逃すつもりは無かった。

そして、それはリーフにとっても同じ。

 

(……師の言うとおり、先の進言は愚策に過ぎましたね。少しばかり遅れているとしても、確実に進んでいるのだから)

 

リーフは己の失言を恥じていた。

海軍の家系として、そしてオルデンドルフの弟子として、いずれ大西洋連邦軍の将になると志しているリーフにとって先の進言は自身の未熟を証明するものでしかない。

戦場の一部の状況だけを見て行動するなど、普段の自分ならば絶対に取らない選択だ。

 

(両翼に広がった艦隊は、着実に敵艦隊を追い詰めている。徐々に与えるダメージが増えているのは事実……でも)

 

現在の戦況を振り返り、リーフは違和感を抱いていた。敵の動きが()()()()()()()()()()()()()ような気がするのだ。

連合艦隊は、敵艦隊を半方位するように両端に圧力を掛けるように攻撃を加えている。敵艦隊の分散を防ぎ、一箇所にできる限り纏めるためだ。

一箇所に集めた敵軍を一気に殲滅する。王道の戦略と言えよう。───()()()()()()()()()

作戦が始まる前に、リーフはオルデンドルフから、敵将であるクロエ・スプレイグについて聞かされていたことがある。

 

『あやつはな、言うなれば攻撃的な指揮官なのだ。敵が強固な陣を敷いている時、順調に事を為している時にこそ輝く。どこから噛みついてくるか分からんぞ?』

 

その人物評と戦況が一致しない。

かと言って、敵艦隊に妙な動きがあるわけでもない。事前に作戦領域外に展開された偵察部隊からも、特に異常は報告されていない。

前後左右、そして上からも、敵が何かを仕掛けている気配は感じられない。

 

(……上?)

 

そこまで考えて、リーフは気付いた。

あるではないか。この衛星軌道上という戦場において、唯一警戒が甘くなる方向が。

リーフは以前、衛星軌道上にて発生した戦闘という条件下での盤上演習にて、オルデンドルフに敗北している。

 

彼女(クロエ)も師から教えを受けている……ならば、確実に知っている筈!)

 

そう考えれば、この違和感にも納得がいく。

敵は、クロエは自分達を誘い込んでいたのだ。

振り向いた先のオルデンドルフは、ニヤリと笑っていた。その笑顔が、教え子が正解にたどり着いたことを喜ぶ時のものであると知っていたリーフは確信する。

この状況を確実にひっくり返すための手は、あれだ。

 

「───『下』ですっ!」

 

 

 

 

 

<全コンテナの固定、完了。作業員は直ちに待避せよ。繰り返す───>

 

リーフがクロエの狙いに気付く直前、とある場所では何かしらの作業が進められていた。

その場所では、ZAFTの隊員が複数のコンテナを次々とレールに固定しており、アナウンスに従って次々にその場を離れていく。

 

「お前ら、見落としはしてないだろうな!?」

 

「当然ですよ、マヌケなナチュラルじゃないんですから!」

 

「マヌケにナチュラルもコーディネイターもねえから言ってんだ!」

 

走りながら現場監督らしき人物が若い作業員に怒声を飛ばす。

怒鳴っている人物も本気で激怒しているわけではない。ここに至るまで何度もチェックを重ねているのだ、これで失敗したなら運が無かったと言うしかないだろう。

 

<カタパルト、正常作動。電磁レールの電位値、基準値をキープ>

 

<全システム、オールグリーン。───『ハビリス』、射出開始!>

 

十分に距離を取った作業員達の見つめる先では、数㎞にも及ぶ巨大構造体が先ほどまで彼らが最終点検を行なっていたコンテナを次々と宇宙に向けて撃ちだしていく光景が広がっていた。

マスドライバー『ハビリス』。ZAFTが地球連合軍から奪取し、運用している唯一のマスドライバー。

そう、ここはビクトリア基地。アフリカ大陸における一大拠点であり、遠からぬ未来に激戦が繰り広げられるであろう地だ。

 

「まさか、連合軍も想定していないでしょうね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「さて、どうだろうな。過去に全く例が無いというわけでは無いらしいぞ」

 

「えぇ……」

 

「よく言うだろ、『革新的なアイデアというものは、大抵は先人達が既に思いつき、敢えてやらなかったことだ』ってよ。高コストに加えて精度もそこまで高くない」

 

「じゃあ、なんで今やるんですか?」

 

「こんな奇策でもないと勝てないような相手ってことだろ。ま、俺達はやることはやった。後は、上の奴らの仕事さ」

 

 

 

 

 

「地球、アフリカ大陸より本艦隊に向かって飛翔する物体を確認!」

 

「やはり……迎撃開始!」

 

「くっ、ははは……。あの小娘、師に向かって問題を出すとはな」

 

リーフの推測通り、『ハビリス』から放たれた物体が艦隊に飛来する。

間一髪で気付いたリーフの指示によって迎撃の砲火が放たれるが、如何せん距離が離れていることや、重力に引かれてまっすぐ飛ばない物が多く、効果は薄かった。

 

「まさか、本当に仕掛けてくるとは」

 

「そのまさかをやるのが、クロエ君の長所だ。必要と判断したら躊躇いなく……うん?」

 

そこまで言いかけて、オルデンドルフは違和感を抱いた。

この奇策は、かつてオルデンドルフがクロエに教授したものだ。

衛星軌道上に展開した敵艦隊に向けて、もっとも警戒の薄い下方向、つまり地球から攻撃するというこの奇策には欠点がある。

 

それは、マスドライバーで打ち出すという方法を用いているがために正確に目標を定めることが出来ず、それ単体では効果が薄いということだ。

故に、他に何かしらの策を用意しておかなければ空撃ちに終わるのだが、この攻撃に合わせて敵艦隊が動くような様子は無い。更に別の方向から仕掛けてくる様子も無い。

 

(この攻撃だけで効果が見込めるということだろうか。だとすれば、打ち出されてきた物体の正体は……っ!)

 

───やってくれたな!

オルデンドルフは舌打ちをした。それは教え子に対する賞賛と、嫉妬が大いに入り交じるものだった。

 

「『ラウンズ』を出撃させろ、早く!───食い荒らされるぞ!」

 

 

 

 

 

<───偽装解除、攻撃開始!>

 

地球から打ち出されてきた物体……物資輸送用の大型コンテナが、1発の弾丸も命中していないにも関わらず分解する。

そこから現れたのは、連合軍艦隊にとっての天敵───ZAFTのMS隊だ。

クロエはマスドライバーを用いて、コンテナにMS隊を載せて地球から打ち出させたのだ。

 

<ちくしょう、最悪の乗り心地だった!>

 

<その甲斐はある。見ろ、連中の懐に潜り込めるぞ!>

 

コンテナの中から飛び出た”ジン”や”ゲイツ”は勢いのままに連合艦隊の方へ向かっていく。地上から宇宙に打ち出されたばかりだというのに、その動きに澱みは無い。

マスドライバーは有人の弾体を打ち出す方法としてはかなりの加速が掛かる乱暴な方法*1であり、それはC.Eの時代においても変わりの無い事実だ。当然、打ち出された人間に掛かる負荷も少なくない。

しかしコーディネイター、それもMSパイロットになれるだけの適正を持つ者は高い耐G能力を持っている者が多く、この負荷に耐えられる。

コーディネイターの強みを活かした、ZAFTらしい戦術と言えよう。

だが、対する連合軍を率いているのは名将ウィリアム・B・オルデンドルフだ。易々とことを運ばせるようなことはしない。

 

<くそっ、正気か奴らは!?>

 

<正気で地球に戦争を仕掛けたりはせんだろうよ!───こちら『ラウンズ』、これより征伐を開始する!>

 

連合軍艦隊から飛び出してきたのは、第1艦隊の防衛を担当する部隊、通称『ラウンズ』と呼ばれるMS隊だ。

戦場の女神と呼ばれ一部の船乗りに心酔されている”ペンドラゴン”を守護する騎士団たる彼らは、最新鋭のMSに優秀な人材を集めた精鋭部隊だ。

その換えの効かなさから前線への投入は慎重にしなければならないが、すぐそばまで迫る敵を相手に出さないわけにはいかない。

 

<”ペンドラゴン”の美しさに少しでも(かげ)りが生まれることがあってはならん!>

 

『ラウンズ』の指揮官、オーキンス・オーキンレック大尉は、イギリス王室近衛兵の制服を思わせる赤と黒に塗られた”ダガー”を駆って部隊の最前方を突き進む。

MSは歩兵の延長線上にある兵器と言われている。なればこそ、オーキンスは最速で敵に向かっていくのだ。

古来より、前に出ない臆病な将についてくる兵などいないのだから。オーキンスは騎士の家系の子孫であり、殊更にこういった傾向が見られる人物だった。

女神の喉元に食らいつかんとする魔犬(ザフト)と、それを迎え撃たんとする騎士(ラウンズ)がぶつかり合う。

 

<遺伝子を弄った程度で、我らの積み上げてきた歴史が超えられると思うな雑種!>

 

 

 

 

 

”ゴンドワナ”艦橋

 

「ふむ……流石ですね、オルデンドルフ師」

 

渾身の奇策に対応してみせた師の慧眼を、クロエは素直に称えた。

如何に名将といえど、知っている戦術に見せかけた初見の戦術という罠は見抜けまいとクロエは考えていたが、流石に見くびっていたようだと反省する。

───だが、どうということはない。

 

「予定通り、カルナスの部隊に向けて合図を出せ。このままでは、はるばると打ち上げられてきた同胞達が孤立してしまうからな」

 

「了解しました」

 

「さて、思わぬ奇襲に対応して息を吐いているところ申し訳ありませんが、まだまだ終わりではありませんよ?」

 

───戦いは、まだ始まったばかりなのですから。

*1
Wikipediaより




久しぶりの投稿で色々と忘れたり忘れられたりしている「パトリックの野望」ですが、連載を再開していきたいと思います。
とりあえず、目標は今月中に次の話の投稿を……。
スローペースな展開で申し訳ありませんが、次からは派手にやるつもりなのでよろしくお願いいたします。

誤字・記述ミス指摘やネタバレにならない程度の質問は随時受け付けております。

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